帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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マリーベルの変装はsideオルドリン第一期4巻14話「園庭、伏せし凶器・前編」の物です。


新宿歌舞伎町の街角にて

 

 

「あ~、くっそ~パチンコ打ちてえ~」

 

 濃色の茶髪を威勢よく逆立て、赤いバンダナで止めた男。

 

 服装は身体にフィットした紫の上着に、下は薄い青色のジーパンを穿いたその顎ひげを蓄えた、一種無頼漢に見える男は、パチンコ屋の入り口のドアが開く度に身体を心をうずうずさせていた。

 

 逸る気持ちを抑えられないといったところだろうか? 生来賭博が好きな彼は、競馬場の前を通れば競馬に。競艇場の前を通れば競艇に。その心を熱く熱く引き付けられるのだ。

 

 そして今の様にパチンコ屋の前を通ればパチンコを打ちたくなる。

 

 半ば家と自宅と化している大家の邸宅にて大家の弟が来訪していればカードゲームで賭けをする。自身への挑戦に対しけして逃げることの無い大家の弟シャルル・ランペルージはそんな彼をいつも返り討ちにする。

 

 そう、いつも返り討ちにされるというのに、ブラックジャック、ポーカー、スピード、カブ、あらゆるカードゲームを挑んでは有り金を巻き上げられるのだ。

 

 それでもギャンブルが辞められない彼――玉城真一郎は、もう手遅れなギャンブル依存症であろうと思われる。

 

「いけません!」

 

 パチンコが打ちたいと口走った玉城の腕に絡みつけている自身の腕で彼を引っ張ったのは、頭の左側高くで一つに纏め上げられた、腰下まで届く長いサイドテールの髪の女性。

 

 膝下へと届くロングスカートは裾部がフリルになっており、裾部に二本のラインがスカートをぐるり一周円を描くように描かれている白いワンピース。

 

 濃色の蒼い瞳はディープブルーの色で、どこまでも深い海のようなそんな色を思わせる、目鼻立ちの整った美しい女性だ。豊満な胸部を惜しげも無く玉城の身体に押し当てている様は、彼を誘惑しているかのようで。

 

 そんな美しい女性に引っ付かれているというのに表情一つ変えず、パチンコ屋に惜しげある視線を向けて見遣る彼に対して、彼女は強く指導する。

 

「ギャンブル依存症がほぼほぼ確実な兄さまの監視もわたくしのお仕事の一つなのですッ!」

 

 彼女の名はマリーベル。マリーベル・ランペルージ。本名をマリーベル・メル・ブリタニア。玉城の生まれ育った誇らしい国、世界第二位の超大国『技術の』大日本帝国の最も親しく、家族関係にあると言っても良い程に繋がり深い国。世界第一位の超大国『力の』神聖ブリタニア帝国の第八十八皇女。

 

 皇女殿下、お姫様なのだ。そんなお姫様がこんなギャンブル狂いの馬鹿と一緒に新宿歌舞伎町を歩いていたのには理由がある。

 

 今現在グリンダ騎士団、マリーベル皇女が総団長を務める浮遊航空艦30艦、総兵力11万人の巨大な対テロ遊撃騎士団に休暇が出され、同盟国日本へと羽を休めに訪れたのである。

 

 そこで、マリーベル皇女はいずれ自身の夫として迎える予定の馬鹿の玉城、アホの玉城、が、よっしゃあああっっ!! 一勝負行ってくるぜぇぇぇぇっ!! という、大家の家で口にしてはならない言葉を口にしたことで、玉城の上司としてマリーベルが監視に就いたのである。

 

 まあ、彼女に取っては監視という名のデートであり、出かける前はウキウキワクワクドキドキしていたのだが。

 

「いいじゃんかちょっとくれぇ……別にお前の金を使うんじゃねーんだからよぉ」

 

「駄目ですっ! 大体特別休暇であって賭博を行うための休暇ではありませんっ! そもそも兄さまは御自分の借金のことをお考えくださいっ!」

 

「いや、お前よお。博打打ちに行ってる奴もいるじゃんか。11万人もいるんだぜ? シャルルのおっさんが代わりの部隊派遣して全員に休暇取らせてんだから。借金持ちでギャンブルしてる奴もいるだろ。そいつらは良くて俺は駄目な訳ぇ? そんなん通用すっかよ!」

 

 消費者金融で借りてるわけでもあるまいし。

 

 ああ言えばこう言う玉城真一郎だが、彼がグリンダ騎士団に所属している意味の一つは借金を返すことである。

 

 

 

 

