7日目 夜
「皆、明日はアインツベルンに行くわよ。」
夕食を終え、4人揃った居間で凛はきっぱりと宣言した。
「唐突だな。勝算は?」
「基本、セイバーを盾役にアーチャーが本気で援護。衛宮君と私はイリヤスフィールを捕縛するわ。」
基本方針は極めて簡単なものだった。
だが、相手が圧倒的とは言え力押ししか出来ないバーサーカーなら、逆に策を食い破られる事も考慮して、単純な方が良い。
「ダメだったら?」
「どの道、ここでアレに勝てなかったら終わりよ。それに聞きたい事もあるの。」
「大聖杯だっけか? ヤバかったのか?」
「本気でね。冷や汗もんよ。」
そして凛は大聖杯、柳洞寺地下大空洞で見聞きした全ての事を、士郎達に話した。
心の贅肉だが、それもまた同盟相手としての誠意であり、嘗て巻き込まれた民間人は聞くべきだと思ったからだ。
「そっか…じゃぁ爺さんは正しかったんだな。」
「そうね。正直、セイバーの言葉が無ければ、全く気づけなかったわ。」
余りの事態に、居間は重苦しい空気に包まれていた。
当然だろう。
まさか、既に聖杯がまともに機能しておらず、このままではこの地に10年前を超える呪いが現出しつつある等と聞けば、当事者であった士郎とアーチャー、セイバーは平静ではいられない。
そして、そんなものを利用しよう等と考える輩がいる事に士郎は内心で怒りを募らせていた。
「セイバー、君の意見を聞きたい。」
そこで、この事態を沈黙しながら聞いていたアーチャーがセイバーに問いかけた。
「私は大聖杯の破壊を提案する。幸いと言うべきか、相手が現状蟲とアサシンだけなら、我々の戦力だけでもまだ突破可能だ。」
未だ蟲とアサシンだけで、本格的な魔術工房化されていないのなら、どうにかなる。
最悪、セイバーの宝具とアーチャーの壊れた幻想で山ごと破壊する事も可能だ。
と言うか、地脈に刻まれた術式を破壊するとなると、それ位の火力は必要だろう。
最も、その後に土地にどれだけの影響が出るか考慮しない場合、と注釈がつくが。
「私も考えたんだけどねー。一応御三家として筋を通しておくべき相手がいるのよ。それが終わってからで良い?」
「もしかしてイリヤか?」
「あら、衛宮君にしては理解が早いわね?」
「茶化すなよ。流石に話の流れ位は解るぞ。」
御三家である間桐、遠坂、アインツベルン。
この内、間桐が大聖杯そのものを実質手中に収めたとなると、遠坂としてはアインツベルンと手を組んででも以前の状態に戻したい、あわよくば手中にしたい。
しかし、相手は第三次でやらかした奴堂々のTOPであるアインツベルンである。
「汚染された聖杯の浄化ならまだ良い。でもアインツベルンなら、汚染されたままの聖杯でも、欲する可能性が高い。間桐を相手にしてる時に、後ろから撃たれたくないし、明日話をつけるべきよ。」
「イリヤはしなさそうだけど…そういう事なら賛成だ。」
「勿論、話し合いで済むならそれに越した事はないけどね。私だって魔術師だし、聖杯が正常化できるなら欲しいもの。」
士郎がごねると凛は思ったが、幸いかな、10年前の繰り返しになる可能性に士郎も協力的だった。
「決まりね。明日は郊外の森のアインツベルン城に向かうわ。と言う訳で明日はハードだろうから早く寝るわよ。」
こうして予定が決まった所で、凛の一声により、一同はさっさと寝に入った。
「良いのかね?彼女の事は…。」
「明日は激戦だ。無駄な悩みは抱えるべきではない。」
「その心遣い、仇とならねば良いがな。」
…………………………………………………
七日目
「生憎とそれは却下よ、凛。」
冬木市郊外の森、アインツベルン城にて
