博之と円卓の騎士
一サラリーマン神崎博之──嶋田繁太郎は億の人間と動植物を殺し、繁太郎としては御国のためと納得しつつ、博之としては悔恨を残す。
それもそのはず。ただの平凡な一サラリーマンがたとえ表で中層で、深層でさえ納得し、そのGOサインを出したとしても。
深層心理では苦しんでいた。誰も気付かず、本人さえも気付かず。時の終わりと共に消えゆくだけの感情だとしても、苦しみは確かにあったのだ。
そうして時を終えた彼。幸せなる老衰だった。優しく暖かい死の瞬間、黄金色と鮮やかな草原の色を視た気がした。死を前にした幻視だろうか?
先に行った仲間達が待っているというのに、自身はまだ生にしがみつこうというのか。この穏やかなる死を前にして。
ああ、もしも生まれ変われるならば、今度こそ穏やかな世界で、穏やかなる日常を願いながら、命の灯火の尽きた嶋田繁太郎。享年○○才。
人類史上最も多くの命を奪ったただ一人の男は、己自身もまた生涯を閉じた。それは、それはとても穏やかなる眠りであったという。
※※※
──タロウ。
ん? 誰だ。
──ゲタロウ。
俺は静かに眠ったはずなのに、また呼び起こすのは誰?
“僕”を呼び起こすのは誰。
──シゲタロウってばッ!!
うわッ!?
耳がキーンとする。
がばっとその場に起きる。起きる? あれ、俺、神崎博之──嶋田繁太郎は、死んだはずなのに? 起きる?
「うえッ、うええええん、おぎだおぎだよ兄さんンンッ!」
「分かってる分かってる。分かったから泣かないで。シャルル」
シャルル。シャルルくん。シャルル・ジ・ブリタニアくん。──―ッ痛い!!!
頭の中に物凄い記憶量が流れ込んでくる。シャルルくん。V.V.くん。嶋田繁太郎。嶋田命周。前の嶋田繁太郎。夢幻会。衝号。……神崎ひ、ろ、ゆき。
頭が壊れそうなくらいの記憶の流入。三人の記憶が入り交じっている。カンザキと、嶋田と、……嶋田繁太郎くんの。
前の時には無かった物凄い激痛が頭を襲い。立っていられなくなってその場に尻餅をついた。
「し、しげ、シゲタロウまた死んじゃったよぉぉッ!!」
「馬鹿ッ! 死んでない! シャルルは右側持ち上げて、僕は左腕を抱え上げるから!」
「う゛うん」
ぐいっと持ち上げられる身体。小さな体躯だ。幼い、幼い、俺の身体……。
一度記憶が其処で途切れた。
※※※
次に気が付いたとき。そこは荘厳な部屋の豪奢なベッドの上だった。
部屋には女中さん? メイドさんらしき人が居て。僕が目を覚ましたの知ると。
「シゲタロウ様!!」
叫んで部屋の外へと出ていった。
おい、怪我人を一人にするなよ。
それにしてもふと気が付いたけれど、一人称が“僕”になっている。なんで僕なんだ。俺だろうに。俺の筈なのに僕の方がしっくりくる。
頭が痛いズキズキする。でも、さっきみたいに気絶するほどじゃない。
流れ込んでくる記憶。僕はどうも貴族らしい。正確には華族。古くから続く家系で、辺地にだけど両地も持っている。っていうか僕んとこの両地、カムチャッカ州まるごとなんだけど。何考えてんの大日本帝国政府。
史実で言うところのペトロパブロスク-カムチャツキーが入ってるんですけど。けど寒い領地だなあ台風が来ないことと夏がほぼ無い事は救いだけど……っていうかその前にまた嶋田繁太郎かぁ。
どんどん記憶が流れ込んでくる。リーマン時代の博之の記憶から……億人殺した衝号の記憶まで……。どんどん流れ込んできて、現世に行き着く。
アメリカ大陸に存在する広い広い国家。南“ブリタニア”大陸の一部までを領土とする強大なる国家“力のブリタニア”。書いて字の如く力、圧倒的な国力を誇るこの世界に存在する三つの超大国的国家勢力の一つ。順位は第一位。
そして、僕は日本人。外交官も務める嶋田命周華族伯爵正確には上位伯爵の息子。嶋田繁太郎。実家はカムチャツカ州に領地を持つも東京。いや、大東京。おかしなくらいに発展した、耐震ブロック構造に600m700mの強化耐震設計ビルが林立する巨大都市。
家系は神官系で、何十年か前の日本・ブリタニア太平洋戦争で多大な功績を挙げたことから陞爵し上位伯爵となったらしい。さらにカムチャツカ州を領地として拝領したとか。カムチャツカ州の発展もおかしい。カムチャツキーのビル、300m400mざらにあるんだけど。人口も10,000,000人て。
嶋田領軍って独自の軍も持ってて50,000人ほどの兵力がある。陸海空三軍揃い踏み。どうなってるんだ。
450年前の足利幕府では義輝の政権を支え、義輝も長生きして足利政権はそのまま大政奉還するまで450年もの長期軍事政権として北へ南へ領土を広げていった。台湾もこの頃だし、内南洋、外南洋もこの頃。
樺太・千島列島・カムチャツカ・チュクチ、アリューシャン列島全島もこの頃に領土に編入している。120,30年前には日中戦争が起きていて日本が中華連邦とか言う国の海軍をまるごと潰し、海南島を正式領土としてぶんどった。
50年前には日欧戦争が起きて現在の領土で一応の日欧戦争の戦後講和交渉という名の一方的要求の中では、サハ以東を日本に割譲する案をユーロユニバース側が提案してきたが『その地は本来の持ち主の元へ何れ帰る』といった予言めいた言葉を残し、日本は割譲を固辞。多額の賠償金と軍備制限に留めている。ただし国境線は画定させ二度とこちらへ来ないように、『次ぎ来たら国ごと潰す』と宣言、4発戦略爆撃機連山を20,000機用意していることを公表した。
いやおかしいだろ、複葉機しか無い欧州相手に何で4発の連山を20,000機も用意してるんだよ! なんで複葉機相手に単葉機やら中戦車やら持ち出しちゃってんの?! ユーロユニバースに勝ち目ねーじゃん! 反則だろ!
