帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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馬鹿男爵シリーズばかりで申し訳ないですが。
次は何か別のお話を書こうと考えております。
加筆修正しました。


勘違いした田舎者 実態

 

 

 

 カンザス州シャイアン郡 セントフランシス市

 

 

 人口5万人ほどのシャイアン郡、郡の中心であるセントフランシス市には2万人近くが集まっており、中核市は大いににぎわっているが、端へ端へと行くほどに寒村も目立っている地域だ。一極集中。良きにしろ悪しきにしろそれが起きてしまっているのであった。

 

 そんなセントフランシス市に、日本から降り立った二人組の姿があった。一人は見かけ壮年の男。黒髪黒目の純日本人。ブリタニアには日本系ブリタニア人も多い為に、一概に外見だけを見て日本人とは言えないし、男のブリタニア語のイントネーションも純ブリタニア人と何ら変わらない為、判断がしづらかった。

 

 もう一人は薔薇のような赤いドレスを身に纏い、赤いヘッドドレスを付けた、地に着くほどの長い金色のツインテールの少女。煌びやかに輝く金色の髪に深い色の青目。ブリタニア語の発音もそのままのそれであり、間違いなく純ブリタニア人だろうと思われる。まあ、正確を期すなら、ブリタニア系日本人もまた多く。

 

 日本の総人口の約10%、3500~3600万人ほどがブリタニア系日本人なので、こちらも一概にそうであるとは確信を以ていう事は出来ないが、上品さを感じられるところからしてどこかの貴族様の可能性も高く、男はこの少女の従者なのかもしれない。

 

 だが、それにしては男の従者の方がため口なので、見ている方としては判別しづらいのだ。

 

「マジで来やがったよこのバカ……帝都の散策がアホ男爵の散策に変わっちまったよ」

 

「言ったでしょう。実態を知るには現地調査が一番だって」

 

 そんな二人は、どこか遠方へと赴くようであった。

 

 ここからローンリッジ近くにあるロズベルト男爵領まで移動するという。

 

 ロズベルト男爵領はゴーストタウン。と、セントフランシスからは視られているが、実際には1,500人ほどの人口が有り、街もある。農業と商業が主な産業だが、先代当主の頃は活気づいてが、当代になっては悪い噂しか聞かず、次第に人の流れも止まっていったという。

 

 そして、余りにも田舎過ぎて、誰もその実態を詳しくは掴んでいないのだが、一説には彼の悪名高き大貴族連合に所属していたという話もあり、南天との繋がりを噂されている地域だ。

 

「そんな偽の男爵家家紋まで作って、俺の折角の休暇まで潰して、何するかと思えば、こんなくっだらねえことに付き合わせやがって」

 

「くだらなくはないわ。地方の腐敗は近隣をも腐敗させ、やがて中央に辿り着くもの。うちの領はカンザスと近いわ。腐敗貴族がカンザスで蔓延れば損をするのはうちの領。早いうちに対処をして置くに越したことは無くてよ?」

 

 小柄で美しい赤薔薇の乙女。長い金色のツインテールを風に靡かせ、水底深い蒼い瞳で真面目に訴えられれば、七三分けに少し癖の入った黒髪黒目の男、良太郎もぐうの根も出ない。惚れた女がそうしたいというのだ。ローゼンクロイツ伯爵家令嬢、シンク・ローゼンクロイツの暇つぶしに彼はこれまでにも散々付き合わされていたが、付き合うのが従者の務めだとも心得ていた。

 

 

 ◇

 

 

 神聖ブリタニア帝国という国は、宿敵である『数の南天』共々に全土が発展している。地方都市も、地方の中央都市もくまなく。何せ競争相手があの『技術の超大国日本』なのだ。後れを取るわけにはいかない。僅かな遅れが、ずっと続いている半歩差を、一歩差に広めてしまい、気が付くと二歩目へと踏み出していることだろう。

 

 そんなことにならないため、北はアラスカから、南はコロンビアまで、くまなく発展を続けているのだ。しかし、ごく稀にだが見落としがある。それがロズベルト男爵領などの地方の中央政府にすら目の届かない田舎の田舎だったりする。

 

「アホだろおめェ、おめェみてェな大貴族がこんなど田舎まで個人視察とか。正体ばれたらどーすんだ」

 

