念のための注意書き。
数がインフレしておりますが世界的宗教組織ならばあり得るかなと考えました。
鉄錆の記憶の欠片
赤い。
真っ赤な、色。
床に、絨毯に、壁に張り付いた、赤い色。
点在する色が部屋を赤く染め上げ、その中心で、最愛の人、マリアンヌが倒れている。
『ふっふっふっふっ、ふくくくくっ、ひははははっ』
部屋の中心では、医師や研究者の様な白衣姿をした男が一人、狂った様に嗤っている。
狂笑。正しくそう捉えるべきなのだろう嗤い。
この世の全てを見下す双眸には虹色が浮かんでいる。
『ブリタニア最強の騎士ナイトオブラウンズ、その中でも最強の中の最強と呼ばれるのがこの木偶だったねえ君ィ』
ぐりん。
斜め後ろに、此方へと向けられたその存在の、耳近くまで裂けた唇が目に映る。
どういう訳か、影に覆われて見えない表情に大きな分厚い眼鏡を掛けた、そのレンズの奥の虹色の双眸は、相変わらず全てのあらゆるを見下す物。
なにも映さない、無価値と捉える、その双眸が、此方を見ている。
一つの視線では無い、一人が見ているというにも関わらず、その視線からは幾百、幾千、幾万もの、或いはそれ以上の、視線を感じた。
その全ての視線が等しく無価値であると物語っている。
恐怖を覚えた。これだけの視られた事の無い視線の、無価値なる瞳を受け、私はただその場に崩れ落ちていた。
神聖ブリタニア帝国皇帝たるこの私が、絶対君主であり恐怖など無縁のこの私が、確かにあの時、恐怖した。
『木偶、君に尋ねているのだよぉ? 木偶は耳まで造り物だから聞こえんのかねェ?』
木偶。でく。デク。
その存在は、入室してきた時より、その場に居た全てを“木偶”と呼んでいた。
いや、振り返ればそうなのかも知れない。
確かにその時、誰もがその存在に抗う事さえ、出来なかったからだ。
◇
ばたんっ、大きな音を立てて広間の扉が開かれた。
謁見用の大広間、当時は血の紋章事件の最中であり、詰めていたのは貴族では無く騎士か軍人ばかりだった。
『おはこんばんにちわ~っと、でも。挨拶したらば良いのかねェ? 木偶人形諸君』
無粋に入室してきたのは、異様な男が二人であった。
一人は短機関銃を持った白い覆面姿に修道服の様な衣装を身に纏った男。
そして、もう一人。この場には確実に似合わしくない、白衣姿の長身の男だ。
白衣の男はどういう訳か、明かりの下にあっても顔が影でどす黒く隠れて見えない。
大きな分厚いレンズの眼鏡を掛け、その眼鏡の奥には七色の瞳がギラギラと輝いている。
不敬で無粋、狼藉を働いた見知らぬ男。血の紋章の渦中でもあった為に、処罰対象とされたのも必然だろう。
だが、それが殺戮と蹂躙の合図であった。
『皇帝陛下の御前であるッ! 不敬であるぞっ!』
斬りかかった我が騎士が死んだ。
『お行儀がなっとらん人形だねェ』
目で捉えられぬ一瞬の移動。瞬間移動のような素早い動きで騎士に迫り、眉間に人差し指を突き刺した。
それだけでだ。
『きっ、貴様ァァっ!!』
同僚を殺されて激昂した騎士が、またも指一本で額に穴を開けられて死んだ。
『木偶はこれだから困りものだ。ゴミ以下の以下、ジャンクは行儀が悪くて始末に負えんよ』
二人、秒で殺したその白衣の存在は、指に付いた血を舐め取りながら、耳まで口を裂けさせるような嗤いを影の顔に浮かべる。
人を殺した、そういう意識よりも、ゴミを始末した、虫を踏み潰した、そんな嗤いが不気味な印象を此方へと植え付けた。
『くっ、慮外者だッ! 陛下をっ、陛下を御守りしろっっ!!』
我が騎士達、我が戦友達、この血の紋章と呼ばれる事件の最中を。
私を支えてくれていた騎士達が次々と死んでいった。
重傷の身となり命永らえた物も居たが、三分の一は黄泉の旅路についた事だろう。
血の紋章の中に起きた惨事。
唐突に始まった凶行だった。
これを排除せんが為に動いたのも我が騎士、その中でも最優のマリアンヌだ。
『我が名は皇帝陛下の剣ナイトオブシックス、マリアンヌっ。皇帝陛下に手向かいし男よっ、何者かは与り知らぬが貴様を誅殺するっ!!』
