帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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駄目男シリーズの第二弾で駄目男がシリーズ化したときの作品です。
同じく蒼の混沌掲示板様に投稿しております。


桜が咲いた夢をみた

 

 

 

 

 桜が咲いた夢をみた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滝のように打ち付ける雨と、街路樹を薙ぎ倒してしまいそうな暴風をもたらし、人々を不安にさせていた大きな嵐。

 

 同時にそれは寒い冬を終わらせ暖かな春を呼び込む季節を移り変わらせる気象現象でもある。

 

 長期に渡って居座れば大きな爪痕を残していたであろう春の訪れを告げる嵐は、幸いにも2日程で日本列島を通り過ぎ

 

 北日本(樺太、神坂、千琴)へと差し掛かる頃には陸地から大きく逸れて、ベーリング海の方向へと進路を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2013年4月7日

 

 

 

 

 

 

 

 前日までの嵐が幻だったかのような雲一つ無い晴天の青空の下、暖かな春の空気に触れたことで目を覚ましたソメイヨシノが満開に咲き誇り、その可憐な花片をひらひらと舞い散らせている。

 

 舞い散る桜の花片が、陽光差し込む桜並木に更なる色を添え、まるで其処が俗世間を離れた夢の世界である桃源郷のような錯覚を人々に与えていた。

 

 

 

 そんな美しい桜並木の中、舞い散る桜の花片を頭や服に付着させ降り積もらせながら歩く一人の青年の姿があった。

 

 

 

「今日から俺も大学生かぁ~、何か意外に実感沸かねェもんなんだなぁ~」

 

 

 

 誰に聞かせているのでもない独り言を呟きながら、颯爽と胸を張って歩く青年の姿は、全ての戦いに勝った勝者そのものである。

 

 威風堂々とした足取りで歩を進める彼の姿は、ともすれば王者の風格を備えているようにさえも見える。見る者にそう感じさせる程に強い強い勝者の気を放っているのだ。

 

 事実、彼は勝利者である。過酷な戦争の中で傷付き苦悩し、幾度もの辛酸を舐めながら立ち上がり続け、遂に勝利をもぎ取った真なる勝者。

 

 その勝者である彼は、茶色の短髪を逆立てた威勢の良い髪型と、顎に蓄えられた無精ヒゲが特徴的な目つきの悪い青年であったが、その目は今、堂々たる輝きを放っていた。

 

 普段ならば近付きがたいならず者という印象を他者に与えてしまうも、今この時においては、誰からも好かれるであろう好青年にしか見えず

 

 彼を知る者が今の彼の姿を見ていたら別人に見えてしまい、彼であると気付くことさえ出来ない事疑いなしである。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 横合いから掛けられた声にふと青年が振り返ると、そこには昔から苦労ばかり掛けている彼の父親が居た。

 

 

 

「親父……」

 

 

 

 荒れていた中高生の頃、警察の世話になったり学校に呼び出される度に何度となく鉄拳制裁を加えて諫めてきた父親は、瞳に光る物を浮かべながら笑っている。

 

 

 

「なんだよ、泣いてんのかよ? はははッ、みっともねえぞ親父。あんたが俺の為に泣くなんざらしくねェじゃねーか。こりゃあ雨でも降るか?」

 

 

 

 青年が父親の涙を見たのはこれが初めてだ。

 

 補導されても喧嘩でボロボロになって帰った時も病気になって倒れた時でさえも、決して涙を見せる事がなかったあの父が泣いている。

 

 父は、父は泣く程に喜んでくれているのだ。彼にはそれが嬉しかった。

 

 こんなにも愛されていた事が今更ながらに分ったのだから、嬉しく思わない筈がない。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 次に掛けられた声は母の物。

 

 荒れている自分をいつも見守ってくれ、また泣かせ続けてきた頭の上がらない母。

 

 

 

「やったぜおふくろ。俺、俺さ……、とうとうやったんだ……ッ」

 

 

 

 いつも問題を起こしては警察沙汰になる自分を迎えに来てくれ泣いていた母は、父とは違い今日に限って笑っている。

 

 その笑顔は昔何度も見た事があった。

 