50年前でこれだから日本の異常さもまた分かろうという物、いつしか日本は『技術の日本』と呼ばれ、超大国へと駆け上がっていた。なおサハ以東は日本に協力的で第二次日欧戦争の際には日本側に付くことを秘密協定に盛り込んでおり、土地はいくらでもある状態だった。
日ブ太平洋戦争も完全におかしい。ジェット戦闘機橘花が普通に戦争開始当初に出てるんですけど? ブリタニアはプロペラ機よ? 80,000t空母? 80,000t戦艦? 頭おかしいの? ブリタニアもジェット出してくるし60,000t、40,000tクラスの空母両国で何隻つくっとるの? 一年間の戦争で。馬鹿じゃねーのか? で、なにブリタニア全土攻撃作戦85,000機の富嶽で? ブリタニア側も似たような作戦を立ててるしヤバいよコイツら。
そして150年ほど前から南半球では大国合衆国オセアニアが動き出し、インド洋の島々を次々と併呑。マダガスカルを併合し、東アフリカまで併合していった。近年では事実定中央アフリカ以南のアフリカもオセアニアの領域、イラク社会主義共和国もまたオセアニアの。
日ブ太平洋戦争の際には東南アジアの一部メラネシア全域、クック諸島、ポリネシアの大半を構成する大洋州連合に侵攻これを併合。南天条約機構を形成し、日本・ブリタニア率いる北側諸国同盟との間で対立関係を生み出し、第三の超大国的存在へと駆け上がった。
日ブの歴史、南天の歴史は長い。遡れば超古代文明まで行き着き。超古代文明次代に三つに割れた。日ブは元さやに戻ろうとするも、南天は何者かが操っているようで独自路線を突っ走っている。
僕が産まれる前には三国ともとても危険な兵器を生み出し──まてよ? 何でそんな機密まで知ってるんだ? 大気圏内爆発実験は幾度も行っているから知っててもおかしくないけど、いつ作られたなんてどうして……。伯爵家の息子である“僕”が識ったのか。
そこまで考えたときだった。
カチャ
ドアノブを回して入って来たのは四人の子供。と、一人の大人──嶋田命周。外交官も務めている父だった。
「まったくだらしない。殿下方の遊び相手を務めるのがお前に課せられた役目だというのに、そのお前が貧血で倒れてどうする! 日本男児として恥ずかしくないのか!」
僕に飛ぶ父の一喝。この瞬間、大日本帝国の父親らしいなという感想が頭を過ぎった。父は僕を怒るとこれから皇帝陛下とお話があると言って部屋を出て行った。
「シゲタロウ、大丈夫……?」
大人しそうなおどおどとした、薄い栗色髪の挑発の少年が僕を心配する。
「大丈夫ですよシャルルくん……軽い貧血だから」
シャルル・ジ・ブリタニア皇子。この国、神聖ブリタニア帝国の皇位継承者だ。そしてもう一人。
「君は周りの心配を考えてくれ。身体の調子が悪いって言うなら僕らに言ってくれれば大人を呼びに行くんだから」
淡い金髪に気の強そうな表情。シャルルくんとまったく同じ顔をしているのに、まるで違う人物に映るその表情も僕の知る人物のもの。
「うん、気をつけるねV.V.くん」
V.V.くん。シャルルくんの実兄で双子の兄だ。V.V.というのは僕らが付けた渾名で、以後彼は自身をV.V.と呼んでいる。
シャルルくんとV.V.くん、二人は僕の幼なじみで、僕は二人の遊び相手。付き合いは長い。昔殴り合いをしたこともある。皇子様を殴る、そんなとんでもないことを僕はやらかしたんだなあとしみじみ思い出していると。
「どうやら大丈夫のようですね」
もう二人居た僕と同じ年代の子供達の内の一人が話しかけてきた。
「なんでも脳震盪のような“記憶障害”のような倒れかたをなされたとか。本当に大丈夫なのですか?」
丸い、丸い、戦前の人がしていたような、丸い眼鏡。これは、そう、博之としての記憶。戦後を知っている俺だけの記憶。僕でも、私でも無い、俺の。
待てよ。丸眼鏡。丸い眼鏡。見たことがあるぞ。平穏に生きよう、この人生では平穏に生きれる、そう思っていたのにこの子があの人だったら。僕の平穏は総崩れになる可能性が。
「大丈夫だよマサノブ。本人も体調良さそうだし。無理をさせたら駄目だけどね」
ぎゃあああ~~~~~ッ! ま、マサノブ~~~~~~ッ! い、いやまて、田中マサノブの可能性もある。佐藤マサノブの可能性だってある。
そうだ。きっとマサノブ違いだ。書類を持ってくるあの魔王じゃ無い。やめろ、やめてくれッ。
「ああ、万が一お記憶に障害があっては成りませんのでご確認を。僕の名前は辻、辻政信です。嶋田お坊ちゃまのご友人の一人です。きちんと覚えてお出ででしょうか?」
……終わった。
「嶋田繁太郎様。夢幻の如くこの世に産まれ来た者達で。また集まりましょうか」
確定だ“あの”辻さんだ……ははは、この世界でも。この人生でも僕は、俺は夢幻会なのか。
「ああ、外には護衛の村中さんもおりますのであとでごあいさつでも、ねえ山本くん」
「すまん嶋田。そういうことだ。今世でもよろしく頼む」
坊主頭の少年。どこかで見たな~と思ってたら子供の頃の山本だったのか。あ、はは。村中さんもいるって話しだし、僕は最初からターゲッティングされていたのかなあ。
そう言えば山本って何気に伯爵家なんだなあ。辻さんも華族っぽいし、貴族の大安売りだな。
「ねえ、シゲタロウも、イソロクも、マサノブも何の話をしてるんだい?」
V.V.さんが紫色の瞳を僕らに向けてくる。何が何だか分からないと言った感じだ。そりゃ分からんよな。前世前々世からの転生者なんですとか言っても頭おかしい奴と思われるだけだ。
「シゲタロウたち……何の話し? 秘密の話し? 僕ら聴いちゃ行けない?」
静かな感じでシャルルくんもこちらを窺う。気になるのだろう。
そんな二人に。マサノブくん、否、辻さんはまさかよもやの暴露をした。
「お二人には特別にお教えしましょう。嘘の嫌いなお二人には特別に。私と繁太郎くん、嶋田さんと、こちらの五十六くん、山本さん。そして扉前で警護をしている村中くん、村中さんは転生者なんです。ふふ、コードもギアスも知っておりますよ」
今度はV.V.くんとシャルルくんが固まる側だった。コードと、ギアス。秘密の力が知られている?
