メタビーが暁のもとに来てそれなりの時が流れた。
メタビーが来た当初はただ珍しいものが来たと騒いでいた周りの艦娘たちもメタビーの非常に人間らしい振る舞いに徐所に慣れ、いまでは客人としてではなく友人として接していた。
今日も自分のそばにはメタビーがいる。暁はいつしかメタビーがいるのに当たり前だと思うようになっていた。
そんなある日のことだった。
「では、定例の職員会議を始めたいと思う。」
と、長門が会議開始の合図をする。
ここは鎮守府中・高等学校にある第一会議室。
そこに中等部を担当する教員艦娘達が一同に集まっていた。
各教員と担当科目は以下のとおりである。
国語…羽黒
数学…妙高
英語…金剛
社会…足柄
理科…那智
体育(戦闘実技)…利根
家庭科…比叡
主任…長門
と、巡洋艦と巡洋艦から拡大発展した歴史をもつ元巡洋戦艦の金剛型の二名が教鞭を振るっている。ちなみに高等部の主任は長門の姉妹艦「陸奥」が務めている。
家庭科は最初間宮か鳳翔が担当すればよいとされていたが、二人とも店をもっているため兼務が困難であった。そこへ立候補してきた比叡が就任したという経緯をもつ。
その腕前は……。
とにかく以上の教員に加え今回は特別参加が三名認められていた。
「なんで暁たちが先生の会議に参加しなくちゃいけないわけ?」
「そうだそうだ! 俺達は今日、大切な用事があったのになんで会議だなんて面倒なものに出なくっちゃいけないんだ!」
ギャーギャー騒ぐ暁にメタビー。
長門はしばらく黙っていたが、ニコッと笑みを浮かべた。
「黙れ。」
芯の通った長門の声が会議室に響き渡った。
「はい。ごめんなさい。長門先生……。」
「わ、わるかったな! さ、か、会議を始めようぜ!」
「まったく、メタビー君はおもしろいなぁ。」
と、謎の感心をしているのは今回特別参加が認められた三人目、夕張だった。
ふぅ、とため息をひとつついた長門が会議室のモニターに資料を展開しながら会議を始める。
「今日の議題は最近頻発している艦船の被害についてだ。まずはこれを見て欲しい。」
と長門は参加者にモニターを見るように促した。
「What's this? Hey! 長門? これは一体どういうことデース?」
最初に疑問を呈したのは金剛だった。
「たしかに……。弾痕、いえ、炸薬のあとも一切なく、フネが破壊されていますね。」
と、妙高が冷静に資料を分析する。
「そうだ。これらの艦船は深海棲艦によって破壊されたが、攻撃してきたのは深海棲艦ではない。」
「はぁ!? どういうことよ! 深海棲艦によって破壊されたのなら、深海棲艦にやられたに決まっているじゃない!?」
声を荒げる足柄。
そんな足柄をちらっと見たあと、長門は目線をメタビーに移した。
「メタビー、君はこの資料を見てどう思う?」
「え? 俺? んーそうだなぁ……。」
しばらくじっとモニターに映っている破壊された艦船をみつめるメタビー。
「プレス攻撃されたあとに見えるなぁ。」
「ぷ、プレス攻撃!? 何よそれ?」
聞いたことがない攻撃方法に戸惑う一同。
「メダロットには重力を操るやつがいてだな、そいつの攻撃方法をプレスっていうんだよ。」
「つ、つまり重力によって無理やり押しつぶされたっていうことかの!?」
驚きの声を発する利根。
「ひえーい! と、いうことは、まさか今回の犯人はメダロットということですか?」
「実はこの被害が出始めたのがメタビー、君を発見した時期とほぼ重なる。」
「じゃ、じゃぁメタビー以外にもこっちの世界に飛ばされてきたメダロットが……?」
羽黒の疑問が正しいということを長門は首を縦にふって肯定する。
「目撃者の証言によると深海棲艦ヲ級と共にシャコのようなロボットが襲ってきたそうだ。」
「シャコ……まさか!?」
「何? メタビー思い当たることがあるの?」
