以前に投稿した物です。加筆改訂と手直しをした物です。
以前読まれた方は読み飛ばして下さっても問題ないかと。
オリキャラばかり出て参りますので。
カチっ、カチっ、カチっ。
つかねえな。
シュゴウっ
「おおうっ」
「火、要るんだろう?」
差し出された手、唐突に付いたターボライターの火。白いシャツに包まれた手が後ろから伸ばされている、気配も無く現れたその人物に振り返る良太郎。その手の持ち主は穏やかな笑顔、温かい微笑みを送りながら大日本帝国外務大臣では無い。
私人、麻生良太郎を、シンクと同じ蒼い双眸で見つめている。白いシャツには赤い薔薇を刺し、下は黄土色のズボン。焦げ茶色の靴。まさに紳士という言葉が良く似合う男性は笑顔で炎を差し出していた。
「わりィな……ローゼン」
ローゼンクロイツ家当代当主、ローゼンクロイツ伯爵その人であった。
メイド達、召使い達は一斉に控えるがローゼンが手を振ると皆、それぞれの仕事に戻っていった。この薔薇の宮殿の頂点に立つ男は召使いの使い方も心得ているようだ。
「なんだ鞄なんか持って、例の如くドールでも入れてるのか? つーか、気配無く後ろに立つなよ」
揶揄では無く挨拶代わりの言葉を使う良太郎。実際にローゼン、彼は広大なローゼンクロイツ伯爵家領主であると共に、人形師でもある為、鞄に制作中のドールが入っていることもままあった。
「中央、ペンドラゴンに行っていたんだよ。南天の動きが怪しいからその会議にね。僕の赤薔薇は元気かい」
「元気だよ俺ァ下僕にされてるこの邸に帰ってきてるから後で会ってやってくれ。喜ぶぜ。それと、こっちも情報は掴んでる。中東に大軍を集めてるらしいな1千万どころじゃねえ。3千万だ、本格的に北半球に攻め込んでくるんじゃねえかってのが帝国議会の見解だ。ユスフの糞野郎が小躍りしてるところを見るにどっか攻め込むなありゃ」
ふぅーっと葉巻の煙を吹き出す良太郎。
「あいかわらずとんでもない数だね3千万とか、本気なら8千万なんだろう? 死ぬことに高等恍惚なる意義を見出すなんていう生けるアンデッドみたいな兵隊が。今や中東の覇者となったユスフはその力を利用してるつもりなんだろうけれど、利用されてるのはユスフの方なんだけどねまあ、情報では彼もオファニムの地位を貰ってるそうだから身内としては扱われているんだろう……しかし君も葉巻が好きだね。キューバ産かい?」
「お、当り。カストロ伯爵の贈り物でな。同じ葉巻愛好家って事で」
「なるほどね。カストロ伯爵も葉巻をよく吸うね。けどあれ元はぶよとか羽虫除けだって聞いてたよ。彼、ゲバラ子爵と共に南ブリタニアのペンタゴン掃討作戦をしていたろう。あの頃吸い始めた物だとか」
「聞いたことあるな。あの人もオレ等と同じで戦いの歴史だからなあ」
「君が一番戦ってるじゃ無いか。銃無しの君が相手でも互角が良いところだよ僕はね」
「おめーも大概人間止めてんな」
「アリスよりは弱いよ」
「おめーの嫁さんは確かにヤベーわ」
一頻り近況を話し合った二人は、ちょっとした問題事に目を向ける。
十六歳はもう大人だよね
聞題事とは、それは良太郎が出てきた扉の向こうの問題だ。
「ジュンくん、また引きこもったんだって? 中央──ペンドラゴンにまで連絡が来たよ」
「まあそうらしいわ。部屋ん中にバリケード作ってやがって、俺かバラスイショウちゃん以外は召使いもメイドも、姉貴等も入るなってよ」
「それで君が入ったんだろう?」
「バラスイショウちゃんと一緒にな。そんで彼女だけ残して出てきた。ジュンにアドバイスをくれてやってな」
にやりと笑う良太郎にはァーっとため息を吐くローゼン。