「どういう、ことだ」
絞り出すような、刺すような疑いの色を混ぜ込んだ声音がV.V.くんの口から迸る。
「識っているということですよ」
トントンと指先で頭を叩きこの世界と、この世界の未来を。ですから場合によっては。物騒なことを言いかけて辻さんは止めた。その続きは場合によっては此処であなた方を始末しておしまいにするだろう。
僕は、俺はこの世界のことを何も知らないから余計な口出しは出来ないけど、たぶん辻さんは全部識ってる。
「ただ、色々と大きく違うんですよね。日本もそうですし、南天なんて存在も無かった。ブリタニアが強大なことは変わりありませんが、領土が若干小さい分、100年以上国内開発に力を注ぎまくった結果史実のブリタニアよりも圧倒的に強大になるとか誤算で、あなたがたの御両親もご健在で先行きが見えない。ただし先行する技術によって日本は魔法が使えますが」
V.V.くん、あ、お兄さんだからさんだった。V.V.さんはいぶかしげな表情を崩さないまま。
「話しの意図が見えない。結局君たちは何者で、何が目的で、僕とシャルルをどうしようというの?」
シャルルくんを後ろにかばいながら辻さんを睨み付ける。辻さんと目と目を合わせて睨み付けられるだけでもV.V.さんの強さを感じられる。
「私と嶋田さん、山本さん、村中さんは、異邦人です。異邦人であればこの世界は夢幻の如くなり、そしてこの世界の住人であるあなた方から見ても私たちの存在は夢か幻のような存在……」
「夢幻なる……」
「存在……」
ジ家の双子皇子に遂に告げた秘密の名を。
「夢幻会、それが我々の名です。日本の転生者にして日本のまあご大層ですが導き手。メンバーには伏見宮様もいらっしゃいますよ?」
「ふ、フシミノミヤ殿下が?!」
驚くV.V.さん。驚きは終わらない。200年以上前から倉崎にもスメラギにも手は入っている。転生者は500年前から存在しており、文献に依れば足利義輝も転生者であったとか。
コード保持者もいれば、ギアスユーザーもいる。特殊技能者もいれば自己研鑽者も多く居る。そんな大きな組織で有り、国家ぐるみの組織である。
全ては日本の未来のために。これを合い言葉に皆が皆それぞれで動いてきた。
「信じがたいでしょう。嘘みたいに聞こえるでしょう。しかし、これは全て真実であり、お二人には信じて頂くしかありません」
「……」
暫し見つめ合う瞳。逸れない目。本当に豪胆だと思う。あの細く小さな身体であんなにも豪胆であらねばならないなんて。宮廷闘争もほとんど無いと言うに。弟を、そして俺なんかを守る為に。日本のためと断じ、億を殺した俺なんかを……。
「シゲタロウも、そうなんだね」
優しい問い掛け。弟シャルルさんと同じような優しい。
「はい、僕……俺も、もう百何十年と生きて日本の未来のために戦ってきました」
「そうか……、僕らの識らない日本でかい?」
「ええ、違う、世界の」
一度押し黙るV.V.さん。シャルルさんは所在なさげに此方へ彼方へ目を動かしている。
そしてV.V.さんは口を開いた。
「信じるよマサノブ。但し! ただし、僕が信じるのはシゲタロウがそうだと言うからだ。シゲタロウは僕らに嘘を吐かない。僕らもシゲタロウに嘘を吐かない。僕ら三人は何があっても嘘を吐かないと誓い合った仲だ。だからシゲタロウの肯定する夢幻を、僕も肯定する」
そこまで言い切るとV.V.さんは辻さんに手を差し出した。
「よろしく頼む」
「よろしいのですか? 夢幻会は日本の──」
「ブリタニア支部があってもいいんじゃないか? 日本とブリタニアは背を預け合う家族じゃないか。それに、この世界にも君たちや僕らの敵となる存在がいる」
窓の外を見遣るV.V.さん。方角は南方。
「僕とシャルルも、是非とも君たちの組織に入れて欲しい。日本とブリタニアの未来のために」
一国制度、正確には日本との二国制度は終わりにしよう。僕らの代で多国間同盟を作ろう。
博之と円卓の騎士
「そうして出来上がったのが北側諸国会議および北側諸国同盟。北南冷戦は1950年代から始まりましたが、北側諸国同盟の発足と共に本格的な冷戦構造が出来上がりました。南側は北側を攻められず北側も同じ。代理戦争は何度も起きましたし、南ブリタニアやニューギニアではオセアニアが直接出張ってきましたがはじき返せました。無論この平和もいつまで続くか分かりません。南側が野心を捨てない限り」
茶色のスーツ姿の辻は呟きながらお酒を一杯飲む。
その隣には表地が黒、裏地が紫色の高級そうなマントを着た白と金と青の色がちりばめられた司祭服姿の、年の頃10歳くらいの少年がおちょこに日本酒をつぐ。
「南側が野心を捨てるもんか。何度呼びかけてもオセアニア本体は開国すらしない。その上でアフリカ方面から北半球への浸食を始めようとしている。掴めている情報は?」
少年がお酒を飲むが誰も何も言わない。少年の長い長い身長と同じくらいの髪が、着いた席の後ろでビロードの様に垂れ下がっている。実は彼が10つどころか63歳のおじさんだとこの店の店員も客も識っているからくちをださないのだ。
それにおじさん同士の語りなど聞いても仕方が無いと誰も耳を貸していない。
「考えてみればさあ」
「はい。なんでしょうV.V.さん」
「いやね、こういう話しって会合でするべきじゃないの?」
日本酒で酔いが回り赤くなった顔で指摘する少年姿のおじさん、日本に住んで10年と少し、日本国籍を取った元ブリタニア人の皇族、ジ家のV.V.はそう言って徳利の注ぎ口を小さな指で、チンと弾く。
「よろしいんですよV.V.殿下。どうせこの場には夢幻会のメンバーしかおりません」
パタンと閉められるふすま。客の目も遮られる。
「これはッ、伏見宮博恭王殿下っ。お出ででしたか」
「あーあー、やめてください。同じ皇族同士では御座いませんか」
「いえ、私は既に皇籍奉還した身ですので一応は一般人」
かしこまるV.V.にそれでもと食い下がる伏見宮殿下に根負けしたV.V.は。
「それじゃこれまでのままで行かせていただくよ。で、南天の情報は君たちの方が早いだろう。僕も嚮団側から調べているけどとんと出て来ない。ちょっと出てきた分は後で話すけど胸くそ悪いよ? まあ、僕も夢幻会の一員だし、会合のメンバーではあるけれどうちの身内のことも色々あって出席率悪いからね」
謝るV.V.に立場が立場だから仕方が無いと諭す他のメンバー。実際V.V.はブリタニア皇室の外で色々と動いているのだ。普段は邸でアホの相手をしたり、娘の相手をしたり、弟から預かっている子供達の様子をみていたり。あと緑茶ばかり飲んでいるが。5,000円もするお茶を飲んでいると聞いてアホが呑み散らかしていったときは怒った。ハイパー・ジークフリードで奴の息の根を止めてやろうと思った。
山本が実際の処はどうなのだと聞く。彼は彼で現在ヴェルガモン家のことで色々あり会合に出られないことが多い。ヴェルガモン家の婿に入ることが決定しているために。
「まあ、とりあえずわかっている範囲はこれくらいだ。荒削りなのは許して欲しい。正直白いカーテンの向こう側はほとんど見えなくてな。精々が現在の加盟国くらいしか調査できんのだ」
南天条約機構軍
集団安全保障機構
集団攻勢機構体
