knightその1 危険性と、危機的なる可能性
その日、広い広い伏見宮邸宅には、ある意味で日本の影と闇の部分を司る男が来訪していた。
今時珍しい古めかしい丸眼鏡、きちっとした背広に唾広の帽子。一見怪しげで、やはり怪しい出で立ちの男はある報告書を携えて帝を除く皇族の代表たる男、伏見宮博泰翁と向き合っていた。
「このような晴れ晴れとした良い夏晴れの日にこのような報告書を携えて宮様にお目通りをしなければならないのは、些か」
「かまわんよ。君も私も、夢幻会の皆は共に生き転生したる仲間ではないかね。あまり気を遣わなくても良い」
「恐縮です」
通り一辺倒の挨拶は、極めて穏やかなる物。
夏晴れに合う最初の挨拶といったところだが、一拍を置き、伏見宮は切り出した。
「オセアニアのことだな……、オセアニアはニュージーランド北島近郊の群発地震についてか?」
切り出した伏見宮に、此方も一拍を起き、ふうと息を吐き出したところで閉ざしていた口を開ける辻政信。
「お早い、感服致しました」
「なぁに、此方とて遊んでおるわけではないからな。独自ルートもたくさん保持しておるよ」
苦い顔をする伏見宮。是には彼の国と勢力‟南天”が、謎のコードとギアスを扱うということが関係していた。
諜報員を送ろうとも、その諜報員が洗脳されてはねずみ取りがねずみとなって返される可能性がある。
といってギアスの“効かない”者達が潜り込むのもリスクが大きく、殆ど手出しできない状況であった。
ギアスの効かない者達――それは、理から外れし存在(もの)即ち、夢幻会や転生者がそれに当たるのだ。
不可思議なる転生という現象を以てこの世界に集い来た仲間達には、ギアス能力が効かない。
それについては早期に結論が出ていた。本来存在しない筈の者達、つまり理外者たる夢幻会にはこの世界の理が通用しないのだろうと。
この理外者たちがそれぞれに2010年の日本崩壊を阻止すべく、皇暦1500年前後から動いてきたのだ。この日本を守るために、この日本を繁栄させるために。
無論、彼等だけではない。彼らと共にこの世界に住まう者たちも共に力を合わせて戦ってきた。
如何に特殊な力を防ぐ身の上であろうと理外者たちとて所詮は個にすぎない。
個にできることなどたかが知れている。歴史という名の巨大な壁を動かすには、必ずやこの世界の者達と協力してゆかねばならないのだ。
そうして彼等は時に協力し、時に反発し合いながらも、この日本を今日に至るまで導いてきた。
その現在の護り手が自分たち、そして自分たちと共に在るこの世界の者達。
けして個で此処まで来たのではない。夢幻会は皆がそう戒め、己に言い聞かせている。自分たちはただ未来と未来技術を知り、行く末を知る者である。己が立場で足掻き、その未来をより良い物にしたいだけのひとりの人間なのだと。
「何もしとらんように見えて何かをしている。我々はいつもこの国の為にそう動いてきた。私とて宮中にありながら影を動かしたり色々と個人的に情報を集めてはおるよ。ただオセアニアの──南天の情報は、南天所属国への内部潜入が難しく、中々手に入れられない事が難儀だが」
伏見宮は苦い顔をより一層深くする、それが為に遅れた対応が最悪の物を誕生させてしまったと推測させる観測結果が出ていたからだ。
「一応こちらでも把握している。ニュージーランド北島の地震活動の活発化は」
「ええ、ここ“二十数年”ほどの活発化は人工地震の可能性が有り……そして」
「大気圏内放射性物質の変化……かね?」
「はい。……まあ、これだけ証拠が揃ってくると自ずと答えは見えてきます。まだ火の手は上がっていないので、確定ではありませんが」
「こちらがブリタニアとの仲を確実なものとしようとやっきになっている間、彼等も彼等で積極的に打って出ながらも、密かに我々への対抗措置を模索していたということか。ミッシングリンク。それがオセアニアの技術面で起きたとは思いたくもない物だが、現実は見据えなければならんな」
「ギアスが絡んでいる可能性もまた然りです。嚮主V.V.の話では過去に叡智のギアス。ある切っ掛けを以て生物的・技術的ミッシングリンクを可能とする技術・ギアスがブリタニア年代記の記述には見受けられたとか。つまりその叡智のギアスに目覚めた者が南天に存在している可能性も」
