今回で物語が進みましたね。
さてさて、悠君は誰の血を吸うんだろうか?
では、投稿です。
本編をどうぞ。
悠斗が朱雀に背に乗って飛翔していると、あることに気付いた。
よく眼を凝らして見ると、空間に歪みが生じている。
「結界かよ」
悠斗の中に結界を無効化する眷獣はいるが、今は封印してるので顕現することは不可能だ。
悠斗は、どうすっかな、と思いながら、一つの結論を出した。
「――
悠斗は、朱雀の周りを結界で覆った。
そう。 悠斗が考えたのは、結界と結界を衝突させ、相殺させるといった無茶苦茶な方法だった。
「そのまま突っ込め、朱雀!」
朱雀は船に突っ込み結界を破壊して、消えていった。
朱雀は、自身が結界を纏ったまま突撃してしまったら、船が沈没すると理解したからだ。
「痛てぇ……」
悠斗は甲板に叩き付けられそうになったが、寸前で受け身を取った。
まあ、全ての衝撃を緩和することはできなかったが。
「か、神代先輩!? こんな所でなにをしてるんですか!?」
悠斗が顔を見上げて前に映ったのは、獅子王機関の剣巫、姫柊雪菜の姿だった。
「ま、まあ、姫柊たちが心配でな」
雪菜は、はあ、と溜息を吐いた。
「神代先輩は、凪沙ちゃんが心配だったんですね」
「え、なんでわかったの? 姫柊ってエスパー?」
雪菜は、再び溜息を吐いた。
「いえ、普通にわかりますよ。 神代先輩は、凪沙ちゃんをとても大切に思ってるんですから」
「え、まあ、そうだな。 一生守るって誓った人だからな」
雪菜は表情を改め、悠斗の後方を見据えた。
恐らく、悠斗の後方にはガルドシュの姿があるのだろう。
――それは、雪菜たちの周囲だけに吹き荒れていた。
その風に乗って、銀色の槍が。
「あれは、雪霞狼!?」
暴風に乗って飛来した槍を、雪菜が空中で掴み取る。
その瞬間、荒れ狂っていた暴風がぴたりとやんだ。
「いったい誰が!? こんな……」
悠斗は、槍が飛んできた方向を魔力を使いながら眼を凝らした。
そこには、何かを投げた体勢の基樹が映った。
「(ん、基樹? なんで雪霞狼を? てか、姫柊の正体を知ってんのか? じゃあ、俺のことも? もしかして、基樹が本当の古城の監視役なのか? てことは、姫柊は獣につけた鈴ってことになるぞ、獅子王機関。 俺に監視役も? いや、それはないな。 俺に監視役をつけても無意味だし)」
これだけの情報で、ここまで予測できる悠斗は相当頭が切れるのだ。
そしてこの自問自答は、凪沙の癖が移ったのだろう。
「気流使いか。 さすがは極東の魔族特区。 奇怪な技を使う者が多いな」
悠斗と雪菜が、ガルドシュを見据えた。
「ふむ。 これでようやく君の実力を見れるというわけか、面白い。――だが、獅子王機関の剣巫に紅蓮の熾天使。 ここは分が悪いな、引かせてもらうぞ」
ガルドシュは、後方に大きく跳び着地する。
そこには、ガルドシュの二人の部下の姿があった。
一人はタブレットPCを胸に抱き、もう一人は両脇に制服姿の少女を二人抱えている。
「藍羽先輩!? 凪沙ちゃん!?」
ぐったりと眠る彼女たちを見て、雪菜が短い悲鳴を上げた。
雪菜は雪霞狼を構え、彼らのほうに突進しようとするが――。
その雪菜の眼前を、真紅の閃光が薙いだ。
体勢を崩す雪菜の手を掴み、悠斗が自身に引き寄せる。
「あぶねぇ!?」
「ナラクヴェーラ!?」
「あー、なるほど。 動き出したか。 浅葱、頑張りすぎだぞ」
悠斗は額に手を当て、空を見上げた。
そう。 今のナラクヴェーラは暴走状態じゃない。
操縦者の意志に制御されているのだ。
「石板の解読は?」
ガルドシュが部下に説明を求めた。
浅葱たちを床に下ろしながら、部下の一人が回答する。
「終わったようです。 内容の正確性については、グレゴーレがすでに確認してます。 あのように」
