ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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早く投稿出来ました(^O^)
今回は、これでエピローグですね。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


咎神の騎士Ⅺ

 正月休み真っ直中にもかかわらず、羽田空港の旅客ターミナルは混み合っていた。 丹沢上空で発生した謎の暴風の影響で、航空ダイヤが乱れたせいらしい。

 帰省客や観光客が慌ただしく行き交う出発ゲートの片隅で、煌坂紗矢華は、小さな縫いぐるみを抱いていた。 すらりとした長身に、キーボード用の黒い楽器ケースが似合っている。

 黙って立っていれば、誰もが振り向く程の優美な容姿の持ち主だが、今は周囲の人々全員が、彼女を避けるようにして足早に通り過ぎていく。 紗矢華が、縫いぐるみ相手に必死で語りかけていたからだ。

 

「お、終わった……!?」

 

 手にした縫いぐるみの瞳を見つめて、紗矢華は呆然と呟いている。

 傍目には猫の縫いぐるみに見えるし、実際、材質的にはその通りなのだが、猫はれっきとした式神だ。 操っているのは、縁堂縁。 紗矢華の師匠に当たる魔術師である。

 紗矢華は彼女に呼びつけられて、遠路はるばる羽田までやって来た所だったのだが、

 

「師家様!? 獅子王機関三聖の勅命じゃなかったんですか? 事件は片付いたから、もういいってなんなんです!? こっちは謹慎明けで、ようやくもらえた休暇を潰してここまで来てるんですけど!? 来てるんですけど!?」

 

 喚き散らしながら、紗矢華は縫いぐるみを揺さぶった。 猫の首に縫いつけられた小さな鈴が、チリチリと軽やかな音を立てる。

 しかし縫いぐるみの応答はない。 式神の制御を解除して、通話を一方的に打ち切られたのだ。

 

「──って、師家様? ちょ、逃げないでくださいよ、師家様!」

 

 あの女ァ、と地団駄を踏みながら紗矢華が絶叫した。

 そんな紗矢華の細い肩が、背後から誰かに叩かれる。

 

「おーい、奇行に走るのはその辺にしとけよ。 あんたはただでさえ目立つんだから……」

 

「げっ、お、男っ!?」

 

 振り返る紗矢華の背後に立っていたのは、髪をツンツンに逆立てて、首にヘッドフォンをぶら下げた男子高校生だった。 紗矢華は本能的な動作で、彼の顔面に肘打ちを叩きこもうとするが、彼は軽く後退しただけで、その攻撃をいなしてみせた。

 紗矢華は思わずカッとなり、懐の呪符に手を伸ばそうとしたが、少年の顔に見覚えがあると気づく。

 

「あなた……暁古城たちの友達の……」

 

「矢瀬基樹だ。 いい加減、名前くらい覚えてくれてもいいんだぜ、煌坂さん」

 

 馴れ馴れしい口調で基樹に呼びかけられて、紗矢華は殺意を覚えた。

 それでも頰を引き攣らせながら、なるべく平静な声を出す。

 

「……魔族特区の住人がこんな所に何の用? 観光客には見えないけど?」

 

「たぶんあんたと同じだよ」

 

 基樹が苦笑交じりに肩を竦める。

 

「うちの幼馴染のじゃじゃ馬が、絃神島を飛び出してったからな。 様子を見に行こうと思ったんだが、追いつく前に祭りが終わっちまってな」

 

「なにそれ。 ストーカーってこと?」

 

「隠し撮りの写真を待ち受けにしてる子に言われたくねーなー……」

 

 そう言いながら基樹が取り出してみせたのは、獅子王機関に支給された紗矢華のスマートフォンだった。 つい最近まで謹慎を理由に没収されていて、ようやく返してもらったばかりのものだ。

 ロック画面に表示されていたのは、登校中の雪菜の写真。 雪菜の隣には、若干見切れ気味の古城の姿も映っている。

 

「ちょっ……わ、私のスマホ! なんであなたが……!?」

 

 いつの間に取られたのか、と混乱しながら、紗矢華は背中のケースに手をかけた。

 ケースの中に収められているのは、攻魔師権限で機内持ち込みを認めさせた銀色の長剣。 制圧兵器である“煌華麟“だ。

 

「き、斬る!」

 

「待て待て! 返す! 返すから!」

 

 周囲の通行人の目を気にしながら、基樹が慌ててスマホを突きつけてくる。

 紗矢華は顔を真っ赤にしながら、そのスマホを受け取って、

 

「い、言っとくけど、この待ち受け画像は雪菜がメインで、背景に映ってる通行人なんて全然興味ないんだからね! むしろ汚点だと思ってるから!」

 

