ネタバレがお嫌な方は読まないようにお願いします。
大凡見当がついておりましたよ。彼女が彼の娘かどうかなんてのは。
楽隠居? と円卓の少女 第2話
辻がトレードマークの丸眼鏡をくいっと上げて答えた
「さすがは嶋田さんですね鋭さでは中々です慧眼です」
「なに言うんですか、鋭さで我々一なのはあなたでしょうに」
「いつ気付きました彼女が彼の子だと?」
「およそ最初からです。でなければ態々ブリタニア皇帝が日本の宰相とは言え、一政治家の下を訪ねて預かって欲しいと頭まで下げますか。あちらの方は育ての親でしょう。本人から伺いましたが厳しい教育を受けていたそうで。それこそ皇室の様な。そりゃそうでしょう。本来ならば皇室に入る方なのですから」
「ご本人は」
「気付いています幼い頃に家で血液検査をした時、両親とも違ったそうですから。母親はすでに亡くなっておりました。元は栄えていた貴族だそうですが、皇室に弓引いた上に南天と繋がっていた貴族グループの主犯格とされてしまった貴族の娘だったそうで、一族郎党処刑されたそうです……彼も苛まれたでしょう。自らの手で産みの親を殺すのですから。今の彼女が何を目的として動いているのかは分かりません。しかしその忠義は本物です。もしかすると自分と言う存在を知らしめたいのかも」
阿部が言う。
「勘が鋭いのも危険ですね、大凡当たってますよ嶋田さんのそれ。まるで見て来たかのように。実際は観てたんじゃないんですかコードギアス」
「だから見てませんて。実際に皆さんの言った登場人物のほとんどを知らなかったでしょう
山本が
「コードギアスコードギアスと皆は言うがそのコードギアスを俺は全く知らんのだが?」
【そのコードギアスの美少女キャラの一人と恋人になっとるいっくんは発言せんでよろしい!!!】
このあたりは皆の意見が合う。それもそうだ。リーライナ・ヴェルガモンを恋人にして婚約まで交わしている山本五十六に発言権はないのだ。理不尽だがそういうことである。皆恋に飢えているのだ非リア充は。
とまあ感がするどうと言う阿部の告白に嶋田は自嘲気味に返した。
「変なところで感が良いんですよ。彼が三年も彼女を俺のところに放置している意味。これは恐らく恐怖でしょうね。家族の争いに万が一巻き込ませたくない。南天の魔手より逃れさせたい。ギンツブルグ家の生き残りの人間だと知られる訳には行かないという。ですが南天の魔手から逃れさせたいというのならば我々に預けるのは悪手です。推測ですが南天が狙っているのは」
これを継ぐ伏見宮王。話の流れを聞いていて合いの手を入れたのだ。本来これは嶋田と彼女の話なのだが。南天が絡むのならば話も変わる。
「我々だろうな。一連の動きの中で我々だけが意図的に外されてきた今日までは。明日がそうであるという保証はどこにもない。彼が彼女を逃がす最も適切な場所は、彼の侯爵家の地に帰してあげる事だ」
ここで嶋田が口を挟む。
「本人が嫌がっているんですよ。厳しい貴族、本人は知らずのうちに皇室の訓練を受けさせられてきた場所だから、辛い思い出が多いのでしょう。まあ、最近は実家に顔を出したりしてご両親との蟠りも解消されてきたようですが」
富永が面白くなさそうに続いた。彼もまたコードギアスを知っている一人だ、その後の話ももちろん知っている。
「最初に嶋田さんに伝えておくべきだったな。コードギアスのあらましを。彼女にとっちゃ父親であると同時に、母の仇でもあるんだよ。あのおやじはな。言っちゃなんだが原作では死んでも会えるから生き死にに特に意味は無い的な考え方持ってるクソの一人だ。この世界じゃまあ大分とましになってるどなあ。ただ原作にしろこっちの世界にしろ認知していなかったがためにな。こういった不幸が起きちまってやがるんだよ」
