帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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32 :帝都の休日 第3話:2012/12/29(土) 19:11:40
いつの間にかギアススレが出来てたようなのでこちらに投下します

提督たちの憂鬱とギアスクロス
嶋田さん独身設定
嶋田さんロマンス
平和その物
性格改変注意
改訂版2話の続き



帝都の休日 第3話

 

 

 

 

 帝都の休日 第3話

 

 

 

「ここに来るのも久しぶりだな」

 

 かつて自身が仕事をしていた場所である総理官邸。

 

 もう5年以上も前にここで書類の山と死闘を演じていたのも今となっては良い思い出だと振り返る元総理の名は嶋田繁太郎。

 

「そうですねぇ。我々の青春の舞台でしたからねぇ」

 

「いいえ、それだけは断固違うと言っておきます!」

 

 辛いなりにいい思い出といっても決して青春とは言えない毎日だった。

 

 元より彼が目指していたのは前世、前々世と同じく平穏無事で静かな日々。

 

 望んでいるのと全く違う人生を青春とは言わない。というか言いたくない。

 

 それに減ったと言っても書類から完全に逃げられたわけでもないため、彼の青春はもう少し先になりそうであった。

 

「平穏で静かな老後が貴方にとっての青春ですか。前から思ってましたが何だか世捨て人みたいですねぇ」

 

「ほっといてくださいっ!」

 

 二度の人生を終え三度目になるというのに未だ叶えられぬ理想郷目指して今日も頑張るのだ。

 

「二度目がダメなら三度目もダメっていうでしょう。いい加減諦めたらどうですか?」

 

「三度目がダメなら四度目です! 私の夢に終わりはないんです!」

 

 これ以上この手の論議をしていても平行線を辿るだけ。

 

 それこそ前世で何度も遣り取りしてきて決着を見ないのだからもう無理だ。

 

「ま、要するに人は簡単には変わらないってことですか」

 

「そうです。次もそのまた次も平穏で静かな人生目指して歩きますよ」

 

 散々問答をしていた今や嶋田の相棒とでも言うべき存在、辻正信はそこで言葉を切り話題を変えることにした。

 

 同じく嶋田からも話題を変えようと口を開いた。

 

「しかし枢木さんも態々引退した私たちに旧年世話になりましたの挨拶もないでしょう? 別に何もお手伝いしてないんですから」

 

「つまりそれが次代の方々や我々の存在を知る人達の認識ということなのでしょう」

 

 巷で囁かれている噂があった。

 

 曰くこの大日本帝国には表の政治を司る為政者とは全く別の闇の支配者が存在する。

 

 その闇の支配者達こそが真なる絶対権力者であり、表にいる政治家達を動かしている。

 

 そんな荒唐無稽な噂だ。

 

「三流ゴシップ紙の読み過ぎですよ。我々は自分たちに出来る範囲でこの国を豊かにしようと頑張っただけなのですが」

 

「それでも急速な発展が奇跡みたいに思えたのでしょうね。そしてそんなことが出来るのは超越的な力を持った闇の権力みたいに感じたのでは?」

 

 それを成し遂げた前世代以前の政治家や技術者、経営者達こそがその闇の支配者で、表舞台から姿を消した今でも各界に絶大な影響力を持ち操っていると。

 

 そのせいか夢幻会の存在をある程度知っている現首相の枢木ゲンブですら自分たちとは違う存在みたいに見ているふしがある。

 

「転生者という意味では違うのかも知れませんが……」

 

「諦めましょう。前世でも散々言われてたじゃないですか」

 

「辻さんみたいに開き直れないんですよ。何せご存じの通り中身は小市民なんですから」

 

 とにかくそんな訳で挨拶に来るという枢木首相に「総理にそんなことはさせられない」と自分たちから出向いたわけである。

 

 

 

 *

 

 

 

 応接室に通された二人は備え付けのソファに座って待っていた。

 

