また二二三氏のSSを元に、自分なりの解釈を入れて書いたオリジナルです。
まあ、単なる馬鹿男爵シリーズの一つのお話というだけですけれど(汗。
ローゼンメイデンのネタばかりなので億劫かも知れませんが、しっかり馬鹿男爵のネタも詰めております。
神聖ブリタニア帝国ローゼンクロイツ伯爵家は、上位伯爵家であり、広大な領地と人口、そして軍事力を持つ恐るべき貴族の一家である。
ブリタニアの階級制度は、平民から皇帝まで、全13階級に分けられているが、厳密に言えば13階級ではない。
伯爵は伯爵でも、下位、中位、上位と大きく分けて三段階に分かれており、上位伯爵ともなれば更に階級が一つ上の下位の辺境伯とほぼ同等となる。その他、法衣貴族なども多数おり、一概にこれを以て何かとは言えないのだが。
それぞれの貴族はやはり三段階ずつに分かれていると言っても良い為、ブリタニアの階級制度はその実、厳密に言えばだが、三十段階前後存在すると言っても過言では無いのだ。
俗に呼ばれる大諸侯とは上位伯爵家からとなり、中位以下の伯爵家とはその力に大きな差が存在する。下位の貴族の最上位である子爵家と、上位の貴族である伯爵家との間に存在する絶対的なる壁。
これと同等のものが中位伯爵家と上位伯爵家以上の貴族の間には存在しており、越えられない壁となっている。
そのローゼンクロイツ伯爵家は近傍の貴族家である、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、ヴェルガモン伯爵家、いずれ名だたる大貴族と同様。広大なる領地と精強な騎士団を持つ。その名はブリタニア人なら当然として北側諸国・南側諸国問わず知られている。
北ブリタニア大陸中南部に位置する ローゼンクロイツ伯爵家の詳細は。
領地面積:約145743km²
陸地面積:約144700km²。
水域面積:約1041km²
総人口:630万人
東西の幅:320㎞
南北の長さ:500㎞
最高標高:509m
平均標高:340m
最低標高:146m
領都:アイオワシティ
陸上騎士団:5万人
天空騎士団:1万2千人
水上騎士団:僅か
第5世代機:グロースター
第7世代機:ヴィンセント
となっており、数値で見てもわかる通りの、押しも押されぬ大貴族。
勘違いした田舎者 良太郎とシンクの穏やかなひととき
そのローゼンクロイツ伯爵家は、大貴族にして大家族でもあった。
腰まで届く銀色の長い髪にルビー色の美しい瞳を持ち、黒いドレスに身を包んだ、妖しい美を持つ、長女スイギントウ。
ロールヘアーにされた緑色の髪に、緑色の瞳、黄色いドレスに身を包む次女、カナリア。
身の丈よりも長い栗色の髪を二つに分けたロールヘアー、右の瞳が赤、左の瞳が緑のオッドアイを持ち、緑色のドレスに身を包む三女、スイセイセキ。
栗色の短い髪に黒い帽子を乗せ、深い蒼色の男性用の衣服に身を包む、右の瞳が緑、左の瞳が赤のオッドアイを持つスイセイセキの双子の妹、四女、ソウセイセキ。
身の丈よりも長い金色に輝く髪を、細く黒いリボンで左右側頭部高くに結び、赤いヘッドドレスと赤いドレスをいつも着こなす、全てを見通すような深い青色の瞳を持つ五女、シンク。
肩までのセミロングの金髪を幾つかのロールヘアーに分け、薄桃色の大きなリボンを頭に結び、白桃色のドレスに身を包んだ緑の双眸を持つ六女、ヒナイチゴ。
雪のように白く美しい、膝下にまで届くウェーブヘアーに整えた、右目に白い薔薇の眼帯を付け、白いドレスに身を包んだ、金色の瞳を持つ七女、キラキショウ。
少し暗めの膝下にまで届く銀色の長い髪を持ち、左目に紫色の薔薇の眼帯を付け、紫色のドレスに身を包んだ、金色の瞳を持つ八女、バラスイショウ。
