ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

28 / 117
眠い中書きあげましたです。
えー、今回は繋ぎ回になってますな。
楽しんでいただけたら幸いです。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


蒼き魔女の迷宮Ⅱ

絃神島中央空港は、旅客たちで溢れていた。

十月最後の金曜日である今日は、波朧院フェスタの前夜祭が行われることになっている。

夕方から始まるイベントに備えて、島外から観光客が本格的に押し寄せているのだ。

 

「ギリギリ間に合った……か」

 

電光掲示板を見上げて、古城が荒い息を吐く。

時刻は午前九時を、十五分ほど過ぎようとしていた。 しかし待ち合わせをした人物の姿は見えない。

おそらく、上陸審査に時間がかかっているのかもしれない。

 

「本当にもう! 古城君の準備が遅いから、私たちまで汗だくだよ。 せっかくオシャレな服選んできたのに。 どうしてこんな日に寝坊するかな。 信じられない。 ホントあり得ない」

 

「悪かったよ! 昨日の夜の騒ぎで目が冴えて眠れなかったんだよ! てか、何で悠斗は起きられたんだ?」

 

古城は、隣に立っている悠斗に目を向けた。

悠斗は後頭部に両手を回した。

 

「凪沙に起こしてもらったからな。 まあ、日々の習慣ってやつだ」

 

ちなみに、悠斗が昨夜眠っていた場所は、ソファーの上である。

悠斗はニヤリと笑い、

 

「古城は、夏音が部屋に来て目が冴えてしまったとお見受けしますが?」

 

「古城君は恥ずかしいな、もう!」

 

「う……ぐ……!」

 

悠斗と凪沙に図星を指され、古城は言葉に詰まる。

古城は、吸血衝動を感じさせるほどの刺激を受けた直後に、ぐっすり安眠できるほどの神経は持ち合わせていないのだ。

まあ、理性の化け物を持つ悠斗は例外だが。

 

「すみませんでした、お兄さん。 私のせいで」

 

夏音が責任を感じたような表情で頭を下げる。

今日彼女が着ているのは、飾り気のないコットンドレス。 しかし夏音の華やかな銀髪が、地味な服装を引き立ってしまい、空港にいる観光客の注目を浴びてしまっている。

 

「いや、叶瀬が悪いんじゃないから気にするな」

 

「てか、古城。 夏音まで毒牙にかけないようにな」

 

悠斗の指摘に、古城は眼を丸くした。

 

「いや、どういう意味だ。 毒牙にかけるって?」

 

「……刺されないように頑張れ。 俺にはこれしか言えないな」

 

雪菜が話題を変えるように、困惑気味な口調で呟いた。

 

「……で、でも、私たちまで一緒に来てよかったんでしょうか。 迷惑なんじゃ……」

 

彼女の服装は、ポロワンピースにニーソックス。 もちろん背中には、いつもギターケースがある。

 

「てか、俺も迷惑じゃないのか? 今のところ(・・・・・)部外者だし」

 

「いいのいいの。 悠君はほら、優ちゃんに紹介したいし。 雪菜ちゃんたちは波朧院フェスタ初めてなんでしょ。 一緒に回ったほうが楽しいよ。 一人案内するよりも三人まとめて案内するのも変わらないしね」

 

遠慮がちな友人たちの肩を抱きながら、凪沙が朗らかな口調で言う。

 

「まあ構わないけど。 優麻もいいって言うだろうしな」

 

古城は肩を竦めた。

 

「友達を連れてくって言ったら喜んでた。 優ちゃんは昔から女の子に優しかったよね」

 

「ああ」

 

「いい奴なんだな。 優麻って奴は」

 

古城は相槌を打ち、悠斗はどんな奴なのかなと思っていた。

優麻とは、古城の幼馴染に当たる人物らしいのだ。

 

「……で、通行人AさんとBさんは何をやってるんだ」

 

悠斗呆れたように、柱の陰に隠れた男女二人組を見ていた。

華やかな髪形の女子高生と、ヘッドフォンを首にぶら下げた短髪の若い男。 それぞれ目元を派手なカーニバルマスクで覆っている。変装のつもりかもしれないが、この場では目立ち過ぎて逆効果だ。

 

「……よく見破ったわね、私たちの完璧な変装を」

 

正体を看破されたことを悟って、浅葱がマスクを外す。

古城も呆れて笑う気力もなかった。

 

「なにが完璧だ。 あからさまに怪しいわ。 どっから持ってきたんだ、そんな仮面」

 