 なんでもブリタニアの外交官の急な訪問に話が長引いているとのことだ。

 

 案内した人間にそちらを優先して欲しいからと伝えて待つことにした二人はまた先ほどの続きを話していた。

 

「山本のところにも来たようですよ軍関係者が」

 

「難儀な話ですねぇ。皆それぞれ隠居生活を始めているというのに」

 

「辻さん私の隠居生活は?」

 

「今暫くのお預けとさせて頂きます。とりあえずは年末年始の大型連休で我慢してください」

 

「はぁぁぁ、わかりましたよ……」

 

 待つこと十分。

 

「会談なら1時間くらい遅れるかも知れませんね」

 

「別に良いでしょう。どうせ御自宅に帰られてもこたつに入ってこたつむりなんですから」

 

「よく分かりますね」

 

「寒いですから。ああ、良ければこれ舐めます?」

 

 そう言って辻が差し出したのは四角く平べったい缶だった。

 

 表面には色とりどりのキャンデーの絵が描かれたそれは。

 

「トクマ式ドロップス……また懐かしい物を」

 

 昭和の子ども達がよく口にしていたカラフルな飴が詰まったお菓子。

 

 今でも普通に売られていて小さい子などが買って食べているそれは前世でもその前でも食べたことがある。

 

「どうせ辻さんの事だからただのドロップじゃないんでしょうけど」

 

 彼が出した以上ただの飴でないことは分かるという物。

 

 だが進めてくるぐらいだから悪い物ではないのだろう。

 

「ご明察。実はこのドロップ、激務に疲れている人達の要望で試験的に作った物です」

 

 なんでも仕事仕事で夢の内容まで仕事になるからせめて良い夢が見たいという声に応えて夢幻会メンバーの研究者が作った物らしい。

 

「例えば宝くじが当たったらいいなとか、こういう人生だったらよかったのにとか思う事ってありますよね? それら有り得たかも知れないことを夢という形で見せてくれるという素晴らしい飴なんです」

 

「怪しさ満点ですね……」

 

「まあ違う人生、それも願望や夢が叶ったという世界を垣間見られると考えてくれればいいんです」

 

「ということは、私が見る夢の場合は平穏で静かな老後を送っている夢ですか?」

 

「おそらく。持続時間はせいぜい五時間くらいでその間に睡眠を取ればいい夢を見られますよ。但し人によっては効果無しなのでご注意ください」

 

「人によってはただの飴か」

 

 怪しいさ抜群ではあった物の辻も試したというので食べてみる。

 

 彼が食べた飴の色はピンク色。何となく彼女の髪の色を思い出したのでそれを選んだのだ。

 

「ん~、甘いですね~」

 

「飴ですから。あっ、私はちょっと失礼しますよ」

 

「どうしました?」

 

「お手洗いです……寒くなると近くなって困ります」

 

 

 

 辻がトイレに行ってしまったことで話す相手が居なくなった嶋田は、うつらうつらと船をこぎ始めた。

 

 飴に睡眠効果は無いのだがこの部屋の室温が丁度いい具合に眠気を誘ってくるのだ。

 

「う~んダメだ……人を待ってて寝ては……」

 

 襲い来る眠気に抗うも暖かい部屋の空気は彼の意識を夢の世界へ導いていく。

 

 睡魔と闘うこと数分、やがて抗いきれなくなった彼はソファに座ったまま頭を垂れるようにして静かな寝息を立て始めた…………。

 

 

 

 *

 

 

 

(う、ぅぅ……なんだ、ここ……?)

 

 嶋田が気付くとそこはなにやら霞がかったもやの中だった。

 

 周りには何もないどこまでも続くもやもや。

 

 歩こうとしても脚が思うように動かず、ビデオのコマ送りのようにゆっくりとしたスピードになってしまう。

 

 当然ながら走れもしない。身体が全く言うことを聞かないのだ。

 

(どう……なってるんだ?)

