思ったより筆が乗らなかったため、番外編という形に変更いたします。
時事問題の解説を望んでいた読者の皆様、申し訳ありません。
でもせっかく書いたのを捨てるのももったいないのでこのまま書ききり、残したいと思います。
あくまでオマケ程度に考えて読んでいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
緊急指令!敵は空の彼方にあり!
冬。
それはあらゆるものが色を失う死の季節。
木々は枯れ果て、草は茶色く変色し、その死に体をいたわるかのように優しく雪が覆いかぶさる。
(どこに行っちゃったんだろう。)
少女は学校の窓から見える冬景色を苦々しい思いで見つめる。
(まるで今の私の心の中、そのままのような景色。)
「はぁ~~。」
そんな少女の姿を教室の外から心配そうに見つめる3人。
「あら? 妙高姉さんに那智に羽黒、そんなところで何やってるの?」
「しっ! 静かに、足柄!」
「え!? ご、ごめんなさい妙高姉さん……。」
「それよりも姉貴、こっちこっち!」
そう言って足柄を手招きする那智。
「もう、一体なんだって言うのよ……。」
「姉さん、吹雪ちゃんの様子がここ数日おかしいんですよ。」
「え!? え、えぇ、そうなの?」
歯切れ悪く答える足柄。
「えぇ。数週間前から徐々に元気がなくなってしまって、とうとうこの有様です。」
羽黒の目線の先にいる吹雪は何かをブツブツ言いながら机に突っ伏していた。
「一体どうしたというのだ、吹雪は。」
「まったく私の妹達はにぶいんですから……。」
「何!? 妙高姉は吹雪の体調悪化の原因を知っているのか?」
「当たり前です! この状態はまず間違いありません。きっとあれが原因でしょう。」
「き、聞かせてください、妙高ねぇさん! 吹雪ちゃんは私の受け持ちの生徒、私、心配で、心配で……。」
こくり、と頷く妙高。そして重々しく口を開く。
「それは……。」
『それは……?』
ごくりと唾を飲み込む妹達。ただし、その中の一人は別の意味で唾を飲み込んでいた。
(え!? ま、まずいわね。 妙高姉さんに情報が漏れていたのかしら? 出所は、やっぱり我らがアホ提督よね。それにしてもまずいわ。)
足柄が眉間にしわを寄せる。だが、その様子に気がついた者は誰もいなかった。
「それは、ずばり恋よ!」
『こ、恋!?』
「く、詳しく聞かせてくれ、妙高姉!」
那智が妙高に説明を求める。
「私の推測では、おそらく吹雪ちゃんには愛する男がいたの。でも、クリスマスの夜、その男から突然別れ話を切り出されてしまった。」
『……。』
無言で妙高の話に聞き入る妹達。いずれの目も真剣だった。足柄を除いて。
「『いやです! 私、あなたとずっといたい! お願いだから、私をひとりにしないで!』そう吹雪は男に懇願する。でも、男は実は吹雪に気づかれないように他の女をつくっていたの。」
「ひ、ひどい。そんなのひどすぎます。」
目に涙を浮かべる羽黒。
「『てめーにはもう興味ねぇんだよ!』そう吐き捨てるように言った男は、腕にすがる吹雪を払いのけ、新しい女と共にどこかに去ってしまった……。」
「くそったれ! 吹雪があまりにもかわいそうだ!」
ガン!と壁を強く叩く那智。
「そして吹雪は心の傷を癒すため、冬休みの宿題に励み男を忘れようとした。でも……。冬休みが終わり、学校が始まってしまい、やることがなくなった吹雪は再び男を思い出す。そして、今のこの状況があるのです。」
「さ、さすが数学教師の妙高姉……。論理的な推測だ。」
「うぅぅっ。ふ、吹雪ちゃん、クリスマスにそんなことが……。冬休みもつらい思いを……。うぅぅっ。」
