では、投稿です。
本編をどうぞ。
悠斗は、近場の長椅子に腰を下ろし、新聞を捲っていく。そこで、紙面の片隅に小さく掲載された記事を見て眉を寄せた。
「……ネラプシ自治区で……
記事に掲載されている写真には、異国の街に溢れ出した暴徒の群れが、無差別に人を襲っている様子が映し出されていた。
それは――第一、二、三の、いずれの真祖の型にも該当しない――新種の吸血鬼感染病。 吸血鬼に噛まれて吸血鬼になると言うのは迷信とされており、世界保健機関でも原因は特定できておらず、感染源は未だに特定されてない。 故に、人間にも魔族にも無関係に感染し、発症した患者は理性を失って周囲の者を無差別に襲い始める。 そして、感染者を増やしていく。
症状は
「……もしかして逆……なのか?」
悠斗は、割れた声を上げた。
宴の選帝者は、一定規模の領地を収めてる事。 引いては、十分な数の領民を所有してる事だ。 選帝者の領地は、第四真祖が覚醒すれば新たな
――第四真祖が覚醒する事で、選帝者の領地が
そして現在、ネプロシ自治区と呼ばれているのは、嘗てカルアナ家が治めていた土地だった。 先祖代々、ヴィルディアナの生家に従ってきた忠実な領民である。 もちろんその中には、ヴィルディアナの顔見知りもいるはずだ。 そして彼らの命は、新型感染症によって危機に晒されている。
――この状況を仕組んだのはザハリアスだ。 この状況を作り出す為、ザハリアスはヴィルディアナの父親を殺し、領地を奪ったのだ。 もしだ。 もし、ヴィルディアナがこの詳細を何処かで知ったら、アヴローラを連れ宴に参加し、ザハリアスに復讐をしようとするだろう。
ヴィルディアナは、――アヴローラが匿われている船を知っているのだ。 古城が傍についてるが、ヴィルディアナは旧き世代の吸血鬼だ。
「……無事でいてくれよ!」
悠斗は立ち上がり走り出した。 アヴローラは、争いなど望んでいないのだ。
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悠斗が“りあな号”へ到着した時には、戦闘の痕跡と、古城が甲板の上で横になっていた。 右肩から左脇にかけて、眷獣に切り裂かれた傷は、今は塞がっている。――そう、血の従者の力だ。 古城は、夕陽の眩しさに魘されて目を覚ました。
「……よう、古城」
「ああ、悠斗か」
古城は周囲を見渡し、ハッとした。
「アヴローラは!?」
「ヴィルディアナに攫われた。 目的は、ザハリアスの復讐だ」
ヴィルディアナがザハリアスに復讐する為向かった場所は、
住民の多くは、絃神島建設に直接関わる、都市設計者やその家族。 嘗ては絃神島の中心だった
絃神島本島に比べると小型で設備も劣っている事や、
――老朽化が進む廃墟の
「俺は宴に行くぞ。 古城、お前はどうする?」
悠斗の問いは愚門だった。 古城の瞳には、決意の眼差しが見て取れる。
「――オレも行く」
「……そうか、解った」
悠斗は古城の右手を握り、引っ張るように古城を起こした。 それから古城たちは、
連絡橋の入口が見えてきた所で、古城たちは異変に気づいて足を止めた。 橋を塞ぐような形で、装甲車によるバリケードが築かれている。 更には、武装した機動隊員や、対細菌・化学兵器用の防護服を着た人々の姿もあるのだ。
『人工島管理公社より、絃神島住民の皆さんにお知らせします』
古城たちの疑問に答えるように近づいて来たのは、上空を旋回する
『本日、
このタイミングでの新型感染症――ネラプシ自治区に発生した、同じものだと考えて間違いないだろう。 そして、このどちらにも、ザハリアスが絡んでいる。
『現在、
古城は呆然と立ち尽くしていたが、悠斗は頷いた。
「強行突破しろって意味らしいぞ、古城」
「……強行突破?」
悠斗は左手を突き出す。
「――降臨せよ、朱雀!」
悠斗は傍らに、紅蓮の不死鳥を召喚させた。 それから、人間には害のない
困惑する古城を余所に、悠斗は朱雀に腰を落とすように指示を出す。
朱雀が腰を落とした所で、
「古城、行くぞ。アヴローラが待ってる」
「お、おう」
古城と悠斗は朱雀の背に乗り、飛翔を開始した。 目的地は
