ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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特に、前書きで書くことがない……。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


黒の剣巫Ⅳ

 古城たちのバイトは、午後五時に終了した。 チーフは残念そうにしていたが、それ以降の時間帯は売店の酒類を販売する為、未成年に働かせる訳にはいかない。

 古城たちは労働で疲れた体を引きずるように、ラダマン亭ズの事務所を出る。 古城が背中に負ぶっているには、熟睡した結瞳だった。 古城たちと会って張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、結瞳は泣き疲れてそのまま眠ってしまったのだ。

 

「……ダメね。 江口結瞳って名前の子は、絃神市に住民登録されてないわ」

 

 浅葱が、愛用のスマートフォンを弄りながら顔を顰めている。 人工島管理公社のサーバーに侵入して、個人情報にアクセスしたらしい。

 

「……結瞳の魔族の台帳も調べてみたけど、該当者なし。 過去の記録も見当たらない」

 

「……結瞳は、絃神市に住んでいたわけじゃない、ってことか」

 

 古城と浅葱は、誘拐の線で話し合っていたが、悠斗は違うことに目をつけていた。

 

「古城たちの線も否めないが、俺と同じ未登録魔族って言う線もあるぞ。 獅子王機関も関係してるんだ。 こっちの方が濃厚だと思う」

 

 獅子王機関は、対魔族に関する政府機関だ。 獅子王機関が携わっているなら、結瞳は魔族。と言う可能性は高い。

 

「じゃあ、結瞳の両親はどう説明するんだ」

 

 古城の言う通りだ。 もし、彼女が本当に誘拐されたのなら、既に両親から捜索願いが出ている可能性もある。 常識的に考えれば、警察に引き渡して保護してもらうのが最善だ。

 そう、――常識的に考えれば、だ。

 

「魔族には、それぞれに力が備わっているのは知ってるよな?」

 

 悠斗の問いかけに、古城は、そうだな。と頷く。

 

「もしだぞ。 もし、結瞳が一般家庭に生まれ、何かによって突然変異した魔族だったら、普通の人間はどう対応すると思う」

 

 古城と浅葱が、顔を顰める。

 

「まさか――虐待されて捨てられたって言いたいの」

 

 浅葱の語尾が強くなったのは、悠斗の聞き間違えじゃないだろう。

 確かに、血の繋がった子を捨てたのだ。 憤るのも無理もない。

 

「いや、俺の予想だ。 だが、浅葱も誘拐より、こっちの線の方が高い。そう考えるはずだろ? でだ、虐待から保護されたのはいいが、その力を利用されようとした。 だからこそ、獅子王機関が動いたんじゃないか」

 

 浅葱は押し黙ってしまった。

 絃神島では、人間と魔族の共存と言っても、まだ差別する人も多くいるのだ。 完全な人間と魔族の共存。 これも魔獣と同じく、長い道のりなのかもしれない。

 

「そうか。 だから、煌坂はオレたちに預けたのか」

 

「かもな。 こっちには、第四真祖に紅蓮の織天使、剣巫がいるんだ。 安全が確定したと言っても過言じゃないしな」

 

 もし、結瞳を利用する奴らが警察を襲ってきた場合、普通の警察ではひとたまりもないだろう。 それならば、古城たちの手元に置いておく方が安全だ。 おそらく紗矢華も、古城たちが保護してくれるのを期待して、預けたのに違いない。

 

「ねぇ、剣巫って姫柊さんのことよね?」

 

「まあな。 剣の修行を収めた巫子ってところか。 煌坂は、呪詛と暗殺に特化した舞威姫」

 

「……煌坂さんも、あの子のお仲間なわけね」

 

 浅葱が、どこか不満な口振りで聞いてくる。

 浅葱はごく最近に、古城が吸血鬼化したこと、雪菜は古城の監視役であることを知ったのだ。 自分だけが、ずっと秘密を知らされてなかったことを、未だに根に持ってるらしい。

 古城たちは、浅葱を裏世界の事情に巻き込みたくない。という気持ちもあったのだが。

 

「獅子王機関って、どういう組織なの?」

 

 浅葱は、そう悠斗に聞いた。 ずっと裏世界にいる悠斗の方が詳しいと思ったのだろう。

 

「国家公安委員会に設置されている特務機関だ。 大規模な魔導災害や魔導テロを阻止する為の、情報収集や謀略工作を行う機関ってところか」

 