 テストで100点を取ったとき。

 

 駈けっこで一等賞になったとき。

 

 母の日に贈り物をしたとき。

 

 いつも見せていた母の本当の笑顔。

 

 最近すっかり見なくなってしまった心からの笑顔だ。

 

 久しぶりに見た気がしたこのとっておきの笑顔を引き出せた事が、青年には誇らしかった。

 

 この笑顔で祝福してくれる母の愛が嬉しかった。

 

 

 

 

 

 そして──―

 

 

 

 

 

 

 

『シン兄様~~~っ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正面、これから彼が通うことになるキャンパスの入り口。今から潜ろうとしている門の前で自分の名を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 

 青年は何事かと門の方を振り返る。すると其処に立って手を振っていたのは──煌びやかな桃色のドレスを着た薄紅の髪を持つ見覚えのある少女であった。

 

 

 

「お、お前……。あの時のお嬢ちゃんか?」

 

 

 

 お父様を悩ませるテロリズムをこの世から撲滅する──そう言っていた一年前の暑い夏の公園で、出逢い別れた警察官を目指している少女。

 

 官僚になる為大学を目指す自分と、父親の手助けがしたいと警官を目指す少女と、どちらが先に夢を叶えるかの勝負をしている小さなライバル。

 

 

 

「おめでとうございますシン兄様っ!」

 

「おおっと!」

 

 

 

 青年は飛び付いてきた小さな少女を受け止める。

 

 一年振りの再会だ。

 

 

 

「嬢ちゃん良く俺が此処に居るって分ったなぁ。それになんかすっかり見違えちまった。去年会った時と比べて雰囲気が違ってねえか?」

 

「うふふ、だってわたくしはもう13歳ですもの。大人への階段を上り始めて日に日に成長して居りますのよ?」

 

「……前言撤回、な~にが大人の階段だこのちんちくりん。まだ13歳の臑齧りだろうがよ」

 

 

 

 青年は生意気な口を聞く少女を抱いたまま、その小さな額にこつんと軽く頭突きをお見舞いする。

 

 

 

「あうッ……ひ、ヒドイですわシン兄様っ」

 

 

 

 痛いからではなく、ちんちくりんと言われたことを怒る少女。

 

 青年は自分の背丈よりもずっと小さいというのに妙に大人びている少女を抱いたまま、野性味溢れるワイルドな容貌に笑顔を浮かべて途中経過を報告する。

 

 彼女とは馴れ合う関係ではない。夢を実現させる勝負の真っ最中にあるライバル同士という間柄なのだ。

 

 

 

「嬢ちゃんよお、俺さ、大学に合格したぜ。てーか此処に嬢ちゃんが来てるって事はこっちの事情なんざ先刻承知って訳だ。流石は将来の警察官だな」

 

「モチのロンです! シン兄様の事などわたくしの情報網を持ってすれば赤ちゃんの手を捻るよりも簡単に調べる事ができますので」

 

「はッ、随分と余裕じゃねーか」

 

「健闘を称え合うのがライバルというものですもの。シン兄様、どうやらわたくしはシン兄様に一歩遅れを取ってしまったようですが、このままでは終わりませんよ?」

 

「上等上等ッ! それでこそ俺様のライバルってもんだ。けどよ、俺は嬢ちゃんみたいなちんちくりんに追い付かれる程脚は遅かねえぞ」

 

「好きなように仰ってなさい。直ぐに追い付き追い越して御覧に入れますので」

 

 

 

 青年は小生意気ながら上品で、どこか浮世離れした雰囲気を持つライバルの少女と言葉を交わしながら思う。

 

 口ではどうこう言いながらも、彼女もまた、父や母と同じ様に、自分の入学祝いに態々駆け付けてくれたのであろうと。

 

 持つべき者は友。好敵手と書いて親友と読む。

 

 これからもこの小さな好敵手とは切磋琢磨しながら互いを高め合って行くのであろう。

 

 

 

「桜咲く、か」

 

「どう致しましたの?」

 

「んにゃ、なんでもねえ」

 

 

 

 桜咲く。日本の春を象徴するソメイヨシノが満開に咲き誇る今日という日。

 