 

 自分が何故此処に居るのか? ここが何処なのか彼は全く分からない。

 

 夢というのは基本見ている本人にはそれが夢だと分からないもの。

 

 例外的に気付くことはあれどこの時の彼は気付かなかった。

 

 そんな何も状況が分からない彼が自分では走っているつもりでも実際はスローモーションの動きで歩き続けていたところ、急に視界が開けた。

 

(なんだ?)

 

 上を見上げると青い空が広がり、周りを見渡せば西洋風の建物と屋台が見える。

 

 何かお祭りをしているようで庭らしき場所にはあちこちに飾り付けがされていた。

 

(これは……学校……学園祭か……)

 

 薄い黄色の制服を着た女子高生や上下黒一色の制服を着た男子高生が友達同士、また男女のカップルと連れだって楽しそうに歩いている。

 

(あの制服は)

 

 見たことのある制服だった。

 

 友人の息子さんや娘さん、その友人達が着ていた制服と同じ物だ。

 

(じゃあここはアッシュフォード学園か)

 

 彼らが通うブリタニアの名門アッシュフォード家が経営する私立校。

 

 どうやらその学園祭のようだった。

 

(しかしなんだって此処に自分が来てるんだろう?)

 

 もやの中にいたと思えばアッシュフォード学院に。

 

 訳が分からず戸惑う嶋田だったが周りの賑やかな風景にふと遠い昔、学生だった頃を思い出してお祭り気分に浸ろうと歩き始めた。

 

 不思議なことにもやの中を歩いていた時とは違い普通の速度で歩けている。

 

 これは助かる。色々見て回りたいのにあの速度ではとても全てを見られない。

 

 そう思った彼が立ち並んでいる模擬店の間を心躍らせながら歩き見て回っていると何処かで聞いたような柔らかく、それでいて強い決意を感じさせる大きな声が聞こえてきた。

 

 

 

 ──神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアです──

 

 それは最近になって彼の日常の一部となった心優しい少女の声。

 

 時々家に遊びに来たり、友人宅に言ったときに顔を合わせたり、はたまた二人きりで出掛けたりする歳の離れた仲良しの少女の声だった。

 

 ──今日はわたくしからこのエリアに住む皆様にお伝えしたいことがあります──

 

(はて? エリアとは何だろうか?)

 

 ──わたくしユーフェミア・リ・ブリタニアはフジ山周辺に行政特区日本を設立することをここに宣言致しますっ! ──

 

(行政特区日本? ひょっとしてこれは……コードギアス……?)

 

 先ほどから彼女の口より飛び出す聞き慣れない単語。

 

 それを聞いて漸く思い出したのは嶋田繁太郎が神崎博之として生きていた頃の原初の記憶の中にある物語の名前。

 

 三度目の人生を送る今の世界はその物語によく似た世界なのだ。

 

 だからこそ彼はユーフェミアを知っていた。

 

 だが同時に物語の名前とSF戦争物という部分しか知らない彼には内容までは分からない。

 

 どういう人物が出てきてどういう物語を紡いでいくのか。

 

 せいぜいが日本はブリタニアと戦争になって負けたらしいということを知っているくらいだ。

 

 ──この行政特区日本ではイレヴンは日本人という名前を取り戻すことが出来ます。イレヴンの規制、ならびにブリタニア人の特権は特区日本には存在しません! 

