ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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違う作品と並行して書くのは疲れますね。といっても、投稿出来てない作品もあるんですが……。

で、では、投稿です。
本編をどうぞ。


冥き神王の花嫁Ⅱ

「やれやれ、いくら女にモテないからって、小学生に手を出すとはな――」

 

 暁家のリビングのソファーに座って、暁牙城が笑いながら肩を揺らしている。

 牙城がマンションに帰宅したのは、実に一年数ヵ月ぶりだ。

 すると、テーブルの椅子に座って口を開いたのは悠斗だった。

 

「死都帰り。 古城は、ハーレム要因に結瞳を加えようと企んでるんだ。 所謂、ロリコンだな」

 

「さすがは我が息子。 男の夢だもんな、ハーレムは」

 

 古城はすぐに察した。 牙城と悠斗が結託すると、厄介極りないという事に。

 古城は、この二人を会わせるのは、今後は極力避けようと誓うのだった。

 

「おいこら、ロリコンじゃねーからな! てか、オレがハーレムなんていつ形成したんだよ!」

 

 悠斗は、凪沙が運んで来てくれた麦茶を啜ってから、口を開く。

 

「いや、すでに形成してると思うんだが」

 

「ほう、そうなのか。 紅蓮の小僧、その辺を詳しく聞かせろよ」

 

 牙城は、面白そうにして悠斗の言葉に便乗した。

 古城は、うんざりと唇を曲げる。

 

「ハーレムなんか形成してねェからな!」

 

 古城は声を上げて反論するが、牙城と悠斗は聞く耳持たずだ。

 牙城は、古城を見ながら意味ありげに笑う。

 

「まあ、オレの息子なら、女全員を幸せにさせる事ができる度量がなくちゃな。 オレがご教授してやろうか、これでもオレは、ハーレムを形成しかけた男だぜ」

 

 牙城はリビングを見回して、

 

「でもまあ、古城が姫柊ちゃんと一緒に住んでるのは予想外だったわ。 もうヤったのか?」

 

 その言葉を聞いて、雪菜は顔を真っ赤に染めた。

 今の雪菜ならば、牙城の言葉の意味も理解できるからだ。

 

「話がややこしくなるだろうが! 黙ってろよ、クソ親父! 一緒に住んでるのは仕方なくだ!」

 

 古城は、牙城の耳元で怒鳴るが、牙城は凪沙が運んできた麦茶を啜る。

 

「仕方なく……ですか。……そうですか」

 

 雪菜は顔を伏せ、声を低くしたそう呟く。

 だがしかし、古城は雪菜の変化に気づくことはない。

 

「ふーん、古城は仕方なくだと思うが。 姫柊ちゃんはどうなのかなぁ。 で、どうなの? 姫柊ちゃん?」

 

「へ!?」

 

 突然話を振られ、困惑の声を上げる雪菜。

 

「だから、話をややこしくするなよ、てめェは――!」

 

 軽くキレた古城は、牙城の顔面目がけて渾身の右フックを放つ。 殆んど手加減抜きの拳だ。 まともに入れば、牙城の頭蓋骨が粉砕されてもおかしくない。

 しかし、吸血鬼の腕力で放たれた古城の攻撃を、牙城は余裕の動きで回避する。

 悠斗はそれを見て、ほう。と感嘆な声を上げるのだった。

 

「おおっと……危ない危ない。 怖い怖い」

 

 大きく態勢を崩しながらも、小刻みな左ジャブを連打する古城。 だがしかし、その渾身の連続攻撃は、牙城の動きに翻弄され虚しく空を切る。

 牙城は、少し感心したように唇を吊り上げて笑い、

 

「ほー……しばらく会わない内に、いい動きをするようになったじゃねェか。 さすが、オレも息子だな。 まあ、まだまだだけどな」

 

「な!?」

 

 牙城の予期せぬ行動に、不意を衝かれた古城は反応に遅れた。 いつの間にか牙城の手には、テーブルの隅に置かれたはずのタバスコの瓶が握られていたのだ。

 そして古城の四角から、牙城は瓶の中身を古城の顔面へと振りかける。

 このタイミングで、飛来する液体全てを避け切るのは不可能だ。 タバスコをもろに眼球に浴びて、古城は堪らずのたうち回る。

 

