「では、シンク・ローゼンクロイツ伯爵令嬢も、リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢もやはり気にはして居らぬということか?」
腰まで届くコルク色の波打つ髪。眼光鋭く顎髭を蓄えた美丈夫は、金色の肩パットを着けた裏地が白、表地が濃色紫マントを羽織り。
赤と白で装飾され、下部にブリタニア皇家の紋章の入った衣服に身を包んだ彼は美しき令嬢両名に尋ねた。
続き表地が青、裏地が白のマントを着た全身青い甲冑で身を固めた金髪の口ひげを生やした美丈夫も同様の問いをした。
「ローゼンクロイツ伯爵令嬢、ヴェルガモン伯爵令嬢、君たちが彼の男より受けた行為は我がブリタニアの階級制度の中に於いて万死に値する。君たち自身の手でその場で処刑しても何ら問題は無いという行いだ。日本でも伯爵家以上の上位貴族がブリタニアの下位貴族・平民に不敬を働かれた場合は切り捨て御免が許されている。君たちにはその資格があったはずだが?」
赤いヘッドドレスを付け、真紅のドレスに身を包んだ、ステッキを持つ、身の丈よりも長く美しい金色の髪を、細く黒いリボンで頭の両側頭部高くで結い上げツインテールにしている深く青い瞳を持った少女。いや女性に話しかけた。
同時に、紫色の“騎士服”に身を包み、裏地が紫、表地が薄い紫のマントを身につけた、こちらも腰下まで届く長い金色の髪を揺らし、エメラルドグリーンの双眸を持つ女性に問い掛けていた。
先に答えるは真紅のドレスの小柄な女性。シンク・ローゼンクロイツであった。ローゼンクロイツ伯爵家の令嬢で、誰がどう見ても貴族の女性と映ろう女である。
「はい。僭越ながら申し上げます皇帝陛下。クルシェフスキー侯爵閣下」
コルクの髪の男、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。
金髪の美丈夫、神聖ブリタニア帝国西海岸諸侯盟主ジャン・クロード・クルシェフスキーは耳を傾ける。
彼の無礼者を見逃したる理由を聞くために。
「確かにわたくしは髪や身体を触られようとされました」
この発言に黙って聞いていた大日本帝国枢木内閣外務大臣、麻生良太郎――シンク・ローゼンクロイツの夫はぴくっと反応し、不機嫌そうに葉巻に火を付けた。
如何な銃の名手でも目標が居なくてはどうしようもない。もう幾度めかとなろうが、シンクに触れようとしたと聞いた良太郎はフランク・ロズベルトを闇に葬る対象にまで格上げしていたりする。
「ですが分かっていたからこそその全てを躱して差し上げましたので、髪の毛一本、肌の一部分にまで触れられては居りません」
だから被害は無く、対して気にはしていないという。
だが、これに異を唱えるのはローゼンクロイツ伯爵夫人アリス。まるでシンクの生き写し、クローンであるかのような容貌を持つ六十代の女性である。
「シンクちゃんが気にしていなくても私とお父様は異なるわよ? だからこそローゼンクロイツ領からロズベルト男爵家へ経済制裁を掛けたのですもの」
そうだ。既にローゼンクロイツ伯爵家からはロズベルト男爵家へ経済制裁が掛けられている。けして許されてなど居ないのだ。
良太郎が葉巻を置いてシンクの髪のリボンを解く。右側のリボンがアヴァロンの床に付く。
「綺麗に清掃されてっから床についても問題ねえよ」
「……」
そうしてもう一度同じ位置で髪を集めていく金色の美しく手触りの良い髪を、束ね集めて結わえる。細く黒いリボンを金色の束に巻き付けてしっかりと結んでいく。金色の髪が細く一本の束に結わえられていく。もう何度この髪を結わえただろうか? この髪の手触りはシンクが許した奴以外じゃ俺だけのモンなんだよ。
どこぞの糞男爵が触ろうとしていいモンじゃねえ。良太郎にとってはいつもの事ながら、こんな大勢の前での髪結いは中々に恥ずかしい。だが、いまはそんな気分じゃ無いのだ。
「一々一回解いて置いてなんだがよ、しっかりと結んだぜ、髪」
ふて腐れて言いながら葉巻を取り口に咥える良太郎
「リョウタロウ……」
シンクは青く深い瞳でリョウタロウを見、アリスはうふふと微笑んでいる。娘婿が嫉妬してくれているのは母親として嬉しいのだ。
「い、いっくん負けていられませんわッ、はいッ」
リーライナが山本に渡した物、ヘアゴムである。
「ポニーテールに結べとか、首の後ろで纏めてくれとかややこしいことをやれと言われても無理だぞ? やったことがない」
「なんでッ! わたくしの髪も長いのですから夫として結べるようにならなくてはいけませんわ!」
「ヘアゴムなんぞ一切使わん丸坊主の俺に無茶言うな! せめて麻生くんのようにリボンにしてくれ! そうしたら、か、髪の先の方なら結わえることも出来ないことも無いっ」
真っ赤になって言う山本にリーライナは。
「いっくん!!」
と場所も憚らずに抱き着く。
「こ、こらっ、お前の所の皇帝陛下や西海岸盟主殿の前だぞっ!!」
山本はそれでも抱き着いてきたリーライナの明るい金色の長い髪に、五指を差し入れて、優しく梳き撫でる。
リーライナの髪を撫でる事はけして嫌いでは無い。むしろその艶やかな触り心地が山本は好きであった。
「リーラ」
指の股を滑り抜けていくリーライナの美しい髪。長い、腰の下まで伸びる彼女の髪を先まで撫で掬うのは大変だが、今はそうしてあげたかった。
