昨日と今日で、ほぼ一気に投稿しております。
てか、錬金術師の帰還の章は、難しいですね( ̄▽ ̄;)
では、投稿です。
本編をどうぞ。
錬金術師――天塚汞は、半壊した修道院に立っていた。
銃弾戦後の硝煙の臭いが、薄らと漂っている。 彼の周りには無数の空薬莢が散らばっていた。 だが、
物質変化。
錬金術師の秘技を知る彼は、触れたものを金属へと変える能力を兼ね備えている。
其れは、
そう、天塚は一人で、
邪魔者を排除した天塚は、杖を弄びながら、修道院の壁に埋め込まれた彫刻を眺めている。 それは――金属製の
刻みつけられた模様は、ふとした瞬間に一人の女性が浮き上がって見える事がある。
天塚は時より懐かしげに、
男たちが三人ばかり、修道院内に踏み込んできたのだ。
「どうも、専務。 意外にお早いお着きですね」
振り返った天塚は、彼らに笑いかけた。
「約束の時間はとっくに過ぎているぞ、天塚……いつまで儂を待たせる気だ」
呼びかけに応じたのは、専務と呼ばれた中年男性だった。
「あはは、ごめん。 でも、
悪びれない口調で天塚が言う。
専務と言われた男性は、苛々しげに鼻を鳴らすだけだ。
「まあいい。 とにかく、これが本物の、
「師匠が残した遺産を、僕が間違えるとでも」
心外だ、と言いたげな表情で天塚が首を振る。
それを無視して、専務は、
「しかし……ただの彫刻にしか見えんな……」
「今はまだ眠っているからね。 この状態では金属の塊だ。 叶瀬賢生もいい判断をするよ。 確かに、下手に隠すよりは、この方がよっぽど目立たない。 でも――」
真面目な口調に戻り、天塚が言う。 コートの下から取り出したのは、透き通った深紅の球体だった。 叶瀬賢生を襲撃して、彼から奪った物である。
天塚は、それを
「ほら、目覚めた」
その瞬間、
表面を波打つように揺れ動き、触手のようにうねりながら、宝玉を自らの内部に取り込もうとする。
その姿は、仮死状態から蘇ったアメーバを連想させた。 深紅に輝く金属製のアメーバだ。
「なるほど……。 それが、
「そう。 高度な自己増幅機能を有する、融合型の液体金属生命体。――
完全に取り込まれる前に、天塚が
これが、ただの
浮彫の姿をしているのは、叶瀬賢生によって施された偽装だ。 この彫刻の正体は、自らの意思を持つ液体生命体なのだ。
もちろん、自然界に生息する生物ではない。 不定形にして永遠不滅。 世界の理に反した物だ。
このような生命体を生み出せるのは、物体の組織を操る錬金術師の奥義のみ。
もし、この不滅な金属生命体に自らの魂を移植できるとしたら、完全な不老不死の人間が生まれる事になる。 その奇跡を可能にするのが、深紅の宝玉――
「錬金の中に意識を転移することで、霊血に融合されても、融合者は意識を保つことができる。 自らの肉体を不滅の金属生命体に換えて、永遠に近い命を得る事ができるってわけ。 うちの師匠が到達した、錬金術の極致だよ」
「不老不死……オマケに、吸血鬼の真祖に匹敵する魔力を備えた完全な生命か……。 この力があれば、儂を取締役会から追い出して、こんな僻地に飛ばした本社の連中に一泡吹かしてやれるわけだな。 それどころか、オーナーの一族を根絶やしやることも……。 いや、待て。 紅蓮の熾天使はどうなんだ? あいつにも、匹敵しているのだろう?」
「一時期世界を震撼された彼か……。う――ん、どうだろうね。 紅蓮の熾天使は、真祖より強いからね。 まあ、あなた次第ってことかな」
「……そうか」
天塚は専務の前に立った。
宝玉を受け取った専務は、疑心を持った目つきで天塚を見た。 天塚が、
そんな究極と言える宝玉を、理由もなく他人に渡すなど、天塚は気前の良い人物ではない。
「この
「もちろん、約束は守らないとね」
天塚は得意げに微笑んだ。 コートの襟元をはだけて、隠していた自分の胸元を晒す。 其処に現れたのは、おぞましい奇怪な肉体だった。
