小さな幸せ6
中央暦1639年6月22日正午過ぎ 第3外務局会議室
パーパルディア皇国皇都エストシラントの港沖に着弾した中天の大砲撃
および空中戦艦により編成された艦隊の入港のあと、「古の魔法帝国の復活か!魔帝からの侵略か!」と騒然とする皇宮を足早に去ったレミールは、急ぎ皇宮から離れた第3外務局へと出向し、同外務局の会議室に足を運んでいた
通常、彼女を含むパーパルディア皇族が出向するのは、エリート部署である第1外務局である
如何なる国が相手であろうとも第1外務局内での外交交渉相手は列強国である、神聖ミリシアル帝国・ムー・エモール王国・レイフォルの4ヶ国に限られており、どの様な国であれ、それが新興国や中小・文明圏外国である以上は、第3外務局での応対・面接・会談とするのがパーパルディア皇国の決まりごととしてある
これにより、今回の例外中の例外を除けばそうそうパーパルディア皇族が蛮地を相手取る第3外務局に出向くことはない
しかし、パーパルディア皇族レミールは視てしまった
視てはならないものを、常識の埒外にあるものを視てしまった
とうとう日本の文明力の一端を垣間見た
レミールの目にしたそれは、皇宮からも見える沖合いの戦艦群の姿と、エストシラント港上空に入港してきた4隻の空中戦艦の存在だった
戦艦が空を飛んでいる。空を飛ぶ戦艦を保有する国
皇宮に詰めている者たちや、エストシラントの臣民たちが騒ぐような、神話に登場する古の魔法帝国ラヴァーナルの保有していたとされる物と何ら変わらぬ物を平然と持ち出してきた国、大日本帝国の真実の一端を
今までは、この日までは、日本外交官朝田の平伏姿勢をよしとしてきた
レミールは彼の外交官とは割合多くの時間を過ごしてきた
列強を相手取ることが本来の仕事ながら日本外交を自分預かりとしていた為に、全くの放置もできないとして、というのが彼女が日本重視に傾いていた表向きの理由だった
だが、本当の理由としては、ムーの大使ムーゲより日本の情報を得てからというもの、事を慎重に進めることで、文明圏外の蛮国である日本に皇国流のいつもの躾をしようとしない彼女のその煮え切らない態度に苛立ちを覚えていたらしい、皇帝ルディアスより与えられる重圧から、重くなりつつあった心を解放できる場所を探していたというものがある
幸いにも朝田は初対面からずっと平伏姿勢を崩さず、それでいて聞き上手な男であり
日頃溜め込んでいた色々な物をぶつけるにはちょうど良い相手とも言えた
性格上、文明圏外国を相手取る時には一切の容赦無く自らの思うままに振る舞う自分に対して、それでもこれまで朝田は嫌な顔一つせず付き合ってきた
レミールは蛮族は好きではない。はっきりと言えるが蛮族は嫌いである
不潔で汚ならしく、列強の皇族たる自分に対しての礼儀や作法もまともに知らない文明圏外の蛮族を、レミールはどうしても好きになれなかった
ところが、文明圏外の人間でありながら、彼の朝田はいつも清潔でぱりっとしており、礼儀をわきまえ、ひたすら平身低頭な姿勢を崩さずに、その上で欲しい言葉を返してくる
毎日のように国交についての交渉を進めながらも、日常的な談笑ができるようにまで仲を深められたことは、今にして思えば幸運だったと言える
だが、彼は日本のことについては「使節団よりの正式な訪問までは」と、頑なに話そうとはしなかった
当初は列強たる皇国への遠慮や配慮、礼儀の一つとしての態度だろうと考えていたが明らかに違った
ある時、「レミール様も普段は列強国をお相手なされているとお聞き致しております。何かにお役立てください」そう言って、ボタンの様な物がたくさん付いている平らな物を贈られたのだ
デンシケイサンキ、いや電子計算機というらしいそれは、聞けば10数桁の計算が数個のボタンを押しただけでできるという
そんなものが有るわけがないと思いつ、使ってみると、電子計算機の上部にある窓に角ばった黒い数字が浮かび上がり、朝田の説明通りに使ってみると、本当に10数桁の計算が可能な品物であることがわかった
いったいどういった構造をしているのか?どのような魔導を用いて動いているのか?聞いても朝田は魔導ではなく科学だというのみで話が進まない