 青年は忘れないだろう。夢を叶えたその後も、原点となったこの日の事を。

 

 この暖かい春の風が吹く桜吹雪の中で、父と母、そして……小さなライバルに祝福された素晴らしき喜びの日を、永遠に忘れない。

 

 

 

 

 

 永遠に……。

 

 

 

 

 

 

 

 誓いを新たにし、この喜びの日を胸に刻んだ青年は、抱いていた少女を下ろす。

 

 

 

「さて。これからの大学生活。気を引き締めてやってかなきゃな!」

 

 

 

 そして、夢への──官僚への道の第一歩を踏み出すべく門を潜ろうとした。

 

 

 

 

 

 しかし……。

 

 

 

 

 

「何処へ行こうというのですか?」

 

 

 

 校門の中から霞のように姿を現した何者かによって止められてしまった。

 

 霞が取れて現れたのは、青年の父親より少し年上に見える今時珍しいまん丸のフレームを持つ眼鏡を掛けた壮年の男性である。

 

 

 

「は……? 何処って……大学に決まってんじゃねーか」

 

 

 

 夢への第一歩だと気合いを入れて踏み出そうとした足を止められた青年は少し苛立たしげな声で男性に詰め寄る。

 

 だが、男性はそんな青年の様子を気にしても居ないらしく、彼の言葉を涼しげな顔で聞き流していた。

 

 

 

「ほう、大学ですか。それは一体何処の大学なのでしょうか?」

 

「何処って……、此処に決まってんじゃねーかよッ!」

 

 

 

 何処と言うなら此処だ。自分が受験し合格したのはこの大学なのだから。

 

 そんな当たり前のことを質問しながら行く手を遮る男性に、青年の怒りは頂点に達する。

 

 

 

(俺の夢を妨害しようってなら容赦しねーぞ!!)

 

 

 

 実力行使。ぶん殴ってでも校門を通ってやる。

 

 頭に血が上った青年は冷静さを失い、思わず男性に掴み掛かろうとさえした。

 

 だがしかし、次の瞬間にはその瞬間湯沸かし器のように沸騰した頭に氷の塊を落とされてしまったのだ。

 

 

 

「此処は“女子”大学ですよ?」

 

「……へ?」

 

「もう一度言いましょうか? 此処は【女子大学】です。男性である貴方が入れる訳ないでしょう」

 

「ち、ちちッ……、ちょっと待てよ! そんな筈ねェ! 俺は確かに此処の受験で合格して……っ!」

 

 

 

 青年がそこまで言った時であった。それまで涼しげな表情で青年の言葉を受け流していた男性の眉間に皺が寄り、明らかな怒気を孕み始めたのは。

 

 

 

「男性である貴方が神聖なる我が女子大学の受験を受けたですと?」

 

 

 

 聞き捨てなりませんね。怒りを帯びた男性の声が青年を突き刺す。

 

 自分よりも小さな身体であるというのに、まるで怒れる大巨人に変身したかのような錯覚を覚え、たじろぐ青年。

 

 

 

「然るに貴方……変質者ですね?」

 

「なっ?! ち、ちがっ!」

 

「何処が違うのですか。男であるにも拘わらず、女子大の入試を受けようと受験会場に潜入し、剰え合格を勝ち取って我が神聖なる女子の学舎へと足を踏み入れようとした。これが変態でなくて何だというのですか?」

 

 

 

 男性の言っている事は尤もである。

 

 男が女子大の入試を受けるなら女装か何かをしている。そこまでして女子大に入ろうとするなど変質者の類……いや、その物ズバリ変態としか言えない。

 

 つまり、青年は女子大に入ろうとした。そして彼がこの女子大の受験を受けたか否かなど調べれば直ぐに分かる。

 

 

 

 思いも寄らなかった事実に狼狽える青年は、受験履歴を調べ始めた男性を前にして、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 

 そして調べ上げた男性はすっと顔を上げると絶望の言葉を告げてくる。

 

 

 

「確かに、貴方我が校の受験を受けてますね……つまり、変質者であると特定されてしまった訳です。淑やかなる女子をその毒牙に掛けようとする……許し難いことですね」

 

 

 