「叡智のギアス――本当なら厄介どころの話ではないようだな……、それが確かで、もし叡智のギアスに目覚めた者が南天に存在するのならば、そのギアスを使いこなせるだけの精神力を持ったのなら……連中、技術的格差を埋めに掛かってくるぞ」
あまり良いとは云えぬ展開、あまり聴きたいとも思えぬ情報。
「作戦機13,000機、VTOL6,800機、戦車45,000両、装甲戦闘車両等作戦車両67,000両、自走砲・野戦砲25,000門、間もなく16隻体制と成る航空母艦と編成される16個の戦闘群、揚陸艦艇520隻、主力水上艦艇360隻、潜水艦艇190隻、ミサイル艇・魚雷艇・哨戒艇450隻――これに総裁とも盟主とも呼ばれている合衆国オセアニア最高指導者いや南天盟主が保有する、特殊作戦私兵軍――七天艦隊と、合衆国以外のSSTO南天条約機構軍が加わる訳か」
その総兵力は80,000,000、KMFを含めた装甲戦闘車両200,000以上、作戦機20,000以上、主力水上艦艇千数百隻以上、弾道ミサイル数万は下らない。多弾頭弾の存在を考慮すれば100,000余発、アレも相当数の保有が予想される上にこの度の兵器。
考察に考察を重ねながら二人は暫し口を閉ざし、そして沈黙を破ったのは辻であった。
「合衆国オセアニアとその衛星圏、“SSTO――南天条約機構”への脅威度を現在より二段階引き上げ最高指定といたします」
最高脅威度指定。それはかつて嶋田家の嫡男と、ブリタニアヴィ家の双子の兄弟が友誼を結び始める前。
太平洋戦争前夜から日ブ冷戦末期に置けるまでの期間、対神聖ブリタニア帝国向けとして指定されていた最大級の仮想敵に対する特別指定であった。
「妥当だな。中央アフリカ以南、東アフリカやイエメンに展開している南天軍が以前にも増して増強の一途を辿っていることもある。特に中東方面に既に20,000,000を超える恐るべき大軍を終結させている。シナイ半島北部からパレスチナ近辺に存在するだろう遺跡を狙っていることは確実だ。これに対応するという意味でも必要となろう。そして、もしも本当に“アレ”を開発実戦に投入してくることがあるようならば、こちらも最早いままでのような甘い対応を取っては居られぬことになろう」
「心得ております。F号兵器――ブリタニアと我が国、そして確実に南天も保有しているこれを突きつけてでも、アレの乱発は止めさせます。アレは大気を汚染する。あんな物を乱発されてはこちらも間接的被害を被ることになりましょうからな」
knightその1 危険性と、危機的なる可能性
2019年8月4日
「国境線を睨む進撃ルートの待機兵力は現在2,000,000を突破しました」
忠実なる部下にして大清連邦軍の将――曹(ツァオ)の言葉には若干の焦りが見えていた。
要因は一つしかない。
「高亥様、誠に申し上げにくいことなのですが、このまま延々と待機状態を続けさせれば兵も疲弊して参りますうえに、我が清国の財政力が持ちませぬぞ」
「兵站に財力に、あらゆる方面で保たぬか」
中華連邦から独立してよりまだ僅かなとき。事実上の計画進行と独立が10年前からだと考えても、北方のE.U.ユーロピア共和国連合との国境線沿いに2,000,000もの兵力を貼り付けているのだ。
ロボットではない生身の兵には衣食住が必要だ。それらに掛かる経費も財政を圧迫し始めている。
「予備役召集まで含めた兵力は2,500,000」
シベリア仕様の兵装で固めた総兵力2,500,000という大軍は、未だ一兵たりとて清欧国境線を超えていなかった。それは無論のこと大清連邦の国家指導部となった8人の大宦官が進撃命令を出していないからだ。
「竜胆8艦にガン・ルゥ1200騎、戦車3400両、装甲車両4000両。ただそこに置いておくだけでも国家予算を圧迫する兵力よの。加えてまことのKMFたるジェンシーも300騎ほど攻略予定地のチタやウランウデを臨むキャフタより直近の南の地点と、海拉爾近郊に待機させたまま」
以上は陸のことであり、海は清国ただ1隻の航空母艦黒竜江と、その護衛・補給艦艇27隻から成る大艦隊が、海参からオホーツクへと入る予定だった。
