ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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覚えてる人いるかなぁ。


タルタロスの薔薇 Ⅷ

 古城たちの戦闘の結果の報告を耳にしながら、那月は単独で“タルタロス・ラプス”の構成員である、千賀毅人を追い掛けていた。

 那月が空間転移で千賀毅人の元へ到着した時には、全てが終わっていた。――そう、千賀毅人は血塗れで倒れていたのだ。

 苦しげな呼吸を続ける千賀毅人の全身には、無数の殺傷と刺傷があり、その多くは内臓まで達しており、出血量も危険域を超えている。 まだ意識があるのが不思議な位の致命傷だ。

 

「やあ那月……。 やはり私を追っていたのか……」

 

 そう言って、千賀が那月を見上げて呟いた。

 そんな千賀を見て、那月は表情を変えないまま、

 

「誰にやられた?」

 

 だが、キーストーンゲートの最下層を訪れた時点で、千賀が実行しようとした事は解っている。

 問題なのは、千賀をこの場で倒した者がいる。という事実だ。

 

「それを聞いて、今のお前に何ができる?」

 

 千賀が愉快そうに笑う。

 千賀が言いたいことが那月には解った。 それは、那月が手出しできない存在――即ち、魔族特区の為政者側の人間なのだ。

 なので千賀は名前を伏せ、那月を苦しめない為にもこの場で引き返すべきだと判断したのだ。

 

「言いたいことはわかっているつもりだ。だが、私の教え子が指をくわえて見てるのが想像できんがな」

 

「……第四真祖に紅蓮の織天使、か」

 

「ああ。 奴らがその気になれば、絃神島の政界の人間は一掃されるだろうな」

 

 でもそうなれば、古城たちが高校生として生活することは叶わなくなるだろう。

 そう、絃神島(夜の帝国)を管轄する第四の王とならなければいけないのだ。

 だが那月は、古城たちを利用する形になるのは望まない。 なので那月は、古城たちを巻き込まない道を模索すると決めている。

 

「待っていろ、すぐに病院に運んでやる」

 

「構うな。 もう必要ない」

 

 千賀が那月の申し出を断る。

 そう、魔族特区の医療技術をもってしても、彼は助からないだろう。 千賀自身、それは承知済みなのだ。

 

「そうか。――それと、十番目(デカトス)以外のタルタロス・ラプスの構成員は確保した。 全員重傷だが、命に別状はない」

 

「ああ」

 

 那月が告げた情報を聞いて、千賀が安堵の表情を浮かべた。

 

「では、すまないが彼らを頼む。 わかっているだろうが、あいつらはオレに道具として利用されていただけだ。 彼女らには罪はない」

 

「貴様の証言として伝えておこう」

 

 那月が事務的な口調でそう言うと、千賀は、それでいい。と頷いた。

 この先のタルタロス・ラプスの裁判において、千賀の証言は生き残った構成員たちに有利に働くだろう。 仲間たちに対する千賀の思いが、真実であるかどうかは別として。

 

「十五年前――お前がたった一人で復讐を終わらせて、オレたちの前から消えた時には、失望したよ。 だが、今にして思えば、正しかったのはお前の方だったな」

 

 千賀が懐かしげな表情で呟く。

 そして、咳き込む千賀の口元からは、血の塊が零れ落ちる。

 

「オレはガキ共に人殺しの技術を教えることで、あいつらに依存していたんだ。 共依存というやつか。 お前はそれに気付いたんだな、那月。――そしてその後、お前は紅蓮の小僧と出会い、変わった」

 

「ふん。 織天使との出会いは偶然が重なっただけだ。……だがまあ、その後の絃神島のいざこざでは共闘もしたが」

 

 特に、昔に起きた“闇の書”事件では、共に戦場を駆け、魔導犯罪人を監獄結界に放り投げたのは、那月の記憶に焼き付いている。

 

「……そうか。 それがお前の人生の転期になった、と言っても過言じゃないってことか」

 

 千賀がジャケットの襟の裏から小さなチップを取り出す。 それは、データ保存用のマイクロメモリだ。

 血塗れの千賀は、震える指先で、それを那月に手渡す。

 

「お前の教え子たちは、自らの意思で絃神島を護ることを選んだ。……その判断は愚かだが、オレには眩しい。 那月、お前は良い生徒に恵まれたようだ」

 

 那月は「そうだな」と頷いた。

 

「……千賀毅人、このチップは何だ?」

 

「勝者には戦利品があって然るべきだろう? その中身をどう使うかは、お前が決めろ」

 

 そう言ってから、千賀は静かに目を閉じた。

 その口元には微笑が浮かんでいた。

 

「負けたはずなのに、悪くない気分だ。……オレを止めたのが、お前たちでよかった……」

 

 千賀の体から力が抜け、那月はそれを無表情で眺めていた。

 

「さよなら、先生」

 

 空間を波紋のように揺らし、那月がこの場から消えた。

 薄暗い無人の通路には、血溜まりの痕跡だけが残されていた――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 廃棄地区に居る古城たちを回収しに来たのは、特区警備隊(アイランド・ガード)の警備艇だった。 紗矢華たちが獅子王機関経由で手を回してくれたのだ。