「ぐおおおおおおっ……目があっ、目があっ!」

 

「せ、先輩……!?」

 

 雪菜が素早く立ち上がり、濡らしたおしぼりを持って古城に駆け寄った。

 甲斐甲斐しく古城の介抱を始めた雪菜を、牙城は興味深そうに観察する。

 悠斗は古城を一瞥してから、牙城に顔を向ける。

 

「かなり良い動きをするな。 武術の心得でもあんのか?」

 

「いやー。 オレの仕事上、これ位はできないとかないとな。 てか、できないと死ぬわな」

 

 たしかに、牙城の遺跡調査の仕事は、内戦が留まる事を知らない。 これ位はできておかないと、死に直結してもおかしくないのだ。

 悠斗は真剣な表情をしてから、牙城を見た。

 

「んで、さっきの用ってなんだ?」

 

「用でもあんのか? クソ親父」

 

 充血した目を擦りながら、古城はよろよろと上体を起こした。

 牙城は、ったく。と舌打ちをしてから、

 

「凪沙を迎えに来たんだよ。 な?」

 

 そう言って牙城は、目前にいる凪沙の頭にポンと手を置いた。

 

「もう、来るなら来るって、もっと早く言ってよね。 凪沙にも、色々予定があったんだから」

 

 凪沙は牙城を見て、拗ねたように頬を膨らませる。

 だが、悠斗は牙城を、最大限に警戒するように見る。 その眼光は、牙城を射抜くようだ。

 

「……凪沙をどこに連れてく気だ?」

 

「……ああ、悠斗の言う通りだ」

 

 視界を取り戻した古城も、牙城を睨めつけるようにして低い声で聞く。

 古城も、遺跡で起きた記憶を取り戻してるのだ。 古城も悠斗同様、警戒するのは当然だ。

 しかし牙城は、呆れるように嘆息する。

 

「あのなぁ、小僧ども。 季節を考えろよ。 帰省だよ、帰省」

 

 牙城の言葉に、古城と悠斗は沈黙した。

 年末年始といえば、世間一般では帰省の時期である。 本土から遠く離れた絃神島でも、そろそろ帰省ラッシュが始まる頃だ。

 

「もうすぐ正月だろ。 丹沢(たんざわ)の婆さんが、たまには帰って来いってうるせーんだよ。 去年までは凪沙が入院してて、それどころじゃなかったしな。 明日の朝一の飛行機だからな」

 

「なんだよそれは……いきなりだな。 オレ、なんの準備もしてねーぞ」

 

 古城は仏頂顔で文句を言うが――、

 

「あ? 誰がお前を連れてくっていったよ。 帰んのは、オレと凪沙だけだ。 深森さんは婆さんと仲が悪ィしな。 だからまぁ、古城は紅蓮の小僧と留守番だな。 つーか、本土までのチケットはバカ高ェし。 凪沙を連れてくだけで、オレの財布が空っきしだ」

 

 空港の発着枠が限られている事もあって、絃神島から本土までの航空運賃は高い。 繁忙期となると尚更だ。

 絃神島の出入りには、面倒な手続きがあり、その手数料として別途料金が加算されるのだ。

 

「それに、凪沙を連れて帰るのには訳があるんだよ。 一度、婆さんに祓ってもらおうと思ってな。 凪沙の霊能力が消えた原因、一度ちゃんと調べておいた方がいいだろ?」

 

 祖母から受け継いだ、巫女としての素養と、深森から受け継いだ過適応能力者(ハイパーアダプター)の力、凪沙はその両方を併せ持つ、希少な混合能力者(ハイブリッド)だったのだ。 だが、遺跡事件後から力が失われた。

 悠斗にも、凪沙が力を失った原因が分からないのだ。 なので、牙城の言い分にも一理あった。

 

「待ってください。 凪沙ちゃんを本気で調べるなら、獅子王機関に任せたほうが――」

 

