では、投稿です。
本編をどうぞ。
頬を風が撫でていた。
おそらく、空を飛んでいるのだろう。
「ここは……?」
古城が目を覚ますと、そこは朱雀の背の上であった。 悠斗は
ふと、古城が顔を上げると。 不安そうに古城を見下ろしているアヴローラと目が合った。
「よう、無事か……?」
「わ、我に仔細なし。 ゆ、悠斗の守護のお陰――」
掠れた声で古城が聞き返すと、アヴローラがあたふたと答える。
古城とアヴローラの制服は、原初アヴローラの暴風攻撃でボロボロだ。 尤も、これは悠斗に言える事だが。
「やっと気がついたか、アホ古城」
「アホ言うな、アホって」
そんな事を言いながら、古城は重い上半身を起こした。
そんな古城を見て、悠斗は安堵する。
「ま、無事ならよかった。 結界内でも、衝撃と騒音は凄かったしな」
「……あ、ああ。 助かったよ」
古城は先程の事を思い出し、悠斗に礼を言う。
次に悠斗が見たのは、同じく結界を張り助けた、遠山美和だ。
「で、遠山美和。 古城も起きた事だし、第四真祖の詳細を教えてもらうぞ」
遠山は、これ以上隠す意味もないと口を開いた。
「……解りました。――吸血鬼の真祖が強大な力を誇っているのは、彼らが最古の吸血鬼だからです。 不老不死である彼らが蓄えた
第四真祖には思い出が、つまり歴史がないのだ。 造られた第四真祖にとって、それは致命的な弱点だ。
だからこそ、
第四真祖の関わる記憶は殆んど失う、と言う事になるのだ。
第四真祖が幻の吸血鬼であり続けた理由は、この記憶搾取能力が在るが為だ。
この説明を聞いた古城の背筋が、凍るような恐怖を覚えた。
「皆が……凪沙のこと、アヴローラのことを忘れるってことかよ……!?」
第四真祖と接触した者は、第四真祖の事は忘れてしまう。
ならば、覚醒した第四真祖憑かれた凪沙や、
古城たちは、あまりにも多くの時間を彼女たちと共に過ごしてきた。 その思い出全てが、失われてしまうのだ。
――悠斗は例外だ。 悠斗の中には、全てを常時無効化する眷獣。 神々の力も備わっているのだ。
「はい。予想では、今から二、三日以内に」
遠山の言葉が、容赦なく古城を打ちのめす。
「あなたのご両親、暁牙城博士と深森主任が、凪沙さんとの接触を慎重に避けておられた事にお気づき出したか? 凪沙さんを救おうとしている彼らは、凪沙さんとの思い出を失う訳にはいかなかった。 だからこそ、離れて暮らす事を選んだのです」
「……ふざけんな……。 なんだよ、それは……!」
一年の半年を海外で過ごす父親と、職場に泊まり込んで滅多に帰らない母親。 古城と凪沙は、それに慣れていた。 仕方ない両親だという諦めもあった。――だが、違ったのだ。
彼らは最初から知っていたのだ。 凪沙の記憶が奪われてしまう可能性を。
「どうかご両親を責めないでください。 彼らは、たとえ記憶が奪われたとしても、その方が、あなたが苦しまず済むと考えたのです。 妹さんを護れなかったと、自分を責め続けたあなたに、これ以上の重荷を背負わせる事がないようにと」
「そんなことっ、納得できるわけがないだろうが!」
古城の怒声が、夜の空に響く。
「……深森主任は、この三年間、ありとあらゆる手段を尽くして、凪沙さんの衰弱を食い止めようとしていました。
それは当然の事だった。
凪沙との接触で封印を解かれた
「妖精の柩で眠る
「だから、凪沙を第四真祖にしたのか……?」
「はい。 完全な第四真祖として覚醒すれば、彼女は確実に助かります。 例え人間ではなくなっても、人々の記憶から消え去る事があったとしても……それに、凪沙さんの魂が、
「同族食らいか」
悠斗の問いに、遠山は、はい。と頷いた。
――同族食らい、あるいは
これは、存在を食われた吸血鬼が、自分を食った相手の存在を逆に奪い取る。 そう、凪沙が
「……アヴローラは、これからどうなるんだ?」
古城は、ふと顔を上げて、隣にいるアヴローラに目を向けた。
「第四真祖が取り込んだ
「アヴローラも取り込まれてしまうってことか……。
遠山の予想に納得して、古城は苦々しげに舌打ちした。
その時、この会話に悠斗が口を挟む。
「先に聞いとくが、
「はい、その通りです。 我々は、第四真祖と平和協定を結ぶつもりです。 絃神島にはすでに、戦王領域や混沌海域から使者が到着してます。 彼らが所有する、残り五体の
獅子王機関で動く遠山の立場では、国家の安全確保が最優先だ。 アヴローラを取引材料として使い、平和条約の為に差し出すだろう。
悠斗は、そうか。と頷いた。
「悪ぃな。 それは無理だ」
遠山は睨むように悠斗を見たが、悠斗の表情に変化はない。
「……世界が戦争に巻き込まれる危険があるんですよ」