科学技術のみでその電子計算機を作るなど、科学技術大国ムーにも不可能ではないか
結局話は進まないわけだが、わかったことはあった。日本は自国に関する詳細を皇国に対して意図的に隠している
朝田の言うように、使節団が到着するまでは日本の詳細については判明しないだろう
ならばと、レミールは朝田よりもらった電子計算機を皇国の頭脳集団、先進兵器開発研究所、通称・兵研に調べさせたが、ここでもまた「わからない、どうすればこんな超技術の塊を魔導すら使わずに作れるのか」といった、答えが返ってくるだけであった
電子計算機をもとに戻させ、使える状態には復帰した物の、パーパルディアで同じものは作れないという
そこで甦ったのは、やはり彼女自らが動いて日本についての情報収集を行う中で得たムー大使のあの言葉であった
『ムーやミリシアルを超える科学技術超大国』
そんなこと、と疑いながらもレミールはムーの大使が汗を流しながら話していた日本へは慎重にあたってきた。他の文明圏外国と同一として扱うのは危険だと判断して
朝田との仲も良好で、気の置ける友人から、或いはそれ以上の好感を得るような間柄にまでなっていた
朝田は実に好ましい男であった
ルディアス皇帝が自分の話をまったく聞いてくれないという、酔いに任せての私的な愚痴に夜遅くまで付き合ってくれ
日本の事こそ話はしてくれなかったが、寂しさを感じていた時には公務外での付き合いもしてくれていた
その中で、何度か「文明圏外の国をして蛮国や蛮族と決め付けるのは良くないですよ」という言葉も受けていた
「相手も人間、現にレミール様の仰る不満をこうして聞き、相談に乗れる文明圏外の人間もいるのですから」と
これには、列強の皇族たる自分に対して無礼であろうと彼女も怒りも覚えたが、色々と話を聞いてくれる朝田という存在は確かに文明圏外の人間だということで、怒りは沈静化していった
とくに、彼女自身の性格上、親しく話せる友人と呼べる存在がいなかったことも大きいだろう。その親しく話せる相手が偶然にも文明圏外国の人間であった
文明圏外を文明圏外だからといって一括りに考えてはならない
そうなのかもしれない、文明圏外人も言葉の通じる人間であることには違いないと、他ならぬ文明圏外人の朝田に諭された
その朝田が寂しさを埋めてくれるように傍らに居てくれた。レミールにとっては見下す存在でしかない文明圏外の人間が、よもや自分に暖かさをもたらしてくれようとは露ほども考えていなかった為に、自分の中の文明圏外人への認識が、ほんの、ほんの少しだけではあったが、変わったようにも感じられた
相手が日本、相手が朝田であったからなのかも知れないが、それでも文明圏外の人間を始めて「今までのように野蛮な猿ではなく、人間として見てやってもよいかもしれぬな」そう思えた瞬間でもあったのだ
連絡を取り合いやすくする為のホットラインとして、魔導通信と似通いながら、魔導を一切使っていないらしいムセンキ、無線機なる物も渡された
この無線機も念のためにと兵研で調べてもらったが、こちらも電子計算機同様に原理のわからない超科学の産物であることがわかった
この無線機を使い、レミールは朝田とのやり取りをしていることがままあった。ルディアス皇帝の手前、皇宮には持っていけず、私邸に置いてあるために、もっぱら私用でしか使っていないが、朝田、ひいては日本とのコミュニケーションの道具として重宝している
ただ、もちろん、レミールと朝田個人との仲が良好だからと言って、パーパルディアと日本との仲までもが良好になるわけではない。理解しつつも、この一月、全ては順調に進み来たように思えた
一点、彼女がルディアス皇帝の信頼を失い不興を買ってしまっていることを除いては
日本へは慎重に、日本は重要な相手国となる可能性が高い、直接手に触れ、その手で使い、おぼろ気に見えてきた日本の科学力に不安を掻き立てられてもいたレミールはそう皇帝に説いた
だが、説けば説くほどにルディアス皇帝は文明圏外国を相手にするレミールを適当にあしらい続ける
仕方がないことなのだろう。彼女自身も文明圏外の国を相手に何をしているのだと考えていたのだ
