騎士王が兜に王位を譲る話   作:VISP

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第25話 Stay night編その19 決戦4

 

 加速、加速、加速加速加速、加速加速加速加速加速加速、加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速加速。

 本来の鎧を捨て、圧縮された風を纏い、魔力を放出して推進力とし、翼のはためきを加えて、最早音を置き去りにし、その5倍近い速さを得てなお、

 

 (空が、狭い…!)

 

 無限の財宝から逃れられない。

 殺到してくるあらゆる時代と場所の武具により、広大な筈の空が埋め尽くされていく。

 比喩表現ではなく、本当に空が2分に敵が8分なんて状況に笑いすら浮かばない。

 当然だった。

 何せこれは文字通り無尽蔵の財である。

 現在過去未来における人類の知恵と技術の集大成。

 過去に生まれ、生き、死んだ英霊である彼女に、唯一つを除けば、これらから逃れ得る術は無い。

 だが、その一つはもう使う余裕がない。

 詰みが近い。

 そう告げる直感に、アルトリアは全力での飛翔を以て答える。

 黒化したとは言え、英雄王自身はそう早い英霊ではない。

 現に、鎧以外に自らを強化する類の財を使っている様子は無い。

 

 (勝機があるとすれば一度だけ…!そこに全てを賭けるしかない!)

 

 狭くなった空、その隙間を強引に潜り、時に抉じ開けながら、アルトリアは飛翔する。

 目指すのは上、そしてこの都の中心。

 加速された思考と視界により、引き伸ばされた時間の中で、彼女はただ一度の好機を待つ。

 そして、

 

 (ここ!)

 

 彼女は回避を考えない全霊で以て、直下降を開始した。

 都の中心、そこにはただ一人の王がこちらを見据えて佇んでいた。

 そしてアルトリアは、高度1000m付近から、真っ直ぐにそこに向かって突っ込んだ。

 風と魔力放出と翼だけでなく、遂には重力すら味方につけて、アルトリアは墜ちていった。

 聖剣を両手に刺突に備え、只々一直線に地上を、英雄王を目指す。

 だが、それは回避に専念していたが故に辛うじて捌けていた宝具の群れに、真っ向から突撃する事を意味していた。

 地表から降り注ぐ宝具の雨を前にして、アルトリアは一切の減速を許さず、加速を続けた。

 無論、その身体と翼には宝具が突き刺さっていく。

 

 「     ッ!」

 

 加速していた分、正面から受けた攻撃の威力は上がり、宝具が余計に体に食い込む。

既に速度は音速の6倍を超えており、その威力の向上もまた凄まじい。

 だが止まらない。

 此処で臆せば、ただ無為に死ぬだけだからだ。

 

 地表まで後200m、漸く英雄王の姿を肉眼で捉えた。

 後100m、弾幕がより濃密になり、続けて被弾する。

 後50m、最早どのタイミングであって宝具ではもう止められない。

 後10m、眼前に巨大な盾が出現した。

 

 「っ!?」

 

 減速は不可能、ならば抉じ開けるのみ。

 渾身の力と加速で以て放たれた斬撃は、しかし、Aランクの防御宝具によって空しく弾かれた。

 

 「がぁ!!」

 

 それ所か、その攻撃と衝突の衝撃諸々を弾き返されてしまった。

 余りの衝撃に、一瞬だけ意識が完全に空白となってしまう。

 気づいた時にはもう遅い。

 姿勢制御は間に合わず、アルトリアは黄金の都の中心付近に着弾し、幾つものの建物を道連れに瓦礫の山へと埋もれていった。

 

 「■■■■。」

 

 それでも英雄王は攻撃の手を緩めず、宝具に追撃を命じ、雨霰と宝具を降らせた。

 過剰で大雑把に攻撃に忽ち粉塵が巻き上げられ、視界の確保が困難となる。

 だが、この時ばかりはそれは致命傷となり得た。

 突然、瓦礫の山が爆発した。

 そう思った時、既に粉塵の中からアルトリアは飛び出していた。

 目指すのはただ一人。

 後20mもない場所に仁王立つ英雄王のみ。

 だが、彼女の前には先程の焼き直しの様に宝具の山が雨霰と降り注いだ。

 肩を、腕を、腹を、足を、翼を、尾を。

 その全てを宝具に貫かれてもなお、アルトリアは止まらずに進み続けた。

 後15m、10m、5m、3m…。

 だが悲しいかな、意思だけではどうしようもない格差と言うものはこの世には往々にして存在する。

 

 「ぐ、がぁぁぁあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあああぁぁぁぁ…ッ!!」

 

 ありったけの怨念を込めた呻きと共に、アルトリアは手を伸ばした。

 しかし、届かない。

 後、数mという所で、彼女は先日の様に再び捕縛系の宝具の山によって完全に拘束されていた。

 これに掛からない様にするための高機動だったのだが、負傷によってやや遅かった彼女を捉えるのは既に英雄王にとっては楽な仕事の一つだった。

 鞘を使えば離脱できる?

