帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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このお話しは蒼の混沌掲示板様にて創作されておりますスレッド【日本大陸スレ】の設定である国土が10倍に拡大、肥沃で資源豊かな日本列島となった日本を前提としたお話しとなっております。
カップリングは提督たちの憂鬱主人公、嶋田繁太郎とユーフェミアという形になっておりますので御注意ください。
拙作【帝都の休日・円卓の少女】系列とは異なり、年齢差の恋愛物ではありません。


オリジナル設定。
大陸ギアス・ルートその2短編。
角川スニーカー文庫コードギアス反逆のルルーシュ STAGE-0-ENTRANCEの背景有り。
漆黒の蓮夜の単語・人物背景を元にした要素有り。



コードギアス 反逆のシマダ
コードギアス 反逆のシマダ


 

 

 

 

 漆黒の髪。

 

 黒真珠のような輝きを持つ瞳。

 

 平凡な東洋人の容姿に、されど東洋人ではない。

 

 そんな一人の少年が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 深い眠りから目覚めた少年は、どういう訳か混濁している記憶を少しずつ掘り起こしながら辺りを見回す。

 

(ここは、どこだ……?)

 

 知らない部屋だ。

 

 内装も、周囲の様子も、自身の家の屋内とまったく異なる造り。

 

(俺は、確か……)

 

 家にいた。

 

 静かな余生を送る終の棲家で眠りに就いた筈だった。

 

 睡眠とは異なる、長き眠りに……。

 

(じゃあここは)

 

 少年の思考に浮かんだ答えは、たったひとつ。

 

(黄泉の国?)

 

 辿り着いた答えは、“それ”に帰結する経過を辿りココへ来たが故のものだ。

 

 この身は数刻前に時の終わりを迎え、その役目を終えた筈だとして。

 

(そうだ。俺は確かに死んだ筈だ)

 

 自分の身体のことだ。誰に言われるでもなく分かっていた。

 

 身体が思うように動かなくなった頃より感じていた己の死期。

 

 それをここ数日の間は特に強く感じていた。

 

 悟りの境地とでもいうのだろうか? 

 

 人間、不思議といつ頃かというのが見えてくるものだ。

 

 その予期していた通りに訪れた。

 

 予定通りに迎えた『その日』。

 

 彼は薄れ行く意識のなかで騒がしかった日々の情景が思い出しながら。

 

 “その時”を待っていた。

 

 仕事をしていたとき、ふと気が付けば西暦1905年──日本帝国海軍巡洋艦和泉の艦内にいた。

 

 そこで会社員であった自分……神崎博之が、嶋田繁太郎というまったくの別人に憑依してしまった事を知る。

 

 自らの人生で学んだ歴史とは大いに異なる世界の流れ。

 

 流れを変えたであろう者達との出逢い。

 

 それに連なる幾多の戦争と世界経済への介入。

 

 手を出すことなく封じた地域に。

 

 手を出さざるを得なかった地域。

 

 内部の膿を出すためとして、時に同志であった身内でさえも切り捨てながら破滅の未来を回避する努力を積み重ねてきた。

 

 しかし。

 

 その努力の甲斐もなく迎えた最大の難事──対米戦。

 

 確実なる勝利をもぎ取る為として、自然を利用した大作戦すら実行に移した。

 

 その後に訪れた先の読めない世界情勢。

 

 本来の歴史より外れた世界の流れに苦慮しながらも仲間と共に日本を導いてきた年月。

 

 先に逝った友人達の顔を思い浮かべながら、次こそは安寧なる世界で静かな人生を送りたい。

 

 平凡な家庭に生まれ、そしてのんびりとした一生を送りたい。

 

 そんな己が願望を思い描きながら、睡魔に身を任せて目を閉じ。

 

 旅立った。

 

 

 

 そう、旅立ったのだ。

 

 

 

 しかし──。

 

(あの世にしてはこう、らしくないというか)

 

 閉ざされた視界は永遠だったのか? 

 

 それとも瞬きほどの一瞬であったのか? 

 

 再び目を覚ました時、彼がいたのは此処だった。

 

 光に満ちた草原や、懐かしい顔触れが迎えに来る花畑といった天国的な物でも。

 

 賽の河原に地獄の鬼といった、おどろおどろしい物でもない。

 

 至って普通の部屋。

 

 死後の世界にしては、あまりに現実的なこの風景。

 

 ともすれば、死後ではなく生前その物のような。

 

 つまりこれは、あの世なのではなくこの世なのではないのだろうか? 

 

 そう思えるほどに感じ取れる“死”よりも“生”の感覚。

 

「どうなってるんだろうな、これは」

 

 自分が死んだのは間違いない。

 

 四肢の感覚を失い、己が死を自覚しながら眠りに就いたのだから。

 

 気のせいなどではなく、本当に今までとは異質である眠りの感覚に身を任せて。

 

 ではなぜ、こんなにも生を感じられるような状況下にあるのだろう? 

 

 身体のことは分かっても、この事態については何一つ知り得ようもない彼は、袋小路に陥り導き出せなくなってしまった答えを誰かに求めたい。

 

 そんな気分だった。

 

 ──丁度その時である。

 

 そんな彼の疑問に、この空間。

 

 この世界は、己に代わって回答させようとでも考えたのか? 

 

 この殺風景な部屋と外部とを隔てている扉を、まるで新しい世界の住人を歓迎するかのように、勢いよく開放させたのは。

 

「っっ!!」

 

 開かれた扉の向こう側には扉を開けたであろう人物の、一人の少女の姿があった。

 

 誰だ? そう思う彼の目が少女の藤色の双眸と交差する。

 

 瞬間。

 

 ふわりと宙を舞ったのは、美しき桃色の──。

 

「うわっ!」

 

 身体に衝撃が走り、起こしていた上半身がよろりと揺らぐ。

 

 扉を開いた人物が己に向って勢いのままに飛び込んできたのだ。

 

「シゲタロウっ!」

 

 己へと飛び込んできた見知らぬ少女は名を呼び肩を揺すってくる。

 

「大丈夫なのっ?!」

 

 名を呼んだという事は自身を知る人物であることは間違いなかったが、いったい誰なのだろうか? 

 

 長く艶やかな桃色の髪。

 

 その髪に付けられたコサージュは白桃色で、まったく同じ物を胸元に四つ付けられた、袖のみが橙色の黄色いドレス姿をした外国人少女。

 

 一体誰か? 

 

 訪ねる間もなく此方の肩を揺さぶって心配する可愛らしい外国人の少女に、唯でさえ事態が飲み込めないでいた彼の混乱に拍車が掛かる。

 

「ねえ大丈夫ですのシゲタロウっ!」

 

 伝わり来るのは心よりの強き感情。

 

 彼女はその感情の赴くままに身体を揺さぶってくるのでぼーっとしていた頭が揺れて少し気持ちが悪い。

 

 だが、お陰で実感することが出来た。

 

(そうか……俺は、生きているんだな)

 

 身体には生の感覚があり、血の巡りを感じられる。

 

 揺さぶられると頭がぐらぐらして気持ち悪い。

 

 そして何より誰かと触れ合える肉体が自分にはあった。

 

 それは紛う事なき生その物な状態に無ければ味わえない感触だ。

 

 答えを運んできた少女を前にすんなりと我が身の状況を受け入れられたのは、それがかつて体験した巡洋艦和泉の出来事を思い起こせたが故。

 

 何事がありこの少女が心配しているのかその真偽の程は不明なるも、怪我をしていたと考えられる処まであの時と同じだ。

 

(──っ!)

