帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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小さな幸せ5-2

 

 

小さな幸せ5-2

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント沿岸 エストシラント港海軍基地

 

皇都北側の陸軍基地と対となる、この海軍基地は、第三文明圏で最大規模を誇る港湾、エストシラント港の半分を割り当てられている。その総数600隻あまりの戦列艦や竜母がひしめき合う様相は、まさしく第三文明圏最強というに相応しい形を成していたが

その港湾施設の屋上で、港湾沖合いや、港湾上空を仰ぎ見る海軍提督バルスの顔色は、けして良いとは言えなかった

 

「マータルよ、もしも、もしもあれらと相対したとき、我が海軍は、いや我がパーパルディア皇国軍は勝てるか?」

 

彼の隣に立つ、皇国最高の頭脳と名高い作戦参謀マータルは、振られた話題に空を仰ぎ見る

 

「わかりません。古の魔法帝国のような空中戦艦を相手に戦うなど、熟考したこともありませんので。ただ、あれら空に浮かぶ戦艦4隻が沖合いよりエストシラント港上空へ入港してきた速力からして、下限で時速400㎞は出ています。最大船速ならそれよりも速いと考えるに、ワイバーンオーバーロードを以てしても戦いには着いていけないでしょう」

 

空には4隻の戦艦と、40体以上の鉄のゴーレムが浮かんでいる

エストシラント港を見下ろす形で浮かぶそれらは、ただそこにあるだけで動きはない

 

「あれらはムーの戦艦ラ・カサミクラスを軽く上回る巨体をしています。ラ・カサミが相手でも海戦は普通に戦えば負ける可能性があります。ましてや、130m級の鋼鉄艦ラ・カサミよりも巨大な200m級の鋼鉄の空中戦艦などが相手ではシミュレーションしようにもできませんので…。それに、あの艦隊の周囲に展開するゴーレムも、そのどれもが巨大な銃を装備しています。あれらがどれほどの能力を持つのかもわかりません。はっきり言って比較対照が存在しないため、正確な戦力分析ができません。基準となるとすればそれこそ古の魔帝くらいのものでしょう」

「古の魔帝か…」

「はい。沖合いを偵察に出ていた、今も日本軍への警戒監視にあたっている竜騎士隊よりの魔信からも次々と同じ報告が寄せられています。音よりも速く飛ぶ飛行機械や、300mを超える巨大な戦艦の存在、同じくらいに大きな竜母の情報に、200隻からの鋼鉄艦艇の話が。戦闘艦艇と思われる船に限れば100隻ほど。そのどれもが300m級戦艦の持つ巨砲に比べれば小振りながら、皇国を基準にすれば大口径砲となる砲を1門のみ搭載しているそうです、たった1門ですが、あの空中戦艦の存在を考慮するに、砲以外の何かがあると睨んだ方が正解でしょう。例えば、やはり魔帝が使用していたとされるような誘導魔光弾のような兵器があってもおかしくありません。現に空中戦艦などを作り上げてしまうような相手ですから」

「むう、では勝てぬか」

「巨大戦艦2隻、鋼鉄艦100隻に、更に空中戦艦12隻、音よりも速い戦闘機械、鉄のゴーレムや戦闘用もあるらしい鉄の箱、これらを相手にしては、皇国の総力をあげたとしても恐らくは一方的な負け戦となるかと。正直なところ、いまこの目で見ているからこその分析です。目にしていなければ私は鼻で笑い飛ばしていたかもしれません」

 

マータルの言うとおり、誰もが信じないだろう

いま挙げた話は全てが虚偽と遜色ない話だ

自分の目で見て、マータルのように理解して始めてわかることなのだ

 

「しかし、陛下はなんと仰せになるか。あの空中艦隊はパラディス城を見下ろす高さに停泊、滞空しているからな」

「この世界は弱肉強食ですからね。結局力を見せなければなにも動きません。正直、あの空中艦隊が来ていなければ、中天の砲撃が無ければ、陛下はいつもの蛮国への教育として日本を侮り、一方的な命令を下していたのかも知れません。それでもどうなることかわかりませんが…」

「マータルよ、いまの言葉はこの場限りにしておけよ?誰ぞの耳にでも入れば不敬罪で死罪もあり得るからな」

「は、はい、言葉が過ぎました…」

 

 

皇都エストシラント

 

 

皇国民たちは中天に差し掛かったあたりから、ざわめきの声をあげていた

耳を貫く豪雷のような轟きと共に、エストシラント港沖合いに巨大な水柱が立った

港に水柱が立つ。それはたまにある。皇国海軍が演習や新型砲を開発した時などに港の沖合いで砲を撃つからだ

しかし、今日の昼、海上に立ち上がった水柱は今までに見たことがないほど巨大であった

水柱は優に皇国のパラディス城を丸ごと呑み込んでしまうほどに大きく太く、その頂点は数十mの高さまでに達していた

続いて、港に向かい沖合いから飛翔してきた空を飛ぶ戦艦の姿に皆が皆、腰を抜かすほどの驚愕に包まれてしまった

 

