ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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お久しぶりです。
……今までサボっていてスイマセン。作者は生存しています。失踪だけはしないので、お許し下さい。……まあ、不定期更新は変わらないかもですが。


黄金の日々
黄金の日々 Ⅰ


『お聴きの放送局はJOMW――FM絃神。時刻は、午後三時三十分になりました。

 これからの時間は、島内で話題の人物や出来事にスポットを当てて紹介する“インサイト・イトガミコーナー“、本日もこちら、キーストーンゲート最上階、人工島第三スタジオがお送りしてまいります』

 

『さて、まだ記憶にも新しい“タルタロスの薔薇”事件。魔族特区破壊集団タルタロス・ラプスによる魔族登録証の大規模ハッキング攻撃から、ちょうど二週間が経過しましたね。

 事件による爪痕は絃神市内のあちこちに残されていますが、市街地の復旧作業は現在も急ピッチで進められています』

 

『開通の遅れていたモノレール還状線、本日から始発から通常通りの運行。航空機の一部は国際線を除いて全便運航を再開しました。湾岸道路も、一部区間を除いて、この週末には運行規制が解除されるということで、ホッとしている人も多いのでしょうか』

 

『その絃神島で、現在もっとも注目を浴びている人物は、そう、この方。

 タルタロス・ラプスのハッキングを阻止し、絃神島への被害を最小限に食い止めた、美少女天才ハッカー、“電子の女帝”こと藍羽浅葱さんです』

 

『藍羽浅葱さんは現在十六歳。絃神市内に通う現役女子高生なのですが、実は彼女、知る人知る天才プログラマーとして、ハッカーの世界じゃ有名人だったんですね。

 これまでにも数々の革命的なプログラムを発表して、付いた渾名が“電子の女帝”。あの日、タルタロス・ラプスの攻撃を逸早く察して、独断でハッキング妨害プログラムを制作。この結果、彼女の行動が、魔族特区破壊集団によるテロの脅威から、絃神島を救うことになったわけです』

 

『それだけでも凄い事なのですが、彼女を一躍有名にしたのは、芸能人顔負けのこのルックス。特に、事件直後に撮影された彼女のインタビュー動画は、奇跡の七秒間と呼ばれネットでは既に六百万回再生以上もされているそうです。本当に可愛らしい方で、学校の制服も良く似合ってますね』

 

『浅葱さんのお父様は、現職の絃神市評議議長、藍羽仙斎氏。浅葱さんご自身も、幼いころから絃神島にお住まいということで、以前から地元では美少女として有名だったとか。まさしく、魔族特区が誇るアイドルだったわけですね』

 

『そんな浅葱さんですが、現在は人工管理公社の依頼で、絃神島復旧の為に大規模プロジェクトに参加中とのこと。更には、事件による被害者支援の為の、慈善活動にも積極的に参加されています。来月には絃神島復興支援チャリティーソングを発売の予定。既にご本人が出演するテレビCMも撮影済みということで、どんな内容になるか楽しみですね』

 

『番組では、藍羽浅葱さんに対する応援メッセージ、そして彼女に関する情報をお待ちしております。浅葱さんの今後の活動リクエスト、あなたが街で見かけた浅葱さんの姿、あなただけが知っている彼女のプライベート情報など、番組ホームページよりどしどしお寄せ下さい』

 

『それでは、ここで一曲聞いていただきましょう。絃神島復興支援チャリティーソング“Save Our Sanctuary”のカップリングですね。藍羽浅葱さんで“片恋Parameter”』

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 深海の海。

 東京の南方三千三百十キロ付近の海上へと、一機の輸送機がゆっくり降下を始めていた。

 四基のターボファンエンジンを搭載した巨大な水上両用機だ。湖沼や海面などを利用しての発着が可能な、飛行艇である。

 全長・翼幅共に四十メートルを超え、民間所有の飛行艇にしては規格外だ。また、深紅に縁取りが施された機体が、月光に反射して銀色に輝いている。

 尾翼に描かれているのは、飛龍に牽引された戦車の紋章であり、戦王領域の飛行艇、ストリクス。

 高度を下げたストリクスは、カーボンファンバーと樹脂と金属と魔術によって造られた人工島の港に入ったストリクスを歓迎するかのように正面には、一隻の外洋船が停泊する。

 船のマストに掲げられている船籍旗にも、戦王領域の紋章が記されている。船の名称は、オシアナス・グレイブⅡ――戦王領域の大貴族にして、アルデアル公国領主ディミトリエ・ヴァトラーの私有船だ。

