この章のエピローグになりますね。なので、いつもよりは短いです。
では、投稿です。
本編をどうぞ。
波朧院フェスタも、間もなく二日目の夜を迎えようとしていた。 またこの日には、花火大会も予定されている。
古城と雪菜、悠斗が歩いてる場所は、
ガイドブックに載ってる花火大会の見物スポットからも離れているし、街灯も必要最低限しかないので、誰も近づこうとはしないだろう。
古城たちは、積み上げられたコンテナの隙間を抜け岸壁に出る。
この時期は、絃神島に訪れる貨物船の数は少ない。 なので、随分見晴らしが良かった。 周囲の海が一望出来る。
「待ち合わせの場所って……ここだったか?」
少々不安を覚えた古城は、携帯を取り出して場所を確認しようとした。
ちなみに、悠斗は浴衣姿である。
「ここでよかったはずだぞ。 スマホに送らてきた場所と一致するからな」
その直後、鮮やかな光が闇夜を照らした。
一瞬遅れて、ドンッ!という音が、古城たちの肌を震わせる。 そう、花火である。 色とりどりの花火が夜空に咲いている。
「あ……」
雪菜が空を見上げて、声を洩らす。
大きく見開かれた彼女の瞳が、子供のように無邪気に輝いてる。
「なかなかの穴場だろ?」
古城たちの足元には、いつの間にか一人の幼女が立っていた。 豪華なドレスを着た、人形めいた幼女だ。
「私のとっておきの場所だが、お前たちには、今回借りを作ったからな。 特別だ」
「那月ちゃん……」
「担任教師をちゃんづけで呼ぶな」
那月が、不愉快そうに古城を睨む。
「だが、サナと呼ぶのは、許してやらんこともないぞ」
「気に入ってたのかよ、その呼び名」
脱力し、その場に跪きながら呻く古城。
「那月。 また、監獄結界に戻るのか?」
花火が途切れるのを待ち、不安顔をした悠斗が聞く。 監獄結界は、管理者である那月が見てる夢だ。
それを封印する為に、那月は異界に閉じ込められ、眠り続けなければならない。 誰にも直接触れることなく、歳を取ることもなく、たった一人っきりで。 其れが魔女として、那月が支払った契約の対価なのだ。
「気にするな。 すぐにまた会える」
幻影としての那月には、またすぐに会えるだろう。 話もできるだろう。
しかし、本物の那月には会う事はできない。 いつか誰かが、監獄結界から彼女を解き放たない限り。 だが、悠斗なら、悠斗なら監獄結界を破壊する事が可能かもしれない。
「あの時と同じ顔をするな、悠斗。 あと、お前が今考えてることは止めるんだ。 このバカのためにな」
悠斗は、那月の言葉の意味を即座に理解した。
逆に言えば、那月は自身の意思で生徒を護ってる。
だが、監獄結界を破壊すれば、那月だけではなく、大勢の人に迷惑をかける事は目に見えていた。
「……わかったよ、那月」
悠斗は、渋々頷いた。
「わかればいいさ。 あとそうだな。 今の呼び方は、学園でするなよ。――週明けから普通に授業を再開するからな、遅刻せずにちゃんと戻ってこいよ」
「了解だ。 那月ちゃん」
悠斗は、いつもの口調、表情に戻った。
「私を那月ちゃんと呼ぶな。……まったく、今日だけは特別に許してやる」
古城も、那月の事をちゃんづけし、那月の小さな掌で鼻先を殴られ、体を仰け反らせた。
そのまま倒れそうになった古城を、優麻が抱き留めていた。
「優麻……!? 怪我は大丈夫なのか!?」
「空隙の……いや、南宮先生に許可をもらって一瞬だけ時間をもらったんだ。 また暫くは会えそうにないからね」
優麻が少しだけ寂しげに微笑む。
まだ未成年で、しかも母親に利用されていただけとはいえ、彼女は犯罪組織LOCの幹部だったのだ。 例え負傷から回復しても、長い取り調べが待っているだろう。
「だけど、また会えるんだな」
奇妙な確信を覚えながら、古城は言った。