「いっく、ん……」
良太郎同様にリーライナのこの美しくある長い髪をどこぞの糞男爵に触られて居たかと思うとぞっとする思いだ。
正直な所、山本は、酷い話だがリーライナ・ヴェルガモンという女の美しさに気付かれなくて良かったと思う。最も気づき迫られたところで実力的に無礼討ちにされて終わりであろうが。
ただのボンボンと嚮導学校首席のエリートではそもそも実力が違いすぎるのだ。
その様子を見てシャルルは一度目をつむる、三者三様夫婦の在り方にふっと口角を持ち上げ、再び目を開くと。
「なるほど。シンク嬢が特に気にしない理由は良く分かった……、が、貴族社会ではそれでも許されぬ行為を彼の男はしておるのだよ」
馬鹿男爵 許されない男
「そうだ。たかが男爵家当主風情が私の娘モニカ、いや、ナイトオブトゥエルブモニカ・クルシェフスキー卿を大衆の面前で騎士侯風情と罵倒するという、ね」
冷静に述べるシャルル、語気を荒げるクルシェフスキー侯爵。共に表情は穏やかだがその目はけして笑っては居ない。
「ヴェルガモン伯爵令嬢もローゼンクロイツ伯爵令嬢と同様の理由かな?」
「は、はい、そのわたくしの場合は罵声でしたが、別に罵声一つ日本の地で浴びせられたとしても殊更に問題視するほどのことでは無いと」
リーライナの夫、山本五十六が帽子を目深に被り歯ぎしりをする。手はぎゅっと握られ血が滲んでいる。
自分の妻を馬鹿にされて黙っていられる亭主が何処に居ようか。
「だが、夫君やヴェルガモン伯爵はそうではないようだよ」
「え、いっくん?」
「……すまんが、妻を侮辱されて黙っていられるほど俺は寛容では無いのだよ。ヴェルガモン伯も言って居ったよ。自分が何かをしなくても子が片を付けるでしょうとな。中々に計算高く怖い御仁だ。クルシェフスキー侯爵、貴公のところにも連絡が行っていたはずだ」
え? とクルシェフスキー侯爵を見るリーライナ。
「ええ、まあ、来ておりましたよ。今後そちらにロズベルト家の先代が向かうからよろしく出迎えて上げてくださいとね。だから私は私なりによろしく出迎えました“会わない”という出迎えをね」
一呼吸置いて。
「会うわけが無いだろう。スペアだからと碌に貴族教育もしていない先代当主と会って何を話す事がある。ごめんなさい、いいよ気にしなくて。そんなやり取りで収められるほどに私の心は広くないのだからね」
思わずシャルルへのホットラインを開き、なぜ不問に処したのかと詰問したほどだとの告白に、皇帝に詰問できるだけの力を持っているのかと事情を知らない山本、リーライナは驚いていたが。
「シャルルとは付き合いも長くてね。それと私が西海岸諸侯の盟主としてブリタニアの四分の一近くを掌握しているというのもあって、まあ色々あるんですよ。ヤマモト閣下も似たような物でしょう?」
暗に夢幻会の存在をちらつかせるクルシェフスキー侯爵。夢幻会の実態こそ知らずとも嶋田前政権が日本を支配し動かしているという話は、政財界の間では有名な話だ。
「ま、そういう事もあるでしょうな」
山本は多くを語らず躱す。この場には妻も居るのだ。夢幻会の話を余りしたくは無い。
「まあ、いずれにせよ、ローゼンクロイツ伯爵令嬢、ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬は完全なる不敬罪で死罪だ。これは我が国の国法故にな」
始まりのモニカ・クルシェフスキー侯爵令嬢にしてナイトオブトゥエルブへの不敬行為で死罪。
ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬行為で死罪。
ローゼンクロイツ伯爵令嬢への不敬行為で死罪。
シュタットフェルト辺境伯令嬢・令息。
ソレイシィ辺境伯令嬢、シュタイナーコンツェルン令息への不敬で死罪。
「こ、ここに、わ、わが娘マリーベル・メル・ブリタニアと、な、な、ナナリー・ヴィ・ブリタニアへの不敬と傷害行為で死罪。……よもや、よもやここまで……、ここまでこようとはなァ。全員が件の男爵を赦免したところで死罪は免れんのだ」
「そもそもこれはもうそんな話でも無くなっているんだ。大逆罪適用対象になる可能性が高い。南天と繋がるとはそういうことだよ」
民主共和制原理主義。
この危険な思想の持ち込みは大逆罪に当たる。国家への重大なる反逆罪だ。
「仮にソレが無かったとしても、私はフランク・ロズベルトを許さないけれどね」
「儂も、個人的に許すつもりは無い。……娘を侮辱されて怒らぬ親が何処におるというのだ……!」
シャルルとクルシェフスキー侯爵の怒り。
ロズベルト男爵を許したシンクとリーライナにも良く分かる。
二人共に結婚している。シンクは良太郎と、リーライナは山本と。リーライナのお腹には既に子が居る。シンクも何れは子が産まれるだろう。その可愛い我が子を侮辱されて平静で居られるか? 居られるはずが無い。
山本と良太郎は単純に妻への不敬が許せないのだ。アリスはシンクへの不敬が。
それぞれ怒りを持つ者、持たぬ者を乗せたアヴァロンはブースターを全開にして最大船速で大日本帝国へと向かっていた。
全ての元凶であるフランク・ロズベルト男爵の捕縛のために。
神聖ブリタニア帝国下位貴族社交界
