「モニカ・クルシェフスキー卿への侮辱のみならず、リーライナ・ヴェルガモン卿への侮辱」
「これに続きシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢、カレン・シュタットフェルト辺境伯令嬢、ナオト・シュタットフェルト辺境伯令息、マリーカ・ソレイシィ辺境伯令嬢。シュタイナー家のレオンハルト・シュタイナー令息への非礼。諸侯はどう思われる」
「どうもなにも、我がブリタニアの法に照らし合わせれば極刑は愚か、族滅対象ですぞ!」
「仮に法の執行をせずとも西海岸諸侯の盟主クルシェフスキー侯爵閣下、五大湖経済圏の中核を治めるヴェルガモン伯爵閣下、その他にもローゼンクロイツ伯爵閣下に、シュタットフェルト辺境伯閣下、ソレイシィ辺境伯閣下、シュタイナーコンツェルン。これだけの大貴族と有力貴族を敵に回しておるのだ。傘下の子の貴族、各諸侯の周辺を固める中小貴族が黙っておるまい」
無礼討ちだ。公開処刑にしろ。たかが田舎の貴族が。所領はカンザスの端の端と聞いたぞ?
誰か知っておるかね? 知らない。
「こ、皇帝陛下、改めてご沙汰を願います。この様なことが許されてはなりませんぞ!」
「そうです。たかが田舎の男爵家風情が、これだけの大諸侯に対し非礼を働いて沙汰無しとは、誰もが納得いたしま――」
申しつけたはずだ。この一件については当事者間のみの解決とすると。当事者が良いと許すのならば、儂が特に何かを言うでも無いこと――。
「へ、陛下しかしそれでは」
「くどい。もう詮議は終わりだ。ロズベルト男爵家についての沙汰は、非礼を受けた各諸侯へ一任する」
ある親の思い
詮議が終わり。シャルル・ジ・ブリタニア皇帝は大広間を後にする。
自分に付いてくる護衛。どこにでも着いてきて自身の身を守る護衛に、シャルルは冷たく言い放った。
「今日は良い」
「は?」
「今日は良いと言った」
「しかしそれでは陛下の御身を御守りする者が。いまはラウンズの方々もそれぞれの任務についておられ、我々まで離れては陛下の身辺に隙が生じてしまいます。彼の空白の三十分事件のこともありますし」
護衛は必至で留めてくる、一人になってはならない。一人にしてはいけないと。誠に良き家臣を自分は持ったものだ。恵まれた生活環境に居るものだと思う。
「かまわぬ。空白の三十分は謎に満ちた事件。あれがもう一度起きるならば、我が身の周りに全てのラウンズが揃っていたとしても、無為な事よ。誰にも対処のできない超常現象に立ち向かう術など無い故にな」
シャルルはそれだけ言い置き、護衛を下がらせながら、自身の居室へと続く長い廊下を歩いていた。
「96,97」
数を数えながら歩む一歩が重い。
「98,99」
それでも進まなければ、居室には辿り着けないのだ。居室は直ぐそこだ。
「101……」
だが、シャルルの脚はそこで止まる。
「101」
同じ数字を繰り返しながら。
反芻する。96,97,98,99,……101。
そうだ。数字が一つ無い。本来あるべき場所に一つの数字が無いのだ。そう、100がないのだ。100だけが、空白地帯のように存在しないのだ。
「北側諸国に根回しを、盟邦大日本帝国皇室・華族・政財界に全てを打ち明け、我が国の我が子等、親族、諸侯に全てを、いや、あの件を伏せ、無かったことにして打ち明け」
意味不明。シャルルは幽鬼の様に立ち尽くし、何度も何度も繰り返し同じ事を口走る。
「あの子を、あの子を、あの子を」
100に据えるべきあの子を迎え入れたい。西海岸諸侯の盟主とも一度二人だけで話がしたい。
ともあれ軽率な事はできぬ。いきなりの発表などしてしまえば間違いなく混乱が起きるし、何よりもあの子が傷つき泣いてしまうだろう。それだけは避けねば。慎重に、慎重に。
シーランド国王は受け入れてくれる。
アルガルヴェ連合帝国は祝福してくれるだろうか?