そうか、と満足そうにガルドシュが頷いた。
「――ということだ。 投降したまえ。 獅子王機関の剣巫、紅蓮の熾天使よ。 私もヴァトラーをずいぶん待たせてしまった。 君たちの相手をしてる暇はもうないのだ」
ガルドシュが厳かに観告した。
雪菜は無言で唇を嚙む
ナラクヴェーラに引っ張られて、船が海上を漂う十三号
だが、悠斗は笑みを浮かべていた。
「お前ら、俺の友人――第四真祖を甘く見ない方がいいぞ。 痛い眼をみるからな」
ガルドシュは眉を潜めた。
「なに……どういうことだ?」
その直後――。
雪菜たちの耳をつんさぐ、獣の遠吠が鳴り響いた。
それは、無数の破片を撒き散らして、
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「くそ……やっぱダメだったか。 それに、オレの正体が悠斗にバレたかもな」
喉に詰まったカプセルの残骸を吐きだしながら、基樹が息を吐いていた。
周りには、乱れた気流が渦巻いている。 これは、能力を使った後遺症だ。
置き去りにされた雪菜の雪霞狼を、オシアナス・グレイヴまで投げ飛ばす、という気流を操る基樹にしかできない荒技だが。
「いくら姫柊っちでも、あの古代兵器が相手じゃ、どうにもならねーよな。 こっちは懲罰のリスクを冒してまで手助けしてやってるってのに。浅葱のやつ、頑張りすぎなんだよ」
地面にぐったりとうつ伏せて、基樹が弱々しく愚痴を垂れた。
そんな基樹を面白そうに眺めながら、ヴァトラーが言う。
「なるほど。 監視者である君が直接、戦闘に介入するのは禁忌というわけか。 君の意外に苦労してるんだねェ」
ちょうど十三号
一機でもそれなりの戦闘能力を備えた古代兵器が六機。
ヴァトラーにとっても興味深い戦闘になるだろう。
「さて、ガルドシュのほうの準備も済んだみたいだし、そろそろ僕の出番かな」
久々の死闘の予感に、浮き浮きとしながらヴァトラーが歩き出す。
その背中に、基樹が皮肉っぽく笑いかけた。
「そいつはどうかね。 第四真祖の親友として言わせてもらえば、古城が計算でどおり動いてくれるなんて期待しないほうがいいと思うぜ。 それに、オレの友人もな」
基樹の言葉を裏付けるように、キィン、と耳障りな高周波が、ヴァトラーの周囲を覆った。
続けて
「……へぇ」
ヴァトラーが感心したように呟いた。
「来たか、古城」
基樹が満足そうに呟いて、力尽きたように瞳を閉じる。
地下から噴き出していた爆音が衝撃波となって、
振動によって凝縮された大気の歪みが陽炎を生み、その陽炎は獣の姿へと変わった。
緋色に煌めく鬣と、双角を持つ巨大な獣へと。
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「第四真祖の眷獣か! グレゴーレ! わたしが
『了解です、少佐』
無線機越しにそう言い残して、最初のナラクヴェーラが動き出した。
真紅の閃光を撒き散らしながら、
その間にガルドシュと部下は、船倉の方向へと走り出していた。
「待ちなさい、クリストフ・ガルドシュ!」
雪霞狼を翻して、雪菜がガルドシュたち後を追う。
ガルドシュは雪菜を一瞥してから、何かを放った。
ジュース缶ほどの大きさの金属の筒である。
それが手榴弾と気づいて、雪菜は愕然とする。
雪菜はガルドシュの追跡を諦め、倒れてる浅葱たちに覆い被さった。
自身の体を盾にして、手榴弾の爆発から二人を守ろうと考えたのだ。
だが――。
「ったく、こんなもん投げんなよ。――
悠斗が放った結界が、手榴弾を囲った。
その結界の中で、手榴弾は爆発した。
雪菜は、右手を突き出している悠斗を見た。
通常なら、あんな繊細なコントロールは不可能なはずだ。