「へいへい」

 

 見透かしたような表情で基樹が投げやりに頷いた。

 紗矢華は涙目で彼を睨みつけ、

 

「用が済んだんなら、さっさと絃神島に帰るか、地獄に落ちるかしなさいよ!」

 

「帰りたいのは山々なんだが、ちょっと気になるものを見つけちまってな──あんたにここで騒がれると、連中が警戒しそうで困るんだよ。 少し静かにしててくれ」

 

 頼むぜホント、と基樹が言ってくる。 どうやら基樹が声をかけてきたのは、紗矢華に不用意に目立たれたくない、という理由だったらしい。

 つまり、獅子王機関の舞威媛に見られると困る人々が、この近くにいる、という事だ。

 

「連中って……彼らのこと?」

 

 基樹の視線を追いかけて、紗矢華は空港の貨物積み卸し場に駐まった航空機に目を留めた。 貨物機仕様の小型ジェット旅客機だ。

 貨物の積み替えに当たっての検査中らしく、機体の周囲に技術者らしき人物が集まっている。

 その検査官の中に見知った顔を見つけて、紗矢華は、おや、と目を瞬いた。

 

「暁古城のお母様……?」

 

「なんだ、知り合いだったのか」

 

 基樹が少し意外そうに聞き、紗矢華は無言で頷いた。 よれよれの白衣を着た眠そうな顔立ちの女性、暁深森。 紗矢華は彼女と、MAR社のゲストルームで遭遇したことがある。 ふわふわした頼りない童顔とは裏腹に、深森はMAR医療部門の主任研究員なのだ。

 

「あの機体、MARがチャーターした貨物機だ」

 

 基樹が、自分の耳元に手を当ててぼそりと言う。

 

「貨物室の中身は北海道から運んできた、って建前になってるが、あれの出所はもっと北だな」

 

 こりゃ、あの人相手では悠斗は大変だな。と、他人事のように言う基樹。

 

「北……って、もしかしてモスクワ皇国ってこと? 聖域条約非加盟国のはずだけど……」

 

 紗矢華が表情を険しくした。 ユーラシア大陸北部に位置するモスクワ皇国は、広大な領土と豊富な地下資源を持つ大国だが、日本との交流は殆どない。“聖域条約”に非加盟の彼らは、国際的な経済制裁の対象国だからだ。

 

「だからこんな所でコンテナを広げてるんだろ。 人道支援って扱いにしとけば、相手が経済制裁対象国でも難病の患者の受け渡しはできるし、魔族特区の検疫よりは、羽田の方が緩いしな」

 

「……難病の患者?」

 

 具体的な基樹の言葉に、紗矢華は不審なものを感じながら目を凝らした。

 

「密輸すれすれじゃない……MAR程の企業がそこまでしていったいなにを……」

 

 機内に貨物が運び込まれる直前、コンテナの扉が開いて一瞬だけ中身が外気に晒される。

 それは、氷の柩のような青いガラス容器に収められていた。 眠り続ける、美しい少女だ。

 

「女の……子?」

 

 紗矢華が困惑に眉を寄せる。

 少女を保護する容器には、彼女の素性を示す単語が、短く、一言だけ刻み込まれいた。

 ――――巫女(シビュラ)、と。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 獅子王機関が用意したヘリが、古城たちを迎えに来たのは、日没近くになってからだった。

 迷惑をかけたお詫びという事で、古城たちは、絃神島まで送り返してもらえる手筈になっている。 魔族特区から本土への密航もなかった事にされたらしい。 もちろん、古城たちとしても文句があろうはずもない。

 悠斗は、それにしても。と前置きをし、

 

「今回の事件で、凪沙に二つ名がつけられるとは」

 

 凪沙の二つ名。

 それは――、

 

「う、うん。――“紅蓮の姫巫女”だって」

 

 そう言って、凪沙は嘆息した。

 ちなみに、悠斗も“氷結の織天使”の二つ名がプラスされたのだった。……まあ、本人は知らないらしいが。

 

「ま、まあ、二つ名って知らない内に広まってるしな。 き、気にすんな」

 

「だ、大丈夫だよ、悠君。……凪沙、色々諦めてるから」

 

「そ、そうか。――さ、さて、絃神島に帰ったらの予定でも話すか」

 

 悠斗は、現在の話題を逸らすように言った。

 

「えっと。 結瞳ちゃんとの写真撮影だっけ?」

 

「だな。 ちなみに、凪沙たちは振袖で、俺は袴でもある」

 

「OKだよ。 楽しみにしてて」

 