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは遠坂凛の「御三家の一角として、一時聖杯戦争を停止し、間桐を排除して大聖杯の正常化に協力してほしい」という要請をあっさりと断った。
「良い?正直な所、私達アインツベルンは最早、聖杯の清濁も何も関係ないの。ただ、祖先から続くこの妄執を果たしたい。ただそれだけなのよ。」
「イリヤスフィール、あんた…!」
城のホールに殺気が満ち溢れる。
三騎のサーヴァントが総身に魔力と闘志を漲らせ、マスター達も各々構え、戦闘に備えた。
「交渉の余地は無さそうね。」
「交渉?元から破綻してるのを交渉とは言わないわ。だから…」
やっちゃえ、バーサーカー。
鈴を鳴らす様な声の号令を得て、大英雄が咆哮した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!!」
ただ踏み込み、駆けるだけで城の床を踏み砕き、巨躯の狂戦士が迫り、その右手の斧剣を敵を両断せんと振り被る。
だが、その猛進を
「ぜぇぁあああああああああああ!!」
黒い騎士が真っ向から打ち合う事で止めた。
「■■■■ーー!」
「援護する!」
アーチャーが黒塗りの弓に矢を番える。
それは以前見せた捩れたレイピアとはまた違うものの、それでもはっきりと宝具と分かる代物だ。
当たればバーサーカーの命を確実に一つ葬れるそれを前に、しかし狂戦士は動じない。
「させない。」
「ぬっ!」
何故なら、彼もまた、一人ではないからだ。
アインツベルンのホムンクルスにしてメイドの一人たるセラがハルバードを振り被り、アーチャーに撃たせぬと斬撃を見舞う。
とは言え、筋力は兎も角歴戦の英霊の反射速度にかなう訳もなく、アーチャーは弓の持ち手のハンドガードで辛うじて重厚な刃を反らし、次の斬撃を持ち替えた双剣で防いだ。
「流石の性能。だが勝てるとでも?」
「ううん、思ってない。」
金属の衝突音を幾度も響かせながら、しかし、リズは気負わない。
何せ自分は盾役で、止めは相方に任せているからだ。
「消し飛びなさい!」
ゴッ!と大気を焼く音と共に、もう一人のメイドであるセラが魔術を放つ。
それは人間一人程度なら、一瞬で蒸発させてしまう程の熱量。
だがしかし、ここにいるのは人間ではない。
「魔術も堪能、と。よく練られているな。」
それを赤の弓兵は双剣で平然と受け切った。
三騎士の持つ対魔力、低いとは言え保有するアーチャーは直撃した所で防げればどうにでもなる。
そして一歩下がっていたリズが再び切り掛かり、動きを止めにかかる。
「悪いが、とっとと超えさせてもらう!」
「ダメ。」
一方、マスター達もまた同様に戦闘状態に入っていた。
「へぇ、これも防ぐんだ。凄いね、シロウ。」
「お褒めにお預かりってな。」
周囲に4羽もの鳥型の使い魔を浮遊させたイリヤスフィールの声に、士郎も劣らずに軽い調子で返した。
手にはアーチャーの愛用する陰陽の双剣、更にその技量と経験すら模倣して、イリヤの使役する針金の使い魔達の攻撃を凌いでいた。
「―――Vier Stil Erschiesung……!」」
そして凛も負けていない。
セラとリズがそうであった様に、士郎と凛もまた即席の連携でもってイリヤを攻め立てる。
はっきり言って、連携としてはお世辞にも上手いとは言えないが、即席としては上等な部類だろう。
相手が戦上手と言う訳でもないイリヤスフィールが相手なら尚更だ。
人気の少ない城で、三つの戦いが並行して起こっている。
どれか一つでも崩れれば、それ即ち他二つへと波及し、戦線は一気に決着がつく事だろう。
そして、それをじっくりと見ている者もいた。
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話は変わるが、皆さんはヘラクレスの伝承をご存じだろうか?