通称南天──南側諸国。正式名称を南天条約機構。
加盟国。
合衆国オセアニア:皇歴2019年
政体:特定思想に基づく民主共和制原理主義
首都:エリュシオン
陸海空三軍
総兵力:1,820,000+予備役 (徴兵制で事実上の国民皆兵制度)
陸地面積:8,614,526km2(マダガスカル自治州含む)
総人口:334,000,000
領土
オーストラリア+周辺島嶼
ニュージーランド
フィジー
ソロモン
トンガ
ツバル
バヌアツ
サモア
米嶺サモア
クック諸島
南ポリネシア(史実フランス領ポリネシア+ヘンダーソン島・ピトケアン島)
モーリシャス
セーシェル
チャゴス諸島
コモロ
イースター島
サライゴメス島
合衆国オセアニア・マダガスカル自治州
政体:民主共和制原理主義
州都 メリナシティ
陸海空三軍
総兵力:420,000+予備役
総人口:52,417,000
旧メリナ王国だったオセアニアのアフリカ方面の拠点。
現在は自治政府が独自に行政を動かしている。
オセアニアの人口変遷は少々無茶ですが、大昔から存在した国家と言う事で、徐々に徐々に増加していき、日本・ブリタニア・中華と同じく近代に入ってから爆発的に増加。
現実と違いサクラダイトを除く殆どの資源を自国で賄っている。サクラダイトは採れるも日本やブリタニアのように豊穣ではない。
更なる生存権の拡大を図りアフリカ・東南アジア・南ブリタニアを欲したが、東南アジアは日本に、南ブリタニアはブリタニアによって阻まれる。
現在世界を舞台に暗躍しつつ、他の列強の隙を窺っている。
旧大洋州連合
政体:民主共和制原理主義
首都:オセアニアの直轄地
陸海空三軍
総兵力:適正年齢の成人
陸地面積:ほぼ海
総人口:100,000~200,000
領土:南太平洋・赤道太平世の一部
日ブ太平洋戦争の際に中立政策をとったことでオセアニアに侵攻され併合された、元中立国家。
現在は民主共和制原理主義となっている。
合衆国東アフリカ
政体:民主共和制原理主義
首都:ダルエスサラーム
陸海空三軍
総兵力:886,000+予備役 (徴兵制)
陸地面積:2,165,394km2
総人口:142,576,800人
領土
タンザニア
ケニア
ソマリア
一応独立国家の体を成しているがオセアニアの属国でしかない。
タンザニア州西部にはE.U.側植民地と跨る形でサクラダイト鉱山がある。
イエメン民主共和国
政体:民主共和制原理主義
首都:アデン
陸海空三軍
総兵力:125,000
陸地面積:527,970km2
総人口:25,690,000人
領土
イエメン
東アフリカの属国。宗主国はオセアニア。
共産イラクとの窓口?
ニューギニア民主共和国(南ニューギニア)
政体:民主共和制原理主義
首都:ポートモレスビー
陸海空三軍
総兵力:186,000+予備役(パプアニューギニアと睨み合い劣勢な為、人口比率に対して兵力が多い)
陸地面積:350,934km2
総人口:4,406,600
領土
ニューギニア島南部と周辺島嶼
かつてニューギニア戦争の舞台となったニューギニア島南部に築かれたオセアニアの傀儡国家。
パプアニューギニアと国境沿いでの睨み合いが続いている。
イラク社会主義共和国。
政体:共産主義
首都:バグダッド
陸海空三軍
総兵力:1,000,000
陸地面積:102.8万㎢(中東戦争後の併合地域含む)
総人口:66,000,000(中東戦争後の併合地域含む)
領土:イラク・サウジアラビア北部・ヨルダン西部。
カメルーン民主共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ヤウンデ
陸海空三軍
総兵力:40,000
陸地面積:47.6万㎢
総人口:33,500,000
領土:カメルーン
民主主義中央アフリカ。
政体:民主共和制原理主義
首都:バンギ
陸空二軍
総兵力:25,000
陸地面積:62.3万㎢
総人口:5,590,000
領土:中央アフリカ
民主主義ガボン。
政体:民主共和制原理主義
首都:リーブルビル
陸海空三軍
総兵力:120,000
陸地面積:26.8万㎢
総人口:4,400,000
領土:ガボン
コンゴ原理主義共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:キンシャサ
陸海空三軍
総兵力:620,000
陸地面積:268.7万㎢
総人口:92,500,000
領土:コンゴ
ルワンダ民主共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:キガリ
陸空二軍
総兵力:120,000
陸地面積:2.6万㎢
総人口:18,130,000
領土:ルワンダ
ブルンジ民主共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ブジュンブラ
陸空二軍
総兵力:100,000
陸地面積:2.8万㎢
総人口:18,760,000
領土:ブルンジ
アンゴラ原始民主制共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ルアンダ
陸海空三軍
総兵力:312,000
陸地面積:124.7万㎢
総人口:43,260,000
領土:アンゴラ
民主原理性ザンビア。
政体:民主共和制原理主義
首都:ルサカ
陸空二軍
総兵力:348,000
陸地面積:75.3万㎢
総人口:33,280,000
領土:ザンビア
ジンバブエ民主共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ハラレ
陸空二軍
総兵力:175,000
陸地面積:39.1万㎢
総人口:25,400,000
領土:ジンバブエ
原理主義人民ナミビア国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ウィントフック
陸空二軍
総兵力:172,000
陸地面積:82.4万㎢
総人口:25,700,000
領土:ナミビア
ボツワナ原理主義人民共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ハボローネ
陸空二軍
総兵力:112,000
陸地面積:58.2万㎢
総人口:15,600,000
領土:ボツワナ
南アフリカ原理主義人民共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:プレトリア
陸海空三軍
総兵力:1,580,000
陸地面積:122.1万㎢
総人口:112,000,000
領土:南アフリカ
レソト原理性共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:マセル
陸空二軍
総兵力:65,000
陸地面積:3.0万㎢
総人口:3,200,000
領土:レソト
エスワティニ原理性共和国。
政体:民主共和制原理主義
首都:ムババーネ
陸空二軍
総兵力:80,000
陸地面積:1.7万㎢
総人口:1,700,000
領土:エスワティニ
総計二十一ヶ国地域が加盟。