 ぼそぼそっと呟く良太郎に。ロズベルト男爵領まで荷物を届けに行くというおじさんのトラックに、乗っけて貰っていた良太郎のその呟きにおじさんが反応した。

 

「あ? お客さんなんだって?」

 

「ああ、なんでもありやせんぜ」

 

 このトラックの運転手。気のせいでも何でも無く、良太郎自身の膝の上に載せているシンクに先ほどより反応している。

 

 下卑た視線を感じるのだ。シンクが我慢して居るからなにもするつもりはないが、本当ならその顔面に拳をたたき込んでやりてェところだった。

 

「それにしてもお客さんもいい性奴隷連れてるねえ。蒼い瞳、長い金色の髪、小柄で締まりが良さそうで……へっへっへ、毎日お楽しみかな?」

 

 良太郎はその言葉にぶち切れそうになったが、シンクが黙って良太郎の手を押さえる。今此処で暴れるなという合図だ。

 

 その代わりとして、貴族の従者らしい発言をした。ただの男爵としての、だが。

 

「おい、大概にしとけよ。この御方はクロイツ男爵家当主。クロイツ男爵様だぞ」

 

「はっはっは、冗談が上手いねえ。こんな子供が貴族家の、ましてや大貴族たる男爵家の当主な訳」

 

 いくら平民であっても、たかが男爵如きを‟大貴族”だなどと宣っている時点で男の教養の度合いが知れる。無論、平民からしてみれば領地持ちの永代貴族は充分に大貴族なのかもしれないが、貴族社会での大貴族とは伯爵からが基本。上位伯爵からが大諸侯だ。

 

 そんな、基本も知らない男にシンクが懐中時計を見せる。お父様から頂いた大切な懐中時計ではなく、金メッキの懐中時計だが、確かに男爵家の家紋が入っているのだ。

 

 トラックの運転手は慌てて車を止めて外に出ると、日本式の土下座をして平伏した。神聖ブリタニア帝国と大日本帝国の付き合いは長く、最低でも五百年以上と言われている。イギリステューダー朝以前からの友なのだ。

 

 それ程長くの交流があれば、日本式の最低の礼、ドゲザも伝わり一般化するというものだ。現に貴族すらドゲザをすることがある。セップクの文化も伝わっており、度々刑の執行に用いられている。

 

「は、ははーッ、も、申し訳御座いませんッ!! まさか男爵様だとは思いも寄らなかったもので御座いましてッ!」

 

「思いも寄らなければあの様な下卑た応対をレディに対して為さってもよろしいのかしらね」

 

「い、いえ、そのような、ことは、」

 

「私がその気なら、あなたこの場で無礼討ちよ?」

 

 冷たい瞳を向け、冷たい口調でシンクが言うと。良太郎は懐のベレッタを男に見せる。シンクの命令が下りれば火を噴き、命は奪われるだろう。貴族を相手に無礼を働くとはそういうことだ。

 

「ひいッッ! ど、どうか、どうか、それだけはご勘弁をッッ、どうかッ、どうかッ!」

 

「あなた、普段から女性の奴隷でも運んでいるのかしら? 我が神聖ブリタニア帝国では奴隷は禁止されている筈……どうなの?」

 

「い、え、そのようなことは、ご、ございません、家名に誓って、」

 

 目が泳いでいる。黒だ。奴隷商人か何か。男爵専属の。それも普段からの常習者で、かどわかしや女性の売買など、闇の職業にも大きく絡んでいる。

 

 そう受け取ったシンクはだが、無礼は一度だけ許しますとその場での罪は許した。

 

「案内なさい。ロズベルト男爵領へ」

 

「ははーッ」

 

 ベレッタが火を噴かなくて良かったな。ぽんとトラック運転手の肩を叩き再び乗り込む良太郎も、そのまま乗り込むと、トラックは静かに発車した。

 

 

 

 勘違いした田舎者 実態

 

 

 

 やがて着いた男爵領。

 

 トラックの運転手と別れ、逃げるように走り去っていくトラックを視ながら。確実なる不正の証を街の入り口に見つけたシンク。

 

「お、おいおいこれってよォ、あれだよなあ蒼天双翼光環旗の変色版だよな? ちょっといじり込んだら蒼天双翼光環旗になるぜ」

 