「いやー、仮装パレード用のやつをちょっとな」

 

仮面から生やした孔雀の羽根を撫でつつ、基樹は得意げに胸を張る。

 

「お前ら、そんな手間暇かけて何がしたかったんだ?」

 

「いいでしょ、別に。 古城の友達の顔を拝んだら、すぐ帰るからさ」

 

「だな。 オレもやっぱ、古城の幼馴染っていうの見てみたいし。 悠斗の言うとおり、ただの通行人だと思って気にしないでくれ」

 

「わざわざ隠れて見に来なくても、言ってくれれば紹介するのに……」

 

そう。 待ち合わせの話題が出た時、浅葱と基樹もその場に居合わせたのだった。

古城はやれやれと首を振る。

 

「――古城!」

 

頭上から誰かが大きな声で呼びかけてきた。 混雑したロビーでも良く響くアルトな声だ。

その声につられて、古城が顔を上げる。 視界に映ったのは、舞い降りてくる人影だ。

階段の手すりから身を乗り出した誰かが、古城目がけて飛び降りてきたのだ。

快活そうな雰囲気な子だ。 髪型は撥ねたショートボブ。 上着はポーツブランドのフード付きチュニック。 ショートパンツから伸びた脚はすらりと長い。

 

「うおっ!?」

 

古城はどうにか彼女を受け止める。 結果的に抱き合うようになった姿勢のまま、古城は彼女を呆然と見つめて、

 

「ゆ、優麻!?」

 

「久しぶり。 元気そうだね、古城」

 

優麻と呼ばれた少女が、悪戯っぽく目を細めて言う。

ボーイッシュと呼ぶには可憐過ぎる笑顔だ。

 

「……今ので危うく心臓が止まりかけたぞ。 相変わらず無茶苦茶するな、お前は」

 

ははっ、と華らかに笑って、少女が周囲を見渡した。 今の騒ぎで自分たちがロビー中の視線を集めてしまったことに気付いたらしい。

少し困ったように舌を出して、古城を見る。 古城が深々と溜息を洩らしていると、それを押しのけるようにして、凪沙が悠斗の手を握って二人の間に割り込んだ。

 

「優ちゃん!」

 

「凪沙ちゃんか。 美人になったね。 見違えたよ」

 

「またまたー……こないだ写真送ったばっかじゃん」

 

「いやいや。 写真より実物はもっとね。 そういえば、紹介したい男の子って」

 

凪沙は悠斗に目を向けた。

 

「神代悠斗だ。 凪沙とは――……えーと」

 

皆が見てる所で、今の関係は公にすることはできない。

だが、友人関係、恋人関係でもない。 今現在の悠斗と凪沙の関係は、その上をいっているのだ。

迷いに迷った悠斗の答えは、

 

「世界で一番仲がいい、先輩と後輩だ」

 

「そっか。――凪沙ちゃんをよろしくね」

 

優麻の最後の言葉は、意味深な言葉だった。

もしかしたら、今のやり取りで色々とバレたのかもしれない。

やはり、女の勘は怖い。 怖すぎる。

 

「なにあれ。 どうなってるの!?」

 

「そ、それは私に聞かれても……」

 

雪菜が珍しく口籠った。 昨夜アルバムで見た子とあまりにもかけ離れていたのだ。

 

「ちょっと古城。 どういうことなのよ?」

 

業を煮やした浅葱が、強引に古城を引き寄せて聞ていた。

その間に、悠斗は凪沙の隣に移動する。

 

「なあ、凪沙。 優麻って奴に、俺らの関係バレたかもな」

 

「そうかも。 優ちゃんは昔から、恋愛関係の勘は鋭かったからね」

 

悠斗は息を吐いた。

 

「バレてないのは、古城だけかもな」

 

「そうかも。 古城君は、恋愛面では鈍感さんだからね」

 

ひそひそと話していたら、優麻が悠斗と凪沙前まで歩み寄った。

 

「なにを話しているんだい。 凪沙ちゃん、悠斗君。――大体予想はつくけどね。 君たちの関係のことだよね」

 

悠斗は、やっぱりバレてた。と思い肩を落とした。

 

「……まあな。 このことは黙っててくれ」

 

「いやー、凪沙ちゃんに置いていかれるとは、ボクも予想外だったよ。 結構進んでるんでしょ?」

 

凪沙が頬を朱色に染めながら、

 

「……彼氏彼女の枠は超えてるかな」

 