 その船を寄り添うようにして、ストリクスは停止し、機体上部のハッチが開きストリクスの翼の上に人影が現れる。

 浅黒い肌を持つ長身の男であり、身に纏う威厳と落ち着きは老獪な武将や政治家を思わせる。身に着けた古風なコートと長い黒髪が、見るからに実直で聡明な彼の風貌に良く似合っていた。

 そして、両船の主人である二人の『古き世代』の吸血鬼が互いに剣と蛇を交え、彼らなりの挨拶(殺し)を終わらせると、うんざりとした溜息と共に、黒髪の男が呼びかけた。

 

「……気は済んだか、蛇遣い?」

 

 その直後、彼の前に黄金の霧が舞い、砂のように虚空から零れ落ちる黄金の粒子が、青年の姿へ変わっていく。それは、鮮やかな純白のコートを着た、金髪碧眼の吸血鬼――ディミトリエ・ヴァトラーだ。

 

「せっかくの再開だと言うのにつれないじゃないか、ヴィレッシュ・アラダール?」

 

「オレは貴様のくだらない趣味に付き合う為に、こんな辺境の島国まで来たんじゃない」

 

 アラダールと呼ばれた黒髪の男が、ヴァトラーに冷たく言い放つ。

 ヴァトラーは彼の言葉を、満足げに目を細めて聞いていた。アラダールはヴァトラーの本気の攻撃をまともに受ける事が出来る数少ない対等の友人なのだ。

 だからこそヴァトラーは、彼に相応の礼儀を払う事は厭わない。出会い頭の攻撃は、ヴァトラー成りの敬意の挨拶なのだ。

 

「では、改めまして――ヴィレシュ・アラダール、戦王領域帝国議会議長殿。遥か遠方よりのご降臨賜りし、このヴァトラー、恐悦至極に存じます」

 

「嫌味のつもりか、ヴァトラー。全て貴様が仕込んだことだろうが。第四真祖にカインの巫女、おまけに今度は沼の龍(グレンダ)か。そして、知ってか知らずか解らないが、紅蓮の織天使、紅蓮の姫巫女、か。――よくもまあ、これだけ厄介な状況を揃えたものだな」

 

 本来であれば、そうならないようにするのが外交の立場で絃神島へ滞在しているヴァトラーの役目でもあるが、ヴァトラーの本質は元老院の任よりも、己の欲望を優先する性質。それは、過去と現在も変わる事はない。

 強者との死闘。そして、戦争。

 ある意味、最も吸血鬼らしく狂っているのが、ディミトリエ・ヴァトラーという吸血鬼なのだ。

 

「それは失敬した、アラダール。だけど君がこの島に来たという事は、議会の元老たちもようやく乗り気になってくれたと思っていいのかな?」

 

「彼らとて見過ごすわけにはいかないだろうさ。“棺桶(コフィン)”の開放を知らさせてな」

 

 それに、とアラダールは溜息混じりで頭上を見上げた。

 クルーズ船の甲板に、小柄な少女が立っている。逆巻く炎のように刻々と色を変えていく虹色の髪。微笑む彼女の唇の隙間からは、白い牙が覗いていた。

 

「六番目の焔光の夜伯(カレイドブラッド)か」

 

「そう。混沌の皇女(ケイオスブライド)が匿っていた、最後の宴の鍵だヨ」

 

 アラダールの呟きに、ヴァトラーは獰猛に笑って頷いた。

 焔光の夜伯(カレイドブラッド)と呼ばれる少女たちは、いずれも第四真祖の眷獣を封印する為に作り出された吸血鬼だ。その数は全部で十二体。だが現在その封印は、十一まで解放されている。

 今だ不完全な第四真祖だが、第四真祖が最後の焔光の夜伯(カレイドブラッド)の封印を解いた時、何が起きるのか、それは数百年も生きて来たヴァトラーやアラダールにも予想できない。