「変な事したんじゃ無いだろうね?」
「してねーよ? ジュンくんに大人になれって言ってやっただけだ」
「あのジュンくんにそんなことができるはずがないだろう。ん?……ま、まさか君、……バラスイショウに?」
「当りだ」
「な、なんてことするんだ君はっ。ジュンくんはまだ十六歳なんだぞ? まだ子供だ」
「なあに、大人の味を覚えて精神的に成長すりゃあ引きこもりも無くなるだろう。ジュンは言ってもローゼンクロイツ家の人間だ。おめーさんだってそれなりの役職に就かせるつもりなんだろう」
ローゼンが黙り込む。確かにジュンはローゼンクロイツ家唯一の男子。何れは要職に就かせるつもりだ。中央ペンドラゴンで仕事をしている姉たちに代わり領内を取り仕切って貰わねばならない。
ヒナイチゴ、キラキショウ、バラスイショウと、領内に残っている姉たちと共に。後は近々帰ってくる第3女のスイセイセキと共に。
ローゼンはふと胸元に刺している薔薇を取る。
「ところで――」
薔薇を取り、斜め後ろにずっと控えている長い黒髪を夜会巻きにしているメイドに問い掛けた。この薔薇の邸にメイド――召使いは数百人と居る。が、ローゼンはその中で直ぐ傍に控えていた一人に反応していた。
「君は新しいメイドさんかな? 僕は記憶力が良いんだ。この家に仕えている600名ほどの召使いの顔は皆覚えている」
ローゼンは人形師、人形細工は細かく、感覚で覚えながらも記憶力も必要。故に知らない召使いは直ぐに分かる。
「誰だね君は? 我が家の家宰は優秀だ。そんな機械みたいな目をした人間を、僕の家宰は雇わないぞ?」
ローゼンの目がすうっと窄まる。
「な、お戯れを。わたくしは一介の――」
オドオドと取り乱すメイド。主人に疑われてしまい、職を失ってしまう。ましてや無礼討ちを。そんな声音だったが。
もう無駄、そう悟った彼女の目の色は狂気の色へと変わった。
「一介の死兵にございます」
死兵――南天の正規兵。死をもいとわぬ生きたアンデッドはその正体を現した。
「ププププッッ!!」
跳躍したメイドは天井に張り付き、ローゼン目掛けて口から針を撃ち出してきた。
ローゼンクロイツ伯爵領の隣接地であるカンザスには南天が繋がりを持つ貴族が多い。ここで伯爵を仕留めれば、南天に取り大きな益となろう。
当初はローゼンクロイツ家末子を誘惑し誘拐する予定であったが。それも伯爵の思わぬ帰還と、赤薔薇、紫の薔薇、魔弾の射手の訪問と帰還により失敗に終わった。
ならば最早伯爵を仕留めるしか無い。そう考えたメイドの決死の攻撃であったが。
ローゼンは身じろぎもせずに大輪の薔薇を盾にして全ての攻撃を受け止める。ジジっ、ジジジジっ、音がして薔薇の中心に突き刺さる幾本もの針。
「君は南天軍に就職するよりもサーカス団にでも就職した方が良かったね。そうすれば――」
その薔薇をくるりと逆さに持ち替えたローゼンは、メイドの口へと目掛け放った。
ビュッ――風切り音を残し飛翔する赤薔薇。
「ガッ――!!」
鋭い茎はメイドの口へと深々と突き刺さり、その喉奥を貫きメイドを絶命させた。
だらだらと垂れてくる鮮血が真っ赤な薔薇に更なる赤を追加し、ポタポタと血を滴らせる。
「まともな人間で居られて、生きている事も出来たというのにね」
髪が解けながらばらけつつ落下してくる死骸。物言わなくなった死の天使。死後は神と一つになるという教義の下か、瞳には死の恐怖よりも悦びが浮かんでいる。完全に頭のおかしな人間、最早人間を辞めてしまった者のなれの果てであった。
良太郎はその様子を見守りながら懐より引き抜いていたデザートイーグルをくるくる回している。