短い黒髪に黒い瞳、眼鏡を掛け、青の紳士服に身を包んだ一見日本人に見まごうかという風貌を持つ末弟、ジュン。
まるで五女シンクと生き写しのような容姿、髪の長さ、髪型を持つ、シンクと同じ赤薔薇のドレスに身を包んだ、ローゼンクロイツ伯爵夫人、アリス・ローゼンクロイツ。
そして明るい金髪に白の紳士服に身を包んだ、二十代前半の風貌を持つ美青年、当主ローゼンクロイツ伯爵。
他にもう一人、年中北側の世界中を旅している、八女バラスイショウの本当の父親で、ローゼンクロイツ伯爵とよく似た風貌を持つ、伯爵の実弟エンジュ・ローゼンクロイツ。
皇室ほどではなくとも、日本基準で見ると充分すぎるほどの大所帯を持つローゼンクロイツ伯爵家は、その五女が盟邦大日本帝国のある人物の元に嫁いでおり、先日、その人物の留守中に、ある事件が起きた。
ブリタニア帝国の男爵家を名乗る輩が、不敬にも夫を持つ身で有り、遙か高みにある上位伯爵家ローゼンクロイツの五女、シンクを、自らの交遊に誘ったのである。
遊びに誘っただけ? とんでもない話しだ。たかが一男爵家、それも下位か中位に位置するだろう男爵家の当主を名乗る男が、神聖ブリタニア帝国の貴族として、本来識っておかなければならないはずの、ローゼンクロイツという大諸侯の息女の名も、顔も、識らずに、自らの遊びに誘ったのだ。
当然ながらこれは不敬罪に相当する。シンク嬢が無礼討ちとすると決めたのならば即座に無礼討ちとされる対象。だが、起きた場所は大日本帝国。
家族同然の盟邦とも例えられる同盟国同士なれど、法の違いは存在する。大日本帝国には大日本帝国の法が有り、ブリタニアの貴族であっても日本に居る以上はこれに従わなければならない。
つまりシンクと言えども、日本では事件とならない、セクハラなどをされていない以上は検非違使に訴え出たところで意味も無く、無為な行為でしか無い。
これらを承知の上で彼女は誘われて遊んでみた。ブリタニアの貴族たる者、当たり前として持つノブレス・オブリージュをこの男が僅かばかりでも持つのかを、自分でも愚かに思いながらも試してみたのだ。
財産、権力、社会的地位。曲がりなりにも貴族の当主、それらを持つであろう者。平民への接し方は? 領地の運営については? 祖国に対する忠誠心は? いざとなれば領民の為、剣を振えるか?
結果として言えば、全ての面に於いて0点を下回った。この男はブリタニアの貴族として相応しくない。そしてこの男を見つめることで、己が在り方を見つめ直すという事も、意味の無い一夜の遊びに彼女はしていた。
が、この情報は漏れた。彼女が漏らしたのでは無い。この様なくだらないことを一々誰かに吹聴し噂とするような低俗な精神を彼女は持たない。高貴なる者の在り方、誇り高く生きる彼女が、こんな馬鹿との馬鹿な遊戯を口にするなど、自らをおとしめる行為だからだ。
漏れた理由は至極単純なことだった。日本には多くのブリタニア人が遊びに来ている。また、良きにしろ悪しきにしろ、ブリタニア帝国の大貴族であるローゼンクロイツの名は、クルシェフスキーやヴェルガモンといった大諸侯同様、社交界、政財界で知れ渡っている。
彼の男の誘いに応じたのはノブレス・オブリージュとは、を再確認するためだけの、くだらない時間でしか無かったが、そのくだらない時間の最中にあって、多くのブリタニア人また盟邦である日本の方々にも気付かれていたのだ。
即ち、シンク・ローゼンクロイツ様だと。最早論うまでもなく、この情報はブリタニア中、そして日本の上流階級の間で駆け巡った。曰く『一男爵家当主を名乗る輩が不敬にもシンク様を自らの遊びにお誘いした』と。
