ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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れ、連投です。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


焔光の夜伯Ⅺ

頬を風が撫でていた。

おそらく、空を飛んでいるのだろう。

 

「ここは……?」

 

古城が目を覚ますと、そこは朱雀の背の上であった。 悠斗は原初(ルート)が去った後、気絶した古城と遠山、アヴローラを朱雀の背に乗せ、あの場を後にしたのだ。

ふと、古城が顔を上げると。 不安そうに古城を見下ろしているアヴローラと目が合った。

 

「よう、無事か……?」

 

「わ、我に仔細なし。 ゆ、悠斗の守護のお陰――」

 

掠れた声で古城が聞き返すと、アヴローラがあたふたと答える。

古城とアヴローラの制服は、原初アヴローラの暴風攻撃でボロボロだ。 尤も、これは悠斗に言える事だが。

 

「やっと気がついたか、アホ古城」

 

「アホ言うな、アホって」

 

そんな事を言いながら、古城は重い上半身を起こした。

そんな古城を見て、悠斗は安堵する。

 

「ま、無事ならよかった。 結界内でも、衝撃と騒音は凄かったしな」

 

「……あ、ああ。 助かったよ」

 

古城は先程の事を思い出し、悠斗に礼を言う。

次に悠斗が見たのは、同じく結界を張り助けた、遠山美和だ。

 

「で、遠山美和。 古城も起きた事だし、第四真祖の詳細を教えてもらうぞ」

 

遠山は、これ以上隠す意味もないと口を開いた。

 

「……解りました。――吸血鬼の真祖が強大な力を誇っているのは、彼らが最古の吸血鬼だからです。 不老不死である彼らが蓄えた固有堆積時間(パーソナルヒストリー)が、彼らの源泉です。ですが――」

 

第四真祖には思い出が、つまり歴史がないのだ。 造られた第四真祖にとって、それは致命的な弱点だ。

だからこそ、原初(ルート)と接触した人間は、その思い出を足がかりにして、記憶を奪われる。

第四真祖の関わる記憶は殆んど失う、と言う事になるのだ。

第四真祖が幻の吸血鬼であり続けた理由は、この記憶搾取能力が在るが為だ。

この説明を聞いた古城の背筋が、凍るような恐怖を覚えた。

 

「皆が……凪沙のこと、アヴローラのことを忘れるってことかよ……!?」

 

第四真祖と接触した者は、第四真祖の事は忘れてしまう。

ならば、覚醒した第四真祖憑かれた凪沙や、焔光の夜伯(カレイドブラッド)であるアヴローラの事は、忘却の対象になってしまうのだ。

古城たちは、あまりにも多くの時間を彼女たちと共に過ごしてきた。 その思い出全てが、失われてしまうのだ。

――悠斗は例外だ。 悠斗の中には、全てを常時無効化する眷獣。 神々の力も備わっているのだ。

 

「はい。予想では、今から二、三日以内に」

 

遠山の言葉が、容赦なく古城を打ちのめす。

 

「あなたのご両親、暁牙城博士と深森主任が、凪沙さんとの接触を慎重に避けておられた事にお気づき出したか? 凪沙さんを救おうとしている彼らは、凪沙さんとの思い出を失う訳にはいかなかった。 だからこそ、離れて暮らす事を選んだのです」

 

「……ふざけんな……。 なんだよ、それは……!」

 

一年の半年を海外で過ごす父親と、職場に泊まり込んで滅多に帰らない母親。 古城と凪沙は、それに慣れていた。 仕方ない両親だという諦めもあった。――だが、違ったのだ。

彼らは最初から知っていたのだ。 凪沙の記憶が奪われてしまう可能性を。

 

「どうかご両親を責めないでください。 彼らは、たとえ記憶が奪われたとしても、その方が、あなたが苦しまず済むと考えたのです。 妹さんを護れなかったと、自分を責め続けたあなたに、これ以上の重荷を背負わせる事がないようにと」

 

「そんなことっ、納得できるわけがないだろうが!」

 

古城の怒声が、夜の空に響く。

 

「……深森主任は、この三年間、ありとあらゆる手段を尽くして、凪沙さんの衰弱を食い止めようとしていました。 原初(ルート)の魂を十二番目(ドウデカトス)の肉体に移し替えれば、凪沙さんが助かると解ったのは、つい最近の事です。 ですが、その試みは成功しなかった」

