騎士王が兜に王位を譲る話   作:VISP

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今回は生前の乳上のお話です。鬱展開注意。


第1話 生前その1  捏造注意

 

 とある王の話をしよう。

 

 その王は一度は誰もが夢見る理想を持っていた。

 全ての王が一度は夢想する様な、純粋な思い。

 

 自分の国を豊かで平和な国にしたい。

 

 だが、彼の王の国は、そんな無垢な願いではどうにもならぬ程に荒れ果てていた。

 襲来する蛮族、相次ぐ天変地異、枯れ果てた国土、骨と皮ばかりの民。

 彼らに穏やかな暮らしをさせるには、冷酷なまでの合理的な判断による国家指導しかないと、その果てに無数の屍の山が必要であると、彼の王は悟った。悟ってしまった。

 その気づきこそが王が己をただの機械へと、感情無き天秤へとなるべしと縛る切っ掛けだった。

 後世、彼の王を評する言葉は多い。

 黒い龍、騎士ならざる者、穢れを纏いし者。

 良きにしろ悪しきにしろ、凡そ人からかけ離れている。

 当然だ。

 彼の王は、そうなる事を自らに課したのだから。

 全ては己が国を、一人でも多くの民を救うため。

 十を救うために一の、百を救うために十の、千を救うために百の、万を救うために千の躯を積み重ね、重ね続け、山を築き、王は敵味方に血を流させ続けた。

 そこに尊厳など無かった。

 効率的により多くの命を救うため、彼の王は効率よく、より少ない命を奪っていった。

 

 しかし、彼の王の心は人と同じだった。

 人よりも遥かに強靭でありながら、人と同じだった。

 悲しむ人に手を差し伸べ、怒る人と共に憤り、倒れ伏した人を背負って歩く。

 善良な、ただの人だった。

 普通なら壊れるか、麻痺するか、どちらにしろ何も感じなくなるだろう。

 だが、彼の王の意思は強かった。

 強すぎた故に、彼の王は嘆き続けた。

 それでも、多くの諸侯や貴族等よりも、遥かに多くの知識と鋭い洞察力、果断な判断力を持っていたから、彼の王は王であり続けた。

 

 しかし、人間は機械や天秤に従う事は出来ない。

 それがどれだけ有用か、理性では解っていても、人間は機械や天秤に従う事を感情で納得する事が出来ない。

 漸く国が豊かになり始めた頃、少しずつ人々は王から離れていった。

 もう己では無理なのだと、王が悟るのは直ぐだった。

 敵にも味方にも、もう自分を信じてくれる人はいなかった。

 本当はほんの僅かながら信じてくれる人々もいたが、そんな人達がいてくれたからこそ、王はもうその人達を切り捨てる真似をしたくなかったから、もう王は自分が王であり続ける事をしたくはなかった。

 だからこそ、自分の成果を引き継ぎつつも、自分の様にはならない誰かに、自分に出来なかった事が出来る、本当に皆に望まれる誰かにこそ、王に立ってほしいと願った。

 無尽に殺し続け、誰からも望まれなくなったような自分よりも、遥かに相応しい者を求めた。

 敵味方を容赦なく切り捨て続け、ボロボロになった心と返り血と戦火の煤で黒く染まり果て、化け物と罵られながら、それでも彼の王は国と民の安寧を願った。

 

 そして、終に王はその願いを叶えてくれる者が現れる事を知った。

 

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 

 それは彼女が王位に就いてから、半年の事だった。

 大規模なピクト人と言われる蛮族共による侵攻は、唐突且つ一気呵成に始まった。

 

 「最寄りの村や町の防備は!?」

 「治安維持用の兵達だけです!どんな少数でもとても間に合いません!」

 「では見捨てると言うのか!?」

 

 そうやって紛糾する臣下に、彼女は暫しの沈黙の後、こう告げた。

 

 「…最寄りの村と町は防備の如何に関わらず放置せよ。そこから一つ…いや、三つ置いた場所に兵を進めよ。サー・ケイ。」

 「は、ここに。」

 