それが昨今問題になっていたロズベルト男爵家当主のフランク・ロズベルトだと分かるのも早かった。
※
「失敗だったかしら?」
豪奢な鏡の前の椅子。どう高く見つもっても中学生に入るか入らないかくらいの少女、否、女性が座り。女性自身の身の丈よりも長い金色の美しい髪を、少し天然パーマの入った七三分けの黒髪の壮年の男に梳かれながら、鏡に写る自分を見ていた。
丁度梳き終わったところで、彼女の頭の左側頭部高く、輝く美しい金の髪を集めながら、持っていた細く黒いリボンで髪を結う男は、女性――シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢のそんな呟きに、息を吐き出しながら呆れた口調で応じた。
「失敗も何も、お前さんが嵌めた様なもんじゃねェかい……ったく、相手が誰かも知らずに誘った馬鹿男爵が不敬すぎるが、誘われてやったおめェも充分事態を悪化させてやってんだぞ? 件の馬鹿男爵様にとってのな」
宮廷の舞踏会などでは稀に組み合わせとして下級貴族と上級貴族が踊ることもある。その様にならぬよう組み合わせが為されているが、下位貴族にとっては栄誉な事であり、自分を売り込むチャンスでもあるのだ。
あの一夜の遊戯。もしもロズベルト男爵が子爵よりも上位の貴族位があるということを学んでおり、相手がシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢だと気付いていた上で、『御無礼を承知で』とでも付け加え、自分の遊戯に付き合わせるのでは無く、シンク様のお供をさせてくださいませんかとでも主張していれば、まだ理解も得られたかも知れない。
「リョウタロウ、あなた、不倫を疑わないのね」
シンクは誇らしげながらも、少し不満そうに口を尖らせる。自分が何処かの男と遊びに行っていても心配してくれないのか?
「誰が疑うかよ」
左側頭部の髪を結い終えた男――大日本帝国枢木内閣外務大臣にして裏世界では魔弾の射手と呼ばれる、世界最強を謳われるスナイパー、壮年の面差しを持つ、まだまだ若々しい“青年”麻生良太郎は、シンクの右側の髪の毛を、彼女の右側頭部高くに集め、左と同じく細く黒いリボンを、集めた髪の根元に巻き付け、括り上げ、綺麗に結い上げつつ、言葉を発した。
「おめェが誰よりも高貴な女だって事ァこの俺がよーく知ってるぜ。大方心中ではつまらない男とでも考えてたんだろう? そもそもがお前さんをローゼンクロイツ伯爵令嬢と知らずに誘った木っ端貴族に罪がある。ブリタニアって絶対君主貴族制階級国家ってのはそうなってんだろ? だったら悪いのはそのロズベルトって木っ端貴族であってお前には何も落ち度はねェ」
リボンをキュッと強めに結び、しっかりと結い上げ完成したツインテール。良太郎の手で結われた髪。良太郎は指を入れて撫でおろし、しっかり整えてから二つの髪束を離した。
「さ、完成だ。どうよ? 出来栄えは」
「いつも通りの合格点よリョウタロウ」
自分を鏡に視ながら、自身の赤薔薇の色をしたヘッドドレスを彼から受け取ると、頭に付け、顎下に緑色のリボンで結びつける。
彼女は今一度鏡に写る自分の身体の角度を変えながら、身嗜みを確認すると、すっ、と椅子から立ち上がり、良太郎に手を伸ばした。
「抱っこ、してちょうだい」
「なあ、お嬢様よお。俺、ちょっと疲れてんだよ」
「フフ、なにをおかしなことを。一個戦車大隊を簡単に迷子にして、南天と深い繋がりのあったユーロユニバースの議員を、来たるべき日が来るまでにユーロを白化させないよう三人ほど迷子にしてきただけ、なのでしょう?」