 新宿歌舞伎町の街角にて

 

 

 

 

 彼は大家にしてブリタニア帝国皇帝皇兄でもあるV.V.。

 

 V.V.の実の娘である皇兄女クララ・ランフランクもう一つの名をクララ・ジ・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 

 神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。

 

 ブリタニア貴族ジヴォン家次期当主オルドリン・ジヴォン。

 

 ブリタニア貴族ソレイシィ辺境伯家次期当主マリーカ・ソレイシィ。

 

 ブリタニア貴族シュタイナー家次期当主レオンハルト・シュタイナー。

 

 そしてマリーベル。ブリタニア皇家の個人五人、ブリタニア貴族三人から大きな借金をしているのだ。ブリタニアの皇帝に皇族に貴族にと、やんごとなき人々に平気で借金をしまくっている馬鹿野郎なのだ。

 

 全てギャンブルで作った借金であり、利息こそ発生しないが膨れ上がった借金総額は一千万単位。

 

 これをグリンダ騎士団の仕事で返していっている訳なのだが、騎士団に嘱託副官として入団してから、入団前よりも借金が膨れ上がってしまっている。

 

 泣き落とし、宥め賺し、自傷行為、あらゆる手段でマリーベル、オルドリン、マリーカ、レオンハルトの心を揺さぶりお金を借りて。なんとブリタニアが誇る世界最大の賭博街ラスベガスで大勝負に出て、大惨敗してしまったのである。

 

 これを知った貴族達は怒った。いや、それ以前から彼にお金を貸していた皇族達も怒った。怒って呆れてしまった。真面目に返済をするかと思えばこれなのだ。もう呆れるしかないだろう。

 

 喜んだのは大口の貸主であるクララ。

 

 クララにとってはライバルのマリーベルの目算が外れたからだ。

 

 マリーベルの母である、神聖ブリタニア帝国皇妃フローラ妃の出した、玉城とマリーベルの結婚条件の一つに、玉城のギャンブルを辞めさせるという物があるからだ。

 

『ふふふっ。甘いねお姫様。お兄ちゃんの博打癖はそう簡単に治らないのだよ。重度のギャンブル依存症者であるお兄ちゃんを甘く見すぎだったね』

 

 グリンダ騎士団に入るということはブリタニアにも行き、ブリタニアに行くということはベガスにも行く。それが玉城真一郎という男。

 

 計画性も無く、いい加減で、適当な男の在り方をクララはよく知っていたのだ。

 

 玉城の人間性を“原作から識っていた”夢幻会のメンバーは、V.V.邸でごろごろしている玉城と知己の者も多いが、玉城にお金を貸したら返ってこない可能性があるとして誰一人貸していない。

 

 また、鼻の利くソキア・シェルパはしつこい無心をされたが、口をへの字に曲げ、目を点にしつつ、1ポンドも貸していない。

 

 多方でマリーベルの計画としては玉城を自身に依存させることもあったりする。クララの立場を自分が乗っ取ってしまうことも視野に入れて自分が玉城の資金源になれば、玉城は自分に依存すると考え、誰よりも多くのお金を貸したのだ。

 

 それがまさか見境無く借金をしまくるとは思っても見なかった。叔父V.V.、兄ルルーシュ、父シャルル、レオン、マリーカは安パイ。上記三人は男であり、レオンとマリーカは夫婦だからだ。

 

 だがクララは完全に地雷だし、最近はオルドリンも少し怪しいところがある。

 

「とにかくなりませんといったらなりません!! 兄さまのギャンブル依存を治すこともわたくしの使命の一つなのですから!!」

 

「なんでよっ?! 俺がどこで賭けようが俺の勝手だろうがっ?!」

 

「だーめーでーすーっ! さあ、兄さま本日のご予定は一日わたくしにお付き合い戴くことなのですからパチンコ屋さんに目など向けずに参りますよ!!」

 

 頭の左上高くに一纏めにされているマリーベルの長いサイドテールが大きく翻り揺れた。玉城はその様子を見遣りながら一計。

 

 また馬鹿なことを考えついて実行に移してしまった。

 

「はあああ~、どうしてわかってくれねえんだろうなマリー。マリーベル」

 

 玉城は壁越しにドンとマリーベルを追い詰める。実に素敵だろう。これがパチンコ屋の壁でさえ無ければ。

 

「にい、さま……?」

 

 玉城はマリーベルの顎を壁ドンしている左手とは違う、空いた右手でくいっと持ち上げる。日本の平民たる玉城、それも碌でなしな馬鹿男からのブリタニア皇族に対するこの行い。

 