 

 自らの身が“生”の状態にあると自覚し始めたとき、不意に彼の頭が疼きだす。

 

(……痛い)

 

 気になり手を当ててみると、なにやら布のような物が巻かれている事に気が付いた。

 

 どうも痛みはこの部位より感じるようだ。

 

(包帯……? じゃあやっぱり怪我をしていたのか)

 

 心配する少女の様子に自分の状態があまり良い物ではない。

 

 または良いとは言えない経過を辿って此処に居た事を推測できたのだが、どうも怪我をして気を失っていたらしい。

 

 本当に一度あること──前世と同じようなことは、二度目もまた同じような事象に見舞われる物なんだなと熟々思い知らされた。

 

「何か仰ってっ!」

 

 またも己を呼ぶ少女。

 

 今度はきつめで苛立たしさを感じさせる声音となっている。

 

「あのさぁ、こんな近くに居るんだから一々怒鳴らなくても聞こえているし大丈夫だよ。それにちょっと頭が痛いだけなのに大袈裟に騒ぎすぎだよ“ユフィ”」

 

 安心させるべく言葉を選び話した彼は知らないはずの彼女の名を口にしながらその藤色の瞳に自らの健康振りをアピールした。

 

 口調が子供のそれになっている事には多少の違和感も有ったれど、これが自然なのだと言い聞かせながら腕を上げ振るう。

 

「ほら普通に身体も動くし」

 

 数刻前には動かせなくなっていた身体が自由に動く。

 

(身体が動くというのはこんなにも素晴らしいことなのか)

 

 少女を安心させようとして腕を振り身体を動かしているというのに、身体の衰えた老年期を過ごしてきたからこそ理解できてしまうその開放感に少し舞い上がってしまった。

 

 そんな様子が気に入らないのか? 彼女は先程までの心配気な表情を180度転換させて急に怒り出した。

 

「もうっ! 反省の色が足らないわっ! ルルーシュもナナちゃんもみんな心配してるのにっ!」

 

(あ、怒った。ふむ、少しばかり軽率だったかな?)

 

 “あんなこと”があって気絶して、それで此処に居るわけで。

 

(あんなこと……、これは、記憶が……)

 

 頭の疼きが増す事に、経験した事のない、身に覚えのない記憶が洪水のように流れ込む。

 

 つい今し方まで何事があり此処に居るのか分からない筈だったというのに、今ははっきりと分かるのだ。

 

 此方を心配し気遣う彼女を前に余裕をアピールしてしまったのだから心配転じて怒りもする、その自分の身に起った何事かの理由が。

 

 しかしだ。

 

「反省の色って……別に俺が悪い訳じゃないだろうに」

 

 “自分が”悪い訳じゃない。

 

 気絶した理由も原因も全て外的要因によるもので、自身には何の落ち度もないのだからして。

 

 しいて悪い人間を上げるとするのならば……。

 

(“あいつだ”)

 

 そう、彼だ。

 

「まず怒るなら俺が怪我をする原因を作ってくれた“ルルーシュ”に向かって怒りをぶつけてくれると助かるんだがな、ユフィ。そこの処はどう考えてるんだい?」

 

 もう一度口にした彼女の名前は、頭の疼きが増す事に“しっくり来る”感じがした。

 

 ずっと昔からそう呼んでいる。知っていて当たり前で彼女の名を口にしない日はない。

 

 自分の生活に溶け込んでいる存在として“自分は”彼女を認識し始めているのだ。

 

「ルルーシュの事は後ですっ! いまはみんなを心配させたシゲタロウの反省の無さについて話してるのっ!」

 

「だからさぁ、反省も何もどうしろっていうのさ。不意に飛んできた空き缶をさっと避けられるような身体能力が俺にあるとでも思ってるのか君は。言っておくが俺は“スザク”みたいにあの年にしてはかなり高い身体能力を持つびっくり子供じゃなくて普通の“お子様”なんだから」

 

(ユフィ……ユーフェミア……。ユーフェミア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第三皇女にして、俺の親戚たる……少女)

 

 それは例え自分が知らずとも、自分が入ったこの身体が知っているという……それだけの話だ。

 

 それはいま、彼の身に起こっている現在進行形の事象。

 

 神崎博之=嶋田繁太郎が、そして今の“自分”という3つの存在が融合し定着を始めている『憑依現象の一端』。

 

(怪我をして意識を失ったらしい処からの回復に続き、これも同じというわけか)

 

『二つの記憶の存在』と『自分が何者かという知識』。

 

「でしたら身体を鍛えてくださいっ! シゲタロウが稽古を付けて欲しいと仰っていたとお姉さまに申し上げますのでっ!」

 

 己が置かれている状況に対しこれだけで納得してしまえる辺り所詮は二番煎じといったところなのか。

 

 それとも、経験は物を言うというやつなのか。

 

 この身体の人物が何者で、どういったことをしてきたのか。

 

 総てが手に取るように理解できてしまった。

 

「余計な事しないでくれ……。俺は稽古付けて貰いたいとは思ってないし、それに子供の馬鹿騒ぎに大人の“コゥ姉さん”を巻き込んだりしたら迷惑だろう」

 

 記憶から“自分の在り方”や“自分という人間がどういう人物なのか”を探り出し言葉遣いをトレースしつつ、怒る桃色髪の少女への受け答えをしながら更に記憶を掘り起こしていく。

 

 

 

(なにもかも同じだな。前世で嶋田繁太郎になった“あのとき”と)

 

 そしてどうやら一度体験済みの“憑依・融合現象如きに”驚いてばかりも居られない状況にあるようだということまでも。

 

(平穏を望んで眠りに就いたというのに、どうしてこうも厄介な立場に立たされてしまうのやら……。これは近いうちに一度本格的な厄払いでもしてみるか?)

 

 

 

 皇歴2010年5月12日。

 

 エリア11として国の名を奪われた絶望の日本が舞台の、あの反逆物語の根幹となる戦争が始まる年。

 

 彼が目を覚ましたのは。

 

 そんな物語としてのみ存在する筈の、架空である筈の世界。

 

(しかしなあ、何が何だか訳が分からなくて混乱してしまうぞ、これ)

 

 そして自身の記憶の中に僅かばかり残っていたあの反逆世界の知識とは多くの差違が見受けられる世界でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 コードギアス 反逆のシマダ

 

 

 

 

 

 

 

(さてと、まずは記憶の整理だ)

 

 あの後、二言三言の苦言を呈してくれた彼女は「みんなを呼びに行く」と言い残し部屋を出て行った。

 

 心配してくれた彼女には悪い事をしたと思う物の正直に言えば助かる。これで自分の記憶を辿り整理する時間が出来たのだから。

 

 世界の形を探り今までに何が起きたのか。

 

 これから何が起きるのかを把握する為にも一人になる時間が必要なのだ。

 

 まずこの身は前世において憑依した仮想戦記の悪役にして、史実では東条英機の腰巾着・小間使い・副官と、散々な評価を下されていた海軍軍人としての嶋田繁太郎ではない。

 

 子供だった。僅か12歳の、まだまだ親を必要とする子供であった。

 

 ただ一点、普通の出自でも普通の子供でもない事のみが、頭を抱えたくなる事実として立ち塞がってきたが。

 

(シゲタロウ・リ・シマダ、ね)

 

 

 

 何がどうなったのか? 

 

 今の自分は神聖ブリタニア帝国シマダ大公家嫡子シゲタロウ・リ・シマダという身の上であるらしい。

 

(平行世界の同一存在や同位体存在とかいうやつなんだろうが、まさかのブリタニア皇族分家筋の嫡子とは……想定外にもほどがあるぞ)

 

『リ』とは、その名が示す通りブリタニア皇家リ家の名を指している。

 

 コーネリア・リ・ブリタニア、ユーフェミア・リ・ブリタニア。

 

 リ家の有名処と言えばこの二人だが、彼の中にはこの二人と根を同じくする祖先が居るようなのだ。

 

(この身体の祖先──クレア・リ・ブリタニア。確か反逆物語が始まる年よりかなり遡った時代の皇帝だったな)

 

 その祖先の名を──クレア・リ・ブリタニア。

 

 民族協和と一つのブリタニアを掲げながら、時のエル家や、クレアの弟であるニールス・リ・ブリタニア皇子等と共に、リシャール皇子擁するロレンツォ・イル・ソレイシィを打ち破り、国家が瓦解する寸前であったブリタニアの内戦を終結に導いた英雄皇帝。

 

 ブリタニア年代記に燦然と輝く彼女の功績は、今尚伝説として語り継がれていた。

 

(コードギアスで間違いなさそうだが、俺はあの作品についてそんなに詳しくはないからクレアがどういった人物なのかよく知らない。リ家の血が入っただけで公爵から大公へ昇爵するということから考えても、シマダ公も含めかなりの大人物であったのだろうが)