ギアナ公国は? ペルー王国は? エクアドルは? アラウカニア=パタゴニアの第二王女アリシアは友達になってくれるか?
インドネシアは? ティモールは? パプアニューギニアは? フィリピンは? インドシナは? ナウルは? クウェートは?
何れ建国される欧州諸王国の連合体は?
そして、我が盟邦大日本帝国は、あの子を受け入れ祝福してくれるだろうか。あの優しい子を。優しく、強く、勇敢で、全ての民に正義は必要。騎士は強くあらねばならない。全ての民を守る為にと本気で考え実行している、心優しいあの子をみんなは受け入れてくれるだろうか?
迎えるのならば、発表をするのならば万全の準備を以て。北側諸国への根回しは必ず行わなければならぬ。真っ先に大日本帝国の友人達と上帝陛下、御帝、華族諸諸侯へ。政財界へ。
そこから北側の同盟各国首脳へと個別協議を以て広めていき、南天に漏れる事無きよう、配慮に配慮を重ね。いや、重ねすぎるに越したことは無い。ユーロユニバースを叩き潰し、欧州にハイランド大公・ヒトラー大公が皇帝・宰相として帰還し、新たなる国が発足。北側諸国が団結するのを待って。
しかし、それでは儂が待てぬ。あの子を、あの優しき子を、この腕で抱き締めたい。抱き締めてその名を呼びたい。あの子の母より与えられたその名を呼んでやりたい。
だが、どうなのだろうか? あの子は本心ではあの子の母を殺した儂を憎んでいるのでは無いだろうか。名と正体を明かし仇討ちを……。
もしもあの子の本心がそうであるならば、儂はあの子の剣でこの身を貫かれたいと思う。そして、最後に一度で良い。あの子の名を呼びあの子を抱き締め、その腕の中で死んでいきたい。
そして、もし、あの子が受け入れてくれるのならば。しっかりと根回しを行い、世界に混乱が起こらぬよう、あの子の出自を知られぬよう、情報管理を徹底して、この宮殿へ迎え入れよう。
だが、あの子はアイツの元へと行きたがるに違いない。この四年、あの子とアイツの様子を見てきたが、アイツはどうか相変わらずその心も記憶も読めぬが、あの子はアイツを意識している。
あの子を迎え入れるということは、アイツも迎え入れるということ。アイツはそれを良しとしてくれるだろうか? アイツは自由人だ。縛られることを嫌っているくせにしかし何かに縛られながら生きている。
それがなにかは儂には分からぬ。だが、あの子の優しさはそれをすら解き放つのでは無いのだろうか? 如何なる苦しみや罪業を抱えていようとも、あの優しき子は必ず全てを受け入れる。
もし、アイツが何かに苦しんでいるというのならば、あの子に打ち明けてあげて欲しい。きっとあの子はそれを共有したいと申し出るだろう、あの子はその優しさで苦しみから解放してくれるかも知れない。
舐めるなよ。あの子の優しさを。儂は四年身近であの子を視てきたから分かるが、あの子は他のラウンズが多少は持つ傲慢や優越感、自分自身への過信を持たない子だ。ただ民の安寧と世界の平和を望んでいる。正義とは、全ての者に平等に降り注がれるべき物。あれほどの高潔にして強き信念を儂は知らぬ。
儂などより余程皇帝に向いておるよ。なあ、儂は息子娘、子供達をこの手より手放すのは嫌いだ。南天かどうかは分からぬが邪悪なる魔神がこの世界に潜んでいることを知る儂は、子供達をこの手の内より手放すことに恐怖を感じている。我が手に離れたその先で、子供達が狙われるのではないかと心配でならぬからだ。