 ただ一つ解るのは、存在しない筈の第四真祖の出現が、この世界の秩序と安定を掻き乱す、という事実だけだ。おそらくは、取り返しがつかない程決定的に。

 ――なので、今起きている事態は、元老院内では問題視とされているのだ。

 

「我が王の許しは得た。だが、ヴァトラー――貴様、わかっているのか?完全な第四真祖を復活させる意味を?」

 

「わかっているさ、アラダール」

 

 ヴァトラーは、ふふ。と不敵に笑う。

 

「それに十二番目の魂は、紅蓮の姫巫女の中で生きているんだヨ」

 

 ヴァトラーの言葉に、アラダールは眉を寄せる。

 

「……なんだと。焔光の夜伯(カレイドブラッド)の封印を解けば、彼女たちは消滅するはずだ」

 

 ヴァトラーは、そのはずなんだけどねぇ。と言ってから笑みを深くする。

 

「――第四真祖の封印の器である十二番目に、第四真祖の復活。そして、紅蓮の織天使に紅蓮の姫巫女。噂じゃ、八神蓮夜も。……本当にこの島は混乱に愛されているねぇ」

 

 芝居が掛かった仕草で両腕を広げ、ヴァトラーは静かに背後へと視線を向ける。夜の海上に煌々と輝いているのは人工の魔族特区。

 それを見つめるディミトリエ・ヴァトラーの瞳に、炎にも似た獰猛な光が浮かぶのであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「で、お前は何やってるの?」

 

 悠斗は、隣でスープの味見をしている“ある人物”に声をかける。

 その人物とは――八神蓮夜だ。

 

「オレは美月の付添だ。美月の奴、どうしても暁凪沙の手伝いがしたいって言ってな」

 

 悠斗は、なるほどなぁ。と頷く。

 それにしても、暁凪沙という女の子は、人と仲良くなるのがもの凄く巧い。――数ヵ月前までは、夜光美月とは殺し合いをした仲だったはずだ。

 

「ところで、今あの場で味見をしている少年が“第四真祖”か?」

 

 蓮夜の目線の先には、赤く透き通った液体を小さな器に垂らし、その匂いを嗅ぎながらスープの味を確かめてる“第四真祖、暁古城”の姿だ。

 

「そうだ。間違っても、この場で殺し合いをしようなんて考えるなよ」

 

 というか、この場で戦闘になったら、此処に居る人々たちは無事では済まないだろう。

 ともあれ蓮夜は、そんなことするわけないだろ、と言ってから、ゆっくり息を吐く。

 

「美月が世話になってるんだから、挨拶でもと思っただけだ。それに、第四真祖は絃神島の王なんだろう?」

 

「いや、そうとも取れるが、正確には領主では無いんだよなぁ」

 

「なるほど、複雑な事情か。……オレたちも人のことを言えないんだが」

 

「まあな。凪沙は兎も角、俺と蓮夜たちはお尋ね者だしなぁ」

 

 そう、悠斗と蓮夜たちは絃神島内で登録する筈の住民登録(魔族登録)をしていない。

 絃神島外で見れば、悠斗たちは存在しないはずなのだ。

 

「まあいいや。折角来たんだから、お前も手伝ってくれ」

 

 そう言ってから悠斗は、傍らに用意していた緑色のエプロンを蓮夜に向かって放り投げる。

 蓮夜は溜息を吐き、

 

「ああ。美月の手伝いが終わるまでだがな」

 

 そう言ってから、悠斗たちは公園の一角に置かれた屋台風の仮説テントまで移動する。

 衝立で仕切られた裏側には簡易キッチンが設置され、業務用のガスコンロの上で大量のミネストローネが煮えている。大鍋四つで約三百人分。調理するだけでもかなりの重労働だ。

 ともあれ、食料の配給を待っているのは、絃神島の住人たちだ。

 彼らの殆んどは、二週間前に起きた“タルタロスの薔薇”事件時の被害者たちなのだ。魔族特区の高度な医療システムの恩恵もあって、奇跡的に死者こそは出なかったものの、無差別に召喚された眷獣たちの暴走によって、市街地には大きな被害が出た。