 呼ばれて進み出るのは国務長官を務める円卓の騎士が一人、王の義兄でもあるケイ卿だった。

 

 「最速で動かせる兵は幾らか?」

 「500です。それ以上は人員と物資の集積が間に合いません。」

 「ではその500を先行させよ。」

 「承りました。」

 

 その指示に、その周辺に領土のある者達は一斉に反発した。

 

 「王たる者が民をお見捨てになられるか!?」

 「蛮族如きに遅れを取るおつもりか!?」

 

 そうして建設的な意見も無く、批難だけする家臣に対し、彼女は冷ややかな視線を向け…瞬間、全身から魔力を放出した。

 ゴゥッ!と広間に突風が吹き、書類や衣服が巻き上げられるが、それ以上に家臣達は王から発せられる殺気に芯から震えあがった。

 

 「命は下した。疾く従え。」

 

 まるで人型の竜がいる様な、そんな重厚な存在感を滲ませる王に、文官である家臣達では到底抗えるものではなかった。

 否、そもそも竜種としての属性を持つ王に反抗するなど、それこそ竜種をも物ともしない英雄豪傑達にしか出来ない偉業だ。

 その姿に半ば恐慌した様に、騎士と兵達は慌ただしく出発の準備をし、文官達はこれでもかと矢種と糧食を積み重ねていった。

 白銀の鎧を纏った王はただ、左の拳を握りしめながら、玉座からそれを眺めていた。

 

 

 

 

 そして漸く先遣部隊が出発するとほぼ同時刻、蛮族の進行ルート上の最寄りの村が壊滅してた。

 一瞬で自警団や治安維持用の兵達は蹴散らされ、残った力の無い村人は人ならぬ蛮族達の思うまま、ゆっくりと皆殺しにされていった。

 富も財も奴らには関係ない。

 ただ楽しい殺し合いがしたいだけで、その過程で自分が死ぬのすら構わない。

 寧ろ強者と戦い、その果ての死なら誇りにすら思う、そんな他天体からやってきた生粋の戦闘種族なのだ。

 そんなスペックが桁違いの蛮族はまるで虫を甚振る子供の様に、気儘に村人達を殺していった。

 男も女も、老いも若きも、ただ弄ぶ様に。

 

 「ぁ……。」

 

 そんな中、一人の子供がいた。

 既に致命傷を負い、自ら流した血溜まりの中に倒れ伏しながら、以前この村に来た変わった一行の事を思い返していた。

 ローブを纏った見た事が無い程の美男子に眼鏡をかけた神経質そうな優男に、白い衣と鎧を纏った美しい少女。

 少女の腰には一目で業物と解るような剣があり、一行がお忍び中の貴人である事がよく知れた。

 旅の途中に立ち寄った一行が村にいたのは三日、ただ三日で一行は村の人達から信頼された。

 共に汗水垂らして働き、病人や怪我人がいればこれを治療し、何か悩み事があれば真摯に相談に乗り、時には助力する。

 今でも畑の傍には少女が当時開墾中だった土地から掘り出し、更に一人で移動させた大岩があり、今では村の名物と化していた。

 当時、少女の事を村の子供達が全員で怪力女と囃し立て、激怒させてしまい、拳骨と説教を貰ったのも記憶に新しい。

 綺麗で優しく、翠の瞳の美しい少女だった。

 出来れば最後に一目、あの一行にまた会いたかった。

 その思考を最後に、子供の意識は途切れた。

 そのまま目覚める事はなく、戦乱の時代ではよくある様に、一人の少年は死んだ。

 

 

 

 

 蛮族の侵攻から一月後、漸く王は村へとやってきた。

 既に死体は全て埋葬されていたが、未だ血飛沫を始めとして、虐殺の痕が生々しく残っている場所で、王は勝手知ったるとばかりに共も連れずに、村はずれにある開墾したばかりの畑に向かった。

 そこもまた踏み荒らされ、民の血によって黒く染まっていたが、唯一畑の脇に除けられていた大岩だけがそのままだった。

 

 「………。」

 

 王は能面の様な無表情のままその岩に近づき、すらりと鞘から選定の剣を引き抜き、大上段に構え…

 

 「シッ!」

 

 そのまま、全力で振り下ろした。

 通常、選定の剣たるカリバーンは、並の岩よりも遥かに強固であり、幻想種ですら切り裂けるだろう。

 だがこの時、既に王は清廉潔白なる王では、選定の剣に選ばれた王ではなくなっていた。

 

 パリィィィン…!