 ともあれ、ヘリの中に乗り込む、悠斗と凪沙。

 ちなみに、出島手続きを済ませて来た浅葱は、正規の飛行機で帰る為、本土のブランドショップや、化粧品店などを回り、商品をがっつりと買って行くらしい。 リディアーヌは、ディディエ重工の回収機を待ち、イブリスベール・アズィーズはいつの間にか姿を消していた。

 古城と雪菜に限っては、いつもの夫婦喧嘩をしていた。 古城が、雪菜に化けたグレンダの血を吸ったとか何とか。 ならば古城は、裸のグレンダが血の記憶で再現した、裸の雪菜の血を吸ったという事になる。

 悠斗と凪沙は、そんな光景を見ながら、

 

「……古城って、色んな意味で苦労するな」

 

「……うん、そうかも」

 

 そう言ってから、悠斗と凪沙は溜息を吐くのだった。

 椅子に座った凪沙と悠斗は目を瞑り、繋がる(リンクする)先へ意識を落とした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 地に足をつけた悠斗と凪沙は、不思議な空間の中にいた。 四方形の空間の中だ。――悠斗と凪沙が目を開けると、そこには神代一家が居た。

 悠斗は目を見開き、

 

「……父さんと母さん。 姉ちゃんも」

 

 優白と朱音はにっこりと微笑み、龍夜は頷いた。

 

『久しぶりね、悠斗』

 

『悠斗のこれまでの事は、凪沙ちゃんから大まかに聞いたよ。……大変だったんだね』

 

『ごめんな。 辛かっただろ』

 

 悠斗は首を左右に振り、

 

「……まあ辛い時期も在ったけど、今はそうじゃない。 俺の隣には凪沙がいる」

 

 凪沙は、悠斗の左腕を抱きしめた。

 

「うん、凪沙と悠君はずっと一緒。 離れ離れはダメだよ」

 

 悠斗は、ああ。と頷き、凪沙の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

『凪沙ちゃん。 これからも悠斗をよろしくね』

 

『私からもお願いね、凪沙ちゃん。 それと、朱雀との融合が可能になってるから、必要な時に使ってあげてね』

 

 でも、間違った使い方はダメだぞ。と、朱音は付け加える。

 

『既に知っていると思うが、青龍、白虎、玄武の召喚も可能だ。 朱音も言ったと思うが、四神たちの力は、世界を還る事もできると言われてるんだ。 間違った使い方だけはするなよ』

 

「うん、わかってる。 心配しないで」

 

 凪沙が頷いたのを確認してから、悠斗が口を開く。

 

「んじゃ、俺たちは現実世界に戻るな。 てか、父さんたちはこれからどうなるんだ?」

 

 眷獣の手から離れた残留視念()が、これ以上現世に留まる事は不可能だろう。

 もし可能だとしても、神代一家の魂留めている凪沙の負担が多大なものになってしまうだろう。

 

『オレと母さんは、消えるな』

 

『でも、悠斗の顔を見れただけで満足だわ』

 

『私は、凪沙ちゃんとアヴローラとの魂と相性?が良いらしくて、残る事が可能らしいの。 魂の負担も無いに等しいらしいわね。 でも、色々大変かもだし拒否してもいいわよ』

 

 凪沙は、ぶんぶんというような勢いで、左右に首を振った。

 どうやら、凪沙の答えは決まっていたらしい。

 

「てことは、凪沙が姉ちゃんで、姉ちゃんが凪沙?って事になんのか?」

 

『んー、ちょっと違うわね。 悠斗は眷獣融合の時、個々の意思を持ってるでしょ』

 

「なるほど。 姉ちゃんは凪沙の中に居るだけってこと」

 

『たぶんそんな感じかな』

 

 という事は、凪沙の意思で、朱音の意識のON、OFFが可能。という事だ。

 

『そろそろ時間だ。 悠斗、お別れだ』

 

『母さんたちは、天から、悠斗と凪沙ちゃんを見守ってるわね』

 

「ああ。 よろしく頼む」

 

「見守ってて下さい。 お義父、お義母」

 

 そうして、優白と龍夜の魂は天に昇るように浄化し、悠斗と凪沙は目を閉じ、眠りに就いた。

 こうして、今回の一件は幕を閉ざしたのだった――。




こ、これで凪沙ちゃんも真祖と同等やで。……まあ蓮夜君と美月ちゃんも何ですけどね(笑)
まあ、今回の話もぶっ飛んでたかもですが、書いて後悔はしていない(キリッ)

さて、次回からは新章です。
ではでは、次回もよろしくです!

追記。
悠斗君も、両親と邂逅しましたね。この話は、最初から書こうと決めてました。
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