 シンクの視線の先を見る良太郎は、その堂々とした旗の掲げ方に驚く。知識の無い者は誰も知らないだろうが、貴族階級にある者ならば大抵の者が知っている。それは。

 

 蒼天双翼光環旗――南天条約機構の旗だ。

 

 シンクは吹き来る風に、足下まで届く、長い長い金色に輝くツインテールを靡かせながら呟いた。

 

「確実ね。先代はそうでは無かったのでしょうけれど、当代当主は南天と繋がっているか、大貴族連合の傘下貴族の一人。南天と繋がるという事はブリタニアの国法に照らし合わせると大逆罪よ」

 

 大逆罪──処刑の対象だ。一連の不敬行為が無くとも。一族郎党族滅対象となる。

 

「街へ入ってみましょう」

 

「入るのかよ。この写真を撮って見せれば分かるだろ。こんなもんの偽造をする馬鹿はいねェんだし、お義父さんとお義母さんはシャルル皇帝陛下の友達なんだろ? 一発だろうが」

 

 ローゼンクロイツ伯爵とその妻、アリス・ローゼンクロイツは血の紋章事件以前よりの、シャルル・ジ・ブリタニアの個人的友人である。その二人に大逆罪の証たる蒼天双翼光環旗の掲揚を見せつければ、その情報はたちまちのうちにシャルルの耳に届き、族滅の沙汰が下るだろう。もしシャルルが何もしなければ、『鮮血の薔薇』の二つ名を持つ伯爵夫妻が、ロズベルト男爵討滅に動く。

 

「私は領民の様子が見たいの。こんなものを、大逆罪になるものを平気で掲げているような領地の領民たちが、まともな生活を出来ているとはとても思えないもの」

 

「はー、正義感の強いこって。わーったよ、わかりました。従者は黙ってお付き合いを致しますよお嬢様ァ」

 

「ふふ、いい子ね」

 

「俺のがずっと年上なんだけどなあ」

 

「主人と従者に年の差なんて関係ないわ。黙ってついてきなさい」

 

 ※

 

 シンクと良太郎が通りを通ると。そこには人っ子一人歩いていなかった。道幅が広く、メインの通りだと思われる場所。皆家に引きこもっているのか。外に出るなという命令でも通達されているのか。まるで人が居ない。中央市で聞いたゴーストタウンだというのもうなずける静けさだった。

 

 そんな中、平伏しながらも何やら抵抗している街人の姿があった。偶然にしてはできすぎていたが、丁度良い。様子を見ようと、シンクと良太郎は物陰にはいる。

 

 三人の男が一人の男性を取り囲んでいたのだ。

 

「貴様ッ、離せッ」

 

「お、お待ちください徴税官様! これはこの半年で溜めた街の運営資金で御座いますッ! 本来なら街の運営資金は男爵様が用意されるべきものッ、しかし男爵様はッッ!!」

 

「貴様ッ、ロズベルト男爵様にもの申すというのかッ! お前達が無事暮らしていけるのもロズベルト男爵様の思し召しあってのことだというにそれをッ!」

 

 徴税官が剣を振り上げる。目標は当然逆らってきた町役人。このままでは彼の首がはねられてしまう。当然これを黙って見ているシンクでは無かった。彼女は普段とても冷静なのだが、二親のどちらに似たのかとにかく無駄に正義感が強く、こういう場面を見て黙って居られるような女性では無かったのだ。

 

「お、おいおいおい、割って入ったら面倒なことに……あちゃー」

 

 良太郎は素早く走って行く小柄な赤い薔薇の、靡く二束の金髪の束を見遣りながら、頭を抱えた。

 

 休暇中の面倒事は御免被りたいのだが、妻があの様子では致し方ない。ベレッタを懐から出して彼も歩いて行く。

 

 別に焦ってなど居ない。のんびり歩いても片が付く、俺の奥様はそんじょそこらでお目にかかれない程に強いのだから、正直自分が助太刀をする方が野暮って物だが。

 

「夫婦、だからなあ」

 

 嫁を助けるのは夫としての務め。助けられる瞬間があるのかは別としてだ。

 

 

 キィンッ!