 死の宣告、正に社会的に抹殺されるであろう宣告であった。いや、それだけならばまだしも、丸眼鏡の男性は明らかにそれ以上の制裁を発動させようという空気を放っている。

 

 更に──ガチャっ……。

 

 

 

「へ……・? な、なんだよ、おい……?」

 

 

 

 青年の右腕を冷たい感触が包むと共に、耳障りの悪い音が響く。

 

 

 

「じ、嬢ちゃん……?」

 

 

 

 腕には鈍く輝く手錠が嵌められており、それを掛けたのは誰であろう彼の小さなライバルであった。

 

 いや、小さかった筈の彼女は、いつの間にやら立派な女性へと成長して居た。

 

 

 

「まさか……。よもやシン兄様が変態であったなどとは……。見下げ果てはましたわ」

 

 

 

 背中に羽のパーツが付いた桃と赤を基調とするドレスに、赤いハイヒール姿の彼女は、心底軽蔑したという目で青年を睨み付けている。

 

 

 

「ち、ちがう嬢ちゃんッ、これは何かの間違いだッッ」

 

 

 

 急に大人へと成長した事など些事であるとばかりに自らの身の潔白を主張する青年であったが。

 

 

 

「ではこの受験記録はなんです? 正直に申し上げて貴方の行いは極刑に値しますよ」

 

 

 

 神聖な女子大学を汚されたことで恐ろしいまでの怒気を孕んだ声音で迫る丸眼鏡の男性と。

 

 

 

「往生際が悪いですわよシン兄様……ッ! これ以上わたくしを失望させないでくださいまし……ッ!」

 

 

 

 軽蔑の目を向ける少女には通じない。

 

 女子大の受験記録という厳然たる事実がある以上、彼の言い訳は虚しく響くだけであり、恥の上塗りをする物でしかないのだ。

 

 

 

「マリー、この男ね。マリーを失望させて泣かせた変態は」

 

 

 

 そして手錠をされ抵抗できない状態の青年の前に、もう一人別の少女が姿を現す。

 

 

 

「誰だよお前ッ!?」

 

 

 

 ライバルの少女と同じ赤い服を着、カールさせた金髪を二つ結びにしているその少女は、青年の疑問に答えることなく携えていた剣を抜き放ち

 

 陽光に照らされて鈍く光る白刃を彼へと向けた。

 

 

 

「マリーを悲しませた罪の重さ……、その身を持って知りなさいッ!」

 

 

 

 斬られた。

 

 

 

 

 

 青年がそう知覚した時、彼の意識は永遠の闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 フッと視界が広がる。するとそこにあったのは見知らぬ天井。

 

 

 

「……」

 

 

 

 つい先ほどまで桜の花片が舞い散る門の前に居たというのに、今は桜など何処にも見当たらない。

 

 自分の大学入学を祝福に来てくれたライバルの少女と両親に見守られながら大学の門を潜った。

 

 門の前で丸眼鏡の男性に行く手を遮られ、自分が入ろうとしていたのは女子大であると告げられた挙げ句に変質者扱いされた。

 

 怒る男性が突き付ける証拠にライバルの少女が手錠を掛けてきて、見知らぬ少女に斬りかかられた。

 

 

 

 

 

 そして、次の瞬間ブラックアウトした視界が映しだしたのは、自分が暮らすボロアパートではない見知らぬ天井。

 

 頭が現実を認めたくないと叫んでいる。今この瞬間は喜びの余り失神した自分が見ている夢であって欲しいと。

 

 正確には後半部分は無かったことにして、門を潜って輝かしい第一歩を刻んだというのが現実であって欲しいと。

 

 

 

(重い……)

 

 

 

 身体の上に何かが乗っている。温かい人肌の温もりなのは何となく分った。触れている体積面と重量からして子供らしいという事も。

 

 顔に触れるさらさらした感触は髪の毛だろう。妙に良い匂いがする辺り高級な洗髪剤でも使っているのかも知れない。

 

 せめてこれがライバルの少女であって欲しい。

 

 決して変な意味ではない。この温もりが彼の少女の身体の温もりであるのならば、まだ先ほどの光景が幻ではなかったのだと信じられる要素が残っているからだ。

 

