ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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書きあげました。
今回も、ご都合主義満載です。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


黒の剣巫Ⅶ

「待て、結瞳……!」

 

 古城が莉流を追って外へ出る。 莉流は裸足のまま芝生の中庭に立っている。

 古城が、彼女の所へ駆け寄ろうとした瞬間、悠斗に服の首根っこを掴まれ情けない声を上げた。 瞬間、古城の視界を何かが通り過ぎる。 それは金属製のフクロウだ。 そのフクロウは、金属製の凶器にもなっている。

 悠斗は、又してもこちらに向かってくるフクロウに左手を向け、

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

 悠斗がそう言うと、左手掌から焔が放たれ、それを浴びたフクロウが跡形もなく消え去る。

 この術式は、獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華のものだ。

 

「(……洗脳かよ。ったく、面倒くさい)」

 

 口にはしないが、悠斗は内心で悪態を吐いた。 そして悠斗の視線の先には、コテージ前の道路に車を止めて、制服を着た黒髪の女子高校生が、駆け寄る莉流を出迎えていた。

 整った顔立ちと、華奢だが、しなやかな強靭さを感じさせる体つき。 彼女の肩にかけられているのは、カメラの三脚を持ち運ぶ為の黒いケースだ。

 

「キリハ。 ただいま!」

 

「お帰りなさい、莉流。 少しは気が晴れて?」

 

「まあねー。 特にお兄さんとお姉さんのお陰かなぁ」

 

 黒髪の少女に纏わりつきながら、莉流がけたたましく笑う。

 また、莉流が言うお兄さんとお姉さんとは、悠斗と凪沙のことらしい。 まあ確かに、悠斗と凪沙は、結瞳(莉流)と遊んだ時間が一番長い。 おそらく莉流は、この事を言っているのだろう。

 

「お前が、キリハって奴か?」

 

「その通りよ、紅蓮の織天使。 実際に見ると、まだお子様なのね。 もっと大人びてると思ったわ」

 

 この時悠斗は、額に青筋を浮かばせる。

 

「……お前は高校生なのに、かなり歳食ってるように見えるんだな。 太史局の小母さん(おばさん)

 

 悠斗が挑発的に言うと、キリハと呼ばれる少女の額に青筋が浮かぶ。

 

「……それは、わたしに言ってるのかしら?」

 

「お前しかいないだろうが。 小母さん(おばさん)だから、耳も遠いのか?」

 

「一々癪に障る言葉ね。 紅蓮のお子様(・・・)

 

 このやり取りを見て、古城と雪菜はポカンと呆けていた。 何処からどう見ても、小学生の口喧嘩に見えてしまうのだ。

 そんな二人の仲裁に入ったのは、やはりと言うべきか、暁凪沙だ。

 

「まあまあ。 悠君も霧葉さんも、落ち着いて落ち着いて」

 

「「ふん!」」

 

 同時に顔を背ける、悠斗と霧葉。 この二人のやり取りは、この場ではシュール以外の何物でもなかった。

 再起動したように、古城が悠斗に問う。

 

「ゆ、悠斗。 この女性は何者なんだ?」

 

国家公安組織(大史局)の使いだな。 で、そこの剣巫って所か」

 

 大史局の六刃神官は、陰陽寮の流れを引く魔導災害担当の攻魔師であり、八雷神法を行使する事もできるのだ。 そう、獅子王機関の剣巫と、大史局の六刃神官は、源流(ルーツ)が同じものなのだ。

 

「紅蓮の織天使の言葉で、強ち間違ってなくてよ」

 

 声を上げたのは雪菜だった。

 

「で、ですが。 何故、大史局が紗矢華さんの任務の妨害を……」

 

「ちょとした政策(ポリシー)の違いがあっただけ。 あなたたちと争うつもりはなくてよ。――わたしはね」

 

 瞬間、凪沙が叫んだ。

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

 そして洋弓の矢が、凪沙が張った結果と衝突し砕け散る。

 古城は、矢が飛来してきた方向へと視線を向けた。

 そこには、霧葉と莉流を護衛するように、銀色の弓を構えている背の高い少女だった。 ポニーテールに纏めた長い髪が風に流され舞っている。

 

「煌坂……なんで……お前が……」

 

「あれは洗脳だ。 煌坂は、霧葉っていう女の命令によって動いてる」

 

 愕然とする呻く古城に、悠斗がそう解説する。 そんな古城たちを見据えながら、紗矢華が新たな矢をつがえた。

 動けない古城たちに背を向けて、霧葉が莉流と歩き出す。 彼女たちの前に止まっているのは、クスキエリザの社用車だ。

 

