バカとテストと召喚獣と……   作:SSSS

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六話 Dクラス戦中篇

「吉井隊長!横溝がやられた!これで布施先生側は後二人だ!」

 

「五十嵐先生側の通路だが、現在俺一人しか居ない!援軍を頼む!」

 

「藤堂の召喚獣がやられそうだ!誰か助けてやってくれ!」

 

あれから少しして、Fクラスは明久の想像以上に劣性となっていた。

本陣に増援を要請したいがそれをしてしまっては作戦につぎ込む戦力がなくなってしまう為明久達だけで何とかするしかない。

 

「布施先生側の人達は召喚獣を防御に専念させて!五十嵐先生側の人達は総合科目の人と交代しながら効率よく勝負をするように!藤堂は可哀想だけど諦めるんだ!」

 

『了解!』

 

明久は隊長という訳ではないが明久の指示がベストだと判断したのだろう。

明久の指示に従い陣形を組み始める。

 

「Fクラスめ、明らかに時間稼ぎが目的だ!」

 

「何を待っているんだ!?」

 

Dクラスが明久達の意図に気づき始めた。

これにより明久達はさらにやりづらくなる。

 

「大変だ!Fクラスに世界史の田中が呼び出されたらしい!」

 

「せ、世界史の田中だと!?」

 

「Fクラスの奴等長期戦に持ち込む気か!」

 

どうやらDクラスの偵察部隊に、Fクラスのテストの採点でやってきた田中教諭が見つかったようだ。世界史の田中教諭はおっとりとした初老の男性で、その採点の甘さには定評がある。その代り採点には少し時間がかかるが、長期決戦の場合には田中教諭の方が都合がよい。

 

「吉井、Dクラスは数学の木内を連れ出したみたいだ」

 

クラスメイトの須川がそう報告してくる。

数学の木内教諭は厳しいが採点の速さは群を抜いている。

どうやらDクラスは明久達とは対照的に、一気にケリを着ける気らしい。

だが、明久達の作戦の為にもそれをさせる訳にはいかない。

明久が雄二に与えられた仕事は一つ。兎に角前線を放課後まで保つこと。

 

「須川君、偽情報を流してほしい。時間を稼ぐために」

 

「偽情報?構わないけどDクラスの前線部隊長の塚本は声がでかいからすぐにバレるんじゃないか?」

 

須川の言う通り塚本の声は大きい。

その為、相手が混乱に陥りにくい。

 

「大丈夫、対象はDクラスじゃないから」

 

「?なら、誰に向かって流すんだ?」

 

「先生たちに向かって流すんだよ。他の場所に向かってくれるようにね」

 

「確かにそれは効果的だな。分かった。

流す情報の内容は任せてくれ。確実に騙してみせる」

 

「よろしく」

 

須川はそう告げると駆け足でこの場を去って行った。

随分と活き活きしているように見えるが須川はこういうことが好きなのだろうか?

そんな考えが一瞬頭の中にそんな考えが浮かんだが。すぐに消した。

何せ、今は戦争中。そんなことを考えている暇はないのだ。

 

「一対一じゃ分が悪い!コンビネーションを重視して!」

 

そう大きな声で指示を出す明久。

まだ、試召戦争は始まったばかりだ。

 

 

『塚本、このままじゃ埒が明かない!』

 

『少し待っていろ!今、船越先生も呼んでる!』

 

しばらく拮抗した状態を続けていると明久達にとって好ましくない会話が聞こえてきた。

数学の船越教諭を呼んだのは採点目的ではなく立会人になってもらう為だろう。

これは明久達にとってまずいことだ。これ以上戦線を広げられると実力差がよりはっきりと表に出てしまう。そうなると、明久や真理も本格的に戦闘を行わないといけないかもしれない。いや、別にもっと前から戦闘をしても良かったのだができれば戦闘は避けたかったのだ。戦闘をしてしまうとどうしても血が疼き、感情が昂り、『女』を求めてしまう。