 無論、都合の良いように前半部分だけを切り取った輝かしい一歩の光景が。

 

 

 

 

 

 しかし、無情にも青年の視界の端に映っているのは、ライバルの少女の髪色ではない。

 

 朱・紅色といった彼の少女の髪よりも薄い色。桃・ピンク……そう、桜色だ。

 

 今まで居た門の前で父と母と少女に祝福されながら、夢への一歩を踏み出そうとしていた世界に舞っていた桜の色。

 

 変態と罵られ、見知らぬ少女に斬り殺されたのも同じ場所であったが、彼の中では後半部分がなかった事になっている。

 

 

 

 

 

 頬に感じたさらさらした物の正体がこの髪であり、皮肉にもそれが桜色ときている上に、向こうの世界から引き戻した物であったことが殊更に青年の気分を落ち込ませる。

 

 

 

「誰だよコレ──つーか夢だよな? 誰か夢だと言ってくれ……」

 

 

 

 認めたくない物は認めたくない。さっきのアレが夢であったなどと。後半部分は最悪であったが途中までは最高の光景であったのだから。

 

 だが、現実は常に非情だ。こんな筈ではなかったというのが現実世界におけるある種の法則である以上、それから逃れることは不可能である。

 

 

 

「それとも──夢で良かったのか?」

 

 

 

 しかし、後半部分の結末を鑑みれば夢であって良かったとも思えるのだから複雑極まりなかった。

 

 

 

「ぅぅ、ん」

 

 

 

 声を出したからであろう。身体の上に乗って寝ていたらしい子供が目を覚ましたようで、左肩を枕のようにして伏せっていた頭がぐぐっと持ち上がる。

 

 長い髪の毛が桜色で、一瞬桜のお化けにも見えたが、紛う事なき人間の子供。

 

 女の子だ。年の頃10歳前後で青年のライバルである少女と同年代と思われた。

 

 

 

「んんぅ?」

 

 

 

 少女はまだ眠いのか目をごしごし擦ってから2,3回瞬きをして、青年の顔をジッと見つめてくる。

 

 

 

「…………………………お兄ちゃん? 何してるの?」

 

「知るかぁぁぁぁ──ッ!! お前こそ何やってんだよッ?!」

 

 

 

 髪どころか瞳の色まで桜色の少女は開口一番何をしているのかと聞いてきた。

 

 だがそれは彼の方が聞きたいのだ。目を覚ましたら知らない部屋に居たのだから。

 

 

 

「お前じゃないよクララだよ? で、お兄ちゃんは何してるの?」

 

 

 

 しかし少女はまたもや何をしているのかと聞いてくる。

 

 

 

「だから知らねえーッつってんだろッ!!」

 

 

 

 自分とて何がどうなったのかを知っていたら教えてやらないでもなかったが、本当に何も知らないのだ。

 

 

 

「口が悪いなぁ…… 女の子にそんな口の聞き方しちゃダメだよまったくもう」

 

 

 

 だが少女──クララは青年の口の悪さを指摘するだけでまったく話が噛み合わない。

 

 

 

「やかましいッ! 人が夢への一歩を実現させたってのに期待もたせるような夢見せて現実を壊しやがってこのピンクちびッ! てかココ夢だよな? コレ夢だよな? 現実じゃないよな? あっちが現実だよな? 主に前半ッッ!!」

 

「はいはいどーどー落ち着いて落ち着いて、混乱しすぎだよシンお兄ちゃん。お兄ちゃんが夢への一歩を踏み出したって何それ? ダジャレ?」

 

 

 

 つまんないよーと笑う小憎らしい少女の事を、青年は良く知っている。

 

 毎年大学受験に向けてバイト代の殆どを注ぎ込み通っている塾の近くの公園で休憩しているときに良く会う少女。

 

 彼女の保護者という、子供みたいな中年男性とも良く話をしていてお互い顔見知りの間柄だ。

 

 彼はこの少女と、少女の保護者である男性とは、何度も顔を合わせている内にそこそこ親しくなっていたが

 

 顔を合わせるのは専ら公園での事であり、こんな見知らぬ部屋で会うなどというのは理解不能であった。

 