「――姫柊と凪沙は、莉流を追いかけてくれ。 ここは、俺と古城で何とかする」

 

 召喚してもいい眷獣は、朱雀と白虎限定と、悠斗は凪沙に伝えた。

 流石に、青龍と玄武は、この場では危険すぎるからだ。

 

「わ、わかりました。 行きましょう、凪沙ちゃん」

 

「うん、雪菜ちゃん」

 

 走り去って行く雪菜たち見送って、古城と悠斗は、紗矢華と対峙する。 瞬間、紗矢華が呪矢を放った。

 上空へと向かって飛んだ矢が、高密度の呪文を生成する。 展開した巨大魔法陣に生み出された雷撃が、古城たち目がけてピンポイントに降り注ぐ。

 悠斗は嘆息し、

 

「防御は俺に任せて、古城は攻撃方法を頼んだ」

 

 そう言ってから、悠斗は上空から降り注ぐ矢に目を向ける。

 

「――閃雷(せんらい)!」

 

 悠斗がそう言うと、頭上に雷のカーテンが展開され、そのカーテンにより呪矢が消滅していく。

 紗矢華の行動は早かった。 煌華麟を洋弓から剣に変形させて、古城たちに接近戦を挑んできたのだ。 だが、そんな紗矢華を見ても、悠斗は平静を保っていた。

 それから左手を伸ばし、掌を紗矢華に向ける。

 

「――空砲(くうほう)!」

 

 左手掌から放たれた空気の砲弾を受け、紗矢華は後方へ吹き飛ばされた。 剣でガードしていたので、無傷らしいが。

 だが、意図も簡単に獅子王機関の舞威姫を引かせるのだから、悠斗の規格外さが窺える。――眷獣すら召喚していないのだ。

 

「で、古城。 策は思いついたか?」

 

「要は、煌坂を支配してるものよりも、強い魔力で上書きしてやればいいんだろ」

 

「吸血する気かよ。 姫柊が知ったら怒るぞ。 あいつ、嫉妬深いと思うし」

 

「ちょ、何で姫柊が出てくんだよ」

 

 お前の事が好きだからだよ。と言う言葉を悠斗は飲み込んだ。

 これは本人が伝えることであり、他人から聞くのは筋違いであるからだ。

 

「まあ気にするな。 その策、途中まで手伝ってやるよ」

 

「お、おう。 そうしてくれ。 痛ェのは勘弁だからな」

 

 ちなみに、古城だけで実行する場合は、古城の腹に風穴が空く。

 古城の左腕が、黒く変色する。

 

「――疾や在れ(きやがれ)甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)!」

 

 古城が召喚したのは、霧を纏う巨大な甲殻獣だ。 甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)は、吸血鬼の持つ霧化能力を司る眷獣だ。 その効果範囲は、宿主である古城だけではない。 物質の持つ結合力を奪い取り、物質を霧に変える。

 そして古城の狙いは、紗矢華ではなく、彼女の足元だ。 紗矢華が立っているのは、樹脂と金属によって造られた増設人工島(サブフロート)。 その下にあるのは――海だ。

 古城の狙いは、これによっての紗矢華の動きを封じる事だ。

 だが――、

 

「アホ古城! やり過ぎだ!」

 

 銀色の霧に包まれながら、重力に引かれて、紗矢華と悠斗は下の海に落ちて行く。

 海水まで高さはおそらく、六、七メートル。 二人が海に着水すると、派手な水柱が噴き上がる。 強力すぎる眷獣の攻撃は、当然それだけでは済まなかった。

 銀色の霧が凄まじい勢いで広がって、人口の大地に半径数メートルの巨大な穴を穿つ。

 増設人工島(サブフロート)を支える構造物も、敷き詰められた表地も、その上の樹木や街灯も完全に消滅。 支えを失った道路が陥没して、次々に海面へと落下する。

 

「くそ……やり過ぎた……。 悠斗まで巻き込んじったよ……。 なんつーか、後が怖ぇな……」

 

 十中八九、古城は悠斗に締められるだろう。 その未来が見え、古城は顔を強張らせた。

 そんな古城は、傾いた地面にしがみついている。

 眷獣の召喚を解除して、古城も海へ飛び込む。 そこでは、悠斗が黄金の鎖で紗矢華を拘束していた。 これは黄龍の技、鎖巻(バインド) だ。

 

「(……古城。 後で締めるからな。――まあ、今は煌坂の精神支配解除が先だが)」

 

「(お、おう)」

 

