帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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シンクは小学生高学年から中学生1年くらいに見られますが、実年齢二十代半ばから後半です。

ご指摘を受け少し加筆修正しました。


子どもがお酒を飲もうとすると……絡まれる

 

 

「リョウタロウ、遅いわね」

 

 いつものBAR、もっと華やかなお店が彼女には見合うだろうに何故このようなBARに呼び出されたかというと。

 

 単純な話、夫の好きな行きつけのBARの一つだからだ。

 

 カウンターテーブルの一番端、目立たない場所に彼女は座っていた。

 

 身の丈よりも長く美しい金色の髪を黒いリボンで、頭の両側側頭部高くでツインテールに結い上げ、赤いヘッドドレスを付け、深紅のドレスを身に纏った彼女は、このBARの空気にはとても馴染みそうにない。

 

「おいおいっ、金髪のガキが来てるぜっ!」

 

 ガキ? いったい誰のことを言っているのかしら? 子どもなんていないのに。シンクは辺りを見回すと、ガラの悪そうな金髪と黒髪のツーブロックの髪型。

 

 上体は非情に盛り上がった筋肉質で出来ている漢、いや男と目が合った。

 

「よお、ガキ、ここはおめえみてーなしょんべんくせえガキが来るとこじゃねーぜ。なんならこの俺様が大人の何たるかをその小せえ身体に教え込んでやろうか?」

 

 ギャハハハハっ! 仲間たちと笑う男。

 

「おめーのデケーの突っ込んだらそのガキのアソコが裂けちまうよっ!」

 

 下品ね聞いていられないわ。

 

「でもこのガキ、ガキのくせに色気あるなあおい、ごくり」

 

「確かに、な。よく見りゃ相当の上物だしよぉ」

 

 

 

 

 子どもがお酒を飲もうとすると……絡まれる。

 

 

 

 

 男たちの目の色が変わる。私を見ていた目が、お子様を見る目から色欲の目に……。気に入らないわね。大人のなんたるかなんてこと、リョウタロウにこの身を捧げたあの日に知ったわ。

 

 痛くて、熱くて、でも心地良くて幸せで。麻生リョウタロウの全てをこの私、シンク・ローゼンクロイツが包み込んでいる感触がとても気持ち良かった。私の中にリョウタロウがいる。私とリョウタロウが熱く一つに溶け合っている。

 

 それはとても痛くて純粋で、汚れ無き愛の瞬間。私たちにもそんな初めての時はあったわ。

 

 子供はまだ出来ないけれどね。お母さまはリョウタロウくんとシンクちゃんの子供が早く見たいわと仰るけれども、子は授かり物だもの。そうそう望むとおりには行かない物よ。

 

「どれ、このオレ様が味見してやるぜ奥の部屋へ来いよ」

 

 私の手を、穢らわしい手が取る。

 

 瞬間――パンっ。空いている方の手で穢らわしい手で触り来た男の頬を叩いていた。

 

「汚い手で触らないで頂戴」

 

 私に触れて良いのは親、姉妹、弟、以外では愛する夫、リョウタロウだけ。

 

 それ以外の男が触れることを私はけして望まないし受け入れない。当然先ほどよりこの男が勝手に宣っている行為など考えるだに穢らわしい。私が受け入れるのはリョウタロウだけであってその他の誰でも無いのだから。

 

「この糞ガキィィッ! 優しくしてやってりゃ付け上がりやがってェェェッ!!」

 

「私はあなたに優しくして貰いたいとも言っていなければ、して欲しいとも思っていないのだけれど」

 

「チっ、この糞ガキがっ、ちっとお仕置きが必要だな」

 

 私は男の言葉に、カウンターに掛けていたステッキを手に取る。ああ、とても手に馴染むわ。戦闘用の物では無いけれど耐久性は充分だし、壊れることは無いでしょう。

 

 なんなら、別の物を代用としても良いし。

 

「ちーと痛えぜ?」

 