 

 

「ええっとね、順を追って説明しちゃうと。昨日の夜に例の公園で吐しゃ物撒き散らしてぶっ倒れてたお兄ちゃんを偶然通りかかったパパが見掛けて連れて帰ってきたんだよ。 酒臭いし汚いしで大変だったんだから。パパなんか一張羅の服にゲロ吐かれて災難だったみたいだよ?」

 

「…………悪い、俺なんも覚えてねえ……おっさんに会ったような記憶は朧気に浮かんでくるんだが……」

 

「あれだけべろんべろんに酔ってたらそりゃねー。それでそれで、そのあとお兄ちゃんは酔った勢いでクララを布団に押し倒して無理矢理傷物にしてこうして朝を──」

 

「ウソ付くなピンクちびッッ!!」

 

 

 

 何があったかの説明を聞いていた彼は不意に発したクララの一言に聞き捨てならないとグリコをお見舞いする。

 

 

 

「痛い痛いッ!!」

 

 

 

 幾ら泥酔状態でも子供相手に間違いを犯すようなロリペドフィリアではないと。

 

 

 

「乱暴だなぁもう…… 今からこんなじゃこれからの夫婦生活大変だよ…… お兄ちゃん、尽くす嫁であるクララちゃんに感謝してよね? 普通ならとっくに離婚だよまったくもう」

 

「じゃかましいクソガキッッ! 誰と誰が夫婦だッ!!」

 

「そんなのお兄ちゃんとクララに決まってるじゃない!」

 

「ああああ~~~ッ もうクソッ! 口の減らねェガキだッ!!」

 

 

 

 ライバルの少女と変わらないくらいに大人びた言動ながら、何処か幼さを感じさせるクララ。

 

 そんな彼女はとにかく口が達者で、青年はいつも言い負かされている。

 

 

 

「ま、夫婦の営みは追々って事で」

 

「営まねえーっつッてんだろが!」

 

「はいはいツンデレはもう良いから。男のツンデレはキモイだけだし」

 

「ツンデレでもねェ!」

 

「ま、とにかく何しか要するに、此処はクララの家だよ。いらっしゃいお兄ちゃん」

 

 

 

 彼女の言葉で漸く自分が居るのは何処かを知った。そう、此処は彼女クララ、クララ・ランフランクの家。

 

 つまり。

 

 

 

「クララの家ってことは……おっさんの家か?」

 

 

 

 彼女の保護者の家だ。

 

 

 

「そうだよ。何か悲しい現実から逃避しようと自棄酒を飲んでぶっ倒れた哀れなお兄ちゃんは、魔法使いであるパパに助けられてお姫様の家で幸せになりましたぁー」

 

「誰がお姫様だって?」

 

「勿論クララ」

 

「言ってろアホ」

 

「ひっどーいッ! ま、いいやお兄ちゃんだから許す! じゃ、ちょっと待っててね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパを呼んでくるねと部屋から出て行く小さな背中を見ながら青年はある事に気付き、ポケットの財布を取り出す。

 

 彼女は言っていた……公園で倒れていたと。ならば最悪のことを考えつくのも自然である。即ち、誰ぞに抜かれている可能性。

 

 

 

 

 

「……中見抜かれてる」

 

 

 

 

 

 開けた財布に入っていたのは百円玉一枚のみ。

 

 自棄酒こそ飲んでいた物のすっからかんになる程高い酒も飲んでいなければ、高級な店に入った記憶もない。

 

 いや、記憶が殆ど飛んでいるからもしかしたらという事も有り得るが、とにかく今が無一文に近い状況であるのは変わらない。

 

 

 

 

 

「……やべェどうすんだよこれから……家賃に生活費に……おっさんの服にゲロも吐いたんだよな……あの高そうな服の弁償代に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇歴2013年4月7日 AM8:26分

 

 

 

 

 

 再度の受験に落ち、自棄酒に溺れ、財布の中身を盗まれて、高級な衣服の弁償代まで払わなければならない。

 

 それが青年──玉城真一郎の現実であった。

 

 

 

 

どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。

  • 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
  • 嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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  • 高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-
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