アキレウスと並び、ギリシャの二大英雄と称されるヘラクレス、その最も有名な逸話として12の難行が存在する。
その中でも特に有名なのがネメアの大獅子退治とレルネーの沼のヒュドラ退治だろう。
後者において、彼は9つ、又は100もの頭と不死殺しの猛毒を持つヒュドラを相手に従者達と共に戦い、切り落とすと二つに増える再生力と不死の一頭に苦戦しつつ、辛くも勝利した。
その上、後に彼の師であるケイローンや彼自身の死の原因となるヒュドラの毒を入手し、益々武勇を轟かせた。
このヒュドラ、実は幼生体が現代まで現存していたのをご存じだろうか?
この世界線において、アインツベルンがヘラクレスをバーサーカーとして召喚する際、鞘の時と負けず劣らずの苦労をして、ある保険を用意しておいた。
それがヒュドラの幼生体だ。
それはもしもバーサーカーが暴走、或は勝利の果てに最後の一体となった時、自害させた時に確実に葬るためのものだった。
既に幼生体は死んでいたが、その毒は未だ衰えていなかった。
そこで彼を奉る神殿の柱を武器として加工する際、毒の発生器として中に埋め込まれ、武器としても使用できるようにしたのだ。
即ち、このヘラクレスは狂化していながら、その最大の武器の一つを魔力無しで用いる事ができるのだ。
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だから、戦闘開始から5分、アインツベルン側が切り札を一つ切った。
「そろそろ遊びはお仕舞いよ。」
「あら?人形遊びはもう終わり?」
凛の安っぽい挑発を、しかしイリヤは歯牙にもかけない。
ただ、応える様に全身の魔術回路を励起させ、それまで以上の魔力を供給し始めた。
「全力でいきなさい、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!!」
城を揺るがす程の大咆哮。
その手に握る斧剣から、悍ましい気配を敏感に感じ取り、セイバーは全力で守勢に回った。
それが何れ以前の様に切り崩されると知りながら、それでもなお守勢に回らざるを得なかった。
(一撃も受けてはいけない!)
自らの直感を信じ、彼女は一切の攻めを止めて、防御と回避に徹した。
だが、それは正解だった。
バーサーカーの刀身から僅かに匂う刺激臭、それにセイバーの直感が全力で悲鳴を上げている。
触れたら死ぬぞ、と。
「そんな!?今狂化したの!?」
その異変に、凛は的確にバーサーカーの異変を察知した。
だが、それ以上に現状の危険を認識したのは武器の解析に優れるアーチャーと士郎だった。
アレは不味い、セイバーの天敵だ、このままでは負ける。
二人の思考は一致していた。
「正気かイリヤスフィール!ヒュドラの毒など、一体何処から持ってきた!」
アーチャーの悲鳴染みた叫びに、イリヤはにっこりと微笑んだ。
「流石ね。もうバーサーカーの武器が解ったんだ。そう、アレならセイバーを殺せるわ。これで私達の勝ちね。」
「嘘…。」
ヒュドラの毒が現存する等、普通はあり得ない。
だが、あり得ないなんてあり得ないのがこの業界だ。
ヒュドラの毒は賢者ケイローンが不死を失ってまでも死を求める程の苦痛を齎す猛毒であり、ヘラクレスもまた同様の理由で死んだ(最も、彼の場合は苦痛に晒されながらも暫く動き回っていたが)程の代物だ。
如何にセイバーが不死であろうと、その苦痛にこそ真価を持つ不死殺したるヒュドラの毒には勝てない。
その事実を、凛は何とか飲み込んだ。
(アーチャー、援護出来る!?)
(すまん。メイドさん方にモテモテで無理だ!)
(このドアホー!)
そしてアーチャーとの念話での掛け合いで少し平静になった。
と言うか、明らかに物理法則無視して自分より重い長物ブン回してるメイドとか何物なのかと。
(令呪で帰還?無理、私は残り一角だけ、衛宮君とセイバーは動かせない。アーチャーも同様。どうするどうすべき?考えなさい遠坂凛!)
