いやー、作者頑張った。やっと、この章の主要人物が揃いましたしね。凪沙ちゃんは、後少し?したら登場しますよ。
では、投稿です。
本編をどうぞ。
痩身の中年男性が、悠斗たちの方へ近づいて来る。 その左右には、黒装束の護衛だ。 中年男性は、悠斗たちの前に立つと、芝居がかった仕草で一礼する。
「やあ、皆様。 おくつろぎの所をお邪魔して申し訳ありません。 少しばかり、お時間を頂いても構いませんでしょうか。 ふふ、良い夜ですね」
朗らかに話しかけてくる男の目は、冷たい光を浮かべていた。 その視線を避けるように、アヴローラは古城の後ろに隠れる。 古城と悠斗は、アヴローラを庇うように一歩前に出る。 古城は、敵意剥き出しで男を睨んだ。 悠斗からは威圧感を滲み出ていた。
「……何しに来た……。 バルタザール・ザハリアス……」
悠斗の声は低く、冷徹さを纏っていた。
周囲の気温が一気に下がった感じだ。 やはり、男の左右に居る黒装束たちは、悠斗が消滅させた連中と同類だった。
「世界に混沌を齎そうとする、紅蓮の織天使様の高名はかねがね存じておりますよ。 先程、我々の同士が大変ご無礼をしてしまったそうで、申し訳ありません」
「……構わない。 殺したからな」
「ふふ。 噂通り、敵には容赦がないんですね」
そう言って、ザハリアスは爬虫類を連想させるように笑った。
「……で、
悠斗がそう言うと、ザハリアスは驚いて見せる。
「滅相もありません。 むしろ、宴の選帝者として、非礼を詫びに参上した次第です」
「ハッ……なるほどな。 そういう事情か」
牙城は愉快そうに頷いて、船の手摺に気怠く寄りかかる。
古城は眉を寄せた。
「どういうことだよ、親父!……一人で納得しないで説明しろ。 どうしてアヴローラが二人いるんだ?」
「アヴローラ……。 ああ、
ザハリアスが腕を組み、感心したように深々と頷いた。
だが、悠斗の腸は煮え繰り返りそうだ。 アヴローラは気弱で臆病で、何処にでも居そうな少女だ。 兵器として見るなんて、有り得ないのだ。
「それでは僭越ながら、こちらも
ザハリアスが伸ばした右手の先には、アヴローラと同じ顔の少女が立っている。 波打つ金髪と白い肌。 その姿は、アヴローラと瓜二つだ。
「知り合いか、アヴローラ?」
「わ、我の記憶に、
声を潜めて聞いた古城に、アヴローラが頼りなく首を振った。 アヴローラ本人も、自身と瓜二つの存在が現れ、驚いてるのかもしれない。
「おや、ご存じないとは、完全に覚醒してないということですか」
アヴローラの反応を見ていたザハリアスが、少し意外そうに眉を上げた。
ふむ、と思案するように顎を撫でた。
「よろしい。 では、説明いたしましょう。――
ザハリアスの言葉が止まった原因は、悠斗からの濃厚な殺気だ。 ザハリアスのみに当てたつもりなのだが、周囲にも洩れ出していた。
これを浴び、古城は体を小刻みに震わせ、牙城は口笛を吹いた。
「……テメェ、それ以上言ってみろ……。 此処で塵にするぞ……」
「流石の殺気ですね、紅蓮の織天使。 ふむ、説明はここで終わりにしましょう。 暁古城殿。 知りたい事があるなら、紅蓮の織天使に聞いてください」
「……あ、ああ。 そうする」
古城は、呆然と答えるしかできなかった。
濃厚な殺気を浴びてるのだ。 こうなるのも無理もなかった。
「では、本題です。 私の本職は貿易業でして、主に兵器を取り扱っています。 兵器の取り扱いに関して、我らの右に出る者はいないと自負しておりますゆえ。――暁古城殿。 どうぞ私めに、そこにいる
古城はこれ聞き、頭に血が昇った。 先程の委縮が嘘のようだ。
「ざッけんなッ! アヴローラを売るわけがねぇだろうがッ!」
「……交渉は決裂だ。 ザハリアス、俺の理性が働いてる内に帰る事をお勧めするぞ」
「残念です。 ですが、気が変わったらいつでもお申し付けください。 手遅れになる前に、ぜひ」
意外にもザハリアスは、取り引きを無理強いする事無くあっさり引き下がった。
しかし、緊張の空気は今もまだ続いている。
古城は、粘りつくような重苦しい空気に逆らって、ザハリアスの背後にいる少女を見詰めた。
「
その時、金髪少女が少し驚いたように瞳を揺らした。 その瞬間、
だが、悠斗たちはそれを受け付けない。――悠斗が張った結界が、全てを遮断してるのだ。
「――
ザハリアスが、暴風に包まれた少女を叱責した。
その瞬間、