 

 その内戦の最中。一時日本へと逃れていた英雄帝クレアを支え続け、共にロレンツォ率いる当時の純潔派と戦ったクレアの最大支援貴族シマダ家は、後に次代当主がクレアの次女と結ばれており皇家分家筋としてリ家の家名を与えられている。

 

 更にクレア皇帝を支え続けた内戦終結の功労者として大公爵へと昇爵し、新たにバハ・カリフォルニアを与えられ、元々の直轄領であったカリフォルニア・アリゾナと共にペンドラゴン北方の要として繁栄を極めていたのだ。

 

(入り込んでしまった人物の出自その物がいきなりの相違点とは、イレギュラー過ぎるだろ)

 

 そのシマダ大公家なるものだが。

 

 当然彼の知識の中、コードギアスには存在していない。

 

 日系人のブリタニア貴族が居るらしいところまでは識っていたが、大公家でとなるとかなり限られてくる。

 

 日本皇族の血を引くブリタニアの皇帝も歴史上存在しているくらいなので「絶対にない」とは言い切れなかったが、嶋田繁太郎のブリタニア版など流石に考えられる範疇を逸脱し過ぎているだろう。

 

 それも恐るべき事にシマダ家の家系を辿っていくと、皇歴元年へと辿り着くのだからもう訳が分からなかった。

 

 シゲタロウの記憶にあるブリタニア年代記によれば、シマダ家の初代とされる人物はブリタニア皇家の始祖アルウィンと共に彼のローマ帝国ユリウス・カエサルのブリテン侵攻に立ち向かった皇家の盟友であると記されている。

 

(信じられんな……信じられんが、もし可能性があるとするなら超古代文明時代に何かあったんだろう)

 

 史実ではオカルト話しの域を出ない超古代文明。

 

 だが反逆物語には確かに存在していた。

 

 故にもしもあの時代にブリタニアへ渡った大和民族が居たとしたなら、或いは考えられなくもない。

 

 日本も、ブリタニアも、前身国家を辿っていけば出発点は同じ場所。超古代文明に起源を持つ国。

 

 コード、ギアス等、様々な超技術を生み出し、後に滅びたこの文明は元々一つの統一国家だったと思われるのだ。

 

 であるならば、当時の大和系の部族がブリタニアの地に移住していたとしても何ら不思議なことではない。

 

 それも“ある信じられない事象”から、大和系部族や民族。

 

 つまり日本民族の人口が多かったと考えられるだけに、当時一部の部族がブリテンの地に渡っていたというのは十二分に有り得る話しとなっていた。

 

 それに遺跡と両国の皇家。皇家を守護する存在など様々な共通点が示すその可能性は、反逆世界を“識っている身”としては、無いとは言い切れない部分がある。

 

(ま、考えられないことであろうと無かろうと、シマダ家の歴史はブリテン島が本土であった時代より続いている。それが事実な訳だが)

 

 だが、そのシマダ大公家の存在により日本とは……大日本帝国とはそれなりに上手く付き合えていたようだ。

 

(弱肉強食のブリタニアといっても、全部が全部そうじゃないからな)

 

 ブリタニアの歴史は元より血と侵略の歴史。

 

 しかし例外的に膨張主義を否定したり、非侵略へと舵を切ることも可能だったであろう歴史の転換点と成り得る幾つかの時代が存在している。

 

 その一つがクレア帝時代だ。

 

 クレアの時代には彼女の性格や方針を反映した対外融和路線。

 

 つまりは弱肉強食ではない協調主義の路線が採用されていた。

 

 時代と共に国は再び原点への回帰を図り弱肉強食を国是とする時代に突入していったが、少なくとも彼女の時代から暫くの間は外交問題の解決の為に武力を用いることはなかったようだ。

 

(シマダ家とクレア帝の影響色濃いリ家の存在が歴史を変えたことで1940年代に起きたとされる太平洋戦争も起こってはいない)

 

 クレア帝御世の記憶が薄れ次代・次々代へと時が移り変わる中、徐々に一国至上主義的な国家へと立ち返っていたブリタニアであったが、当時はまだ日本との友好路線が維持されていたらしい。

 

 但し、それも1997年5月に起きた『血の紋章事件』と呼ばれる大規模なクーデター事件によって激的なる変化を迎えてしまったが。

 

(あのクーデターを境に即位して間もない第98代帝シャルルが己の立場を盤石な物とし、全世界に向けて覇権主義政策を宣言。隣接する南ブリタニア諸国への侵略戦争を開始している。と同時に日ブ関係も徐々に悪化)

 

 血の紋章事件を契機としてシャルル治世のブリタニアは今まで以上の極端な軍拡に舵を切り、内外問わずより一層の強硬路線を取るようになっていった。

 

 国外に対しては同時侵攻した南ブリタニア北部の国々を瞬く間に飲み込み、南へ南へとその勢力を拡大。

 

 侵略戦争に否定的な見解を述べた日本との関係も悪化の一途を辿っている。

 

 国内においては反皇帝派を次々に粛清、または閑職へと追いやっていき、反戦意見の多かったリ家の勢力と皇帝派とで対立が始まっていた。

 

 そして大きな転換点となる二つの暗殺事件が起きた。

 

 一つはブリタニア皇家が一つ、ヴィ家のマリアンヌ皇妃暗殺事件。

 

(2009年のあの事件を機にルルーシュとナナリーが人質として日本へ──)

 

 自国の侵略戦争に対し、強力な海軍力を持つ日本からの不意打ちを警戒しての措置。

 

 知識の反逆物語の中でさえ同様の措置を採るくらい日本に対しては警戒心を抱いていたのだから、“ここの日本”相手だと尚更だろう。

 

 皇帝の個人的な事情も勿論あったわけだがそれはそれだ。

 

(流れその物は変わらずか。国を放り出されてしまったヴィ家の兄妹の心の内もおそらくは変わらずの父憎し……)

 

 ここは既知の流れであった。今更と言えようが、ルルーシュの心にシャルルとブリタニアへの憎悪が宿る切っ掛けとなった事件だ。

 

 それも、彼自身は何も知らぬうちに親のエゴに巻き込まれた挙げ句、自らも己のエゴによって数多の人々を殺戮することになる、その始まりの。

 

「壊れた大人たちの被害者にして自らも魔神となり壊れ加害者側となる悲劇の皇子。大切な人や何も知らずにただ戦っているだけの者、無関係な人々への殺戮を始めてしまう彼の物語の出発点。……なんとも業の深い一族だ」

 

 その業の深い一族と血が繋がる自分も気を付けなければいけない。

 

 なにが切っ掛けでその血の持つ業に囚われてしまうのか知れた物ではない故に。

 

(いや──)

 

 もう既にその血の影響は表れているやも知れない……。

 

 二つ目の事件。

 

(シマダ大公夫妻暗殺事件)

 

 マリアンヌ暗殺と同時期にこの身体の人物──シゲタロウの父と母の爆殺事件が起きていたのだ。

 

(やれやれ、これがもしブリタニア一族の業が成したものだとするのならば、もうこの身は既に呪われているな)

 

 未だ未解決となっている先のマリアンヌ暗殺事件とは違い、この事件については犯人が捕らえられていた。

 

 捕らえられた犯人は民主化を掲げる過激派であったとされているが。

 

(真相は不明)

 

 不明というのは、犯人であるとされる人物が犯行を行った事に確信が持てないからだ。

 

 誰でも思うし自分でもそう思った。

 

 帝国政府のみが独自見解を示して間違いないと豪語していたが、誰も信じてはいないだろう。

 

 たかが一過激派如きが、皇帝であっても配慮せざるを得ないブリタニア最古の名家の当主夫妻暗殺など可能なのかと。

 

 警備が厳重な大公家の宮殿に侵入し、且つ目的を遂げるのは容易なことではない。

 

 この一点が帝国政府の発表した「過激派によるテロ」の信憑性を損なわせている。

 

 しかしそのハードルを著しく下げてしまう手段については、方法があるということを彼は識っていた。

 

(ギアス?)