「いえ富永さん。知らない作品についてを聞かされてもたぶん覚えられません。精々が主要人物の名前くらいで。そのお気持ちだけ受け取っておきます。ありがとうございます」
杉山が続いた。
「何にしろ、彼女がやんごとない身の上であるのは確か。扱いを間違えれば戦争に発展しかねんほどの。全く彼もまた厄介な人物をお押し付けてくれたものだ。辻、万が一の時は」
「ま、我々は連合国家的な形を目指しています。二国二制度性の日本ブリタニア連合帝国的な。ですから本来戦争になる相手ではないんですが、万が一の可能性を考えるなら勝てるように対策は練っています。万全の準備を整えて。その場合、彼女には永遠に故郷を失わせる事となり、その憎しみは我々に向くでしょう。嶋田さんには愛憎入り混じった感情が」
そんなに簡単なのかねと近衛が言うと。
嶋田がなんで俺が愛憎? というと、みんなが鈍いんだよあんたはと突っ込みを入れる。
「簡単ですよイエローストーンに穴を開けてやるだけでブリタニアは滅びます。その後のことは知りませんがね」
おいおい世界が滅びるぞそれ。
「まあまあ皆さん大袈裟なんですよ。私は彼女の下宿先の大家に過ぎません。また彼女は我々の正体も知らない。辿り着く方法は無きに等しい。ま、孤独の中でずっと喘いでいた彼女に手を差し伸べるのが精々私にできる事でしょう。私は彼女の事を厄介者だともややこしいとも思ったことはありません。子は親を選べません、そして親も子を選べません。彼女ら親子は偶然にも分かたれてしまい、父自身によって引き起こされた悲劇によって父であることも子であることも言い出せない環境に置かれた。私がお聴きした原作の話よりかはずっと救いがあると思うんですけど、それもまた錯覚かもしれません」
倉崎翁が締めにかかる。
「まあみんな、何もこんな日に、こんな議題で寂しく悲しく暗い気分になる事も無いではないか。今日は聖夜。何かが起きるかもしれんメリークリスマスという事で締めましょう」
『メリークリスマス』
「一杯飲みに行くか?」
「俺はリーライナと予定が」
『リア充死ね』
がた、がたがた。
一人また一人と席を立ち行きやがて円卓には誰も居なくなっていた。一人枢木ゲンブが皆に威圧感に充てられ心臓発作を起こしかけていた以外は。
『みんな~、今日は何の日か知ってる~?』
『は~いっ!』
『じゃあ何の日かな~?』
『クリスマス~! サンタさ~ん!』
テレビから聞こえる無邪気な子ども達の声。私には、子供の頃に楽しい記憶はない。
みんな笑顔でサンタクロースの話をしている。
夕方に放送されている子ども向けの教育番組の一コマだ。
「サンタさん……か」
自分以外誰もいない居間でぽつりと呟いたのは長い金色の髪の女性。
目の上辺りで切り揃えられた前髪のせいか少し幼げな印象も受けるしとやかな風貌。
テレビの画面に向けられた空の色を思わせる碧く澄んだ瞳。
真っ直ぐに腰の下まで伸びた髪の一部は顔の両側から身体の前に流されて赤いリボンで束ねられていた。
彼女はその髪の房を指で弄びながら愁いを帯びた表情を浮かべている。
一見すると深窓の令嬢を思わせる彼女。いや、深窓の令嬢である事に違いはない。
但し、それでいて鋭い切れ味を持った剣でもあるのだが。
神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア直属の騎士にして最強の12騎士の末席に座する貴族の少女ナイトオブトゥエルブ モニカ・クルシェフスキー。そう、あの人の騎士。
それが彼女だった。
モニカは現在ブリタニアと並ぶ大国であり同盟国でもある大日本帝国に駐在武官、正確には駐日大使館附き駐在官として滞在している。
下宿先としてシャルルの友人であり日本の元総理、嶋田繁太郎宅に住んでいる彼女だったがいまその大家たる嶋田の姿はない。