だが、この少年はやってのけた。
「(――神代先輩は、本当に何者ですか?)」
と、雪菜が思った直後だった。
雪菜の眼前に、黒いフリルの日傘をさした女性が舞い降りた。
「――とりあえず全員、無事だったようだな。 まあ、そこの規格外が、バカな真似をして結界を破壊してくれたおかげで、この船にようやく転移できたんだが。 うちの生徒を庇ってくれたことには、いちおう礼を言っておこう、姫柊雪菜」
「南宮先生!?」
「規格外とは失礼だな。 那月ちゃん。……まあ、否定はしないけど」
虚空から音も無く出現した那月を見て、雪菜は驚き見上げ、悠斗は抗議の声を上げた。
雪菜は、那月が空間魔術を使える事を知らなかったようだ。
“空隙の魔女”の異名は、伊達ではないということだ。
「教師をちゃんづけで呼ぶな!」
那月は扇子に魔力を込めて振り下ろすが、悠斗はいつものように紙一重で回避した。
「おっと、危ない」
「ッチ、また避けたか。 まあいい。 私はこいつらを安全な場所まで連れて行く。 おまえはどうする、転校生。 一緒にくるか?」
「那月ちゃん――」
那月は、悠斗が言おうとした事を即座に理解した。
「そうか、わかった。 この子のことは頼んだぞ。 神代」
「おう」
那月は浅葱のことを抱き寄せ、悠斗は凪沙のことを横抱きした。
――と、その時。 那月の手が振られ、扇子が悠斗の頭に直撃した。
「痛で!?」
「やっと当ったか。 暁凪沙のことになると、神代は周りが見えなくなるな。 もう一度聞くが、転校生はどうする?」
那月が、再度雪菜に問いかけた。
雪菜は首を振って立ち上がる。
「私は、暁先輩と合流します。 監視役ですから」
「ふん。 仕事熱心なことだ」
好きにしろ、といいながら那月は空間を歪めた。
眠り続ける浅葱を、那月はその中に放り込む。
そして那月は意地悪く微笑み、
「おまえが、助けに行くまでもないかもしれんぞ」
「え?」
意味深な言葉を残して、那月の姿が消えた。
その時、十三号
それは、当然雪菜の知らない眷獣だった。
これが意味する事は一つ。 古城が誰かの血を吸い、眷獣の封印を解いた、と言うことだ。
悠斗は、
「(古城。 骨は拾ってやるからな)」
と、身も蓋もない事を思っていた。
その時、雪菜の懐で着信音が鳴った。 浅葱のスマートフォンからだ。
恐らく、策の電話だと思う、と悠斗は結論づけた。
「姫柊は古城たちのことを頼むぞ。 俺は、凪沙を安全な場所まで送ってから向かうから」
「はい、わかりました。 凪沙ちゃんをよろしくお願いします」
「おう。――降臨せよ。 朱雀!」
悠斗は凪沙を朱雀の背へ、ゆっくりと乗せた。
悠斗は朱雀の背に跨り、
「朱雀、学校の屋上まで頼む」
朱雀は一鳴きし羽根を羽ばたかせ、飛翔を開始した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
凪沙が瞳を開けた場所は、朱雀の背の上だった。
悠斗は、凪沙を支えるように座っていた。
「眼が覚めたか。 凪沙」
凪沙は眼を擦るながら、
「ん、悠君?」
「ああ、俺だ。 スマンな、助けるのが遅くなって」
凪沙は首を左右に振った。
「ううん、信じてたよ。 助けに来てくれるって。 朱雀君も言ってたしね」
悠斗は眼を見開いた。
「凪沙は、朱雀の声が聞こえるのか?」
「うん、朱君の世界にも行ったよ」
悠斗は唖然としてしまった。
悠斗は眷獣たちの声は聞けるが、精神世界に潜ったことは一度もないのだ。
「そ、そうか。 なんていうか、凪沙はすげーな」
凪沙は照れたように、
「えへへ、そうかな」
「おう、すげーよ。――朱雀、この下に降ろしてくれ」
朱雀は羽根を羽ばたかせ、学校の屋上へ着陸した。
