今回も、ご都合主義満載です。
では、投稿です。
本編をどうぞ。
「待て、結瞳……!」
古城が莉流を追って外へ出る。 莉流は裸足のまま芝生の中庭に立っている。
古城が、彼女の所へ駆け寄ろうとした瞬間、悠斗に服の首根っこを掴まれ情けない声を上げた。 瞬間、古城の視界を何かが通り過ぎる。 それは金属製のフクロウだ。 そのフクロウは、金属製の凶器にもなっている。
悠斗は、又してもこちらに向かってくるフクロウに左手を向け、
「――
悠斗がそう言うと、左手掌から焔が放たれ、それを浴びたフクロウが跡形もなく消え去る。
この術式は、獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華のものだ。
「(……洗脳かよ。ったく、面倒くさい)」
口にはしないが、悠斗は内心で悪態を吐いた。 そして悠斗の視線の先には、コテージ前の道路に車を止めて、制服を着た黒髪の女子高校生が、駆け寄る莉流を出迎えていた。
整った顔立ちと、華奢だが、しなやかな強靭さを感じさせる体つき。 彼女の肩にかけられているのは、カメラの三脚を持ち運ぶ為の黒いケースだ。
「キリハ。 ただいま!」
「お帰りなさい、莉流。 少しは気が晴れて?」
「まあねー。 特にお兄さんとお姉さんのお陰かなぁ」
黒髪の少女に纏わりつきながら、莉流がけたたましく笑う。
また、莉流が言うお兄さんとお姉さんとは、悠斗と凪沙のことらしい。 まあ確かに、悠斗と凪沙は、
「お前が、キリハって奴か?」
「その通りよ、紅蓮の織天使。 実際に見ると、まだお子様なのね。 もっと大人びてると思ったわ」
この時悠斗は、額に青筋を浮かばせる。
「……お前は高校生なのに、かなり歳食ってるように見えるんだな。 太史局の
悠斗が挑発的に言うと、キリハと呼ばれる少女の額に青筋が浮かぶ。
「……それは、わたしに言ってるのかしら?」
「お前しかいないだろうが。
「一々癪に障る言葉ね。 紅蓮の
このやり取りを見て、古城と雪菜はポカンと呆けていた。 何処からどう見ても、小学生の口喧嘩に見えてしまうのだ。
そんな二人の仲裁に入ったのは、やはりと言うべきか、暁凪沙だ。
「まあまあ。 悠君も霧葉さんも、落ち着いて落ち着いて」
「「ふん!」」
同時に顔を背ける、悠斗と霧葉。 この二人のやり取りは、この場ではシュール以外の何物でもなかった。
再起動したように、古城が悠斗に問う。
「ゆ、悠斗。 この女性は何者なんだ?」
「
大史局の六刃神官は、陰陽寮の流れを引く魔導災害担当の攻魔師であり、八雷神法を行使する事もできるのだ。 そう、獅子王機関の剣巫と、大史局の六刃神官は、
「紅蓮の織天使の言葉で、強ち間違ってなくてよ」
声を上げたのは雪菜だった。
「で、ですが。 何故、大史局が紗矢華さんの任務の妨害を……」
「ちょとした
瞬間、凪沙が叫んだ。
「――
そして洋弓の矢が、凪沙が張った結果と衝突し砕け散る。
古城は、矢が飛来してきた方向へと視線を向けた。
そこには、霧葉と莉流を護衛するように、銀色の弓を構えている背の高い少女だった。 ポニーテールに纏めた長い髪が風に流され舞っている。
「煌坂……なんで……お前が……」
「あれは洗脳だ。 煌坂は、霧葉っていう女の命令によって動いてる」
愕然とする呻く古城に、悠斗がそう解説する。 そんな古城たちを見据えながら、紗矢華が新たな矢をつがえた。
動けない古城たちに背を向けて、霧葉が莉流と歩き出す。 彼女たちの前に止まっているのは、クスキエリザの社用車だ。
「――姫柊と凪沙は、莉流を追いかけてくれ。 ここは、俺と古城で何とかする」
召喚してもいい眷獣は、朱雀と白虎限定と、悠斗は凪沙に伝えた。
流石に、青龍と玄武は、この場では危険すぎるからだ。
「わ、わかりました。 行きましょう、凪沙ちゃん」
「うん、雪菜ちゃん」
走り去って行く雪菜たち見送って、古城と悠斗は、紗矢華と対峙する。 瞬間、紗矢華が呪矢を放った。