姉に尊敬の眼差しを向ける那智。その隣で涙を流す羽黒。
自論を述べた妙高は満足そうな表情を浮かべている。
「まぁ、好きな人がどっか行っちゃったのは間違いないんだけれどね。てか冬休みの宿題ってなんなのよ。」
ポツリとつぶやく足柄。
「ん? 何か言いましたか、足柄?」
「い、いや、なんでもないわよ、妙高姉さん。」
「さて、そろそろ授業が始まるわ。吹雪ちゃんのことも気になるけれど、恋の病は時間に解決を任せるのが一番だわ。みんな、授業に抜かりがないように今日もがんばりましょう!」
「そうですね。吹雪ちゃんのことは気になりますが、しばらく様子をみます。妙高ねぇさん、足柄ねぇさん、那智ねぇさん、どうもありがとうございました。」
「とんでもない! また何かあったら相談しろよ、羽黒!」
「はい!」
「それじゃ、またお昼休みにね。」
そう言って姉妹は別れ、それぞれの授業担当クラスへと向かっていった。
そんな妙高たちの様子に目もくれず、ただひたすら机に突っ伏す吹雪。
「赤城さん、赤城さん、私を残してどこに行ったんですか? 赤城さん…………。」
乾いた唇で弱弱しく言葉をつむぎだす吹雪。そんな吹雪を心配して級友たちが声をかけるが吹雪はまったく意に介さない。
「赤城さんの大好きな鎮守府カレー大食いコンテストもそろそろですよ……。赤城さん、どこに行っちゃったんですか……?」
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数週間前。
「まったく、私だって忙しいっつーのに、何の用なのよハゲ提督。」
提督から急な呼び出しがかかり、自分の用事をすべてキャンセルするはめになった足柄は文句を言いながら提督執務室につながる階段を登っていく。
「これでまたタバコ買ってこいとかだったら、今度こそ股についてるモノ引き千切ってやるわ。」
「さすがにそれはかわいそうですよ、足柄さん。」
後ろから声を掛けられた足柄は「ん? 誰?」といった表情で振り返る。
そこには特徴的な朱色の袴をはいた女性が立っていた。
「あら? 赤城じゃない。ここにいるってことは、赤城も提督からの呼び出し?」
「はい。本当は嘔吐するくらい嫌なのですが緊急の呼び出しなので仕方がありませんね。」
「赤城、あなたも相当ひどいこと言うわね……。」
しばらく歩き、「提督執務室」と書かれたドアの前にたどり着いた二人はノックして入室する。
「失礼いたします。提督からの緊急の呼び出しということで参上致しました。赤城と足柄です。」
「よく来た。二人とも。」
執務室の中にはアロハシャツを着た逞しい体つきの男が待っていた。その執務机に無造作にひろげられている成人誌を見て足柄の眉がぴくっとあがる。
「提督、これで肩を揉めとか言ったら今度こそ潰してあげるわ。」
「ま、まて、足柄! つ、潰すってどこをだ!?」
「あそこに決まっているでしょうが!」
素早く飛び掛る足柄からほうほうの体で必死に逃げる提督。
足柄と提督が激しい肉弾戦をしている傍らで赤城が冷静に机の上の成人誌をゴミ箱に叩き込んでいく。
「で、用件はなんなんですか提督? たいした用がないなら私は提督の財布を奪ってご飯を食べに行きますが。」
足柄に首をしめられかけながら苦しそうにする提督は自分の財布を持っていこうとする赤城に手を伸ばす。
「おい! やめろ! やめてくれ赤城さま! おい! 手をはなせアラサー!」
「誰がアラサーよ!」
「ぐえぇぇ! すまない! すまなかった、足柄閣下! 俺よりも階級上にしてやるから許してくれ!」
「ふん。 まぁ今回はこのへんで許してあげるわ。で、用件はなんなのよ?」
