ジュンくんは思春期
父さんも母さんも姉さん達も叔父さんも、みんな美形なのにどうして僕だけ平凡なんだろう。
昔怖くて血液検査まで受けて、間違いなく父さんと母さんの子だって分かってるけれど、でもそれでもみんな美形で僕だけ平凡って。
「おーうジュン。良いかあ」
考え込んでいたところに飛んでくるリョウタロウ義兄さんの声。
うちに来てたんだ。
シンク姉ちゃんの旦那さんで、凄い銃の名手。
この人は平凡な容姿。僕側の人で、僕の気持ちをりかいしてくれるひと。
「入って良いよ」
バリケードにちょっと隙間を空ける。
すると黒髪の頭が入ってくる。
それは良い、まだ良かったんだけどさ。
全身が入りきったところで。もう一人入って来た。
膝まで届く銀色の長いウェービーヘアをさらさらと零れ流しながら、左目につけた眼帯は逆三角形で中心に紫の薔薇が彩られていて。
覗く片方の右目は金色、全体が紫色ですぼまる格好のドレスを着ている。スカートの裾は蕾の膨らみに見えてとても綺麗。
素足は紫色のサイハイロングブーツに膝上まで包まれていて、ブーツの真ん中にも紫の薔薇の意匠が凝らされている。胸元にも紫の薔薇のコサージュ。紫の薔薇、紫薔薇なんて呼ばれてるきれいな女の人。
今年で二十歳になる、ローゼンクロイツ伯爵家第八女バラスイショウ・ローゼンクロイツ。親戚と言うことで僕の婚約者でもある美しい女性、美形なんだけど彼女とは婚約者だし幼なじみでもあるからバリケードの中に入るのを許している。
「ば、バラスイショウ姉ちゃん?!」
「おはようジュン」
「いやさ、俺とバラスイショウなら入って良いんだろ?」
外からはシンク姉ちゃんのいい加減出てきなさいって大きな言葉が響いてる。
「う、うん、リョウタロウさんとバラスイショウ姉ちゃんなら」
早速二人にソファへ座って貰うんだけど。
バラスイショウ姉ちゃんはそそっと僕の隣に来て、身体をくっつけてくる。は、恥ずかしいな。
「なあよお、ジュン」
リョウタロウさんが切り出す。
「おめーだって他に持ってねーもんあるだろ」
「うん、ジュンのお裁縫の技術はとても凄い」
僕は裁縫が得意だ。男のくせになぜか。
一部の人にはマイスターなんて持ち上げられてるけれど、そんな大層な物じゃ無い。と、思う。
良太郎さんもバラスイショウ姉ちゃんもそこを褒めてくれるけど。
「そいつァ、才能ってもんだ。それを伸ばしていきゃあ良い。平凡な容姿? 俺からしたら充分可愛らしい容姿だぜ」
「か、可愛らしいって」
男の人に可愛らしいなんて言われても嬉しくないなあ。
「ジュンはかっこいいよ」
バラスイショウ姉ちゃんに言われたら今度は恥ずかしいや。
「頭蓋骨の上に肉がくっついてるだけなんだよ顔の作りなんてなあ。気にすんな」
ああ、やっぱこの二人とは話しやすいや。
「あと、ジュンよお、男として格好良くなる手っ取り早い方法を教えてやろうか?」
「手っ取り早い方法?」
「バラスイショウを……ごにょごにょするんだ」
「で、で、出来ないよそんな事っ!!」
なんてことを言い出すんだろうこの人。それくらいに気安い間柄だからってのはあるけれど。
バラスイショウ姉ちゃんが頬を赤くして立ち上がると。
ブーツの先でリョウタロウさんの脛を蹴っていた。
それでまた僕の隣に姉ちゃんが座る。姉ちゃんは僕を見て小首を傾げる。顔が凄い真っ赤でいい匂いがする。
大人の女の人ってこんなに良い匂いがするんだ。
さらっと銀色の長い髪を揺らしながらバラスイショウ姉ちゃんは呟いたんだ。
「ジュンがいいなら……いい、よ」
優しい声音。そうして優しく抱き着いてくる小柄でも豊満な体躯のバラスイショウ姉ちゃん。鼻腔や顔を擽る姉ちゃんの長い髪さらさらで良い匂いだ……。
「しても、いいよ?」
赤い顔でそういうことの話をする姉ちゃん。
ああ、姉ちゃん。言ってる意味分かってるの?
ぼ、僕だって16歳とはいえ男は男なんだぞ。
純粋で無口で美人で優しくて、僕の大好きなバラスイショウ姉ちゃん。
僕、僕は、この純真無垢な紫の薔薇をどうすればいいんだろう。
「正に二人の世界って奴だな……ジュンよお、もうバラスイショウに男にして貰え。そうすりゃ多少は自信も付くぜ」
「そ、そ、そ、そんなことっ、でき、できできない、よっ」
「ジュンになら、なにされても、いい」
「ね、ね、ね、姉ちゃん!」
僕は悶々とした時間を過ごした。
俺は邪魔だからって出て行ったリョウタロウさん。
僕とバラスイショウ姉ちゃんを二人きりにしてこんな空気のまま、僕にどうしろっての?!
「ジュン、二人きり……だね」
「ね、姉ちゃん」
姉ちゃんの身体の香りは甘いし、長い髪は良い匂いだし。
ぼ、僕、僕は。
「うわーっ! 僕にはそんな事出来ないっ!」
頭を抱えて叫ぶ僕を姉ちゃんは。
「意気地無し」
そう言ってベッドまでぐいぐい引っ張っていって押し倒された。
「ね、姉ちゃん、何するの?」
「何するの?」
「ね、ねえ?」
「ねえ?」
姉ちゃんの長い銀色の髪の毛が僕の顔の周りに流れてカーテンになって、銀世界と薄暗さを作り出す。
バラスイショウ……ねえ……ちゃん……。
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