 

 古代文明が残した超常の力──ギアス。

 

 人の精神を操り、記憶を暴き、未来線を読み心の声を聴く。

 

 使い手ごとに保持している能力こそ違えど超能力とも言うべきこれらの能力は屡々歴史にその足跡を残していた。

 

 この能力を駆使すれば或いは、そう思わせるだけの力がある。

 

(可能性の問題だが、大公がギアス関係者に狙われたということも排除は出来ないな)

 

 シャルルの目的の為にはどうしても邪魔になるだろうシマダ大公とリ家が率いる勢力。

 

 これの排除にシャルルが動くとすれば、表からは勿論、裏側からも働きかけるであろうことは想像に難くない。

 

(他に考えられるのは身内か)

 

 また、記憶の融合によって得られたからこその別の可能性にも思い当たった。

 

 記憶を探り浮かんでくるその可能性を持った人物は、よりにもよって身内らしいのだから質が悪いとしか言えなかったが。

 

 この事実が、自らもブリタニア皇族の血の宿業を背負ってしまったのではないかと懸念した最大の理由である。

 

(シマダ大公の存在が邪魔であったと思われる輩の筆頭候補)

 

 記憶の中に浮かぶのは2m近い長身に、頑強に鍛え上げられた筋肉質の肉体を持つ、顎髭と口髭を蓄えた茶髪の巨漢。

 

 大公暗殺後、「幼いシゲタロウでは大公家を継ぐに力不足である」と、皇帝や皇帝派との共謀の末に継承順位を無視してシマダ家の実権を握ったブリタニア貴族の権化とも表すべき男。

 

 ヘンリー・リ・シマダ。

 

 ブリタニアの支配に抵抗を示す過激派など反体制的な人間を一族郎党断頭台に掛け、死の恐怖をもってエリア3ブラジルを平定した皇帝派の重鎮。

 

(その一方で媚を売る者、付き従い服従する意思を示した者へは寛容さを見せている)

 

 ただ恐怖のみで従わせるだけではなく、自らに従う者にはその働きや忠誠に応じて従来よりも多くの報奨や給金を取らせるという“飴”も大量に用意し配っているようだ。

 

 領民やエリア住民が彼に従うのはその恐怖と飴の相乗効果によるもので、平定後に彼が一時総督を務めていたエリア3の政策は一応の成功を収めていた。

 

(凶暴な野蛮人とはいえ馬鹿ではない、か。……あまりお近付きになりたい人種ではないな)

 

 シゲタロウの叔父にして、亡きシマダ大公の兄であるというこの人物は、貴族というよりも野人といった方がしっくり来る野性的な容貌をしていた。

 

 容貌通り、性格の方も野人と呼ぶべきであろうほどの凶暴な。

 

 亡き大公の先代、自身にとっては祖父に当たる二代前の当主がヘンリーを“不的確”として弟である先代、父に大公家を継がせたようだが、どうもその判断は間違いではなかったようだ。

 

(平民やナンバーズに対し区別という名の差別を行い積極的外征を唱えるブリタニアの癌の一人。ついでにシゲタロウ……、俺をブリタニアから追い出してくれた乗っ取り屋)

 

 シマダ大公夫妻暗殺後。

 

 皇帝の速やかにして無茶な介入によって大公家の全権を掌握したヘンリーが、シゲタロウを差し置き当代当主の名を名乗ってより直ぐにシゲタロウは日本へ送られていたらしい。

 

 要するにルルーシュやナナリーと同じく人質としての役目を負わされたわけだ。

 

 彼にとり、シマダ大公の意思を引き継ぐシゲタロウの存在はさぞや疎ましかったことだろう。

 

 本当ならシマダ家の長男である自分こそが家を継ぐべきだったというのに継承順を無視されて弟に家督を奪われた。

 

 その弟の息子なのだ。殺されなかったのが不思議なくらいであった。

 

 無論其処にはシゲタロウを殺害することによる“不利益”があったのは言うに及ばずだが。

 

(益々大公夫妻暗殺を実行したのは、捕縛された犯人とは別の人物であるという疑惑が深まるな。ともかく、大公家の実権が叔父に握られた事は大きなマイナスだ。奴がシャルル支持をシマダ家の名で宣言した為に、結果として外征を推し進めるシャルル体制を強固なものとしてしまった)

 

 ユーロ・ブリタニアのハイランド大公家と同等の権威を持つ救国の英雄にして最古の名家シマダ家が方針を変えれば共に変わらざるを得ない家は数多に上る。

 

 それほど大きな力を持つが故、シャルルも自らの地盤固めに利用するために彼を自陣営へと引き込んだのだ。

 

 その上で大公夫妻を暗殺し、彼に大公家を継承させて要職に据えれば、皇帝派はその力を一気に増す。

 

 暗殺の真相がどうであれ、結果としてシャルルを利する形となっているのは事実である。

 

 “弱肉強食こそブリタニアの理念として相応しく、世界はブリタニアによって統一され本来在るべき自然の姿へと立ち返るべきなのであるっ! ”

 

 力こそ正義。

 

 人間もまた自然の一部であって、強い者が勝者となり弱きは強者の糧となるか死すべきであると豪語する彼の野人と、嘘のない世界のためには身内の死ですら俗事に過ぎぬと考える皇帝シャルル。

 

 彼等の共闘は、国内の穏健派を一掃する意味でも大いに意義ある物であった。

 

(最悪の人間同士が最悪のタイミングで手を組み利用し合っている、そんなところか。追放、処刑、なんでもありとは……いやはや独善主義皇帝と野人の組み合わせには恐れ入る)

 

 弱いから死ぬ。

 

 弱者など必要ない。

 

(連中にはお似合いの台詞だが、しかしその結果がまさかのコーネリア・ユフィ、リ家姉妹までもを日本への自国に対する人質とさせてしまう流れを作り出すとは)

 

 強硬+強硬が掛け合わさった化学反応は恐るべき物で、皇帝に異を唱える者への容赦ない弾圧へと繋がっていった。

 

 爵位剥奪、領地没収、即決による死刑。憎しみを背負うために大虐殺をやったあの悪逆皇帝ルルーシュ程ではないが、血の紋章時の反皇帝派弾圧の再現くらいにはなっていただろう。

 

 あの事件を振り返れば分かる物だが、シャルルは時に身内の皇家の人間すらも処刑するほど、一度排除を決めれば徹底的にやる冷酷さを持ち合わせている。

 

 死んでも会えるという様に、人の死を軽く考えているからこそ可能なのかも知れない。

 

 これが外征に異を唱えていたリ家の派閥の力を削ぐことに繋がり、第二皇女コーネリア、第三皇女ユーフェミアのリ家姉妹の日本行きを決定付けてしまった。

 

 関係が険悪化していた日本に対して、コーネリア・ユーフェミア・ルルーシュ・ナナリー、そして自分シゲタロウと、5人もの皇族・皇家に連なる子供を人質として送り出したことが間違いであるとは言えないが、ブリタニア国内における反皇帝勢力排除の一環であることは周知の事実だ。

 

(もっともルルーシュやナナリーにしてみれば心強かったろうがな)

 

 本当ならたった二人で日本への人質として送られる筈であった彼等は孤独に苛まれ、人間不信に陥りながらの幼少期を過ごした挙げ句。最後の安住の地すら奪われる──

 

(筈だったからなぁ。それがコーネリア・ユーフェミアも共に送られたことで、少なからず彼等の救いにはなった)

 

 その中に自分が居るというのは不思議な感じだが。

 

 国から放り出されて望んでもいない“人質”という立場に追いやられた彼等は、互いに身を寄せ合い、助け合ってきたのだろう。

 

 5人が共に強い信頼と絆で結ばれている様子を、記憶や自身が感じる“想い”からは読み取ることが出来た。

 

(それに力を削がれたとはいえそこは皇位継承順最上位者に名を連ねるリ家の姉妹。身一つで放り出されることを避けられたのは不幸中の幸いだ)

 

 ダールトンやギルフォードなど、コーネリアの親衛隊を結成する家臣団が共に日本へ派遣され彼等の身辺を固めているのだ。

 

 お陰で国内の皇位継承争いに巻き込まれる危険性がその分だけ低下し、信頼できる人々に保護されるヴィ家の遺児の安全もより一層高まるというもの。

 