空はS-20戦闘攻撃機60機全機と、旧式の第4世代機S-10戦闘機300機が待機。黒竜江に搭載された最新鋭のS-31型ステルス戦闘機も加えれば戦闘用航空機だけで400は下らない機数である。シベリア攻略に掻き集めてきたこの膨大な戦力を持て余すなどあってはならないこと。
その通りあってはならないことなれど、高亥にも進撃命令を出せない事情があったのだ。
「陸も待機、海も待機、空も待機、待機待機待機、総てが待機だ。そうしているのも珍しくも己が意見を主張してきたあ奴等の言あってのことであるが、愚かな選択を選んでしまったのではないのか私は」
本当ならここまでの兵力・戦力をシベリア南部攻略に割く予定は無かった。
本来ならばもう5月初旬から6月に掛けての侵攻予定で堅め、備えていた軍に、清欧国境を突破させていたはずだった。
しかし事はまだ動かずに、徒に時間だけが過ぎていく。なんの動きもないままに。
これまであった動きなど、清国の属国高麗が援軍として兵を送ってきただけ。それとて使い物になるのかどうかも怪しいような。
ただ異常なほどに高麗の高官は自信たっぷりであった。それがまた高亥の琴線に引っ掛かる。
「時間は敵……高亥様のお言葉を他の宦官様方はご承知の上で未だ事に移らない。なにか他に行動に移さない方針をお取りになる理由などお持ちなのでしょうか?」
万が一となる清国の後方たる中華連邦からの侵攻に備えて、ある程度は東モンゴル軍区や大清軍区西方に兵力を固めていたが、副官とも云うべき曹の困惑に対し、高亥は“中華の清国侵攻は無い”と、そう断言しきっていた他の7人の、贅のための努力ですらもらしい努力をしてこなかった宦官達の自信に満ち溢れた顔を思い出していた。
※※※
それは六カ国協議による清国独立が現実の物となり、E.U.ロシア州領シベリア侵攻が見えてきた頃のことだった。
『中華から後背を突かれる恐れは万に一つもないじゃと?』
清中国境の防備は最低限でよい。我が国は全戦力を以てシベリア侵攻に当たるべし。自身を除く7宦官の意見は、軍制に疎い高亥でもおかしいと考えさせるに値すべき意見であった。
『なぜお主達はそのように断言出来るのだ? 我らがどれほどに中華より、そして西モンゴルより恨まれておるのか知らぬわけでもなかろうに』
中華連邦の中心、中華帝国は、政治を私物化し、天子を蔑ろにし、国土を引き剥がしていった大宦官を怒りの目で見ている。
天子派と宦官派と呼ばれる、国を二分した政治勢力を生み出してしまった事だけでも、大宦官許し難しという考えで纏まっていた。それだけ好き勝手にやりすぎたということだが。
宦官派はその天子派との政争に敗れたことで自らの身を案じ、10年の昔より進めて来た独立計画、中華東北部と東モンゴルを領土とする新国家樹立を実現させたのだ。
そう、そしてその東モンゴル軍区がまた一つ問題の種となっていた。
中華連邦モンゴル軍区は一つの軍区――国であった。それを宦官の介入によって東半分、中心都市――首都であるウランバートルまで奪われてしまう形で、東西分裂という憂き目にあってしまったのだ。
残された正当なるモンゴル――西モンゴルは大いに怒りを露わにしていた。その怒りは協議の中核を担った中華帝国に向けられつつも、最たる原因を作った宦官と清国に対し向けられる事となる。
『我らモンゴルの民が開発し築き上げてきた土地を略奪せし宦官共を許すなッ!! 皆今こそ一丸となりて失地奪還を成し遂げるときだッ! 立ち上がれッ我がモンゴルの青き狼たちよッ!!』
連日のように続く西モンゴルの“失地奪還”の声は、ニュースを通し、また中華内部に残る宦官派の人間を通し、高亥の耳にも入っていた。
贅を尽くす。唯その為だけに努力を惜しまない高亥は、この動きが危険であると察知していた。いや余程の馬鹿でもない限り楽観視などできまいて。
何故ならば西モンゴルの主張を中華帝国が無視すれば、緩やかなる連帯で繋がった大国中華連邦の崩壊に繋がる恐れもあるからだ。
中華連邦とは、まず中華帝国という大国を軸に、中華帝国と双璧を為すインド帝国、続きペルシャ帝国といった、精強な国々を中心にして成り立つ連邦国家だ。