このあり得ない返答に苦虫を潰す良太郎。裏の仕事の話しは妻にしていない。だが、妻シンク・ローゼンクロイツはいつも視てきたかのように言い当てる。その深い青の双眸で、こちらの瞳を見つめながら。
「依頼主はツジ卿、かしら」
「知らねェなあ」
ガツンッ。
瞬間、良太郎の脛に迸る激痛。
「痛っでェェ! オメェなにすんだッ!」
すっとぼける良太郎の脛がシンクの爪先に蹴られた。いつものこと、彼が気に入らない回答をしたり行動を取れば、彼女は彼の脛を蹴るのだ。
郷に入りては郷に従えの如く、シンクも日本の麻生の邸宅では靴を脱いでいる、なので家の中での脛蹴りは爪先となってしまうが、それでも充分痛い。
彼女自身の爪先にダメージが来ないよう調整しながらというところが、彼女もまたただ者ではないことを示していた。
「素直に答えないからよ。随分前の私の救出もツジ卿からの依頼だったでしょう? あなたはよくツジ卿の依頼で動いている。違って?」
なんでも言い当ててくる妻。普通の夫なら恐怖を覚えているかもしれない。
「……お前よお、なんでそんな簡単に物事当てられるんだよ」
「深淵にある情報の欠片を集めて形にしていけば答えは出るわ」
「じゃああれかよ。そんな女でも見抜けねえ男爵閣下は大物って事か」
「粗ばかりでしかない馬鹿の考えは見透かせても、理解までは出来ないわ。それもあそこまでの馬鹿となると、何をしたくて何事を行うのか。意味不明ね」
「で、ローゼンクロイツ伯爵には報告すんのか?」
※
ローゼンクロイツ伯爵への報告。重い意味を持つ。
伯爵は自身が手塩に掛けて育てた薔薇達を、無作法者に触られる事を嫌う。舞踏会に参加していた下位の男爵が、長女スイギントウに無遠慮に触れたことがあったが、後日死体で見つかっている。恐らく無礼討ちにされたのだろう。
いつも優しげな微笑みを浮かべている伯爵は、その実とても優しい。領民からも親しみを込めて『ローゼン様』と愛称で呼ばれている。貴族を愛称で呼ぶなど不敬罪で処刑物だが、伯爵は嬉しそうに『いつも我が領の発展のために頑張ってくれてありがとう』と、微笑みを以て返すのだ。
こんな話がある。あるとき、領内視察に赴いていたローゼンクロイツ伯爵の前を子供が通り、SPが気付いていなかったのか、伯爵共々転倒してしまったことがあったそうだ。雨に濡れた街頭。水たまりに落ちた二人。
ずぶ濡れになってしまった伯爵と子供。確実なる無礼討ちとされる所業、だが伯爵は『坊やお家はどこかな? 名前は? 坊やが風邪を引いてしまっては大変だ。直ぐさまお家まで送ってあげよう。すまない君、車を回してくれないかな?』SPの一人に声を掛け、子供を家まで送り届け。なんと子供を転倒させてしまったことに対する謝罪金まで支払ったという。
平民とは大切にするもの。尊きものとして守らなければならないもの。ノブレス・オブリージュの精神を持つアイオワを治める大貴族。ローゼンクロイツ伯爵。その教えは子供達や家臣にも受け継がれており、アイオワはローゼンクロイツ伯爵の邸宅でもある宮殿、薔薇の荘園を中心に発展の限りを尽くしている。
また別の話がある。ローゼンクロイツ伯爵の奥方。シンクと鏡合わせの様に瓜二つなアリス・ローゼンクロイツは、シンクと同じく赤薔薇に例えられるが、この赤薔薇はローゼンクロイツ伯爵にも例えられることがある。優雅なる赤薔薇と、そして鮮血の赤薔薇だ。
かつて大貴族連合という皇室を打ち倒し、新たなるブリタニアを作ろうと目論んだ、ノブレス・オブリージュの精神を忘れた愚かな貴族の集団があった。南天と繋がりを持ち、南天の支援を受け、その教えに染まり掛けていた彼らが各地で反旗の声を上げた際、アイオワ周辺の大貴族連合に参加した貴族は、悉く打ち倒されてしまったという。ナイトオブラウンズではなく、たった二人の貴族によって。それがローゼンクロイツ伯爵と、その妻アリス・ローゼンクロイツ伯爵夫人だったというのだ。