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クォーツゲートは、
外壁には魔術的に強化された透明なアダマス硝子が採用されて、建物全体が巨大な宝石の宮殿に見える。 宮殿の中央に位置するのは、六角水晶に似た巨大な時計塔だ。
極東の魔族特区、絃神島の技術を世界中に知らしめた、歴史的な建造物である。 しかし、
硝子張りの天井に覆われた広場の中央に、十二の棺桶が扇状に並べてある。その半数にあたる六個の棺桶に、六人たちの少女が眠っていた。
彼女たちの中央に置かれているのは、宝石の結晶に包まれた灰色髪の少女。 痩せさらばえた遺体を、ザハリアスは無言で眺めていた。
時計塔が、夜九時の鐘を打ち鳴らす。 それが合図になったように、静かな女の声が聞こえてきた。
「お待たせしました、ザハリアス卿」
ザハリアスがゆっくり振り返る。
「ご協力感謝します、ミス遠山。 暁凪沙譲もようこそ、我が
ザハリアスが向けた視線の先には、MARの遠山美和と、制服を着た暁凪沙の姿があった。 協力的な表情とは言い難いが、凪沙は縛られている訳ではない。 おそらく遠山は、凪沙の家族の安全を盾に取って、彼女を連行してきたのだろう。 その証拠に、遠山を見上げる凪沙の目には、敵意が宿っていた。
「あなたは、誰?」
凪沙が、ザハリアスを見据えて攻撃的に聞いた。
ザハリアスは胸元に手を当てて、深々と礼をする。
「申し遅れました。 バルタザール・ザハリアス。 第四真祖の血の従者です」
「真祖の……従者……?」
凪沙の瞳が恐怖に震える。 凪沙が魔族恐怖症だという情報は、ザハリアスにも伝わっている。 青ざめる彼女を安心させるように微笑んで、ザハリアスはその場に片膝を突く。
「あなたに気害を加えるつもりはありません。 どうぞ怯えないでください、暁凪沙。 私はただ、あなたが行った奇跡を、もう一度再現して欲しいだけなのです」
「……奇……跡?」
「然様。 死者の蘇生です」
ザハリアスが深々と頷いて顔を上げる。凪沙は、何を言われているのか理解できない。と首を振るだけだ。
ふむ。と言い、ザハリアスは目を細めた。
「そうですね。 まずは私の故郷の話から始めましょう。 私の故郷は、今はもう存在しないバルカン半島の小さな街です。 かつて、戦王領域と滅びの王朝、そして西欧教会の三つ巴争いに巻き込まれて消滅しました。 今から、七十年ほど前の事です」
そう言って、ザハリアスは左端に置かれた棺桶を見た。
棺桶に眠っているのは、胸を抉られたような傷を持つ金髪の少女だ。
「……戦争を仕掛けてきた人々の目的は彼女でした。 私の故郷に封印されていた
世界最強の吸血鬼。
ザハリアスが次に指を差したのは、宝石の中に浮かぶ灰色の髪の少女だった。
「彼女はヴラスタ。 私の妹です。 そして、
「……兄? 古城君?」
凪沙は驚いたように聞き返した。古城の名前が出てきた事に、はっきりと動揺していた。
ザハリアスは苦笑した。
「やはり、覚えていらっしゃらないのですか。 あなたがやったことですよ。 あなたが兄を、真祖の血の従者に変えたのです。 不老不死の怪物に!」
「嘘だよ……そんなの……!」
凪沙が激しく首を振って叫んだ。 彼女にしてみれば当然の反応だ。 ザハリアスは、彼女の兄を怪物だと言ったのだ。 凪沙が恐れる、魔族の従者だと。
「わたしに、そんな力なんて……ない!」
「ええ、そうでしょうとも。 いかに優れた巫女であろうとも、死者を生き返らせる事はできない。 それが可能なのは、穢れた土地より蘇りし死者の王。 世界の理から外れた殺人兵器。 無限の負の生命力を操る人工の吸血鬼――第四真祖だけだ!」
ザハリアスが大きく両手を広げ、空を仰いだ。
「あなたの力で目覚めさせてください。 完全な第四真祖を。 幸いな事に、ここには既に六体の
「……そんなこと……そんなことさせるか……! ザハリアス!」
ザハリアスの弁舌を遮って、広場に姿を現したのは、血塗れのメイド服に身を包んだ吸血鬼、ヴィルディアナだ。
彼女に引きずられるようにして、金髪の小柄な少女が立っていた。――アヴローラ・フロレスティーナだ。
「……アヴローラ……さん……」