なんでも急な用事で遅くなるとのことで先に寝ててと電話があったのだ。
「あの人の居ないクリスマス……」
彼女は今日という日を嶋田と共に過ごしたかった。
由緒正しい厳格な貴族の家に生まれたモニカは幼少期を除いて厳しく育てられてきた。
その為、物心ついた頃からクリスマスの祝い事などしていない。
パーティーなどは幾度となく行われていたが、それは所詮貴族の社交パーティーでしかなく心から楽しんだ記憶が殆ど無いのだ。
かといって両親が彼女に愛情を抱いていないという訳ではない。
一般的な家庭と同じように娘を愛していたし大事に思っている。
しかし一人娘であり、いずれはクルシェフスキー侯爵家の当主となる娘を甘やかせる事はできない。
自分でも分かっているのだが理解することと納得することは違う。
(お父様もお母様も私のことが嫌いなんだ)
幾度となくそう考えたし今でもたまに思うことがある。
ただ、ある時知った。血液検査で。父と母、二人ともに合わない血液をしていた事を。
では、私は誰か? 調べて行った、出生を辿っていったすると行き着いた先はギンツブルグ家と彼だった。母を殺した彼憎むべき存在のはずなのに、私は現状を受け入れている。母の仇である彼、でも彼をそうさせたのはギンツブルグ家に他ならない。何が悪くて、どうすればよかったのか。きっとあの当時誰にも答えは分からなかったのだろう。だから私の復讐は、いつか、いつの日か彼に私が彼の子であることを明かす事。ラウンズとなったいま彼の中で私の存在は大きくなっている、だから、故にいつ打ち明けるか。そのときどうするのか。私は決めなければならない。
ただ、それとは別で、彼が紹介してくれた人には私は暖かさと優しさをいつも頂いている。彼が居るだけで楽しいと思える、彼が居るだけで優しい気持ちになれる、彼が居るだけで温かい。そんな彼女に惜しみない優しさと思いやりを与えてくれ、貴族の令嬢ではなく彼の子でもなくただの一人の少女としてこの三年間を接してくれた──嶋田繁太郎。彼だけが、きっと、彼だけが本当の意味での私の特別。私に惜しみない愛を注いでくださる方。
彼のいないクリスマスは寂しかった。ろうそくの火のついていないケーキを私はただ一人見つめる、特別な彼とのクリスマス。別に彼とクリスマスを祝う約束をしていた訳ではない。
ただこの日を共にして欲しかった。それだけだ。
こうして一人で居ると思いだすから。両親が本当の両親ではない事。
※
世界は争いに満ちている、それは私が生まれた時より変わらない。
大日本帝国と神聖ブリタニア帝国が率いる北側諸国。
合衆国オセアニアが率いる南側諸国通称南天。
ユーロピア共和国連合は南天に媚を売り、中華連邦は100年前の日中戦争から旧敵国扱いのまま。
世界は多岐に分かれながらも大きく北側南側へと集束し遂には世界を滅ぼすF号兵器まで生み出し、およそ世界で300,000発のF号兵器が生み出され北と南はにらみ合いを続けてきた。
それは現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの体制となっても変わらなかった。彼が皇帝となった直後反乱がおき空白の三十分事件の時に何かがあった。彼自身も覚えていないなにか「さあ、選択の時だあ」と響いた声だけが頭にこびりついているという。
絶妙なバランスで保たれていた世界情勢にも次第に南天の影がちらつくようになり、国内でも南天に通じる貴族や派閥が出始めた。
南天はその勢力を東アフリカ、中東の一部から、中央アフリカ以南や南アフリカにまで広げ勢力を拡大し、世界のパワーバランスは大きく崩れようとしていた。
不平等こそが悪である、平等もまた悪である、創造主に帰依し世界を新たに創造する事こそが正義であるのだ。
唯一神を信じ、唯一神に心奪われるものは世界中で続出していく。その波はやがてブリタニアにも訪れる。
