帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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馬鹿男爵に絡まれた玉城一行ことマリーベル一行。
揉めた末に男爵を追い払った彼女らは逃げ始めた玉城を追いかけて。


勘違いした田舎者 玉城一行(またはマリーベル皇女一行)

 

 

 

 慌ただしくも勘違いした男フランク・ロズベルトと、その従者の男の立ち去った後。

 

 三人娘からの逃走を試みた玉城の足では結局追いつかれてしまい取っつかまって、彼女たちを宥めることになったわけで。

 

 玉城はマリーベルの頭をナデナデしながら、オルドリンにも。

 

「こっちゃこい」

 

 呼びかける。

 

「な、なに、よっ?!」

 

 ナデナデ。オルドリンの頭をマリーベルのそれと同じように撫でる。

 

 玉城は玉城なりに、あの糞男の言葉に傷ついてしまったかもしれない彼女たちを慰めているのだ。

 

「あんなアホ貴族の言う事なんか気にすんじゃねーぞ? お前は下女でもなんでもねー。グリンダ騎士団のかっこいい筆頭騎士様なんだからよ」

 

「そ、そんな事、別に気にしてなんか///」

 

 顔が真っ赤になるオルドリン。温かい手の平。髪の毛を撫で梳かれる感触。優しく優しく壊れ物を扱うような手つきで。

 

 普段喧嘩ばかりしているこの男は、ふとしたところでこういう優しさを見せてくれる。私はこの男の、この馬鹿のこういうところを嫌いではない。

 

 でも、と、いつも一線は引いている。この男はマリーの見染めた男。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下の見染めた。だから一線を引いて付き合わなければならないのだ。

 

 しかし、一人の人間として、このギャンブル狂の馬鹿でアホのことを、私は嫌いではないとオルドリンは思っていた。

 

 

 

 

 

 勘違いした田舎者 玉城一行(またはマリーベル皇女一行)

 

 

 

 

 

 一方、玉城真一郎を自身の婚約者であると公言して憚らないマリーベルはというと、何だか半分兄さまを奪われた気分で釈然としない。

 

 釈然としなかったが頭を撫でる彼の手が温かくて気持ち良くて怒る気になれないでいた。

 

「なあ、マリーよお、あいつってマジで死刑なの?」

 

 素朴な疑問。マリーを、マリーベル皇女殿下を侮辱しただけで本当に死刑となるのか? 

 

「に、兄さまはブリタニアの法は御存じではないのでしょうか?」

 

 照れ照れと顔を赤くしているマリーベルがしどろもどろに問う。サイドテールに一纏めにしている長い髪を愛しい彼がいと優しき手つきで撫でてくれている。もし今が二人きりなのであれば、マリーベルは自ら彼の唇を求めていたことだろう。

 

 そこに英雄皇女と呼び持て囃される女の姿はない。恋する女の姿があるだけだ。玉城真一郎というおとこを愛するマリーベル・メル・ブリタニアという女がここに居る。ただそれだけの。

 

「高校ンとき少し習った。同盟国というより姉妹国の日本とブリタニアの法律は一部共有されってっからな。日本の平民がブリタニア皇室を侮辱すると日本皇室侮辱罪と同等の扱いを受けるとかなんとか、で日本は日本の法で裁かれるから無期刑か懲役で済むが、ブリタニアだと」

 

「死罪ですわ。あの男はブリタニアの男爵であるとはっきりとわたくしに言い切りました」

 

 そこで玉城にかいぐりかいぐり撫でられてこちらも顔が真っ赤なオルドリンが引き継ぐ。

 

「マリーは皇女なの。そのマリーベル皇女に対してあの男は下女と呼び侮辱した。この不敬行為は万死に値し、神聖ブリタニア帝国の刑法では死罪と定められているわね」

 

 ナデナデナデ……

 

 ああ、なんて優しい手つきなの? 普段の喧嘩ばかりのこの男の手とは思えない。玉城真一郎にとって私──オルドリン・ジヴォンとは、どういう女なのだろう? 