「ヒューっ、一撃かよ。……まッ、こっちも気付いてたから一発で仕留めるつもりだったからな。目が死兵のソレだったからどうせなにも喋らねえ処か」
「死兵だと名乗った以上は一瞬で仕留めないと大きな被害が出る。口の中に爆弾が入ってる。たぶん威力的には数十メートル四方を吹き飛ばす物だろう。スイッチは口内かな? 死兵の持つ奥の手なんてのはそんなのが多い。これでも死兵と何度も戦ったから大体分かるんだよ」
「そいつァ俺っちも知ってらァ。イカレ天使共の最終手段だ」
「針にも青酸だろう毒が仕込まれてる。完全に狂っているとしか言えないね」
こんなのが3千万中東に集結している。最新の情報では5千万人規模にまで追加派兵されるかもしれないという。
どこへ向かうのか分からないが3千万~5千万もの大動員ともなれば北半球侵攻は確実だろう。
中華連邦・ジルクスタン方面か? 見切りを付けた南天の犬のE.U.ユーロピア共和国連合ことユーロユニバース方面か? 南ブリタニア大陸か?
それとも。
「大日本帝国・神聖ブリタニア帝国と決着でも付けるつもりで北側諸国とやり合う気か? F号兵器の撃ち合いなんぞ行えば最悪世界が滅ぶぞ」
南天諸国は何かを求め動いている。南天の神もまた何かを求め動いている。それがなにか?
「1個は分かってるんだぜ? 日本にある何かか、或いは複数の人物を目標としているかだ。それとな、こりゃ俺の勘だが、南天の神に取っちゃこの世界に意味なんて無いんじゃねーのかね。正直この世界を滅ぼしても良いとか考えてるような気がするぜ。勘だがな」
ふぅ~ッ、良太郎が葉巻の煙を大きく吐き出しながら憂鬱な顔をした。
※
外での凄惨なやり取りも気付かぬままに、ボサッとした短い黒髪に黒縁眼鏡、優しそうで平凡な容姿。日本人系の容貌を持つ少年。
上は黒いベストに白いシャツ、袖にはフリルが付いていて下は青いズボン、そんな紳士的な服装を身に纏った確かな少年、ジュン・ローゼンクロイツがそーっと扉を開けて出てきた。その頬はもう真っ赤っか。
もう一人、ジュンの後ろから 膝まで届く銀色の長いウェービーヘアを肩から流しながら、左目につけた眼帯は逆三角形で中心に紫の薔薇が彩られていて。
覗く片方の右目は金色、全体が紫色ですぼまる格好のドレスを着ている。スカートの裾は紫の薔薇の蕾の膨らみに見えてとても綺麗。ドレスの乱れは無い。きちんと確認した綺麗な形。
素足は紫色のサイハイロングブーツに膝上まで包まれていて、ブーツの真ん中にも紫の薔薇の意匠が凝らされている。胸元にも紫の薔薇のコサージュ。紫の薔薇、紫薔薇なんて呼ばれてるきれいな女の人。
当年二十歳の、ローゼンクロイツ伯爵家第8女バラスイショウ・ローゼンクロイツ。ジュンとは親戚と言うことで婚約者でもある美しい女性。バラスイショウの頬も赤く色付いて居る。少し呼吸も乱れていた。
たった今、ジュンとバラスイショウは男と女になったのだ。良太郎に促されて。ジュンはこんなつもりじゃなかったし覚悟も何も無かった。十六歳で致してしまう。
それもバラスイショウの側からというのがまた情けないことこの上ない。男の子なのに、最後まで女性にリードされて。でも初めて知った女性の温もり、バラスイショウの温もりは優しく慈愛に満ちていて、嬉しく心地の良い一時でもあった。
そんな時が終わり、お互いに身嗜みを整えて、ジュンは自分の事を甘く優しく抱いてくれたバラスイショウに膝枕をされて暫しの余韻を楽しみ、そうして部屋を。
「やあ、ジュンくん」
そーっと出てきたところで声を掛けられた。よく知ってる声で、アリス母さんの次に逆らえない人の声。
「と、と、と、父さんっ!」