 否、聖剣の真名解放の魔力が足りなくなる。

 聖剣でなくば、再生する黒化した英雄王を完全に殺し切れない。

 かと言って、このままではこちらが死ぬ。

 

 「■■■■■■…。」

 

 英雄王の手に握られた蔵の鍵、そこから赤い葉脈のようなものが上方に発生し、瞬く間に手元へと収束し、たった一振りの剣として結実した。

 ただそこにあるだけで、担い手を除いた他のあらゆるものを蹂躙する程の轟風を発生させているそれは「天地乖離す開闢の星」。

 英雄王ギルガメッシュの最大の宝具であり、EXランクの対界宝具であり、嘗てあらゆる生命体の存在を許さなかった原初の地獄であった地球を天と地に切り分けた創造神エアの剣である。

 それは失われた筈の神々の権能、その中でも極北であり、極めつけである。

 

 そんな代物を、明らかに最大出力で、この近距離で、開放しようとしている。

 

 「止めろ英雄王!この地を、いや、この星を滅ぼすつもりか!?」

 

 その事実に、アルトリアは総毛だった。

 そも、天地創造を成した最高神の権能を英霊が持つなど、その時点で馬鹿げている。

 正気ではない。

 否、今の彼は正気ではない。

 聖杯の泥に犯され、狂化を付与された現状、彼にまともな判断力を期待してはいけない。

 例え根っこの部分では正気を保っていたとしても、現状でそれは何の救いにもなりはしない。

 

 (もうこれしかない!)

 

 アルトリアは自滅覚悟で宝具の連続使用を覚悟した。

 自らを構成するエーテルすらも全てを使用して、何としても英雄王を消滅させる。

 そうでもしなければ、全てが消えると悟ったからだ。

 体内に意識を集中し、見えずとも確かにそこにある鞘を意識する。

 それはあらゆる災いを跳ね除ける幻想の極到の一つ。

 五つの魔法すら寄せ付けない究極の守り。

 

 (さよなら、士郎…。)

 「全て遠き…」

 

 そして真名を開放しようとした瞬間、

 

 「騎英の手綱ーッ!!」

 

 中空を砕きながら、彗星が突っ込んできた。

 

 「■■■■■ッ!!」

 

 邪魔をされた。

 その怒りのままに英雄王が財を展開…できなかった。

 原因は一つ、彼自身の手に握る剣、乖離剣エア。

 その余りの出力故に、発動状態になった時点で発生する暴風により、他の宝具との連携が不可能となる。

 その点を偶然にも上手く突いた形で、ライダーはその騎兵突撃によってアルトリアを戒める拘束を破壊してみせたのだ。

 

 「く、ぁああああああ!?」

 

 だがしかし、幻想種たる原点の天馬を駆る女神であっても、英雄王の財から逃れる事は出来ない。

 エアから発せられた暴風により、天馬はまるで大嵐の中の小船の様に、瞬く間に制御を失っていく。

 

 「後は・・・!」

 「えぇ、承りました。」

 

 だが、矛先が変わっただけで、彼女にとっては十分だった。

 戒めを解かれたアルトリアが、黒の聖剣を完全に解放し、振り被る。

 

 「■■!?」

 

 その動きに、堕ちた王は驚愕と共に先に振り抜かんと体を動かす。

 だがしかし、両者は既に一投足の間合いにある。

 姿勢を崩していた英雄王に対し、アルトリアは万全だった。

 そして、両者の剣士としての技量においても、敏捷性における性能も、アルトリアに軍配が上がっていた。

 

 「約束された…」

 

 黒い魔力を噴出する闇色の聖剣が、まるで逆十字の様に迫り…

 

 「勝利の剣--ッ!!」

 

 堕ちた英雄王は同色の魔力の奔流に飲み込まれていった。

 

 

 だが黒い魔力に飲まれる瞬間、その口元が弧の形に歪んだのはきっと気のせいではないと、アルトリアは思った。

 

 

 

 

 

 




うむむ、急いだから短い(汗
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