「あ、あぁ、もしその証言が本当だとしたら、敵はゴッドエンペラー、最強のメダロットだ。」
「でも、いくら最強っていってもメタビーとほぼ同サイズなんでしょ? 倒すことはできるんじゃない?」
足柄が怪訝な表情を浮かべる。
「そこなのだが、夕張?」
指名された夕張が前に出てコホン、と咳払いをしてから話はじめる。
「メダロットにはスラフシステムという自己再生機能があります。通常攻撃で彼らを傷つけても、まずこの機能のために破壊は困難です。」
「あ! メタビーを最初に見つけたとき傷が治ったのはそのせいだったのね!」
「そうよ、暁ちゃん。」
「で、では破壊が無理なのだったら一体どうやって倒せばいいというのだ!?」
カっと目を見開き、ダン!と机を叩く那智。
「解析の結果、倒せる可能性がひとつだけ発見されました。」
「な、なんだそれは!?」
「それはー」
一呼吸おいてメタビーをじっと見る夕張。
「それはメタビーが敵のメダロットと正面勝負して勝つことです。」
がやがやと騒がしくなる会議室。そんな一同を代表するように金剛が質問する。
「Hey? メダロットはAttackされても回復するのに、なぜそのような真っ向勝負をする必要があるのデース?」
金剛の言う通りだ。通常攻撃しても無意味な敵に、なぜあえて正面から仕掛ける必要があるのか。
当然の疑問であると夕張も理解していたらしく、すぐにこの質問に回答する。
「メタビーを解析した結果、メダロットには緊急停止装置としてロボットどうしのバトル、通称ロボトルをし敗北すると中枢神経をつかさどるメダルが強制排除される仕組みになっています。これを利用し、敵のメダルを強制排除できれば敵は機能を停止します。」
「なるほど。メダルで動くロボット、だからメダロットというわけなんですね。」
納得し、うんうんと頷く羽黒。
「メタビー、あなたメダルがとれたら案外簡単に機能停止するのね……。」
足柄がつぶやくように言った。
「う、うるせ……。」
メタビーが反論する前に暁が背中のメダルをはずす。
すると時間が止まったかのようにメタビーも動きを止める。
「ほ、本当に止まっちゃった……。」
呆然とする暁。
「このようにメダルをとればメダロットは一様に機能を停止します。」
「おー」という歓声があがる。夕張が説明をし終えてから暁がメダルを背中にはめなおす。
はめなおしたらたちまち機能を回復し動きだすメタビー。
「おい! 勝手にメダルを取り外すな!」
「ご、ごめん。もうしないから……。」
「よし、対策はわかった。だが、ロボットバトル、ロボトルをしようにもいきなりぶっつけ本番でできるものなのか?」
「そ、それは……。」
うーむと悩む一同。そこへ颯爽とひとりの男が現れた。
「俺の出番のようだロボ。」
「む、お前は鳳翔のところの変態居候。」
「変態は余計だロボ! 俺様は悪の秘密結社ロボロボ団のリーダー、サケカース様だロボ!」
びしっとポーズを決めるサケカース。だが、全身黒タイツのせいかいまいち締まらない。
「で、サケカースさん、あなたの出番っていうのはどういうことなのかの?」
「ふふっ! これを見るロボ! 出でよ、シンセイバー!」
掛け声と同時にサケカースが左腕のメダロッチの画面を押す。
すると光線が発射され一同の目の前にサケカースの新撰組隊士型メダロット、シンセイバーが転送された。
「この俺様がロボトルをこのガキンチョに叩き込むロボ!」
「ガキンチョ言うな!」
「す、すまなかったロボ。しかし、他にこの子にロボトルを教えられる人間はいないロボ。」
少し考える長門。
そして意を決したように口を開く。
「では、お願いできるかな? サケカースさん?」
長門の問いかけに快くうなずくサケカース。
「もちろんだロボ。鳳翔さんには目一杯お世話になったロボ。その鳳翔さんの仲間が困っているのなら、このサケカース全力で助太刀いたしますロボ!」