(そういえばリ家の重臣貴族の中にはヤマモト辺境伯なんて名前もあったが──)

 

 ギルフォード家、ヴェルガモン家といったリ家の重臣貴族の中にあったヤマモト辺境伯という名前には驚かされた。

 

 フルネームをイソロク・ド・ヤマモト辺境伯といって、クレア帝時代にシマダ家と共にブリタニア内戦を戦い抜き、クレア皇帝擁立に貢献した日本から渡り来た士族の一人を始祖とするだとのことだが、そのヤマモト家現当主の名を日本読みに直せばそのまま『山本五十六』だ。

 

 死ぬ前の世界での盟友と同じ名の。

 

(容姿も同じ)

 

 ふと頭を過ぎったのは、かつての時と似たこの状況下で自分と同じ様に“彼等”も来ているのではないかといった考え。

 

(まさか、な)

 

 シゲタロウの記憶の中にヤマモトという名と姿を見つけた瞬間、平行世界の同一人物なだけであると理解しながらも、彼はなんとなくそう思った。

 

(……そして日本)

 

 実はこれこそが隅に置いていた“この世界の日本”の事情にして、中身が日本人たる自らにとって最も喜ばしい差違であった。

 

(日本がこの様子では早々勢いのままに戦争を吹っかけられはしないだろう。シャルルの計画の為の世界侵略とは言え、“この日本に対してまで”同時侵攻を行えば失敗の危険性が出て来るからな)

 

 ブリタニアは強大だ。大国を相手取った世界同時侵攻を可能とするだけの圧倒的なる国力を備えている。

 

 それはあの作品を通してこの国を見知る自身も承知していることであった上に、自らの身がその国の貴族である故、身に滲みて理解させられてもいた。

 

 しかしそれでも尚、“この日本”の存在こそが知識にあるような同時侵攻を踏み止まらせるという一因になっていたのだ。

 

(しかしまあ何なんだろうか、この)

 

 

 

 

 

 

 

 ──この巨大な日本列島は。

 

 

 

 

 

 世界の形という物は物心付いた頃に大抵の者が覚える。

 

 多少の個人差こそあれ、世界地図を書いてくれと言われれば小学生低学年くらいの年少者にでも大雑把になら描けるだろう。

 

 当然嶋田にも、いやさこの身体シゲタロウの記憶にもしっかりと世界の形が焼き付いていた。

 

 もしも焼き付いていないとしたならばそれだけで周りの評価が怖い。大公家の嫡子が世界の形を知らないなどお笑い種だ。

 

(甘やかされた馬鹿貴族でないのは幸いだが……地図上における世界の形を知らなかったら頭を抱える処だった)

 

 もっとも、喜ばしいながらも頭を抱えたくなる意味不明な地図を“視ている”事はこの際無視させて貰おうかと思わずにはいられなかった。

 

 それほどおかしい。常識で考えて有り得ない地図なのだから。

 

 彼はまずは六つの大陸を数えていく。

 

 ユーラシア大陸。

 

 アフリカ大陸。

 

 オーストラリア大陸。

 

 北ブリタニア大陸。

 

 南ブリタニア大陸。

 

 そして南極大陸。

 

 子供に地図を描かせてみよう。

 

 国は無理でも大陸という巨大な陸地のみならば、形こそ不細工でも丸や三角や四角といった適当な感じで描いてみせてくれる筈である。

 

 そう、六つの大陸なら当然として、“七つ目の大陸”についても簡単に。

 

 

 

 

 

 陸地面積378万平方キロメートル。

 

 

 

 

 

(なんだ……この面積……)

 

 彼の常識を根底から覆してしまったのはその七つ目の大陸だ。

 

 陸地面積が凡そ10倍に拡大という、実に頼もしく太ましい日本の形をした北西太平洋に浮かぶ大陸であった。

 

 日本列島を形成する四の巨大な島から成る七つ目の大陸の姿が厳然として存在していたのだ。

 

(面積10倍の日本列島で日本大陸だ? これ、シゲタロウくんがエイプリルフールに見た嘘の地図の記憶とかじゃない……よな?)

 

 日本大陸。

 

 書いて字の如く、大陸のように巨大化した日本の事。

 

 否、紛う事なき大陸そのものだ。

 

(日本も日本国ではなく“大日本帝国”か。まあ帝国の名こそが相応しいだろう。これほど強大にして絶大なる力を持つ国が“日本国”というのも違和感があるからな。それに政体も皇家──帝“みかど”を頂点とする体制である事だし)

 

 分からない。

 

 なぜにこれほどまでに肥大化しているのか。

 

 自然の成せる不可思議な現象。

 

 大陸化する程の大地の隆起。

 

 果てはスーパーホットプルームの大噴火による大地形の変化まで考えてみたが、どれも真実コレだという答えには結びつかない。

 

 だが分からないなりにも分かることの一つに彼の国の歴史があった。

 

(始まりは太古の超古代文明より、か)

 

 先史文明ではない。先史を皇歴という紀元を基準とした『それ以前の全て』とするのならば先史として一括りにも出来ようが、一般的に考えられる先史文明とはエジプト文明やメソポタミア文明といった四大文明に、日本の縄文文化など数千年から一万年単位前の物を指す。

 

 しかし日本のルーツの先に在る超古代文明とは、それら先史文明よりも更なる昔。

 

 世界の常識としては眉唾物であり、信用しない人間の方が多かろうが、所謂創世記に該当する時代のもの。

 

 分裂した超古代文明の一国を前身とする大日本帝国の歴史は、失われた遥か太古の時の彼方より続く皇室(皇家)の権威と力によって、統一国家として出立した紀元前にまで遡ることになるのだ。

 

(超古代文明後から始まった歴史とか気が遠くなる……。しかし、そんな長い歴史を持つ割にはまったくと言っても良いほどに海外進出が行われていなかった)

 

 絶海の大陸国家であり、豊富な資源と肥沃な大地の恩恵を受けていることから一国での完結を可能としていた為か、日本として出立した当時より同じ超古代文明国を前身に持つブリタニアと並ぶ世界最古の国でありながらも海外進出は殆ど行われていなかった。

 

 長らく続く安定期はひたすら国内の開発と技術革命に時を費やしていたようだ。

 

(超古代の栄華を取り戻す為とかなら笑えないが、真面目な話では大陸の広さと種々の恩恵から態々外征しなくとも必要以上の物を国内で揃える事が出来るというのがその理由といったところかなのかねえ)

 

 本土がこれだけ広いと下手に手を広げるよりも国内の整備が最優先課題にもなる。

 

 唯でさえこの世界の日本といえば国土その物が資源の塊だ。

 

 他に手を出す必要などないとして外へ目を向けなかったのかも知れない。

 

(欧州でサクラダイト関連の技術が確立されたのは錬金術研究のさかんだった13世紀から15世紀頃、日本もまた同じ時期だが僅かばかり先行している。それも欧州では採掘量が少ないためサクラダイト関連技術の発展は遅れていたがその点日本では──)

 

 湯水の如く採れる。あの架空としての反逆世界の普通サイズの日本でさえだ。

 

 ならばこの大陸化した日本では想像を絶する埋蔵量と成っていよう。

 

(引き籠もって技術革新に時間を費やす意味もこの日本ならではだな。その成果は十二分以上に上がっていたらしいから国内に重きを置いたのは正解だったようだ)

 

 年代的に考えれば技術開発の技の字もまだであろうかと思われるのだが、そこは古代文明国より続く正統継承国家。

 

 一度滅びた文明より這い上がった日本は当時としての世界最高の技術水準には達していたようである。

 

 無論『当時としての』であり、超科学によって栄えた古代文明時代や、進化したエレクトロニクス文明の結晶である現代とは比べるべくもなかったが。

 

 そんな日本が海外と本格的に関わったのがクレア帝の日本逃亡時だった。

 

 皇一心や皇二葉等を始めとする当時の皇家に連なる者達が、ブリタニアのアルト・ヴァインベルグ子爵およびシマダ公爵よりのクレア帝亡命の請願書を帝に届け、正式に亡命が受け入れられている。

 