振るわれた神速の剣。誰もがたどり着けない閃光の神閃。
ナイトオブファイブ、ビスマルク・ヴァルトシュタインも此に加わる。
尋常ならざる相手。肌で感じたが故に、一対一を旨とする彼らが二人、いやその親衛隊も併せて数十名で取り囲み、取り押さえに掛かったが、少し後、ほんの二分後には誰一人残さず血の海に沈む事となろうとは。
そのほとんどが偶然にも私に翻意を抱いていた者達であった、謀略、欲望、自己満足、裏切り、負で満ち満ちた者達であったのは、果たして幸か不幸なのか。今を以ても分からない。
勝負は一瞬だった。神速で振るわれたマリアンヌの剣。瞬速と剛力で以て振るわれたビスマルクの剣。
それらを振るわれた白衣の存在は、その双剣を、左右の人差し指と中指で摘まんで、止めたのだ。
『ふむ』
バシッと受け止められた双剣は、まるで金剛石でも相手にしているかの如き、硬い指で止められていた。
『なっ!? なんですって?!』
『ば、馬鹿なっっ!? 私とマリアンヌ様の剣を指でっっ!?』
不可能、あり得ない、起こりえない事が起きた。誰もが息を呑み、件の二人は剣に力を込めているが、その存在は微動だにせず動かない。
存在は言の葉を紡ぐ。
『ふぅん、これが噂に名高いナイトオブラウンズとやらの力か、木偶としてはまあ及第点だ──が』
ドッ。
瞬間、二人の最強の騎士のその頑健なる身体が、横凪の健脚で蹴り飛ばされ──
『ガッ?!』
『かはッッ!!』
──柱に激突して、双方共に崩れ落ちた。
呆気にとられる間もなく遅い来た衝撃に、二人は意識を刈り取られていたのだ。
『こんなオモチャで神である私に傷の一つでも付けられるとでも、まさか本気で思っていたのかね?』
二人から取り上げた剣を、その存在は虫でも握りつぶすかのようにして、その拳で砕いて潰した。
砕かれ、へし折られて割れる金属音が、静まりかえった部屋に妙に響く。
それはまさに人外の力だった。人の身で鋼を砕いてしまっているのだから。
残された親衛隊の面々も、隊長格を瞬殺された動揺の隙を突かれ、その存在の部下と思わしき白覆面の男に機銃掃射を受け、皆殺しにされた。
『総裁、申し訳ありません。御身をこれ以上木偶の血で汚されるのはあまりにも不愉快であった為』
『ん~、構わんよぉ~、私は最強とやらの力をこの身で受けてみたいと思い、少し遊んだだけだからねェ。遊ぶ価値の無い木偶と戯れてやるほど慈善家じゃあない。いい年をして人形遊びに耽っているとは、全く以てジャップ共の気が知れんよ』
この間、僅か二分ほどだったのでは無いだろうか? 或いはそれ以上に短かった様にも感じた。
それ程までに隔絶された戦闘力の差が、その存在と、マリアンヌ・ビスマルク、以下の親衛隊達には合ったのだ。
たった二人からの襲撃、それも部下らしい男はほとんど動いていない為、実質、この異様な、影に顔を隠された、七色の瞳を持つ存在一人に、我が騎士達は全員制圧された。
『しかしなんたる有様、あまりにも無知で愚かな愚者達だ。最強の騎士という物だからどれくらい運動できるか試してみたのだが、ふ~む、これでは運動にならんねェ。君ィ、特に僅かばかりだが張り合いを感じたこちらの木偶は何と言ったかねェ?』
何もをも障害とせずに居たその存在は、その存在の脇にただ佇み、事後処理を終えたと事の成り行きを見ていたその存在の部下らしき、白覆面を被った男に話しかける。
『はっ、閃光のマリアンヌと』
白覆面の男は答える。我が騎士最強のマリアンヌの名を。
誰もが知り、誰もが届かない、たった先ほどまで“頂に立っていた筈の”マリアンヌの名を。
『閃光? 閃光の様な速さで地に伏すのが得意なのかねこの人形は……、ふッ、ふふふ、ふくくくくっ、ふはーっはっはっはっは! 人形劇の木偶人形としては上手く造られて居るではないかねェ! 実に素晴らしい演出だったよ100点をやろうっ! 満点だ中々の喜劇だったっ!』
喜劇? 我が最愛のマリアンヌが木偶? 人形?
