「このばかデカイ教室は何なんだろうね、真理」
「高級ホテルのロビーみたいだね、この教室」
明久達が去年あまり足を踏み入れなかった三階に足を踏み入れると、通常の五倍はあろうかという教室が明久達を出迎えた。
『皆さん、進級おめでとうございます。私はこの二年A組の担任、高橋洋子です。一年間よろしくお願いします』
足を止めて、大きめの窓から中を覗いてみる。
大画面のプラズマディスプレイの前に髪を後ろにまとめ、メガネをかけてスーツをきっちり着こなした知的女性代表の様な教師が居た。
「ノートパソコンに冷蔵庫、リクライニングシート、天井は総ガラス製でありながらスイッチで開閉可能と……どこからお金を出したんだろう……?」
「ここって本当に学校なのかな?実はホテルなんじゃない?」
Aクラスの教室を見渡して改めて感想を言う二人。
ここが国立ならば少しは分かるのだが確かここは私立だったはず……
そんなことを考えていると、Aクラス教室の時計が見えた。
短針が8、長針が4を指している。
つまり、今は8:20分。
HRの始まりはクラス毎に違っていて、確かFクラスは8;30からだった筈。
後五分はここに居ても遅刻しないだろうがもしものこともある。
「真理、そろそろ行こうか?」
「うん、分かった」
明久の言葉にそう返事をして真理は明久の右腕に自分の腕を絡める。
その行為に明久は眉を顰めるが、すぐに諦めたかのようにため息を一つ吐く。
学校ではこういう行為を自重して欲しいのだが注意できない。
注意すると真理は捨てられた子犬の様な顔をするのだ。
そんな顔をされたら明久に注意ができる訳がない。
明久は真理と腕を組んだまま歩き始めた。
Fクラス教室前
「ここは教室……なのかな?」
「まるで山小屋だね……」
Fクラスの教室の前まで来たけど……Fクラスの教室は真理の言う通りまるで山小屋の様だった。Aクラスとは違う意味で通常の教室とはかけ離れている。
「ま、まぁ、一応入ってみようか」
「そ、そうだね、中はまだマシかもしれないしね!」
前向きに考えながら明久は扉を開ける。
そして、挨拶を―――
「おはようg『早く入れ蛆y『死ねや、ボケがぁぁっ!』は?ぐはぁっ!』……」
ごく簡単に今起こったことを説明しよう。
明久は扉を開き、挨拶をしようとした。
すると、教壇に居た生徒―――これを生徒Aとする―――が窓側から三列目の一番後ろに座っていた生徒―――これを生徒Bとする―――に殴り飛ばされた。明久と真理はあまりのことに呆然と我を忘れたが、生徒Bが生徒Aに向けて拳を振りかぶったところで明久はすぐに我に返った
「た、達哉!落ち着いて!ほら、拳を下ろして!僕は気にしてないから!」
慌てて明久が生徒Aと生徒Bの間に入る。
生徒Bはすぐに拳を下ろしたがまだ殺気の籠もった眼で生徒Aを睨んでいる。
「だけど吉井さん、こいつ……」
「いいから、落ち着いて」
「……はい」
渋々と言った様子で殺気を霧散させる生徒B。
身長は170cm程。銀の様な白い髪に意志が強く、鋭い瞳に女受けしそうな整った顔。
彼の名は『坂成達哉』。明久に恩がある少年である。
「達哉、僕達の席は?」
「それは今ってないみたいです。皆勝手に座ってますよ」
「へぇ、そうなんだ」
教室を見渡してみる。
ひび割れた窓、教室の隅にある蜘蛛の巣、古く汚れた座布団、薄汚れた卓袱台等々……
「って、机と椅子無いの!?」
「ないです」
「せめてその二つは用意しようよ……」
何かに耐えるかの様にこめかみを抑える明久。
明久程でないにしろ呆れたような表情をしている。
「おっと、すいません、挨拶が遅れました。おはようございます、吉井さん、雨宮さん」
深々と頭を下げる礼儀正しい挨拶。
達哉がこんな礼儀正しいをするのは明久や真理、真理の家族に対してだけだ。
挨拶をすればまだ良い方。大抵の人間に対しては無視をして、嫌いな人間に対してはいきなり殴りかかるなどをする為、文月学園で知らない者は居ない程の有名人となっている。
「うん、おはよう」
「おはよう、達哉君」
達哉の挨拶に二人がそう返した時だった。
明久達の視界の端に生徒Aが起き上がるのが映った。
「くっ……いててて……」
殴られた所を抑える生徒A。
身長は180cm強。意志の強そうな野生味たっぷりの顔。
短く、赤い髪の毛がツンツンとたてがみの様に見える。
「雄二、大丈夫?」
彼の名前は坂本雄二。明久の悪友で、達哉同様文月学園の有名人だ。
「死んだ婆ちゃんが見えたぜ……あのクソババア、手招きしやがった……」
「あはははは……」
雄二の言葉に乾いた笑みを浮かべる明久。
達哉と真理は『……そのまま死ねばよかったのに』などと物騒なことを呟いている。
「ところで、何で雄二は教卓に立ってたの?」
「あぁ、俺はこのクラスの最高責任者でな。先生が遅れてるそうだから代わりに上がってみたんだ」
「それって、雄二がこのクラスの代表ってこと?」