このパーティには基本的に上位貴族の参加は許されていない。
下位貴族には下位貴族のコミュニティがあるのだ。無論、上位貴族が紛れ込んだとしても、褒め称えられたり、人の輪が出来るだけで罪に問われることは無い。
これが逆に上位貴族のパーティに子爵以下の貴族が紛れ込んだら大変だ。下手をすると処罰の対象となりかねない。
最も、互いに互いのパーティを間違えることなんて滅多にあり得ない事だが。
「シャロン子爵夫人。お聞きになりまして、あの田舎者のロズベルト男爵のこと」
「ええ、ええ、それはもう、社交界、政財界で大騒ぎですもの。ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿への不敬に始まり、リーライナ・ヴェルガモン伯爵令嬢への不敬、両方とも罵声を浴びせたとか」
「信じられませんわ。たかだか田舎の男爵家風情がラウンズの方にして侯爵家令嬢のモニカ・クルシェフスキー様や、伯爵家ご息女のリーライナ・ヴェルガモン様へ罵声を浴びせるだなんて……なんという痴れ者なのでしょう」
婦人達の噂話は続く。
「チェルシー男爵夫人、それどころかローゼンクロイツ伯爵家御令嬢シンク・ローゼンクロイツ様を遊興に誘い、シンク様の御髪やお身体に触れようと、セクハラに及ぼうとしたとか」
「まあッ! なんという怖れ知らずな下劣者なのでしょうッ!」
婦人達は両手で自分の身体を守る様に抱き締める。
自分自身がその身であったならばと考えると気持ちが悪くて仕方が無いのだ。
「更にわたくしが仕入れた情報ではシュタットフェルト辺境伯家御令嬢カレン・シュタットフェルト様、御令息ナオト・シュタットフェルト様、ソレイシィ辺境伯御令嬢マリーカ・ソレイシィ様、シュタイナーコンツェルン御令息レオンハルト・シュタイナー様を下女・下男と呼ばわりしたとか」
「な、なんて野蛮な、信じられないその様な不敬者が男爵家当主だなんて」
田舎者だからという理由で彼女たちは侮蔑しない。
ただただその在り方を軽蔑しているのだ。
それもクルシェフスキー侯爵家を筆頭に。
ヴェルガモン伯爵家。
ローゼンクロイツ伯爵家。
シュタットフェルト辺境伯家。
ソレイシィ辺境伯家。
と、不敬を働いている相手は全てブリタニア帝国でも有力な大貴族ばかりで有り、敵に回すなど恐れ多い貴族家ばかり。
シュタイナーコンツェルンは大貴族では無いが有力企業の一つで有り、田舎男爵が逆立ちしても勝てる相手ではない。
これらのどの家の貴族に不敬を働いても死罪は免れない。まだ生かされている方が不思議なのだが理由があった。
いずれの不敬を働かれた貴族も不敬行為を許したのである。それは持ち前の優しさから出あったり、木っ端貴族を相手にしても仕方が無いからという理由もあろう。
だが、その子の貴族まではそうはいかない、主君の姫を、王子を、馬鹿にされて黙っている子はいないからだ。
結果としてロズベルト男爵家は経済制裁は掛けられるのは当然として、子の貴族からも無礼討ちの対象とされてしまっているのだ。
クルシェフスキー侯爵家、ヴェルガモン伯爵家、ローゼンクロイツ伯爵家、シュタットフェルト辺境伯家、ソレイシィ辺境伯家、シュタイナーコンツェルン、子の貴族と影響圏まで考慮すれば凡そブリタニアの三分の一を敵に回している。
貴婦人達は恐ろしい恐ろしいと口にしながらこの、前代未聞の事件、一男爵家がブリタニアの名だたる上位貴族への不敬を働いた事件の話題に終始していた。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
-
嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
-
嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
-
山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
-
南雲忠一×ドロテア・エルンスト
-
玉城真一郎×クララ・ランフランク
-
玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
-
澤崎敦×井上直美
-
レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
-
原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
-
ルルーシュ(休日)×ミレイ
-
オデュッセウス×皇神楽耶
-
ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
-
枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
-
コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
-
高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
-
鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-