 

 ブリタニア人にとってもイレヴンにとっても平等な世界なのです!! ──

 

 これはまたとんでもないことを言いだした物だと彼は思った。

 

 聞いたところ占領された日本人はかなり不平等な環境に置かれているのだろう。

 

 それこそ前世界での元アメリカ人や大日本帝国とその勢力圏以外の有色人種達のように。

 

 これはそういう体制なのだから仕方がないし、これを聞いたところで思うこともない。

 

 世界とは、国とはそういう物なのだから。

 

 だが今ユーフェミアが言ったことはその世界、国への挑戦とも取れる言葉だ。

 

 下手をすれば国家反逆罪物の危険な一言。

 

 それをいとも容易く言ってのけたのだ。

 

(はは、凄いじゃないかユフィ)

 

 嶋田はそんな彼女に賞賛の言葉を贈る。

 

 誰もが口に出来るわけではない言葉を言ってくれた彼女の強さに……

 

(ん……? なんだ?)

 

 そんな彼女の勇姿を見てやろうと声のする方へと歩き出したとき、急に辺りがもやに包まれて何も聞こえなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 折角の彼女の勇姿を見られなかった嶋田が悔しそうにしていると、またもやが晴れて視界が明るくなった。

 

 視界に映るのは広い何処かの競技場を思わせる場所。

 

 おそらく普段は何らかのスポーツなどが行われているのだろうそこには大きな舞台と数多くの兵士、儀仗兵の姿。

 

 スタンドの観客席には明らかに日本人と思われる人達が所狭しと詰めており、空いている席を探すのが不可能と思われるほどの満席だった。

 

(ここは何かの式典会場か?)

 

 それらを一通り見渡した嶋田は舞台の中央、貴賓席と思わしき席に目を向ける。

 

 顔に傷のある強面の男や古くから政治を動かしていそうな老人など、高そうな地位にある人達が顔を連ねる中に彼女の姿はあった。

 

(ユフィ……ドレス姿か……。似合ってるなぁ)

 

 鳥の羽を連想させる薄いピンク色の生地と、その下にある純白の生地の二つの色で作られた社交界にでも出てきそうなドレスを着たユーフェミア。

 

 西洋文化を持つ帝国の皇族なのだから普段はこんな服を着ているのだろうか? 

 

 生憎と私服とタイトスカートの公務服姿しか見たことがない。

 

(初めて見るな。いや、馬子にも衣装と言うけど本当に綺麗だ)

 

 本人が聞いたら怒りそうな感想を抱く彼は、これこそがユーフェミアの提唱する行政特区日本の式典会場なのだなと思った。

 

 数多くのざわめきと雑音に一切の声は聞こえなかったが体制への挑戦第一歩にしては上出来だ。

 

(おめでとうユフィ……)

 

 そしてこれから始まる式典を特等席で見てやろうと舞台中央に向けて歩き出すと──

 

(おい! いいかげんにしろよ!!)

 

 再度もやが掛かって彼の歩みは邪魔されてしまった……。

 

 

 

 *

 

 

 

 そのもやもまた直ぐに晴れたが今度は今までと違いユーフェミアの顔がアップで映り、それ以外の全ては霞に包まれたままというおかしな光景だった。

 

(おいおい、ずいぶんと顔色が悪いじゃないか)

 

 アップになったユーフェミアの顔は心なしか青白くなっており、薄い紫の瞳の目の下にはうっすら隈が出来ている。

 

 これは彼自身何度も見たことがある顔だ。

 

(仕事のしすぎだよ……)

 

 そう三徹四徹をした日によく見る表情。

 

 自分の顔だけではなく何人も見てきたし、現在進行形で見ている死ぬんじゃないかと思うくらい生気のない顔。

 

 どうやら誰かと話をしているらしいが相手の声は全く聞こえない。

 

 彼女の声も良く聞き取れなかったが辛うじて聞こえた部分もあった。

 

 ……式典は……どうなりましたか……? 