そんな国家体制でありながら、中心も中心の中華帝国が弱腰で頼りにならないとあっては、中核軸が中華帝国にも引けを取らないインド帝国へと移り、インド連邦となってしまう事だろう。
また場合によりけりながらも、四分五裂。中華帝国、インド帝国、ペルシャ帝国、中央アジア、インドシナ、と分裂に次ぐ分裂を経て、それぞれが独立した国となる可能性すらある。
そうなってしまえばもう彼の国に未来は無い。南側諸国、通称南天という強大な国家勢力の侵略を受け、従属国とされてしまう事だろう。
南天、この恐るべき国家勢力は単独で中華連邦を簡単に降してしまう力を持っている。もし中華が南天という巨大勢力と戦うのならば。
「大日本帝国、神聖ブリタニア帝国、いずれかの内1国でも同盟勢力として引き入れねばならぬ。まあ、またそれは別の話よな」
以上の理由からも、中華崩壊を阻止する裏の目的のために、失地回復ならぬ失地奪還を叫ぶ西モンゴルに突き動かされる形で、清中(中清)戦争は将来的に起こりうると、高亥は考えていた。
これを見越した上でのシベリア南部奪取作戦だ。まだいずこの国も、E.U.ユーロユニバース自身ですらも気付いていないサクラダイトの大鉱脈が眠る地の。
この世界ではエネルギーの中心に必ずサクラダイトがある。万能資源とも呼ばれるこのサクラダイトの有り余る力を使い、隣国日本は並々ならぬ技術力と共に、技術の日本と呼ばれる世界第二位の超大国へと登り詰めた。周辺地域に顔を利かせる程度の“単なる大国”ではなく、世界中に影響力を持つ“超大国”にまで。
その上で技術力などあらゆる要素が加わり、日本はその名に恥じぬ戦果をいま現在に至るまでの期間に叩き出してきた。
無論さすがの高亥も、日本と同じ道を歩めるとは考えてはいない。日本は異常すぎるのだ。日本はあの世界最大最強にして、一国でも世界征服が可能なのではないかと言わしめるほどの国力と軍事力を誇る強国――神聖ブリタニア帝国と全面戦争を展開して、尚かつ引き分け・停戦講和に持ち込んだ歴史を持っている。
いや表現を変えよう。第一位のブリタニアのみ停戦講和で終わりを迎えたが、逆に云うなら、その他の日本に挑んだ大国中小国は軒並み叩き潰されていたのだ。
かつて中華連邦もその力と技術力、現代では“技術の日本”として称される超大国へと駆け上がる前の日本に叩き潰されていた。インドも含めた中華全体がちっぽけな島国とばかりに侮っていた日本に海軍を丸ごと壊滅させられたのだ。それはもう当時世界を駆け巡った衝撃といえば、それは計り知れない物であったろう。
故に日本等目指そうとしても無理がある。井の中の蛙大海を知らず……その蛙ではないのだ、高亥という男は。
その大海に、敢えて挑発的態度を協議の場で採ったのは、日本が介入して来るのではないのかといった懸念を抱いていたからという、彼個人の思惑もあった。
蛙的な態度を見せて相手の反応を窺う。まさに駆け引きだった。結果として掴んだ感触は、日本に害がなければ介入せずを貫き通すだろうというものだった。
故に対中・対欧にのみに的を絞って物事を進めている。中華やE.U.が容易に手出しできないくらいの国にこの清国を育て上げる。それが高亥の当座の目標であった。
その為の戦争を前に後背も見ておかなければならない。いま清国はそんな状況下に置かれていた。
しかしそれを気にしなくて良いと7宦官は云うのだ。訝しむ高亥に、7人のリーダー格たる肥え太った男――趙皓(ジャオ・ハオウ)は、余裕を垣間見させる笑みを浮かべて、清国建国の事実上の主幹である男に対して口を開く。
『ホッホッホッ何を急いて居るのだ高亥よ。中華の介入はこれを無いと言ったら無い。そなたが奔走していた間、我らとてただ無為無策のままに時を送り来た訳では無いのじゃぞ。結論から申すのならば中華は動くに動けぬよ。遠くインド・ペルシャまでものう~。ホッホッホッホ』
インドもペルシャも動けない、否、動けなくなる――嗤う度に揺れる趙皓の腹に付いた脂肪に嫌悪しつつも高亥は訪ねた、その真意を。