「加盟国が一気に増えたね」
V.V.が言う。その通りで、かつての六ヶ国地域から、イラクがオブザーバー加盟して七ヶ国地域へ。
そして近年遂に中央アフリカ以南が動き出し、自らの意思で神に帰依するのだとして中央アフリカ以南全アフリカが加盟し、二十一ヶ国地域にまで膨れ上がった。
「南天はまだまだ膨れ上がりますよきっと。次は中東を狙いその次は」
「ジルクスタン。中華連邦かい? 全て遺跡のあるところばかりじゃ無いか。きっとトルコの遺跡も掠め取っていくだろうね。ユーロユニバースは南天には逆らえないから。情けない国だ。仮にも列強で有りながら相手国の顔色を窺いながらペコペコペコペコと。ちょっとは列強の意地でも見せて見ろってんだッ!」
「V.V.さん悪酔いしてますよ」
「V.V.殿、酒は飲んでも呑まれるな。ほどほどに」
伏見宮王がやんわり注意すると。
「まあね、自覚はあるよ、ただ情勢は悪い方向に向かって動いてる。僕の掴んだ情報では、空母戦闘群を8個群一気に増やすらしいんだよ南天が、そして通常戦力50,000,000、最大戦力80,000,000の死兵と呼ばれる正規軍を持ち、世界中に南天の神の信徒が南天の支配エリアまで含めると1,700,000,000いるらしい」
「じゅう、なッ」
倉崎翁が声を詰まらせた。
「正規軍の内訳で判明してるのは戦車などの戦闘車両200,000両。戦闘機などの航空機20,000機以上。主力水上艦艇が千数百隻だ。これが現時点」
「戦車200,000両だと?! KMFも合わせたらどんなことに?! それに戦闘機など20,000機以上とは?!」
「なッ、それは本当の?」
「本当の情報さ。情報を得てきた嚮団のその諜報員はその場で爆発して死んだって話しだった。良くやったとだけお悔やみの言葉と、ご遺族に見舞金として生涯分の賃金と退職金を渡したって。息子さんは立派に任務を成し遂げましたとね。僕がいたら直接謝罪したかった。僕が殺したようなもんだ」
V.V.の悲しみに重い口を開く伏見宮王。
「我が子が殺されたも同然だな。日本とブリタニアは家族故に。だが貴重な情報だ。空母だけでは無いだろう護衛艦艇や潜水艦、浮遊航空艦にKMF、奴ら一気に大軍拡を始めるぞ」
伏見宮王の言葉を受けこちらは猛烈な怒りを見せるV.V.
「だったらこちらも軍拡で対抗してやろうじゃないかくそったれの南天め!」
辻は一人静かにおちょこを傾けるが、その闇よりも尚深い闇を湛えた瞳は南天からの挑戦状に、敢えて乗ろうという判断を下した目つきであった。
「倉崎・スメラギ・ランペルージの各重工業部門に一斉注文ですねえ。南天には誰に喧嘩を売っているのか一度知らしめる必要があります。それで我々の身が危険に陥ろうとも」
分かっている。確実に狂信者は襲い来るだろう。昼に夜に夕暮れ時に。まるですれ違うようにあるいは超々射程からの狙撃。ギアスを使った方法など幾らでも考えられる。
正攻法以外もあり得る。ギアスを掛けた人間に一般人を装わせて刃物でドンだ。
「僕は大丈夫だけれど、君たちは充分気をつけてね」
V.V.はコード持ちだから不死身。頭を撃ち抜かれても心臓を刺されても死なないと安心するように伝えるが。これを辻は否定した。
「V.V.さんも大丈夫ではありませんよ。F号兵器の的にされないとも、それ以外の手段に出ないとも考えられます」
「例のニュージーランド北島付近の群発地震のこと? 僕には信じられないけどF号兵器以外でF号兵器に匹敵する強力な爆弾って具体的にはどんな物なの?」
ここで富永が割って入ってくる。
「まあV.V.殿下。俺的に言うとこの手が疼く兵器さ」
一連の流れを見ていた阿部が変わって説明する。
「V.V.殿下。単純に説明致しますと、中心核とその周辺を超高熱で焼き尽くし、周囲十㎞二十㎞。巨大な物なら50㎞は熱戦で服飛ばしてしまう爆弾ですよ。厄介なのはその後に人体に有害な猛烈な毒。放射能をまき散らすことでしてね。暫くその地を死の土地に変えてしまう。そんな爆弾です。この世界では原子配列が違うのか作れず。その代わりにF号兵器というクリーンな大量破壊兵器が出来たのですが」
「君たちも作ろうとしてたのか?」
「正確には太平洋戦争の戦中世代ですね。それだけの科学力はありましたので」
それが完成してたらブリタニアは灰になってたろうねと引き気味に笑うV.V.に、伏見宮があんなもの使わずともブリタニア全土爆撃計画とその準備もしていたので、どちみちブリタニアは灰になってましたよ。もちろん貴国よりの報復爆撃で日本も。
日本もブリタニアも灰になって金もなくなって国家崩壊していたでしょう。喜んでいたのはオセアニアだけ。私はね時々思うんですよ、客船沈没事故が両国の険悪化の遠因だった、あれ、オセアニアの仕掛けた罠だったのでは無いか、とね。
伏見宮の陰謀論に場が静かになる。確かにあり得た。よく考えたらあったねそれ。ありえたかもしれませんねえ。考えられぬでは無いな。
嶋田、V.V.辻、山本、言い出しっぺの伏見宮、あの富永まで陰謀論って言うか確実論じゃねえか。と言っている。倉崎翁は場の空気が悪くなるのを感じて。
「まあ、今回は南天の情報の一部もつまびらかにできたことだ。ここらでお開きにしよう。次はきちんとした会合で」
※
前世での激動の時代に比べ、結局そう変わらない時代。時も世界も変わりながらも、人はやはり変わらないということか。
しかし、時折感じるこの悪意は何なのだろうか。言いも知れない憎悪を何処かから感じるのだ。自分に向けられているのだろうか。
そう考えたこともあった。だが、それがどうも違うようだと気が付いたのは、富永やV.V.と一緒に呑んでいたとき。
悪意、憎悪は二人に対しても向けられていたのだ。どこからむけられる気配なのか? 気配察知能力などという物に長けていない嶋田には何処から来る物か分からなかった。
そんな不気味ながらも平穏な日々、嶋田は後進の指導を終え、漸くのことで政界を引退はした物の。結局裏方として、政治の実権を握るハメになってしまっていた。
人生150年が下限年齢。平均200歳前後まで生きるのが普通である現代社会でいつまでも、60歳定年制はおかしいと定年を100歳に引き上げるべきだという声も上がっている。
枢木政権という人形を使った人形師による世界相手の劇場。手を変え品を変え場所を変え。繰り返される演出には、山本も、辻も、杉山も、倉崎翁も、阿部も、近衛も、富永も、伏見宮王も、V.V.もみんな関わっている。
正確にはV.V.だけは日本の政治家ではないので、会合でも夢幻会ブリタニア代表として出席していた。この人形劇はある意味では100歳定年に対する答えの一つかも知れなかった。60過ぎたら裏から操れば良いんだよという。
最も夢幻会の仲でも現役復帰を果たしている者複数。村中孝次など普通に現役バリバリで定年が来ようが関係なく日本の為にと働く気満々だしだし、山本も奥さんに成る予定のリーライナ・ヴェルガモン卿というまさかのブリタニアの大貴族と、第8.5号機エナジーウィング機で二人乗りして、騎から降りたとき、丁度近くを飛行中だった斑鳩級浮遊航空艦『庵戸』に緊急着艦させてもらってえおったらしい。
何をやっているのだろうか?
