小さな幸せ5
同刻皇宮パラディス城 王の間
重臣たちが平伏する大広間は静まり返っていた。誰もが口を開くことを恐れている。口を開くことで、ある文明圏外国の名が否応なしに出されるからだ
これを受け取る若干27歳の若き覇王、ルディアス皇帝の怒りを買ってしまわないかと
「どういうことだ」
誰もが口を紡ぐ中で、覇王だけが口を開く
「いったいどういうことなのだッ。蛮国が、魔法も使えぬ文明圏外の蛮族風情がなぜあのような古の魔法帝国の伝説に出てくるような空中戦艦を率いて我がパラディス城を見下ろしているのだッ」
それは皆が聞きたいところだった。なぜ彼の国、レミールが執心している国日本が、あのような物を保有し、運用しているのか
誰にもわからないことなのだ。レミールや第1外務局、監査室の一部の人間だけが日本の危険性についていち早く気付き、警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、誰もが一笑に付して耳を貸さなかったのだから
その筆頭が自身の覇道を進みゆくこの若き皇帝なのだ
今さらになり怒りの声をあげられても、こちらの話を右から左に流していたのは陛下御自身、だとは、第1外務局局長のエルトも口にできなかった
陛下の怒りを買えば死罪もある事をよく知っていたから何も言えず黙り込むより他なかったのだ
「あの中天の砲撃は何なのだ?!如何様なる巨砲を使わば、如何なる極大魔法を使わば、あのような水柱を作り上げることがかなうのか?!」
知らない、わからない、どれだけ怒りの声を浴びせられても誰にも答えられない
「今までのレミールの発言からして、第1外務局と監査室はこの事を知っていたのか?」
この場にレミールはいない。代わりに第1外務局局長エルトがいる
皇帝よりの詰問に身を震わせ、滴となって流れ落ちるほどの汗を浮かべながらエルトは答えた
「い、いえ陛下。彼の国、日本の事について監査室も第1外務局も、多くを預かり知りません。幾つか判明していることは、日本は文明圏外の国でありながらも、彼のムーを遥かに超越した超機械文明国だということだけで御座います。軍事力などの詳細につきましても本日、エストシラント沖を偵察していた竜騎士と、日本外交官朝田よりの今日になっての情報開示によりようやく掴めたことで御座いまして」
「それでは、日本との交渉を自分預かりとしながら、明確なる情報をレミールは掴めていなかったということだな?あの砲撃を放ったであろう沖合いの戦艦のことも、空中戦艦のことも、鉄のゴーレムのことも」
「は、はい、私もレミール様も、そこまでの情報は…」
エルトが顔を伏せた。ルディアスの鋭い眼光がエルトに向けられている
あの目が自分に向けられはしないかと皆が戦々恐々とするなか、ルディアスの声だけが響く。怒りが少しは覚めた、冷静な声であった
「怠慢だな。完全なる驕りだ。レミールを呼び出せ」
「な、なりません、レミール様には日本との交渉が控えております故に、」
「エルトよ、日本を恐れているのか?」
「あ…、」
見透かされている。無理もない。あの砲撃を目の当たりにして恐怖を覚えない者など居はしないだろうに。ルディアス皇帝も内心では口惜しさと共に恐怖も覚えているのではないのだろうかと、エルトは考えた
「ふむ、わからぬでもない。あのこちらを見下し来る忌々しい空中戦艦や、中天の砲撃を目にした以上は恐れも抱こう」
やはり、恐れているようだ。だが、ルディアスは何も恐ればかりを抱いていたわけではなかった
「だがよくよく考えてもみよ。それだけの戦力が、我が皇国を圧倒するだけの戦力が本当にあるというのならば、今まで無名であったはずがない。竜騎士の詳しい報告はどうなっている」
僅かに入った情報を整理する余裕もまた持ち合わせていたのだ。さすがはこのパーパルディアを一代で強大化させてきた男と言える
「は、はっ、全長200mあまりの空中戦艦と体長5mほどの鉄のゴーレムの他には、巨大な砲を備えた300mを超える巨艦の姿と、砲を1門のみ搭載したムーのラ・カサミクラスを越える大きな船体を持つ100隻ほどの鋼鉄艦に、砲の無い多数の鉄の軍船、巨大な竜母と思わしき十数隻の船がエストシラント沖合いに停泊中とのことに御座います。その他、ムーのマリンのようでいてマリンとは比較にもならない恐るべき速度の飛行機械の存在もあると」