ぜぇぜぇと息を切らし椅子に戻る提督。アロハシャツはよれよれになってしまったが、その眼光が鋭く光った。
「深海棲艦が南方鎮守府を爆撃した。」
その一言に「はぁっ!?」と怪訝な顔をする二人。赤城が提督に尋ねる。
「お言葉ですが提督、南方鎮守府方面の深海棲艦をとっくに駆逐され、海域は平穏そのもののはず。それにその鎮守府には加賀さんをはじめとした空母群もいますからどう考えても誤報なのでは?」
いつものアホな様子とは打って変わって真面目な表情で赤城の話を聞く提督。
彼は黙って赤城たちに一枚の写真を見せる。
「こ、これは!?」
「嘘!? 南方鎮守府が!?」
差し出された写真には完膚なきまでに破壊された南方鎮守府の姿が刻銘に映し出されていた。
「これは誤報などではない。間違いなく、深海棲艦が爆撃したのだ。」
「で、でも、哨戒網にもひっかからずどうやって爆撃するのよ!?」
「ひとつだけ方法がある。空母を使わず、我々の探知圏外から攻撃を仕掛ける唯一の方法が。」
「はぁ!? 空母を使わないで、どうやって南方鎮守府を爆撃できるのよ! またふざけたことを言ってぇ!」
そう言って足柄は提督につかみかかるが、赤城は手をあごにあて静かに考えた。そして、空母という航空機運用のプロであるがゆえにその答えにたどりつく。
「ま、まさか……!?」
赤城が思いついたその考えは、今まで深海棲艦が絶対とらなかった手法だ。それ故、対策もとられてこなかった。
「え? 赤城どうしたの?」
赤城の様子の変化に気がついた足柄が提督を殴る手を止める。
「気がついたようだな、赤城。」
「……はい。」
「え? どういうこと? 何に気がついたっていうの?」
「赤城、君が到達した答えをいってみろ。」
そして、赤城はまっすぐに提督を見据え、はっきりした声で答える。
「敵、深海棲艦は我々の索敵圏外の長距離から高高度爆撃機を飛ばし、爆撃したものと考えられます。」
「な!? なんですって!?」
「現在、深海棲艦を探知できるのは我々艦娘だけです。爆撃されたのは深海棲艦を駆逐しきったはずの南方鎮守府。しかも空母部隊があり偵察機も潤沢にあるにも関わらず敵を探知、迎撃できなかったからこその基地壊滅。以上のことから敵は長距離爆撃、しかも高高度を飛行しての爆撃に成功したものと考えます。」
「いい答えだ。赤城。」
アロハシャツの提督はそう言って別の資料を出す。
「これは今回の戦闘記録だ。」
その資料を赤城がとり、足柄と一緒に目を通す。
「かいつまんで話すと偵察機が敵を発見したとき、すでにやつらは鎮守府の防衛ラインを悠々と越えていたらしい。発見が遅れたのはすでに敵は撃滅したという慢心がもとで定時警戒の偵察機の数を減らしていたっていうのもあるがな。」
「で、でもあそこには加賀をはじめとした空母がいるでしょ? どうして迎撃できないのよ!」
「足柄さん、敵は高高度、つまり我々がもつ戦闘機が上昇できる限界よりはるか上を飛んできたのです。迎撃は極めて困難。いえ、無謀といえるでしょう。」
「うむ。赤城の言うとおりだ。加賀たち空母群は発見の報と同時に迎撃部隊を空にあげた。しかし、敵のいる高度まで迎撃機は届かなかった。現状では赤城、お前のー。」
提督の言葉をつなぐように赤城が話す。
「はい。私の妖精たちも現在装備している航空機ではこの爆撃機相手に迎撃できません。」
その言葉を聞き口の両端を上げる提督。そんな彼の表情を見て足柄は機嫌を悪くする。
「ちょっと提督、何笑ってるのよ。気持ち悪い。」
「ふふっ。ウチのエースはしっかり現状を把握してくれて助かる。これで前大戦のように気合で何とかなると言ったらどうしようかと思ってな。」