「ああ」
ニヤリと口の端を吊り上げる雄二。
達哉と真理はかなり嫌そうな顔をしている。
「これでこのクラスの全員が俺の兵隊だな」
そう言って雄二が踏んぞり返って床に座っているクラスメイト達を見下ろした時だった。
「えーと、通してくれますかね?」
不意に四人の後ろから聞こえてきた。
そこには寝癖のついた髪にヨレヨレのシャツを貧相な体に着た、いかにも冴えない風体の中年男性が立っていた。
「それと席に着いてもらえますか?HRを始めますので」
学生服も着ていない上にどう足掻いても十代には見えない。
どうやらこのクラスの担任の様だ。
「はい、分かりました」
「分かりました」
「うーっす」
明久、真理、雄二は返事をして、達哉は無視をして適当な席に座る。
担任は明久達を待ってからゆっくりと口を開いた。
「えーおはようございます。二年F組担任の福原慎です。これから一年よろしくお願いします」
福原教諭はそう言って黒板に名前を書こうとして――――やめた。
チョークすら完備されていないらしい。
「皆さん全員に座布団と卓袱台は支給されてますか?不備があれば申し出てください」
不備だらけである。
こんな設備で勉強させるなど一体この学園の創立者は何を考えているのかと思いたくなる程酷い。
「せんせー、俺の座布団に綿が入ってません」
「我慢してください」
「せんせー、俺の卓袱台の脚が折れてます」
「木工用ボンドが支給されてますので直してください」
「せんせー、窓が割れてて寒いです」
「分かりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を要請しておきます」
流石Fクラス。
やはり、酷い。
「必要な物があれば極力自分で調達してください」
「自給自足かよ……」
福原教諭の言葉を聞いてそう呟く達哉。
もう、この扱いは学校としては最低レベルである。
「では、自己紹介をしてもらいましょうか。
廊下側の人からよろしくお願いします」
福原教諭の指名を受けて廊下側の生徒の一人が立ち上がり自己紹介を始める。
「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」
独特の言葉遣いと小柄な体。肩にかかる程度の髪、まるで女子と間違えそうな顔。
明久達の去年のクラスメイトである。噂では既に何人もの男子生徒に告白されたらしいが、秀吉は女子ではなく男子だ。
「……土屋康太」
またもや明久達の知り合いだ。
小柄で無口な少年、土屋康太。
一見無害に見えるが実は色々な意味で危険な男子生徒だ。
「―――です、海外育ちで日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です。趣味は―――」
女子の声だ。学力最低クラスともなると女子はほとんど居ないだろうと思っていた明久にとっては軽い驚きだ。
「吉井明久を殴ることです☆」
「「(ギロッ!)」」
「ひっ!」
今、達哉と真理に睨まれたのは島田美波。
明久が真理と仲良く話していると様々な技をかけようとする危険な女子生徒だ。
勿論、達哉と真理が黙って見ている訳がなく返り討ちにしている。
「坂成達也だ。吉井さん達の邪魔したら半殺し、もしくは殺すから覚悟しろよ」
そんな物騒なことを平然と言ってのける達哉。
クラスメイトの何人かが達哉の言葉に恐怖して怯えたような表情を浮かべたが達哉は『そんなこと知らねぇ』と言うように平然とした表情をして座る。
「雨宮真理です。明久の恋人です」
『『『吉井をころs『テメエ等が死ね!』ぎゃぁぁぁぁっ!』』』
真理の言葉を聞いた瞬間クラスメイト達がカッターを構えて明久に向けて投げようとしたが達哉によって阻止された。
何人か腕があり得ない方向に曲がっている者も居るがそれは自業自得だろう。
そんな色々な騒ぎがあったが自己紹介も遂に終盤。
自己紹介の順番が明久に回った。
「えっと、吉井明久です。趣味は特にありません。よろしくお願いします」
無難な挨拶を終えて座る明久。
その後もしばらく名前を告げるだけの単調な作業が続き、明久達を睡魔が襲った頃に不意に教室のドアが開き、息を切らせて胸に手を当てている女子生徒が現れた。
「あの、遅れて、すいま、せん……」
『えっ?』
誰からという訳でもなく教室全体から驚いたような声が上がる。
それもそうだろう。何せ入ってきたのはこの学年で五本の指に入る学力を持っている姫路瑞樹だったのだから。
今回出てきたオリキャラ紹介
坂成達哉
容姿 銀髪のイケメン
学力 Cクラス程度
得意教科 特になし
苦手教科 特になし
性格 明久や真理の家族に対しては礼儀正しいがそれ以外にはまったく礼儀を尽くさない。
明久が不良だった頃から明久と共に行動している。
明久には恩がある為、真理には明久の恋人だから、真理の家族には明久が敬語で話しているから敬語で話している。