 

それは当然の事だった。

十二番目(アヴローラ)は、原初(ルート)の監視者。 原初(ルート)の復活を阻止する為に造られた、封印の素体だからだ。

凪沙との接触で封印を解かれた原初(ルート)が、再び眠りに就く事を望むはずがない。

 

「妖精の柩で眠る十二番目(ドウデカトス)の封印を解くのは、最後の賭けでした。 凪沙さんにはもう、時間が残っていなかったのです。 覚醒した十二番目(ドウデカトス)なら、原初(ルート)の魂を受け入れる事ができるかもしれないと、我々は考えた。 それも、失敗に終わってしまいましたが」

 

「だから、凪沙を第四真祖にしたのか……?」

 

「はい。 完全な第四真祖として覚醒すれば、彼女は確実に助かります。 例え人間ではなくなっても、人々の記憶から消え去る事があったとしても……それに、凪沙さんの魂が、原初(ルート)を駆逐する可能性もゼロではない」

 

「同族食らいか」

 

悠斗の問いに、遠山は、はい。と頷いた。

――同族食らい、あるいは上書き(オーバーライド)

これは、存在を食われた吸血鬼が、自分を食った相手の存在を逆に奪い取る。 そう、凪沙が原初(ルート)に支配される事なく、逆に原初(ルート)の能力を奪い、意識を保ったまま第四真祖になる。 今となっては、これが最善の結末だろう。

 

「……アヴローラは、これからどうなるんだ?」

 

古城は、ふと顔を上げて、隣にいるアヴローラに目を向けた。

 

「第四真祖が取り込んだ焔光の夜伯(カレイドブラッド)は、ザハリアスが所有していた、一番目(ブローテ)二番目(デウテラ)七番目(ヘブドモス)八番目(オグドオス)九番目(エナトス)十一番目(ヘンデカトス)の六体です。 それらの支配権を完全に掌握し終えたら、七体目――十二番目(ドウデカトス)を回収に来るでしょう」

 

「アヴローラも取り込まれてしまうってことか……。 九番目(エナトス)のように……」

 

遠山の予想に納得して、古城は苦々しげに舌打ちした。

その時、この会話に悠斗が口を挟む。

 

「先に聞いとくが、お前ら(獅子王機関)はアヴローラを、取引材料として使う気か?」

 

「はい、その通りです。 我々は、第四真祖と平和協定を結ぶつもりです。 絃神島にはすでに、戦王領域や混沌海域から使者が到着してます。 彼らが所有する、残り五体の焔光の夜伯(カレイドブラッド)と共に」

 

獅子王機関で動く遠山の立場では、国家の安全確保が最優先だ。 アヴローラを取引材料として使い、平和条約の為に差し出すだろう。

悠斗は、そうか。と頷いた。

 

「悪ぃな。 それは無理だ」

 

遠山は睨むように悠斗を見たが、悠斗の表情に変化はない。

 

「……世界が戦争に巻き込まれる危険があるんですよ」

 

「――知らん。 戦争でも何でも好きにやれ。……三聖と使者に伝えとけ。 アヴローラを争いに巻き込もうとするなら、俺が相手になってやるよ」

 

悠斗は躊躇なく宣言した。

悠斗の中では、アヴローラは護ると誓った存在。 そう。 世界を敵に回しても、だ――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

絃神島本島に到着する前に、遠山は意識を失った。 遠山を安全な場所へ下ろし、匿名で特区警備隊(アイランド・ガード)に連絡をして、古城たちは自宅へ向かった。

七階に壁際に朱雀を停止させ、壁石を跳び越え、無事に暁家のマンションへ辿り着く。

古城がドアを開け、アヴローラに続き、悠斗がマンションの中へと入って行く。

 

「……此処(こなた)が汝の住処(すみか)か!」

 

リビングに案内されていたアヴローラが、好奇心に目を輝かせて部屋中を見回し、悠斗は感心していた。

部屋の中は、綺麗に整理整頓されていたからだ。

 

「綺麗な所だなぁ」

 

「家には、片づけ魔がいるからな」

 

そう言って、古城は苦笑した。 おそらく、片づけ魔とは凪沙のことだろう。

そんな時、悠斗の腹から虫の鳴き声がした。

 

「……悪い、古城。 腹減った」

 

そう言われた古城は、若干呆れ顔だ。

 

