ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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矛盾が発生してないか心配です。


黄金の日々 Ⅴ

 研究所の一室で悠斗と凪沙は隣になり白ソファに腰掛け、陰気な顔立ちの中年男性――元アルディギア王国宮延魔導技師であり、夏音の義父――叶瀬賢生がコーヒーを淹れてくれたカップを右手で持ち、口許に移動させてから口に流し込んでカップを置く。

 

「で、絃神冥駕は殺すことが出来たのかい?」

 

 悠斗にそう聞いたのは、悠斗の対面のソファに座る萌葱色(もえぎいろ)の髪の長命種(エルフ)であり、白いマントの下にノースリーブにアレンジされた巫女装束の白い衣装。悠斗の記憶に焼き付いている人物――獅子王機関の三聖の一人、縁堂縁だ。

 縁は悠斗たちの魔力を追ってから見つけ、この場に匿ったのだ。縁は事前に、叶瀬賢生と会談する場所を確保していたのだ。

 

「いや、殺せてない。てか、あの状況じゃ無理だ」

 

 そう言って、悠斗は絃神冥駕との戦闘の詳細を話し、その話を聞いた縁は目を細める。

 

「そうかい。お前さんの眷獣の能力が割れてるとはね」

 

「絃神冥駕は聖殲の血の記憶を保有してる。四聖獣の能力はほぼ割れてると言っていいだろうな」

 

 だがもしかしたら、黄龍と麒麟の能力はまだ割れていないかも知れない。

 あの眷獣たちは悠斗の中で覚醒した眷獣でもあるので、詳細までは知られていない可能性がある。

 

「……聖殲の血の記憶かい。長年生きてるあたしでも、不明な点が多過ぎるしね」

 

 縁堂縁は、ほぼ寿命が尽きない長命種(エルフ)だ。

 僅かとはいえ、聖殲のことを知っていても不思議ではない。

 

「だろうな」

 

 そう言って溜息を吐く悠斗。

 こうなると、冥駕とは手探り状態で戦うことになるだろう。

 

「それにしても、あんたが絃神島に来訪とはどういう風の吹き回しだ?」

 

「お前さんも気づいてるだろう?雪菜の中で何が覚醒しようとしてるかを」

 

 雪菜が第零層で発した純白輝き、あれは模造天使(エンジェル・フォウ)のものだ。――そしてそれは、雪霞狼の副作用、霊力を変換して発する神格振動波との霊的中枢である。

 雪霞狼を使用し続けたら雪菜の体内ではそれが活性化し、雪菜は最終的に模造天使(エンジェル・フォウ)になり消滅するだろう。例外で無い限り、人間が天使に近付くのは自殺行為だ。

 

「ああ。模造天使(エンジェル・フォウ)、だろ」

 

「そうさね。でも、それがすぐに解ったということは、さすが本物の天使って言った所かい」

 

 縁の言葉を聞いて唇を曲げる悠斗。縁は場を和らげる冗談のつもりだが、悠斗は“天使”と呼ばれるのは遠慮したい。

 だが今の話を聞く限り、縁は雪菜の中で覚醒しそうな模造天使(エンジェル・フォウ)の止めに来たのだろう。

 

「で、そっちの子が、紅蓮の織天使の“血の伴侶”かい?」

 

 凪沙は、びくっと体を強張らせる。

 縁堂縁の貫録はかなりのものだ。初対面で緊張するなと言う方が難しい。

 

「あ、暁凪沙です。よ、よろしくお願いします」

 

「暁?」

 

 縁は疑問符を浮かべる。

 まあ確かに、“暁”と聞けば、獅子王機関で話に挙がった第四真祖(暁古城)を思い浮かべるだろう。

 

「こ、古城君の妹です」

 

 縁は、ほう。と、興味深く凪沙を見る。

 

「妙な(えん)はあるものだね。お前さんの血の伴侶(姫巫女)が第四真祖の妹とは驚きだよ」

 

「そうか?……でも、昔の俺が見たら、冗談だろって笑い飛ばすだろうな」

 

 縁は面白おかしく悠斗を見る。

 

「昔のお前さんは、孤独に生きる者だったからな」

 

 縁はあの死闘を思い出し、懐かしそうに呟く。まあ確かに、縁はあれ程心躍った死闘は久しぶりだったのだ。

 縁は、話は変わるが。と、言葉を続ける。

 

「姫巫女は、眷獣が使役できるのかい?――他言はしないよ、三聖の名に誓おう」

 

 まあ確かに、紅蓮の織天使の血の伴侶となれば、気になる質問だ。

 

「えっと。四聖獣(神々)の召喚と、朱雀と融合することが可能ですよ」

 

 凪沙の言葉に、賢生が興味深そうに凪沙を見つめる。

 人間からの血の伴侶に成った者が、主の眷獣を使役できるなど聞いたことがない。しかも、眷獣融合が可能だとは夢にも思わないだろう――だが、紅蓮の織天使の“血の伴侶”となれば、特別な力があっても不思議ではない。