 

 

 徴税官の剣が受け止められる、一本の黄土色のステッキに。

 

「な、なんだッ?!」

 

 突然の横やりにひるむ徴税官。とても徴税官には見えない、ただの荒くれものと言ったところ。まるで大昔のブリタニア大陸開拓時代の様だ。

 

「私の前で血なまぐさいことはやめてくださる? それとあなた、血の臭いが鼻につくわ。一体何人の無実の人を殺してきたのかしら?」

 

 鼻につくのは血の匂い。一人二人ではない。何十人と殺してきているそれも自らの手で直接。

 

「な、なんだあッ、お嬢ちゃんよォ。ここはお嬢ちゃんの出る幕じゃあねえぜ。おうちでママのおっぱいでもしゃぶってな」

 

 その言葉にムッとしたシンクは跳躍し飛び上がると、徴税官の内の一人の喉をステッキの先で突き、そのまま地面に勢いを付けて突き倒していた。無論、相手の喉は潰れ死んでいる。即死だ。

 

「お生憎様、私は大人よ」

 

 死体となった徴税官にうっすらと冷たい笑みを浮かべながら吐き捨てるシンク。

 

「て、テメエッッ」

 

 ここに来てようやく彼女がただ者では無い事に気が付いた徴税官達だが、時既に遅し。

 

 プシュ、プシュ。

 

 空気の抜けるような音がして、残りの二人のこめかみに穴が空き、血を吹きながら崩れ落ちていった。

 

「屑の血も赤いのね」

 

 自分の命が助かったことよりも、秒で徴税官達を皆殺しにしてしまったシンクと良太郎を前に、ポカーンと立ち尽くしていた街人は、瞬間ハッとなりその場に跪く。

 

「あ、危ないところをお助けくださり何とお礼を申してよいやらッ、」

 

「気にしなくて良いわ。うっとうしい蚊が飛んでいたら叩き潰すでしょう?」

 

「か、蚊?!」

 

 あの屈強な徴税官を蚊呼ばわりするシンク。事実一瞬だった。

 

 もう一人、後から現れた男の方を見ると。

 

「あ~っ、俺ゃ、ローゼっと、クロイツ男爵家当主、シンク・クロイツ男爵様の従者で、麻生ジュンタロウってもんでさあ」

 

 男爵家当主という言葉が、シーンとした街中に迸ると、そこらかしらから住人達が顔を覗かせた。

 

 ロズベルト男爵ではない、他家の、恐らくロズベルト家とはまったく関係の無い男爵家の当主様だと言うことで。

 

 ゴーストタウンではない。やはり人が居るのだ。

 

「シンクよお、この街には闇があるな」

 

「そうね」

 

 そんな、二人に、ある女性が前に出て跪き。

 

「クロイツ男爵様ッ! 訴えたきことが!!」

 

 必死の形相の女性だが、他の男性に止められた。

 

「や、やめろッ! 貴族様への直訴は死罪だぞッ!!」

 

 これは国法にある。平民の貴族への直訴は死罪。訴えたきことあらば裁判所を通すように。ブリタニアにも裁判所はあるのだから。だがその裁判所の裁判官が貴族サイドの賄賂を受け取っている事もある。地方の裁判所になれば顕著だ。大貴族が治めていない地方などにはその傾向もあり、それを取り締まるための役人もいる。平民とは大切にするべき存在。この考えは、大貴族になればなるほど強い。

 

 その大貴族を手本として、中小貴族は自らの所領を治めていく。だがロズベルト男爵家の様に、好き勝手に出来る立地にあり、小さすぎる貴族にはこのノブレス・オブリージュの精神を理解できない者もいるのだ。あまりにも酷い時にはプルートーンなどの暗部が動いて処理を行うことも往々にしてあるのだが、それにしてもロズベルト男爵家は田舎過ぎ、また小さすぎたが故に、不正を見逃してしまったのだ。

 

「構わないわ。私は今旅の最中。直訴の一つや二つ、話を聞く程度でいいのならば聞いてあげましょう」

 

 ※

 

 これによると、先代から当代へと代替わりをしたロズベルト男爵家は、当主フランク・ロズベルトが暴政の限りを尽くしているという。

 

 作物の献上量を増やし、重税を課し、集めた租税は遊興費と勢のために使い、また自ら集めた家臣団にお金を配り、元は農民だった新しい家臣団は、お金の魔力に取り付かれ、次第に欲のままに動き出すようになり、先代からの家臣団を閑職に追い遣ってやりたい方題しているという。

 