『きッ、貴様ァァッ!』
カッと頭に血が上った。
恐怖が怒りに上書きされた。
だが、一方で冷静になれとも自分に告げる。相手は得体の知れない怪物だ。
それを前に前後を喪う等と。
だが、我が最愛を侮辱され、その怒りは覚めやらぬまま頂点に達した、が。
男へと斬りかかったその瞬間。
『がはッッ』
我が身体も、我が騎士達同様に力任せに地へと叩き付けられていた。
圧倒的な力だ。技術も戦闘力もプロでは無く素人のソレ。
だが、人間とはかけ離れた力の差がソレを覆してあまりあった。
血が滴り落ちる。
私の、マリアンヌの、ビスマルクの、我が騎士達の血がこの広間に流れ落ちている。
鉄錆の匂いがした。
『君に一つ良い言葉を贈ろう。“天に唾すれば己が身に跳ね返る”いま君たち木偶が行ったのはそれだ、神(わたし)に対して、唾を吐きかけようとしたのだからねェ。物語の舞台装置でしか無い木偶人形が、身の程という物を弁えたまえよ?』
しゃがみ込み。此方を覗いてきたソレに頭を掴まれる。
『ぐっ、うう……』
鷲掴みだ。引き上げられる様にして頭を持ち上げられた。
その人力は人外のそれだった。
眼前にあるというのに、やはりその顔は影で隠れて見えない。
闇で覆い尽くされているかの様に。
そして、虹色の双眸に浮かぶのは幾万、幾百万の視線。
とても一人の人間が向けているとは思えないほどの人数の視線を感じた。
等しく無価値な視線を。
『さあ、木偶人形君。選択の時だァ。我が代行者とならん資格を君は持っている、そこで君には二つの選択肢を与えようと思う』
選択肢。
『我が洗礼を受け、神の使徒たる代行者となるか? これを断るか? イエスorノーの二択だ。とても単純明快だろう?』
私の前に差し出された選択。
これを私は。
『ノー、だッ』
有無を言わさずに蹴った。
我が愛するマリアンヌを侮辱したこの存在に、この男に、忠誠を誓えだと? 跪けだと?
ふざけるなッッ!
仮にも神聖ブリタニア帝国皇帝として、その様な選択など、断じて受け入れる訳にはいかぬ。
『そうか。話にもならんな。稀代の名君であると物語から識っていたが、所詮は木偶の一体に過ぎぬという事か。よろしい。たった今より君の価値は木偶以下のジャンクとなった。私としてもジャンクに様は無い、ここで壊して──』
掴まれていた手に力が加わる。ビキビキと頭蓋が音を立てている。
まるで万力の様で、とても人に出せる力では無い。
それに、それに、この存在の虹色の双眸。
見覚えのある形をしすぎている。
これは、それは。
コード、ギア──。
『総裁。失礼します!』
突如広間に駆け込んできた別の覆面男の声で、思考が遮られる。
覆面は顔を隠す為なのか。この存在の部下達は二人共が、同様の白い覆面姿だった。
序でに締め上げられていた頭部への圧迫感も緩む。
忌々しげに振り返るその存在は、変わらずしゃがみ込んだまま。
『何だね~騒々しい?』
『はッ! 目標の確保は終えました! 目標ゼブルス・ラース・ラズウェルは己の目的と引き換えならば力を貸す事、吝かでは無いと』
『ほ~う? 交渉条件を付けてきたのかね? この神たる私を相手に』
『絶対神たる総裁の事を未だ識らぬが無知故の事かと思われます』
握りつぶされる寸前だった私の頭が握りつぶされなかったのは、その存在の、その男の部下らしい白覆面とはまた違う、別の男の乱入によって止められた。
だが、こやつは今何と言いおった?
ゼブルス・ラース・ラズウェルだと?!
悪魔伯爵ラズウェルを解き放つだと?!