それから、悠斗は結界を解いた。
「大変失礼致しました。 ですが、素体の危険性、これでご理解いただけたしょうか」
そう言ってザハリアスは、恭しい仕草で一礼する。
「いずれまた、ご挨拶に伺います。 その時には、是非とも色良い返事をお聞かせ下さい」
それでは。と言い、ザハリアスはが悠斗たちに背を向けて立ち去って行く。 姿はすぐに見えなくなり、静寂が包んだのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「はあ……」
牙城は船のソファに寝転んで、古城はぐったりと息を吐いた。
もし、あの場に結界が無かったら……。 そう思うと、背筋が凍る感覚に陥るのだ。
悠斗はそんな古城を見ながら、
「あんなのでへばったのかよ。 しっかりしろよな、アヴローラの血の従者さん」
「……いや、これが普通の反応だから! お前が、色々おかしいだよ!」
悠斗にとっては、あれは攻撃の内に入らないのだ。
おそらく、微風程度だろう。
「……か、神代悠斗。……あ、暁古城。 ほ、褒めて
緊張でガチガチになりながら、アヴローラは声を上擦らせてそう言った。
恥ずかしさからなのか、アヴローラの顔は真っ赤だ。
「……あ?」
古城は、怪訝そうな視線を向ける。
アヴローラは俯き口を閉ざしてしまったので、代わりに悠斗が代弁する。
「あの時の、俺と暁の対応が嬉しかったらしい」
「ああ、なんだそんな事か」
古城はのろのろと体を動かし、どう致しまして。と言い、アヴローラの頭に手を置いた。 とまあ、これで終わりだと思ったのだが、アヴローラの視線が悠斗に向けられる。 ご丁寧に、お辞儀をしていたのだ。
「……ゆ、悠斗。 我に褒美を与えよ!」
悠斗は溜息を吐いた。
「……いや、アヴローラ。 逆だと思うんだが……まあいいけど」
そう言ってから、悠斗はアヴローラの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お前は、ザハリアスの野郎には渡さないから心配するな。 その時は、俺がぶっ潰してやる」
「……う、うん」
悠斗は、アヴローラには心を開いてきてるらしい。 牙城と古城から温かい視線が送られてるのは、悠斗は気のせいだと思いたい……。
牙城は、漁っていた荷物とライフルを大きなゴルフバックに詰め込んで立ち上がった。
「さてと。……ほらよ、古城」
そう言って、古城に何かを放った。 錆びの浮いた、安っぽいキーホルダーだ。
「何だ、これ?」
「この船の鍵だ。 設備の使い方は、まあ、何となく勘で解るだろ。 ていうか、解れ」
一方的に言い残すと、牙城は古城たちを残して船を降りようとする。
「ちょっと待て、親父。 何処に行く気だ?」
「オレはこれからやる事があるんだよ。 深森の奴はいいとして、凪沙の安全を確保しとかねぇとな……。ったく、何処ぞ小増どもが、ザハリアスに殺気をぶち当てたり考えもなしに喧嘩を売りやがるから、余計な仕事が増えちまったじゃねぇか」
「「……うッ!」」
悠斗と古城は、同時に声を上げた。 そう、喧嘩を吹っ掛けたのは、古城と悠斗なのだ。
古城は、ふと思った事を口にする。
「アヴローラはどうすんだよ?」
「小増どもに任せた」
「「は!?」」
「この船は暫く貸しといてやるよ。 ま、ザハリアスの野郎も、此処では荒っぽい真似ばかりもできないだろ。 絃神島は、あいつにしてみれば完全に
「待て。 俺も面倒を見るのか!?」
悠斗はそう抗議したが、牙城はやれやれと頭を振るだけだ。
「ザハリアスの野郎に殺気をぶち当てたのは誰かなぁ。 ああ……オレの仕事が増えた、大変だ」
牙城に棒読みでこう言われ、悠斗は、ぐッと唸った。
どうやら、完全に退路は断たれているらしい。
「…………やればいいだろ! やれば!」
悠斗は、やけくそに叫んだ。
「ったく、最初からそう言えばいいんだよ、紅蓮の小増」
古城と悠斗は、渋々この件を承諾した。
牙城は勝ち誇ったように胸を張り、
「古城。 さっきも話した通り、アヴローラの記憶だ。 記憶を取り戻させろ」
「でもなあ、どうやって?」
きょとんとしたアヴローラの表情を眺めて、古城は途方に暮れた。
「知るか。 オレは考古学者だ。 医者じゃねぇ。 ちっとはてめェで考えろ」
「お前、無責任すぎるだろ! てか、面倒くさいだけだろ!」
古城は忌々しげに舌打ちして呻いた。
牙城は悪びれもせず、