そんなある日のこと。彼は行き付けの飲み屋で一人の酔っぱらいの話を聞いていた。
「なぜだっ! なぜなのだァァぁぁっ!!」
「ああもう、他のお客さんの迷惑になりますからもう少し静かにしてくださいっ、正体がばれますって」
一息に大ジョッキを煽り、ビールを一気飲みした身体のごつい初老に見えてまだ中年前。人生150年が下限寿命にして200年を超える長寿の種族となった日本人とブリタニア人。
今年63歳の青年は大声で叫ぶ。これでもう三回目だ。
周囲の客が一斉に振り向くが「またあの人か」と、何事もなかったようにそれぞれの談笑に戻っていく。
世界的に有名な彼の男も、この店の常連達にとってはさほど気にならなくなっていた。表向きの名としてランペルージの名があるからだ。
まさかそのランペルージグループの社長がこの人だとも誰も思わないので更に安心。ランペルージ姓だってそれほど珍しい姓でもないしね。
この男、それくらいこの店を訪れているのだ。それに一応申し訳程度に変装もしていた。
静かにしろと注意する俺自身も有名人ではあった、周りに其処と無くSPが溶け込んでいる。この男の周りにも当然としてSPは付いている。が政界を引退して暫く経っているし、男の強烈な存在の前には霞んでしまっているので、助かっていると言えば助かっていた。
「こ、これが、これが叫ばずに居られる物かっっ! あやつは遙々日本にまで会いに来た儂に向かって鬱陶しいと言いおったのだぞっっ!!」
「それはまあ堪えるとは思いますけど、日ブの距離ならブースター付けた最新型の高速浮遊航空艦ならそれほど時間も」
「あやつは、ルルーシュはそんな子ではなかった。昔は“大好きなお父さん”という作文を書くような、父思いの優しい子だったのだ……それがっ、それがなぜこうなったのだァァぁぁ」
日本ではまず見ない、豪奢な白髪を幾つものロール状に巻いた髪型の男の名は、シャルル・ジ・ブリタニア。
何を隠そう、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝その人である。
とても家族思いな彼は、数居る子ども達の中でも、日本に留学中のアッシュフォード高等部三年間もなく卒業の第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと、その妹アッシュフォード学園中等部三年間もなく卒業ナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女を殊の外溺愛している。
それは子煩悩を通り越して鬱陶しいほどに。
ルルーシュ皇子が日本行きを決めたのもそれが原因と言っていい。とにかくウザイ父親から距離を置きたかったのだ。本人が盟邦日本で勉学に励んでみたいと言っていたから、それも嘘では無かろうが。
ルルーシュ皇子とナナリー皇女は初来日のに挫折感を味わったのだという。ビルにしろタワーにしろ、日本は世界一ばかりで溢れていたからだ。ペンドラゴンこそが世界一だと考えていた二人にとって、東京は余程にショックだったらしい。
まあ1,000m超えのビルとか、2,000m超えのタワーとか、700,800,900mが当たり前の高層ビル建築の町並みとか見たら、そりゃぶっ倒れるわ。
当然そんな、息子、娘を心配してお忍びで様子を見に来たりするシャルルだが、そのたびに邪険にされてはショックを受けて、友人である嶋田と、日本に赴任中のラウンズの一人を連れてやけ酒を飲むという、これも致し方なしな、お決まりのパターンになっていた。
(ああ、もうこんな時間か……、それじゃそろそろ来るな……)
息子に冷たくされて悲しむシャルルを慰めていた嶋田がそう思って時計を見ていると、それを待っていたかのように簡素な作りの店の扉がガラッと開いた。
噂をすればというか、毎度のことなので大体この時間と分かってしまう辺り、この個性の強い皇帝陛下との付き合いも長いのだなと思う、幼なじみだもんな。もう半世紀は付き合ってきてるんだよなあ。
「シャルル、迎えにきたよ」
そう言って店に入ってきたのは、足首まで届くほどの長さの薄い金髪と、表が黒で内側が紫のマントを着用し白を基調とした司祭服を着た、10歳前後に見える少年。
「こんばんはV.V.さん」
「こんばんは繁太郎。いつも弟に付き合ってもらって悪いね」
「いやまあ、友達ですからね」
この子どもにしか見えないV.V.さんは、シャルルさんの双子の兄であり、これでも御年63になる歴とした大人だ。
幼い頃に不老不死となっているため肉体が年を取らないらしく、いつまでも経っても見た目が変わらないという不思議な人である。
当然、俺はこのV.V.さんとも幼なじみで、昔は良くブリタニアのジ家の離宮でよく遊んだ。うちの領地にも良く来てくれたけど。
『夏は涼しいけど、冬は猛烈に寒いよね繁太郎の領地』
まあね、そりゃカムチャツカですから。日本名神坂。嶋田家の領地で領地面積は170,800㎢で、人口は10,000,000とちょっと。出稼ぎの人口とか合わせたら15,000,000~16,000,000にはなるんじゃないかな? 大きすぎだろ我が領地。
で、そんなV.V.さん、彼は現在ルルーシュ皇子の後見人もしていたりする。
甥っ子から日本留学の相談と後見を頼まれた際、承諾したらしい。伯父様、もう日本で10年以上住んでるベテランで、日本人ですから日本のことなら伯父様ですよルルーシュ皇子殿下。
「まったく、いい加減子離れしないと、その内家族の縁切られちゃうよ?」
「オール・ハイルぅぅぅぅゥ、ルルーシュぅぅぅぅぅぅゥ」
既に半分寝ているような状態のシャルルには兄の言葉が聞こえていない。
「ルルーシュ皇子、そんなに嫌がってるんですか?」