「私は一航戦の赤城。前大戦のようにはいきません。」
キッとした目つきで言い放つ赤城。
「で、でもどうするのよ! 赤城でも迎撃できないならどうしようもないじゃない!」
「対策はある。」
「え?」
再び提督は赤城の前に書類を出す。
「超極秘……ですか?」
「そうだ。赤城、君だけここで目を通せ。」
「わかりました。」
「提督、赤城を呼んだのはそれ見せるためだってわかったけれど、私を呼んだのは何でよ?」
「足柄、お前に頼みがある。この通りだ。」
そういって頭を下げる提督。いつも喧嘩ばかりしている提督が本気で頭を下げる姿に足柄が動揺する。
「な、なんなのよ!? 気持ち悪い!」
「頼む、足柄。全主砲と魚雷を撤廃して98式10センチ65口径砲に換装してくれ。」
「そ、それに換装しろってことはつまり……。」
「あぁ。対空巡洋艦になって欲しい。今、対空任務に当たれるのは既に赤城の護衛をして対空砲に換装している吹雪だけだ。そこでお前もその任務に当たれるように換装して欲しいんだ。」
「わかってるわよね? 魚雷まではずすってことは、私の巡洋艦としての誇りを捨てろってことだって。」
「頼む。お前しかいないんだ。いつも俺に喧嘩を吹っかけてくるお前なら、俺の心は痛まない! ってブホぅっ!!」
間髪いれずに提督を思いっきりぶん殴る足柄。
「て、てめぇー! 思いっきりぶん殴られて顔が変形しちゃったじゃねぇか!」
「少しイケメンになったわよ、提督。」
「まじか。お前の目、腐ってるんじゃねぇか? ってブホぅっ!」
再び提督をぶん殴る足柄。そしてゴムまりのように飛んでいく提督。
「ふん! いい気味だわ。」
「はぁ、はぁ、や、やはりダメか? 足柄?」
よろよろと立ち上がり弱弱しく言葉を吐く提督を足柄は見る。そして軽くため息をつき髪をかきあげた。
「やってやろうじゃない。南方鎮守府のみんなが対抗できなかった敵と戦えるんですもの。こんな面白そうな話、乗らないわけないでしょ!」
「そう言ってくれると思ったぜ! 実は肝心の対空砲の数が揃わなくてな、一隻しか換装できないってことで一番錬度の高い巡洋艦のお前を呼んだんだ!」
「最初っからそう言いなさいよ! だからアホなのよ、あんたは!」
「ふん! 仕方ないだろ、アホなんだからな。で、赤城、お前はどうだ?」
「内容は理解しました。しかし、よろしいのですか? 前例がないのでは?」
「だからこそ、最強の艦娘たるお前に頼むんだ。」
「……。異存ありません。これで皆を守れるのなら、よろこんで。」
そして提督は足柄と赤城を見る。二人の決意を確認し、辞令を発する。
「では、巡洋艦足柄。早急に主砲及び雷装を65口径10センチ砲に換装せよ。本日付で艦種を防空巡洋艦に変更する。」
「わかったわよ! ま、私にまかせなさ~~い!」
足柄の返事に少し苦笑いする提督。
「そして、空母赤城。」
「はい。」
「極秘資料に従い大規模改装のち、敵爆撃機を殲滅せよ。」
「了解。」
「大規模改装が必要となる赤城は一旦ここを離れることになる。今回の件は情報漏えいがないように念をいれての極秘扱いだ。よって、赤城は秘密裏にここを出る。足柄、このことは誰にも話すなよ。厳命だ。」
「わかったわ。」
「では解散する。今日はすまなかったな。お前ら、ついでにタバコ買ってきてくれ……。あれ? なんで二人とも指の骨をポキポキ鳴らしてるんだ……って、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の叫び声を発する提督。その声を聞き駆けつけた艦娘は誰もいなかったという。