とある科学の速度標識《スピードサイン》   作:直視明光

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いつもより長めです。こちらの話もゆっくりと動き出します。


理由

「うむ、冷たくておいしい。やれやれ、一事は干からびるかと思ったぞ」

戦利品のアセロラスパークを飲みながら、満足げに空井は笑った。空井がジュースを飲み終わるころになって、ようやく時宮は衝撃から立ち直り、何とか道から起き上がる。

「何なんだよ一体。本当にお嬢様学校の生徒なら、この一庶民時宮をカツアゲするなっての。何なんだよ一体」

怒りと困惑のあまり時宮の頭はうまく回っていなかった。

「何だ、そんなにイライラして。イライラにはカルシウムが効くらしいぞ。このお金でそこの自販機にある『カルシウム増量!ホワイトソーダ!』でも飲んだらどうだ」

「それ、俺の金だろうが!ごく普通に財布から出してんじゃねぇ!」

「冗談だ、ほら、返してやる」

「どうして、そこはかとなく上から目線なんですかね…。」

とりあえず財布は返してもらえた。損害自体は100円ちょっとだが、さすがにこのままはいそうですかと引き下がるわけにもいかない。さっきも言ったように、時宮の財布はそう厚くはないのだ。せめて理由だけでも聞き出さなくては。

「それでどうしたんだよ。本当に常盤台のお嬢様なら、こんなところにいちゃいけないんじゃないのか」

確か今日出来たばかりだったはずだ。初日から学校に行かなくても良いのだろうか。

「あーそうだな」

空井は時宮から目をそらす。何かやましい気持ちがあるらしい。しばらくの沈黙の後に、空井は口を開く。

「ほら、私の学校、出来たばかりだろう。何でも学園と一緒にたくさんの店やらなにやらが出店するらしくてな」

「ああ、それがどうして今ここにいることに繋がるんだ?」

空井はまたそこで黙ってしまった。しかし時宮もここで引き下がるわけにはいかない。そのまま見つめていると、空井が俯いていた顔を急に元に戻した。口にはひきつった笑みが浮かんでいる。どうやら開き直ったらしい。何でもいいから早くしてくれ。

「何、創立記念式典があまりにも退屈で長かったから抜け出してきただけだ。どいつもこいつもグダグダと話が長い。全く、お嬢様を何時間も灼熱の中に座らせておくとは」

ごめん、前言撤回。何やってんだよお嬢様が。空井を見ると、ひきつった笑みがいつの間にか勝ち誇ったものになっている。

「いや、まずいだろうが!お前凄いな!逆に尊敬するよ!」

時宮はお嬢様の思考回路にまず戦慄し、その後で理解しようとしたが最終的に放棄した。自分達とは住んでる世界が違うんだ。とその他大勢の真面目に聞き続けていたお嬢様たちに大変失礼な結論を出す。

「ああ、大変だったんだぞ。軒並み止めようとしてくるガードマンの群れを吹き飛ばし、立ちはだかる巨大な鉄格子の門を溶かし、追ってくる私設軍団を打ちのめし、武装車両を横転させ、」

途中から口調も朗らかになり、身振りもオーバーになってもう完全に武勇伝を語っている様子である。それより、今途中でものすごく不穏なワードが入っていなかっただろうか。

 きっと大げさにしゃべっているだけだよね。ほら、自慢話ってついつい盛っちゃうモノダシ。時宮は現実逃避に勤しむことにした。お嬢様学校のイメージがガラガラと崩れていくのを感じる。

「そうこうして何とか脱出したはいいんだが何しろ咄嗟だったものでな。持ってきたのが普段用の財布だけで、クレジットカードしか入っていなかったんだ」

 普段用の財布にクレジットカードしか入っていないとはどういう事だろうか。時宮は悟りを開きつつあった。今なら何でも許せそうな気がする。

「そのクレジットカードにしたって、使ったら家族(うえ)に連絡が行く仕組みだ。どこで使ったか知られて捕まっては敵わん。元の学校、あ、私がこの間まで通っていた学校だな。そこにいる友達に会いに行こうと思ったは良かったけれど、これではバスにも乗れないだろう。しょうがないから歩いていたんだがそれも限界でな。いや助かったよ」

悟りを開いている間に、話は終わったらしい。

「なるほど、結局俺の金は返してもらえるのか」

駄目元で聞いてみる。さっきまでは理由が聞きたいと思っていたが、いざ聞いてみるともうさっさとこの場から立ち去りたい気持ちが一秒ごとに強くなりつつあった。巻き込まれたらたまったもんじゃない。

「残念だが、まだ駄目だな。というか、もう少し頼みごとがあるのだが、」

「バス代なら貸さないからな」

話の流れからそれぐらいは察知できる。ひどい奴なのかもしれないが、これ以上金が減ると、下手するとレストランから歩いて帰ることになりかねない。学園地区は結構広い。念のために多めに金は確保しておきたいのだ。

「やはり、そうか。仕方がない。申し訳ないが、この飲み物の代金は後日学校に送っておくことになるだろう」

てっきり『この私に金を出さないというのか。もう一度力量差を思い知らせてやる必要がありそうだな。』などと言ってくると思っていたので、時宮は拍子抜けした。体に込めていた力を抜く。その様子をみて、空井は不満そうだった。

「私を何だと思っている。何の理由もなく人からお金を取ったりはしない程度の良識は持っているさ」

さっきカツアゲした時点で説得力もねぇ、と時宮は思ったが口には出さなかった。無用な争いを生むことはない。断じてさっき負けたのに怯えているわけではない。断じて。

ともあれ、そんなことを言われると強く追及できなくなるのが時宮という人間だ。

「いいよ、別に百円ぐらい。じゃあな」

そういって時宮は空井に背を向ける。そのまま腕時計に目を向けて舌打ちした。

『打ち上げが始まるまでもう10分しかねぇ。こりゃ間に合わんな。というかそもそも目的地に着けるのか、俺?』

「ああ、(えん)が遭ったらまた会おう。」

なんか漢字がすごいことになっている気がする。そんな言い方で空井も別れを告げた。

その時、

 

 

ギュアアアアアアアアアア、と凄い音を立てながら時宮が歩いていこうとした方向から何かが走ってくる。あれは何だ?何か装甲車の様なものに見えるのだが。時宮がどこか他人事のようにそんなことを考えていると取り付けられていたメガホンから大音量で声が聞こえてくる。

 

 

「分かりきったことだと思いますが、お嬢様とその隣にいるその男、これから確保させていただくのであしからず。当然抵抗はしない方が身のためですよ。」

 

 

「俺は関係ねぇぇぇえ!」




次回は三千文字を目指すぞ!
まだ警備員(アンチスキル)はないという設定です。
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