だから私は欲したその唯一神にあらがえる力を。そして同時に全てはあの人への……。
「クルシェフスキー卿、着きました」
「ありがとうエレーナ、ではまた明朝ここに迎えに来てもらえる?」
「それはかまわないのですが……お一人で大丈夫なのですか?」
「ふふっ、副官のあなたにはお見通しなのね。でも大丈夫。ただ、報告に行くだけだから。しんぱいしてくれてありがとう」
「なにかあったら連絡をください飛んで来ますので。あなたになにかがあってはシマダ様がご心配なさいます」
「わかった。頼りにしているわ……嶋田さんには、彼にだけは心配をかけたくない」
私はエレーナと別れ歩いた。人気のない道を。
「ここは変わらない。まるで時が止まっているかのよう……」
すると老紳士が声をかけてきた。
「珍しい。こんなところに人がいるなんて」
「こんにちは。なんでも有名な貴族の屋敷があるとききましてね」
「有名かそれは悪い方に違いないな」
「ご老人は御存じで?」
「ああ、儂はこの屋敷の主……ギンツブルグ家に仕える使用人だったのさ」
「ギンツブルグ家」
「この辺り一帯を治める貴族だったんだ。領民に好かれるご一家だったんだ。十数年前まではな」
「十数年前まで……なにかあったのですか?」
「領主さまがな、皇族への反乱を企てたらしいんだ。かねてより皇族に対する不満があったらしい」
「その反乱が失敗し、お取りつぶしにあったのですね。皇族に立てついたばかりに……」
「なんとも愚かなことをされたものだ。娘さんが身籠られていたというのに……」
「そう……ですか」
「ああ。娘さんちょうどあんたくらいの歳の……うん? そういえば、あんた似ておるな」
「似ている? 私が誰に?」
「ギンツブルグ家の御令嬢にだ」
「ふふっ、御冗談を。私はモニカ・クルシェフスキーと申します」
「モニカ・クルシェフスキー……どこかで聞いたような……」
「私の名など知らないまま過ごす方が良いのですよ」
「それは、どういう……」
「ふふっ。言葉のままの意味です。それよりもご老人、こんな小娘のお相手をしていただいてありがとうございました。予定がありますので、そろそろ失礼させていただいます」
「そうだな。ここはあんたのような娘さんが一人で来るような場所じゃない。気を付けていきなされ」
「ありがとうざいます、では……」
一人残った老人は呟く。
「モニカ・クルシェフスキーか、不思議な娘さんじゃったな……モニカ? 確か、この間あらたにナイトオブラウンズに選ばれた騎士様もそんな名前だったような……」
渡すは老人との話を終え、墓地へとたどり着く。誰も参ることの無い墓地へ。
「お母様、報告に来ました 私、モニカ・クルシェフスキーが……ナイトオブラウンズと認められたことを」
かつてこの辺り一帯はギンツブルグ家が治める領地だった。
商才に恵まれた領主は、交易にも意欲的で港は良く栄えていたと聞く。
十数年前までの話です。
「ノンナ……あなたも来たのね」
「はい。あなたさまが戻られたと街の者から聞いたもので……」
「耳が早いのね」
「今となっては小さな街ですから……」
「よそ者は目立つ、ということかしら。それもそうよね。この街には人がいないもの。それも、この街が人々から忌避されるようになったから。裏切者が治めていた土地だと……」
「すべては、あの反乱が原因です。領主さまが皇族に対して起こした反乱が……」
「イコニリストの乱ね。皇帝専制打破を訴えた……」
「そうです。その旗頭となったのがギンツブルグ家のご当主様だったのです……」
「どうしてそんな……ギンツブルグ家古くからブリタニア皇族に仕える名家だったのに」
「時代の風にあてられたとも。南天にそそのかされたとも言われております」