「……それだ、巨砲を持つ戦艦や飛行機械はともかくとして、1門しか砲を持たぬ軍艦など大した戦力にもならぬ。軍艦の力は砲数が物を言う、我が国には1000隻に近い艦隊がある。これを一息にぶつければ、物量戦を仕掛ければ、いかなる戦艦であれひとたまりもあるまい。それを恐れて日本艦隊は沖合いで停泊しているのではないのか?エストシラントには600隻からの艦隊が控えているのだからな。飛行機械にしてもその速度は最高速度430㎞を出すワイバーンオーバーロードを僅かに上回る程度やもしれぬ。その程度ならばさしたる脅威であるとも思えぬがどうだ。空中戦艦や巨大戦艦にも戦列艦郡、ワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードの波状攻撃を加えれば持ちこたえられるとは思えぬ、ゴーレムなどは僅か5m足らず。竜騎士隊の敵ではあるまい。なにを必要以上の恐れを抱く必要があろうか。それでも万が一を考えるのならば、試してやればよい」
「試すとは?」
「我が国との国交を開設したくば力を示せとまずは言うのだ」
「ま、まさか、日本と戦争を?」
「違う。戦争ではなく、廃船処分を任せるのだ。ちょうど新型艦艇と旧式艦艇との入れ換えで100隻ほどの余剰艦が出る。まだまだ使える余地もあるゆえに、他国に売却する予定であったそれらを日本に処分させるのだ。その際に日本の力を確かめる。レミールに伝えよ、日本との交渉においてはその事を念頭に入れて当たれと。それで、断るようなら見かけ倒しだろう、大した力も持たぬただの文明圏外国だと判明すれば、要求いかんによっては即開戦し」
教育的外交、いつものように徹底した躾を行うのみだ
*
「しかし、貴国の港は壮観の一言でしたね。私は生まれてよりこの方、あれ程までの隻数の戦列艦は見たことがありませんでしたよ」
「我が国が誇る魔導戦列艦隊ですよ。第三文明圏であれだけの艦隊を常備できるのは我がパーパルディア皇国だけですので」
馬車で移動しながら、窓の外に見える港の景色を眺めていた日本使節団団長の澤崎淳は、幾度目かとなる感嘆の声をあげていた
続くように、日本の財務担当官だという丸眼鏡の男が応じていた
「ええ、まさに圧巻でした。数百隻からの戦列艦がひしめき合う姿は。第三文明圏の雄として相応しい軍事力の象徴と言えるでしょう。19世紀初頭のブリタニアほどとは申しませんが、同時期のブリタニアと戦うことはできるほどの戦力でしょう」
外交官の朝田も答える
「1会戦、いえ、2会戦か3会戦は行けそうですよ。19世紀初頭のブリタニアとはいえ、あのブリタニアを相手に3会戦可能な軍事力などそうそうお目にかかれるものではありませんからね」
あのブリタニアと3会戦可能な軍事力?
日本の外交官たちが話す内容にカイオスは目を剥いてしまった
エストシラント港には600隻からの軍艦が待機しているのだぞ。それらを全て出して、たったの3会戦だと?
しかも話ぶりからして、パーパルディアが負けるような話ぶりだ。あり得ない。そんな事、ムーやミリシアルでもない限り
それにブリタニア?日本ではなくブリタニア?
「お話に名の上がったブリタニアとは?」
軽くした質問に、そういえばその名を何処かで聞いたような気がするとカイオスは思った
そう、あれは、ムーの大使とすれ違ったときに…
質問をしておきながら、物思いに耽りそうになったカイオスに、澤崎団長が話しかけてくる
「太古の昔に我が国と袂を分かった、血を分けた兄弟国ですよ。いや、貴国の港湾を埋め尽くしていた皇国海軍の偉容はまさに第三文明圏最強に相応しく、ふと昔のブリタニアを思い出してしまったのです。とは言いましても、今や歴史の教科書に記載されている過去の話、200年ほど昔の話なので直接見たわけではありませんがね」
…なに?
…いま、なんといった?
澤崎団長はなんといった?
カイオスは耳に入れた情報を頭の中で整理し直す
過去のこと、200年ほど過去ならば、我がパーパルディアは、そのブリタニアなる国と僅かながらに戦えたという
それだけでも強大なる国であることが窺える。信じがたいが、ブリタニアなる国はパーパルディアを上回る国力を"持っていた"のだ
では、今はどうだというのだ?