 

 

 

 ……日本人の皆さんは……喜んでくれた……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “私は……上手く出来た……? ”

 

 

 

 

 

 消え入りそうな小さな声で呟くように言う彼女はもう披露で限界なのだろう。

 

 頑張りすぎはよくない。早く寝た方が良い。そう考える彼だったがどういう訳かどの場面でも声が届かないし誰も自分の存在に気付かないのだ。

 

 だが辻の話ではこうと決めたその一点に於いてはどこまでも頑固だと聞いていたし、知り合ってからそんなに長くはなくとも(そうだろうな)と思う場面は何度か見ている。

 

 だからこの際聞こえなくてもいい。

 

 話をしている誰かが伝えてくれるだろう。

 

 そんなことを考えながらも呟いていた。

 

「行政特区日本は……君の夢の第一歩は大成功だったよ」

 

 式典に詰めかけた超満員の観客はみんな笑顔だった。

 

 多分それを見ることなく過労で倒れてしまったのだろう。

 

(みんなの笑顔、君も見れたら良かったのになぁ)

 

 その笑顔だけできっと元気になれるはずだ。

 

 人が幸せなのを心から喜べる優しい君ならばきっと。

 

 ……よかった…………

 

 安心したように小さく呟いた彼女はまだ何かを話しているようだったが生憎とここで声が聞こえなくなった。

 

 話をしている相手は相変わらず誰だか分からない物の、こんな疲労困憊な彼女の側に付いているくらいだから余程親しい人物なのだろう。

 

 お姉さんのコーネリア皇女かもしれない。または腹違いの兄妹であるルルーシュ君やナナリーさんかも知れない。

 

(ひょっとしたら恋人かな?)

 

 だとしたらこれから大変だぞ恋人君。

 

 姿の見えない恋人かも知れない人にエールを送る嶋田。

 

 ふと彼女を見るとこちらに、いや大切な誰かに向けて手を伸ばしている。

 

 その手を握るのは男らしい手だ。やはり恋人なのかも知れない。

 

 そしてほんのひととき手を握り、大切な人と言葉を交わした彼女は──行政特区の成功が余程嬉しかったのか。

 

 

 

 

 

 一筋の涙を流して……。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと目を閉じた……。

 

 

 

 *

 

 

 

「ん……? んん~っ」

 

 もやに包まれて気が付くと思い切り頭を下げた体勢だった。

 

 自分の膝が視界一杯に映っているので間違いないだろう。

 

「うう~んっ、すっかり寝入ってたみたいだな……」

 

 嶋田は前屈みに折り曲げていた身体を背伸びをするように伸ばしてほぐす。

 

「おや? お目覚めですか?」

 

 ふと隣を見ると先ほどお手洗いに行くと言って出て行った辻が本を片手に座っていた。

 

 まあトイレに行ってただけなのでもう戻っていても不思議ではないが。

 

「すみません、寝るつもりは無かったんですがこの部屋丁度いい具合に寝やすい温度なので」

 

「別に寝ててもいいですよ。枢木総理が来たら起こしますから」

 

「いえ、もう目が冴えて逆に眠れそうにないです」

 

「それならいいのですが」

 

 時計を見るとこの部屋に入ってそろそろ四十分といったところだった。

 

「ところでどうでした? いい夢見れましたか?」

 

 辻は嶋田が食べたドロップの感想を求める。

 

「ええまあ。ただ自分の夢ではなく人の夢でしたが」

 

「人の夢? (そんな効果ないんですけどね……副作用でしょうか?)」

 

「ええ。ほらユフィ……ああ、ユーフェミア殿下の夢でした」

 

 愛称で呼びかけて慌てて言い直した彼だったが辻が自分たちがユフィ、シゲタロウと呼び合っているのを既に知っていることを思い出してバツの悪い顔になる。

 

「構いませんよ普段の呼び方で。大切な御友人なんですから(口付け交わして意識し合ってるのも知ってはいるのですが……馬に蹴られたくありませんからね)」

 

「は、はぁ」

 

「で、ユーフェミア殿下がどうされたのです?」

 

「え、ああ。それですが見た夢というのがおそらく『コードギアス』に極めて近い内容の夢でしてね」

 

「ギアスにですか」

 