「あの頃は大貴族連合が皇族批判を強めていた時期、それを南天が操っていたとも言われていた時期です」
「もとよりご当主さまは、皇帝専制を疑問視されておられましたから……」
「そうして時代の風を読み違えてしまったのね」
「自分の愛娘がシャルル・ジ・ブリタニアの子を孕んでいたにも関わらず」
「……」
「ナターリャ様のことは不運でしたまさかシャルル様の子を身籠られようとは……」
「二人はどこで?」
「さあ。私たちにはわかりかねます。高貴な方々の集まりなのか、偶然出会ったからなのか。ナターリャ様はそれほど社交的な方ではなかったので、不思議に思った物です」
「では、ふたりが本当に愛し合っていたのかもわからないのですね」
「……はい、ナターリャ様の侍女であった私でさえ、おふたりが出会ったことを知りませんでした。しかしある日。ナターリャ様の体調がすぐれないことがあり、医者にかかりました。そこで妊娠していることがわかったのです。ナターリャ様はひどく動揺されていました。でも、それはすぐにご当主様の知るところとなります。医者がギンツブルグ家のかかりつけだったので、隠しようもありません。ご当主様は一人娘のナターリャ様の懐妊をひどく悲しんでおられました」
「……そう、悲しんでいたのね」
「今となって思えば、ご当主様が反乱を起こしたのは、ナターリャ様の懐妊が関係していたのかもしれません」
「ひどい話ね」
「ええ、本当にひどい話です。誰も授かった新しい命のことを想ってはいないのですから。そこからの凋落ぶりは話に聞く物語のようでした。仲間の貴族たちと共に反乱を起こしたご当主様でしたが、すぐにその動きを察知され……派遣されたナイトオブラウンズによって制圧されました」
「…………」
「頼りにしていた大貴族連合にも早々に見切りつけられて、関係性を絶たれ、梯子を外されてしまいます。ここにも南天の意思が介在していたという噂が後を絶ちません。ギンツブルグ家に待っていたのは、爵位はく奪だけではなく、一族郎党の処刑」
「血を根絶やしにする……。ブリタニアらしいわね。力を持つ者は、富も、名声も、地位も手に入れることが出来る。その逆もまた然り。力が無ければすべてを奪われる」
「はい。そこにきて、ようやくご当主様はナターリャ様のことを顧みられたのです。イコニストの乱が治められた頃には、すでにご出産され、ナターリャ様の腕には女の子が抱かれていたのですから。ご当主様は悔いました自分のとった行動が多くの人間の命を奪うことになる。せめて救える命はとできる限りの関係性を持ち、使用人たちを逃がしました。私もその内のひとりでした。他の者と違ったのはナターリャ様の御息女を預かったこと」
「…………」
「私はご息女とともに、ギンツブルグ家と交友関係にあったクルシェフスキー家に引き受けていただきました。そう。モニカお嬢様、あなたとともに」
※
嫌な記憶であり思い出。良き思い出であり真実の記憶。知りたいこと。知りたくない事。あの場所にはたくさんの逃げだしたいが埋まっている。泣きたい気持ち悲しい気持ちが、そんなとき、嶋田さんは言う。
「泣きたければ泣けばいい。泣きたいときにはわんわん泣いて。涙をだしつくせばまた元気がやってくるから。女の子ってのはそんなもんだ。それに君みたいな子供が涙を我慢するものじゃないよ」
そう言ってその胸で泣かせてくれたギンツブルグ家の悲劇の事もお母様のお墓の事も、ノンナのことも、彼の事も全部全部、泣きたい気持ちをその胸に受け止めさせてくれるのだ。嶋田さんあなたは、あなたはどうしてそんなにもやさしいのですか。
やがて夕食時を過ぎ時計の針が次の日に移行する時間になっても、優しい彼は帰ってこなかった。
彼女にはそれでも待つという選択肢があったし、そうしたかった。しかし明日もまた公務が待っている以上それはできない。