 住居は破壊され、今だ避難所で不自由な生活を強いられている人々も多い。悠斗たちが訪れている場所は、市内でも特に被害が大きかった地区である。

 何せ、絃神島のタルタロス・ラプスによって焼き払われた、食料備蓄倉庫(グレートパイル)も恩恵を一番受けている場所でもあるのだ。

 

「あ、悠君。お話終わったの?」

 

 悠斗の姿を見た凪沙が、きょとんとする。

 

「ああ。蓮夜も手伝ってくれるってよ。てか、整理券は配り終わったのか?」

 

「うん。だけど、昨日より人が増えてるかも。炊き出しの口コミを見た人たち、わざわざ遠くから来てる見たい。一応、整理券は配り終わってるけど、お鍋とおにぎりが足りるか不安になってきちゃったよ」

 

 悠斗がテントに並ぶ列を確認した所、最後尾までは二百人はいるだろう。なので、凪沙が不安に駆られるのも無理はない。だが、暗い雰囲気は感じ取れない。どちらかと言えば、被災者の為に開かれた気分転換や娯楽の類に窺える。

 でも一番の要因は、『可愛い女子中学生の握ったおにぎりが食べられる』といった目的が大きいのかも知れない。これを悠斗がスマホの口コミで目にした時、呆れた表情が隠しきれなかった。

 とはいえ、これが宣伝になって、他の慈善団体の協力も得られたし、相当な寄付金が集まったと聞く。なので、凪沙たちは絃神島復興に大きく貢献したということになるだろう。

 

「じゃあ、やるか」

 

「うん。頑張ろう」

 

 そう言って、腕捲りをする悠斗と凪沙であった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 配給者を全て捌き終わった悠斗は、深い溜息を吐いて傍のパイプ椅子に腰を落とした。

 そんな悠斗を見ながら、凪沙は傍らに設置されている簡素なテーブルに紙皿を置く。紙皿の上には、大きな握り飯が置かれている。どうやら凪沙が、事前に取り置きをしていてくれたらしい。

 

「悠君、お疲れ様。これ、登校前に食べちゃって」

 

「助かる。てか、もう学校か……休んでいいかな」

 

 公園に設置されている時計を見て、悠斗は肩を落とす。

 いつの間にか、時刻は午前八時になろうかという所だ。そして、色々な事件に巻き込まれて出席日数がギリギリの悠斗だ。遅刻したとなれば、担任の那月の雷が落ちること間違えなしだろう。

 

「だ、ダメだよ休みなんて。また、南宮先生に怒られちゃうよ」

 

 凪沙の言葉には、別の意味も込められている。

 以前無断欠席した悠斗は、那月に、次に無断欠席したら“戒めの鎖(レージング)”を使って監獄結界に閉じ込め補修。と、脅されてもいるのだ。

 

「へいへい。ちゃんと行くから心配するな」

 

 凪沙は、へいへい。じゃなくて“はい“でしょ、と言って、頬を膨らませる。

 ともあれ、おにぎりを右手で紙皿から取り口に運ぶ。作りたての握り飯は、まだほんのり温かく。焼き海苔もパリッとした食感を保っており、とても美味だ。

 具材は、塩を塗しただけであるが、そのシンプルさが美味さを惹き立てている。

 

「どう、美味しい?」

 

「美味いぞ。やっぱ、凪沙の作った飯は絶品だな」

 

「ふふ。褒めても何も出ないよ、悠君」

 

 ともあれ、全部食べ終わった所で、悠斗は椅子から立ち上がる。

 そんな時、後方から声が掛かる。

 

「んじゃ悠斗。学校へ行くか」

 

 そう言って、古城は悠斗の隣に並んだ。

 悠斗が席を外していた間、古城は蓮夜と話をしていたらしい。そしてこうも思っていた、なぜ悠斗の傍には強者が集まるのだろうか、と。

 まあ確かに、ヴァトラー然り、八神蓮夜然り、獅子王機関然りだ。

 

「じゃあ凪沙は、夏音ちゃんと雪菜ちゃんと合流するね」

 

 そう言って、凪沙はこの場を後にする。

 そしてこの日を栄えに、悠斗たちがある事件に巻き込まれるなど想像もつかなかった。




古城は絃神島で住民登録をされていますが、悠斗は住民、魔族登録ともされてないので、お尋ね者、ということです。
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