ローゼンクロイツ伯爵家当主、ローゼンクロイツ伯爵その人。ジュンの実の父親である。実はローゼンの作る人形の衣服はジュンが作ったりデザインしてもいる為、父とはローゼンブランドのドールの共同製作者だったりするのだ。
「父さんペンドラゴンに行ってたんじゃ?!」
「ああ、予定が早く終わってね領地の方も気になる。そうしたら邸に虫が一匹」
「虫?」
「ああ、なんでもないよ……、それよりもまた引き籠もってたんだって? みんなに心配ばかり掛けて」
「ご、ごめん、父さん、でも僕っ」
「ああ、分かってるよ。また容姿のことで悩んでいたんだろう」
父は何でもお見通しだった。
「でもね容姿なんてのは心の美しさには勝てない。容姿のみに拘るというのならばジュンくんはバラスイショウが美しいから婚約したのかい?」
美しい。ああそうだろう。ローゼンクロイツ家の例に漏れず、親戚筋のバラスイショウも美しい。だけどそうじゃない。
美しいから、きれいだから婚約したんじゃ無い。心が、その心がとても美しい女性だなと思ったから。
静かな月の光、紫水晶、紫の薔薇、その静けさをたたえた心の美しさが僕を引きつけたから、僕はエンジュ叔父さんの持って来たバラスイショウ姉ちゃんとの婚約話を受けたんだ。
「違うよ父さん。僕はバラスイショウ姉ちゃんが綺麗だから婚約したんじゃ無い。僕は姉ちゃんの心の輝きに引かれて、それで、その……」
僕は言葉尻を小さくしながらバラスイショウ姉ちゃんの長くて綺麗な銀色の髪を手に取る。僕の手の平から流れ垂れ下がる綺麗な長い髪の感触。とても良い香りがして、もう汗も乾いていてさらさら感と、潤いを取り戻していた。
「ジュン……好き、ジュン」
僕を抱き締めてくる小柄な姉ちゃんが愛くるしい、小柄って言っても、僕も小柄な方だから身長は近いけど。
「ただ、まあ、まだ二人とも婚約段階なんだ“そういうことは”ほどほどにしてね」
ば、バレてるっ!
顔真っ赤にしている姉ちゃん……全部バレてるよ姉ちゃんっっ!!
「へっへっへ、最近の若いのはその手のもはええんだよ。別にしたいときにすりゃいいって。きちんと責任取る覚悟が出来てるならなーんも問題ねえ。お前さんらのとこの皇帝陛下見て見ろよ」
「皇帝陛下を持ち出さないでくれよリョウタロウ。あの御方は歴代の皇帝陛下や大貴族の中でも特別な御方なんだから。まあ、ね。ジュンくんがというより年齢的にバラスイショウが責任取れるなら僕は何も言わないよ。ただエンジュにも君の事は任されてるから」
「う、うん、父さん」
「はい、お父様……ジュン……ね?」
ね? が何を意味しているか分かるジュンは真っ赤になって緊張した。これからもああいうことをしよう。してもっと仲良くなろうという無言の合図だ。
「と、父さん」
「なんだい?」
「十六歳って大人なのかな?」
「さあ、場合によりけりじゃ無いかな。分別の付く歳ではあるから大人と言えば大人だね」
「お、大人、かあ」
勿論、だからと言って僕にそういうことをする勇気は無い、バラスイショウ姉ちゃんからして貰う形になる。でもそれでいいのだろうか。と、ジュンは悶々と悩む。
「あ~あ~ッッ」
「はっはっは、悩めるのは少年の証だよ」
そんなジュンを初心だねえーっと笑う良太郎。
真剣なローゼンクロイツ伯爵はそれでいてにこにこと微笑みを崩さず。
こうしてジュンの引きこもりは解消の方向に向かっていくのだった。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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