 獅子王機関の源流(ルーツ)は、平安時代に宮中を怪異から守護した滝口武者なる存在だ。 そこで、魔族との直接戦闘を担当してた者たちが剣巫、内乱の鎮圧や、要人護衛を担当してた者たちが舞威姫と呼ばれるようになったらしい。

 

「ふーん……で、組織の規模は? 何人くらいで働いてんの? 給与は? 福利厚生は?」

 

「いやまあ、その辺はお前の方が詳しいだろ。 電子の女帝さま」

 

 悠斗は、獅子王機関の内部を知っているが、これを知ったら、浅葱は完全に裏世界から手を引けなくなる。 完全な裏世界の住人になってしまうのだ。 だからこそ、悠斗は言葉を濁した。

 浅葱は、唇を尖らせた。

 

「前に言わなかったっけ。 わたし、その二つ名嫌いなのよ」

 

「それを言うなら、俺もだぞ。 誰だよ、紅蓮の織天使って二つ名つけた奴」

 

 浅葱と悠斗は、同時に溜息を吐く。 でもまあ、つけられてしまったものは仕方ないので、諦めるしかないが。

 浅葱は、まあいいわ。と言い、気を取り直した。

 

「わたし、獅子王機関について調べたのよ。 でも、出てこないよね。 都市伝説なダミー情報が多すぎて、全容が掴めないの。 ああいう組織は、外部のネットワークから切り離されてることが多いから、直接侵入(ハック)することもできないしさ」

 

 悠斗は感心した。

 

「(へー、浅葱にも露見しないようにダミーをバラ撒いてんのか。 侮ってかもな、獅子王機関の三聖を)」

 

 すると、浅葱の視線が古城へ向けられる。

 その表情は、真剣そのものだ。

 

「って、古城は危険だと思わないの? 姫柊さんにつきまとわれてて」

 

「……危険?」

 

 いきなり矛先を向けられ、なんのことだ。と思いながら古城は戸惑った。

 そんな古城を見て、浅葱は呆れ顔で嘆息した。

 

政府機関(獅子王機関)ってことは、結局お役所でしょ? 組織同士の利害の対立や縄張り争いと無縁ってことはないでしょうが。 仲間内で、派閥争いがないとも限らないし」

 

 悠斗は、古城たちに聞こえないように、大史局も含めてな。と呟く。

 大使局も、獅子王機関と同じく、政府の国家公安委員会内に設置された特務機関。 人為的な魔導災害や魔導テロなどを専門とする獅子王機関に対し、こちらは自然発生的な魔導災害を阻止する機関だ。

 

「姫柊と煌坂は、かなり仲がいいけど。 あいつら、姉妹みたいなもんだし」

 

「あの二人が仲がよくても、組織としてはどうかわからないってことよ。 獅子王機関と警察や、他の関係も、どうなってるか知れたもんじゃないし」

 

 悠斗も真面目な表情になり、

 

「浅葱が言いたいことは、政府組織を無条件で信用するのは良くないってことだ。 自分が信用できる人物以外は、少しでも疑いを持った方がいいかもな。 特区警備隊(アイランド・ガード)も含めてな」

 

 古城は、そこまで徹底する必要があるのか。と思いながら顔を顰めたが、真剣みを帯びた浅葱と悠斗の表情を見て頷いた。

 

「ああ、煌坂たちのやってることが、本当に正義とは限らないってことだろ」

 

「まあそういうことだ。 正義も悪も紙一重だ。 何かの事柄だけですぐに入れ換わる。 それが人間であり、組織ってことだ」

 

 古城は、やっぱり悠斗は大人びてるよな。と思いながら、表情を戻した悠斗を見ていた。

 悠斗の言う通り、正義や悪を決めつけることはできない。 獅子王機関は、無条件で人を救うとは限らないのだから。 もしかしたら、獅子王機関が、逆に結瞳を利用する為に助けた。と言う可能性も否めないのだ。

 もし、犯罪者として捕えられていた結瞳の脱獄を、紗矢華が手伝った可能性すらゼロではないとも言えてしまう。

 その場合、結瞳を保護した古城たちも、犯罪の共犯者と言うことにもなってしまう。

 

「けどなー……結瞳が悪人って可能性があると思うか?」

 