無論、論じるまでもなくムー大使の話や電子計算機・無線機の存在、朝田の人となりからして、最早日本が蛮族の治める蛮国というのは逆の意味であり得ないと気付き始めていたが
刻一刻と、日本使節団の皇国訪問が近付くにつれ不安が鎌首をもたげ、焦燥感が募る。日本とはどの様な国なのか。日本とはパーパルディアを遥かに超えた想像も及ばない様な国なのではないだろうか
不安故に朝田と話をせずには居られなかった
日本との繋がりはどうしても確保しておきたい
いま、皇国で日本と最も繋がれる相手は朝田しかいない。その朝田を私邸に招待したり、とにかく友好的に接し続けた
朝田と話せば話すほどに私的な繋がりは強くなれども、まだ見ぬ大日本帝国という、恐らくはかなりの大国だろう国への危機感が増していく
レミールの所属している外務局監査室はもとより、第1外務局もこの頃になると日本を正確に図り始めて、自分を通じたりしながら日本という国を文明圏外に存在する大国として扱うようになっていた
外2、外3も同様だ。外3局長カイオスなどは、いま皇国で日本を最も知っているだろうレミールのところにも質問に来ていたほどだ
実際のところ、日本とは如何様なる国なのかと
しかし、レミールも日本の詳細は知らないので尋ねられたところで答えようもない
朝田との仲は良好であるとだけしか答えることはない
それ以外ではムーを遥かに超えた科学技術文明国家の可能性がある、それだけをカイオスに伝えていた
カイオスもカイオスで自身の情報網を使い日本を調べあげていたようだが、大東洋にある国という以外の詳細はわからなかったのだろう
ただ、レミールの、こちらの話を聞いている間に、日本への対応を間違えば大変なことになるといった危機意識だけは抱いたようだが
そして、いまレミールは自分の判断が正しかったことを、己で目にした事象により感じていた
沖合いよりの砲撃により判明した、軽く数十㎞は届いてしまうような射程を持った60㎝という超大口径巨砲を備える、この世に有らざるべきというほどに考えられないほどの巨大な戦艦
ムーの誇る全長130m級の巨大戦艦ラ・カサミクラスを超える巨体を持つ空中戦艦と、やはりラ・カサミを軽く超える巨体を持つ海上に停まる鋼鉄戦艦の艦隊
音を遅らせて飛び交うという、音の速度よりも速い飛行機械
空中戦艦を取り巻くように待機する鉄の巨人群
続々と入ってくる魔信よりの報告もあわせて、レミールは日本の存在を重くとらえて正解であったと悟っていた
*
「し、失礼します、レミール様はいらっしゃいますでしょうか!」
レミールが待つ会議室の扉が開く。飛び込んできたのは第1外務局のエルトだった
彼女もこの度の対日本との会談に出席する予定である
「どうしたのだエルトよ」
すわ日本の外交使節団が到着したのかとレミールの緊張感が増す。声にも態度にも緊張を見せず応対したが内心は恐怖と不安でいっぱいいっぱいであった
だが、エルトの報告はそんな危惧とはまったくの別物であったのは幸いなことなのか否か
「お、畏れながら皇帝陛下よりの勅命です」
陛下の勅命。日本からの何かではない、見聞き知る皇帝陛下よりの命令に安堵する自分がいたことに、レミールは不可思議な考えを抱いていた
不可思議なでありながら、安心する奇妙な感覚と共に
「陛下の勅命だと?申してみよ」
しかし、それは次なるエルトの言葉により否定されてしまう事となる
「は、陛下よりのお言葉です。レミールに告ぐ、日本使節団へ伝えよ。我がパーパルディア皇国と国交を開設したくば力を示せ。新型艦艇との交替で退役する売却予定の余剰艦艇100隻あまりを日本が処分することで日本の力を示してみせよと」
日本の力を示せ。単純で明快なる弱肉強食の指標だ
この世界は力ある国が繁栄を謳歌する
パーパルディアがそうしているように、中小文明圏外国は一方的に隷属させることが常識だ
日本は文明圏外国、隷属させるべき国、これが本来での常識であった
しかし、日本とは常識では図れない存在であった
悔しいが、神話の魔帝のような戦力を持つ日本を前にしては、皇国の側こそが下の立場となってしまう
それを皇帝ルディアス陛下はあくまでも皇国が上であるという考えのもとに、日本を図ろうとしているのだ