「はは、やっぱり。 悠斗君も凪沙ちゃんの手を離さないようにね」

 

「離すわけないだろ」

 

悠斗は即答した。

 

「凪沙ちゃんも、いい男の子を見つけたね」

 

「……うん」

 

「じゃあ、ボクは古城を助けてくるよ」

 

そう言って優麻は、古城の元へ向かっていった。

こうして、幼馴染との邂逅は終了した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

古城たちは混みあったモノレールを乗るのを諦め、バスでキーストーンゲートへ移動した。

絃神市内でもっとも巨大なこのビルは、人口島全域を司る中枢施設だが、同時に高級ブランドショップなどが集まる島内のオシャレスポットでもある。

一通り博物館を見て回ったあと、基樹オススメのカフェテリアに入る。 店内は古びているが、とても良い雰囲気の店であった。

五人がけのテーブルしか空いていなかった為、中等部三人と高校生にわかれて座ることになった。

高校生組は、浅葱と基樹、悠斗と古城、優麻というメンバーだ。

古城と優麻が料理を受け取りにいったので、浅葱と基樹と悠斗は自動的に荷物番として残る係になってしまう。

 

「……面白くないって顔だな」

 

「そりゃそうだろ。 古城があんな隠し玉を持ってたなんてな。 てか、どんだけフラグ建ててんだ? あいつ、まじで刺されるんじゃないか」

 

ジンジャエールのグラスを行儀悪くブクブクしていた浅葱を眺めて、基樹と悠斗が言う。

 

「あんたらは、ずいぶん楽しそうね」

 

浅葱がやさぐれた目つきで聞き返す。

 

「優麻ちゃん、うちの先輩には及ばないまでも、なかなか魅力的だもんな。 特に、あの脚とか腰とか。 スレンダーに見えて実は胸もなかなか。 悠斗もそう思わないか?」

 

基樹が腕を組みながら、悠斗に問いかける。

 

「まあ、そうなんじゃねぇか」

 

悠斗は興味がないと言い、目の前に置いてある、コーヒーが入ったグラスを口にした。

基樹は苦笑した。

 

「そうだったな。 悠斗は、あの子一筋だもんな」

 

あの子とは凪沙のことである。

浅葱と基樹にも、悠斗が凪沙のことが好きだということがバレてる。

 

「まあな」

 

浅葱が、雪菜たちと楽しそうに雑談してる凪沙を見ながら、

 

「凪沙ちゃんが羨ましいわ。 てか、古城の中身は小学生で止まってるわよね」

 

「いや、それはないと思うぞ。 たぶん、古城の好きの定義が、しっかりしてないんじゃないか?」

 

「あー、それあるかもな。 古城は恋愛したことなさそうだしな」

 

おそらく古城は、雪菜や浅葱のことを仲のいい友人、学校の後輩としか見てないだろう。

ということは、面と向かって想いを告げないと効果はないのかもしれない。

 

「ま、頑張れ」

 

「浅葱は、奥手すぎるからな」

 

「うるさいわよ」

 

浅葱は、悠斗と基樹の言葉を聞き、ムスっとした。

そうこうしてる内に、話題になっていた優麻たちが、トレイに山盛りの料理を抱えて戻ってきた。

ホッドドックやオニオンリングなど、外れのなさそうなメニューばかりだ。

 

「お待たせ。 適当に注文しちゃったけど、こんな感じでよかったかな」

 

「まあ、俺は構わないぞ。 今じゃ好き嫌いはないしな」

 

「今じゃって。 悠斗君は好き嫌いあったの?」

 

「まあな。 特に、ピーマンとか」

 

優麻はクスクス笑いながら、座っていた席に腰を下ろした。

 

「美味しいね、これ」

 

そう言ってスープを口に運ぶ優麻に、基樹が、おお、と嬉しそうな声を上げた。

 

「この店の味がわかるとは、やるな。 仙都木ちゃん。 ここは絃神島でも知る人ぞ知る穴場なんだよ。 ここだけの話、魔族特区の研究をフィードバックした特別な食材を使ってるからな」

 

「それはすごいな。 よかったら矢瀬くんも、どう?」

 

感心したように言いながら、優麻はスプーンを基樹の前に差し出した。

所謂、「はい、あーん」の姿勢である。 基樹は一瞬驚いたように動きを止め、頬を赤らめながら顔を突き出す。

 

「う、美味いです」

 

敬語になって感想を述べる基樹。

優麻にとっては、この程度の行為はごく普通のコミュニケーションなんだろう。

そんな優麻の性格を知っている古城も、平然と食事を続けている。

 