「ええ。それでまあ体制に挑戦するようなこと、行政特区日本なんてものを完成させてしまったんですよ」

 

「行政特区日本……」

 

「彼女自身は式典の最中に多分過労で倒れたのでしょう。最後の場面では目の下に隈作って顔色悪くして必死に睡魔と闘ってる様子でしたが。いや、無茶しすぎです」

 

「……」

 

 嶋田がそこまで夢の内容を語ったとき辻は黙り込んでしまった。

 

 彼は何か自分は気に触ることでも言ったのだろうかと不安になる。

 

 だが思い当たるふしはない。ただユフィの“幸せな夢”の内容を語っただけなのだから。

 

 口を閉ざした後は何もしゃべらなくなってしまった辻に居心地の悪くなった嶋田は天にも祈るような気持ちで待ち人を呼んだ。

 

(な、なんか空気悪くなっちゃったよ、頼みます枢木さん早く来てくださいっ)

 

 そんな彼の思いが天に通じたのか応接室の重厚な扉が外側から開かれた。

 

 

 

 *

 

 

 

 入って来たのは大柄の厳つい雰囲気を持った男。

 

 現大日本帝国宰相、枢木ゲンブである。

 

「嶋田さん、辻さん、お待たせして申し訳ない」

 

「仕事の方が最優先ですからね。お忙しいようですからまた後日に伺おうかと思ってました」

 

「いや、もう終わりましたので大丈夫ですよ。実はブリタニアの外交担当者に大使補佐の皇族の方が同行されておりまして、それで話が長くなってしまったのです」

 

「大使補佐というと」

 

「ええ。ご存じかと思われますが第三皇女のユーフェミア殿下であらせられます」

 

(やっぱり。これはあれか、以前言っていた勉強の一環かな?)

 

 彼女は人の役に立つ仕事がしたい。国のお役に立ちたい。

 

 そう無理を言ってコーネリアの補佐に付いている。その勉強として今度もまた無理を言ったのだろう。

 

 そんな風に考えていた彼の耳に不意打ち気味に聞こえたのは

 

「あの、失礼します……」

 

 優しい印象を抱く穏やかな声だった。

 

(え……こ、この声は……)

 

「すみません……わたくしが無理を言って引き留めていたのです」

 

 枢木に続いて部屋に入ってきた人物は彼がよく知る相手。

 

 膝裏まである長い桃色の髪をポニーテールに纏めた、鳥の羽を思わせる薄いオレンジのフレアスカートに白のタイトスカート姿の少女。

 

 そして薄い紫の瞳にあどけなさの残る可憐な容姿。

 

 神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアその人だった。

 

「な、なぜユーフェミア殿下がここに?」

 

 今日は飽くまでも枢木に会いに来たのであってユーフェミアに会う予定はない。

 

 そもそも彼女が総理官邸に来ているとは思わなかったし、それにしてもここに来る理由はないのだから。

 

「いや、偶然にも嶋田さんの話題が出ましてな。殿下が親しくお付き合いをされているということでしたので今日嶋田さんがお越しになられている事をお話ししたところ……」

 

「付いてこられたと」

 

「ええ」

 

「はぁぁ~、ユーフェミア殿下、公私混同はお避けください。仮にも貴女はブリタニアの皇族なのですよ? プライベートと公式の場は違うのですから」

 

 注意する嶋田にしゅんと項垂れるユーフェミア。

 

 まさかこんな他人行儀な話し方をされるとは思わなかったのだ。

 

 嶋田は前世も含めると政治家人生は60年前後に及ぶ。

 

 公私混同は絶対的に避けるようにしているのだ。

 

 それを17の少女に求めるのも酷なことなのだがこればかりはしっかりして貰わなければ困る。

 

(全く持って困ったお姫様だ。ま、あの夢でも体制に挑戦するような破天荒ぶりを発揮していたからな)

 

 ふと思い出すあの夢の内容。

 