「バカなっ!陛下にはあのエストシラント港の上空に浮かぶ巨大な戦艦4隻がお見えにならないのか!中天の砲撃の轟きにお気付きではないのか?!」
誰もが視たはずだ。エストシラントに居る人間の誰もが轟音を聞き、水柱を視、空中戦艦を目にしている
パラディス城を見下ろすようにして滞空している空中戦艦が、まだそこにある事を
「もちろん、陛下もお気付きです。ただ、レミール様も存じ上げておられる事と承知しますが、日本の戦艦は2隻の巨大艦や12隻の空中戦艦を除いてほぼ全ての戦闘艦艇が砲を1門しか搭載していないとのこと。1門しかない砲など脅威とならない、陛下はこうお考えでして。国交開設条件として100隻の余剰艦艇をどの様に処分し力を見せるのか。或いは皇国の要請を断るのかを見ておいでなのです」
「それで日本が断れば」
「弱小国として、通常通りにご教育なさると」
通常通り、ルディアス皇帝の御意志に沿い、レミール自身が行ってきた、蛮族への躾である
日本に対して行えという
「……エルト、お前の意見を聞きたい。日本は、あの魔帝のような戦力を繰り出してきている日本は弱国か」
「……いえ、先ほどこちらへ向かう途上で皇国軍最高司令官のアルデ様と話をして来たのですが、彼の方の軍事の専門家としての意見として、1門のみの砲を持つ魔導艦には砲以外の何かが必ずあると仰っておいででした。その指標となる物は魔信より入ってくる巨大艦の情報だと」
「エストシラント港沖を砲撃したらしいあれか」
「はい。日本の朝田外交官よりの話と、沖合いを警戒飛行している竜騎士隊の報告が虚偽ではないのならば、彼の300mを大きく上回る船体を持つ巨大艦にはムーのラ・カサミクラスの持つ主砲の2倍程度の大口径砲が3基9門備えられております。その他にも多数の大口径砲が搭載されているとのこと。では、何故そのような巨大艦を作れる日本が、その他の艦艇には砲を1門しか搭載しないのか?そこには必ず何かの理由があるはずだとアルデ様は仰っていました」
「砲以外の何か?」
「アルデ様は日本の空中戦艦を例に、やはり魔帝が使っていたと伝説上に残されている誘導魔光弾の存在を疑っておいででした。それに、その1門の砲自体にも何かあるとお考えのようです……私個人の、この場限りでの不敬な発言として内密にお許し下さるのでしたら、見解を述べさせていただきます」
「よい、皇族レミールの名の下にこの場限りの言葉として聞こう」
「は、では、私個人の見解は」
日本は、大日本帝国は、我がパーパルディア皇国よりも強大な国である可能性がほぼ確実です
エルトの見解を聞いたレミールも、同じ事を考えていた
どのくらいの強さかは不明ながら、無敵・不敗の皇軍だが、日本軍と戦えば、敗けると
「中天の砲撃、あれは優にパラディス城全てを呑み込んでしまうほどの水柱を立てていた」
「……」
「エストシラント港沖に着弾していたが、本当にそこまでしか届かぬものであったのだろうか?私は恐ろしい考えを抱いているのだ。とても信じることなどできはしないが、恐らくあれは、エストシラントまで届く、……皇城にまで届くのではないかとな」
「私もレミール様と同様の考えを抱いておりました。あれは礼砲ではなく、この手は皇城まで届くぞと示すための威嚇だったのではないかと。北方のリーム王国あたりが皇国を相手に威嚇してきたとしたならば、ただの蛮勇であると私は一笑に付していたところでしょう。あれだけの物を持ち出されていなければですが」
言外にあれは違うとエルトは言う
彼女の意見とレミールの意見は完全なる一致をみていた
日本を皇国の敵にしてはならない
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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ルルーシュ(休日)×ミレイ
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オデュッセウス×皇神楽耶
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-