上空へと向かって飛んだ矢が、高密度の呪文を生成する。 展開した巨大魔法陣に生み出された雷撃が、古城たち目がけてピンポイントに降り注ぐ。
悠斗は嘆息し、
「防御は俺に任せて、古城は攻撃方法を頼んだ」
そう言ってから、悠斗は上空から降り注ぐ矢に目を向ける。
「――
悠斗がそう言うと、頭上に雷のカーテンが展開され、そのカーテンにより呪矢が消滅していく。
紗矢華の行動は早かった。 煌華麟を洋弓から剣に変形させて、古城たちに接近戦を挑んできたのだ。 だが、そんな紗矢華を見ても、悠斗は平静を保っていた。
それから左手を伸ばし、掌を紗矢華に向ける。
「――
左手掌から放たれた空気の砲弾を受け、紗矢華は後方へ吹き飛ばされた。 剣でガードしていたので、無傷らしいが。
だが、意図も簡単に獅子王機関の舞威姫を引かせるのだから、悠斗の規格外さが窺える。――眷獣すら召喚していないのだ。
「で、古城。 策は思いついたか?」
「要は、煌坂を支配してるものよりも、強い魔力で上書きしてやればいいんだろ」
「吸血する気かよ。 姫柊が知ったら怒るぞ。 あいつ、嫉妬深いと思うし」
「ちょ、何で姫柊が出てくんだよ」
お前の事が好きだからだよ。と言う言葉を悠斗は飲み込んだ。
これは本人が伝えることであり、他人から聞くのは筋違いであるからだ。
「まあ気にするな。 その策、途中まで手伝ってやるよ」
「お、おう。 そうしてくれ。 痛ェのは勘弁だからな」
ちなみに、古城だけで実行する場合は、古城の腹に風穴が空く。
古城の左腕が、黒く変色する。
「――
古城が召喚したのは、霧を纏う巨大な甲殻獣だ。
そして古城の狙いは、紗矢華ではなく、彼女の足元だ。 紗矢華が立っているのは、樹脂と金属によって造られた
古城の狙いは、これによっての紗矢華の動きを封じる事だ。
だが――、
「アホ古城! やり過ぎだ!」
銀色の霧に包まれながら、重力に引かれて、紗矢華と悠斗は下の海に落ちて行く。
海水まで高さはおそらく、六、七メートル。 二人が海に着水すると、派手な水柱が噴き上がる。 強力すぎる眷獣の攻撃は、当然それだけでは済まなかった。
銀色の霧が凄まじい勢いで広がって、人口の大地に半径数メートルの巨大な穴を穿つ。
「くそ……やり過ぎた……。 悠斗まで巻き込んじったよ……。 なんつーか、後が怖ぇな……」
十中八九、古城は悠斗に締められるだろう。 その未来が見え、古城は顔を強張らせた。
そんな古城は、傾いた地面にしがみついている。
眷獣の召喚を解除して、古城も海へ飛び込む。 そこでは、悠斗が黄金の鎖で紗矢華を拘束していた。 これは黄龍の技、
「(……古城。 後で締めるからな。――まあ、今は煌坂の精神支配解除が先だが)」
「(お、おう)」
古城は、吸血鬼が持つ筋力を全開にして、古城は水を蹴りつけた。 四、五メートル程の距離を一気に詰めて、真正面から紗矢華に迫る。
「(……暁古城)」
海水と汗に濡れた白い首筋。 濡れたシャツの下から浮き上がる細い鎖骨。 優美な顔立ちと、華奢な体つき。
これは、古城の欲望を刺激するのには十分過ぎた。
古城は瞳を真紅に変え、口の端からは牙が覗く。 古城は露わになった首筋に牙を突き立て、紗矢華の血を啜りながら魔力を送り込む。
紗矢華は快楽に溺れるように、古城に体を預け、全身の力が抜けた。
これを見て悠斗は、
「(……はあ、これから修羅場か……)」
とまあ、身も蓋もない事を思っていた。
そんな三人を、朝焼けの空が静かに照らしていた。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
クスキエリゼの社用車は、コテージから少し離れた海辺の道路に停まっている。 搭載された無人運転装置が、雷を察知したのだ。 言わずとも、悠斗が放った雷である。
霧葉は、莉流を連れて車から下りてくる。 車での移動を諦めて、徒歩でクスキエリゼに向かう事にしたのだろう。
だが、莉流の手を引いて歩き出す前に、霧葉は立ち止まって顔を上げる。