「本人は大切にされてるからこそ構ってくるんだって分かってるみたいだけど、18にもなってやることなすこと口出しされたら嫌にもなると思うよ。いつだったかな。三者面談のとき『伯父上、明日の三者面談なのですが、伯父上が来て頂けませんか』って僕に頼んできたからね。僕も伯父であの子の後見人だし、可愛い甥っ子の頼みでもあるから行ってきたけど、本来シャルルかマリアンヌが行くべき物なのに」
どれだけ嫌われてるんだブリタニア皇帝よ。
「それは……シャルルさんがそのこと聞いたら……」
「ショックで引き籠もっちゃったりするかも」
「は、はは……」
(ブリタニアの皇帝が親子喧嘩で引き籠もりになんてなったら、マスコミにとって格好の餌だろうな……シリアスには南天が食いつきそうなネタだ。どちらにせよ碌なものじゃないな)
「それじゃ僕はシャルル連れてこのままホテルに向かうよ。家に連れて帰ってもいいけどルルーシュが嫌がりそうだからね」
「わかりました。それじゃ私は彼女を連れて帰ります」
「うん。その娘にもよろしく言って置いて。それじゃ君も気を付けて帰りなよ」
「ええ、V.V.さんもお気を付けて」
※
「さてと、こちらも帰りますか」
シャルルさんとV.V.さんを見送った俺は席を立つと自分の隣に座っていた人物を見る。
年の頃なら二十歳前、正確には19歳。2019年の5月3日に二十歳を迎える。
表の生地が黄緑色、裏地が紫色のマントを着た、腰の下まである真っ直ぐな長い金色の艶やかな髪が美しい少女。いや、もう女性と呼ぶべきだろう。
日本に赴任中のブリタニア駐在武官で、現在宿舎として俺の家に同居中である。
ブリタニア皇帝シャルル専属の騎士ナイトオブラウンズの末席、ナイトオブトゥエルブ。
そのブリタニア最強の騎士の称号を持つ彼女の名は、モニカ・クルシェフスキー
西海岸諸侯の盟主とも呼ばれる名高きクルシェフスキー侯爵家の娘でもある。
正義は等しく平等に。騎士は常に強くあらねば成りません、平等なる正義を降り注がせるためにも。人種によって差別をするユーロユニバースを私は好きではありません。
南天は、良く分かりません。南天は、平等なのでしょうか。
平民も貧民も、貴族も皇族も関係ない、全てに等しき正義を。
いつも真っ直ぐ純粋で。正義を貫き戦う純潔の騎士。術らしい生き方だと思う。美しい生き方だと思う。億を超える人間を殺してきた俺には眩しすぎるよ君の在り方は。
「ふふ、しかし、君も大変だなぁモニカさん」
19歳と年齢的には日本の法律ではアウト。碌に酒も飲めない彼女だが、しかし、皇帝陛下に付き合えと言われれば飲むしかない。
それもまた皇帝に忠誠を誓う騎士の務めである。
「よっこらせっと」
すっかり酔いが回って、泥酔状態で眠っているモニカさんを背負う、俺。
身体の前に流して赤いリボンで束ねられた彼女の長い髪の房が、俺の肩を跨いで流れ落ちる。
頬や、首筋を、さらさらと擽る髪から香る甘い芳香は、酔っていても分かるほどに、いい匂いがした。
「ん……」
「ん? 起こしてしまったかな?」
俺の首筋から肩に顔を埋める格好のモニカさんは、歩く振動で目を覚ましてしまったようだ。
「ん、んう……? ……嶋田……さん……?」
「ああ、ああ、そのまま寝てていいよ。かなり酔いが回ってるんだから無理に起きなくてもいい」
「あの……陛下は?」
「お兄さんが連れて帰ったよ、君にもよろしくってさ」
「そう、ですか、皇兄、殿下が……。その、いつも……すみません」
「別に大した事じゃないさ。19歳でお酒飲めない君に飲ましてるんだから、大人としてこれくらいはさせて貰わないとね」
来年にはモニカさんも成人だがね。おじさん最後の孝行ってところかな。
「……嶋田さんは……優しい方、ですね……」
俺は優しくないよ。君のように気高く美しい女性じゃない。どれだけの人間を殺してきたか。君が識ればその剣で立ち向かう前に、おぞましさで逃げ出してしまうだろう。
「どうしたんだね急に」
「いえ……なんでも……ありません……」
※
私が日本へと赴任した際、シャルル陛下の友人として紹介された一人の男性、嶋田繁太郎さん。
現在ブリタニアの最友好国であり、親族と呼べるほどに親しい関係を築く、大日本帝国を率いていた人物。
今はもう引退して隠居生活を送る彼。人生200年時代なのに60で引退とはどうしてと気になり聞いてみると、65歳から年金が貰えるからねえ今の社会システムでは。
それにおじさんが後進に道を譲らなかったら後が育ってくれない。就職したいときには再就職するさ。当時16歳の私の頭をぽんぽんと撫でててくれるその姿は、とても優しかった。
私の周りには厳しい人しか居ない。
帝国最強の騎士ナイトオブラウンズ。ナイトオブトゥエルブとして誰もが強さを求めてくる。
名家であり、有力貴族であるクルシェフスキー家の一人娘として、将来は当主となることを求められる立場に在る私には、家族ですら厳しい。
それは私が最強の騎士の一人であり、貴族である以上仕方のないことなのだろう。
すべての人に年齢も性別も階級差も人種も関係ない、すべての人に等しき正義が降り注がれて欲しい。その思いで剣を持つ私には、甘えは許されないのでしょう。
そんな私にとって、彼は、初めて出会った甘えさせてくれる人。
彼は、貴族や騎士としてではなく、一人の少女として私を見て接してくれる。
甘えだとも、ただの理想でしか無いとも揶揄される私の夢を、素晴らしい、素敵な夢だ。きっと叶えられるよモニカさんならきっと、そう応援してくださる。
それが、私には嬉しかった。
嶋田さんは、嶋田繁太郎さんは、甘えの許されない私が唯一甘えられて、年相応の顔を見せられる人なのだ。
背負われている私は、ぎゅっと彼にしがみつき、その首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
(嶋田さんの匂い)
還暦を迎える男性の匂い。
嫌がる人の方が多いだろうと聞く、その優しい匂いが、私は大好きだった。
※
「おやじ臭でもしてるかな?」