なあ、貴様、貴様はあの子を守ってくれるか? 貴様より強いあの子をそれでも貴様は、お前は守ってくれるだろうか? 本当ならば我が手の内より離すこと怖くて適わぬが。儂は幼き頃よりの友であるお前にならば、あの子を託すことが出来る。あの子を託す相手としてお前以外にいないのだ。
「……ふ、ふふふふ、ふははははは。考えても詮無き事よ。全てはあの子と語らい、あの子の意思を確認し、北側諸国全土へ根回しを図ってからの話し……100が埋まるとき、儂は何を思うのだろうか?」
やがて、居室の前に着く。扉を開け、中へ入ると、先に用意されていた赤ワインがあった。
給士も誰も居ない居室。部屋の中央に置かれた丸いテーブルの上のワインをグラスに注ぐ。
トクトクトク
グラスに入っていく血のように赤いワイン。事実儂には血に見える。南天に与していた愚かな大貴族連合の血に。
注ぎ終えたグラスを手に取る。
窓の外を見つめる。見える範囲で離宮が沢山ある。遠くに見える離宮、近くに見える離宮、ここにはない離宮。
あの子にも離宮は必要だろうか。そんな物はいらないと言われてしまいそうだ。
ピキッ
何かにひびが入る音がする。
ピキッ、パキッ。
それは直ぐ近く。手の内だった。それを気にせず外を眺める。窓に映る自分の顔。
眉は大きくつり上がり、目はカッと見開かれ、歯は剥き出しの鬼の顔。
誰も居なくて、人を下がらせておいて正解だった。
バキィィィィッッッ!!!
大きな破砕音を立てて砕け散ったのは、右手に持つワイングラス。中身はぶちまけられ、赤いワインと共に、赤い血が滴り落ちる。
「娘を侮辱されて怒らぬ親などおらぬわァァァァァッッッ!!!」
テーブルの上に置かれたワイン瓶を力の限り払いのけ、壁へと叩き付けた。
「ふぅぅぅぅーーッッ、ふぅぅぅぅーーッッ!!」
どこぞの木っ端貴族が我が娘を愚弄した。この場にいたのならば絞め殺していただろう。
他の諸侯達も同じに違いない。皆無礼討ちに走っていないところが不思議なくらいだ。
自家の暗部でも送り込んで始末するかと考えていたが、当事者が許しているのならばと自制している。だが多くの子の貴族達が動き出しているのは確認済みだ。当たり前だ。主君の令息・令嬢に非礼を働かれて黙っている子の貴族などおらぬわ。
もしもあの子が正式に皇室に戻り第100皇女となっていたのならば、儂はためらうこと無く族滅の布告を出していただろう。無論、優しいあの子は儂を諫めるだろうが。それでも収まりが付かぬ。
温情措置としても当主は出頭させ、儂の目の前でセップクを命じていた。
クルシェフスキー侯爵は男爵家先代とは会わぬ選択を下したという、ヴェルガモン伯爵は子の貴族に始末を任せたとも。自らの手で始末するには汚らわしいという判断であろうか?
当主は日本に逃れたまま帰還命令を無視し続け、儂もラウンズに勧誘したことがあるローゼンクロイツ伯爵の五女に非礼を働き。
シュタットフェルト辺境伯息女・令息へと非礼を働き。ソレイシィ辺境伯息女への非礼。我が娘マリーベルが指揮を執るグリンダ騎士団の創設メンバー、シュタイナーコンツェルンの令息にも非礼を働いた。
「法に則ればッッ族滅対象だわァァァ!!」
ああ、いかん、感情がコントロールできん。殺してやりたいが、誰がどこの貴族が無礼討ちにするかで子同士で協議でもしておるのか?
儂自身が当事者に任せると布告を出した以上は儂は動けぬ、ああ、衝動が止められぬ。優しいあの子を侮辱した屑をこの手で……!一騎打ちで討ち果たしてやっても構わぬぞッ!