 カンザスの田舎の田舎という立地条件。僅か10㎢の小さな領地に1500の人口という山間の小さな所領と言うことで、中央政府からも見つからず、手付かずの状態。

 

 おまけにカンザスは大諸侯が居ないために、見張る者がおらず、誰にも気付かれないまま何年にもわたって圧政が続いている状況とか。

 

 命を懸けて直訴を試みた者は殺され、不敬を働いた者は無礼討ちにされ、誰もなにも言えない状態にされているこのような山間部の僅かな平野に訪れる貴族様もおらず、また裁判所へ訴え出ると言うことは直訴であると解釈され死罪に。

 

「酷いわね」

 

「屑の見本市だな。家臣団の不正は今の他には? その実態は?」

 

「はい、見目の良い女を見繕い、邸に連れ去ってはその……」

 

 シンクを窺って言いづらそうにしている。シンクは小柄だが見目麗しい女性だ。彼女もその対象となってしまうだけに口に出すことが不敬となると口ごもる、だがその反応だけで充分だ。

 

「申し訳ないわ。これは私たち貴族の失態、ノブレス・オブリージュの精神を忘れた愚かな貴族を放置してきていた私たちの。……ロズベルト家の邸は何処にあるの?」

 

「はッ、山間部の最も高い場所に……まッ、まさかッ、男爵様お一人でお向かいになるのですかッ?!」

 

「俺もいるぜ?」

 

「し、しかし、たったお二人で、三人倒してもまだ87人もの荒くれ騎士達がお屋敷にいるのですよッ!?」

 

「御心配ありがとう。でもたった87人で私と私の家来を討ち取ることは不可能な事よ」

 

「俺たち二人が揃っていれば精鋭歩兵千人から持ってこなけりゃ話にならねえぜ」

 

 ※

 

 話し合いが終わり、外に出たところで、突如空に影が差した。曇りでもない雨でもない快晴の日。なにかが日の光を遮ったのである。

 

「おおう、こりゃとんでもねえ増援まで来ちまったじゃねえか。お前、情報漏らしたのか?」

 

 大きな鉄の船。それが空に浮かんでいたのだ。

 

「私はなにもしていないわ」

 

 空に浮かぶは。

 

 全長:240m

 

 全幅:80m

 

 全高:45m

 

 速力:巡航速度1,100㎞

 

   :最高速度2,500㎞

 

 実用上昇限度:38,000m

 

 兵装:ハドロン重砲4門

 

   :単装リニア砲9門

 

   :大型リニア砲2門

 

   :32連装ミサイル発射機2基

 

   :スラッシュハーケン4基

 

 動力:フレイヤ炉

 

 航続距離:∞

 

 特殊武装:ブレイズルミナス(強化発展型)

 

 空飛ぶ鉄の船、浮遊航空艦アヴァロン型 アヴァロン。アヴァロン型1番艦にして他のアヴァロン級の基本型でもある。この艦は開発は古いが現在も尚強化中の最新型状態を保つ艦なのだ。

 

 そして、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアの御座艦もである。本来ならば。

 

 艦が大きく街中には降りられないので、街の外の平たい場所に着艦するアヴァロン。シンクと良太郎、表を確認していた、音に気付いた街人たちは、わらわらと街の外へと集まっていく。

 

 その着艦したばかりのアヴァロンの下部ハッチが開き、中からは、シュナイゼルではなく予想外の人物が降りてきた。

 

 太陽に照らされた月の明かりのような輝く色をした短い金髪に、蒼穹のような蒼い瞳。全身を青の騎士服で身を包んだ一見年若い男性ながら口ひげを生やし、その実五十代中盤に差し掛かっている“青年”。

 

「おいおいおいどうすんだ。おう、とんでもない大物が出てきちまったぞ?」

 

 その名をジャン。

 

 ジャン・クロード・クルシェフスキー。

 

 人口1200万人、滞在人口2000万人を抱え、陸海空から成る十数万人の大騎士団を持つ、クルシェフスキー侯爵領領主にして、神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯盟主その人であった。

 

 顔を知らない人もいるだろう。いや、顔を知らない人の方が多いだろう。その名前は知っていても。それくらいに平民や下級貴族が合える機会のない超の付く大貴族だった。

 

「やあ、お久しですなあ麻生リョウタロウ外務大臣閣下」

 

 集まっていたロズベルト領の領民達が。仰天する。

 

『西海岸諸侯の盟主様にッ! だ、大臣閣下ぁぁッ!!』

 

 街人の幾人かがひっくり返る。

 

 驚きの声を上げるのも無理からぬこと。何故西海岸諸侯の盟主を、田舎の田舎のロズベルト男爵家の領民が知っているか?