 大方男は小柄な私を子供と思っているのでしょうね。斜め四十五度に振り上げた手は女子供の頬を叩く手。叩き慣れているのかしら? ますます以て穢らわしいわ。無抵抗な女子供を叩いてきた事が透けて見える。

 

 振り下ろされてくる手。何の訓練も為されていない一般人の攻撃や動作なんてスローモーションに見えてしまうわね。私はその手を取り。

 

「なッ?!」

 

 驚く男を無視して片手でひねり上げた。

 

 私のツインテールがふわりと宙を舞う。

 

「いでェェ!! 痛デデデデデッ!! く、くそ、離せッ!!」

 

 面白いくらいに弱いわ。口頭では脅し文句を使い、凄んで見た目と合わせて相手を怯ませ、いざ本当に強い相手を前にするとどうなるか。

 

 腕を捻りあげたまま床に頬リ投げる、床に置いてあるテーブルが音を立てて倒れ散らかった。あとで損害賠償請求もしておこうかしら? そうして引き倒した男のその喉元にステッキの先を押し当てると。

 

「や、やめッ、やめッて、くッ、れ」

 

 こうして簡単に謝る。闘志も霧散させて。情けない男。

 

 あなたは本当は徒党を組んで相手を攻撃しなければ何も出来ない弱い男よ。

 

 肉体的にはある程度強いのでしょうけれど、所詮人を殺す覚悟も無い半端者でしかない。

 

「このまま私がこのステッキの切っ先に力を入れたら、あなた、地獄にいけるわね」

 

 天国とは言わない。どうせこの手の男は今までに同じ事をしてきているのでしょうから、地獄行きは確定でしょう。

 

「die or NOTdie? 生か死か? あなたの至るその道の決定権は私にあるわ」

 

 態と薄く酷薄な笑みを浮かべると仲間の男達も息を止めた。

 

「助けてあげないのかしら? お友達なのでしょう?」

 

 

「っっ……!!」

 

 彼のお友達たちはぶるっと震えて何も言わない。ここには力関係しか無い。友情は無い。見たところ私が抑え付けているこの男が一番強いようね。

 

「残念ね。あなたのお友達はあなたを助けてはくださらないみたいよ?」

 

 ここに居るのは精々不良グループと呼べる者達。生き死を、本当の戦場を経験してない子達ね。初心な子達。それが暴力を振るおうというのだからなんて平和な世界で育ってきたのでしょう。

 

「私を犯すみたいなことを仰ってたみたいだけど、あなた、殺されたいの?」

 

 ゴミを見る目。きっとそんな目をしているのでしょうね。私はその目で押し倒している男を見遣り、ステッキの切っ先にぎゅっと力を込める。

 

 このまま喉を潰し、首の骨を砕いて現実の怖さでも知ってあの世へ行って貰おうかしら。

 

「た、たぢゅッ! たぢゅげでぐだざいッッ、もうじばぜんッッ、おやぐぞぐいだじばずッッ」

 

 じゅわわ~。

 

 下半身、ズボンの留め具の中から音がして、透明な液体が下半身の周りに広がっていく。

 

 この程度で失禁とは、情けない。日本の闇に生きている男でもこの程度で失禁まではしないわ。

 

 本当にただのお坊ちゃんなのね。見せかけだけは威圧的で言葉も態度も威圧的、実際実力もそこそこなのでしょうけれど、本当に人を殺してきた者の闇を見抜けない中途半端な輩。

 

 こういったBARには多い、溜まり場になっているとは聞いたけれど、本当みたい。連中は腫れ物を見るように遠巻きに私を見ている。

 

 私は冷酷なままにステッキに力を入れていく。

 

「良いことを教えて差し上げましょう。日本の華族伯爵家以上の階級の者は、神聖ブリタニア帝国内での平民下位貴族への無礼討ちが許されているわ。同様に」

 

 一呼吸置いて瞳に殺気を込める。少年のリーダー格は泡を吹き出したけれど意識は失わせていない。そんな楽をさせる物ですか。

 