悠斗は朱雀の背から飛び降り、凪沙に手を出した。
「ほれ、凪沙」
「うん」
凪沙はそう言い、悠斗の手を取って学校の屋上へ降り立った。
「ここなら安全だ。 もう大丈夫だ」
「ありがと、悠君。――ねぇ、悠君」
「ん、なんだ?」
凪沙はこれを言うか迷ったが、勇気を振り絞って言った。
「……悠君は、あの恐い人とこれから戦うの?」
悠斗も言い迷ったが、
「ああ、俺にはあいつらを止める力があるからな。 行かなくちゃ」
「朱雀君の力だけで、勝てる相手なの?」
「わからない。としか言えないな……」
そう。 ナラクヴェーラは
浄化の焔に対抗する手段と、結界を破る手段を覚えられたら、正直厳しいかもしれない。
「朱雀君から聞いたんだけどね。 悠君の中に眠る眷獣さんは、一体だけじゃないんだよね?」
「あ、ああ、そうだな。 一応、他にもいるが」
もし、
「――凪沙の血を吸えば、悠君が思ってる子は解放される、のかな?」
悠斗はポカンとしてから、勢いよく両の手を突き出し左右に振った。
「いや、いやいやいや、なんでそうなる。 朱雀の力だけで大丈夫だ。 うん、大丈夫だ。 なんとかなる」
悠斗は早口で捲し立てた。
余談だが、悠斗は、凪沙に隠し事ができたことが一度もない。
ちなみに、悠斗は吸血衝動の制御が可能だ。
「うそ。 正直厳しいって思ってるでしょ? 悠君」
凪沙に図星を突かれ、悠斗は観念した。
「……あい、思ってます」
すると突然、凪沙がリボンを解いた。
「な、なな、凪沙さん。 なにしてるんですか!!??」
悠斗は、人生の中で一番動揺した。
その為、動揺を隠し切れてない。
「凪沙、魅力がないのかな」
「いや、あるから。 凪沙は誰よりもあると思うぞ」
凪沙はボタンを外して、胸元をはだける。
白い肌と細い鎖骨。 そして首筋が露わになる。
悠斗は吸血衝動に駆られそうになるが、自身の唇を噛んで流れ出た血を飲み、衝動を抑え込む。
だが、ゆっくりと歩く凪沙を見て、再び吸血衝動に駆られた。
瞳が真紅に代わり、唇の隙間から牙が覗く。
「悠君。 凪沙の血を吸って、いいんだよ」
「いや、でも、それは――」
その時、悠斗は気づいた。
凪沙の肩が小刻みに震えてることに。
本当はもの凄く恐いのだ。
凪沙は魔族恐怖症だ。 悠斗のことは恐くなくても、吸血鬼には変わりないのだ。
「はあ、凪沙には一生敵わない気がするよ」
「そうかな」
「ああ、そうだ」
悠斗は、優しく凪沙を抱き寄せた。
「凪沙。 ちょっと痛いと思うけど、我慢してくれ」
「うん」
悠斗の牙が、凪沙の体にそっと埋まっていく。
「んん……はあ……悠、君」
凪沙はその痛みに耐えながら、弱々しい吐息が漏れる。
やがて、抱き付いた凪沙の体の力が抜けていく。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「さて、行くかな」
「うん。 凪沙、悠君帰りを待ってるから」
「おう、必ず帰る」
悠斗はそう言って、朱雀の背へ跨る。
悠斗は、あ、そうだ、と言い凪沙を見た。
「今日の献立はカレーでよろしく! 俺はいつも通り激辛で」
「うん、わかった。 今日もみんなで食べようね」
凪沙は、満面の笑みで言ってくれた。
「そだな。 じゃあ、行って来るな」
「いってらっしゃい、悠君」
「おう、行ってくる。――舞え、朱雀!」
朱雀は一鳴きし、羽根を羽ばたかせた。
凪沙に手を振られ、悠斗も振り返した。
悠君と凪沙ちゃん。最早恋人……いや、夫婦の域やん(笑)
さて、次回はアイツを降臨させるように頑張ります。
てか、朱雀の技って、汎用性良いよね(笑)
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!