帝都の休日 短編連作群保管庫   作:休日

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オマケ程度です。


南天の最奥

 

 

「ふふんふふんふふふーん」

 

 彼はシャツのボタンを留める。

 

「ふふんふふんふふふーん」

 

 彼とていつも白衣を着ているわけでは無いのだ。

 

 青い衣服に着替え、天窓を開いてこの位相空間に日の光を取り入れる。

 

「ん?」

 

 埃一つ無い机の上。実験台には何も置かれていない。

 

 本一冊置かれていない。彼は良く本を読むが、その本も一冊とて無い。

 

 そして綺麗に拭かれている、手抜かりは無いとでも言うように。

 

「何かご用で御座いましょうか?」

 

「ん。しっかり仕事をしているねえ。流石はメイドだ」

 

「ただのメイドで御座います」

 

 無表情にクールに。言うメイドの彼女長い銀髪を三つ編みにして頭に巻き結い上げ帽子を被っている。

 

 何処にでも居るメイドだ。

 

「しかし、チリ一つ無い完璧な掃除は良いのだが、椅子を濡らしたままというのは手抜き出てないのでは?」

 

 彼は口をへの字に曲げてじっと、椅子を見る。

 

 良く見れば机も湿ったままだ。

 

「こう、乾いた雑巾でだねえ」

 

「これも作業効率を考えての事です。創造主がこの部屋を訪れるより早く清掃を終わらせるにはこの方法が最もだったので御座います。つまり悪いのはこの部屋を所定時間よりも早く訪れた創造主なのです」

 

「ふふふふふははははははっひゃーひゃっひゃっひゃ、あ。……人のせいにするかねェ?」

 

「します。給料の安いただのメイドですので」

 

 ただのメイドに其処までの配慮は不要なのだ。

 

 メイドとしてはそんなに賃金を貰ってない。

 

「じゃあ、給料アップを約束しよう」

 

 ぴくっ、と眉が動くただのメイド。

 

「ですが、無駄な掃除は致しません。このあとおやつのお時間ですので」

 

「ふはははははっ。……そうか。まあただのメイドに多くは求めまい」

 

 

 

 南天の最奥

 

 

 

「ところで、創造主クリエイター=L。先ほど高麗方面より連絡が入りました」

 

「ほう」

 

 顎に手を当てる彼。相変わらず顔には影が掛かり、赤く裂けた口と光の反射で輝く眼鏡しか見えない。

 

 眼鏡の奥では両目に虹色に光り輝く翼の様な模様が神々しく浮かび上がっていた。

 

「創造主が許可為されたN号兵器を10基10発、それぞれホーリー弾道ミサイルとミトラス弾道ミサイルに搭載して半分は戦略潜水艦に、もう半分は地上発射型として配備したようですね」

 

「ん? 私は潜水艦までくれてやるとは指示していないが」

 

「どうやらプリースト殿の虚栄心を満たす為かと」

 

 プリースト──合衆国オセアニアの国防長官であり、南天の最高幹部である老人の名を、メイドは様と呼ばずに殿と呼ぶ。

 

 それはイコールにしてそれだけメイドも高位の階級にあるという事。セラフィム──それが彼女の聖なる階級ホーリーステージだった。

 

 そんなメイドの意見を伺いながらバサッと白衣を着て翻すクリエイターは、図書館天井に張り巡らされた位相空間の明かり、星空を見上げた。

 

「虚栄心か……どうやらプリーストは未だブリタニア中央学会へのコンプレックス、恥辱を消し切れてはいないようだ」

 

「信徒となる条件が学会への復讐であったとお伺いしておりますけれど」

 

「ああ、そういえばそうであったねェ~。彼は神たる私に条件を付けてきたのだった」

 

 個人の事情である為に深入りはしない創造主だが、作戦に私情を持ち込んでほしくもない──と言っても、彼に取っては些末事。

 

「良いだろう。ミトラスⅢは戦略潜水艦ごとあの世界最高の馬鹿な木偶人形共にくれてやろうではないか……。10発のN号兵器……その一発でも炸裂した瞬間の‟奴ら”の顔を是非とも見たい物だがねェ~。さあ、どうだあああ??」

 

 予定では中華連邦を動けなくする為に中華に3発、交戦相手となるEUシベリアに1~2発。高麗の手元には5~6発を残す予定であった。

 

「高麗がN号兵器を保有していると知った日本の動きも気になるが──」

 

 そこで言葉を切り、口を大きく裂けさせたままに、彼は図書室、図書館を歩き始めた。

 

 中東制圧の為の南天条約機構軍は既に3千万近い戦力がイエメンと合衆国東アフリカに集結している。

 