霧葉の眼先には、雪霞狼を構えた雪菜と、臨戦態勢に入っている凪沙の姿があったからだ。
「――結瞳ちゃんを返してもらいます」
「――霧葉さんたちの目的を、話してくれるかな?」
霧葉を睨んで、凪沙と雪菜が告げる。
霧葉は溜息交じりに首を振り、肩に背負っていたケースから槍を引き抜いた。
「わからないわね、暁凪沙。 姫柊雪菜。 あなたたちには、莉流を連れ戻す理由はないのではなくて?」
雪菜の任務は第四真祖の監視であり、凪沙はこの事件には無関係とも言える人物なのだ。
確かに、莉流を連れ戻す権利はないが――、
「洗脳した紗矢華さんに、先輩たちを襲わせただけでも、わたしが、あなたを敵と見なすのは十分な理由だと思いますけど? 特に、凪沙ちゃんにはですが」
霧葉は、やれやれと首を振る。
「莉流と第四真祖、紅蓮の織天使とは接触させたくなかったの。 彼らは、
彼女たちの後方から、巨大な破壊音が聞こえてきたのはその直後の事だった。 爆炎に似た霧。 古城が眷獣を召喚したのだ。
「彼らの様子、見に行かなくてもいいの?」
雪菜は、表情を崩さずに言う。
「きっと、先輩方は大丈夫です」
「……信頼してるのね、彼らのこと。 少し意外」
霧葉の視線が凪沙へ向く。
「それはそうと、暁凪沙。 あなたから彼の魔力を微弱に感じるのは何故かしら」
凪沙は嘆息してから、上手く隠してたんだけどなぁ。もう隠さなくていいか。と呟く。
「霧葉さんは、雪菜ちゃんの一枚上って所かな。――そうだね。 わたしは、紅蓮の織天使の
凪沙の口調はいつもと変わらないが、雪菜には解った。
凪沙は、かなり怒っているのだ。 魔力の波動がプレッシャーとなって、霧葉に襲いかかっている。
「かなりの魔力とプレッシャーを感じるわけね。 真祖と同格と言った所かしら」
「凪沙も、それが定かなのか解らないんだけど、南宮先生と悠君が言うにはそうらしいよ」
「……あなたも、
「それは嬉しい事なのかな。 何でもいいけどさ」
この場には重い空気が流れている。 一色触発と言ってもいいだろう。
最初に動いたのは、凪沙だった。
「雪菜ちゃん、結瞳ちゃんをお願い。――
凪沙は地面を蹴って、召喚させた刀を霧葉へと叩き付けようとする。
だが霧葉は、それを咄嗟に
「ッ!」
霧葉の
これは、――
霧葉は無理やり刀を弾き、後方へ跳ぶ。
「……何故、あなたがその力を使えるのかしら……。 そしてその剣捌き、あなた元々普通の人間でして?」
「どうだろう。――記憶のお陰。とでも言っておくよ。 その槍の正体も知ってるよ。 大史局の
結瞳の中に眠っていた莉流の人格は、突然覚醒した。
別人格が目覚める切っ掛けとなる、刺激や体験がなかったのにも関わらず、だ。
だとすれば、可能性は一つだけ。 誰かが、外部から結瞳の精神を支配して、強制的に莉流を目覚めさせたのだ。
その能力は、蓄積した魔力を増幅し、その使い手の意思によって放出すること。
霧葉は、結瞳が夢魔としての魔力を事前に
「……その通りよ。 今、あなたに対する、脅威レベルがかなり上がったわ……」
「それはどうも。 あと感じるでしょ」
凪沙は平然とそう言った。
対して、霧葉に動揺が走る。
「……ええ。 さっきの衝突で、
魔力を操る
「正解。 流石、大史局の六刃神官って言った所かな」
「……紅蓮の織天使の
「うーん。 召喚してもいいんだけど、ここ狭いし被害があるかもだから。 朱君なら大丈夫だと思うけど……。 でも、朱君の魔力を吸い取っちゃうんでしょ?」
「……暁凪沙。 あなた、何処まで
凪沙は刀を構えながら、
「敵のお姉さんに、教えるわけがないでしょ」
「……それもそうね」
凪沙が、チラリと莉流の方向を見ると、雪菜が無事に保護をしていた。
また先程、莉流は結瞳の人格を取り戻し、クスキエリゼへの帰還を望まなかったのだ。 それでも、強引に結瞳を連れ去ろうするのなら、霧葉は単なる誘拐犯だ。
なので凪沙は、躊躇なく霧葉を叩き潰すだろう。 そして、古城たちを傷つけようとした張本人なのだ。