 

 ガラスや鏡が割れる様な甲高くも澄んだ音を響かせながら、選定の剣はその中心から真っ二つに折れた。

 王が王らしからぬ所業を、民を見捨てる策を選んだが故に。

 兵を最速で後先考えずに突撃させていたら。

 否、前線の一歩手前まで兵達を進ませていたら。

 或は、王自ら先頭に立っていれば。

 そうすれば、もしかしたら選定の剣も見放さなかったかもしれない。

 だが、誰が許しても、彼女自身が許さない。

 誰よりも彼女が自分自身を王と認めなかったからこそ、民の命よりも即位したばかりで脆弱な基盤しか持たぬ己の兵達の命を優先したからこそ、選定の剣はそれに応えた。

 

 「私の…」

 

 俯きながら呟く様からは、決して表情は読み取れない。

 敵味方の返り血と戦火の煤によって全身を黒く染めた姿は、まるで騎士の亡霊だった。

 だがその声音からは、確かに悔恨の、懺悔の、悲嘆の念が込められていた。

 

 「私の心は、此処に置いていきます。」

 

 それだけを告げて、王と成り果てる事を誓った少女は、静かに踵を返した。

 残ったのは選定の剣の切っ先と傷一つない大岩だけ。

 面を上げ、前だけを見る王の瞳は、まるで幻想種の長たる竜の様な金色だった。

 

 

 この時からブリテン中、否、ヨーロッパどころか世界史に多大な影響を及ぼした王の治世が本当の意味で始まる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乳上の世界史への影響を一部抜粋

 

 ・ブリテン中の農業改革

 農具、肥料の開発や農業方法の改善指導、魔術による土壌・品種改良に加え、国外からの種芋や蕎麦といった各種救荒作物類の輸入と栽培の奨励まで行って、少なくなった人口が辛うじて他から奪わなくても食っていける程度にまで改善した。修行の旅の途中、腹が減りまくった乳上による飢餓撲滅キャンペーン。

 

 ・政治の専門書籍の出版

 題名「君主とは」三部作。第一部はブリテン以前と今後予想される各種政治形態や思想の概略。第二部は超ド外道手段を併記したマキャベリズム。第三部は理想の君主とは何かを古今の王を例題とした解説。実は出版するつもりは無く、王の寝室から発見したモードレッドにより勝手に出版されて財政の足しにされた。21世紀現在でも、孔子と並んで愛読されている。なお、本人的には黒歴史の模様。

 

 ・食事事情の改善

 土壌と雑さから兎に角不味いと言われる食事を農業改革と調理によって現代人でも何とか食える程度にまで改善させた。基本的に栄養と腹持ち優先だが結構いける。結果、後世でフランス料理に並ぶ一大ジャンルとして確立された。フランス人とは相いれないが、料理に関しては熱意を持って仲良く討論できる。現代日本人としての価値観を捨て切れなかった乳上の唯一の贅沢にして趣味。

 

 ・植民地政策の大幅改変

 史実では財政難を機に十字教を用いた教化・弾圧政策だったものの、帝国主義の終わりに至る最後まで民族・文化尊重、融和主義を貫き、各国は大英連邦として21世紀現在も親密な関係となっている。これは大体歴代のイギリス国王の夢枕に気合で立ったモードレッドのせい。

 

 

 

 

 

 

 

 




1、乳上ダイジェスト(モーさん誕生前)

2、乳上カリバーン折るの巻

3、乳上が結果的にやらかした事の一部抜粋(一部モーさんの仕業含む)



うーん、どんどん悲惨な目に会う乳上ばっかりネタが湧き出る。
このままでは自害せよランサーよりも相当悲惨な結末になりそうだなZero編(滝汗
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