 不敬罪ここに極まる行為ながら、マリーベルが玉城に好意を抱いているという無茶苦茶な事実は、北側諸国は愚か南天にまで知れ渡っているため。誰にも咎められることも無いのだ。

 

 玉城は年下の女に興味は無い。それはマリーベルも知っている。与り知りながら玉城を夫とすると宣言しており、他の女性を牽制している。

 

 ブリタニア帝国の皇女である自身が宣言を布告しておけば玉城に手を出す女性がそうそう現れないことを計算して。

 

 事実、この宣告にはかなりの効力があった。玉城に好意を抱いたとしても手を出そうと試みる者は平民の間では皆無。

 

 ブリタニアの皇女であるマリーベルに正面から挑もうという怖い物知らずが居るはずも無し。

 

 クララ・ランフランクやオルドリン・ジヴォン、皇族や名家の人間しか手を出そう、興味を抱くという者は居ない。無論これはブリタニア国内の話であって、大日本帝国や南天ではまた別。

 

 信じられないことに玉城に好意的な感情を抱いている女性が他にもいるのだ。その女に玉城の唇は一度奪われているらしい。

 

 その女性とは、修道女のような格好をしていた美女で、茶色の長い髪を三つ編みに結った女だったという。ふと気が付いた瞬間にその女にキスをされていたという彼の情報。

 

 激昂したマリーベルとクララはだがそれだけでは誰かわからないと追跡も出来なかった。不思議なことにカメラに捉えられて居らず、南天の幹部だと見られる無貌かとも思われたが実態は不明。

 

『玉城真一郎……いずれあなたを迎えに来るわ。それまで待っていなさい』

 

 妖艶に微笑みながら頬を優しく撫でてきた年上修道女の姿に玉城は。

 

『年上のいい女に好かれるのは最高の気分……』

 

 脳天気にもそんなことを呟いていたが。

 

 それは、それだけは許さないと以来守りを固めているマリーベルとクララ。

 

 まあそれはともあれ、今現在のこの体勢。こうなると。

 

「んう――」

 

 重ねられるしかなかった玉城の唇。別にマリーベルと玉城が口付けを交わしたのはこれが初めてでは無い。

 

 マリーベル側からが基本だが、二人はこれまでも幾度と口付けを交し来た。彼女も年頃の女性。愛する男性への愛情のアピールには欠かさないし、また我慢も出来ないだろう。恋する乙女の性だ。

 

 その普段からの愛していますアピールのおかげで玉城もマリーベルとの口付けに抵抗感が無くなっていた。というよりもここまでやってキスしないのはそれはそれでマリーベルに恥を搔かせることになってしまう。

 

 ブリタニアの皇女様に恥を搔かせるのは不味いだろうということは、この馬鹿にもわかっていた。

 

 第一、ここまで来てしまうと安易に止まれば彼女の不機嫌さが増してしまうだろう。

 

「んっ、んふぅ――」

 

 一分二分と続く口付けはけして深い物ではない。軽く触れ合わせたまま唇同士を啄み合わせる物で、たまに見掛ける世の恋人同士のそれ。

 

 それを神聖ブリタニア帝国第八十八皇女、英雄皇女と名高いマリーベル・メル・ブリタニアと。

 

 日本の底辺高卒で、不可能な夢を追う平民が行うのは間違っているか知れないが。

 

 少なくとも玉城の行いは痴れ者として判断されてしまうこと疑いなし。

 

 まあ、当のマリーベルが玉城との口付けに幸せを感じているのだから邪魔するのは野暮と言った物だが。

 

「んっ……にい、さま」

 

 静かに名残惜しそうに離れる唇。

 

「兄さま……」

 

 マリーベルはその名残惜しさを大切な愛する玉城を抱き締めることで彼の心へと訴えかけた。

 

「マリーは、わたくしは、兄さまが愛おしゅうございますわ……」

 

「ああ、俺も好きだぜマリー」

 

 玉城もマリーベルを抱き締める。優しくも強く。

 

 じゃりんじゃりん――玉城の耳には相変わらずパチンコ台の音が聞こえている。

 

「そんな好きなマリーと一緒によ。二人で並んで台を確保して打ちてーんだ俺は」

 

 ぴくっ。マリーベルの身体が震えた。ああ、兄さまそういうことなのですね? その為の口付けなのですわね?