あの悪魔は父の御代に置いて千の人間を人体実験の犠牲にした悪魔なのだぞ。
人の脳を使い、脳を演算装置代わりにした戦闘兵器の開発こそが、最も効率の良い人型兵器だと言い切って、中央学会を追放され、父の手により牢獄へと幽閉された悪魔。
それをこやつは今、解き放つと言いおったか!?
『き、さまッ、あのッ、男がッ、どういう男かを識りッ、その上で世に解き放つのかッ』
『識っているとも。人の命を犠牲にした悪魔の天才科学者らしいねェ。それだけの頭脳が無為に失われるのは惜しい。是非とも我が下で研究開発に勤しんで貰いたい物だ。人型自在兵器ナイトメア、次世代の戦闘兵器の開発には充分に使える人材だァ、君よりも余程に価値のある存在だよ木偶人形君』
それに──木偶が千体壊れた処で、だからどうしたというのだね?
にいっと嗤う。赤い口が耳元まで裂ける。
鉄錆の匂いに満ちた広間。
大勢の死と、多くの血が流された、後に空白の三十分と呼ばれる怪奇事件。
何故、怪奇事件と呼ばれるか?
それは、それは、被害を受けた誰一人。
その場に居合わせた誰一人として記憶に残されては居なかったからだ。
あの存在の、あの怪人の存在も、起きた事象も何もかもを、誰もが知らずに、気が付いたら皆死に絶え、幾人もの重傷者が出ていた。
何者かの集団による破壊活動、皇帝暗殺未遂として処理されたこの事件、そのあらましは、記憶に関連するギアスを持つ影響だろう、私だけが断片的に覚えていた。
此処に入り込んだときから変わらない、七色の双眸を、その瞳に映し出しながら狂笑する男。
自らを神と呼び、正に神さびた存在だった、邪悪なる神。
『私がその気ならばこんな忌々しい舞台装置の世界など疾うに破壊しているよ。世界の管理者とやらも所詮は被創造物たる木偶でしかない。理外の存在であり神である“私達”からすれば等しく無価値だ。君たち人形は精々ジャップと戯れておけば良い。だが、忘れるな。我が手はいつでも君や君の親類縁者、木偶人形共の下に届くぞ? 努々警戒を怠らぬ事だ。そして、私の使徒とならぬ選択を選んだ君の責任だ。精々その寿命が尽き果てるまで親類縁者の心配でもしているが良い、ふふふッ、ふはははははッ』
私の記憶は、そこで途絶えている……。
◇
「は──っ!!」
目覚めると、そこは私室だった。
「かはっ、はあっ、はあっ……はあ、……はあ、……夢、か……」
昼の休憩時、忙しい毎日の疲れが溜まっていたのか、うとうとと眠り、夢うつつとなっていた様だった。
喉が干からびた様に乾いている。
テーブルの上に置いてある水を一含み呑み込んだ。
「……久しぶり、か」
夢うつつ……あの、怪奇現象の、夢。
久しぶりに見た忌まわしい夢の記憶。
本当に起きた事だったのか、わし自身が自らの記憶に疑いを持っている。
あの誰にも負け得ぬ最強のマリアンヌが、虫の様に叩き潰され、多くの騎士を死に至らしめた怪事件と、邪悪なる、神。
「邪悪なる、神、か……」
アレは自身を神であると言い切っておったが、確かにそうだと言えるのかも知れぬ。
だが、アレは人々が安寧を求めている様な神では無い。
破壊と殺戮を世にもたらす災禍の神の類いだ。
「そしてあの瞳」
あの双眸。
今でも忘れ得ないあの二つの瞳の虹色の輝きは。
「コード、或いは、ギアス」
あの虹色の双眸には、確かに、それらしき翼の模様が浮かんでいた。
どの様な能力か? あの人外染みた身体能力はアレによる物なのか?