右半身は、人間の姿をしていない。 光沢を帯びた金属が、彼の体を侵食しているのだ。
天塚の胸の中央には、心臓代わりの石が埋め込まれているが、その色は濁った黒である。 天塚が辛うじて人間の姿を保っていられるのは、その黒い石のお陰らしい。
「僕はこう見えても、あんたには感謝してるんだ。 五年前の事故で死にかけていた僕を救ってくれたのがあんただからね、専務。 おかげで、この
「ふん。 いい心がけだな、天塚」
専務は、天塚から受け取った宝玉を撫でて言った。
彼は、国内でそれなりの名の知れた機械メーカーの社員だ。 ただし、肩書きは専務ではなく、社内で起こした不祥事によって取締役の地位を剥奪され、人員整理の為閑職に回されてしまった者だ。
天塚と出会い、自らの復讐の為に
「安心しろ、その忠義には報いてやるぞ。 儂が本社の全権を掌握した暁にはな!」
「期待してるよ、専務。 お互い良い判断をしたね」
天塚はそう言って
「ふむ。……わかってきたぞ。 この窪みか」
変化は劇的に現れた、銅板のような色をしていた
飛び散った金属液体は、表面張力によって巨大な紅い水滴と化すと、錬核の持ち主の元へ殺到する。 足元からじわじわ這い上がり、肉体を覆い尽くそうとする。
「おうおう……見事に蠢いているわ。 見ろ、この血のような艶やかな赤を。 まるで、極上のワインのようではないか。 なあ、天塚?」
だが、
液体金属の一部が盛り上がって、水滴の中に人影を浮かび上がらせようとしたからだ。
深紅の液体金属が形作ったのは、若い女性のシルエットだった。 見た目の年齢は十八程度。 異国風の顔立ちの女性である。
「これはこれは」
天塚が楽しげに唇の端を吊り上げた。 彼女が現れるのを待ちわびていた、という表情だ。
「これが、大錬金術師ニーナ・アデラードか!」
笑みを浮かべながら専務が叫ぶ。 突然の事にも、動揺してる気配は感じられない。
「
そう、天塚が解説する。
液体金属から生まれた彼女は、人間の姿を完全に取りしつつあった。 艶やかな黒髪が背中から流れ落ち、深紅の水滴を散らして、きめ細やかな褐色肌が現れていく。――が、一度は
「喰われる……儂の体が……天塚! 何とかせい、天塚!」
「心配いらないよ、専務。 すぐに終わる」
天塚の背広が弾け飛び、液体金属に侵食された彼の体が露わになる。 全身のあちこちには、黒い宝石が嵌め込まれていた。 天塚が創り出した
「この瞬間を待っていたんだよ、師匠……。 あなたが
天塚が高らかに哄笑した。 専務の体、
「おおおおお! 天塚! 貴様!?」
「なぜだ……天塚……なぜ、裏切った。……そこまでして、霊血を独占したかったのか!?」
最早、上半身だけになった専務が、弱々しく天塚に問いかけた。
そんな彼を見下ろして、天塚が嘲笑う。
「そうじゃないよ、専務。 その逆さ」
やがて、
美しかった彼女の体は、黒くひび割れ、粉々に砕け散っていく。
「あんたには、本当に感謝してるんだよ、専務。 だがら、あんたの望みを叶えてやる。 あんたの肉体は、霊血の一部となって永遠に生き続ければいい」
天塚は無邪気に笑いながら、かつて、専務だったものに背を向ける。
漆黒の
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古城が携帯を仕舞うと顔を青くしていた。
何故だ?と思いながら、悠斗は声をかける。
「どうしたんだ?古城。 そんなに顔を青くして」
「……やばい。 浅葱が修道院に向かった。 今、浅葱は修道院付近にいる……」
これを聞いた悠斗が顔を強張らせた。
もし、天塚汞が修道院に戻り、作業している所を見られたら、天塚はその目撃者を消すはずだ。
と言う事は、浅葱に危険が迫っていると言う事に結びつくのだ。
「……古城。 俺は朱雀を召喚させて向かう」
古城と雪菜は唖然とした。
悠斗は、二人の言いたい事が解った。
「わかってる。 俺の正体がバレたら、学園にはいられないかもな。 だが、人命が第一だ」
