騎士王が兜に王位を譲る話   作:VISP

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ふぅぅ…難産だった。
さて、こっからは先はバトルパートだよ!
彼らが全滅するか否かはちゃんと決まってるからダイジョウブダヨ!


第22話 Stay night編その16 決戦1

 十日目 夜 柳洞寺

 

 

 

 

 間も無く深夜という頃、衛宮邸の面々は柳洞寺のある円蔵山、その麓の階段に着いた。

 

 「此処は既に敵地。気を抜かないように。」

 

 がしゃりと、既に全兵装を纏ったアルトリアが告げた。

 そんな彼女を先頭にその隣に士郎、続いてイリヤとメイド達、そして最後尾に凛とライダーという形で、一行は階段を上っていく。

 

 「………。」

 

 一行は無言だった。

 何せ何時奇襲されるか判らないのだ。

 敵のアサシン、そしてランサーことクー・フーリンはそういった戦い方のプロなのだ。

 会話への意識の集中が即、死に繋がりかねない。

 

 「ねぇセイバー。前回の貴方は既に聖杯の汚染を知ってたのよね?どうして直ぐに破壊しなかったの?」

 「それを今聞きますか…。」

 

 しかし沈黙に耐え切れなかったのか、凛が口を開いてしまった。

 

 「単にタイミングの問題です。当時、あれを破壊してよいものか直ぐに判断がつかなかったのもありますし、前回は全陣営による完全な殺し合い。他のサーヴァントを排除しない限り、こちらに専念する事が出来なかったのです。」

 「あー、確かに専門家がいなけりゃ調査も遅れるかぁ…。」

 

 何の事は無い。

 単にマンパワーの不足、それだけの事だった。

 

 「とは言え、あのギルガメッシュが残っていた状態では私一人ではどうしようもありませんでした。だからこそ、最後の一太刀だったのですが…。」

 

 途端にしゅんとするアルトリア。

 あの夜の出来事は、彼女にとって苦い過去のひとつだった。

 

 「だけど、今回は俺達がいる。」

 

 暗くなった雰囲気を持ち上げたのは、一行の実質的な支柱である士郎だった。

 

 「無力を悔いる事はもう無い。今度こそ終わらせよう。」

 「えぇ。」

 

 共に並び立つその姿は、戦友と言うよりも寧ろ夫婦のそれだった。

 

 (これで、本当に最後です。)

 

 だが、アルトリアだけは来るべき最後を思って、少しだけ下を向いた。

 

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

 

 歩き始めて10分、その位で一同は地下大空洞へ繋がる洞窟へと到達した。

 

 「では私が先に行きます。士郎達は後から少し遅れてきてください。」

 

 工房化されたとなれば、それこそ魔術師の掌の上。

 間桐ゾォルケンがいた場合、此処は既に英霊にとっても死地である。

 

 「今度は逃がしてくれなさそうだしね。頼むわよセイバー。」

 「えぇ、お任せを。」

 

 そして颯爽と進み行くセイバーを見送りながら、一同は暫しその場で待つ事とした。

 

 「一応、酸素濃度とかは問題なかったはずだけど…。」

 「とは言え、有毒物質で満たされている、と言う事もありえますし。」

 

 口々に不安や懸念が出る。

 杞憂ともいえるそれを考えることで、本来立ち向かうべき不安から逃げる。

 よくある現実逃避の手だが、しかし、この場合、喫緊の問題があった。 

 ここは既に敵地であり、敵には奇襲や暗殺を得意とする英霊がいる事を。

 

 ギギギン!

 

 硬質な、金属同士の衝突音と共に中空で火花が散った。

 そして地面に叩き落されたのは、脆いながらも投げ易さ重視のために短く、そして目立たぬ様に艶消しされた鋭利な短剣だった。

 

 「走って!」

 

 最後尾にいた筈のライダーが叫ぶ。

敏捷性に優れる彼女が暗がりか一切の音を立てずに投擲された短剣を迎撃したのだ。

 その一行を見る様にスゥ…と森の中の暗がりからそこだけが切り取った様に白い髑髏の仮面が浮かび上がった。

 それぞ正にアサシン即ち暗殺者の誤解を生みだした英霊、中東において暗殺教団を率い、多くの異端や異教徒を暗殺し続けた山の翁に他ならない。

 

 「キキキ…」

 

 蟲が啼く様な声と共に、再びアサシンの姿が消え、直後、またしても音もなく短剣が、今度は無数に投擲される。

 だがしかし、ライダーは己の長所たる速さを生かす回避をせず、再び迎撃に徹する。

 

 「急いで!」

 

 それは背後のイリヤや凛達を守るためだ。

 アサシンの別名「マスター殺し」は伊達ではない。

 もしライダーがいなければ、この場の半数は確実に取られていただろう。

 

 「ライダー、任せたわ!」

 「ご武運を!」

 

 そして凛を最後に、マスター達は洞窟に入った。

 これでいい。

 これで奇襲を受ける確率はグンと下がる。

 後は、ライダーがアサシンに勝つだけだ。

 

 「さて、サクラ達のためにもうひと踏ん張りですね。」

 

 既に2本の短剣が左肩、右脇腹に突き刺さっていながらも、ライダーは艶やかに、しかし凄惨に笑ってみせた。

 直後、音を置き去りにしかねない速さで、ライダーはその美髪を棚引かせながらアサシン目掛け疾走した。

 

 

 

 

 ……………………………………………………………………

 

 

 

 

 洞窟が崩れるかと思う程の轟音が、継続的に発生し続ける。

 どんな大型機械の工事でもこうはいかない。

 あるとすれば大型爆撃機が複数、バンカーバスターをありったけ投下する位だろうか?