 結瞳の無防備な寝顔を見ながら、古城が投げやりな声を出す。

 浅葱と悠斗は、うーん。と唸った。

 

「いや、悪人とは考えられないな」

 

「そうね。 もし悪人だとしても、この子を見捨てるのはちょっとね」

 

「だろ。 とりあえずコテージに連れて帰って、その先のことは、また後で考えようぜ。 ベットは余ってるって、矢瀬も言ってたし」

 

 そう古城は提案。 その提案に、浅葱も悠斗も異論はないと同意した。

 古城たちが向かっている先は、プールエリア中央のバス停である。 ブルーエンジリアムの圏内には無人運転バスが循環しており、それに乗れば、無料で、最短でコテージまで帰ることができるのだ。

 しかし、浅葱が交差点を渡る寸前に何かに気づいたように立ち止まった。

 

「待って、古城。 今お金持ってる」

 

「まあ、財布は持ってきてるけど……なんでだ?」

 

 困惑する古城とは対照的に、悠斗は頷いていた。

 

「ああ、なるほど。 結瞳の着替えだな」

 

「そう。 結瞳ちゃんの着替えよ。 いつまでも、水着でうろうろさせておくわけにいかないでしょ。 何か、着替えを買ってあげないと」

 

 古城は、浅葱は気が利くなと感心して、ポケットから財布を取り出す。

 

「って、オレが払うのか!? 財布くらい、お前も持ってるだろ!?」

 

 悠斗は嘆息し、

 

「ったく、心配するな。 俺も半分出すから。 つか、拾ってきたの俺たちだし」

 

 浅葱は、ふふん。と笑い、

 

「さすが、悠斗は解ってるじゃない。 たしかこの先に、ちょっとよさげなブティックがあったのよね」

 

「……気のせいか、メチャクチャ高そうな店構えなんだが……」

 

「……いや、どこからどうみても、高級店だろ」

 

 古城と悠斗は、がっくりと肩を落とした。 かなりの金が財布から無くなるのは必須だろう。

 そんな、古城と悠斗を知ってか知らずか、浅葱はかなり上機嫌だ。

 

「日本初上陸のブランドなのよ。 アルディギア王室御用達なんだって」

 

 まじか。と溜息を吐く古城と悠斗。

 それから高級ブランド店へ向かい、店内へ入って行く。 ちなみに、悠斗はブランド店で、水色を基調に、様々なアジサイの色があしらってある浴衣を購入した。

 ――凪沙へのプレゼントである。 折角、ブルーエンジリアムに来たので、その記念としてだ。

 

「(……着てもらいたいから買った。って言われそうだなぁ)」

 

 悠斗には、そんな気は一切ないのだが。

 ともあれ、買い物を終えてコテージへ帰る古城たちであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 大量の服を買い込んでコテージに戻った浅葱は、結瞳のコーディネートと、自身の荷物整理に取り掛かっていた。

 結瞳は、女子部屋のベットで就寝中だ。

 古城と悠斗は、今日の疲れを癒す為、入浴を終えてからリビングへ戻る。 床に座り、テーブルに置いた350mlのペットボトルのお茶を飲んでいたら、玄関あたりが騒がしくなる。 自由行動をしていた雪菜と凪沙が帰って来たらしい。

 

「……大丈夫、凪沙ちゃん? 唇の色、凄いことになってるよ……」

 

「うん、大丈夫大丈夫。 ちょっと休んだら、すぐに復活するから」

 

 雪菜の肩を借りた凪沙が、儚げに微笑んでいた。

 悠斗は凪沙の儚げな声を聞いて、立ち上がり玄関まで飛び出した。

 

「凪沙!? どうした!?」

 

 完全に動転した悠斗が、裏返った声を上げる。 凪沙は昼に、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)を憑依させ、魔力を行使したのだ。

 凪沙があの時、異常なほど魔力を放出していたら体調に影響が出る。 若干だが、悠斗の顔色が青くなった。

 

「姫柊! 何があった! 早く教えてくれ!」

 

 切羽詰まった悠斗の表情を見て、問い詰められた雪菜は困ったように顔を逸らす。 雪菜に支えられたまま、凪沙は悪戯のバレた子供のように、てへへ、と笑った。

 

「えっとね、遊園地エリアでジェットコースターに乗ったら、こんな感じに」

 