「――知らん。 戦争でも何でも好きにやれ。……三聖と使者に伝えとけ。 アヴローラを争いに巻き込もうとするなら、俺が相手になってやるよ」
悠斗は躊躇なく宣言した。
悠斗の中では、アヴローラは護ると誓った存在。 そう。 世界を敵に回しても、だ――。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
絃神島本島に到着する前に、遠山は意識を失った。 遠山を安全な場所へ下ろし、匿名で
七階に壁際に朱雀を停止させ、壁石を跳び越え、無事に暁家のマンションへ辿り着く。
古城がドアを開け、アヴローラに続き、悠斗がマンションの中へと入って行く。
「……
リビングに案内されていたアヴローラが、好奇心に目を輝かせて部屋中を見回し、悠斗は感心していた。
部屋の中は、綺麗に整理整頓されていたからだ。
「綺麗な所だなぁ」
「家には、片づけ魔がいるからな」
そう言って、古城は苦笑した。 おそらく、片づけ魔とは凪沙のことだろう。
そんな時、悠斗の腹から虫の鳴き声がした。
「……悪い、古城。 腹減った」
そう言われた古城は、若干呆れ顔だ。
「冷蔵庫に何にかしらあると思うから、食っていいぞ」
悠斗は、アヴローラを古城に任せて、台所に移動してから冷蔵庫の扉を開け、中を見回して見つけたサンドイッチを取り出した。
そこには、『古城君へ。 これ作っといたから後で食べてね。 今から出かけて来ます。 凪沙より』と言う紙が、ラップに貼り付けられていた。
悠斗は食べるのに躊躇したが、ラップを取ってサンドイッチを口にした。
「……旨すぎだろ、このサンドイッチ」
悠斗は、ものの数秒でサンドイッチを平らげた。 悠斗がこんなにも旨い物を口にしたのは約数年ぶりだ。
今まで食べていた、非常食やコンビニの弁当とは格が違ったのだ。
悠斗は不覚にも、もう一回食いたいわ。と思ってしまった。 だが、当の凪沙は、第四真祖に体を乗っ取られる為、料理など不可能だ。
「……助けた報酬は、暁凪沙の料理にするか」
悠斗はこの時、凪沙を助けた報酬を決めたのだった。
そうこうしていたら、彩海学園の制服を着たアヴローラと、Tシャツの上にパーカーを羽織った古城がリビングに姿を現す。
「お前、飯を食ったら帰るんじゃなかったのか!?」
「……いや、決めつけんなよ。 俺も手を貸してやるよ。 つか、あの時聞いてなかったのか?」
あの時悠斗は、『助けたいから助ける』と言ったのだ。
古城はそれを思い出し、頭を下げた。
「……力を貸してくれ」
「おう。 報酬として、暁凪沙の料理を俺に食わせろ」
古城の表情は、今にも泣きそうだ。
今の古城には、心強い味方が二人もいるのだ。
「……あ、ああ。 帰ったらクサルほど食わせてやる」
このやり取りの後、古城たちは玄関へ向かう。 そして古城は足を止めた。
いつの間にか玄関前に、古びた段ボール箱が置かれていたのだ。 古城たちが帰って来た時には無かった筈だ。
古城は手を伸ばし、段ボールの封を破って中を確認した。
「……何だ、これ?」
箱の中には、表面に奇妙な文字を刻んだ、銀色の細い杭。
三枚の安定翼を取り付けた、金属製の薬莢だった。
この杭は、真祖殺しの
また暁家には、MARでヴィルディアナから受け取ったクロスボウもあるのだ。
「(……俺も、暁牙城の手の掌ってことか)」
悠斗は苦笑した。
だがまあ、嫌な気はしなかった。
「ゆ、悠斗。これ何か解るか?」
「それの杭は、真祖殺しの
悠斗がそう言うと、古城はクロスボウを手に取り、折り畳まれた弓を開いて、弦を張る。ライフルに似た銃身にはガイド用の溝が掘られており、薬莢部分にする安定翼に、杭が嵌るようになっていた。
それから古城は、クロスボウを構える。
「それは古城が使え。 俺には、眷獣の力があるしな。 てか、早く構えを解け。 アヴローラが嫌そうにしてるから」
アヴローラは、悠斗の背に隠れ嫌そうに銀色の杭を睨んでいた。
彼女の目には、露骨に不安な色が浮かんでいる。
「あ、ああ。 解った」
古城はクロスボウを折り畳み、杭と一緒にベルトにかけた。
「行くか。 暁凪沙を助けに」
「ああ」
「うむ!」
古城たちは玄関を出て、外際まで移動する。
悠斗は左手を突き出し、
「――降臨せよ、朱雀!」
悠斗に続き、アヴローラの手を握った古城が朱雀の背に飛び乗る。
古城とアヴローラが乗ったのを確認してから、朱雀は飛翔を開始した。――決戦の地、
遠山は気がつくと、報告にいきましたね。
いやー、紅蓮の織天使は警戒される訳ですよ(笑)
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!