 

 当たり前である。1500人も居れば一人くらいは知っていて。学のある者もいるのだから。

 

 ただし、名前しか知らない。顔はお写真でしか見たことが無い者ばかりで、唯々その場に平伏するのみである。どのようなお方なのか? 一目そのお顔を。そんな不敬者はこの場に一人として居なかった。

 

 そして、大臣閣下と呼ばれたその麻生良太郎の名は、およそ全員が知っていた。最友にして家族的同盟国である大日本帝国現外務大臣閣下の名前だ。顔は知らずとも皆名前は知っていた。

 

「私だけじゃないですよ」

 

 西海岸諸侯の盟主が告げると。

 

 艦から二人目の人物が降りてくる。今度は唯々美しい女性であった。

 

 身の丈よりも長い、輝く美しい金色の髪を、頭の両側側頭部高くに黒く細いリボンで結い上げた、赤いヘッドドレスを付け、赤いドレスを着た、緑色の透き通った双眸を持つ、中学生に行くか行かないかの小柄な女性。

 

 瞳の色が違うだけでシンクとは瓜二つのその女性に、ロズベルト男爵領の人々は不敬にも、何度も何度も見比べている。それほどにシンク嬢と全く同じ女性──その名をアリス・ローゼンクロイツ。シンクの母親にして八人の子を産んだ女性でもある。大貴族連合の一角を皆殺しにした『鮮血の薔薇』の二つ名を持つ片割れ。

 

 良太郎の義母でも有り、彼としては苦手な人物ナンバーワンなのだ。なにせローゼンクロイツ伯爵家を訪れるたびに、行儀作法の話や、貴族としての心得やら、挙句戦闘の腕は落ちていないかと模擬戦までさせられる。それも専門外のKMF戦までやら剣術まで。それは苦手にもなるだろう。俺の専門は銃とナイフ戦だっつーの! というのが良太郎の主張であったし、行儀作法については俺ぁいいとこの出だが貴族じゃねえと言いたかった。

 

 この予想外の人物の登場にシンクも驚いている。が、不用意な発言だった。

 

「お、お母様ッ!」

 

 鮮血のローゼンクロイツの名はロズベルト家の領民とて知っている。アイオワを治める大貴族のローゼンクロイツ伯爵夫人である事も。つまり、その御方をお母様とお呼びしたシンク様は男爵などではなく。

 

『ローゼンクロイツ伯爵令嬢様ぁッ?!』

 

 幾人かがひっくり返った。今まで男爵様として話していたシンクが、実は伯爵令嬢なのだからそれもまた仕方のない事。

 

 アリスは駆け寄ってくるシンクを抱き締めるが。

 

「同じ格好した双子だな」

 

 呟いた良太郎の目の前を鋭いフルーレが通り過ぎていく、そのフルーレを微動だにせず利用して葉巻の先端を切り落とし、マッチで火を付け不貞不貞しく吸い始めた彼に、アリスは。

 

「若いという意味ですか? それとも小さいという意味ですか? 意味によって変わりますよリョウタロウさん」

 

 良太郎はその質問に煙を吐き出しながら。

 

「もちろん、お若いという意味ですよ御義母様」

 

 と、答えた。答えを間違えようものなら、今ここで‟鮮血の薔薇”と‟魔弾の射手”の一騎打ちが始まってしまうところだ。

 

「ならよろしいのです」

 

 にっこり答えるアリス

 

 そんなやり取りをしていると。

 

「どうして皆様、そんな我先にと参られますのまったく」

 

 次に顔を出したのは、腰下まで届く長い金色の髪を靡かせた、エメラルドグリーンの美しい双眸を持つ大きな胸、くびれた腰、すらりと伸びた手足を余り着ない騎士服に身を包んだ見目麗しい絶世の美女。

 

「ヴェ、ヴェルガモン伯爵令嬢だ、俺、遠目にお目にかかった事がある」

 