それとも、吐き気をもよおしそうなほどのおぞましい血の匂いでもしてるかな。
ナイトオブトゥエルブ、最強の騎士故に。血の臭いには敏感だろう。粘り着いた人の憎悪には。
「……いいえ、いい匂い……です」
でも、彼女は。16歳の頃から俺が預かっている女性は。これを否定する、ただ、いい匂いだと。
ふと、油断すると、涙が零れそうだった。俺の手はこんな純粋な騎士に触れて良い物じゃ無い。
どれだけの血をこの手は吸い上げてきたのだろうか。この手で聖人の様な在り方の彼女に触れるとき、いつも自分で自分が許せなくなるんだ。
でも、それを表に出すことは出来ない出しては成らない。V.V.さんを除いた仲間達と共に、永遠に背負っていかなければならない罪業なのだから。
「そ、そうか……君の髪も、その、いい匂いがするね……」
俺の肩口から身体に沿って流れ落ちている、赤いリボンの巻き付けられたモニカさんの長い金色の髪の房が、右に左に揺れていた。
俺に匂いを付けようとするかのように、俺の服の上を撫でて揺れる、束ねられた金糸。
そこから漂う香りに鼻腔を擽られながら、俺は年甲斐もなく高鳴ってしまう鼓動を抑える。
最初は丁寧ながらも硬い物腰だったモニカさん。
貴族としての、騎士としての自分を全面に出し、事務的な遣り取りとしか思えない雰囲気で接してきていた。
しかし、それは日を追うごとに少しずつ変化していき、最近になって漸く年相応の顔や反応を示すようになった。
同居人としてその方が接しやすいし、なにより嬉しい。
目に見える形で親しくなり、仲良く慣れたのだから。
だが同時にこれは少々行き過ぎでは? と思うことも多々見られるようになったのだ。
今のような状況の時に身体を匂ってきたり、休日などに二人で歩いていると腕を絡めて、更には身体を押しつけてきたり。
それに基本的には穏やかで物腰丁寧な彼女は最近不機嫌になることが多くなったように感じられた。
(怒らせるようなことはしていないのになぁ)
その都度そんなことを考える彼だったが、そこにはある共通点があった。
それは彼が女性と会っているときである。
付き合いの上での関係であり、特別な関係を持つ相手はいないものの、相手の年齢素性に関係なく、とにかく機嫌が悪くなるのだ。
飲み会などで夢幻会の仲間達に相談したことはあったが
『死ねっ! 氏ねじゃなくて死ねぇっ!!』
と、罵倒されたり。
『せいぜい夜道には気を付けることですね』
などとよく分からないことを言われたりとまるで意味をなさなかった。
「寒くないかい?」
「マントを着ているので大丈夫です……。それに……こうすると」
モニカさんは無理に身体を押し付けてきてマントを広げると、俺の身体の前に掛かるくらいにまで覆い被らさせてしまった。
「……ッ!!」
彼女の頬が俺の左頬に擦り付けられ、彼女の長い金色の横髪もまた俺の頬を強く擦る……ふわああ、あ、甘い匂い……頬の温もりと、髪の感触が、気持ちいい……うう、いい……普通に、気持ちいい。
それに、俺の身体を覆う黄緑色のマント。モニカさんの匂いの染み付いたマントがまた香しい匂い──って、俺変態か! い、いかん。本当に全身が気持ち良すぎて。
「あの、このまま少し、強く、引っ付いていてもよろしいでしょうか?」
「ん?」
「嶋田さんのお身体……とても、温かいですから……」
ああ、そうだよな。人肌は確かに暖かいよな。その美女が相手だからってわけじゃないぞ。蒼い瞳マリンブルー? それともスカイブルー? 蒼い蒼い澄んだ瞳。
宵闇の中のでもきらめき輝く、艶めかしく美しい金色の長い髪は臀部を隠し、その下へと伸びる真っ直ぐな髪。
整った、整いすぎた目鼻立ちに、シミの一つ無い抜けるような白い肌。容姿が美しいだけじゃ無く、その掲げる理想と精神までもが美しい。
たぶん、こんな美女、二目とお目にかかれないのだろうな、と、思う。それは、確かに思う素直な気持ちだ。
「ははっ、ちょっと照れるなこんな美女の着ているマントをお裾分けなんちゃってしてもらってさ、こんな美女とこんなに近づけるだなんて」
「び、美女じゃ無いですっ! わ、私なんて普通ですっ!」
本気で言ってるんだろうなこの子、嘘付けないからなあ。そういう奥ゆかしいところもまた一つ、君の美しいところなんだよモニカさん。
「君が美しくないのならば世界の七割は美しくないよ。モニカさんはもう少し自分の美しさに気付いた方が良い」
「……もでしょうか?」
「え?」
「嶋田さんも、私のこと、美しいと思ってくれているのでしょうか?」
「え? あ? え?」
ああ、いや、それは。
「美しいに決まってるでしょう」
あ、声に出ちまった。
「モニカさんの身体も温かいし、モニカさんは美しいし、モニカさんのマントも暖かいし良い匂い。い、いや~、今夜は人生最良の日かなぁ~」
俺の真横、頬にくっついているモニカさんの頬が、少し暖かくなったように感じた。
「でも、本当に暖かいよ。マントとモニカさんの身体と、ほっぺた」
「は、恥ずかしい、ですね。で、でも、心の中がほわほわします、これは何でしょう。暖かくて切なくて、胸の奥がきゅっと締まる感じ。でも、悪くない感覚なのです」
「も、モニカさん、それ俺もだ……なんだろうねこの切ない気持ち」
軽口を言い合いながら家路を急ぐ。
師走の風は冷たいが、二人の心はほっこりと温かい物に満たされていた。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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ルルーシュ(休日)×ミレイ
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オデュッセウス×皇神楽耶
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-