「EUユーロピア共和国連合の木偶共にもきっちり躾をしておくべきであったか」

 

 東アジアの動きと中東の動きは連動している。

 

 中東は中東で目的である遺跡の奪取が控えているが、中東へと攻め込むことで東アジアと動きを合わせて、あわよくば中華連邦の浄化殲滅と連邦民を帰依させ。

 

 王政復古派を潰すべくユーロピアには直接的制裁を大清連邦……いな、高麗に肩代わりさせる。

 

 南天はいつでもお前たち木偶人形を滅ぼせるのだとの教育の為に。

 

 犠牲となる中華連邦人? ユーロピア人? 清国人に高麗人? すべては作られた木偶人形。

 

 極論、何体壊れようとどうでもいい。いや、浄化されるのだ。神と一つになるだけ慈悲深いのかも知れない。

 

 重要なのは遺跡と、‟あの連中”の始末だ。

 

 本来あるべき歴史を捻じ曲げて、神に選ばれし○○○を破壊し、取って代わった奴らを歴史ごと消し去る。

 

 その為に必要な物は作り物であれ何であれ利用しなければならないのだ。

 

 そして、この箱庭も何れすべてをこの手に……。

 

 考え込んでいたところで創造主クリエイター=Lは顔をあげた。

 

「ああ、ついでにそこの木偶の掃除もして置いてくれたまえ。そんなところをうろうされたら邪魔だ」

 

「御意に」

 

 

 

 

 ◇

 

 ??視点

 

 漸く南天の最奥という処まで潜り込めた。

 

 五年かかった。多くの仲間が散っていった。狂乱していった。

 

 だが私はついに。

 

 大きな本棚が多数並び立つ巨大な空間。

 

 奥には実験道具を起きそうな机が一つぽつんと置かれている。

 

 その更に奥にはまた書棚が続き、最奥には大扉らしき物が見える。

 

 あれが、あれこそが南天の最奥。

 

 その手前で青いシャツの男とメイドらしき女が話をしている。

 

 傍耳を立てて聞いてみると、メイドの言葉の中に「創造主」「盟主」といった言葉が聞こえた。

 

 まさか、まさかまさかまさかっっ……!!

 

 あの男が、あの長身の男が、南天の……。

 

 思い至るその思考の先で、男から目を離さなかったのに、男は消えていた。

 

 

 カツーン、カツーンという足音だけを残して。

 

 

 ――10秒あれば人は移動できます。

 

 

 なっっ?!

 

 私の目の前にモップを持つメイドの女が現れていた。

 

「お掃除をします。邪魔なので。おやつの」

 

 な、なにを、ただのメイドが!

 

 いやそれよりも南天の神の情報をV.V.様に……え……あれ……ぶいつ、だまって……たれ……その、前、に……。

 

 お、れ、たれ……。

 

 

 ざァァァっ、粉になって消えていく木偶。木偶は一々鬱陶しい。

 

「人のおやつの時間を邪魔しようというのですから。さあ、さっさとお掃除を終わらせておやつの時間です。ただのメイドの数少ない楽しみです」

 

 

 ◇

 

 

「こちらが発射スイッチとなっておりますじゃ」

 

 高麗共和国。青瓦台最奥の貴賓室にて、とある老人と、高麗共和国大統領──李承朝が言葉を交わしていた。

 

 手渡されたのは、あるスイッチ。安全面を考えるのならばこれのキーは二つ必要。

 

 だが、老人はこのスイッチを一つにして李に渡した。

 

「こ、これが、南の大国の超兵器の起動キー……!」

 

「ですじゃ。破壊力のほどは200ktといったところですなあ」

 

「200kt?」

 

 聞いたことの無い単位に李は首をかしげる。

 

 これだから教養のない阿呆は……老人は心中で呟き、大まかな影響範囲を伝えた。

 

「まあ簡単に言うならば直径10㎞範囲は壊滅的被害が出ると考えて貰えればよろしいかと」

 

「ちっ、直径10㎞っっ?! そ、それほどの」

 

 スイッチのついた起動キーを手にしながら、李は狂喜の笑みを浮かべた。

 

「は、はははっ、ふははははッ!! ひゃーっっひゃっひゃあッッ!! 素晴らしいッ、凄いですぞラズウェル殿ォ!!これがあればEUの白猿共も!中華の豚共も襲るるに足りぬッ!!」

 

 これと合わせて、ジェンシー、ガイストと強力なKMFがあれば。

 

 パンツァーフンメルやらガン・ルゥといったKMF擬きにも勝てる。

 