 古城は、吸血鬼が持つ筋力を全開にして、古城は水を蹴りつけた。 四、五メートル程の距離を一気に詰めて、真正面から紗矢華に迫る。

 

「(……暁古城)」

 

 海水と汗に濡れた白い首筋。 濡れたシャツの下から浮き上がる細い鎖骨。 優美な顔立ちと、華奢な体つき。

 これは、古城の欲望を刺激するのには十分過ぎた。

 古城は瞳を真紅に変え、口の端からは牙が覗く。 古城は露わになった首筋に牙を突き立て、紗矢華の血を啜りながら魔力を送り込む。

 紗矢華は快楽に溺れるように、古城に体を預け、全身の力が抜けた。

 これを見て悠斗は、

 

「(……はあ、これから修羅場か……)」

 

 とまあ、身も蓋もない事を思っていた。

 そんな三人を、朝焼けの空が静かに照らしていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 クスキエリゼの社用車は、コテージから少し離れた海辺の道路に停まっている。 搭載された無人運転装置が、雷を察知したのだ。 言わずとも、悠斗が放った雷である。

 霧葉は、莉流を連れて車から下りてくる。 車での移動を諦めて、徒歩でクスキエリゼに向かう事にしたのだろう。

 だが、莉流の手を引いて歩き出す前に、霧葉は立ち止まって顔を上げる。

 霧葉の眼先には、雪霞狼を構えた雪菜と、臨戦態勢に入っている凪沙の姿があったからだ。

 

「――結瞳ちゃんを返してもらいます」

 

「――霧葉さんたちの目的を、話してくれるかな?」

 

 霧葉を睨んで、凪沙と雪菜が告げる。

 霧葉は溜息交じりに首を振り、肩に背負っていたケースから槍を引き抜いた。 音叉(おんさ)のような二叉(ふたまた)に分かれた、鉛色の双叉槍(スピアフォーク) である。

 

「わからないわね、暁凪沙。 姫柊雪菜。 あなたたちには、莉流を連れ戻す理由はないのではなくて?」

 

 雪菜の任務は第四真祖の監視であり、凪沙はこの事件には無関係とも言える人物なのだ。

 確かに、莉流を連れ戻す権利はないが――、

 

「洗脳した紗矢華さんに、先輩たちを襲わせただけでも、わたしが、あなたを敵と見なすのは十分な理由だと思いますけど? 特に、凪沙ちゃんにはですが」

 

 霧葉は、やれやれと首を振る。

 

「莉流と第四真祖、紅蓮の織天使とは接触させたくなかったの。 彼らは、わたしたち(対史局)にとって、余りにも危険すぎる不確定要素(イレギュラー) だから」

 

 彼女たちの後方から、巨大な破壊音が聞こえてきたのはその直後の事だった。 爆炎に似た霧。 古城が眷獣を召喚したのだ。

 

「彼らの様子、見に行かなくてもいいの?」

 

 雪菜は、表情を崩さずに言う。

 

「きっと、先輩方は大丈夫です」

 

「……信頼してるのね、彼らのこと。 少し意外」

 

 霧葉の視線が凪沙へ向く。

 

「それはそうと、暁凪沙。 あなたから彼の魔力を微弱に感じるのは何故かしら」

 

 凪沙は嘆息してから、上手く隠してたんだけどなぁ。もう隠さなくていいか。と呟く。

 

「霧葉さんは、雪菜ちゃんの一枚上って所かな。――そうだね。 わたしは、紅蓮の織天使の血の従者(血の伴侶)だよ」

 

 凪沙の口調はいつもと変わらないが、雪菜には解った。

 凪沙は、かなり怒っているのだ。 魔力の波動がプレッシャーとなって、霧葉に襲いかかっている。

 

「かなりの魔力とプレッシャーを感じるわけね。 真祖と同格と言った所かしら」

 

「凪沙も、それが定かなのか解らないんだけど、南宮先生と悠君が言うにはそうらしいよ」

 

「……あなたも、わたしたち(大史局)の脅威リストに仲間入りでしてよ」

 

「それは嬉しい事なのかな。 何でもいいけどさ」

 

 この場には重い空気が流れている。 一色触発と言ってもいいだろう。

 最初に動いたのは、凪沙だった。

 

「雪菜ちゃん、結瞳ちゃんをお願い。――牙刀(がとう)!」

 

 凪沙は地面を蹴って、召喚させた刀を霧葉へと叩き付けようとする。

 だが霧葉は、それを咄嗟に双叉槍(スピアフォーク) で受け止めて舌打ちする。 そして、驚愕に包まれた。

 