 

 馬鹿やって気軽に話しかけてきて、一緒にお酒を飲んで勉強もして、KMFシミュレーターで戦ったり、本気の模擬戦もしたり。V.V.皇兄殿下をして『手のかかる息子みたいな物』と、ブリタニア皇家の人間と同じように扱われている不思議な平民。

 

 お兄ちゃんは平民のエウリアさんと婚約し、結婚が認められている。オリヴィアお母様、オイアグロ叔父様から直々に認められている。

 

 ジヴォン家次期当主の私には未だ婚約者はいない。ブリタニアと日本の結婚適齢期は80歳くらいまで。人生200年もあるんだもの、皆長い人生を共に在れるパートナーを探している。

 

 日本が4億2千万人、ブリタニアが13億人、併せて17億2千万人もの男と女がいる。基本的に日ブの皇族貴族(華族)は二国間でのみの婚姻を許している。だけど階級差はいかんともしがたい。

 

 お兄ちゃんのときだってジヴォン家の子の貴族からは異論が出ていた。平民と御婚約、御結婚なさるとはオルフェウス様のお考えが分からない。御考え直しを。といった言葉が私の耳にも入っていた。

 

 でもお兄ちゃんは押し切った。文句があるのならば俺と決闘し勝ち取って見せろ。力を示す事こそが、正しき力こそが神聖ブリタニア帝国の定義。力を以て俺を止めて見せろ。

 

 そうしてお兄ちゃんは反対していた子をねじ伏せて、エウリアさんはその優しさを以て子貴族たちを説得していった。

 

「絶対的階級制国家で皇族や上位貴族への不敬は死刑か。よかった、俺日本に生まれて」

 

 ナデナデナデ……

 

「兄さまはブリタニア人となるのですよ?」

 

「はあっ?! なんでっ?!」

 

「わたくしと結婚し、メル家へ婿入り為されるからですわ」

 

「あーあ、まーた勝手なこと言ってるよこの皇女様は」

 

 不貞腐れた口調ながらその優しい手。幼い頃、行くべき道を指し示して下さったときと同じ、温かくて優しい手。わたくしの愛する兄さまの御手。

 

 ですが、この手は今、クララやオルドリンにも向けられている。クララは自分の方が先だよこの泥棒猫とわたくしを詰りますけれど、順番など些細な事でしょう。

 

 誰がこの手を独占するかが重要なのです。ああ、わたくしはこの手に頭を髪を撫でられている今この瞬間がとてつもなく幸せです。この幸せはきっと他の何物にも代えらることのできない、この世に二つと無い物。

 

 わたくしは二人きりのデートの時、この腕の中に掻き抱かれたことがあります。そのお唇でわたくしは接吻を受けたこともあります。きっとクララも接吻は受けたことがあるでしょう。いえ、彼女のこと、強引に奪ったのかもしれません。

 

 オルドリン・ジヴォン。わたくしの騎士。まさか貴女までもが兄さまの御寵愛を……、ですがオルドリン。貴女はわたくしから兄さまを奪ったりは致しませんわよね? 

 

 もしも、もしものお話ですが、オルドリンまで兄さまに恋慕を寄せるというのでしたら、わたくしは受けて立ちますわ。……或いは、兄さまが望み、クララが望み、オルドリンが恋慕の情を抱いたというのならば共有を? 

 

 ……い、いいえ駄目ですっ! やはり兄さまはわたくしだけの物ですわっ! ……でも、わたくしは、オルドリンと争いたくはありません……。兄さま、わたくしはどのようにこの複雑なる方程式を解けばよろしいのでしょうか? 

 

 兄さまにこの胸の内は分からない。兄さまはわたくしの頭を撫で、髪を撫で梳いてくださるだけ。兄さま……お慕い申し上げております。

 

「あの男はわたくしだけではなく名家であるジヴォン家次期当主たるオルドリンにも不敬を働き、皇籍奉還はなされているとはいえジ家のクララも侮辱致しました。ただの死罪が軽い刑罰となりましょう」

 

 照れ照れつらつらとマリーベルは述べる。

 

 片やオルドリンの頭を撫でている玉城はそうだったよなと相づつ。

 

「筆頭騎士様の家もかなりの名家なんだよな。領地もそれなりに広いしよお」

 

「さ、さすがにクルシェフスキー、シュタットフェルト、ソレイシィ、ヴェルガモン、ローゼンクロイツ、アッシュフォードみたいなとんでもない大貴族には劣るけれどね」

 

 ふむふむと。両手でマリーベルとオルドリンを抱き締めながらそのフローラルな香りに包まれつつ、玉城は頷いた。

 

「世間知らずのクソ坊っちゃんがマリーベル皇女様と名家ジヴォン家次期当主オルドリン様に喧嘩売った訳だ。下女呼ばわりで。そりゃまあおめぇらの国の法律では縛り首だわな」

 

 うんうんと頷く玉城に。顔を火照らせているマリーベルとオルドリンは同時に振り向き。

 

「縛り首みたいな」

 

「甘い刑罰で済めばまだ恩赦と呼べる形でしょうね」

 