怯えるアヴローラを見て、凪沙が呆然と呟いた。
「これはこれは、お待ちしておりましたよ」
ザハリアスには、ヴィルディアナの登場に口許を綻ばせる。 ヴィルディアナが自分を殺そうとしてる事を、ザハリアスは知っていた。
ザハリアスが動いても、アヴローラに手出しする事ができなかった。 なので、招待状をアヴローラに託したのだ。 あの招待状の存在を知れば、ヴィルディアナは、必ずアヴローラを連れて来る。――ヴィルディアナだからこそ、アヴローラを連れ出せたのだ。
そう、一番厄介な存在――紅蓮の織天使の隙を突けるからだ。
「我が
「黙れ!」
ヴィルディアナの怒号と共に、二体の眷獣を召喚した。 炎を纏う
「死になさい、ザハリアス! 父様に無念と領民たちの苦しみ、思い知れ――!」
勝ち誇った表情でヴィルディアナが叫ぶ。
だが、ザハリアスは如何なる動揺も無縁な表情だ。 棺桶の中に横たわる
「
ザハリアスを守護するように、虚空から巨大な眷獣が出現した。
それは、
「第四真祖の……眷獣!? そんな!?」
ヴィルディアナの表情が絶望に染められていく。 彼女の眷獣たちの攻撃は、空を漂う宝石の防護壁を傷つける事すらできない。 弾丸のように撃ち放たれた宝石の雨が、ヴィルディアナの眷獣を、跡形もなく消滅されていく。
ヴィルディアナの眷獣では、第四真祖の眷獣に対抗できる訳がなかった。
「アヴローラ! お願い、力を貸して欲しいの!」
追い詰められたヴィルディアナが、アヴローラを無理やり前へ引きずり出す。 アヴローラは委縮して動けない。 呆然と立ち竦んでるだけだ。
「あなたなら、あの眷獣にも対抗できる! あいつを殺して! ザハリアスを殺してよ!」
ヴィルディアナが絶叫した。 そんな彼女の胸元に、パッと大きな薔薇が咲く。
薔薇の正体は飛び散った鮮血だ。 血肉の花弁を撒き散らして、ヴィルディアナの体がぐらりと揺れる。
「……ひっ……」
返り血を全身に浴びて、アヴローラが頬を引き攣らせた。 ヴィルディアナが手を放したせいで、アヴローラの小柄の体は反動で地面に倒れ込む。
「ザハリアス……ッ!」
ヴィルディアナは吐血しながら、ザハリアスを睨んだ。
ザハリアスの右手に握られたのは拳銃だ。 あえて銃を使ったのは、
立て続けに鳴り響いた、打ち放たれた五発の銃弾が、ヴィルディアナの胸元に吸い込まれる。 ヴィルディアナはその場で膝を突き、ゆっくり倒れていった。
「アヴ……ローラ…………どうして……」
虚ろな瞳でアヴローラを見上げたまま、ヴィルディアナが呟いた。
それきり、彼女は動かなくなる。 鮮血を浴びたアヴローラは、ただそれを呆然と見つめている。
「あ……ああ」
この声の主は、凪沙だ。
両手で頭を抱えた彼女が、人間の者とは思えない絶叫を放っている。
「ああああああああぁぁぁああああああっ!」
大気が振動し、クォーツゲートの建物が揺れた。
アヴローラはもちろん、ザハリアスまでもが唖然とし、その光景を眺めている。
「これは……全ての
平静を残した遠山が、周囲を見渡して呟いた。
棺桶の中に横たわる六体の
「目覚めるのですね、ついに真なる第四真祖が! 素晴らしい! 素晴ら……っ!?」
ザハリアスの声が、糸が切れたように唐突に消える。 彼の口から鮮血が零れ出し、ザハリアスの胴体は薙ぎ払ったように横一文字に裂けていた。 自分自身の血で染まった両腕を、ぽかんと見下ろしてザハリアスは首を振る。
「……な……!?」
なぜ、と口に出す事もできないまま、ザハリアスはその場に倒れた。 ザハリアスを攻撃したのは翼だった。
刃のように研ぎ澄まされた鉤爪を持ち、赤黒い血管を剥き出しにした――吸血鬼の翼。
その翼がザハリアスを襲って、彼の肉体を両断したのだ。
「凪沙……さん……」
遠山が掠れた声で凪沙の名前を呼んだ。 彼女の瞳にも、恐怖の色がある。
魔力で紡いだ黒い翼を、背中に広げていたのは暁凪沙だ。
結い上げていた長い髪を解いて、彼女は笑う。 その瞳は、炎のように青白く燃える焔光の輝きを放っていた――。
連投しますぜ!
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