 縁の隣に座る賢生が、

 

「実に興味深いな。人間から血の従者(血の伴侶)になった者が眷獣を使役できる例など聞いたことがない」

 

 賢生は自分が培った記憶を遡るが、悠斗と凪沙の話は初めて聞いたのだ。

 凪沙は不思議そうな顔で、

 

「そ、そうなんですか。血の伴侶(巫女)になった者は使役できると思ってました」

 

「いや、眷獣の権利(融合)となれば、君たちの事例が一番最初だろうな。しかしそうなれば、紅蓮の織天使。お前さんの戦闘能力が下がるのではないか?」

 

 まあ確かに、賢生の指摘通り、今の悠斗は四神を召喚することができない。

 ――だが悠斗は、

 

「問題ない。俺はそれに連なる神獣(黄龍、麒麟)を召喚することが出来るしな」

 

 ちなみに凪沙は、黄龍や麒麟を使役することは不可能だ。

 縁は、ふっと笑い、

 

十二番目(第四真祖)の眷獣もだろう。まさか、お前さんが使役できるなんて予想外もいい所だよ」

 

「まあ色々あってな」

 

 まあ確かに、アヴローラ(暁凪沙)の血を吸って、召喚が可能になりました。とは言えない。さすがに、この場で発言する言葉ではないだろう。

 ともあれ、悠斗は本題を切り出す。

 

「ところで縁堂縁、古城と姫柊の体調はどうなんだ?安定してるんだろ?」

 

「そうさ。雪菜は霊力も安定してるし、第四真祖の坊やも傷が癒えてるはず。問題は、これからのことさ」

 

「でもあんたのことだ。一応、解決策は考えてるんだろ」

 

「そうさね。――これだよ」

 

 縁が懐から取り出したのは、銀色に輝く小さな円環だ。それは、上下一組の円環を貼り合わせたような、シンプルなデザインの指輪だ。指輪の大きさからして、古城ではなく、雪菜の指に嵌める指輪であろう。

 そして、悠斗は目を丸くする。

 

「……あんたがそれ(・・)に手を出すとはな。解決策は花嫁ってわけだ」

 

「そうさ。これが、吉と出るか凶と出るかまだ解らないけどね」

 

 そう、この指輪の中には、古城の肋骨の欠片が入っているのだ。吸血鬼の肉体の一部を受け入れた人間は、主人である吸血鬼と同じく不死の肉体を手に入れる。――血の従者という疑似吸血鬼となるのだ。

 だが、もし縁の想像が正しければ、この指輪で雪菜の天使化は防ぐことが出来るだろう。おそらく、古城の肉体の一部を呪力の触媒として、霊的経路(パス)を繋ごうと考えているのだろう。

 

「でもそれが成功した場合、姫柊は古城の血の伴侶(血の従者)ってわけだ」

 

 まあでも、正確には擬似的な血の伴侶(婚約者)だろう。

 完全な血の従者になった場合は、雪菜の霊力は完全に消滅してしまう。

 

「よかったじゃねぇか、縁堂縁。あんたに義息子候補ができるぞ」

 

「不本意だがそうなるね。――けど、うちの愛弟子(まなでし)にもしものことがあったら、第四真祖の坊やには死んだ方がマシだって目に遭わせてやるよ」

 

 縁は本気だ。

 雪菜を悲しませたら、古城に罰を与えるだろう。

 

「ふむ。あの男がうちの娘を泣かせた時に備えて、対真祖用の凶悪な呪詛を完成させておいたのだが、興味はあるかね?」

 

 賢生が、冗談とも本気とも判断がつかない、真面目な口調でそう言った。

 縁は、クッと愉快そうに噴き出して、

 

「そいつは是非拝見したいね。あの手の不老不死の手合いを苦しめる方法なら、あたしも助言できると思うしね」

 

 賢生は「なるほど。参考になりそうだ」と重々しく頷く。

 

「で、でもでも、こ、古城くんは変態さんだけど、雪菜ちゃん夏音ちゃんを大切に想ってるはずなので、し、心配いりませんよっ」

 

 縁と賢生の言葉に、必死に古城を弁護する凪沙。

 「親バカめ」と、悠斗と凪沙は不意に思ってしまったが、口に出すことはなかった――。




悠斗と凪沙ちゃんは無傷な状態で、縁に発見された設定です。
ちなみに悠斗は、異境のことについても縁に話してあります。

話の中に、血の従者は主の体の一部を受け入れないと血の従者になれないとありますが、悠斗と凪沙ちゃんは神縄湖の時よりも強固な経路(パス)が形成され(もう獅子王機関の三聖も切り離すことは不可能)、凪沙ちゃんの中にも神々の魔力が循環してます。悠斗が渡した宝玉の効果がそれをブーストしてる感じですが。だからこそ、特別な血の伴侶ってわけですね。
そしてこれは主が死なない限り、血の伴侶として継続し続けます。
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