「な、なぁ足柄?」
コソコソと那智が足柄に話しかける。
「何、那智?」
「あいつ本当に悪人なのか? セリフだけ聞いてれば結構いいやつみたいに思うのだが……。」
足柄はサケカースの衣装をじっと見てから那智に話す。
「人には、いろいろあるのよ。いろいろ。」
「そうか、いろいろ……か。」
話はまとまった、と長門が声を少し大きくして全体に話す。
「よし、それではサケカースさんに暁をロボトル指導してもらう。準備が整い次第、艦娘輸送艦「皆照(みなてらす)」でメタビーと暁を該当海域まで輸送し敵を攻撃する!」
「なんか俺、お前にロボトル教えてもらうっていうのが気にいらねぇが、信用していいのか?」
「女性に受けたやさしさは決して忘れない、それが俺のポリシーだロボ。」
「……そういやそうだったな。それじゃ、今回は頼むぜ!」
「任せるロボ!」
がっしりと握手をするメタビーとサケカース。敵同士であった彼らが正式に手を結んだ瞬間だった。
このままお開きになるだろう空気の中、長門は言い忘れていたとばかりに「はっ」とした表情を浮かべた。
「おっと、言い忘れるところだったがサケカースさん。」
「ん? このサケカースにまだ何か御用かロボ?」
「メダロットを持っているということなのであなたにも作戦に参加してもらいたい。一般人を参加させることはできないので今回のみ臨時で軍に入隊してもらえないだろうか?」
「な、なんですとーロボ!」
がびーん!とあごが外れるかと思うくらいに大口を開けるサケカース。
「おい、お前、まさか指導だけして自分は安全な陸地に残るつもりだったのか?」
じとーっとサケカースを見つめるメタビー。
「そ、そんなことないロボ! たとえ敵がメダロット最強のゴットエンペラーだろうとこのサケカース、臆する男ではないロボ!」
びしり!と胸を張って言い放つ男サケカース。その目の両端にうっすら涙を浮かべて。
「ふっ。さすがは鳳翔が認めた男ではある。では早急に手配しよう。階級は海軍特務准尉でいいだろうか?」
「もちろんだロボ! どっからでもかかってくるロボ!」
「よし、では本日の会議はこれにて終了する。解散!」
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会議後『小料理屋五十六』にて
「ただいまだロボ……。」
ガラガラと扉をあけて帰ってきたサケカースを店の準備をしていた鳳翔が出迎える。
「あら。お帰りなさい。サケカースさん。どうしたんです? 気分が優れないのですか?」
「い、いや! そんなこと決してありませんロボ!」
「長門さんから聞きましたよ。出撃なさるんですってね。」
「お、お耳が早いですなロボ……。ところで鳳翔さん、ひとつ聞いてもいいロボ?」
「はい? 一体なんでしょうか?」
「特務准尉って一体どれくらいの地位なんだロボ?」
「え? えっと、そうですね……。」
と口ごもる鳳翔。そんな鳳翔を不思議そうに見るサケカース。
「鳳翔さん?」
「えっと、そうですね、将校ではないけれど、兵でもないし、かといって兵を率いる地位にしてはその、弱いっていうか……。」
だんだん声が小さくなっていく鳳翔。
「つまり?」
「つまり、その、微妙、な地位ですね。」
”微妙”の部分を特に弱弱しく言う鳳翔。
「そうか、微妙な地位なのかロボ。」
と言ってコップに水をいれ一杯飲むサケカース。
「鳳翔さん。」
「は、はい! なんですか?」
「俺、頑張るロボ。」
ぐっと親指をたてキリっとするサケカース。
「ふふっ。大丈夫、あなたならきっと上手くできますよ。頑張ってくださいね。」
「鳳翔さんにそこまで言われたら失敗するわけにはいかないロボ! 頑張るロボ!」
男サケカース。「微妙」な階級で異世界にてはじめて命をかける戦いにこうして身を投じるのであった。