 などととろんとした瞳を玉城に向けて言った。

 

「縛り首以上の死刑って」

 

 裏から皇室を守護する家系にあるオルドリンは言う。

 

「死罪にも色々とあるわ。なにも縛り首や銃殺なんて甘い刑罰で終わりだとは言ってないでしょう? 私の家系、プルートーンのこと聞いたことあるわよね?」

 

「お、おお、なんかやべーんだろお前の兄貴のとこ。おっさんが頭張ってた組織と同じ様な危ない組織だとか」

 

「組織ではなく機関です。ヤバいで済んだらまだマシですわね。もしも彼の男ロズベルト男爵がプルートーンによる死罪を受けるのならそれは」

 

 待った! と、大声で制止する玉城。あまりグロイ話は聞きたくないのである。

 

「聞きたくねーよそういった痛そうな話は。そういうのはクララんとこだけで充分だわ」

 

 呼ばれたクララは、マリーベルとオルドリンばかりナデナデしている玉城を呆然と見ているだけだった。

 

 クララのお兄ちゃんがクララをほっぽってお姫さまとナイトオブナイツばかり構っている。なんで? なんで? どうしてよお兄ちゃん。お兄ちゃんはクララの物なんだよ? 

 

 お兄ちゃん昔言ったよね女(クララ)の前では格好つけたいって。クララ以外の女に現を抜かすことのどこが格好いいの? 

 

 ねえ、お兄ちゃん。……そんなことばかりしてたらお兄ちゃんのこと殺して永遠にクララだけの物にしちゃうよ……。

 

 そんな暗く恐ろしいことを考えていたクララであったが、ここで復活。

 

 クララは暗殺者らしく素早く玉城の正面に回り込んで、二人を押しのけて彼の身体に抱き着いた。

 

 こうして出来上がったのが密着する四人といった、男一人に美女美少女三人の天国状態なおしくらまんじゅうだが、六つの膨らみを身体に感じる玉城は「年下のくせに柔らケーよ。色気づきやがってコイツら」とか思っていたりする。

 

 歩道の真ん中なので注目を浴びていた。それはそうだろう。如何にもなヤンキー面のモテなそうな顔つきの男が、美女美少女三人とくっついているのだ。舐めてんのかである。

 

「おしえたげよっかお兄ちゃん。プルート―ンのやり方とウチのやり方。早く殺して下さいって泣いて懇願するようなやり方を」

 

 真正面から見上げてくる小柄な少女クララの深い瞳にぞっとする玉城真一郎。

 

「クララのところに入ってきてる情報ではね。ロズベルト男爵はブリタニア最大級の貴族西海岸諸侯盟主クルシェフスキー侯爵家。北ブリタニア大陸中央部を治める大貴族群シュタットフェルト辺境伯家。ソレイシィ辺境伯家。ヴェルガモン伯爵家。ローゼンクロイツ伯爵家と、こちらも結構な名家シュタイナー家の令嬢・令息に対し不敬行為を働いてる。どこか一つでも下級貴族である男爵家はお家断絶の処分が下るし当主は死罪だね。さらにマリーお姉ちゃんにナイトオブナイツに対する不敬が重なった。これもうウチかプルートーンクラスの暗部による死罪案件になるの。暗いくら~い、死にたくても死ねないくらいの痛みを味わわされた後に、お家と生まれてきた存在ごと処分されるくらいの大罪なんだよね」

 

「は、はは、そうなんか。そ、そりゃ、さ、災難だわ。お、オルドリンさん?」

 

「私は詳しくは知らないわ。クララさんかお兄ちゃんの属する機関の案件になりそうだし。実際にどうなるかもまだ分からない」

 

「楽に死ねたらまだマシかよ。まあマリーやオルドリンを侮辱してきた奴がどうなろうと知らんけどな」

 

 言いつつ玉城はマリーベルとオルドリンを抱き寄せ、優しく頭を撫でまわしながら、抱き着いてきているクララと頬を擦り合わせていた。

 

 通りのど真ん中で。

 

 男の達の嫉妬の視線と、女たちのなんであんな男がモテてんのといった疑問の目を一身に受けながら。

 

 

 

どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。

  • 嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
  • 嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
  • 山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
  • 南雲忠一×ドロテア・エルンスト
  • 玉城真一郎×クララ・ランフランク
  • 玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
  • 澤崎敦×井上直美
  • レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
  • 原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
  • ルルーシュ(休日)×ミレイ
  • オデュッセウス×皇神楽耶
  • ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
  • 枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
  • コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
  • 高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
  • 鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-

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