『なぁに、簡単な事よ。中華が動けなくなる――は、正しくないの。正しくは中華もE.U.も、そして日本もブリタニアも、いずこの国であろうとも動けなくなる大きな事件がそう……近日中に起きるからじゃ。ホッホッホッホッ、楽しみにしておるがよい。その時こそが我ら清による北進の時来たれりとなろうぞ』
※※※
「ま、まさか高亥様はその趙皓様のお言葉を信じられたのですか?!」
「信じずにはおられまいて。あの欲しがるだけの怠惰な豚が珍しくも自ら動き、成功裏にシベリア攻略は達成なると豪語しておったのだから。まあここまで時のずれ込みが起きようとは想定外であり、自らの判断を恥じたのじゃがな。お主は耳を疑うやもしれぬが、私の申して居ったある事件とはその事なのじゃ。なにかを、世界を震撼させる何かが起きるのだろうの。それが吉と出るか凶と出るかはわからぬ。が、シベリア南部獲得が間違いないというのならばたとえ凶であろうとも此度の掛けのみは乗ってやることに決めたのじゃ」
怠惰な豚。趙皓をそう蔑む高亥は、間もなくその豚の言葉の意味を知る事となる。
※※※
「しかし態々ばらして持ち込まねば成らんとは不便じゃわい」
とても長い顎髭を蓄えたモノクルをかけた老人が、目の前で行われているトレーラーへの積み込み作業を見遣りながら不満を零していた。
「しかたないでしょー。本体そのまま運んでたらおっかなーい国二つにあっさりと見つかっちゃうよーん」
「どのみちお前さんのギアスで見えんじゃろうが」
「ふっふっふ、まーね」
老人の態度に、まるで馬鹿にしたように指摘したのは老人と同階級にして、選任の男であった。
七三分けの黒髪に厚淵眼鏡。笑っているよーで、見開いた目は魔物を思わせる凶暴な瞳を持つ男性。
通り名を共に老人はプリースト、男性はビショップといった。それがそのまま彼等の階級である。
ルーク、ビショップ、ジェネラル、プリースト、南天に君臨せし神に仕える大幹部の特別階級であった。
「ふん、よういうわ。ミッシングリンクだか何だか知らんが、あんな面白くも何ともないものを作らせおって。ただの毒物撒き散らす高熱の広範囲掃討爆弾じゃろうがあんなもの。儂はのう。儂の理論で作り上げたKMFが活躍するその姿が見たいんじゃ!! ブリタニア中央学会のクソ共に儂の正しさを示してやりたいんじゃッッ!! だというのにあんな強力な爆弾を搭載したホーリーとミトラスを発射しては活躍させる場その物がのうなるではないかッッ!?」
「あっはっは、あんなものっていうけれどねえ。それこそ僕らの、総裁の欲していたミッシングリンクの産物の一つなのさぁ。叡智のギアス――老体、君が持つそのギアスのね。ハッキリ言うがご老体。僕らは君の欲得満たしのために君に力を貸し与えてるわけじゃあないんだ。あくまで重要目標の一環として君の目的も叶えさせて上げようってだけでね。そこを忘れちゃいけないよ」
「……むう、わ、わかっとるわい。やるべきはやる。拾って貰った恩は忘れとりゃせん」
実際はどうかわからない老人、プリースト――南天全域の国防長官を兼ねている老人は。まずは“陸上発射型の”ホーリーを高麗のロケット部隊に混ぜていく。
続けて“潜水艦発射型の”ミトラスを高麗製潜水艦に搭載して海参にまで廻航させていく手配を取った。
「両方共に発射ボタンは高麗の偉大なる大統領閣下に渡してある。時を合わせて祝砲を挙げよとな。その瞬間にもシベリアは陥落したも同然じゃわい」
プリーストの言葉に。
「使用弾頭数は3乃至4。前衛展開部隊と後方待機の後詰めに対し各1。ユーロピア極東行政を担うヤクーツク近郊に1。そして中華連邦モンゴル軍区に程近いイルクーツクに1。列強高麗の国際的虐殺デッビュー……ではあるけど、ま、期待してない隠れ蓑だよ所詮は。日ブへの牽制球、実態はこんなとこだ。あとは……ユーロピアに進退決めさせる意味での打上げ花火だよ。ユーロブリタニアとの融和だなんて今更そんな裏切りが許されるとでもっていうね」
「ホーリーⅡとミトラスⅢに搭載した弾頭の起爆実験も兼ねてのぅ。劣った新人類の白豚共には大気圏外から襲い来る攻撃への対処法なんぞありゃせんから撃墜される心配はない。これほど楽な実践を兼ねた実験もないわい」
ビショップは返す。
「ああ、あと僕はまた日本に帰るから」
「ふん、お前さんも忙しいの」