「神聖ブリタニア帝国の伯爵家貴族以上の者にも日本の士族、平民への無礼討ちは許されている。そして私はローゼンクロイツ伯爵家の一族の者。お分かり? 見たところ士族の様子だけれど。御帝がお嘆きだわ。士族とは国を守る為にその時が来れば戦わなくてはならない物だというのに……、落ちぶれ汚れてしまった士族……ここでこの手でジャンクにしてしまっても問題は無いわね」

 

「ひい゛だぢゅげ」

 

 ゴキンッ

 

「げえッ……」

 

 喉元に当てていたステッキに力を込める。綺麗に折れた少年の首。何故この男を殺したか? 簡単。血の匂いがしたからよ。士族という階級を持ち出して好き勝手に暴れて、女性を辱めて殺してきた。ありありとその光景が浮かんでくるわ。

 

 それにしても、何度戦場でこの音を聞いてきたか。

 

 それをこの様な街中で聞くことになるなんて因果な物ね。

 

 目の前で行われた生きた者がジャンクへと変わる瞬間を見た、仲間の少年三人は、恐怖に立ちすくんで動けない。

 

 するとそこへ。

 

 

 ――わりい遅くなっちまった。閣議と辻のおじきの仕事が入ってちょっと片付けてきてな。

 

 

 少し癖のある黒髪を七三分けにして、上下グレーのスーツに黒いコートと黒い帽子姿の男が入って来た。

 

 私は手早く少年を解放してステッキを元の位置に戻し、ヘッドドレスのゆがみと髪のほつれを取り居住まいを正す。

 

 奥までやってくる男、リョウタロウ。彼は失禁したまま壊れている少年を見て『お前なんかやったのか?』と私を見て来るも私は何もやってないと帰す。

 

「嘘吐け……こら、髪がほつれてる」

 

 リョウタロウが私のツインテールの片方を何度か梳いてくれる。近寄る身体同士、リョウタロウの匂い。

 

 硝煙の匂いがする。誰がしかを片付けてきたのね。分かりやすいけれど、こんな場には似合わないわ。

 

 それと、私と少年グループのトラブルの際、一切動かなかったマスターが、リョウタロウのコートを受け取る。

 

「マスター」

 

「如何いたしましたかマドマヅェル?」

 

 まあ当然だけれど、マスターは私を大人だと認識していたようだわ。いきつけのBARの一つだから当然といえば当然だけれど、その割には助け船がなかった。

 

「あなた、何故先ほどの私と彼らのもめ事を仲裁するか、警邏に通報しなかったのかしら」

 

 怖かったから動けなかったというのならばBARのマスターの資格無し。

 

 少年達と同グループだというならばそれ以前。

 

 するとマスターは。

 

「ご冗談を。彼の神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家五女、シンク・ローゼンクロイツ様が、斯様な無頼漢如きを退けられないはずも無いと考えた次第で御座います」

 

 そう、私が誰かと知っていて見過ごしていたと。

 

 良い度胸ね。場合によっては大問題に発展するのだけれど、敢えてソレを見過ごすだなんて。

 

「それにシンク様なら警護の方が付いていらっしゃるかと思い」

 

「今日は、今夜は何かとうるさい警護は付けていないの。リョウタロウと二人きりの時間を楽しみたいと思ってね」

 

「それはそれは」

 

 それにしてもあの不良の子たち。本当に何を習っているのかしら?

 

 リョウタロウを見ても外務大臣だと気が付いていないなんて。

 

 傍耳を立ててみると聞こえるのは「マフィアだ……」「ま、マフィアのボスだ……」ですって。お笑いもいいところだわ。まあ確かに普段のリョウタロウはマフィアに見えないことも無い格好をしていることもあるけれどね。ふふッ、本人は格好いいとでもお思っているのかしら?