そうなると、真理に負担をかけてしまう。いや、真理だけではない。

明久の『女』は真理だけではないのだ。彼女達にはできるだけ負担はかけたくない。

かつて、彼女達は自分の我が儘に付き合い、辛い目に遭った。

それから、明久は決めたのだ。彼女達にこれ以上辛い目に遭わせないと。

だが、このままでは負けてしまう可能性が出てくる。

その可能性を潰すには圧倒的な戦力を使うしかない。

今、それができる姫路と達哉は自分の作戦を遂行している最中。

篠笥は宣言通り試召戦争自体に参加していない。

真理はもし戦死したら補習の間明久と離れてしまい、大変なことになってしまうからできる限り参加はさせたくない。

Aクラス戦では参加しなくてはならない確率が高いがその辺りは大丈夫だろうと明久は考えている。何せ、真理は―――

 

ピーンポーンパーンポーン《連絡致します》

 

聞き覚えのある声で流れる放送。

 

「―――須川君」

 

そう呟く明久。

そう、これの放送は須川の声だ。

直接職員室に行ったらDクラスの生徒に見つかる可能性があるから放送室に行ったらしい。

 

《船越先生、船越先生》

 

呼び出し相手は丁度会話に出ていた船越教諭。

かなりのファインプレイだ。

 

《吉井明久君が体育館裏で待っています》

 

「…………………え?」

 

《生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な会話があるそうです》

 

船越教諭とは生徒からかなり恐れられている教師である。

婚期を逃し、遂に生徒達に単位を盾に交際を迫るようになった。

確かに須川の放送により体育館裏に向かってくれるだろうが明久の貞操は大変なことになるだろう。

 

「吉井、あんた男だよ!」

 

「ああ。感動したよ!まさか、クラスの為にそこまでやってくれるなんて!」

 

前線部隊の仲間達が感動にむせびながら明久に握手を求める。

一応記述しておくが明久はそんな指示はしていない。

 

「おい、聞いたか今の放送」

 

「ああ、Fクラスの連中本気で勝ちにきてるぞ」

 

「あんな確固たる意志を持った連中に勝てるのか……?」

 

Dクラスからそんな呟きが聞こえてきた。

まずい、否定しにくくなってきた。

 

「皆、吉井の死を無駄にするな!」

 

「絶対に勝つぞ!」

 

味方までいい影響を受けてしまった。

これでは絶対に否定できない。

 

「吉井、行けるぞ!この勢いで押し返そうぜ!」

 

「………」

 

「……吉井?」

 

「……す」

 

「す?」

 

「須川ぁぁああああああああああっ!」

 

明久の叫び声が木霊した。

 

 

その頃、達哉は放送室に向かって廊下を疾駆していた。

後のことは全て姫路に任せた為彼がこうしていても全くという訳ではないが問題は無い。

 

「あのクソ野郎め……生まれてきたことを後悔させてやる……!」

 

走りながら忌々しげに呟く達哉。

達哉の殺気の所為か、ハリウッド映画の様に達哉の後ろの窓ガラスが割れていく。

そうして、走ること数分。達哉は放送室の扉の前で立ち止まった。

いや、立ち止まらざるを得なかったと言うべきだろうか。

達哉は感じたのだ。扉一枚の向こうに居る強者の存在を。

 

「(この存在感……明久さんや先代並か……!)」

 

彼の兄貴分の顔や極道界の恐王の顔が浮かぶ。

あの二人に並ぶ存在がこの中に居る。

須川ではないことは分かりきっている。

須川からは大した気配を感じなかった。

ならば篠笥か?

いや、確かに強者であるとは分かったが明久程ではないと感じた。

 

「(震えてやがる……)」

 

強者の存在に振るえる達哉の身体。

こういう経験は今までで二度ある。

一度目は明久と初めて出会った時。

二度目は極道界の恐王と謳われる真理の祖父と邂逅した時。

 

「(おもしれぇじゃねぇか……)」

 

達哉は獰猛な笑みを浮かべ、扉を一気に開け放った。

まず、達哉の目に飛び込んだのは傷だらけで倒れている須川。

まぁ、これはいい。どのみち須川はこうなっていたのだから特に気にすることはない。

気にするべきなのはその須川の近くで須川を見下ろしている少年だ。

身長は大体180前半程度。制服の上からでも分かる引き締まった筋肉。

そして、一番特徴的なのが太陽の光を反射して光りそうな綺麗な金髪。

その少年は須川から視線を達哉に移した。

 

「テメエ、こいつと同じクラスの奴か?」

 

「……そうだ」

 

警戒しながら質問に答える。

もし、一瞬でも警戒を解けば間違いなく須川と同じ目に遭うから……!