「ッ!」

 

 霧葉の双叉槍(スピアフォーク) に激突して、凪沙の持つ刀が眩い輝きを放ったからだ。

 これは、――神通力(・・・)の輝きだ。 凪沙は刀に、神々の力を纏わせたのだ。

 霧葉は無理やり刀を弾き、後方へ跳ぶ。

 

「……何故、あなたがその力を使えるのかしら……。 そしてその剣捌き、あなた元々普通の人間でして?」

 

「どうだろう。――記憶のお陰。とでも言っておくよ。 その槍の正体も知ってるよ。 大史局の乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)。 結瞳ちゃんを覚醒させたのも、獅子王機関のお姉さんに暗示をかけてたのも、その槍の能力なんでしょ? 違う?」

 

 結瞳の中に眠っていた莉流の人格は、突然覚醒した。

 別人格が目覚める切っ掛けとなる、刺激や体験がなかったのにも関わらず、だ。

 だとすれば、可能性は一つだけ。 誰かが、外部から結瞳の精神を支配して、強制的に莉流を目覚めさせたのだ。

 乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)。 それは、獅子王機関とは異なる技術体系によって生み出された調伏兵器だ。

 その能力は、蓄積した魔力を増幅し、その使い手の意思によって放出すること。 双叉槍(スピアフォーク) の使い手は、人間に使えないはずの特殊能力や、膨大な魔力を操る事ができる。 謂わば、魔力を模倣(コピー)する武器なのだ。

 霧葉は、結瞳が夢魔としての魔力を事前に乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)に蓄え、この特殊能力を使い、結瞳を覚醒させたのだ。

 

「……その通りよ。 今、あなたに対する、脅威レベルがかなり上がったわ……」

 

「それはどうも。 あと感じるでしょ」

 

 凪沙は平然とそう言った。

 対して、霧葉に動揺が走る。

 

「……ええ。 さっきの衝突で、乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)に蓄えた魔力を打ち消したのね……」

 

 魔力を操る乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)にとって、蓄積した魔力が消滅する事は、霧葉の術はすでに破れた。と言うことにも繋がる。

 

「正解。 流石、大史局の六刃神官って言った所かな」

 

「……紅蓮の織天使の血の従者(血の伴侶)に、お褒めの言葉を貰え光栄でしてよ。――眷獣は召喚しないのかしら?」

 

「うーん。 召喚してもいいんだけど、ここ狭いし被害があるかもだから。 朱君なら大丈夫だと思うけど……。 でも、朱君の魔力を吸い取っちゃうんでしょ?」

 

 乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)には、魔力を吸収する能力もある。 なので、朱雀の飛焔(ひえん)は吸収され、霧葉の力に変換されてしまうのだ。

 

「……暁凪沙。 あなた、何処まで乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)の秘密を知ってるのかしら? それを知ってるのは、一部の人間だけでしてよ……」

 

 凪沙は刀を構えながら、

 

「敵のお姉さんに、教えるわけがないでしょ」

 

「……それもそうね」

 

 凪沙が、チラリと莉流の方向を見ると、雪菜が無事に保護をしていた。

 また先程、莉流は結瞳の人格を取り戻し、クスキエリゼへの帰還を望まなかったのだ。 それでも、強引に結瞳を連れ去ろうするのなら、霧葉は単なる誘拐犯だ。

 なので凪沙は、躊躇なく霧葉を叩き潰すだろう。 そして、古城たちを傷つけようとした張本人なのだ。

 

「形勢は、こっちがかなり有利だけど。 霧葉さんは、クスキエリゼに一人で帰ったら。 結瞳ちゃんは、わたしたちが保護するから」

 

 今凪沙は、大史局の面目を潰したのだ。 そう、大史局はやり過ぎた。――凪沙の逆鱗に触れてしまったのだ。

 霧葉は、槍を無造作に旋回させ、構える。

 

「……引くわけには行かないのよ」

 

「ふーん、戦うんだ。 それじゃ、お望み通り――」

 

 霧葉が繰り出してきた槍を、凪沙は刀で受け止める。

 霧葉が持つ乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)に充填された魔力は残っていないが、武器としての機能が失われた訳ではない。 そして神通力は、相手が通常の武器の場合、効果が得られない。 霧葉と凪沙の武器の強さは同等なのだ。 後は、どちらの腕が高いかである。

 

「そこっ!」

 

「ッチ!」

 