「悠斗君もどうかな?」

 

悠斗は、優麻の問いに片手を振った。

 

「いや、遠慮しとく。 男と間接キスをする趣味はないしな」

 

「もう、つれないな」

 

外で電話をしていた基樹が、険しい表情で戻ってきた。

 

「悪い。 ちょっと野暮用が入った。 オレは抜けさせてもらうわ」

 

愛用のヘッドフォンを引っ掴んで、店を飛び出していく。

古城はポテトフライを口にくわえたまま、ぽかんと見送っていたが、

 

「待てコラ! ちゃんと食ったぶんは払ってけよ、オイ!」

 

「ふははははははは!」

 

「ふはははは、じゃねぇ!」

 

高笑いして、基樹は店を後にする。

 

「ごめん、古城、悠斗。 私もバイトが入ったから、抜けさせてもらうわ」

 

そう言い、浅葱も店を後にする。

悠斗は違和感を覚えた。 何なのかは、まだ解らないままだが。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

地上十二階でエレベータを乗り換え、そのさらに上にある展望台に古城たちは訪れていた。

絃神島のド真ん中。キーストーンゲート最上部の展望ホールだ――。

 

「うわ、絶景だね!」

 

ガラス張りの床の上に物怖じせず飛び出して、凪沙が甲高い歓声を上げた。

ドーナツ型の広間は、直径十メートルほど。壁や床の大部分がガラス張りということもあり、ここから絃神市内のほぼ全域が見渡せる。 床全体がゆっくり回転してるので、立っているだけで全ての風景が堪能できるのが、ここの売りだ。

悠斗は苦笑しながら、凪沙の背を追った。

その時、悠斗はまた何かの違和感に襲われた。 模造天使(エンジェル・フォウ)とは違う違和感だ。

悠斗は顔をしかめた。

 

「何だこの感覚。 眷獣たちが何かに反応してるのか?」

 

すると、エレベータ付近で軽い騒ぎが起きていた。

 

「あ、悠君、古城君。ちょっと来て」

 

野次馬たちをかきわけるようにして、顔を出した凪沙が、古城と悠斗を呼んだ。

その後ろにはから顔を出したのは、あからさまに場違いなメイド服姿の少女だった。

藍色の髪に、淡い水色の瞳。 人形めいた無機質な美貌。 人口生命体のアスタルテだ。

 

「捜索対象を目視にて確認」

 

「ア……アスタルテ?」

 

古城が呆然と彼女の名前を呼んだ。

古城と悠斗は、アスタルテの元へ向かう。

 

「アスタルテ、何かあったのか?」

 

悠斗がアスタルテに問うた。

 

「現状報告。 本日午前九時に定時連絡を持って教官との連絡が途絶えました」

 

「……連絡が途絶した? 那月ちゃんに何かあったのか?」

 

「肯定。 発信器、及び呪符の反応消失」

 

「マジか……」

 

古城は呆然と呟いた。

本当に那月が失踪したのなら、彼女の身に何かの脅威が起きてる。 そしてそれは、絃神島に存在してる、ということでもある。

もしかしたら、悠斗が感じている違和感に関連してるのかもしれない。

 

「このような場合の対応手順を、教官から伝えられています」

 

動揺を隠し切れていない古城たちに、アスタルテが事務的な口調で告げた。

 

「叶瀬夏音を優先保護対象に設定せよ、ということです」

 

「つまり、那月ちゃんは、この事態を前以って知っていたっていうことか?」

 

「不明。 データ不足により回答不能」

 

「……だよな、すまない」

 

アスタルテの心情を察して、悠斗は謝る。 表情に出さないが、那月が失踪したことで不安に思っているのはアスタルテも同じなのだ。 その瞳がかすかに揺れているように見えた。

気がかりなことが一度に起こりすぎている。

悠斗が今現在感じている違和感。 那月の失踪。 基樹と浅葱の急な呼び出し。

 

「何か……嫌な予感がするな」

 

偶然にしては出来すぎている。 今現在、何かが起こっているようにも感じる。

そして、悠斗の嫌な予感は、当たる確率の方が高いのだ。

悠斗はわだかまりを残したまま、キーストーンゲート最上部を後にした。




うん、女の勘は怖いね……。
今回は、甘さ控え目でしたね。次回はどうだろうか?
あのシーンがまだですからね(笑)

ではでは、次回もよろしくです!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。