 ある青年がその美しさに、その時の事を思いだす。これを聞いた皆はやはりざわめく。五大湖経済圏の中心を治めるヴェルガモン伯爵家の次期当主様なのだから、もう大諸侯のオンパレードだ。

 

 リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢が降りてくる。

 

「ヴェルガモン伯爵令嬢が居るってーことは」

 

 良太郎が葉巻を吸いこみながら。彼女と共に降りてくる人物を見遣り、にやりと口角を釣り上げた。

 

「アヴァロンの乗り心地もなかなかだな」

 

 丸坊主の頭、黒い軍服に身を包んだ他の者達とは明らかに異質な覇気を発する壮年の男性、その覇気をまともに浴びたロズベルト領の領民が失神し、あ、アドミラル・ヤマモト閣下と、涙を流して崇拝する者も幾人か。ヴェルガモン伯爵令嬢が腕を組んで話さないその男、良太郎の上司の一人。

 

「山本の旦那。お久しぶりです」

 

「麻生くんか、どうだね先行していたというか、君たちが調べようとしていたこの領の実態は」

 

「あらゆる点で真っ黒でさァ、とくに厄介なのは蒼天双翼光環旗らしき旗が街の入り口に掲げられていたことです」

 

「……南天と繋がっているか、大貴族連合の生き残りの可能性が高い、というわけか」

 

「他には碌でもない暴政をやらかしてます。シンクと俺が介入しなけりゃ見せしめに一人死んでいましたよ」

 

 そんな話をしている中、最後に降りてきた人物がいた。

 

 大柄で力強そうな体躯。頭の両側で幾つものロールヘアーにして纏められた白髪の厳めしい顔つきをした壮麗の男。

 

「こッ――」

 

 誰かが叫び掛けたが男は、しーっ、と指を立てて口許に当てた。

 

 ロズベルト男爵領の領民たちは、もう何十人と失神していた。

 

「この閑散とした様子。上空からも見えたが街中に死体が転がっていた。麻生大臣とシンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢がやったものではないな?」

 

「恐れながら」

 

「ああ、いつも通りで、跪かなくて良い。シンク嬢の美しい髪を汚してしまっては儂がローゼンの奴めに怒られる。そこなアリスめに刺し殺されるやも知れぬ」

 

「うふふ、そうね。いくらシャルルでも私の可愛い小さな薔薇を穢したなら、私はあなたを殺すかも知れないわ。たとえ我が友マリアンヌと戦う事となったとしても」

 

「ふははは、命拾いしたわ。それに儂も美しい赤薔薇を穢すことなど出来ぬ。そこのスナイパーに討ち取られてしまう故にな」

 

 シャルルの冗談に肩をすくめる良太郎。実際にやるかもしれんなとは考えている。

 

 シンクの髪は長すぎるため、跪くと地面に付いてしまうのだ。それで髪が汚れてしまうことを皆嫌っているのである。

 

「それでは立ったままでしつれいします。私たちが始末致しましたのは三人だけでございます。それ以外の遺体は見掛けておりません」

 

「では、やはりロズベルト家の見せしめか」

 

 シャルルが悼むように言うと。

 

 皆それぞれが、街に向かって黙祷を捧げる。

 

「だがそれも今日を限りで終わりとしよう。奴が戻らぬと言うのならば、奴の戻る場所をなくす。情報に寄れば孫娘が一人軟禁状態に置かれておるとも聞くが、これは救出。腐っている87名の家臣団は捕縛もしくは無礼討ち。それ以外にも腐敗した何者かがいれば一網打尽に、それと蒼天双翼光環旗が掲げられて居る以上は何らかの形で南天と繋がりがあるも知れぬ。場合によっては大逆罪となろう。乗り込むのは儂とジャン、アリス、リョウタロウ、シンク、リーライナの六名、五十六は街で待機願いたい。アヴァロンの指揮は貴殿に一任する」

 

「任された」

 

 と、山本。

 

「ヤマモト閣下」

 

「どうしたねシンク譲」

 

 長い金色の身の丈ほどもあるツインテールを風に揺らせながら、シンクは体験してきた一部を報告する。

 

「ここからそう遠くない一本道を一台のトラックが走っていると思われます。そのトラックの運転手は人身売買に手を染めている可能性が高いかと」

 

「聞き捨てならんな。シャルルさん、ブリタニアの法律では?」

 