「冷蔵庫に何にかしらあると思うから、食っていいぞ」

 

悠斗は、アヴローラを古城に任せて、台所に移動してから冷蔵庫の扉を開け、中を見回して見つけたサンドイッチを取り出した。

そこには、『古城君へ。 これ作っといたから後で食べてね。 今から出かけて来ます。 凪沙より』と言う紙が、ラップに貼り付けられていた。

悠斗は食べるのに躊躇したが、ラップを取ってサンドイッチを口にした。

 

「……旨すぎだろ、このサンドイッチ」

 

悠斗は、ものの数秒でサンドイッチを平らげた。 悠斗がこんなにも旨い物を口にしたのは約数年ぶりだ。

今まで食べていた、非常食やコンビニの弁当とは格が違ったのだ。

悠斗は不覚にも、もう一回食いたいわ。と思ってしまった。 だが、当の凪沙は、第四真祖に体を乗っ取られる為、料理など不可能だ。

 

「……助けた報酬は、暁凪沙の料理にするか」

 

悠斗はこの時、凪沙を助けた報酬を決めたのだった。

そうこうしていたら、彩海学園の制服を着たアヴローラと、Tシャツの上にパーカーを羽織った古城がリビングに姿を現す。

 

「お前、飯を食ったら帰るんじゃなかったのか!?」

 

「……いや、決めつけんなよ。 俺も手を貸してやるよ。 つか、あの時聞いてなかったのか?」

 

あの時悠斗は、『助けたいから助ける』と言ったのだ。

古城はそれを思い出し、頭を下げた。

 

「……力を貸してくれ」

 

「おう。 報酬として、暁凪沙の料理を俺に食わせろ」

 

古城の表情は、今にも泣きそうだ。

今の古城には、心強い味方が二人もいるのだ。

 

「……あ、ああ。 帰ったらクサルほど食わせてやる」

 

このやり取りの後、古城たちは玄関へ向かう。 そして古城は足を止めた。

いつの間にか玄関前に、古びた段ボール箱が置かれていたのだ。 古城たちが帰って来た時には無かった筈だ。

古城は手を伸ばし、段ボールの封を破って中を確認した。

 

「……何だ、これ?」

 

箱の中には、表面に奇妙な文字を刻んだ、銀色の細い杭。

三枚の安定翼を取り付けた、金属製の薬莢だった。

この杭は、真祖殺しの聖槍(せいそう)。 魔力を無効化し、ありとあらゆる結界を切り裂くことができる杭。

また暁家には、MARでヴィルディアナから受け取ったクロスボウもあるのだ。

 

「(……俺も、暁牙城の手の掌ってことか)」

 

悠斗は苦笑した。

だがまあ、嫌な気はしなかった。

 

「ゆ、悠斗。これ何か解るか?」

 

「それの杭は、真祖殺しの聖槍(せいそう)。 魔力を無効化し、ありとあらゆる結界を切り裂く事ができる杭。 ヴィルディアナから渡されたクロスボウで使う杭だ。 で、それを撃ち出す為の、安定翼の薬莢だな」

 

悠斗がそう言うと、古城はクロスボウを手に取り、折り畳まれた弓を開いて、弦を張る。ライフルに似た銃身にはガイド用の溝が掘られており、薬莢部分にする安定翼に、杭が嵌るようになっていた。

それから古城は、クロスボウを構える。

 

「それは古城が使え。 俺には、眷獣の力があるしな。 てか、早く構えを解け。 アヴローラが嫌そうにしてるから」

 

アヴローラは、悠斗の背に隠れ嫌そうに銀色の杭を睨んでいた。

彼女の目には、露骨に不安な色が浮かんでいる。

 

「あ、ああ。 解った」

 

古城はクロスボウを折り畳み、杭と一緒にベルトにかけた。

 

「行くか。 暁凪沙を助けに」

 

「ああ」

 

「うむ!」

 

古城たちは玄関を出て、外際まで移動する。

悠斗は左手を突き出し、

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

悠斗に続き、アヴローラの手を握った古城が朱雀の背に飛び乗る。

古城とアヴローラが乗ったのを確認してから、朱雀は飛翔を開始した。――決戦の地、旧南東地区(オールドサウスイースト)へ――。




遠山は気がつくと、報告にいきましたね。
いやー、紅蓮の織天使は警戒される訳ですよ(笑)

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