悠斗たちがクォーツゲートに到着した時には、全てが始まり、全てが終わろうとしていた。――そう、全てがだ。
そして、硝全の天井に覆われた中央広場。 満月の月に照らされて、二人の少女が立っていた。 長い黒髪の少女と、虹色の輝く金髪の少女。――暁凪沙とアヴローラだ。
悠斗と古城は朱雀の背から下り、アヴローラの傍に駆け寄った。
「古城……悠斗……」
近づいて来る二人の姿を見て、アヴローラが頼りなく唇を震わせた。
アヴローラは、古城の右足に必死にしがみついた。 余程怖かったのだろう。 悠斗は、周囲を確認して現状を把握する。
負傷してるザハリアスと、銃弾を浴び地に倒れているヴィルディアナ。 その隣に屈み込む遠山に、異常な気配を撒き散らしている、暁凪沙だ。
「……遠山美和。 俺の質問に正直に答えろ。 さもなくば、お前を敵として――――殺す」
悠斗の声は、低く冷酷だ。
冗談ではないと悟った遠山は首を縦に振った。
「……貴様、獅子王機関の攻魔師だな」
遠山は頷いた。
――獅子王機関。 国家公安委員会に設置されている特務機関。 大規模テロや魔導災害を阻止する為の捜査官だ。
「――お前らがMARと契約関係にあったのは大体予想できる」
悠斗は、違うか?と遠山に投げかけた。
「……はい。 我々は契約関係にありました。獅子王機関はMARに対して、封印された
「利害が一致してたのなら、どうしてあんたは、ザハリアスに協力した!」
語気を強めて、古城が遠山に聞く。 遠山が無理やり“宴”に連れていかなければ、凪沙が第四真祖として覚醒する事はなかったのだ。
「……目的は、第四真祖の覚醒です」
獅子王機関。 焔光の宴の采配者が、選帝者と繋がりを持っていたのだ。
「……そういうことか。 貴様、アヴローラが覚醒したことを、ザハリアスに伝えたな」
遠山は口を閉じたままだった。
だが、それは答えを言っているのと同義なのだ。
「だ、だからあの時、ザハリアスは簡単に引いたのか……」
古城の顔が驚愕に染まった。
「その通りだ、古城。――ザハリアスも、獅子王機関の掌で踊らせられてたんだよ」
第四真祖の存在は、確実に争いの火種になる。 ネラプシのような新興勢力ですら、第四真祖を招き入れるだけで、新たな
如何なる国家や勢力が手に入れても、第四真祖は、世界を確実に不幸にする。
だが、例外が絃神島だ。 聖域条約に基づいて、あらゆる魔族の受け入れと、政治利用の禁止を規定された魔族特区ならば、第四真祖を『隔離』する事が可能なのだ。
ならば、第四真祖が自ら絃神島を支配して、他国に戦争を仕掛ける心配もない。 絃神島は、太平洋上に建設された人工島であり、食品や生活物質の搬入が停止すれば、忽ち干上がってしまう事になるからだ。
少なくとも建前上では、第四真祖の存在を恐れる他国を納得されるには十分な説得材料だろう。
これこそが獅子王機関の
「……覚醒される為には、第四真祖の器が必要だ。 そんでもって、第四真祖の本体は魂。 ま、俺も最近解った事なんだがな」
凪沙は、第四真祖
「……そうです。 世界最古の魔族特区ゴゾ島に封印されていたのは、あなた達が知ってるアヴローラ、
「凪沙に取り憑いているのは、そいつ……
アヴローラは記憶喪失ではない。 彼女は、最初から何も知らなかったのだ。
十二存在する
――それは彼女が監視者だったからだ。
「やはり……そういうことでしたか……」
古城たちの四角。 広場に置かれた棺桶の陰から、血塗れのザハリアスが起き上がる。 ザハリアスの腹部は、真っ二つに切り裂かれたような深い傷が刻まれている。
人間なら生きてるはずがない重症だ。だがその傷は、逆スロー映像のように、ゆっくりと治癒を続けている。
「……お前も血の従者だったとはな、ザハリアス……」
悠斗がそう言うと、ふふ。と愉快そうに笑いながら、ザハリアスは立ち上がる。 唇の端から流れる鮮血を拭って、よろめく足で凪沙の方へ歩き出した。
「目覚めていたのなら、話が早い。 さあ、
「愚かなる男よ、ザハリアス。 我は世界最強の吸血鬼。 聖殲の為に造られし殺人兵器。 不死にして不滅。 一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する者ぞ。 我は何者にも屈せず、何者の支配も受けぬ」