この勲功により元々ローゼンクロイツ家はかなり大きな貴族としてアイオワに領地を構えていたが、アイオワ全土を所領として与えられている。皇帝シャルル・ジ・ブリタニアからは空席のナイトオブラウンズとして仕えぬかというお言葉を賜ったが、私どもには守るべき領民、そして子供達がおります、どうかこのお話はと辞退させて戴いたという話しだ。その変わりとしてシャルルが大貴族連合に参加した愚かな貴族達の所領を全て、ローゼンクロイツ領に併呑させ、同時に伯爵位としての区分を上位に引き上げたのだという。
つまり、ラウンズとして召し抱えられようとしていたほどに個人戦闘力が抜きん出ている事を示しており、良太郎も初めて顔合わせをしたとき『二人同時に来られると厄介だな』と、裏世界最強の男が考える程の、静謐なる波を感じたくらいに、強いことが分かっている。
ただ、その人柄は気持ちいいくらいに気持ち良かった。一点、愛する薔薇についてを除いて。
『アソウさん、いや、リョウタロウくん。君に一つだけ約束して貰いたいことがある』
『なんですかい?』
『僕の大切な小さな赤薔薇を、君以外の男がみだりに、ましてや悪意と欲望に満ちた男に触れるさせるようなことの無きように願いたい。あの子が自ら望んでいれば良いんだけれど。誇り高いあの子はその様な汚辱を受けるくらいならば相手を誅殺するだろう。適わぬならば自らで自らを枯らしてしまう。そんな誇り高い子だ。この約束を違えたとき、僕は君を討ち取りに向かう、たとえ力及ばず適わずとも。……僕の小さな赤薔薇を守ってくれるかな?』
『そんな大切な薔薇を俺みたいな死臭を漂わせている男に預けてもいいんですかい?』
『むしろ、君以外に預けようとは思わない。どうだろう。僕との約束を守り僕の小さな赤薔薇を受け取ってくれるかな?』
『Yes,My、Lord.──って言ってやりてえところだが、伯爵閣下、お前さんは俺の上司じゃねェ。あんたも知っての通り、俺の直属の上司は辻のおじき、ああ失礼。大日本帝国財務相辻政信閣下だ。俺に取ってYes,My、Lord.ってのは辻閣下にしか言えない言葉……だから――』
――俺が言えるのはYesまでだ。守るぜ、アンタがどうこうじゃねえ。俺の愛する赤い薔薇を、この“魔弾の射手”の名にかけて、な。
『ありがとうリョウタロウくん。それと、僕の事はローゼンと呼んで欲しい、呼び捨てでも構わないよ』
『ははッ、こらまた冗談の上手い御方だな。分かったぜローゼン。それとこちらからもよろしく頼まァ、親義父殿』
※
シンクとの結婚の裏話を思い出していた良太郎を、ふと現実へと引き戻したのもシンクだった、
「報告? するまでもなくお父様のお耳に入るわ。お父様がどうなさるかまではピースが揃わない以上分からないけれど。既にクルシェフスキー侯爵家、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、ヴェルガモン伯爵家、シュタイナーコンツェルン、そしてうち、六家へ不敬を働いたロズベルト男爵家は、ブリタニアの法に照らし合わせるのなら……極刑を通り越して、族滅対象ね」
「相変わらず階級関係ではおっかねえな、おめェのところの国は。うちも階級国家と言ァ、階級国家だが、もちっと緩やかだぜ。ところで……お前、馬鹿男爵に触られてねェだろうな?」
触られていたら伯爵が何かをするまでも無い。この手で始末する。そのくらい良太郎も妻シンクを愛しているし、妻のことを伯爵から呉々も頼んだよと任されている。愛情と責任と両方があるのだ。