何一つ分からない、だがもしもアレが現実の事であったなら。
あの男は、あの男は、少なくとも三つ以上の能力を宿している事となる。
銃で撃たれても死なず、効かず。
人外の身体能力を持ち。
数多の人間の記憶すらも操作する。
複数の能力持ちの上で不死身。
規格外に化け物過ぎる、反則だと言えるだろう。
あの男自身が言っていた様に、自らを神と称しても問題ないほどの、異次元の能力だった。
それに、アレが全てだとも思えない。
アレの他にも未だ能力を持つ可能性がある。
宮廷内に平然と入り込んできて、警備の者が誰一人気付かない、監視網にも引っ掛からない。それも一つの能力だったとするのなら、これで四つだ。
本当に四つか? いや、まだある。少なくともわしはそう睨んでおる。
あの様な邪神の如き存在が、たった四つの能力に収まる筈が無いだろう。
神を自称する程なのだ。それ以上の何かを持っていても何らおかしな事では無い。
「神、邪悪なる神、複数の能力を持ち、コード保持者の不死性以上の不死身と最低ラインで四つ以上の能力を持つ、人外の力を持つ神、か」
ふと、わしは思い出す。ここで重大すぎる事柄を思い出したのだ。
我が愛娘とその友人達も関与しているテロについてを。
「……そういえば、白い翼と、光の嚮団も」
民主共和制原理主義組織『白い翼』。
あの南ブリタニア大陸に巣くう、凶暴で悪辣なるペンタゴンすらをも子犬の様に飼い慣らす、正真正銘の狂信者の組織。
「構成員人数は世界中に約──一億」
一億人の構成員という、信じられない規模を誇る、各細胞事にバラバラに活動する巨大テロ組織にして、巨大複合企業の表の顔も持つ、裏社会の頂点に君臨する組織。
あらゆるマフィア、暴力組織や犯罪組織と通じており、世界各国のテロ事件の黒幕とされる組織であった。
「その支持母体、光の嚮団もまた類推される組織、世界三大宗教の一つであり、絶対神による世界救済を信じる、福祉と慈善の手厚い集団──信徒数は」
十二億──。
凡そ十二億に達する、世界三大宗教の一つ。
この世に存在するという絶対神を妄信し、崇め奉る存在。
たった二百年ほどの期間で、爆発的な勢いを以て世界中に広がった、一大宗教組織だ。
これの過激派が白い翼だとされている。少なくとも世の裏を識る者達の間では、そういう定説が定着していた。
「実態としては、両組織共に古代文明の調査研究や奪取を目的とし、古代文明技術の再現を目指す研究機関的な側面も併せ持つ、か」
あの空白の三十分には、白い翼が関係していた痕跡が僅かばかりだが見られる。
そしてあの虹色の双眸の男。総裁と呼ばれていたアレこそが、彼らの奉ずる神ではないのか?
アレは言っていた。我が手は何処であろうとも届きうると。
同時に警戒していた。ジャップと呼ばれる存在を。
ジャップが何を指しているのか、聞いた事も無い語源だが、あの邪悪な神に対抗できる存在なのだろうか?
空白の三十分の記憶の欠片を持つ自身は、今日に至るまであの事件については特に誰かに語っては居ない。
信頼の置ける最愛の妻マリアンヌ、実兄であるV.V.兄さん──そして、我が心友シゲタロウにも。
あまりにも怪奇すぎて、自分以外の誰もが知らなすぎて、自分ですら断片化された記憶しか持っていない。
そんな不確かな事象、誰にも相談など出来る筈が無かった。
だが、投獄されていたはずの悪魔伯爵、ゼブルス・ラース・ラズウェルの姿も牢から消えていた。
指名手配したがその行方は様として知れず、現在を以てしても未だ発見されて居らぬ。
あの悪魔は曲がりなりにも天才科学者であった、その頭脳が他国に漏れたのは致命的に過ぎる。
あの瞬間を以て我が国の中核技術が他国に漏れた事は確実だろう。
思い起こせばあの男が逃げ込みそうな場所と言えば、E.U.ユーロピア共和国連合か、或いは南天か……。
それに、それ以上に、あの悪魔は何をやらかすか知れた物では無い。
人間を実験動物程度にしか見ていな──ああ、いやそうだな。それを言うならばあの邪神は人間を“木偶”と称して居った。
あの悪魔伯爵が可愛いとさえ思えるほどに、人間味の欠片も無い、幾百万以上の無価値な物を視る視線をその虹色の双眸に宿す男。
あの邪神が巻き起こしていった惨禍の後も残っている。
アレは現実として起こった事なのだろう。
わしに残された、わずかな記憶の欠片だけを残し、全てが夢幻の如く消え去ってしまったが。
だが、記憶がほとんど残っていないだけに、この不確実な事実を誰にも打ち明ける事が出来ないのだ。
わし以外の誰か、一人でもこの事を覚えていてくれたのならば、な。
「そういえば、マリーベルがペンタゴンの主要幹部を先日討ち取ったのであったな」
我が愛娘の一人。神聖ブリタニア帝国第八十八皇女マリーベル・メル・ブリタニア。