悠斗は骨董品屋の扉を開け放ち、左手を前に突き出した。
「――降臨せよ、朱雀!」
悠斗は朱雀の背に乗り、修道院付近を目指して飛翔した。
まだ希望はある。 玄武の気配察知では、浅葱の気配は消えていないのだ。 そう、もしその対象が死亡したら、それが消えてしまうのだから。
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「……遅かった、のか」
悠斗が修道院に到着した時、最初に口にした言葉だった。
修道院正面の礼拝堂が完全に崩壊し、瓦礫があちらこちらに飛び散っている。 建物を内側から突き崩したような異様な光景だ。
修道院を警護していた
これが出来るのは、天塚汞で間違えはない。 だが、この場には天塚の姿が見当たらない。
悠斗は、嫌な予感を払拭させるように、礼拝堂の中に足を踏み入れる。
だが、悠斗の嫌な予感が的中する事になる。
そう、空気中には微かな血の匂いが漂っていたのだ。
深紅の血溜まりの中に、制服姿の少女が倒れている。 校内違反ぎりぎりまで飾り立てた服装と、明るく染めた華やかな髪型。
「……バカ野郎。 何で戻ってきたんだよ」
だが、その言葉と裏腹に、一つの疑問も浮上する。
もし、死んでいるとすれば、何故気配が消えない? 傍から見れば死亡したように見えるが、何らかの方法で生を保ち続けている?
その時、古城と雪菜も合流した。
「嘘だろ……おい……何で……こんな……。 天塚、ぶっ殺してやる!」
憤怒に顔を歪めた古城の双眸が真紅に輝いていた。
撒き散らされる魔力の波動に、大地が震える。
古城の怒りに呼応して、眷獣たちが暴走しようとしているのだ。
「古城! 俺の話を聞くんだ! 浅葱は、死んでないかもしれない!」
「先輩! 落ち着いてください、先輩!」
だが、古城は聞く耳を持たない。 完全に頭に血が昇ってしまっている。
魔力の暴走は勢いを増し、雷撃や衝撃破を生み出し始めていた。 悠斗は、朱雀の焔の鎧で無傷だ。
だが、雪菜はそうはいかないのだ。 雪菜を守っているのは、紗矢華もどきの式神だ。 強固な防御結界を展開し雪菜の盾になっているのだ。 だが、それも長くは持ちそうにない。
「許せよ、古城。――降臨せよ、玄武!」
悠斗は傍らに玄武を召喚させ、命令を下す。
「――
玄武が咆哮し、古城が発する魔力のみを無に帰し、隙が出来た所で、悠斗の拳が古城の腹部を打ち当てる。
古城はこれを受け、項垂れるように気を失った。
「……まったく、世話の焼ける真祖だな」
そう言いながら、雪菜に古城をゆっくりと渡す。
雪菜はオドオドしながら、
「あ、あの先輩は……」
「大丈夫だ。 ただ気を失ってるだけだから、数分もすれば目を覚ますはずだ。――で、これはお前がやったのか? 天塚汞」
「そうだよ。 君の正体がやっとわかったよ。 君は――紅蓮の織天使だね」
笑いを含みの冷淡な声がした。
声の主は、白いコートを着た錬金術師。 赤白の帽子とステッキは身につけていないが、間違えなく天塚汞だった。
「戻って来て正解だったな。 まさか、そんな風に隠れていたとはね」
街路樹の陰から現れた天塚が、悠斗たちの方へ悠然と歩いてくる。
しかし、それは悠斗たちに向けられものではなかった。 向けられた先には、血まみれの浅葱だ。
「……なるほどな。
「そんな事も知ってるんだ。 君はもの知りだね」
天塚とのこの会話で、悠斗は確信が持てたのだった。
そう、――浅葱は生きている。
「じゃあ、俺の言った事は合ってるんだな」
「その通りだよ。 彼女の残りが、あれの中にあるのさ」
「そうか、一つ質問だ。 お前の本体は何処にある?」
天塚は僅かに驚愕するが、すぐさま平静に戻る。
「へー、そんな事も解るとは。 君は生かしてたら危険だね。 ここで死んで貰うよ」
「お前如きが、俺を殺せるわけがねぇだろうが。 天塚、お前は消えてもらう。――