「何なんだあれは!」

「港の方から戦艦が空を飛んで来る!」

「魔帝の侵略か?!」

「いや、なんでも今日日本という国が皇国と国交を開設するためにちょうどこの時間帯に訪れるとかいう話を聞いていたぞ…」

「そんな馬鹿な!文明圏外の蛮国があんな魔帝のような空中戦艦を持ってるわけがない!おとぎ話じゃないんだ現実なんだぞこれは!」

「日本は皇族レミール様を相手に土下座外交をしていると外務局の知り合いに聞いたが?」

「いや、俺は日本の外交官に対してはレミール様がかなり懇意にしていると聞いたが…」

 

皆が共通した話題で盛り上がり、古の魔法帝国の侵略ではないか?

日本が攻めてきた!

日本は皇国に友好を求めていると聞いた

と、どよめき、皇都エストシラントは騒然としていた

 

 

エストシラント沖

 

 

パーパルディアの竜騎士レクマイアは愛騎に騎乗しながら、エストシラント沖合いの上空より海面を見下ろしていた

レクマイアだけではなく、幾人もの竜騎士たちが、海面を見下ろしたり、上空を見上げたり、同じ高さを眺め見たりしていた

 

「何度見ても信じられない。全てがムーのラ・カサミよりも大きい鋼鉄艦なんて」

 

特に、2隻だけ存在する超巨大戦艦はその存在感が圧倒的であった

前部甲板の中央に備え付けられた三連装の巨大な砲が2基、エストシラントの方角へと向けられている。後部甲板にも1基3門の同じ砲がある。他にも幾つもの砲が水平へ上方へ向けられている。甲板の開いた場所には無数の蓋のような何かも設置されており、砲ではない何かが他にも有ることを示していた

 

「あれ1隻でも皇国では対応できる戦力がない。あんなものに攻め込まれたら、あんな巨砲を何発も撃たれたらエストシラントが灰になるぞ」

 

巨大戦艦と同じくらい大きく、そして戦艦よりも広大で平らな甲板を持つ竜母には、先程より警戒のためだろう、時折飛行機械が飛び立っては、艦隊上空を旋回している。旋回しながら時にこちらへ合わせるように飛行し、飛行機械の窓に見える人影が挨拶のような手振りをしてくるのがすれ違い様に見えた

4隻の超巨大竜母の周囲には無数の戦艦群が円陣を組み停泊している。他にもその4隻ほどではないが皇国艦から見れば巨大にすぎる竜母が何隻もある

その竜母の護衛だろう戦艦群には1門だけの砲が搭載されていた。他に武装は見当たらない

巨大戦艦の巨砲に比べればずっと小さいが、それでも大口径と呼べる砲はあの1門で何ができるというのだろうか?

もしも日本軍が皇国を攻めるつもりならばあの巨大戦艦だけで事足りてしまいそうだが

何となく気になったのは、その戦艦群にも巨大戦艦と同じような蓋のような物がたくさん搭載されている点だ

あの蓋のような物にはなにかある、レクマイアの危機意識が告げていた

1門しか砲が無くとも1隻1隻が恐るべき力を秘めている可能性があると

 

更に空に目を移すと、8隻の戦艦が空を飛んでいる

 

「反則だ、戦艦が空を飛ぶなんて伝説上の話だろう…、なんであんなのがあるんだ」

 

200mもの巨大が空を飛んでいるのだ。船体には砲が幾つも据えられている

海上艦隊ほど大型の砲こそないが、小さいとも言い難い

12隻いた空中戦艦のうち、4隻はエストシラントの方に飛行していったが、残りは海上艦隊の上空で待機しているようだった

 

その空中戦艦の周りには、空中戦艦から飛び出してきた5mほどの体長を持つ鉄のゴーレムが無数に浮かんでいる

中には空中戦艦に張り付いている物もいたが、殆どは交代交代に空中戦艦の周りを飛び交っていた

こちらも速い、ワイバーンオーバーロードよりも明らかに速い

 

レクマイアは強い敗北感に教われていた

皇国側のワイバーン部隊も100騎単位で警戒にあたっていたが、あれら全てにとても勝てそうにないのだ

飛行機械もゴーレムも、速力、旋回能力、機動力どれを以ても皇国側を軽く圧倒している

どの様な武器を持ち、どの様な攻撃法を行うのかはわからないが、いざ開戦などとなれば、瞬く間に撃墜されてしまう光景しか思い浮かべられなかった

 

 

 

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