 いやさ、それ以前にこのN号兵器を10発も手にしたのだ。あの憎き日帝にさえも対抗できるやも。

 

 無限の可能性に李承朝の笑いは止まらない。

 

(ふん……滑稽よのう。すべては偉大なる総裁の下に動いておるというに、己がプレイヤーであると信じ切っている木偶は)

 

 高麗はこのシベリア侵攻に80万の兵力をぶちこむと豪語し、既に招集をしていた。清国の兵力と合わせれば200~300万。一地域への投入戦力としては充分だろう。

 

 兵器類もある程度は充実している。ユーロブリタニア対策で極東の兵力を欧州方面へと移動させているEU。今ならば残存戦力の頭上に開始の合図たるN号兵器を叩きこめば厭戦気運も高まろう。

 

(何よりもユーロブリタニア共と繋がっておる王政復古派を脅かすには十分だろうて)

 

 王政復古は南天への裏切り行為である。

 

 明確なるメッセージとなろう。

 

 何せN号兵器は南天にしか作れない。

 

(ミッシングリンクを可能とする儂の叡智のギアスが無ければ作れんからのう)

 

 さて、起動キーは渡してしまった。後は高麗が最低限の仕事をしてくれるだけでいい。

 

 

 

 リム・ケイホ少佐は、南の大国という言葉をずっと考えていた。

 

 兄も魅入られたガイストの性能。確かに高い。荷電粒子砲を標準搭載しているところからも。

 

 だが、同時にあの老人の無機質な瞳を見てうすら寒くなったのだ。

 

 自分達はただの実験動物にされてはいないだろうか?

 

 あんな人間を見る目ではない、物を見る目で見られたのは初めての事。

 

 良き新兵器を与えられたことその物は、自身の腕を認められたからに外ならず、良いことなのだろう。

 

「だが、あの無機質な瞳が見ているのは、……もっと危険な何かの気がしてならない」

 

 祖国は後戻りできないところまで来ているのではないか?

 

 南の大国とは……悪名高き合衆国オセアニアではないだろうか?

 

 彼の国に付いては分からない事ばかりで、鉄のカーテンの外にはほぼ情報が入ってこない。

 

 だが、明確な事が一つだけ。

 

 彼の国と手を結ぶという事は、大日本帝国と神聖ブリタニア帝国の『技術』と『力』、その二大超大国を敵に回すという事だ。

 

 無論、オセアニアの……南天の庇護下に入れば、庇護した国を本当に守ってくれるのならば或いは。

 

 しかし、いくら考えても南天が高麗を守ってくれるとは思えない。

 

「一兵士はただ黙って命令に従え…か」

 

 シベリアの切り取りはほぼ確実。

 

 何を以て確実と言うのだろう大統領の演説を流している国営放送を観ながら、酒を煽った少佐。

 

 今夜の酒は不味かった

 

 

 

 

 

 登場人物

 

 創造主クリエイター=L

 両目に虹色のギアスの様な輝きを宿す見た目科学者風の謎の人。顔は全体的に濃い影に覆われており七色の輝きを持つ瞳以外見えない。

 自称・他称 神

 かなりの俗物的なところがあり、研究中にお菓子を食べたり、緑茶などを飲んだりする。ケーキも好き。

 自らの使徒とした人間にはかなり温厚で優しさも見せ、失敗も許す。

 

 ただのメイド=アルテナ:最大10秒時を止められるギアスと、物質を消滅させるギアスを持つ、デュアルギアスユーザー。目下おやつとお給金が欲しい。

 結い上げている銀髪は普段栗色に近い色をしている。

 

 ??:五年かけて南天の最奥まで初めて侵入できたギアス嚮団の暗殺者。神の姿を目にし戦意を持つも刹那のうちにただのメイドに10秒で消滅させられる。

 

 李承朝

 高麗共和国現大統領。

 清国のシベリア侵攻に乗っかる形で80万の兵を派兵予定。

 南の大国よりの支援で200kt級、一部mt級のN号兵器を多数供与され有頂天に。

 

 プリースト=ラズウェル。

 またの名を悪魔伯爵。神聖ブリタニア帝国より懸賞金付きで指名手配をされているお尋ね者ながら、合衆国オセアニア国防長官、南天条約機構国防責任者でもある。

 ブリタニア中央学会を憎んでいる。

 

 リム・ケイホ

 久々に登場した高麗共和国軍少佐。

 高麗人としてはかなりまともな精神の持ち主。

 南の大国がオセアニアであり、オセアニアは南天を構成する一国だと薄々気付いており。

 祖国が南天寄りに舵を切っている事を憂いている。搭乗機はガイスト。

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