「…………は? ジェットコースター」

 

「いやあ、さすがにブルエリ名物の水中突入型コースター“ハデス”だよねぇ。 高さ、九十七メートルから海面に向かって、時速百八十キロで落下するんだよ。 凄い迫力だったよ。 三回乗ったのは、無謀だったかも」

 

 へなへなへな、と言う擬音が似合うように、その場に悠斗は崩れ落ちた。 雪菜は、珍しいものを見た表情だ。

 だがこの一件で、雪菜は、悠斗がどれだけ凪沙を大切に想ってるかが解った瞬間でもあった。

 

「……そうか。 無事でよかった」

 

「えへへ。 ゴメンね、悠君。 心配かけて」

 

 悠斗は立ち上がって、凪沙の額を人差し指で小突き、あうっ、と凪沙が呟く。

 

「ったく、心配かけやがって。 体調が回復するまで横になってろ」

 

「はーい」

 

 返事をして、玄関で靴を脱ぎ、リビングのソファに寝転がる凪沙。 疲れていたのか、すぐに小さな寝息を立て始める。

 それを見届けてから悠斗は安堵の息を吐き、玄関で靴を脱いで、廊下に立ち尽くした雪菜に振り返った。

 

「姫柊、助かった」

 

 悠斗は、雪菜を見てから深々と頭を下げた。 悠斗の行動が予想外だったのか、雪菜はあたふたしてしまった。

 

「い、いえ。 あ、頭を上げてください」

 

 悠斗は、ああ。と言い、頭を上げる悠斗。

 

「そうだった。 古城が姫柊に会わせたい奴がいるらしい。 俺は、姫柊が知ってるとは到底思えないって言ったんだけどな」

 

 悠斗が言う、古城が会わせたい奴とは、江口結瞳のことだ。 何でも、獅子王機関繋がりで何か知ってるんじゃないか。と言う事らしい。

 

「わかりました。 わたしは、先輩のところへ行ってみます」

 

 そう言って雪菜は、リビングにいる古城の元へ向かった。

 悠斗は階段を上り、外のベランダへ向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 悠斗はベランダの外側まで移動し、木製の手摺の上に、腕を組んで目先の満月を眺めていた。

 

「面倒な事件に巻き込まれたな。 よりにもよって、レヴィアタンかよ。 でも、どうやってあの巨体を操る気だ。――――精神支配が濃厚だな、夢魔(むま)か?」

 

 悠斗は、今までの情報を照らし合わせ、自身の予想へ組み込んでいく。

 もし、結瞳が未登録魔族、夢魔(むま)であり、レヴィアタンを操る生け贄。

 生け贄にする為、何処かの組織が結瞳を監禁し利用しようしたところを、獅子王機関が救助した。 だが、その途中で襲撃に遭い、紗矢華は行方不明になり、先に結瞳を逃がし古城たちに保護させた。 しかし、何処の組織に襲撃されたかは不明。

 

「……辻褄は、合うか。 つか、獅子王機関は、本当に結瞳を助けるために救援に向かったのもかも解らしな。 はあ、決定打に欠けるよな」

 

 そう考えていたら、背部に近づく気配があった。 どうやら、目隠しをしようとしてるらしい。

 目隠しの前に、悠斗は振り返り声をかける。

 

「凪沙か」

 

 凪沙は頬を、リスのようにぷくっと膨らませた。

 

「んもー、悠君の気配感知はズルイよ。 気づかない振りをしてくれてもいいのに」

 

 悠斗は、悪い悪いと言い苦笑した。

 凪沙は、もう。とちょっぴり怒ってから、

 

「悠君。 ご飯だって」

 

「そうか。 わかった」

 

 そう言って、悠斗と凪沙は一階へ向かったのだった。

 ブルーエンジリアムの一日は、まだ続きそうだ――。




悠斗君。かなり真相に迫っております。つか、かなりの情報を持ってるよね、悠斗君(笑)
情報関係でも、悠斗君に勝てる奴はいるのだろうか?頭の回転も早いしね。
てか、悠斗君の予測書くの、ちょっぴり難しいかも、章の原作を理解してないといけないし。
ちなみに、古城君はあの時、凪沙ちゃんがジェットコースターの乗りすぎで体調不良になったのことを予想で解ってたです。だからまあ、悠斗君に任せたんですね。

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