 しかし、そのクラスの衝撃を地下で響かせる存在などあり得ない。

 だが、この世には人の常識では測れない領域が確かにあるのだ。

 それは正に人知を超えた超えた存在の、人知未踏の闘争の余波に他ならない。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!」

 「ぐ、ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 先行していたセイバーもまた、通路を下り、広間に出た所で敵と遭遇していた。

 降り注ぐ無数の宝具を、呻きを漏らしながら何とか致命傷になるものを捌き、残りは鎧の防御と鞘の治癒に任せて放置する。

 この英霊を前にする時、如何にこの弾雨に対処しつつ、無数の宝具の真価を発揮させずに倒すかが焦点となる。

 だがしかし、その無数の宝具の発射が平時は一方向からの数個から最大五十程度に対し、今現在アルトリアが対峙しているのは四方八方からの数十から百を超える段違いの投射量だった。

 そんな存在を相手にして、技量のみでどうこうするにはアルトリアには荷が重すぎた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■…ッ!!」

 

 人類最古の英雄にして、天地万物の裁定者。

 ウルクの黄金王ギルガメッシュ。

 だがしかし、その黄金の装いは見る影もなく、その全てが黒く汚染され、爛れ、エーテルで構成された肉体に癒着していた。

 嘗てあった傲慢さ、尊大さと言った人格の全てを無理矢理剥奪され、狂気を植え付けられた状態で、彼は再び己が妃とせんと欲した騎士王と再会した。

 

 「下種が。英霊の尊厳を奪うか。」

 

 だが、それもまた戦術だった。

 己に従わない程の矜持を持つ英霊、それらから理性を剥奪する事で身内争いを無くし、単なる戦闘用の道具とする。

 それこそがバーサーカーと言うクラスの特性であり、最もサーヴァントらしいサーヴァントであり、魔術師が如何に英霊というものを軽視しているかの証左に他ならない。

 それは例え他のクラスであっても、狂化を付与されれば同じ事だった。

 

 「シッ!」

 「■■■■■■■■ッ!」

 

 何とか懐に飛び込んだと同時、セイバーの斬撃がギルガメッシュの右腕を切り飛ばす。

 

 「ッ!」

 

 だがほぼ同時に、ギルガメッシュから垂れ流される黒い魔力の霞がセイバーを殴り飛ばした。

 

 (この黒い靄、宝具射出の起点だけでなく、実体もあるのか!?)

 

 だが、セイバーの驚きはそれだけでは止まらない。

斬り飛ばしたギルガメッシュの右腕、それが黒い霞に溶けたかと思うと、黒い霞が切断面に収斂し、右腕を形成したのだ。

 

「再生も自在か。厄介な。」

 

 実にお前が言うなと言いたくなるセリフだが、再生能力と言うのは鞘を持つ彼女故にその厄介さがよく分かる。

 

 (あの霞を全て消耗させるか?否、敵は聖杯、地脈の魔力を吸い上げているなら先にこちらが尽きる。一撃で消飛ばす他ない。)

 

 ちまちましていたら、逆にこちらの魔力が底をつく事を悟ったセイバーは、即座に戦場における最善手を模索する。

 

 (私がここで食い止めておけば士郎達は先に行ける!何とか士郎達だけでも前に送り届けねば…!)

 「■■■■■■■■―ッ!!」

 

 英雄王の咆哮と共に、100近い宝具が雪崩を打って放たれる。

 そのどれもが一級品であり、セイバーの聖剣と互角に打ち合えるだろう代物なのが解る。

 命中すれば例え幻想種でも一瞬で挽肉にしてしまであろうそれに、しかしる騎士達の長、アーサー王たる彼女は一歩も退かずに前進する。

 

 「背後に勝機無し!行くぞ、英雄王!」

 

 そして、力強く聖剣を振り被り、宝具の雨に突撃した。

 

 

 

 

 …………………………………………………………………

 

 

 

 

 「よし、もう大丈夫な筈よ。」

 

 アルトリアが狂化した英雄王に突貫していた頃、士郎と凛、イリヤとメイド達は更に奥の地点に来ていた。

 

 「流石はアインツベルンね。このクラスの隠蔽魔術をあっさりなんて。」

 「ふふん。リンも優秀だけど、まだまだ常識に捉われ過ぎね。」

 