 この亡命劇は言うなれば大日本帝国としてクレア・リ・ブリタニアを支援する事の意を示した物であり、クレア帝擁立に日本が関与していたことの証明でもあった。

 

(後々日本とリ家の関係が盤石な物と成っていく始まりが此処だった)

 

 以後、ブリタニア内部に西海岸を中心とした親日勢力が生まれた事を考えれば、大きな外向的成果を上げたと言える出来事だろう。

 

 1940年代の太平洋戦争回避にはリ家とシマダ家含む西海岸諸侯等の親日派の影響があったのは間違いないのだから。

 

(そして長らくの鎖国体制下にあった日本は1853年、開国の時を迎える)

 

 しかしそれは地政学的に、そして日本大陸と隣接する国が世界三大国である以上は避けては通れない戦乱期の幕開けでもあった。

 

 太平洋進出を目指した中華連邦が開国間もない日本の南西諸島に目を付け、沖縄を起点とする自国防衛ラインである第一列島線の完成と太平洋進出の足場とする為に武力による南西諸島奪取に動いたのである。

 

 無論、中華側も当初から武力行使を前提としていたわけではなく、南西諸島の売却を日本に対し打診するという外交的解決を目指していた。

 

 既に殆ど過去の物となっていたが、当時はまだ国家間による土地の売買が行われる事例も存在しており中華側は慣例に則って交渉を持ち掛けてきたわけだが、日本としては自国領の売却など寸土たりとも行わない方針であった為に即答で断っている。

 

 だが中華側としてはそれでは困るのだ。既に中央アジアまで広がった中華連邦構成国内部での市場は頭打ちと成っており、東南アジア・オセアニア・太平洋と広く進出して新たな資源や領土の獲得を目指す段階に入っていた。

 

 当然其処には開国したばかりの大日本帝国も含まれており、右も左も分からぬ新参者相手に自国優位の条約や取引を迫るのは弱肉強食の国際社会で何ら間違ってはいなかった。

 

 絶海の大陸に引き籠もっていた田舎者。

 

 彼等にはそんな差別的意識もあった事だろう。

 

 結果として交渉進まずの状況が中華連邦内部。

 

 特に中華帝国において対日強硬派の台頭を赦し、1889年8月2日よりの日中戦争へと繋がっていった。

 

(中華側にとってはまさかの出来事だったろうなこの敗戦は)

 

 日中戦争(1889年8月2日-1894年7月25日)では、連邦構成国家=中華帝国・インド・モンゴルを相手にして陸海共に日本側がまさかの完勝を収めてしまったのだ。

 

 中華連邦としては神聖ブリタニア帝国、ユーロピア共和国連合と並ぶ世界三大国家の一国である自国が、開国直後の田舎者相手に敗れるとは想像だにせぬ出来事であったに違いない。

 

 それは世界中の中小国も同じくで、日本を自分達と変わらない『国土だけ広い鎖国主義の遅れた小国』と侮っていたのだから、当時の世界の常識「三大国には勝てない」を覆した衝撃的な国際デビューだったといえるのではないだろうか。

 

(戦勝国と成った日本は台湾・海南島に加え中華の防波堤として朝鮮半島──高麗半島および、領域内にサクラダイトの大鉱山外興安嶺南部を抱える外満州全域、更には占領状態に置いていた中華帝国東北部全域を割譲。高麗半島と中華帝国東北部には傀儡政権を立てそれぞれ『高麗帝国』『満州国』なる日本の従属国・衛星国として独立させ、その他の全域は自国領として併合……。国内の開発に全力を挙げてきたことで大幅に増した国力のお陰もあるだろうが、技術・物量、そのどちらもがブリタニア級の日本ならではの結果か。普通なら絶望的な相手だからな中華連邦は)

 

 いまさらの話だが、中華連邦は同時期の『アメリカ』とほぼ並び立てるだけの国力を誇っている。

 

 これを相手に打ち破る処か“大勝”してしまえる辺りがなにか間違っているのだが、事実としてある以上はそれ以上の力を日本が持っているという事で無理やり納得するしかなかった。

 

 中華側のミスは、日本大陸が如何に恵まれた土地、ありとあらゆる戦略資源の塊であるという事実を知らなかった事と、日本人がかつて英知を持って世界を支配していた超古代人の二大民族の末裔であるのを知らなかった事の二点だ。

 

 日本人は中華思想の蔓延る中華帝国人が見下せる様な『和猿』などではない。

 

 遥か太古に滅びたとはいえ、一度は世界を支配した超文明人の末裔なのだ。

 

 蓄積された歴史も知識も、たかだか『四千年程度』の中華帝国人の物差しで測れる様な相手ではなかった。

 

 

 

 そして、そんな中華の大敗北に学ばなかったのが、中華思想に負けないくらいの他に対して優越主義的な白人至上主義者たちだった。

 

 

 

 1902年2月8日

 

 東方拡大に次いで南進と太平洋進出を図った欧州圏の統一国。

 

 E.U.民主主義革命政権──ユーロピア共和国連合との間で衝突不可避となり勃発した日欧戦争(1902年2月8日-1908年9月5日)では、国力・技術力に物を言わせた物量戦にて、兵器の質・量共に劣るユーロピア相手に日本優位の戦いを展開。

 

 札幌講和会議にてカムチャツカ、樺太北部、アムール北部、ハバロフスク地方、マガダン地方をユーロピアより割譲させて日本領として編入している。

 

 二つの戦争共に共通している点は日本側の完勝であったということだ。

 

 それも講和に際する反論を許さずというほどの圧勝である。

 

(まあ無理もないか)

 

 日中戦争では黄海、東シナ海、南シナ海の三つの開戦を経て中華帝国とインドの海軍戦力が壊滅した上、高麗半島・外満州は疎か、満州全域にモンゴル軍区東部、一時は北京にまで展開を図っていた日本陸軍の猛攻を前に為す術のない中華連邦が、台湾・海南島に加えての大陸東北部全域の割譲を前提とした講和条件に意義を唱えられるはずもなく。

 

 日欧戦争に至っては、世界初の『戦闘機』や『戦車』という、国際社会を驚嘆させる新時代の兵器の開発・実戦投入まで行い一時極東の大部分を占領下に置いてしまったのだから。

 

(多少の違いはあっても史実の同時期に該当する日清日露戦争と比べて圧倒的な大勝利だな)

 

 開国から僅か55年、戦争に費やした時間は僅か12年足らずで外満州から、ハバロフスク・マガダン・カムチャツカとオホーツク海を内海にしてしまう程の急拡大を遂げてしまったのだからこれを圧倒的と言わずして何と呼ぶ。

 

 それも総動員体制ではないらしい事を鑑みるに、本気で獲りに行くつもりならばユーラシア東部を席巻する事も可能なのではないか? 

 

 クレア帝の時代まで殆ど謎に包まれていたこの大陸国家は、1853年の“自主的開国”までの間、長きに渡り一国主義の体制で歩んできた。

 

 古代文明を引き継ぐ永い歴史と高度な技術力によって達成した独力による産業革命。

 

 文明を動かす戦略資源である超伝導物質サクラダイトの異常な埋蔵量と採掘量。

 

 豊穣なる国土が育む余りある食糧資源と自給率。

 

 7億の人口に、最先端兵器で身を固めた総兵力500万+αの国軍と此を維持可能とする経済力。

 

(一国で完全完結を可能とするとは……まるでアメリカやブリタニアその物だ)

 

 現に日本が『人型自在戦闘装甲騎』、つまりKMFを世に送り出したのはブリタニアとほぼ同時期だ。

 

 この事実は言うなれば日本がブリタニアに対抗可能な国であることの証明である。

 

 それも本来の歴史にて第四世代機が実戦投入される2010年よりも早い段階で両国共に開発完成をさせている処からして、熾烈な開発競争があったものと伺い知ることが出来た。

 

(同規模の国家が存在した事による競争の激化が技術の進歩を加速させたのか?)

