帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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大人の自慢=グロイスドイッチェラント

 

 

 

 皇歴2019年のある日

 

 

 

 

 大人の自慢=グロイスドイッチェラント

 

 

 

「やあ、カレン・シュタットフェルト辺境伯令嬢。ナオト・コウズキ・シュタットフェルト辺境伯令息。よくぞ我がユーロ・ブリタニアの海軍工廠に来てくれたねッ!」

 

 やたらと大きな身振り手振り、不必要な大声でしゃべる、ちょび髭のおじさん。

 

 シュタットフェルト辺境伯家次期当主。カレン・シュタットフェルトと。

 

 戦闘力は妹のカレン以下で、シュタットフェルトの血は継いでおらずとも、家族仲良く暮らしているシュタットフェルト家騎士団長。ナオトは呼び出された先でとんでもない大物と顔を合わせることになった。

 

「本来ならば君たち、特にアーリアの血を引くドイツ系貴族のカレン嬢には、式典で出会いたかったのだが。ちょうど君たちが休暇でこの近くの街を訪れているとの情報が入ってね。失礼だが招待状を送らせていただいたのだよ」

 

 急遽のことで悪いと悪びれもなく言うユーロ・ブリタニア最高指導者アドルフ・ヒトラー大公に、こちらは内心恐縮しっぱなしであった。

 

「君たちを呼んだのはほかでもない。ドイツ系であるカレンくんには特にお見せしたくて。そして元は日本人であるナオト君にも見せたくてうずうずしていたのだ」

 

 てくてくと工廠内を案内されていくとその先に大きな、大きすぎる船体が、職人によって徐々に徐々に形を成していっていた。

 

 あまりにも巨大な船体はドックのギリギリまで場所を占有。これなら空母のルイ・シャルル級のドックでも使えばいいのではと思わされるくらいであった。それほどに巨大なのだ。

 

 圧倒されるカレンとナオト。このレベルのものはブリタニアでは戦艦ペンドラゴン級しかない。

 

「こちらが間もなく、本当に間もなくあと二週間で生まれる事になる四つ子の長女、名を──グロイスドイッチェラントという」

 

 

 基準排水量:123,000t

 

 常備排水量:132,000t

 

 満載排水量:142,500t

 

 全長:347.0m

 

 全幅:52.0m

 

 速力:34.9ノット

 

 主砲:50.6cm三連装超電磁砲3基9門

 

 

「これでッ! これで我がユーロ・ブリタニアも日本に並んだッ! あの『技術の日本に』艦船分野で並んだのだッ!」

 

 喜びをかみしめ涙を流す、ちょび髭のおじさんに、ナオトは申し訳なさそうに真実だけを告げた。

 

 確かにすごい、この戦艦はペンドラゴン級と同等の威圧感がある、重厚なる装甲、高い艦橋、何物をも圧倒する巨体。そして日本・ブリタニア・南天以外ではまず作れないだろう巨大な三連装超電磁砲。

 

 この艦自体が北側の二大超大国と南側を除けば建造不可能だろう。これが60,000t、70,000級、80,000級くらいまでであればアルガヴェやインドネシア、アラウカニア・パタゴニアクラスの北側の大国になら現在では作れる。

 

 だがこれは無理だこの戦艦ペンドラゴン級とためを張れるだろうこの戦艦は、日本かブリタニア以外で作れる勢力があるとは思えなかった。南天ならあるいはだが。

 

「あ、あの、ヒトラー大公閣下、よろしいでしょうか」

 

「ん、ぐすッ、なんだねナオトくん。今の私は最高の気分なのだ。言いたいことがあるのなら何でも言ってみたまえ。小遣いが欲しいのならばやろう。この後街で遊ぶのだろう?」

 

 人好きのする笑みを浮かべるヒトラー大公に、誠に申し訳ないと真実だけを伝えた。

 

「大日本帝国の戦艦大和と武蔵級、基準排水量で128,800tなのですが」

 

「……なん、だと?」

 

 すでに基準排水量で負けていた。ならば満載排水量は150,000t前後となる。

 

「それと砲も51cm超電磁砲はもう古いとして、60cm三連装超電磁砲3基9門に変えたそうです。先日。ですから基準排水量130,000t超えてますよたぶん。満載だと150,000~160,000tの間くらいじゃないですかね」