「フフ、その時は触られる前に私がこの手で制圧するわ。けれど、あの男、私の髪や身体に何度も触れようとしてきたわね。レディの身体に対し、無遠慮に触れようとする。それ事態が貴族の紳士としてマナー違反。もしも触れていたらステッキで喉を突き潰していたところよ」
「はあ、お前も充分怖い女だぜったく」
そう、かく言うシンクとて素人では無い。武芸全般達人の域にある。薔薇は美しく可憐で誇り高いが、全身に棘を持つ。フランク・ロズベルト如きがシンクに触れる事など、端から不可能な事なのだ。
しかし、矢継ぎ早な良太郎からの質問に、愛情を感じたシンクは、白い頬を薔薇色に染めていた。赤薔薇の名にふさわしく赤い色に。
「リョウタロウ、抱っこ」
再度の彼女からの命令。僕は従わなければならないようだと、自身に伸ばされている手の間に入り、彼女の身体を優しく静かに持ち上げ、左腕に乗せる。如何に彼女が、中学生手前ほどの小柄な体躯をしているとはいえ、人一人を左腕だけで軽々と抱え続けられる力を持つ良太郎は常人では無いだろう。
「んで、何処行くんだお嬢様? どこまででもお供致しますぜ」
「じゃあまずは朝食。それから帝都の散策」
「なんだまた帝都の探検またかよ」
「大日本帝国の帝都は広いもの。幾ら散策をしても物足りないくらいよ。同じ場所を次に通れば何かが変わり、また別の場所に行けば新しい何かの出会いがある。それはとても素晴らしいこと」
この二人は良く出かけている。一方は裏世界の人間として動くことが多く。そして同時に表では外務大臣として忙しく。一方は日本とブリタニアを行き来し、あらゆる物を視、聞きながら深淵にて紡ぐ欠片を集める。
揃って出かけることも多い仲睦まじい夫婦。それが麻生良太郎とシンク・ローゼンクロイツの在り方。
「或いは……ロズベルト男爵領を見に行くのも良いかもしれないわ。いったい領民達はどの様な暮らしをしているのか? 家臣団は領民にとりどの様な存在なのか? フランク・ロズベルトは租税をどの様に扱っているのか」
「おいおい勘弁してくれよ。ブリタニアの何処なんだよその男爵様の領地は? 大体おめェみてェな大貴族が調査することじゃねェだろうがそんなもん」
それはそうだろう。シンクの様な上位伯爵家の御令嬢が態々赴くようなことでは無い。聞くところによればロズベルト男爵家とはカンザスの何処かの10㎢の小さな領地だという。その地方の管轄の役人がいるだろう。そこら辺りの仕事だ。
シンクみたいな大貴族が行こうとすれば確実に情報が流れる。アイオワとカンザスは近い上にアイオワを治めているローゼンクロイツ家と、カンザスを収めている各諸侯にも交遊はある。
ローゼンクロイツ家の令嬢がカンザスに訪れると知られれば、まずはカンザスの最も上位の領主のところへと挨拶へ行くことと成り、その後目的を告げるとローゼンクロイツ家の御令嬢をその様な場所へ行かせるわけには参りません。となる。
当たり前だ。カンザスは中小の諸侯が集まって構成されており、最高でも下位伯爵家までしかいない。厳密には違うのだが、場所柄五大湖諸侯の一家に数えられるローゼンクロイツ。五大湖諸侯はヴェルガモンを中心に大諸侯が集中している。
その五大湖諸侯に数えられる上位伯爵家たるシンクが乗り込むのだ。自由に動こうにも『シンク様には相応しくありませんので』の連続で禄に動けやしないだろう。
「身分を偽って騎士爵か男爵かで向かえば良いのではないかしら? クロイツ男爵家とかどう? その為の身分証も作って」
「お前、うちの国の時代劇にでも嵌まってんじゃねえのかい?」
あれは架空の話しだ。シンクほど位の高い貴族ならば確かに可能なことだが。