「あっはっは、僕、かくれんぼ得意だから世界中色々回されちゃうのさあ。ああ、ジェネラルはいまイラクに向ってる。イラクを焚き付けにね。イラク社会主義共和国は政体こそ違えども我が南天傘下の国だからねえ」
「極東・中東同時に動かすか」
「隠れながら、ね。南天の中でも大きく動くのはイラクでありイエメンであり東アフリカ。そして極東は清国であり高麗だ。対戦相手も中東であり、ユーロピア極東である。持ち込んだホーリーだってミトラスだって“高麗が開発したもの”ってことだからね一応、弾頭も含めて……。ま、もっとも場合に寄りにけり、展開はいつでも変わるけどね」
世間話の区切りでも付けるかのように笑い顔の男は付け加える。
「中東はまあ二分の一かな。リヤド付近までの北サウジ以北がイラクの取り分で共産化、ただし遺跡のあるシナイ北東部からパレスチナはこちらが戴く。次いでイエメンや東アフリカに集結させたSSTO軍による物量での電撃侵攻と内部革命の誘発。最後に南サウジとオマーンやバーレーンといった湾岸諸国の王政廃止と民主共和党体制による民主共和制原理主義化、それでおしまい」
「あっさりとしておるな。お前さん、戦争は好きじゃないのではなかったんかいのう」
「戦争は好きじゃないよーん。ただ、KMF戦って心躍らない?」
「ひょほほほほっ、そこは同感じゃなア。さてブリタニア中央学会と皇帝と嚮団元嚮主V.V.――クソッタレの双子の小僧共にも序でに復讐開始といくかなア」
邪悪な笑みを浮かべるプリーストの脳裏には何が描かれているかは、まだ誰にも分からない。
「僕はまあ日本ですこーしジャップ共と遊んでくるよ。シベリアの混乱に乗じるか。丁度勇敢にしてお邪魔虫なマリーベル皇女の訪日に合わせて一つゲームでもしようかなあと。ふっふっふ、心に思い描く恐怖の心象、心に抱く恋の像、現実に出逢った二人、引き裂かれる皇女様と駄目なる男の悲劇。いいオペラになると思うんだよねえ。グリンダ騎士団の長の心が砕ける瞬間は」
ビショップは悲劇を想像して無邪気に笑う。
「ああ、そうだ。連絡しておかないと」
そうして部隊作りの要員の手配を始めた。取り出した通話装置に番号を入れる。
ピー・ピー・ピー
正しく入力された番号。呼び出しコールは鳴り響き。
『はい。ビショップ様』
「やーやー僕だよ、キミ、いま手空いてる?」
『は、任務は今はありません』
「丁度良かった。じゃあキミに任務を一つ。ああ、盟主からの任務が途中で入ったならそっちを優先してね」
『はい。では任務とは』
「日本で悲劇を一つ作って貰いたい。幸せの絶頂から絶望に落ちる瞬間を演出して貰いたい。出来るね?」
『ビショップ様の御命令とあらば』
にいっと笑みを深めたビショップは、これは序でにと付けて。
『可能なら悲劇をもう一つ――こちらのクエストは達成されればキミは三階級特進でケルビムの地位は間違いないよ』
ではもう一つの依頼の内容を。それは、それはねえ……。
――超大国の優しい優しい元大宰相と、長い金髪と黄緑のマントを風に翻す若き乙女騎士の永遠の別れの演出だ――
どちらか片方でいい。大宰相をやれれば文句なしだが、女騎士の方でも充分だ。
それじゃあ成田で会おうか。
ヴァーチャーズ・キル・ワーカー。
どのカップリングの恋愛が見たいですか?(いずれもそれぞれに書いております・また書いていきます。新しいカップリングも増える可能性あり。
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嶋田繁太郎×モニカ・クルシェフスキー
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嶋田繁太郎×ユーフェミア・リ・ブリタニア
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ジェレミア×ヴィレッタ・ヌゥ
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コーネリア・ランペルージ×ギルフォード
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鳩川雪夫×ストーカー女(書けたら(-_-