 あり得ないことに、凪沙が六刃神官を押していた。 腕は互角と思われるが、刀の方が短く、素早く攻防できるのだ。

 霧葉は、凪沙の連続攻撃に防戦を余議なくされる。

 雪菜は目を丸くする事しかできない。 もし、自分が凪沙と戦ったら、必ず負けるだろう。 それ程の力量を、凪沙は持っている。

 

「ふ、ふふふ。 あははははっ! こんなに楽しませてくれるなんてね。 洞察力に剣捌き、紅蓮の織天使の血の従者(血の伴侶)の名は伊達じゃないってことね。……ふふ……そうでなくてはねぇ……」

 

 霧葉が獰猛に笑い出す。 上品ぶっていた鍍金が剥がれ、彼女の本性が洩れ出しているのだ。

 

霧豹(むひょう)双月(そうげつ)!」

 

 霧葉が突き出した乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)の二本の刃が共鳴して、破壊的な音波を撒き散らす。

 魔力を増幅する乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)が霧葉の呪力を増幅し、強力な攻撃呪法として撃ち出したのだ。

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

 だが、この攻撃は、凪沙が張った紅い結界によって防がれる。

 両者は、再び一定の距離を取った。

 

「こんな小娘と殺り合うのが、こんなに刺激的だと思わなかった。 時間切れが勿体ないわ」

 

 霧葉は、戦意を喪失したように乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)を下ろした。

 

「時間切れ?」

 

 その直後、増設人工島(サブフロート)を襲ってきたのは、大地を揺らすほどの爆発的な魔力の波動であった。

 昨日、凪沙たちが感じたものと同じだ。 だが、あの時と比較して、魔力の密度が上がっている。

 

「(……この波動はレヴィアタンの……。 だけど、昨日と比べると魔力が桁違いに高い……)」

 

 凪沙がそう考えていると、結瞳を戦闘から守っていた雪菜が突然叫んだ。

 

「結瞳ちゃん。 待って、何処に行くの!?」

 

 結瞳は、凪沙たちに背を向け、何処かに飛び立つように黒い羽を展開している。

 そう。 結瞳が自ら、夢魔の力を引き出したのだ。

 

「……もうやめてください。 霧葉さんも、凪沙お姉さんも」

 

 引き裂かれたサマードレスの襟元を押さえて、結瞳は寂しげに微笑んだ。

 そして、ブルーエンジアムへと目を向ける。 その先の向こう側に見えるのは――クスキエリゼの研究施設だ。

 

「もういいんです。……わたしが、全部終わらせますから……」

 

 そう言って、結瞳は翼を羽ばたかせる。 結瞳は空へと舞い上がり、そのまま滑るように飛び去って行った。

 何故、クスキエリゼから逃げ出して来たはずの結瞳が、心代わりをしたのだろうか。

 その答えを知っている霧葉も、何故か不安げな表情を浮かべ、結瞳が飛び去った空を見上げている。

 雪菜も、凪沙も、霧葉も、既に戦う理由は失われ、茫然と空を見上げる事しかできなかった。

 ――そう、結瞳はもういないのだ。

 

「藍羽……浅葱……」

 

 乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)を下ろした霧葉が、背後へ視線を向けて呟く。

 サンダルを履き、浅葱は息を弾ませながら、凪沙たちの方へ駆け寄って来る所だった。 意識を取り戻した浅葱が、古城たちの不在に気づき、探しに来たのだ。

 

「――姫柊さん、何があったの? てか、何で凪沙ちゃんが刀を持ってるのよ? 結瞳ちゃんは?」

 

 矢次に浅葱がそう聞いてくる。

 霧葉は浅葱を一瞥し、哀れみと侮蔑の視線を向けた。

 

「そう……あなたが、カインの巫女……」

 

 雪菜と浅葱は疑問符を浮かべたが、凪沙は目を丸くする。

 悠斗の記憶で、第三真祖との戦闘、絃神冥駕との邂逅までは見ていなかったからだ。

 

「誰よ、あんた……?」

 

 霧葉は、乙型呪装双叉槍(リチエルカーレ)を強く握ったが、すぐに思い返したように首を振り、

 

「あなたを責めるのは、筋違いだったわね。 でも、ごめんなさい。 悪く思わないで――」

 

 さよなら。と言い残し、霧葉は凪沙たちに背を向けた。

 そのまま無言で立ち去る彼女を、凪沙たちは見送る事しかできなかった――。




……あれですね。凪沙ちゃん、チートすぎ……。凪沙ちゃんは、悠斗君の動きをほぼ模倣できますね。まあでも、獅子王機関の三聖には届いていないんですが。
てか、凪沙ちゃんがキレると怖いわ……。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!
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