帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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8月27日マリーお誕生日おめでとうございます!


マリーベルと一緒

 

 

 電車の駅、東京駅。

 

 平日の昼間ならばいざ知らず。

 

 今日と言う休日の日には人は少ない。

 

 といって、大日本帝国帝都東京。

 

 少ないというのは対照的な物で、実際はかなりの人だかりだ。

 

 その人だかりの中を柱に背を預けては待ち人を待つ美女一人。

 

 紛う事無き美女。

 

 風に揺れる紅の長い髪は腰の下まで伸ばされ、頭の一部の髪を一つ束に束ねて背に流し。

 

 意志の強そうな濃色ブルーの瞳は深い海の色。

 

 均整の取れた肉体は実るところは実り、引っ込むところは引っ込むといったモデル体型。

 

 顔(かんばせ)に付いては語るまでもない。

 

 本職のモデルが負けを認めるだろう美しき女性だ。

 

 その女性が人を待っている。これほどの二度と見られない程の美貌を持つ女性を待たせるような馬鹿が存在するのだ。

 

 

 

 マリーベルと一緒

 

 

 

 一体だれが。

 

 遠くで張っている女性の護衛達も苛立っていた。

 

 マリーベル様を待たせるなどと。

 

 そう、マリーベル。様と言う敬称を付けられる存在。

 

 様だけならば貴族でも様付け、或いは○○卿と呼ばれるものだが、卿と呼ばれる意味ではマリーベルに付けられるべき敬称はただ一つ。

 

 ‟殿下”

 

 である。

 

 マリーベル・メル・ブリタニア。それこそが女性の本名。

 

 恐れ多くも大日本帝国の長年の同盟国、もはやファミリー国家とでも称するべき国の皇女殿下なのだ。

 

 そんな雲上人を待たせている。

 

 正しく万死に値する事なのだが、マリーベルは半ばいつもと化しているこの事について怒るのはエネルギーの無駄遣いだと考えていた。

 

 それが証拠に彼女の近辺で時計を見ている彼女の筆頭騎士(ナイトオブナイツ)のオルドリン・ジヴォンもいつもの事だとして怒らない。

 

 この筆頭騎士、今は半袖のTシャツに短パンというラフな格好だが、その実力はマリーベル皇女以外のグリンダ騎士団員を圧倒できるというとんでもない腕の持ち主なのだ。

 

 マリーベルとは幼馴染でずっと一緒に育ってきた。

 

 またその美貌。今はアップのポニーテールに纏められた長い金髪を揺らし、化粧もそこそこの活発な女性に見えるが、見る物が見ればわかる気品を兼ね備えている。

 

 それもそのはず。行為ではないとはいえ彼女の家は名家だ。貴族令嬢として貴族としての一般教養は身に着けているのだから。

 

「ったく、なにやってんのよあの馬鹿。マリーを待たせるなんて」

 

 そんな彼女は少々ご立腹。

 

 主君であり親友であるマリーベルは30分も待ちぼうけを食らっているのだから。

 

「まあまあオルドリン、そうピリピリしないでくださいな」

 

「だって、アイツマリーとの約束を──って、う!」

 

 振ってきたマリーベルを見てオルドリンは二の句を告げなかった。

 

「うふふふふ、だって兄さまの事ですもの。約束の御時間までパチンコにって、それでフィーバー連荘で来れないのでしょう」

 

 ほら。

 

 見せられたスマホにはマリーベルの発信履歴だけが延々と残されている。

 

(うわ、あのアホ……着信拒否しないのは褒めてあげるけど、これだけ無視って)

 

 死んだなと思ったオルドリンはその履歴を見なかったことにした。

 

 そして……10分が過ぎた時。

 

 

 

 ※

 

 

 

「よ~、マリーわりぃなあ、ちょっと遅れちまって」

 

 大きな荷物を抱えてきた玉城。なにがちょっとだ。ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベルをちょっと待たせただけでも死罪があり得るんだぞと、護衛のSPとオルドリンは思った。

 

 そんな重大事に気付かない玉城は、大きな荷物の包装を引き剥がして、それを笑顔で笑って居ないマリーベルに差し出した。

 

「マリー、誕生日おめでとう。こりゃ俺からの誕生日プレゼントだ8月27日だったよなマリーの誕生日」

 

 大きなクマのぬいぐるみであった。

 

 こいつを獲得するために朝一から台取りしてたんだぜとニカニカ笑う玉城。

 

 マリーベルは燻っていた怒りが霧散し、変わって喜びと愛情に心を満たされた。

 

 ほんのりと朱くなるマリーベルの頬。受け取った大きなクマを抱きながら頬を擦りつけている。

 

「兄さま」

 

 瞬間、クマのぬいぐるみを離したマリーベルは、玉城の身体に抱き着いた。クマはオルドリンの手にわたっている。

 

「兄さま、マリーは、私は嬉しゅうございます」

 

 まるで恋人がそうする様に、ひしっと抱き締めた玉城の背を優しく撫でるマリーベル。玉城のトレードマークとも言える威勢よく逆立つ髪にも指を通して。

 

 マリーベルは愛おしい、幼い頃より恋焦がれてきた玉城真一郎を愛撫していく。

 

「マリー……こんなとこで恥ずかしいぜおい……、けど、な、わりぃ、ホントにわりぃ、折角の誕生日だってのにしょっぱなから遅れちまって」

 

「いいえ。わたくしは兄さまのお気持ちが、わたくしを思うそのお気持ちが何よりも嬉しゅうございます」

 

 オルドリンがこちらを見て、今日ばかりはあんたの好きにしなさいとサインを送っている、忠義厚きSP達も同様に。

 

「マリー……」

 

 玉城がマリーの背を撫でる。目立たないようにと外行きの普段着を着ているせいで普通の女性に見える。

 

 玉城の手がマリーの背にかかり、その艶やかな紅色の長い髪を手指に絡め付かせて梳いていきながら、マリーベルと言う女との邂逅を楽しむ。

 

 今日はいつもと違う。マリーの誕生日だ。博打で大勝した金は全てマリーの為に。

 

 けして綺麗とは言えない金だがお金はお金。マリーベル皇女殿下、いな、ただのマリーをエスコートするには十分な軍資金と言えた。

 

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