 最初ははしゃいでいたグレンダも、雪菜の膝枕で眠っている。 文字通りグレンダは、中央広場と廃墟地区を休まずに飛んだのだ、彼女が疲れて眠ってしまうのも無理もない。

 また、悠斗と凪沙も特区警備隊(アイランド・ガード)の厚意に甘えることにしたのだ。

 

「やれやれ……ようやく戻って来れたか」

 

 船から降りた古城が、絃神島全体を見渡し気怠く呟いた。

 四聖獣(薔薇)が消滅して三時間程経過し、街は落ち着きを取り戻してる。

 建物の被害は甚大だが、奇跡的に負傷者の数は少ない。 やはり、短期決戦で薔薇を破壊できたのが大きい要因だろう。

 古城の呟きに促されるように、悠斗、凪沙と船から降り、両手を上げ体を伸ばす。

 

「ああ、やっと終わったな」

 

 悠斗は「もう面倒事は勘弁して欲しいけど」と内心で呟く。

 だが、強力な力を持つ者の元には、完全な平穏が訪れることは無い、かも知れない。――強者の力が、戦争に利用される可能性がある限りは。

 

「凪沙も疲れた、かも」

 

 凪沙もそう呟いた。

 そして拘束具付きの担架に乗せられ、ラーンが特区警備隊に運び出される。

 だが彼女は今も眠り続けている。 肉体そのものに異常はなく、夢を見続けている状態なのだ。 おそらく、ネットワーク越しに接触した膨大な“情報”が原因だろう。

 

「あいつら、これからどうなるんだろうな?」

 

 目を閉じたままのラーンを見送って、古城は長い溜息を吐く。

 そう。 タルタロス・ラプスは、自らの意思で絃神島を破壊しようとしたのだ。 逆らえない相手に利用されていた、アスタルテや優真とは根本的に違うのだ。

 ましてや、タルタロス・ラプスは国際指名手配の重罪人。 そして、未登録魔族でもある。 最悪、永遠の牢獄である“監獄結界”に永久隔離される可能性もあるのだ。

 

「その辺は那月に任せるしかないな。 国際問題関係は、真祖や織天使(姫巫女)は専門外だぞ」

 

 人任せになってしまうが、学生の古城たちにはどうすることも出来ないのも事実である。……だがまあ、古城たちが絃神島を夜の帝王(ドミニオン)と認定し島の管理者になれば話は別だが。

 そして、国境の破壊、世界の破壊となれば、真祖や織天使(姫巫女)は大いに関わってくるだろう。 おそらく、戦争の前線に立つ機会も出てくるはずだ。

 雪菜が、グレンダを抱きながら船から降りると口を開いた。

 

「神代先輩の言う通りですが、彼女たちには情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地はあると思います」

 

 雪菜は、「ですが、罪は消えることはありませんが」と真面目な口調で付け加えた。

 

「それに、絃神島の全住民が証人です。 “イロワーズ魔族特区”の時とは違いますから」

 

「……事件を揉み消したり、一方的に処分できないってことか」

 

「はい」

 

 古城の呟きに雪菜が頷く。

 人工島管理公社といえども、彼女たちを勝手に裁くことはできないのだ。 ましてや、彼女たちが暗殺される、と言ったことにも起こらないだろう。

 ディセンバーとの約束は、取り敢えずは守る事ができそうだ。

 そう雪菜に保証されて、古城は一先ず胸を落ち着けさせることができた。

 

「悪い古城、俺たちは一足先にお暇するな」

 

「ごめんね、古城君」

 

 悠斗と凪沙は申し訳なさそうに呟く。

 ちなみに、この場所からアイランド・サウス七〇三号室まで数十キロあるが、悠斗と凪沙には数分で帰路に着ける手段があるのだ。

 そして古城は頭を振る。

 

「ああ、今回も助かった。後は任せてくれ」

 

 古城がそう言うと、悠斗が「悪いな」と呟く。

 悠斗と凪沙は詠唱を唱える。

 

「――紅蓮を纏いし不死鳥よ。 我の翼となる為、我と心を一つにせよ――おいで、朱雀」

 

「――氷結を司る妖姫よ。 我を導き、守護と化せ!――来い、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)

 

 朱雀は融合した凪沙の背部からは二対四枚の紅蓮の翼が出現し、瞳も朱が入り混じり、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)と融合した悠斗の瞳には蒼が入り混じり、背から二対四枚の氷結の翼が出現した。

 

 ――若干回復した悠斗と凪沙が出した結論は、早く帰る為に守護の翼を羽ばたかせ、帰路に着く、である。

 

 こんなことで呼び出される眷獣たちは呆れるだろうが、早く帰路に着きたい悠斗と凪沙は、「今だけは目を瞑って下さい」と懇願する。

 ともあれ、一時的にだが“タルタロスの薔薇”事件は幕を閉じたのだった――。




これでこの章は完結ですね。
今回の話で美月ちゃんたちを出すと言いましたが、あれは嘘だ。……いや、出すタイミングが無くてですね(-_-;)
まあ、次回(幕間)に美月ちゃんを出すことは確定なのですが、蓮夜君は次章になりそうです。

ではでは、また次回(*・ω・)ノ
宜しければ、感想もよろしくお願いしますm(__)m
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