わしの為にと、対テロ部隊まで組織して我がブリタニアの裏庭である、南ブリタニア諸国でペンタゴンの掃討任務に就いている、行動的な娘。
“──忘れるな。我が手はいつでも君や君の親類縁者、木偶人形共の下に届くぞ? ”
「──っっ!!」
はっと思い出される断片の記憶のその欠片に残されていた言葉。
ペンタゴンは民主共和制原理主義組織。
その大本は白い翼と光の嚮団、そしてその根源は。
「南天──」
南側諸国、通称南天。
合衆国オセアニアを中核とする巨大国家群組織──SSTO。
北側世界である我がブリタニアと技術の日本と対立してきた、最大の敵対国家群。
“全天に美しき世界の実現の為に”
この言葉を共通語とする彼らは『光の嚮団』『白い翼』を通じ、世界中に根を張っている。
我がブリタニアにもその根はある。
正確な情報は相変わらず分からぬが、南天の張る鉄のカーテンの向こう側より漏れ聞こえてきた噂を話半分で聴いても、最大動員50,000,000以上を可能とする巨大な軍。
南天傘下の十二億の一大宗教『光の嚮団』まで加われば、最早宗教戦争、世界戦争は避けられまい相手。
南天の手、それこそが神の言う手なのではないのか?
だとすればもう、愛娘の一人マリーベルはその手に触れてしまっている。
メル家の我が妻と、我が愛娘ユーリア、二人とマリーベルが巻き込まれたメル家の火災事件。
宮殿は焼け落ちたが、幸いな事に妻も、ユーリアも、マリーベルも、使用人や騎士達も皆無事だった。
だが、アレは、アレを行ったのが白い翼では無いと、邪悪なる神では無いと、誰が証明するというのだ。
今にして思えば、マリーベルは、あの一件から対テロに対して、更に積極的になっていった様にも思える。
マリーベルは、あの火災現場で何かを見たか、何かに出会したのかも知れない。
あの子も時折、わしの様に悪夢にうなされていると聞く。
そんなとき、コンペイトウという日本の飴のお菓子を食べて落ち着きを取り戻すそうだが、コンペイトウに何か特別な思い入れでもあるのだろうか?
もしも精神の不安定化が定期的にでも起こってしまう様ならば、メル家の火災前後の記憶の書き換え処置もと考えはしたのだが、それはあの子の尊厳を傷つける行為。
わしにはとても、その様な真似は、出来そうも無い。
「しかし──そうか、そうか、……そうだな、わしは……わしは恐れているのだな……」
あの邪神の手が、愛する兄弟姉妹、愛する妻達、愛する息子娘達に及ぶのでは無いかと。
あの誰もが、マリアンヌやラウンズですら片手で制圧してしまう、抗うこと叶わぬ暴虐な魔の手が、いつか届くのでは無いか。
拳銃弾や機関銃を掃射されても狂笑を上げ立っていた、あの怪異の手が。
だから、だからわし自身の庇護の元より、わしは家族を離したく無いのだ。
それが息子達や娘達の反感を買う行為であったとしても。
この身を盾として、あの邪悪なる神の魔の手より、家族を守れるのならばと。
「ふ、ふふふ、無謀な事よ、本当にあったかどうかも分からない出来事の断片の記憶に踊らされ、家族を喪う恐怖に怯え、家族を守らんが為に手元に置いて守りたい……。その様なわしの願いなど、あの邪悪なる神が実在していたならば、不可能に近い……。ブリタニアの防衛網を簡単にすり抜けて、宮廷内部に侵入し、圧倒的なる力を振るいつつ記憶や痕跡も消し去ってしまう怪人を相手に、この身一つで我が愛する家族達を守ろう等と、何と無謀で愚かな事よ……」
だが、ペンタゴンの高級幹部達を悉く討ち取ったマリーベルは、その神の怒りに触れているかも知れぬ。
「構成員500,000は下らないとされているペンタゴンであっても、上位の幹部陣を討ち取られた以上、暫くは大人しくしていよう。マリーベルとオルドリン、彼奴らの活躍によって拠点も多く潰す事が出来た。此処は一度安全と休暇とを考慮し、日本に居る兄さんのところへでも向かわせるか」
兄、V.V.は日本に帰化して久しい。皇室のもめ事の原因になるから。そう言って自ら皇籍を手放し、全ての責務から解放された兄は、渡日し、彼の国に帰化。とりあえずの自由を謳歌している。
現在でも嚮主という立場にあるギアス嚮団の運営は、後進の嚮主代行に任せ、半隠居の身ではあるが。大日本帝国内に置いてはジ家の代表として動く事もあったりするのだ。
ジ家の代表は本来ならわしだが、わしはわしで、ブリタニア帝国皇帝として多忙の身。必ずしも、この身一つで自由に動ける身体でも、立場でも無い。
故に、兄さんには多少窮屈でも、代行という形で、日本では政務に携わって貰う事があった。
兄さん自身はいつも『気にしないで良いよ。シャルルはブリタニア帝国の皇帝なんだから、身一つで自由にできない事だって大いにあるさ』と仰ってくださり。