 

 ナオト・コウヅキ・シュタットフェルトの実に冷酷な宣告に、ヒトラー大公はその場に崩れ落ちた。

 

 勝負は始まる前から負けていたのだ。全然追い付いていない。二週間後には全艦就役だというウキウキ気分は今や、沈み気分なピエロへと化していた。

 

 

 二番艦:グリードリッヒデアグローゼ。

 

 三番艦:ウルリヒ・フォン・フッテン

 

 四番艦:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン

 

 

 全部負け犬になった。少女たちよ済まない。不甲斐ない生みの親で済まない。

 

 アドルフ・ヒトラー大公・ユーロ・ブリタニア最高指導者、彼が人生百数十年の中で幾度目かに覚えた敗北の瞬間だった。

 

 

「ね、ねえお兄ちゃん、あんまりにもあんまりじゃない」

 

「いや、でも事実は事実だろう。平民の間ではまだ情報公開されていないけど貴族の間では」

 

「貴族の間でも情報公開されてないんだけれど……お兄ちゃんどこからその情報つかんできたわけ?」

 

「あ、あははは、俺はアレクを連れて遊びに行かなくちゃならないんだった」

 

 アレク・シュタットフェルト、ナオトとカレンの弟である。第一夫人が産んだ子でとてもかわいらしい金髪の男の子だ。

 

 その子が街のホテルで待っている。

 

「あ、あのヒトラー大公閣下。私たちはこれで失礼しても……」

 

 カレンが尋ねると幽鬼の様に立ち上がったヒトラー大公が尋ね返してきた。

 

「君たちもか?」

 

「は?」

 

「君たちもかね。日本を相手にこのような思いをさせられてきたのは」

 

 悔しい思い。追いつけども追い越され、追いついたと思えば半歩引き離される。日本とブリタニアの歴史であった。

 

 いつも日本はブリタニアの半歩先を歩いているのだ、その背にけして手を届かせないようにして。

 

 何もブリタニアだけではない。世界中の国々が近くに遠くに日本の背中を見ている。それは今現在も変わらない構図だった。

 

 そんなヒトラーの質問にカレンは答える。

 

「ええ、そうですね。我が神聖ブリタニア帝国はいつでも日本のその背中を見てまいりました、けして届かないその背中を、ですが我々はあきらめません。いつか必ずその背中にタッチをして見せます。何せあと半歩ですので」

 

 まあずっと半歩なのですけれどと苦笑いをしながら、肩口で切りそろえた艶やかで美しい赤い髪の先をいじるカレン。

 

 すると、その言葉を聞いたヒトラー大公の瞳に生気が戻った。

 

「ふ、ふふふ、ふははははッ! いやそうだった。この百と数十年ずっとそうだった。我らユーロ・ブリタニアは二歩ほど遅れているといったとことか? たった二歩。されど二歩。だが、だがいつか、いつかの日か必ずやその背に追いついて見せるさ」

 

 百数十年?と疑問に思うカレンとナオトを横目に、ヒトラーは両手を大きく広げ。

 

 そうしてグロイスドイッチェラントを見上げるヒトラーは彼女に言葉をかけた。

 

「人間だってそうだ。小柄で生まれてくるものもあらば、大きな体で生まれてくるものもいる。我が娘グロイスドイッチェラントよ。姉妹たちとともにその威容を見せつけてやるがいい。ユーロユニバースのくそったれどもへ──そして」

 

 強大なる大日本帝国へ。

 

 この二週間後、産声を上げた四つ子は日本へと親善訪問へ向かい。日本の艦船ファンを大いににぎわし、テレビを大いに賑わせたという。

 

 

 

 

 ユーロ・ブリタニアのちのAEU戦艦グロイスドイッチェラント級

 

 

 一番艦:グロイスドイッチェラント

 

 二番艦:グリードリッヒデアグローゼ。

 

 三番艦:ウルリヒ・フォン・フッテン

 

 四番艦:ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン

 

 

 基準排水量:123,000t

 

 常備排水量:132,000t

 

 満載排水量:142,500t

 

 全長:347.0m

 

 全幅:52.0m

 

 速力:34.9ノット

 

 主砲:50.6cm三連装超電磁砲3基9門

 

 

 

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