「彼の国は無尽蔵とも言える国力をお持ちでしてね、80年ほど前に、我が国はそのブリタニアと互いの命運をかけて戦いましたが、やはり勝てませんでした。太平洋戦争と呼ばれる大きな犠牲を払った末に1年間も続いた無為な戦争の勝敗は、五分の引き分けに終わり、そのまま終戦を迎えました。以後ブリタニアとは短期間を険悪な時期として過ごしましたが、今では背を預け合う最も重要な同盟国となっています」
「……は、はは、それは、貴国も大変な歴史を歩まれてきたのですな、大東洋にはまだ見ぬ国があるのですな……」
カイオスの顔がひきつる。大東洋にそんな国はない。あるのはどこまでも続く恐ろしく広大な終わりなき大海原だけのはずだ
それが、現実には大日本帝国やブリタニアというような国が存在し、日本はそのブリタニアなる200年前にはすでにパーパルディアを超えていた大国と、80年も昔に戦い、引き分けたという
そんな話は聞いたことがない、しかし現実に日本は存在している。だが、200年もの昔にパーパルディアを超えていたという国と引き分けた日本は、では今はどうなっているのだ
大日本帝国の技術水準は最低でも我がパーパルディアの200年先を行き、かつての日本もかつての日本で、パーパルディアが足元にも及ばない国力を誇っていたのではなかろうか?
ぞわり、背中に汗が浮かび上がる
港で見た空中戦艦と、KMFという鉄のゴーレムのような戦闘兵器。エストシラント沖に停泊中という鋼鉄の艦隊や、音の速さを凌駕する飛行機械
自分はあの港で見た空中戦艦とKMFを日本軍の一部だと思っていたが、沖合いで停泊している鋼鉄の艦隊もまた日本軍全体のごく一部なのではないのだろうか
思えば、日本の事は何も知らない。自分よりかは知っているだろうレミールでさえその詳細については情報開示されていないために知らなかったはずだ
第1外務局も何もつかめてはいないはず
ますますもって日本という国の不気味さが増していく
いま、触りを明かされた範囲での話が真実であると仮定して、日本はブリタニアという国と共に大東洋に存在する
技術水準の最低ラインが皇国の200年先にある
200年前にはすでにパーパルディアよりも強大であった国と80年前に引き分けている
……駄目だ、考えたところでとても理解できない
日本がとてつもない科学技術大国らしいということだけはわかったが…。まあ、焦らずともレミールが取り仕切る交渉で全貌は明かされるだろう
そして、いまの話を聞いて他にわかったことが一つ
日本は意図的に自国の情報を隠していたのだ
パーパルディアとの国交開設交渉を取り付けるために、その権限を持つ誰かと懇意となり国交締結への道筋をつけるためだけに、遥か格下のパーパルディアに土下座したのだ
そして見事パーパルディア皇族レミールという強い権限を持つ人間との接触に成功した
始めから、あの地に頭を擦り付ける無様な交渉の仕方から計算ずくだったわけである
カイオスは思う
なんと強かで油断ならない国であろうかと
格下への土下座。それはパーパルディアの気質を調べあげていたから行ったのだ。文明圏外国と見なせば蛮国として見下し、まともに相手をしない国だとの事前情報を得ていた上で、それでも平和的に国交を結ぶため、外務局で噂になるほどの恥も外聞もない交渉をしてきたのだ
そしていま、それを止めるときが訪れた
港で感じたそれはもう普通の姿であった。いつもレミールに頭を下げていた平身低頭だった朝田の姿は、普通の外交官の姿にたち戻っていた
我慢の時は終わりだと言わんばかりに
外交官は強かでないと務まらないが、朝田は見事日本の意向に沿うよう自分の仕事を努めあげたのだ
レミールとの個人的な友好もあると聞き及んでいたが、それは朝田にとっても想定外であったのだろう
一友人として接することのできる相手があの傲慢で冷酷なレミールにできるとは思わなかった
それも良い意味で日パ外交のプラスとして働いている
朝田とレミールが個人的に親しくなっている以上は、レミールもルディアス皇帝の意思に沿った無茶を日本に対してしたりはしない
それどころか、自らが日本についてのことを知ろうと積極的に動くほどなのだ
その上で、日本への対応を考えたに違いない
ルディアス皇帝の意向に逆らってまで
これらを仕掛けたのは誰かと考えるカイオスは、ふと日本財務担当官に目をやった
丸い眼鏡をかけた、表情の乏しい素朴な男だ
威張るでも居丈高になることも、へりくだることもなく、ただ、VTOLよりパーパルディアの地に降り立ったときから一切態度を変えない、感情を図りがたい男
澤崎団長は明らかにこの財務担当官の男に気を使っている
もしかしたら、この財務担当官という男は官房長官である澤崎団長よりも上位の立場にある人間なのでは
いや、考えても仕方のないことだ。思考を切り上げるカイオスは、間も無く到着する皇宮で待つレミールと共に、日本との交渉を何としても成功させなければと決意を新たにしていた
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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