確かに優麻は取り調べを受け、罪に問われる事になるろう。 しかし、酷い扱いはされないはずだ。 何故なら、彼女には利用価値があるからだ。 第四真祖の幼馴染、または、紅蓮の熾天使と顔見知りという。 途轍もない利用価値が。
だがまあ、彼女がこのように扱われたと悠斗が知ったら、紅蓮の熾天使の全てを持って、其処を殲滅にかかるはずだが。
――優麻は、凪沙、古城の友達なのだから。
「そうだね。 また、遠くないうちに」
「そうか。 連絡できるか解らないが、何かあったら連絡しろよ。 力になるからな」
「うん、ありがとう。 悠斗」
「またな」
悠斗は右手を振りながら、この場を後にした。
まあ、古城の女難は続いたようだが。 また、二次災害を起こすかもしれないオマケを残して、優麻は那月の空間転移で逃げたのだった。
悠斗が耳を傾けると、古城と雪菜の会話が、若干だが聞こえてきた。
「傍にいろって……花火大会が終わるまでってことか?」
「この先もずっとです!」
悠斗はこの時、姫柊さん。 今の言葉はアウトだよ。と思っていた。
そう、古城たちは花火の轟音で聞こえていなかったと思うが、此方に歩み寄って来た人物が、これを呆然と見ていたからだ。
「……ゆ、雪菜……ずっと傍にいて……って、それってまさかプロポー……」
「そ、そう。……まさか、正攻法で来るとはね、……やるわね……」
紗矢華と浅葱にそう言われ、雪菜はあたふたと取り乱していた。
「あ、あの……待ってください。 今のは、その……」
しかし、事情が複雑なので、説明するのが難しいのだ。
悠斗はそんな光景を見ながら、一人の少女の前まで歩み寄る。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「全部終わったの?」
凪沙にそう言われ、悠斗は頷いた。
「ああ、全部終わった。……すまなかった。 心配をかけて」
「ううん、凪沙は大丈夫だよ。 悠君は、怪我とかない?」
凪沙は、笑みを浮かべながらこう言ってくれる。 凪沙は悠斗の帰りを、いつも笑顔で迎えてくれるのだ。
「ないぞ。 怪我は全部、凪沙の
凪沙は、安堵の息を吐いた。
「そっか、よかった。――悠君。 この後、一緒に花火を見ようね」
「そだな。 約束だからな」
凪沙は、悠斗の浴衣姿を見て、
「そ、そうだった。 浴衣に着替えなきゃ」
凪沙の今の服装は、波朧院フェスタの仮装衣装だ。
着替えなくても全く問題ないと思うぞ。と悠斗が指摘したら、花火を見るんだったら浴衣じゃなきゃダメ。と言われてしまったのだった。
「悠君はどんな浴衣がいい? 悠君のリクエストに合わせるよ」
「そうだな。 淡い水色で、所々にピンクの撫子あしらった浴衣……かなぁ」
何故か、凪沙は頬を赤くした。
え、何で。と悠斗は首を傾げるだけだ。
「……悠君。 ピンクの撫子の花言葉は、『純粋な愛』なんだよ」
此れには、悠斗が取り乱した。
撫子の花言葉を知ってる人が聞けば、悠斗はロマンチストに見えたはずだ。 悠斗は、其れが恥ずかしかった。
「お、おう。 そうなのか。 初めて知ったぞ。――まあでも、本当の事だからな」
最後の言葉は、凪沙にしか聞こえないボリュームで口にした。
此れに答えるように、凪沙も小声で、
「――――凪沙も同じ気持ちだよ」
悠斗は甘い固有結界の中に入りそうになったが、流石にここではマズイと思い、踏み止まる事に成功したのだった。
「んじゃ、花火を見に行こうぜ」
「うん、りょうかい!」
一度笑い合ってから、悠斗と凪沙はこの場を後にした。
凪沙は浴衣に着替えてから再び合流となったので、悠斗は、待ち合わせ場所へ向かったのだった。
此れが、騒がしい宴の夜に起きた、知られざる一幕だった。
この章が完結しました。
悠斗君と凪沙ちゃんの花火大会は、約束までしか書けませんでしたが。
ですが、次回は花火デートを書くのお許しを(´・ω・`)
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!