そういうの嫌だから皇籍を奉還したんだけどねと、そう言って笑ってくれる。
全く以って、わしは良い兄、良き家族に恵まれた物だ。
その兄の元、そして信頼できる友人達の下に身を寄せさせる事で、グリンダ騎士団として日々戦い続けているあの子達には、暫しの安寧を与えてやりたい。
「とはいえ、グリンダ騎士団は6,000の兵と、三隻の浮遊航空艦を持つ、大規模な対テロ部隊。半個師団規模の部隊だ。抜けた穴は大きい……、交代要員として別の部隊を組織して備えておくか」
願わくば、あの子達に、邪悪なる神の魔の手が及ばぬ様。
そう、願うばかりだ。
以上となります。
以下解説です。
光の嚮団:全世界に十二億の信徒を持つ宗教団体で、白い羽と天使の輪がシンボルマーク。
世界三大宗教の一つ。発祥は二百年程前と新しいが、この世に実在するという絶対神を信仰する。
慈善事業、福祉事業を手厚く行っており、主に貧困地域で絶大な支持を集めている。
活動家の特徴はとにかく善人。とても甘い顔を仮面の様に貼り付けており、人の心の隙間に入り込む事が巧み。
民主共和制原理主義組織、白い翼:マフィア、過激派組織、犯罪組織、人身売買組織等と繋がる一大テロ組織。推定構成員は一億人で、個々で独立して活動中。
過激派で“全天に美しき世界の実現の為に”世界中の細胞を使い、裏社会や政治の世界で暗躍する。
ペンタゴンなどもこの傘下に収まっており、ペンタゴンやその他の民主共和制原理主義組織の最上位組織に当たる。
表の世界では巨大複合企業を構成し、表でも世界を舞台に暗躍している。
光の嚮団の様な大規模な施設などはテロ部門に存在せず、世界各地に細胞として細分化され、地域社会に溶け込んでいる為、一目で判断は難しい。
“天命”が降りれば、“浄化”と称してテロ活動を行う。本人達は殺人=浄化作業は救済活動であると考えており、常人の思考とはまるで異なる。
光の嚮団の過激派分派と見なされている。シンボルマークは天使の翼。
南天条約機構:アフリカ東部諸国と中東の一部、東南アジアの一部、南太平洋の国々から構成される軍事同盟(今後加盟国が大幅に増える可能性ありです。
解説は不要かも知れませんが、最大動員数は80,000,000で、最大動員時には、世界中の民主共和制原理主義組織を統制下に置く事が可能。
旗は蒼天双翼光環旗。青地に白の双翼を広げた天使の輪を乗せた旗。南天全体のシンボルマーク。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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山本五十六×リーライナ・ヴェルガモン
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南雲忠一×ドロテア・エルンスト
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玉城真一郎×クララ・ランフランク
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玉城真一郎×マリーベル・メル・ブリタニア
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澤崎敦×井上直美
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レオンハルト×マリーカ・ソレイシィ
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原作ルルーシュ×シャーリー・フェネット
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ルルーシュ(休日)×ミレイ
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オデュッセウス×皇神楽耶
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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枢木スザク×ナナリー・ランペルージ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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高麗大佐×奥様(書けたら(-_-;)
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-