 日本人が普通に暮らせる行政特区を作り上げたユフィ。

 

 式典の最中に倒れただろうユフィ。

 

 特区成功に感極まって涙を流しながらゆっくりと目を閉じたユフィ。

 

 夢は直ぐに忘れる方なのにまるで現実のように思い出せてしまうその光景。

 

(君はどんな可能性の世界でも無茶をするんだろうな。俺が平穏を求めるように君は人の笑顔を求める……難儀な物だねお互いに)

 

 そう思い自然に笑みがこぼれる嶋田。

 

 だがその瞬間彼女はまた公私混同をしていたのだ。

 

「シゲ……タロウ……?」

 

 何故か自分を見つめたまま呆然としている彼女に嶋田は

 

「今申し上げたばかりでしょう? 公私混同は」

 

 そう再度彼女に注意しようとした。

 

 そんな彼にユーフェミアはまるで緊急事態が起こったとでも言わんばかりの心配そうな顔をして駆け寄ってくる。

 

 心から心配する彼女の表情を見て困惑してしまう。

 

 何故? どうして急にそんな顔をするのか? 

 

「ど、どうされましたっ?!」

 

 気付けば枢木までもが大変だと言わんばかりに狼狽して居るではないか? 

 

「……」

 

 ただ一人冷静なのは辻くらいな物だ。

 

 その彼でさえ嶋田の顔をジッと見つめていた。

 

「な、なんですかみんなしてっ」

 

 状況を飲み込めない。

 

 何が何だか分からなかった彼は戸惑いの声を上げる。

 

 自分一人が分かってないようなのだ。

 

 そんな彼に声を掛けたのはやはり彼女だった。

 

 

 

「なぜ…………泣いているのですか?」

 

 手を伸ばしたユーフェミアは嶋田の頬を触り、彼だけが分かっていなかった目からこぼれ落ちる雫を拭った。

 

(な、泣いてる? 俺が? 何で……?)

 

「どこか、痛いところでもあるのですか……?」

 

 止め処なく溢れる涙が彼女の手を塗らしていく。

 

「い、いや……どう、して……なみだが…………」

 

 分からない。全く持って分からない。

 

 どうして自分は泣いているのか? 

 

 どうしてユーフェミアの顔を見ると泣いてしまうのか? 

 

 痛くない。どこも痛くないのに涙が止まらない。

 

「シゲタロウ」

 

 ふいに暖かい温もりが困惑する彼を包んだ。

 

 目の前で彼の涙を拭っていたユーフェミアが彼の身体を優しく抱き締めたのだ。

 

 彼の身体をかき抱くようにしてその背に回した手で優しく撫でる。

 

「ユ、フィ」

 

「わたくしは……わたくしは此処に居ます」

 

 暖かい温もりに包まれた彼もまたそれを与えるユーフェミアを抱き締める。

 

 抱き締めた手で彼女の髪を何度も撫でる。

 

 その柔らかな身体の温もりを感じ続ける。

 

「シゲタロウの側に居ます」

 

 互いを抱き締め合ったまま動かなくなった嶋田とユーフェミアを眺めていた辻は音もなく立ち上がると枢木に目配せした。

 

 いまはお二人だけにしてあげましょう。目で語る彼に心得たと頷く枢木。

 

 未だ抱き合っている二人を残し彼らは静かに部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 ──わたくしは、ずっとシゲタロウの側に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かい…………お日様のように暖かく、花のような香りを持つ彼女は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かにいま…………此処に居た。

 

 

どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。

  • 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
  • 嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
  • 山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
  • 南雲忠一×ドロテア・エルンスト
  • 玉城真一郎×クララ・ランフランク
  • 玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
  • 澤崎敦×井上直美
  • レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
  • 原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
  • ルルーシュ(休日)×ミレイ
  • オデュッセウス×皇神楽耶
  • ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
  • 枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
  • コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
  • 高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-
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