「私の願いを聞く気はないと……? あなたの血の従者である、私の願いを!? 選帝者として、あなたに生け贄を捧げた私ですぞ!?」
ザハリアスが、必死の表情で訴える。
しかし凪沙が浮かべたのは、汚わらしい毒虫を見るような冷笑だった。
「愚かなる男よ。 その娘を殺したのは、汝自身ではないか」
「わ、私が……何を……!?」
「永遠の命を得んが為、自らの祖国と妹の命を対価に、
「ぐ……ぬ!?」
ザハリアスは言葉を飲んだ。
それは、ザハリアスの野望が潰えた事を意味していた。 ザハリアスにとって、妹の亡骸は、ただの道具――より価値のある
「薄汚い俗物め。 暁凪沙の存在を知り、貴様はさぞかし妬み、羨んだのだろうな。 故に、この娘と同等の力を持っていたはずのヴラスタとやらを復活させ、我を憑依させ、第四真祖の力をいいように操ろうと思ったのか?」
「ち……違うのです。……わ、私はただ、あなたの価値をもっと高める事ができるのは、この私だと自負していただけで……」
欺瞞に満ちたザハリアスの言葉に、最早先程まで力はない。 拠り所を失ったザハリエルは、怯えたように後ずさる。
そんな彼を見て、
「戦う意思を持たぬ汝に、殺戮兵器たる我の血の従者たる資格はない。 その力、返してもらうぞ。 ザハリアス」
「ひっ!?」
自らの背後に現れた人影を見て、ザハリアスが表情を凍らせた。
ザハリアスの退路を阻んでいたのは、胸に深い傷を持つ一番目の
「よ……よせ、やめろ!……
鮮血に塗れた少女の腕が引き抜かれ、肋骨を奪われたザハリアスの体が朽ちて崩れていく。
彼が体験した時間の重みが、一気に流れ込んで肉体を崩壊させたのだ。 やがて、ザハリアスの体は完全に崩れ去り、灰となって散った。
「――待てよ、
そんな
「凪沙を返せ」
「……ふむ?」
「お前が何者で、何の為に造られたなんて如何でもいい。 だけど、それは凪沙の体だ。 お前には、必要ないだろうが!」
「なるほど。 汝はザハリアスとは違うようだ。……愚かなである事には変わりないが」
「貴様の望みは聞けんな。 我が魂には器が必要だ。 それに、我は対価を支払ったはずだが」
古城を蘇らせる為、凪沙は第四真祖を憑依させ、第四真祖の力を使った。
ならば、それが彼女の対価だと言っているのだ。
その時、悠斗も古城の隣に立ち、原初の歩みを阻む。
「悪いな。 それでも、その子は返して貰うぞ。
「汝の過去は知っているぞ。 『異能狩り』から逃れた、天剣一族の生き残り。 世界に混沌を齎そうとする紅蓮の織天使。 汝は、我と似てるな」
悠斗は、感心したような表情をした。
その隣では、古城が目を丸くしていたが。 一族の生き残りと聞いて、驚いているのだろう。
「へー、そこまで知ってんだ。 つーか、お前と一緒にするな。 俺は殺戮兵器でもねぇぞ。 てか、早くその子を返せ」
「貴様が人助けだとはな。 どういう風の吹き回しだ」
「助けたいから助ける。 ただそれだけだ」
原初は僅かに笑った。
悠斗から『返せ』ではなく『助ける』と言う言葉を聞いたからだ。
「ならば、この娘を助けて見せよ」
凪沙の姿をした少女が、大きく両腕を広げた。
長い黒髪が翻り、背中に巨大な翼が生える。 鋭い鉤爪を備えた吸血鬼の翼が、翼の数は三対六枚。
それぞれが意思を持つ蛇のようにのたうって、その翼が六体の
引き裂かれた自分自身の分身を食らって、眷獣の支配を取り戻そうとしているのだ。 漆黒だった翼は鮮やかな光に包まれて、虹のように色を変えていく。 その美しい輝きは、
その翼が、古城目掛けて伸びた。 古城を薙ぎ払おうとしているのだ。 そう、古城の背後に居るアヴローラを取り込み、七体目の眷獣の力を取り戻す為に。
「――
だが、古城に前に張った結界と、地面から突き出た無数の氷柱が翼を防いだ。 氷柱を操っていたのは、アヴローラだ。 彼女が、自らの意思で初めて力を使おうとしている。
「……紅蓮の織天使、貴様」
それから、原初の視線がアヴローラへ移る。
「……
思いがけない彼女の行動に、古城と悠斗は驚きを隠せない。
「よかろう。
悠斗は、すぐさま遠山の周囲と、自身の周囲に結界を張った。 その直後、純白の閃光が炎となって、古城たちを呑み込んだ。
そして、重々しく時計塔の鐘が鳴り響いた――。
ま、まだいけるはず(白目)
ヴィルさんは、霧になってしまいました。(し、死んではないよ……)