玄武の甲羅に巻きついた蛇が、天塚を無に帰した。 ほぼ一瞬の出来事だったので、天塚は、何も出来ず消滅した。
雪菜は顔を逸らしていた。 人が消える光景に慣れていないのだろう。
悠斗は、この光景は見慣れてしまっていた。 昔、このような経験が山のようにあるのだから。
その時、沈黙していた少女の声が聞こえてきた。 瓦礫の散らばる道路の上で、浅葱が上体を起こしたのだ。
「あいたたたたた……うわ!? なにこれ、どうなってるの!?って古城、何で気絶してんのよ!?」
破れた制服と、べっとり血で汚れた両手を見下ろし、浅葱は情けない悲鳴を上げた。
悠斗は片手を上げ、
「よう、浅葱」
「『よう』じゃないわよ! 何がどうなってるのよ!?」
「いやまあ、色々あってな。 簡単には説明できないんだよ。 まあ、帰りながら説明するよ」
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修道院跡地に
古城たちは公園の自動販売機の陰に隠れて、
折しも街は夕闇に包まれて、浅葱のボロボロの服装も目立たずに済みそうだ。
ちなみに、あの事柄から数分後、古城は目を覚ました。
「あれって、錬金術師だったんだ。 売れない芸人かと思ってた。 あと、ドロドロした水銀の化け物もいたはずだけど」
「ああ、それは俺が倒した」
浅葱の証言を信じるなら、彼女が見たドロドロの化け物は、暴走した
悠斗の予測は、切り離された一部が浅葱の体に逃げ込み、浅葱と共に生を保った。と考えるのが妥当だ。
「悠斗は、真祖を超える吸血鬼だもんね。 あれくらい倒せちゃうか」
「浅葱は怖くないのか? 俺と言う化け物と一緒にいて?」
「ふん。 魔族特区育ちを舐めないことね。 アンタの事なんて、これっぽっちも怖くないわよ」
「……ありがとう」
悠斗は感謝の気持ちで一杯だった。
本来なら、遠ざかってしまうのだ。
「アンタからお礼なんて気持ち悪いわよ。 ほ、ほら、アンタは友達なんだから」
「そうだぞ。 オレも悠斗とは
古城からもそう言われ、悠斗は目がしらに熱いもの感じた。
悠斗は、そうか。としか言えなかったのだった。
「それよりも、本当に何ともないのか?」
浅葱の横顔を見つめて古城が聞く。
「何ともないわけないでしょうが!? 見てよ、これ。 制服だけじゃなくて
制服の破れ目をアピールした浅葱が、一人で自爆して騒いでいる。
普段通りの藍羽浅葱だった。
「大丈夫そうだな。 でも、医者に見せた方がいいか? つっても、説明等が面倒だよな」
悠斗がそう言うと、古城が何かを閃く。
「なら、家の母親がいいかもな。 身内だし、面倒事は避けられるだろ」
「他の人に診られるよりは、そっちの方がマシかな。 深森さんにも、久しぶりに会いたいし」
どうやら、浅葱も古城の案に賛同らしい。
「そうしてくれ。 研究所まではつき合ってやるから」
ちょうど駅に向かう分かれ道に差しかかった所だった。
「では、すいません。 私はここで失礼します」
「骨董品屋に戻るのか?」
「はい、師家様に報告して、
雪菜が、浅葱に聞こえない程度に囁く。
すまん。と古城が手を合わせる。 式神が破壊されたのは、古城が魔力を暴走させたからだ。
「俺の事は話題に出すなよ。 面倒事になる確率100%だからな」
悠斗がそう言うと、すぐさま雪菜は頷いた。
先程の、悠斗と縁の邂逅を思い出したのだろう。 あのような空気は、もう懲り懲りです。的な感じでもある。
この後は、雪菜は縁の元へ、古城と浅葱はMAR研究所へ、悠斗は自宅へ帰ったのだった――。
さて、次回は凪沙ちゃんの登場ですかな(予定)。
また、この章では、凪沙ちゃんの眷獣召喚も予定しております(*- -)(*_ _)
あと、そうですね。魔族にも多少免疫がついたかと。四神たちもついていますしね。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!