思考を加速させ、魔術の使用が疎かになり始める凛。
そこに、士郎が声をかけた。
「遠坂、手出しは無用だ。」
「士郎、正気!?」
余りの言葉に仲間の正気を疑った。
何せ、圧倒的にステータスの上の相手が、即死よりもなお質の悪い毒付きの武器で襲ってくるのだ。
しかも現在圧倒的に不利な状況で事が進んでおり、遠からずこちらが負けるというのに、だ。
「セイバーはまだ折れちゃいない。だから、もう少しだけ待ってくれ。オレ達はオレ達でイリヤをフン捕まえる。」
「あぁもう…!負けたら承知しないんだから!―――Anfang…!」」
そして戦闘は更に激化していく。
「―――かは…ッ!」
バーサーカーが狂化して10分、セイバーは城の中庭で片膝をついていた。
その姿は正に満身創痍。
剣を注視すればする程、蹴りや打撃はほぼそのまま通っていく。
傷は再生し始めているものの、鎧は砕かれ、全員に裂傷と打撲をこさえ、あちこちから骨が見えた状態で、剣を杖替わりにしながら何とか立とうとしている。
正直ここまで不利かつ自身の特性を潰された状態で、よくもこれだけ保ったものだ。
「すごいわね、セイバー。前回、御爺様が貴方を召喚したがった理由がよく解るわ。」
士郎達の相手を6羽に増やした使い魔で相手をしながら、イリヤが声をかけてきた。
間違いなく、この英霊はセイバーの中でも最上級だろう。
だが、それ以上にヒュドラの毒を持ったヘラクレスは強かった。
ただ、それだけのことだった。
「…言いたい事はそれだけか、人形?」
だが、その程度で彼女は折れない。
折れた方が遥かに幸せだった生前で、遂に最後まで折れなかった様に、彼女は折れない。
セイバーは満身創痍で立ち上がり、なおその眼光は緩まない。
剰え、その様を鼻で嗤った。
「は。そも狂化などせず、アーチャーでヘラクレスを呼んでいれば彼はもっと強かった。それをしない辺り、相も変わらず墓穴を掘るのが好きな様だな、アインツベルン。」
だから捨てられたんだよ、貴様は。
その言葉に、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの顔から、一切の表情が抜け落ちた。
代わりに再び、否、先程以上に全身の魔術回路を励起させ、令呪まで使用した。
「宝具で殺しなさい、バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■■――ッ!!」
バーサーカーが斧剣を構えた。
それは本来、狂った彼が失ったもの。
経験と技により繰り出される、ヒュドラの100頭同時殲滅を成し遂げた絶技。
即ち、射殺す百頭に他ならない。
しかも、ただの技と違い、今回はヒュドラの毒も付加されている。
直撃すれば、先ず間違いなく死ぬ。
そんな一撃、否、一撃と錯覚する程の超高速の9連撃に、しかし、セイバーは動じない。
用を足さなくなった鎧を解除し、右肩に担ぐ様に、封を解いた聖剣を右手で握り、左手は力が入らないのか、ぶらりと垂れ下がった状態で、それでもなおセイバーの目は死んでいない。
「■■■■■――ッ!!」
あの無名の亡霊の成した完全同時の3撃とは技量の点では劣るものの、威力においては比較にならない、宝具の域まで昇華された攻撃。
バーサーカーの斧剣が、大英雄としての絶技たる超高速によるほぼ同時の9連撃として振るわれた。
その迫りくる死の具現に、セイバーは何も持たない筈の左手を掲げながら前に出た。
再び風の鎧が解放され、僅かながらバーサーカーの踏み込みが減速されるも、彼にそれを構う理性は無い。
令呪に命じられるまま、全力の9連撃を放つのみ。
それがセイバーの狙いだったとも、彼は知らない。
この立ち位置、この瞬間、この好機こそ、セイバーが待ち侘びていた事を。
ただ、彼女の左手に何が握られているのは知覚できた。