 

 今年、2010年に第五世代機の量産型がロールアウトしている時点で知識にある世界よりも発達した文明を築き上げてきたと推測できたが。

 

(とにかく、日本侵攻は容易成らざると判断するのは当然だったというわけだ)

 

 国力比でみても一目瞭然だ。

 

 ブリタニアを10とした場合、日本は9とかなり接近している。

 

 技術力の面だけを見ればブリタニアに対し先行している面も多々見られた。

 

 尤も、ブリタニアには別に国家的集団としてユーロ・ブリタニアなる組織と軍が存在している為に、額面上の数値から戦争遂行能力その他を割り出せないといった不確定要素も存在していたが。

 

(何れにせよ高い技術力と国力があり、それに相応しい軍事力の整備もされている。容易な手出しはできない要素が揃っているというわけだ)

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 様々な事柄を思い出しながら思案を巡らせていた彼は、そこで一度記憶の探索を打ち切り息を付いた。

 

 多くの時間や、思いの詰め込まれた“人の記憶”を探るのは思いの外疲れる。

 

 まして元から持っていた100年以上の記憶の上に12年分の記憶を積み増しするとなれば記憶量の増加が尋常ではなく一種のショートに近い混乱が──。

 

「シゲタロウっ!」

 

「うわっ!」

 

 一息吐いて油断しているときに限って開かれる部屋の扉。

 

 大きな音と大きな声にびっくりしてしまったではないか。

 

 怪我人の寝ている部屋なのだからもう少し静かに開けて欲しい物だ。

 

「怪我は大丈夫なのかっ?!」

 

 

 

(ここでご登場ですか……)

 

 入って来たのは自分と同じ黒髪に、紫色の双眸を持った少年だ。

 

「その怪我人が寝ているんだから扉は静かに開けような? “ルルーシュ”」

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 

「す、すまない、シゲタロウが意識を取り戻したってユフィに聞いたから、それで」

 

 ヴィ家の遺児にして神聖ブリタニア帝国第11皇子。

 

 そして。

 

(反逆物語の主人公にして、未来の悪逆皇帝か……)

 

 そんな未来へと至る道は是が非でも潰したいと思うが。

 

「入ってもいいのかな」

 

「みんなに心配を掛けたというのに反省の色が無いシゲタロウになんか遠慮する必要は無いわ」

 

「まあまあ、ユフィ姉さまもそう怒らないでください」

 

「だってシゲタロウが……」

 

 救いのない未来をどうにかしたいと考えながら、非礼を詫びるルルーシュの姿を視界に入れていた彼の耳に聞こえたのは、部屋の外よりの声三つ。

 

(ふう、続々と来たな)

 

 扉の外から入って来たのは三人の子供達だった。

 

 一人はルルーシュと同じくらいの少年。

 

 一人は桃色の髪の少女ユーフェミア。

 

 そのユーフェミアに車椅子を引かれた少女の三人だ。

 

「起きてても大丈夫なのかい? かなり強く打ったように見えたけど」

 

「シゲ兄さま、あまりご無理をなさらない方が……」

 

 此方を気遣う二人の内、少年の方は日本人にしては珍しい緑色の双眸と茶色がかった色の髪を持つ。

 

 コンタクトを嵌めているわけでも、染めているわけでもない一種日本人離れした容貌の少年は、先の二人、ユフィ、ルルーシュと同じ「大丈夫か」を投げ掛け。

 

 波打つ亜麻色の髪を頭の左右で二つ括りにして瞳を閉じたままで車椅子に座っている、この中で最も年少と思わしき少女は身体のことを心配してくれる。

 

「まあ気を失うくらい強く打ったのは確かだけど、そんな大袈裟に心配されるほどの怪我でもないから」

 

 少年の名は枢木スザク。

 

 反逆物語のもう一人の主人公にして、大日本帝国衆議院議員、枢木ゲンブの息子。

 

(首相ではなく、一衆院議員か)

 

 小さくも大きな違いが此処にあった。

 

 本当なら日本国総理大臣を務めている筈のスザクの父が、一国会議員でしかなかったのだ。

 

 碌でもない父親であることまでは知っていたが、その父親が総理ではない。

 

 現首相が誰かという知識は当然のこと、頭の中にある。

 

(近衛文麿……)

 

 近衛文麿。

 

 かつての盟友達の一人にして、まったくの同じ顔が記憶にあるのだ。

 

 この時代には居ない筈の、この世界には存在しない筈の。

 

 居たとしても別人である筈の“夢幻会重鎮”の姿が。

 

(う~んこれはどういうことなんだろう。やっぱり“彼等”が来ているのか? この近衛総理も俺の知っている“同じ人”なのだろうか?)

 

「シゲ兄さま?」

 

 スザクを見て難しい顔をしたまま考え込んでいた彼は、彼の様子に怪訝な声を上げた目を閉じた亜麻色の髪の少女によって思考の海から引き上げられる。

 

 

 

「あ、ああごめんごめん、“ナナリー”も心配してくれてありがとう」

 

 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 

「でも、心配する前にこうなる原因を作ったルルーシュを叱ってやってくれると助かる」

 

 ルルーシュの直接的な妹であり、ブリタニアの皇女。

 

(主役陣の勢揃いだな)

 

 この場に居るルルーシュ、スザク、ユーフェミア、ナナリーの四人は、皆あの反逆物語の中心に居た人間だ。

 

 この世全ての憎しみを一身に集めて親友の手に掛かりその生涯を終えたルルーシュ。

 

 ルルーシュを手に掛け、人としての死を迎えたまま世界の歯車と、道具と成って生き続ける“地獄”へ身を投じたスザク。

 

 ルルーシュとギアスによって、夢と命と尊厳の全てを奪われ、ギアスの力に抗いながら永遠の眠りに就いたユーフェミア。

 

 たった一人の愛する兄の敵となり、自らが世界の憎しみを集めようとして適わず、多くの大切な人達を永遠に失ってしまったナナリー。

 

 誰一人、幸せになれなかった少年少女たち……。

 

「そうです、お兄さまです。お兄さまの釣り上げた空き缶がシゲ兄さまに当たって、それが原因で転倒なさったのですからお兄さまが悪いです」

 

「ま、まてナナリーっ、あれは偶然であって狙ってやったわけじゃないっ! 本当の本当に偶然だったんだっ! 偶然シゲタロウに当たって──」

 

「ボウズでイライラして掛かったと思ったら空き缶だった。腹が立って竿を振り回し、糸から外れた空き缶がシゲタロウへ。やっぱりルルーシュが悪いんじゃないか」

 

「ええい黙れっ! 釣りに誘ったスザクが悪いっ、この僕に釣られようとしない魚が悪いんだっ!」

 

 言い争いを始める彼等の姿を観ていると、自然に笑みがこぼれる。

 

 それぞれに事情があり辛い人生を歩み、誰一人幸せになれなかった彼等にも、こんな時代があったのか。

 

(子供だなみんな)

 

 子供だ。今年で10歳のルルーシュとスザク。9歳のユーフェミア。7歳のナナリー。この中で一番の年上である自分も僅か12歳に過ぎない子供。

 

(皆……、皆、自己中な大人の被害者だ。独善的で自分勝手な唾棄すべき大人達の……)

 

 自分の記憶を探ってみても、出て来るのは子供の自分が大人達の都合で翻弄されている場面ばかり。

 

 彼等もまた同様に大人の勝手な都合に振り回された末にこの静かな安住の地へと辿り着いたのだろう。

 

 シャルルの意図。

 

 世界の未来。

 

 知っているからこそ思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “糞ったれ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこの子達は誰一人として幸せになれなかった? 

 

 ルルーシュやユーフェミアはなぜ死ななければならなかった? 

 

 なぜスザクは親友を手に掛けゼロという世界の奴隷とならなければ、ナナリーは兄を始めとする大切な人達を失わなければならなかった? 