人の上に立つべき自分が周囲に迷惑を掛けるようなことがあってはならないのだ。
「………………寝よう」
心にぽっかりと穴が開いたような錯覚を覚えながら、突っ伏していたこたつを出ると、そのまま寝室へ向かいパジャマへと着替える。
『今日は何の日か知ってる~?』
『クリスマス~! サンタさ~ん!』
「……」
パジャマに着替えたモニカが、そのまま畳に敷いた布団に入って寝ようとしたとき、ふと夕方に流れていた教育番組の内容が思い出された。
『みんな良く聞いてね~? 今日はサンタさんがみんなにプレゼントを持ってきてくれるから、寝るときには窓のところに靴下をぶら下げておかなきゃダメだぞ~?』
『は~いっ!!』
実に子供だましの馬鹿馬鹿しい内容ではあったが、あの子ども達はみんな信じているのだろう。サンタさんがやってくることを
笑顔で、あれが欲しい、これが欲しい、と、自分が欲しい物を叫んでいた。
そのときの子ども達の笑顔を思い出したモニカは自分でも(何をしているのでしょうね)と思いつつ自分の靴下を部屋の窓にぶら下げていた。そして一言呟いた「……嶋田さんが、嶋田繁太郎さんが欲しい」なんて願いを願うのだろうか。ただ本当に欲しいものは、それだけだから。優しいあの人だけだから
黒い靴下は夜の闇よりも尚暗く見える為、もしサンタさんが来てもそこに靴下があるとは気付かないかも知れない。でもいいの。あの人がこの部屋に来てくれるだけで私は何もいらないから。
入ってなかったら見えなかったのだと思えばちょっぴりクリスマス気分を味わえるだろう。それでも、凄く寂しい。今は、彼の温もりが欲しい、彼に泣きつきたい。
そんなことを考えながら今度こそ寝ようと布団に入って目を瞑った。
「おやすみなさい……」
※
眠りについてからどれくらい経っただろうか?
部屋に人の気配を感じたモニカは、深い眠りから一気に覚め、布団から飛び起きて身構えた。
「何者ですか!」
伊達に円卓の騎士の末席に名を連ねてはいない。周囲で気配があればすぐに分かるし対処も出来る。
剣術は勿論のこと、体術その他の格闘技でも常人では計り知れない実力を持つのが彼女達、ナイトオブラウンズなのだから。
「あ、あわわ……」
そんな超人の域に達している騎士の殺気を浴びせられる方は堪ったものではない。単なる泥棒や不審者には対処のしようがないのだ。
そしてこの時、モニカの部屋に居た人物もまた、戦闘的な部分に於いては普通の人。たとえその両手は溢れてもなお余りある鮮血に濡れていても……。
モニカは相手がそれなりの訓練を積んでいた人間であると判断した物の、純粋な戦闘能力では自身よりも遥かに劣ることが分かった。
彼女はそれが分かっても構えを解かないし油断もしない。どんな相手であれ一瞬の油断が命取りになることを知っているから。
(え……? この、感じ……)
だが感じ取った相手の気配と目が慣れてくるにつれ見え始めたその姿に、彼女は自然と構えを解いた。
「や、やあメリークリスマス」
「……」
それは赤い服と赤いズボン、更に赤い帽子をかぶって口の周りに真っ白なヒゲを蓄えた老人──サンタクロースだったのだ。
「よ、よい子のモニカちゃんにプレゼントを持ってきたんだけど……おじさん驚かせちゃったかな?」
無論それがサンタクロースなどではないことなど彼女にはハッキリ分かっている。どんなプレゼントよりも最も欲しかったプレゼントなのだと。
何せよぉ~く知っている気配と声なのだから、多少の変装など簡単に見破れるというものだ。
それに変装が完璧であって、気配も違ったとしても心優しい彼の相手を、誰かと間違えたりなどしない。
「こ、こんばんはサンタさん」
嬉しいと同時にプレゼントと言われた瞬間モニカの最強の騎士の仮面はあっさりと剥がれ落ち、変わって年頃の乙女の姿になってしまった。