 此処までは全て事前の作戦通りだった。

 イリヤスフィールの持つ願望器の属性を利用した高度な隠蔽魔術によって、敵の目を騙し、確実に大聖杯の下に戦力を送り届ける。

 彼女の属性を利用した魔術の威力、それは既に凛も士郎も、あのバーサーカーも交えた全力の死闘で身を以て体験している。

 凡百の魔術師どころか、英霊にすら通用するソレが、今回の作戦の肝だった。

 こちらの消耗を前提とした作戦に、当初士郎が難色を示したものだが、アルトリアの「二兎追う者は一兎も得ず。既に死者の我々よりも、生者である桜を優先すべきです。」という一言に折れ、この作戦を了承した。

 内心でどう思っているにしろ、士郎もまた覚悟を決めた。

 数少ない懸念は敵サーヴァントの探知能力だったのだが、ランサーは此処に至っても出てこない事から脱落乃至戦闘不能、アサシンは敢えて作った隙に誘う事でライダーと交戦中であり、邪魔者はいない。

 脱落した筈の千里眼を持つ英雄王もまた、狂化によってまともな判断力は消えている。

 そう、此処までは何れも想定内であり、殆ど順調と言っても良かった。

 

 「…止まれ。」

 「士郎?」

 

 だが唐突に、先頭を歩く士郎が右腕を横に伸ばして後続達を止めた。

 彼の視線の先、そこには英雄王が纏っていた黒く汚染された魔力の霞が通路を塞ぐように漂っていた。

 

 「お前か。」

 『如何にも。その様子では私が何であるか見当が付いている様だな。』

 

 ゆっくりと霞が収束し、人型を形成していく。

 その様子を、イリヤ達アインツベルンは警戒しながら、士郎は冷徹な観察眼で、そして凛は驚愕で以て見つめていた。

 

 「アーチャー…ッ!」

 「うむ。昨日ぶりだな、凛。」

 

 見慣れた赤い外套を黒く穢しながら、隻腕の弓兵が佇んでいた。

 

 「取り敢えず、凛。君は先に行け。先方がお待ちかねだ。」

 「…ッ」

 

 アーチャーの言葉に、しかし凛は躊躇う。

 これは単なる分断させるための罠ではないか?

 嘗て信頼した自分のサーヴァントとは言え、既に彼は汚染されている。

 何処まで信用できないのか、こちらに味方するだけの理性が残っているのかすら、全くの不明だった。

 分かっているのは隻腕になった事で、魔力で強引に向上させたステータスを生かしきれないであろう事だけだった。

 

 「行ってくれ、遠坂。オレはこいつに聞きたい事がある。」

 「…分かった。ちゃんとぶん殴ってやりなさいよ。」

 

 それだけ告げると、凛はさっさと奥へと進んでいった。

 アーチャーに向け、か細い声で何事か告げた様だが定かではなく、彼女はただその名の示す様に洞窟の暗がり、最奥部へと進んでいった。

 

 「ねぇアーチャー。私達は?」

 「あぁ、すまないが君達も暫し此処で待ってくれ。多分だが、今君達が行った所で犬死しかねん。もう少し期を見るべきだろう。」

 「ふーん?そんな所は変わらないんだ。」

 

 暫しの待機を告げるアーチャーに、イリヤは興味深そうな視線を向ける。

 元々好奇心旺盛な彼女である。

 真名も知れず、無数の宝具を模倣し、操る彼に興味は尽きないのだろう。

 それが己の義弟の異能にそっくりとなれば、尚更だ。

 

 「アーチャー、オレには何の用なんだ?」

 「何、大した事ではない。直ぐに終わるし楽に済む。」

 

 そう言った刹那、アーチャーは何の前触れもなく黒い十字型の短剣を残った右腕で投擲した。

 黒鍵。

 聖堂教会所属の代行者、それもかなりの腕前かつ古式の者達だけが使う投擲用の剣。

 摂理の鍵という概念を持つこの剣は、通常の魔術の神秘を否定し、打ち消す効果を持つ。

 即ち、ワンアクションで行使される魔術的防御は意味を成さない。

 しかも鉄甲作用という特殊な投擲方法で投げられたそれは、例え死徒であっても生半な個体等一撃死しかねない威力を誇る。

 

 「投影、終了。」

 

 衛宮士郎は心臓に真っ直ぐ突き進む黒鍵を、投影した干将と莫耶で以て叩き落した。

 叩き落され、神秘の差で破壊された黒鍵はそのまま魔力へと解けて消えていく。

 全く同じ投影魔術、全く同じ投影品の末路。

 そもそもがおかしかったのだ。

 殆ど異能である投影魔術を「先達」としてこれ以上なく的確に指導した事。

 料理の腕だけでなく、凛やアルトリアの好みを完璧に把握した料理。

 そして、髪や肌の色の違いこそあるものの、今こうしてアーチャーが髪を下ろしているからこそ分かる似過ぎた容姿。

 

 「此処で死ね、衛宮士郎。」

 「其処を退け、衛宮士郎。」

 

 最新の英霊とその生前の人間。

 魔の山の地の底で、過去と未来が交錯する。

 白い人形達を観客に、同じ筈の二人は戦闘を開始した。

 これが互いの最後の邂逅になると、明確に予感しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

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