 

 全てが全て大人達の都合ではないか。

 

 ルルーシュのギアスの暴走によるユーフェミアの日本人虐殺も。

 

 悪逆皇帝となったルルーシュによる虐殺も。

 

 スザクの裏切りの連鎖とフレイヤ発射による東京消滅も。

 

 ナナリーの手によるペンドラゴン消滅も。

 

 元を辿れば“嘘のない世界”を目指して殺戮と闘争を始めた、その手に乗った、大人達の自分勝手から始まったのではないか。

 

 糞みたいな大人達が糞ったれで汚らわしい独善的かつ自己中心的な願いを叶えようとしたからではないか。

 

 彼等の笑顔を見れば見るほどに、彼等から“幸せになる権利”を奪った身勝手な大人達への怒りが込み上げてくる。

 

 この笑顔を、今日この時に感じている彼等の“楽しい”と思う幸せな気持ちを、護ってあげたい。

 

 彼等に幸せを掴んで貰いたい。

 

 

 

 ふと、そんなことを考えてしまった。

 

 

 

(はぁ、……俺らしくないな)

 

 平穏をこそ望む筈の自分が、こうも怒り心頭となるほどの汚物だとでもいうのだろうか“あの大人達”は。

 

 それとも、この身体の彼の、今の自分の感情が、元凶である大人達への怒りを伝えようとしているのか。

 

 子供の身体故の感情の暴走が一番有り得そうだと考えるも、しかし際限なくループする疑問はその答えへと辿り着く事は無い。

 

 そんな彼を怒りと疑問のループから救い上げたのは、不意に感じた頭への温もりだった。

 

(ん?)

 

 怪我をして疼きっぱなしの頭へ感じたそれに、ふと後ろを振り向いてみる。

 

「ユフィ……?」

 

 ナナリーの車椅子を引いていた直系の親戚である少女がいつの間にか自分の後ろに回って、にこにこと微笑みながら頭に手を置いていたのだ。

 

「なにやってるんだ君?」

 

 両手を頭に添えたまま此方を見ているユーフェミアに問い掛けると、彼女はまるで的外れな見当違いなことを言い出した。

 

「シゲタロウ、あなたさっきから何も言わないけれど本当は痛いのでしょう? 我慢してもね、分かっちゃうんだから」

 

 私は全てお見通し。

 

 そう言いたげなユーフェミアが、包帯の巻かれたところを手の平で擦りながら、子供の頃によく耳にしたおまじないの言葉を口にする。

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

 呪文を唱えたユーフェミアは痛いのを追い払うような感じで頭の上にて両手を大きく広げた。

 

 何が楽しいのか可愛らしい笑顔を浮かべながらのその仕草に呆れてしまう。

 

 もちろん、痛い処は変わらず痛いままだ。

 

「…………飛ぶわけないだろ」

 

 それで痛みが取れるのならばこの世に医者は一人も居なくなるだろう。

 

 それに頭が痛いとか、そんなどうでもいいことを考えていた訳じゃない。

 

 彼女を含めたこの場に居る子供達の幸せを奪う大人達に対する、言い知れない怒りに思考を奪われていただけだ。

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

「あの、さぁ……」

 

 何度も繰り返されるおまじない。

 

 効果はもちろん無かった。

 

「ねえ、痛いの取れた?」

 

「…………取れてない」

 

「じゃあ、もっとしてあげるわ。痛いの痛いの~」

 

 無意味な事を懸命に行う彼女が、少し可笑しかった。

 

 

 

 だが──。

 

 だが彼女の手は温かい。

 

 暖かくて心地良い。

 

 

 

 

 

 それだけは、良くわかった。

 

 

 

 

 

「痛いの痛いの~っ、とんでけ~っ」

 

 しかしながら、空き缶の直撃を頭に受け転けて、石に強打した部位の疼きは、まだまだ取れそうにない。

 

 

 

 

 

(痛いのは飛んでいかないが、取り敢えず識ったことを纏めよう)

 

 頭を撫でさするユーフェミアの手の感触に目を閉じながら分かったことを整理する。

 

 今は皇歴2010年5月12日。

 

 ブリタニアにはシマダ大公家なるイレギャラーが存在。

 

 この身はそのシマダ大公の忘れ形見にして、本来の立場を奪われた弱者たる子供。

 

 リ家はその力を削がれてしまい、姉妹揃って日本へ人質として送られている。

 

 シャルルはシマダ家を乗っ取った叔父と手を組み独裁体制を確立。

 

 日ブ関係は原作に近いほど悪化しつつある。

 

 国土を大きく失陥させた日本とさせられた中華連邦の関係、特に中華中央(中華帝国)とは現在大宦官の宮廷支配という状況も重なり良好とは言い難い関係。

 

 日欧戦争以前の問題として有色人種差別が横行するE.U.との関係は元より良好ではない。

 

(…………希望も何もあった物じゃない)

 

 

 

 …………いや。

 

 

 

 一つにして最大の希望があったか。

 

 

 

 

 

 “超大国大日本帝国”

 

 

 

 

 

 日本大陸をその国土とする、立憲君主制国家。

 

 実質、いまの自分やリ家、ヴィ家の皇子皇女を庇護してくれている国。

 

(……彼等は、彼等も居るのか?)

 

 心強いかつての仲間。

 

 共にあの世界で戦い抜いた同志たち──『夢幻会』。

 

 この身が一度経験した事と同じ現象を体験している以上可能性はある。

 

 もしも存在するのならば。

 

 接触することができるのならば。

 

 また共に戦うことができるのならば。

 

 この先を考える上で大きな力となるだろう。

 

 何もかもが分からないこの状況。

 

 記憶の整理もまだ途中であり、世界の全体像も未だ不明。

 

 だが、こうして再度の人生を送ることになった以上、やれるところまでやってみて。

 

 精々足掻いて見せようじゃないか。

 

(さて、これからどうなっていくのやら)

 

 

 

「はぁ、またいちゃつきはじめてるよあの二人」

 

「スザクさん、ユフィ姉様はシゲ兄様にぞっこんらぶなんですよ」

 

「それは前からだから知ってるけど……、その、ちょっと羨ましいな……、ナナリーも俺にしてくれたりしないかな……なんてさ……思っちゃったり……して……」

 

「え? 何か仰いましたか?」

 

「いいっ、いや、なんでも、なんでもないんだっ、気にしないでっ」

 

「くっ、ナナリーに責められる僕を横目に二人だけの甘い空気を作るんじゃないっ! スザクっ、君もナナリーに邪な思いを抱いてないでさっさと離れろっ!」

 

「よ、邪って! 俺はなにもそんなつもりじゃっ……!」

 

「ナナリーに近寄るなこのスザク菌めっ!」

 

「人をバイ菌みたいに言うなよっ!」

 

 子供達が騒ぐ。

 

「そんなんじゃないよ。痛いの飛んでけってのは日本のおまじないの一つで、痛いところに手を当てたり翳したりしながらいまユフィがやってるみたいにする物なんだよ」

 

 子供達はいつでも物事を単純に考えては結論付けたがるものだな、と思う。

 

「へ、へェ~、シゲタロウってずいぶん日本の風習に詳しいんだね」

 

 それが子供だ。

 

「家の領地内には日本の風習があったりするから、それで、ね。それに御先祖様と日本は関係が深いし」

 

 深く考えずに思い付いたままの行動を、無邪気で悪意のない言葉で話し、笑う。

 

「私とシゲタロウの御先祖様であるクレア陛下は国を救った英雄なんですからっ!」

 

 そんな子供達が。

 

「身内自慢は程々にしなよユフィ」

 

 大人の犠牲になるなんて。

 

「それを言うなら僕とナナリーの母上も『閃光のマリアンヌ』っていうとても強い騎士だったんだからなっ!」

 

 許せるものではない。

 

「だから身内自慢は──」

 

 

 

 

 

 自分の事だけを考え。

 

 子の心を知ろうともせず。

 

 世界を巻き込んでは自己満足に浸り続ける無責任な大人達に。

 

 敢えて俺は言いたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかりしろよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 備考

 

 

 

 大陸ギアス 反逆のシゲタロウの日本。

 

 2010年大日本帝国

 

 領土:日本大陸・樺太・カムチャツカ・台湾・海南島・沿海地方・アムール・ハバロフスク・マガダン+周辺島嶼。

 

 陸地面積:6,218,771km2

 

 総人口:7億680万

 

 総兵力:陸海空500万+予備役

 

 

 

 史実満州国の領域、朝鮮半島の両地域は日本の中国大陸への防波堤となる衛星国=満州国・高麗帝国として独立。

 

 

どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。

  • 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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  • 原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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  • 枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-
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