帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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ちょっと書いてみましたよ


小さな幸せ1

 

 

小さな幸せ1

 

変わった

 

あの日から

 

あの晴天の日。昼の陽光に白む月の下で迎えた運命の日から、私の生き方の、私の有り様の全てが変わった

 

20代後半の、長く美しい銀髪を幾つものロール状にまとめて束ねた髪型をした女性。線の細い身体、頭に戴いた金のサークレットが輝く美女は、寄る窓辺より、耐震ブロックと幾何学的な形状を持つ大摩天楼郡が織り成し造り上げられた、大都会、東京の夜景を見下ろしながら思いを馳せていた

 

 

中央暦1639年5月17日

 

それは、世界に冠たる五大列強国が一国、パーパルディア皇国首都エストシラントにある第3外務局

パーパルディア皇宮から離れた施設の外側に位置する部署を訪れた、文明圏外国の、いわゆる蛮国の国の役人からの一言から始まった

 

「すみません!なんとしても局長様と!大列強国たるパーパルディア皇国の第3局長様とお会わせくださいませ!」

 

床に額をすり付けながら、大日本帝国という名の文明圏外の役人は、必死に叫んでいた

相手が列強パーパルディアである事は当然として、へりくだるもへりくだる。地に両足を着けて頼み込んでくる様は異種異様なまでに目立っていた

自然、第3外務局内の局員の目は、その男に集まる

第3外務局だけではない

局内にいる人間の全ての目が、その男に集まっていた

大日本と同じ文明圏外国の人間の目から、皇国人、局員の

果ては偶々第3外務局を訪問していた第1外務局、皇宮の内部に位置し、文明圏の五大列強国のみを相手として外交を行う。高度な政治判断を求められるエリート中のエリートで構成される部局の人間の目すらも

 

「ち、ちょっとあなたねえ、しばらくお待ち下さいと言っているでしょう!如何にあなた方、ええっと……大日本帝国ですか?」

「そうです!」

「文明圏外の国の癖に大日本帝国などという大層な国名とは……ああ、失礼。列強たる我がパーパルディアへの外交団の訪問を認めてもらいたいでしたか?だとしてもね、順序というものがあるんです。まあ、外交使節としてのあなたの我が国への態度は指摘するまでもなく100点満点なのですが」

 

叫び、膝を着いたりしていては、エリート部局の人間の目と耳も、相応に引かれるわけである

 

「待て。120点だな」

 

そんな中、顕著に反応を見せたのは

 

「その見上げた平伏外交っぷりは大した様になっている。聞こうか用件を」

 

頭に金のサークレットを戴いている、20代後半くらいの美しい銀髪の女性だった。

 

「は、ははぁっ、失礼ですがどちら様で御座いましょうか?」

 

大日本の役人は、唐突に掛けられた声に、目を見開いている

 

「外務局監査室のレミールだ。第3外務局の局長より上の権限を持っている」

 

パーパルディア外務局監査室。外務局の不正が判明した時、或いは相手国への対応に不手際が発生した場合を考え、設置された組織である

いわばパーパルディア外務局の本当の意味でのトップ。監査室の人員は全てパーパルディアの皇族で構成されている

彼女はつまりパーパルディア皇族である

彼女の名と外務局監査室という部署名を耳にした大日本の役人は、ピンと背筋を伸ばして、恭しく頭を垂れた

 

「こ、これはっ?!パーパルディアの御皇族の方とは存ぜず、非礼をば!平に、平に御容赦ください!」

「ふむ。まあ、知らぬのは当然であろう。なにせ未だ国交も結んでいない程度の文明圏外国の人間なのだからな。その程度の非礼を許さぬほどに私は狭量ではない。頭をあげよ」

「ははーっ」

 

下げていた頭を斜め45°まであげて、もう一度確認するように日本の役人は止まる

 

「構わん。頭をあげろ」

「はっ」

 

促されるままに頭をあげた男

 

「お前、名は?」

「はっ、大日本帝国外務省の朝田で御座います。麗しきレミール殿下とのご拝謁に賜り、深く御礼申し上げます」

 

眼鏡をかけ、ピシッと決まった髪型の、いわゆるイケメンな朝田が頭を下げた前の勢いのままに一礼する

それがレミールの高いプライドを擽る

 

「ここでは話も出来んな。場所を移そう」

 

日本の外務省職員、朝田は、レミールや彼女の護衛たちと共に別館へと移動する

 

「素晴らしい場所ですね。柱の一本一本まで繊細な彫刻がなされていて、なんというか、圧巻です」

「我が国は列強だからな。列強とは見栄えも良くなければならない。お前たち文明圏外国の人間では分からぬかも知れないが」

「はい。勉強させて頂きますレミール殿下」

 

広い廊下に、大理石の床を叩く靴音だけが響く中、日本の役人はただただへりくだり、レミールはただただ普通の、いやかなり優しい対応をしていた

やがて二つ角を曲がり、重厚な扉の前へと辿り着く

すると、レミールの両脇に控えていた護衛が、その扉を開き、彼女と共に部屋の中へと入っていった

 

「構わん朝田、お前も入れ」

「はっ、レミール様。それでは失礼致します」

 

 

 

入室したところで立ち止まり、再びの一礼を返す朝田に、レミールは日本の要望を聞き出した

 

「つまるところ、ニッポンは我がパーパルディア皇国との国交開設のための使節団を送りたい。その際に誤認を防ぐために我が国領内での一度限りの礼砲を上げたいと。その礼砲を我が国に捧げたいと、そう言うのだな?」

「はい。どうかせめて我が国の使節団を乗せた"船団"だけは、領海内に入ることをお許しください」

 

他国の艦隊、いやさ船団が領海に入る

これを良しとする国は列強以外にはない

いや、列強から見れば文明圏外国の艦隊など艦隊ではなく所詮どこまでいっても船団にすぎない

そのような貧弱なる船団、艦隊の受け入れ程度ならばいつでも可能だ。列強とは、それだけ強大なる国なのだから

無論、同じ列強国のムーやミリシアル帝国が艦隊を送るというのならば、万難を廃して迎え入れ、また万が一の対策に備え準備もしよう

しかし、文明圏外国の船団ならば、了承を得た上でならば領海に入ることなど目をつむろうというものだ

文明圏外国が何をたくらもうが、列強パーパルディアの海軍は150門級戦列艦3隻を初めとした数百隻からの大艦隊を持つ

だから、だからレミールは目をつむったのだ

 

「いきなり来て船団を領海に通せとは随分と舐めた口を叩いてくれるものだが、まあよかろう。お前のその私を前にしても怯まぬ度胸と、ニッポンの大した平伏外交振りに特別に許可をやろう。以後のニッポン担当も私がしてやる。安心するがよい」

「ははっ!レミール殿下の御采配にはなんと感謝を申し上げてよいか……!」

「ふふっ、本来ならあり得ぬ事なのだぞ?私の口添え有ればこそだということだけは肝に命じておけ。後々のニッポン側の担当も朝田、お前が務めよ。よもや否やはあるまいな?」

「無論で御座いますレミール様!私朝田はパーパルディア皇国の繁栄と日本との恒久的平和をお祈りしております!」

 

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