「全て遠き理想郷!」
それは彼の騎士王が目指した理想郷の名を持ち、海の様な蒼に金の装飾が成された、伝説に謡われる聖剣の鞘。
持ち主に不老不死の加護を齎し、五つの魔法すら寄せ付けない、何者にも侵す事の出来ない究極の守り。
それが数百もの無数の細かいパーツに分離して周囲に展開、持ち主を妖精郷へと隔離する。
騎士王の真の宝具たる鞘はその名に恥じる事なく、ヒュドラ殺しの9連撃を完全に防ぎ切った。
そして、全力の攻撃によって、隙だらけになった大英雄に、騎士王は今度こそ両手に聖剣を握る。
ランクにA++、最上級の対城宝具。
それこそが人々の祈りの結晶、星に鍛えられた神造兵装。
それを限界ギリギリまでの魔力放出でのブーストも重ねて、真名を解放する。
「約束された…」
反転してなお現在に語り継がれる、最強の聖剣の代名詞。
「勝利の剣―ッ!!」
反転した聖剣が黒い極光を放ち、全てを飲み込んだ。
「■■■■■■■…ッ!」
だが、大英雄はなお抗う。
彼の十二の難行全てを合わせて比しても、なお強大なその一撃を、彼は己の命のストック全てを費やしてでも防がんとする。
何故ならば、彼の後ろには主が、幼気な童がいる。
それだけで、否、相手が例えただの見知らぬ子供であっても、彼が命を費やすには十分な理由だった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!」
吠えて、咆えて、吼えて、ジリジリと押されながら、幾つもの命を消費し続けながら、彼は立ち続けた。
それだけが狂った彼に出来る、主の守り方だった。
そして黒い光が収まった時、彼は未だに原型を保っていた。
「嘘…。」
誰が零したか定かではない言葉。
だが、それを皮切りに
「■■■■■■■…ッ!」
バーサーカーはまたも進軍を開始した。
その速さは明らかに低下していたが、それでも竜の心臓があってなお、魔力消費によって満足に立ち上がる事も出来ない程に消耗したセイバーを殺す事は出来る。
「セイバー!」
だがそれを、衛宮士郎は許さない。
「■■■■ッ!」
轟、と消耗してなお強力な斬撃を前に、それでも彼の足は止められない。
だがしかし、彼はまともに打ち合う事も出来ず、弾かれ、飛ばされ、再び立ち上がる。
(違う、これじゃ無理だ!)
双剣では勝てない。
奴の守りを突破できない。
なら、勝てる剣を作り出す。
セイバーの生前、彼女が初めて手にした宝具を、彼女の運命を決めた剣を。
既に何度も夢で見ている。
衛宮士郎という、それだけに特化した魔術回路ならば、作れない道理はない。
「―――投影、開始…!」
創造の理念を鑑定。
基本となる骨子を想定。
構成された材質を複製。
製作に及ぶ技術を模倣。
成長に至る経験に共感。
蓄積された年月を此処に再現する。
「それは、カ■■ーン!?」
セイバーの叫びに、士郎がどれだけの無茶をしているのかが知れる。
だが、そんなものは二の次だ。
今大事なのは、セイバーが危ないという事に他ならない。
「お、おおおおおおおおおおおおおッ!」
「■■■■■■ッ!」
此処に来て、バーサーカーは目の前の少年が初めて脅威だと認識した。
だがもう遅い。
最初の一合で止めを刺さなかった点で、狂戦士の命運は決まった。
金属の衝突音が鳴り響く。
一合、二合、三合と、次々に鳴り響き、そして、徐々に破片が舞い散っていく。
「■■■!?」
バーサーカーの斧剣、それに致命的な罅が入っていく。
当然だ、何せ至高の聖剣の一撃をまともに受けたのだ。
寧ろ何故原型を保っているのか問いたい所だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」
更に剣閃がきらめき、破片が飛び散っていく。
そして遂に…
バギンッ!