 

「兄さま……」

 

「マリー……」

 

 ぎゅう。

 

 マリーベルの豊かな胸が玉城の胸板に押し付けられ潰される。

 

 男にとってはご褒美さながらの状況だろう。マリーベルほどの美人はそうそう居はしないのだから。

 

 玉城はそんな可愛らしいマリーベルのサイドテールに触れながら撫で下ろし、彼女の身体を抱き締めて上げた。

 

「マリー」

 

「兄さま」

 

 ぎゅううう。

 

 玉城の胸板に押し潰される豊かな胸は、更なる圧力を彼の胸板に掛けていく。

 

 彼の背中に回されているマリーベルの腕にも力は加わっていく。

 

「ま、マリー?」

 

「うふふふ兄さま」

 

 ぎゅうううううう。

 

 ゴム鞠のように大きく豊かなるマリーベルの胸部は玉城の胸部を更に更に押していき、潰されていくのだ。背中に回る腕は彼の身体を彼女の方へと、彼の身体は圧迫されていく。まるで圧縮機のように……。

 

「い、いだ、いだいっっ、いでででででで~~~~~っ! ちょ、ちょっ、ちょっと待てっ、おっぱいの感触とかイイ香りがして気持ちいいのに痛いっっ!! ま、マリー、マリーベルさんっっ?!」

 

「うふふふふ、結局は愛情故の口付けだとわたくし一人で勘違いをしていただけなのですわね? 兄さまがパチンコに行きたいだけの、そんなくだらない理由でわたくしは唇を捧げたのですわね? そんな自分が道化に感じられてむかっ腹が立ちましたの……兄さま、恋する女を怒らせるとどういう目に合うか? 今一度身を以ておお知りくださいましな」

 

 ぎゅううう――っっ!!

 

「いだいいいだいいだいっっ!! マリーベル様っっ!! 気を付けますっ! 今日はパチンコをしたり等致しませんっっ! 口にも致しませんっっ!! マリーベル様のお買い物だけにお付き合いを致しますっっ!!」

 

「わたくしとのお買い物ではありません……、わたくしとのデートです……」

 

 光を失ったマリーベルの蒼い瞳。玉城を見ながら、玉城を映しながら光を失っている虚無の瞳。

 

 馬鹿は学習をしないのである。マリーベルに口づけたら、愛を囁いたら誤魔化せる。これまでそんな手を何度も使われていれば愛に飢えている彼女も流石に騙されなくなるだろう。

 

「わ、わかったっ、わかりましたっっ、ですからお許しくださいっっ、いでででで~~~っ」

 

 ぎゅうううぅぅ……ぅぅ……。

 

 マリーベルの腕の力が抜けていく。玉城を抱き締めながらその背骨をへし折らんとしていた程の圧力が消え、ただ抱き締める格好へと変わっていく。恋人同士のそれへ。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、い、痛かったわ、背骨折れるかと思ったっっ」

 

「兄さまがわたくしを裏切るようなことを仰るからです。次、ギャンブルのお話を為さったときは肩の骨を外してしまいますから」

 

 マリーベルはクララがお仕事中で東京を離れている今、玉城を独占できることに歓喜し、デートを楽しみにしていたのだ。

 

 それをギャンブルなどで潰されたくは無い。

 

 もちろん彼女も玉城のギャンブルに遊びで付き合ったりもする。だが、今日はデートがしたいのだ。デートにギャンブルは要らない。

 

「こ、こえーこと言うなよ。クララもそうだけどお前ら美人の癖しておっかねーんだよ……」

 

 玉城はそう言い冷や汗を流しながらマリーベルのサイドテールに指を通して撫でて上げる。ほとんど誤魔化し行為で。ビッグマウスで誤魔化すのだけは上手い男の本領。

 

 けしてお世辞では無い言葉をもらえた彼女は美人だと言われて頬を赤らめるが、怒っていることには違いない。

 

 彼女も玉城の逆立つ髪を撫でながら、彼を愛撫しつつ呟いた。

 

「兄さまとのデート、わたくし心待ちにしておりましたのに……。このようなつまらないことで怒らせないでくださいまし」

 

「ごめん、ごめんって、許してくれよマリー」

 

「……許して欲しかったら、もう一度、心を込めた口付けをください」

 

「お、お前なあ、別に俺等って恋人じゃねーんだぞ?」

 

「愛する殿方よりの口付けをいただきたいのは女として当然のこと……、さ、兄さま」

 

 光を戻していた深い蒼。ディープブルーの瞳を閉じるマリーベルはただ待つ、玉城の背に腕を回したままで。

 

「ったく、しょーがねーなー」

 

 学習しない馬鹿は馬鹿なりに、漸く少しばかりの学習をして、嫌いでは無い女の唇を自分の唇で優しく塞いだ。

 

 

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