 

「そうか……お前はこいつの仲間か……!」

 

少年から放たれる殺気。その殺気を浴びて確信した。

この男は間違いなく明久と同等の実力を持っている。

もし、勝負をしたら勝ち目はない。

達哉は誤解を解くことにした。

そうしなければ自分を傷付けた明久は絶対にこの少年を粛清しようとする。

そうなれば明久もただでは済まない。

それだけは絶対に避けなければ。

 

「待ってくれ!俺は確かにそいつと同じクラスだけどさっきの放送については知らなかったんだ!それに知ってたら絶対に止めた!あの人を貶めようだなんて絶対にしない!」

 

「あ?あの人?お前、『親友』のなんだよ?」

 

「親友?」

 

明久のことを指しているというのは察することができた。

だが、自分はこの少年のことを知らない。

自分は明久と二年の付き合いだがこの少年のことは見たことが無い。

そんなことを考えていると少年は達哉の心を察したのか自己紹介を始めた。

 

「名前を聞くには自分からだったな。親友にいつも言われてたのに忘れてたぜ。

金城舜一だ。親友からは『シュン』って呼ばれてる」

 

「坂成達哉だ。明久さんの舎弟やってる」

 

「舎弟!?あいつ舎弟なんか作ったのかよ。あいつ『絶対に舎弟なんか作らない』って言ってたのにな。やっぱり二年って年月は人を変えるのかねぇ……」

 

そう言ってぶつぶつと色々呟き始める舜一。

達哉は自分の疑問を解決しようと試みた。

 

「金城っつたか?お前、端的に言えば明久さんの何なんだ?」

 

「あいつの親友である俺には敬語なしなのな……

俺はあいつの元ナンパ仲間みたいなもんだ。

二年前に引っ越してこっちに戻って来たのさ」

 

そう言えば聞いたことがある。

達哉が明久と知り合う少し前まではかなり気のおける親友が居たと。

色々な事情があって今は離れているがそろそろこちらに戻ってくるだろうと。

 

「あんたのことだったのか……」

 

「あいつが俺のこと何て説明したのか知らねぇけどあいつ、友達少なかったから多分俺のことで間違いねえよ」

 

「友達が少なかった?」

 

明久は友達の為には何でもできる男だ。

そんな男に友が少なかったなどあまり信用できる話では……

 

「あいつ、友達の為には何でもしたけど敵を作りやすかったからさ……」

 

納得ができた。

確かにそうかもしれない。

 

「それで、俺は誓った訳よ。あいつの敵は俺の敵。

どんな奴が相手でも嬲り殺してやるってさ」

 

「……そうだな。俺も同じことを誓ったよ」

 

去年、あの事件が起こった時。

明久は言ってくれた。

 

『俺の親友やその幼馴染を傷付けるような奴はどんな奴でも潰してやる!』

 

あの時自分も舜一と同じことを誓った。

 

「はっ、悪い。お前は船越対策の為にここに来たって言うのに色々なこと聞かせてよ」

 

舜一の言葉でここに来た理由を思い出す達哉。

 

「そうだったぜ。ちょっと、悪い」

 

そう言って放送室の機材の操作を始める達哉。

そして、操作を終えて達哉はマイクに向かってこう言い放った。

 

「船越先生、先程の放送は嘘です。代わりに須川を放送室に置いておくんで好きに使ってください」

 

そう言ってまた機材の操作を始める。

そして、それを終えると達哉は須川に近づき、上着を脱がしてそれを器用に使い縛っていく。

 

「これでよし」

 

作業を終えて立ち上がる達哉。

最後に舜一に向けて頭を下げる。

 

「明久さんの為にありがとう」

 

「止せよ。照れるだろ」

 

そう言って頬をかく。

達哉が顔を上げると舜一は明後日の方向を向いていた。

 

「それじゃ、俺は戦線に戻るぜ。ほんと、手伝ってくれてありがとな」

 

そう言って扉へ向かって歩く達哉に舜一が声をかける。

 

「感謝してるんだったら親友にこう伝えてくれ『準備は全て整った』ってな」

 

舜一の言葉の意味は全く分からなかったが達哉は頷き、扉を開けた。

向かうは戦線の前線。

戦争はまだ続いている。

 




5/8 物語の辻褄を合わせる為に少々修正しました。
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