「無論、黒、死罪だ。取り調べを行うべきだろうな。山本卿、申し訳ないが貴殿はそのトラックを追ってくれぬか? アヴァロンならば直ぐだ」

 

「了解だ。ふ、こうして貴殿らと共闘するのはいつ以来か。懐かしいものだ」

 

 血の紋章事件の時は日本のメンバーも大暴れしたものだ。山本が懐かしむと、クルシェフスキーが。

 

「今度山本卿も飲みに行きませんか?」

 

 と誘う。このお誘いに。

 

「リーラ、その、いいかね?」

 

 山本は一々妻に伺う。俺は海軍軍人だ。堂々としていればいい。とはいえ、現代社会に染まったせいで家庭ではリーライナに頭が上がらないようにもなっている。郷(未来)に入っては郷(未来)に従え、か。

 

「クルシェフスキー侯爵のお誘いをお断り為さるなど、非礼なことはできませんわ。よろしいでしょう」

 

「う、うむ」

 

「ただしギャンブルなどに手を出さないよう見張りとしてわたくしもお供致しますわ♪」

 

「お前まで来るのか?!」

 

「はっはっは、山本卿もすっかりヴェルガモン伯爵令嬢の尻に敷かれておりますなあ」

 

「あまり指摘せんでもらいたい」

 

 というところでそれぞれの方針は固まった。

 

 何故皆が直接向かうのか? アヴァロンの騎士を使わないのか? それはこれが皆の個人的復讐であるからだ。その復讐に無関係な者の命を懸けさせようなどと最初から考えていない。

 

 皇帝、いや、シャルル・ランペルージは告げる。

 

「一人13人ほどだが、いけるか?」

 

 これに応える西海岸諸侯にして親友ジャン。

 

「シャルルよ舐めるな。このクルシェフスキー、かつて血の紋章事件でそれ以上を相手取ったぞ」

 

 同じく友人の鮮血の薔薇アリスが返答。

 

「甘いわね。大貴族連合を始末していたときから比べるとぬるすぎるわ」

 

 ブリタニア帝国嚮導学校卒業生のお嬢様、ヴェルガモン伯爵令嬢が続く。

 

「陛下、いえシャルル・ランペルージさん。わたくしも伊達に軍の嚮導学校をトップで卒業してはおりませんわ」

 

 ふざけんな。俺を誰だと思ってやがんだとローゼンクロイツ家娘婿、麻生良太郎は口走る。

 

「舐めてんのか。これでも“魔弾の射手”と呼ばれてる男だぜ。二個戦車大隊を一人で片付けたことがあらあ」

 

 最も力弱いながらも、それでさえ戦力過多となろう小柄な女性。良太郎の妻シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢が締める。

 

「私も13人程度に遅れを取るほど弱くはなくってよ」

 

 シャルルは大剣を。クルシェフスキーは長剣を。アリスはフルーレを。リーライナは剣を。良太郎は二丁拳銃を。シンクはステッキを。

 

 それぞれの得物を持った6人は攻略すべき場所を確認。

 

「堕とすべき目標はロズベルト男爵邸ッ! 各々行くぞッッ!!」

 

 6人は瞬速の速さで街の中に消えていった。

 

 この話の流れの中、集まっていた街人の中には未だ気絶している者も見られた。

 

 こ、皇帝陛下が。く、クルシェフスキー侯爵閣下。ヴェルガモン……伯爵、御令嬢。ろ、ローゼンクロイツ伯爵夫人。だ、大日本帝国、アソウ大臣。ローゼンクロイツ伯爵令嬢……。

 

 や、ヤマモトイソロク、元提督。

 

 死屍累々となっている広場を見つめて自分の名前が呼ばれたとき、「随分古い経歴を御存じだな」と思う山本は。

 

「ヤマモト元帥閣下! アヴァロンの指揮をお願い致しますッ!」

 

 という声に、一人アヴァロンへと乗り込んでいくのであった。

 

 

どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。

  • 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
  • 嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
  • 山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
  • 南雲忠一×ドロテア・エルンスト
  • 玉城真一郎×クララ・ランフランク
  • 玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
  • 澤崎敦×井上直美
  • レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
  • 原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
  • ルルーシュ(休日)×ミレイ
  • オデュッセウス×皇神楽耶
  • ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
  • 枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
  • コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
  • 高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-
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