とある科学の速度標識《スピードサイン》   作:直視明光

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ここから一応2章目となります。


第2章 転校生と第二位と many-stars-(and-villains)
連行


「畜生、だから向かっていくと何も良いことはないと言ったんだ。」

 時宮は助手席でつぶやいた。殴られたせいで全身が痛い。手にはもらったおにぎりがある。

「はいはい、時宮君。まさかこの後は普通に帰れるなんて思っていないよね?私がどれだけ苦労したと思ってるの?」

 運転席の薬味が答える。口調に反してご機嫌な様子だ。最初は怒鳴りまくっていたが、怒りに達成感が勝ったらしい。

 結局あの後、誘拐していなかったことこそは事情を説明して認めてもらえたものの、打ち上げへの参加はもう絶望的だった。

 しかも、迎えとして長点上機から来たのは時宮を探して走り回って疲れ切り、怒り狂った薬味先生だった。嫌だ!助けてくれ!人体改造される!と叫びながら引きずられていく時宮を見ながら『どこの先生も大変だな、まったく。うちの空井も常盤台に入れなければどうなっていたことか』と疲れた顔でつぶやく女執事がやけに印象に残っている。

「時宮君、この借りは、今度なにかおごらせて払わせるからね。ああ、相手が学生でもこれが出来るのが学園地区のいいところ。」

「先生が生徒におごられてて良いんですか。」

 時宮も軽口を叩けるほどの余裕を取り戻しつつあった。実のところ、薬味先生が来てくれなければ翌朝まであそこに監禁されるところだった。そこを助けてくれ、お昼までもらったのでは文句を言う筋合いはない。

「それで、今日はこれからどうするんですか。あの状況から助けてくれたんで大抵のことはしますよ」

「それじゃあまずは高級フランス料理店で…って冗談に決まってるでしょ。そんな青い顔して財布を見ないで」

 自然にそうやって命令しだしそうなのが怖いところである。

「とりあえず今日はこのまま研究所ツアーかな。時間、だいぶ遅れてきてるから今日は寝れると思わないでね」

「あの…それも冗談ですよね、先生?そもそも門限はどうなるんですか」

「そこはほら、家に帰る途中って言ったりすればよくない?」

「思いっきり条令破る気満々ですね。生徒に教える立場の人間がそれじゃあ駄目ですよね」

と言ってみたものの

「そもそも誰のせいでこんなに時間が遅れてると思ってるのかなー」

の一言で黙らされてしまった。

「はぁ、分かりました。最初に行くのはどこですか」

 その時宮の言葉を聞いて、薬味は弾んだ声で答える。目が輝いているのが横からでも見て取れた。

「よくぞ聞いてくれました!最初の目的地は創北大学の特殊環境動物進化研究所、略して特動研!ここの木原創元先生は凄いのよ!」

 その後も、この人たちは一族七人みんな優秀で…、その研究はとっても画期的で…と科学者特有の専門的かつやけに熱い話が始まろうとしていたが、それを時宮はさえぎって

「要するに何の研究をしに行くんですか、そこ?」

「いいえ、ここにはあなたの研究に行くんじゃないの。」

 じゃあ何のために行くんだよ、と時宮は思ったがそれを口に出す前に、

「じゃあ何のために行くのかって思ったでしょ。それは…」

 と薬味が先手を打った。そのまま何秒か勿体付けた後で、

「新しくこの学校に来る転校生を迎えに行くのでーす」

とさも大発表をする調子で言った。

「 はあ、そうですか」

しかし時宮は至って普段道理の様子である。

「 相変わらず冷めてるわね……もうちょっと驚くとか喜ぶとかないの?」

「 転校生なんて一年に1回ぐらいの定期行事じゃないですか。もう慣れましたよ。ていうか研究と関係ないならなんで俺も行かなきゃいけないんですか」

 高校生で転校、と聞くとかなり珍しく感じるかも知れないが、学園地区では良くあることである。学費なども、基本的に研究されることによる奨学金で払っているため、親に気兼ねすることなく『 あそこの学校に行きたいから転校する』というのが簡単に出来るのだ。

 一部の超名門校を除いて、学校側としてもむしろ優秀な生徒が転校してくるのを狙って簡単に認める場合が多い。

 時宮の面白みが全くない台詞を聞いた薬味は溜息をついた後、

「 だからあんたのせいで予定がいろいろおかしくなってるってんでしょうが。ほかの研究所との連絡は遅らせられても、何ともならないもんもあるの」

 そう言って時宮の頭を軽くはたいた。とはいえ全身滅多打ちにされた体にはそんなのでも大打撃だったらしく、時宮は軽く涙目になりながら、

「 その転校生、わざわざ向かえに行かなくちゃいけないんですか、自分で歩いて来ればいいんじゃ」

「 ふふ、やっぱりそこ気になる?気になるわよね」

  その台詞から、時宮は今後の話の展開を察知したが、一応抵抗してみることにした。

「 はぁ、理由はどうでもいいんで、早くしてくれませんか。」

 一応この言葉で、教えて→駄目→じゃあいい→聞け→教えて→やっぱ教えないの形式美(マンネリ)すら感じさせる流れは抜け出せるはずだ。

「 へえ、聞かないんだ、ふーん」

「 もうそういうの良いですから、教えたいなら教える、教えたくないなら教えない、はっきりしてください」

「 うーんと、どうしよっかなぁ」

悩んでいる振りをしてニマニマ笑っている薬味の目が『勝った! 』と言っているのを見て、時宮は敗北を悟った。やはり年季が違うということか。

「やっぱり教えなーい 」

 畜生、分かっていてもやっぱり頭に来る、かくして敗北した時宮は笑って怒りを誤魔化したのであった。

 

 

 




 もう分かっている方も多いと思いますが、次回登場するのは本編ラスボスの1人です。
 原作での黒幕系のキャラをバンバン使えるのが楽しいところですね。
 
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