姿形は違っても、恋慕い待ち望んでいたあの人が自分へのプレゼント片手に目の前にいるのだから。
彼女は高鳴る鼓動を抑えながらちらりと時計に目を遣る。時刻は午前二時。完全なる遅刻であった。
「ほら、これが君へのプレゼントだ」
差し出されたのは赤い包装用紙に包まれた二つの箱。
それほど大きな物ではない。
「あ、ありがとうございます……あの、靴下を用意したのでそちらに入れてくださると……」
「おお、そうだったそうだった! いや、まさか君が目を開けちゃうとは思わなかったもので」
おどけたように言うサンタにモニカは「くすり」と笑った。
「さあさあプレゼントは入れたし、よい子は寝る時間だよ」
「貴方とお話していられるのなら悪い子でもいいですよ」
「困ったなぁ~」
「それに……」
モニカはサンタの胸に抱き着いた。今だけは、そういう彼女の頭をサンタは優しく撫でる。
「いいよ、いくらでも泣いていいんだ。女の子はそうやってつらいこと悲しいことがあった時はいくらでも、いつまでも、泣いていいんだよ。俺なんかの胸でよければね。また思い出していたんだね。毎年お墓参りに行くから思い出すんだろうね大切なお母さんのこと。俺はさ、モニカさんのお母さんの変わりにはなれない。でもこの胸で泣かせてあげることくらいはできるよ」
何が厄介な女の子だ、何が厄介者だ。この子は産まれが特殊なだけの普通の女の子なんだ
内に秘めたものが何かは分からない、何をやろうとしているのかは分からない。でも、それでも、この子は普通の女の子だ。厄介ものなんかじゃない。
「モニカさん、今日はクリスマスだ、少し遅れたけれど神様はきっと一つくらい奇跡を起こしてくれるよ」
「俺が優しく語り掛けると同時に一枚の便せんが懐から落ちる」
「名前は足長おじさん。モニカさんへ名も語れぬ臆病な足長おじさんだ。キミのことはいつも見ている。キミの活躍も、キミの強さも、キミが上り詰めた根源も、いつかキミと二人でお話がしたい。いつの日かキミが告白してくれる日を待っている。卑怯で臆病な足長おじさんより」
「うわ~~~~~~~っうう、うううう」
モニカさんはまた泣いた俺の胸で泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。三十分近く泣いたのではないだろうか。やがてひっくひっくとしたしゃっくりに変わり彼女は静かに眠りに落ちた。
泣きつかれた彼女を。サンタの胸で眠った少女をサンタはベッドへと寝かせる。
いい子は寝るもの。ゆっくりお休み続きは夢の中で、優しい夢をね。
無服のリボンは黒いリボン。なら君にはスカイブルーの瞳に合わせた青いリボンと。
そして黒い喪服とは正反対の、白いリボンを贈ったよ。
君に似合うか分からないけど、俺なりに選んだものだ。長さはいつものリボンと同じ長さだから丁度似合うと思う。
良ければ使ってほしい。それとこんな真っ赤な血で汚れた腕でよければいつでも抱いてあげるから泣きつてくれたらいいよ。
だが、だけどなあ。
「シャルル・ジ・ブリタニアよ。こういうのはなあもう引き返せない血まみれの俺なんかじゃなく、まだ引き返せる位置に居るお前がする事なんだぞ。自称臆病な足長おじさん」
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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ルルーシュ(休日)×ミレイ
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オデュッセウス×皇神楽耶
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-