「俺もついて行くことなるから騒ぎが大きくなっちまうぜ……裏の顔で行きゃあ問題ねェがな。まあそれ以前としてローゼンクロイツの子、クルシェフスキー、ヴェルガモン、シュタットフェルト、ソレイシィの子が始末をつける可能性が高ェ。お前みたいな大物の出る幕はねェかもしれんぜ」
シンクを座布団に座らせると。
「ん――」
軽く朝の口付けを交わす。直ぐに離れる唇はだが、互いの温もりを残しており、シンクの瞳に潤いを。良太郎の顔に恥ずかしさを反映させた。
硬派で不良な良太郎の柄では無いのだ。
「フフ、いつも嬉しいわ……リョウタロウ。愛情表現は夫婦として最も大切な事だもの」
誇り高き赤薔薇が素直になる貴重な瞬間だろう。本当は彼女もこの手の事柄は苦手な方なのだから。
「ま、な、夫婦、だからな。俺だってちったあそういう空気も読むぜ」
「そう、じゃあ愛の朝食は花丸ハンバーグが食べたいわ」
またシンクが無茶を言い出す。実を言うと良太郎は花丸ハンバーグを作れるが、こんな朝にいきなり言われて材料も無い。
なにより。
「お前さんよう、今年で幾つよ? 二十代後半にもなって花丸ハンバーグはねェだろ」
「甘いわね。好きな物に歳は関係ないのよ。私があなたに葉巻をやめなさいと言っても聞かないのと同じよ」
「俺のは大人の嗜好品だ。一緒にするない……ま、花丸ハンバーグじゃねェが、メシ作るから待っててくれや」
麻生家の食卓は良太郎とシンクが揃って在宅中の時は大凡が良太郎の領分となる。
僕が主人の食事を作る。変な有り様だが、これが良太郎の家の有り様だった。
「仕方のない僕ね。まあいいわ。楽しみにしてるわ」
「はいよ、楽しみにお待ちくださいませ、お嬢様」
(ロズベルト男爵よう。うちの嫁さんに手を出したって事の意味分かってんのか? アイオワ全土と周辺の中小貴族を敵に回したって事なんだぜェ)
ヴェルガモン伯爵、ソレイシィ辺境伯、シュタットフェルト辺境伯、ローゼンクロイツ伯爵、五大湖大諸侯だけでこれだけの数に上る。ヴェルガモンに手を出した時点で五大湖経済圏と中小貴族。そして各諸侯の子の貴族。
(これに西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵家。西海岸諸侯が全部敵に回ってる状態だ。それに、裏で生きてる分裏の噂も手には入るが、あのナイトオブトゥエルブのモニカ・クルシェフスキー卿ってのは確かシャルル陛下の――っと、いけねえいけねえ、滅多なこたァ考えるもんじゃねえな……いずれにせよお前さんの一族の命、そう長くねェぞ?)
物騒なことを考えながら、朝だから重たくない物にしておくかと料理を作っていく、彼はテキパキと動きながら、あー葉巻吸いてえとか呟く。
大日本帝国枢木内閣外務大臣、麻生良太郎。裏の世界で魔弾の射手の二つ名を持つ彼への命令権は、枢木ゲンブには無い。
彼への絶対的命令権を有するのは夢幻会重鎮、辻政信で有り、辻政信こそが直属の上司。辻の依頼により潰してきたテロ組織や南天と関係する武装組織の数は相当数に上ろう。
そんな超人的強さを持つ彼だが、家ではこの小さな、子供のような体躯の美しい妻こそが彼の直属の上司なのであった。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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ルルーシュ(休日)×ミレイ
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オデュッセウス×皇神楽耶
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-