致命的な音と共に、斧剣が半ばから折れた。
だがしかし、それは士郎に利さなかった。
「ッ!?」
折れた切っ先が左手を掠めたのだ。
それ即ち、ヒュドラの毒を受けた事に他ならない。
例え鏃についた僅かな毒を薄めて、時間が経った所で劣化せず、大英雄を殺した伝説の猛毒をだ。
この時、誰もが衛宮士郎の死を予感した。
だが、彼は
「ッ、ぁぁぁぁあああああああああああああッ!!」
左腕を切り落とす事で、それを覆した。
「■■■■■■■■■■■■…ッ!?!」
狂ってなお理性を僅かに持っていたヘラクレスが、驚愕の叫びをあげた。
この大英雄の死因となった毒を、あろう事か、現代に生きる魔術師見習いの少年が乗り越えたのだ。
その強力さを知るが故に…
「勝利すべき…」
彼の驚きは致命的だった。
「黄金の剣――ッ!!」
騎士王の伝説の始まりを告げた、不老の加護を与える王選定の剣。
彼の王が岩から抜いた最初の宝具は、その名の通りの輝きを持って、大英雄の身体を切り裂いた。
「………。」
場に沈黙が満ちた。
この場で最も戦力にならないだろうと思われた少年が、彼の大英雄を討ち果たしたという結末に、声も出なかった。
その誰もが呆然とした瞬間に、黒い影は現れた。
「え?」
誰かの漏らした言葉に、黒い影はそのクラゲやタコの様な形状の身体から伸ばした、命を感じさせない紙の様に薄い触手で応えた。
「全員、撤退しろ――ッ!!」
呆然とした全員に喝を入れんとアーチャーが吼えた。
同時、彼は多数の宝具を展開、影に向かって射出するが…
「効いてない!?」
凛の叫びが、あの影が尋常ならざる存在だと証明した。
それを士郎はセイバーと肩を貸し合いながら歩き出し、メイド達は呆然とするイリヤを担ぎ、アーチャーもまた凛を担いで離脱を開始する。
無論、これを影が見逃す訳はない。
だが、この影の目的はあくまで食事である。
「■■、■ッ!」
目の前に動かぬ御馳走があれば、当然他への追求は疎かとなる。
「やだ、バーサーカー!」
「ダメ!アイツの行動を無駄にするつもり!」
あくまでバーサーカーに手を伸ばすイリヤを、凛が叱咤する。
今もこちらに伸ばされる触手を、己を餌にする事で防いでいる大英雄の背中に、その場の誰もが臍を噛みながら撤退を優先し、駆け出した。
「バーサーカー!」
イリヤの叫びが届いたのか、バーサーカーは最後に少しだけ、彼女に向かって微笑んだ。
そして、影が全てを覆い尽くした。
「絶対に、落とし前つけさせるわよ…クソ爺。」
森を駆け抜ける最中、凛がアーチャーにだけ聞こえる様に、忌々しく吐き捨てた。
…………………………………………………
「おぉ。随分と肥えたのぅ。」
キィキィキィと、人のいなくなった城の中庭で、蟲達が啼いていた。
「まさかこんなに早く大物を口に出来るとはの。いやはや、お主の才能には儂も脱帽じゃよ。」
なぁ桜よ?
蟲の長の呟きに、影は何も答えない。
ただ薄らと、空気に溶ける様にして消えていった。
バーサーカー、超強化。
現状、唯一乳上に正面から勝てるサーヴァントでした。
士郎、漸く出番増えた(泣
乳上、真名バレ&令呪0の危機
赤弓、メイドさんといちゃこら(ただし、士郎が前に出た時、援護はしてた)
凛、空気になる巻の以上でした!