 

「しっかし、よお、天下のローゼンクロイツ伯爵家の御令嬢に難癖付けるたあいい度胸してるじゃねーかよ。何なら俺が教育しとこうか?」

 

 言いながら彼は愛用のベレッタを出す。殺す気だ。私はもう一人ジャンクにしているけれど。

 

 ローゼンクロイツ伯爵家と聞いた瞬間彼らの顔面が蒼白になる。小柄な淑女の多い大貴族として日本でも有名だものね。日本と多くの経済的取引もしているお得意様だし。

 

 そこの息女と喧嘩をしたなんてことがどこかに漏れれば、彼らの将来はおしまい。私はそこまでしないけれど第1女スイギントウだと彼らの将来どころか命さえ危うかったわ。

 

「ふふッ、教育は私がしておいたわよ。ねえ。あなたたち」

 

 私は視線だけを彼らに寄こし正否を問う。彼らは、身体を震わせながら、小さな声で「は……はい……」と応えた。

 

 もちろん教育だけでは終わらないけれど。

 

「マスター」

 

「はい、シンク様」

 

 110番。

 

 

 間もなくやってくる日本の警邏。小太りな巡査部長が私とリョウタロウに気付いて姿勢を正す。

 

「こ、これは外務大臣閣下、ローゼンクロイツ伯爵家シンク様」

 

「俺たちへの挨拶は良いんだよ。先に其処に転がってるジャンクの始末と、糞ガキ共を連れていけ。どこぞのBARで女を輪姦してたっぽい奴らだ。シンクのことも犯そうとしやがった」

 

「し、シンク様をッッ!!」

 

「意味わかってんよな。俺の管轄だからアレだが外交問題に発展してたぜ。シンクがこの場で収めるって言わなかったらよ」

 

 そう、私は収めると言った。だからこれはここまで。私も外交問題にまで話を大きくするつもりは無い。

 

 少年グループのリーダーは私が誅し、グループメンバーは逮捕させた。余罪なんて幾らでも出てくるでしょう。

 

 ソレで十分ではないかしら? 日本にもE.U.の腐れた少年法なんて無い。婦女暴行監禁傷害、死刑かしら。見逃して上げた意味無いわね。最もこれまでを考えるのならそれ相応の刑罰でしょう。

 

「そ、それではこれで失礼致します、私がでは在りませんが少年グループには厳正なる処分が下される物かと」

 

「むしろ下してくれ。ローゼンクロイツ家に知れたら何人首が飛ぶか分からねえぞ?」

 

「は、はいッッ、必ずやッ、し、失礼致しますッッ」

 

 少年達は終始真っ青だった。自分たちの犯してきた罪と向き合い悔いているのか? これから訪れる厳正なる処罰を恐れているのか? どうせ後者でしょうね。こういう輩は悔い改めない。

 

「リョウタロウ」

 

「んあっ」

 

 今日の日のためのワインを頼んでいたリョウタロウの手から、赤薔薇の私をイメージさせる赤ワインがグラスに注がれていく。

 

「極刑?」

 

 意味は分かっている。私に手を出した彼の少年達の処遇について。

 

「決まってるだろ極刑だよ。ローゼンクロイツ伯爵家っつー大貴族の息女に手を出したのがあのガキ共の最大のアウトだ、ま、元々婦女暴行監禁傷害、かなりの罪となってたろうがね。止めに伯爵家令嬢だ見過ごせられる範疇を逸脱してやがるよ」

 

 今度は私がボトルを手に持ちリョウタロウのグラスに注いでいく。

 

「士族ってなあそれだけで特権階級だ。士族様なら何しても大抵許される。嶋田の旦那や親父さんの代でそんな悪しき風習には終止符が打たれたんだが、今でもあんな小僧共が悪さしてやがんだよ」

 

 チンっ

 

 グラスを鳴らし乾杯。美味しいお酒だけれど少し気分が悪いわね。

 

「ふふっ」

 

「なんだよ」

 

「いえ、ね、リョウタロウも悪ガキだったのかしらと思って」

 

「うっせえよ」

 

 リョウタロウが私の長い髪を優しく掬う。指を通して何度も何度も照れ隠しのように。

 

 うふふ、気分は悪くなっていたけれど、頬を赤くする夫の姿を見れただけで良しとしましょうか。

 

 

 

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  • 高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-
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