「頼まれもしないのに、役に立たないアドバイスをする方がよっぽど無責任だろ。 刺激を与えてみればいいんじゃねぇか。 色んな物見せたり、他人に会わせたり」
「無責任なアドバイスだろうが、死都帰り」
悠斗がそう言うが、牙城は右手を振るだけだ。
「細かい事はいいんだよ。 兎に角、ザハリアスが本気で動き出すのは、まだ先だ。 それまで、アヴローラと仲良くしとけ。――紅蓮の小増。 お前さんの力も当てにさせてもらうぜ」
「は? 宴に参加しろと?」
悠斗は選帝者でもなければ、一定の領地も所有してないのだ。 そう、悠斗が宴に参加となれば、完全な
「そこまでは言わねぇが。 ま、オレも先の事はわかんねぇしな」
そう言いながら、牙城は船室を出て行こうとするが、出ていく寸前で振り返りアヴローラのスカートを指差した。
「ああ、それとな。 古城、お前、お姫様にパンツくらい穿かせてやれよ。 いくら此処が常夏の島だからって、風邪引くぞ」
古城は、げほっ、と咳き込んだ。
「何で穿いてないって解った!?」
「そうだぞ、暁。 ちゃんと穿かせろ」
悠斗はこの現状から逃れる為に、牙城の言葉に便乗したのだった。
「ちょ、神代! お前も、あの時居ただろ!」
「さあ、何の事かな」
古城と悠斗を見ながら牙城は船を降りて行き、それを確認した古城と悠斗は脱力したのだった。
「……かなり疲れた一日なったかもしれん。 色んな事が有りすぎだ……」
「まあ俺もだけど。 島に来てすぐこれって、マジでないわ……」
そう言って、悠斗は船内を見回した。
キッチンにテーブル、ソファやベット、冷蔵庫に電子レンジ。 電気も港から供給されているのだ。 必要最低限な物は、全て揃っている。
「てか、暁。 お前、今日はどうすんだ?」
「そうだな。 そろそろ家に帰って寝るわ……」
船内の時計を確認して、古城はのろのろと歩き出そうとすると、船内のベットで遊んでいたアヴローラが捨てられた子猫のような瞳で古城を見上げ、必死に袖口にしがみつく。
「……わ、我が魂の
「えーと……寝るまで手を繋いでろ、って事か?」
こくこくと、懸命に頷くアヴローラ。
それを見て古城は思い出した。 アヴローラは、長い時を氷の柩の中で封印されていたのだ。
「……そうか。 アヴローラはずっと一人ぼっちで眠り続けてたんだよな。――解ったよ。 今夜は一緒に居てやるから。 寝る前に、歯を磨いて、顔を洗わないとな」
古城がそう言うと、アヴローラは目を輝かせた。
「暁。 アヴローラと一緒に居てあげろよ。 んじゃ、俺はそろそろ――」
「ゆ、悠斗も我と共に……」
悠斗は、ポカンと口を開けてしまった。 アヴローラは、悠斗にも残れと言っているのだ。
「いやいやいや、暁が居るだろ」
「……うぅ」
アヴローラは、悠斗を涙目で見上げた。 古城は、諦めろ。と言う風に悠斗を見ている。
数秒は耐えたが、悠斗は折れたのだった。
「……俺も一緒に居てやる。――んじゃ、暁。 全部任せた」
「はあ!? 神代も手伝ってくれよ!」
「……やっぱり」
「おう、やっぱりだ」
悠斗は立ち上がり、古城とアヴローラに後ろを着いて行く。 アヴローラがバスルームに入り、蛇口から水道水を出そうとするが、コックがシャワーになっていたのだ。
「アヴローラ、ストップだ!」
悠斗がそう言うが、シャワーから冷水が流れ、ちょうどいい場所に立っていた悠斗とアヴローラは、頭から冷水を浴びたのだった。
「ひうっ……」
「冷たっ……」
急いで古城が止めてくれたが、僅かに濡れた。
「……えーと、ドンマイ」
「ドンマイちゃうわ!」
悠斗は古城の手を引き、古城を隣に立たせてから蛇口を捻り、シャワーから冷水を流す。
「「だああぁぁああ! 冷てぇ!」」
アヴローラは、古城と悠斗と見て大笑いだ。
悠斗がシャワーの蛇口を閉め、ズブ濡れの古城と悠斗、僅かに濡れたアヴローラは笑い合った。
これは、三人が始めて出会った日の出来事。 終わりに向かう物語の始まりだった――。
悠斗君たちの距離が一気に縮みましたね。まあでも、悠斗君の警戒は完全には解けてないんですけど(汗)
まあ最初よりは解けてきましたが、古城君はまだ名前呼びじゃないしね。
アヴローラには、ほぼ解けてる感じです。表裏もありませんからねー。あの子は。
ちなみに、ヴィルディアナも後で合流しましたよ。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!