「吉井!雨宮!坂成!戻ってき……坂成?」
明久達と共に来た篠笥を見て訝しんだ表情を見せる須川。
(因みに真理はもう既に下ろしている)
「詳しい事情は後で話すよ。戦況は?」
「あ、ああ。正直に言うとあまり良くない」
「何だって?」
向こうから本隊が出た様子はない。
それに、明久達が教室に引き返した時、確実に勝てるところまでBクラスを追い込んでいた筈だ。それなのに一体何が起こったのだろうか?
「実は、姫路さん。腕輪の使用で結構点数を消費していてな。
一旦下がるように副官の島田が指示をしたんだ。
それからしばらく島田が指揮を執っていたんだが、いつの間にか島田が人質に取られたんだ」
「はぁ?」
意味が分からない。
何故指揮を執っていて人質に取られるのか?
「とりあえず状況を見に行こうぜ。まずは状況を見るのが最優先だろ」
「それなら前へ行こう。敵はそこで道を塞いでるから」
須川の案内で部隊の人垣を抜ける。
すると、そこには須川の言う通り二人のBクラス生徒に捕らえられた島田及び召喚獣の姿があった。傍には補習担当の講師もいる。
(まずは、様子見かな)
そう考えて一歩だけ前に出る。
「動くな!それ以上動くならこの女を補習室送りにするぞ!」
島田を捕えている敵の一人が明久を牽制する。
どうやら興奮していてこちらの動きに敏感になっているらしい。
こうなっているのは島田のミスだ。
後二人で相手の前線部隊を全滅させることができるというのに島田の所為でそれができない。これがもし普段の戦争だったならば島田を見捨てていただろうがこれは本物の戦争ではない。
だから、できれば無事に助け出したい。
「吉井、俺に任せてくれないか?」
篠笥が舌打ちしてそう言ってくる。
どうやら島田を救出する術を編み出したらしい。
「分かったよ。お願い」
頷く篠笥。
(さて、どんな手を使うのかお手並み拝見――)
「試獣召喚
『Fクラス 篠笥八虎
英語W 89点』
「「「えぇっ!?」」」
突然召喚する篠笥。
そんなことをしてしまえば相手を刺激することになり、島田の身が危険に晒されることになる。
(なのにどうして……まさか!?)
「試獣召喚
最悪の思考に至った時明久は召喚獣を召喚していた。
篠笥の召喚獣は既にBクラス生徒達へ突貫を始めていた。
「間に合え……ッ!」
召喚獣を走らせるなか、明久の頭の中は覚醒していた。
まず、情報を客観的に分析する。
篠笥の召喚獣の装備は手甲。
格闘術を使った戦闘が得意だと推測できる。
召喚獣の走行方法から篠笥が狙っているのは島田の召喚獣の右側の敵だと仮定。
これ等の分析に明久は一秒もかけない。
コンマ数秒ですべての解析を終わらせ次の段階に入る。
次の段階は自分がどうすれば島田を無事に救えるかどうかの検証。
高速で数百というパターンをシミレーションし、ベストな方法を見つけ出す。
(――見つけた!)
シミュレーションで見つけたベストな方法の通りに召喚獣を動かす。
まずは、篠笥が狙っていない(だろうと仮定した)敵へとナイフを投擲する。
「……え?」
相手は召喚獣を一歩も動かすことができずに戦死。
その時篠笥の召喚獣は拳を相手の召喚獣へと突き出す最中だった。
別に篠笥が遅い訳ではない。
篠笥が召喚獣を召喚してからこれまでの間は約二秒しか経っていないのだ。
つまり、明久が速すぎるだけだ。
だが、これで終わりではない。
次の行動はただ一つ。
――明久の召喚獣を島田の召喚獣の前に出すことだ。
明久の召喚獣はダメージを受ければ召喚者にそのダメージの何割かを返す観察処分者仕様になっている。
勿論防御はするがそれでも激痛は走るだろう。
それでも島田を守る為には仕方がない。
そう覚悟を決めた時だった。
「ちっ、やめだ、やめ」
舌打ちと共に聞こえるそんな呟き。
声のする方を向けば篠笥が痒くもないであろう後頭部をかいていた。
「確かに島田を戦死させて補習室に送ろうとしたけどやめだ」
そこまで言うと篠笥は顔を明久の方へ向ける。
「お前は何もしてないのにお前を攻撃するのはおかしいだろ?」
「………」
「俺は一旦下がらせてもらうぜ。さっきから雨宮や坂成の視線に殺気が籠もってて怖いからよ」
そう言って篠笥は真理と達哉が居る方向を指す。
確かに真理と達哉が殺気を込めて篠笥を睨んでいた。
周りに居る生徒も恐怖で体を震わせている。
だが、篠笥はそんな様子は一切ない。
「心にも無いことを言うね」
「ふっ……じゃぁな。本当に下がるわ」
そう言って篠笥はFクラスの教師へと戻っていく。
一方明久は島田の方へ。
「島田さん、大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫よ。助けてくれてありがとう」
島田に手を差し出して立ち上がらせてやる。
その瞬間明久に殺気が向けられた。
犯人は勿論真理だ。
(はは……島田さんに触れるな、と?)
これは後でたっぷりとお詫びをしなければならないだろう。
(はぁ……こうゆう時にシミュレーションが使えたら楽なんだけどなぁ……)
もし、使えたら真理の機嫌を治せる方法がすぐに見つかると言うのに……
明久はため息を吐いた。
その後、四時になったので協定に従い明久達は教室へと引き返した。