……。いっそのこと、ランペルージの警備部門を動かすか? ランペルージグループ社長でもある儂の命令一つで動かせる。警備部門といいつつ軍隊だからな。だが、その場合会長の兄さんの了承も得なければならん。兄さんは怒りに任せた行動は慎むようにと仰りそうだ。
冷静になれシャルル・ジ・ブリタニア。まず最初にすべきことを考えよ。すでに当主は無礼討ちの対象。ブリタニアに帰国した瞬間何処かの貴族家に捕縛されるだろう。その前に領地運営の実態だ。どう考えてもまともな領地運営ができているとは考えにくい。
カンザスのどの辺りだったか。田舎過ぎて分からぬな。我がブリタニアは国土も広ければ領地貴族も多い。カンザスだけでも中小かなりの数の領地貴族がいる。
むしろクルシェフスキー侯爵やヴェルガモン伯爵、ローゼンクロイツ伯爵といった大貴族は少ないからな。調べるのが大変だわ。調べたところで公に儂は手を出さぬと公言してしまっておるからな。
だが、儂は許さぬ。あの子が許しても儂は許さぬ。
ぴりりり。
「むッ」
携帯が鳴った。こんないらだっているときに誰だろうか。
「はい、シャルル・ランペルージです」
『どうも皇帝陛下。クルシェフスキーです』
「これはこれはクルシェフスキー卿。ご機嫌よろしくない日々が続いておるようだがどうした」
クルシェフスキー侯爵だった。あの子に厳しい教育を課してきたため敬遠されていたというが、仕方の無いことなのだ。侯爵はいずれあの子が皇宮へと上がることを前提とした教育をしてきていたからだ。
『こちらにロズベルト男爵家の先代が参りました』
「窺っておる。なんでも卿に会って謝罪したいと抜かしておったとか聞いておったが。一男爵家が侯爵と会えること自体が本来ならあり得ぬと言うに、余程切羽詰まっておる様子だな」
『陛下はご承知ですかな? ローゼンクロイツ伯爵令嬢や、シュタットフェルト辺境伯令嬢方への不敬のお話は』
「うむ耳にしておる。日本で次々と上位貴族への不敬を働いておるそうだな。ローゼンクロイツ伯爵夫妻とはちょっとした知己でな。何ゆえに処断為されないのかと詰問された。余程腹に据えかねておるのだろう。公の場で、処断は当人達に委ねると発言してしまっているため動けないと返したら。では勝手にやらせていただきましょうと申しておった」
『なるほど。……陛下、私の個人的友人としてシャルルに言いたいことが』
「申してみよ」
『私はロズベルトをこの手で絞め殺してやりたいのだよシャルル。許せるか? 我が義娘をペンドラゴンの大通りで騎士侯風情がと男爵風情に侮辱されたのだぞ! 一報を聞いた私の怒りが分かるかシャルルよ! 私は君が当人同士に委ねるという沙汰を下したことにも納得いってはおらんのだ。何故その様な沙汰を下した?!』
「絶対的階級社会の我が国では、上位階級の者は、下位の者への大きな優越件がある。ナイトオブラウンズは第11階位。ヴェルガモンにしてもそうだ限りなく第7階位に近い第6階位の伯爵。これらが男爵家を許すと発言してしまっておる。沙汰の下しようがなかったのだ。本来ならば不敬罪で処刑なのだがな。二人にそのつもりがあればその場で無礼討ちであった。だが“不幸にも”二人は許した。その後に続いた諸侯令嬢・令息への不敬もそれぞれの者がその場で処断していない故にこちらから動きが取れない、と、いうことだジャン」
『そうか……、御無礼、平にお許し願いたい』
「かまわぬ“同じ子”を持つ親だからな。儂もいま暴れておったよ」
『そうですな。もしお時間がお有りでしたらランペルージとしてポートランドへ来ませんか?』
「今からか?」
『ええ、飛行機で来ればそんなに時間は掛かりません。本来ならこちらが窺うべきなのですが書類の山がね』
「……分かった。窺おう。なに、皇宮を抜け出すのは得意なのだ」
『ではお待ちしております。飲みながら話しましょう』
「うむ」
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
-
嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
-
嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
-
山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
-
南雲忠一×ドロテア・エルンスト
-
玉城真一郎×クララ・ランフランク
-
玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
-
澤崎敦×井上直美
-
レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
-
原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
-
ルルーシュ(休日)×ミレイ
-
オデュッセウス×皇神楽耶
-
ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
-
枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
-
コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
-
高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
-
鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-