「形勢は、こっちがかなり有利だけど。 霧葉さんは、クスキエリゼに一人で帰ったら。 結瞳ちゃんは、わたしたちが保護するから」
今凪沙は、大史局の面目を潰したのだ。 そう、大史局はやり過ぎた。――凪沙の逆鱗に触れてしまったのだ。
霧葉は、槍を無造作に旋回させ、構える。
「……引くわけには行かないのよ」
「ふーん、戦うんだ。 それじゃ、お望み通り――」
霧葉が繰り出してきた槍を、凪沙は刀で受け止める。
霧葉が持つ
「そこっ!」
「ッチ!」
あり得ないことに、凪沙が六刃神官を押していた。 腕は互角と思われるが、刀の方が短く、素早く攻防できるのだ。
霧葉は、凪沙の連続攻撃に防戦を余議なくされる。
雪菜は目を丸くする事しかできない。 もし、自分が凪沙と戦ったら、必ず負けるだろう。 それ程の力量を、凪沙は持っている。
「ふ、ふふふ。 あははははっ! こんなに楽しませてくれるなんてね。 洞察力に剣捌き、紅蓮の織天使の
霧葉が獰猛に笑い出す。 上品ぶっていた鍍金が剥がれ、彼女の本性が洩れ出しているのだ。
「
霧葉が突き出した
魔力を増幅する
「――
だが、この攻撃は、凪沙が張った紅い結界によって防がれる。
両者は、再び一定の距離を取った。
「こんな小娘と殺り合うのが、こんなに刺激的だと思わなかった。 時間切れが勿体ないわ」
霧葉は、戦意を喪失したように
「時間切れ?」
その直後、
昨日、凪沙たちが感じたものと同じだ。 だが、あの時と比較して、魔力の密度が上がっている。
「(……この波動はレヴィアタンの……。 だけど、昨日と比べると魔力が桁違いに高い……)」
凪沙がそう考えていると、結瞳を戦闘から守っていた雪菜が突然叫んだ。
「結瞳ちゃん。 待って、何処に行くの!?」
結瞳は、凪沙たちに背を向け、何処かに飛び立つように黒い羽を展開している。
そう。 結瞳が自ら、夢魔の力を引き出したのだ。
「……もうやめてください。 霧葉さんも、凪沙お姉さんも」
引き裂かれたサマードレスの襟元を押さえて、結瞳は寂しげに微笑んだ。
そして、ブルーエンジアムへと目を向ける。 その先の向こう側に見えるのは――クスキエリゼの研究施設だ。
「もういいんです。……わたしが、全部終わらせますから……」
そう言って、結瞳は翼を羽ばたかせる。 結瞳は空へと舞い上がり、そのまま滑るように飛び去って行った。
何故、クスキエリゼから逃げ出して来たはずの結瞳が、心代わりをしたのだろうか。
その答えを知っている霧葉も、何故か不安げな表情を浮かべ、結瞳が飛び去った空を見上げている。
雪菜も、凪沙も、霧葉も、既に戦う理由は失われ、茫然と空を見上げる事しかできなかった。
――そう、結瞳はもういないのだ。
「藍羽……浅葱……」
サンダルを履き、浅葱は息を弾ませながら、凪沙たちの方へ駆け寄って来る所だった。 意識を取り戻した浅葱が、古城たちの不在に気づき、探しに来たのだ。
「――姫柊さん、何があったの? てか、何で凪沙ちゃんが刀を持ってるのよ? 結瞳ちゃんは?」
矢次に浅葱がそう聞いてくる。
霧葉は浅葱を一瞥し、哀れみと侮蔑の視線を向けた。
「そう……あなたが、カインの巫女……」
雪菜と浅葱は疑問符を浮かべたが、凪沙は目を丸くする。
悠斗の記憶で、第三真祖との戦闘、絃神冥駕との邂逅までは見ていなかったからだ。
「誰よ、あんた……?」
霧葉は、
「あなたを責めるのは、筋違いだったわね。 でも、ごめんなさい。 悪く思わないで――」
さよなら。と言い残し、霧葉は凪沙たちに背を向けた。
そのまま無言で立ち去る彼女を、凪沙たちは見送る事しかできなかった――。
……あれですね。凪沙ちゃん、チートすぎ……。凪沙ちゃんは、悠斗君の動きをほぼ模倣できますね。まあでも、獅子王機関の三聖には届いていないんですが。
てか、凪沙ちゃんがキレると怖いわ……。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!