 雪菜が古城と悠斗の近場に寄り、小声で囁いてくる。 いつになく真剣な表情だ。

 自身も霊能力者である雪菜は、除霊の危険性をよく知ってる。 素人が手を出して、凪沙に悪影響が出る可能性を懸念してるのだろう。

 

「ああ、いや、たぶん大丈夫だと思う。心配してくれるのはありがたいけど、前も言ったろ。うちの祖母(ばあ)さんは未登録(モグリ)の攻魔師もやってたって。 その手の仕事には慣れてるから」

 

「……オレは嫌な予感がしてならない。 正直言うと、帰省には反対だ」

 

 悠斗は、だが。と言葉を続ける。

 

「……死都帰りの案にも一理ある――。それと、姫柊には悪いが、俺は獅子王機関を信用してない。 凪沙を預けるなんてもってのほかだ。 大史局も含めてな」

 

 それなら、まだ身内の方が安心できる。と悠斗は付け加える。

 悠斗と獅子王機関は、殺し合いをした仲だ。 信用しろと言われても、無理な話だ。

 雪菜は眉を寄せたが、諦めたように小さく息を吐く。 何を言っても、悠斗は言葉を撤回しないと悟ったからだ。

 そんな時、牙城が会話に割り込んでくる。

 

「なになに、なんの話? おじさんにも聞かせてくれないか?」

 

「ただの雑談だ。 気にすんな、死都帰り」

 

 悠斗が、あっち行け、という風に手を振ると、牙城は、ちぇ、と残念そうに肩を竦めるが、大体の内容は把握してるらしい。

 

「まあ心配すんな。 祖母(ばあ)さん本人の霊視の腕はともかく、凪沙の安全はオレが保障する。 紅蓮の小僧にとって凪沙は、この世の全てみたいなもんだしな」

 

「まあそうだな。 凪沙に何かあったら、俺はなにを仕出かすか分かったもんじゃねぇしな。 その辺は十便考慮してくれよ、死都帰り」

 

 悠斗が暴走すると、最悪、世界を混沌も齎す可能性もある。

 それほどまでに、悠斗にとって凪沙は大切な存在なのだ。 もし暴走したら、第四真祖でも止めるのは困難を極めるだろう。

 

「お前さんが何を仕出かすか解らないとか、怖ェの一言だな……」

 

 そう言って、牙城は顔を引き攣らせた。 ともあれ、この案件は解決を見たのだった。

 真面目な話から一転、牙城は悠斗と凪沙を見てニヤリと笑った。

 

「紅蓮の小僧と凪沙は、できてんのか? 娘もいるとか小耳に挟んだが」

 

 此処で言うことじゃねだろ、アホ。と言い、悠斗は嘆息した。 凪沙も顔を赤くして、牙城君のバカ。と言いたい表情である。

 悠斗が凪沙に視線を向けると、悠君が言っていいよ。と視線あった。

 

「まあ一応。 てか、激怒すると思ったんだが」

 

 牙城は頬を掻きながら、

 

「頼りにならん男だったら、アレだったかもしれねェな。 つーか、何か知らんけど、お前さんは信用できんだよな。 凪沙の魔族恐怖症も、お前さんのお陰で直ったらしいしなぁ」

 

 牙城は、不思議だわなぁ。とぼやいた。

 牙城は、悠斗と出会った記憶を失っても、悠斗がどのような人物か感じ取れるのかもしれない。

 

「凪沙のことをそれ程想ってくれるんだからな、言うことがねェぞ。 つか、『命にかけても凪沙を守る』って感じだしな、お前さんは」

 

 そうだな。と悠斗が同意した時、凪沙が立ち上がり悠斗の隣まで移動して、軽く頭を叩いた。

 

「もう、そんなこと言わない。 もしそうなったら、凪沙、悠君と心中する覚悟はあるからねっ」

 

 目を丸くする悠斗と、ポカンとした表情の牙城。

 そして、取り残される古城と雪菜。 所謂、混沌(カオス)に近い雰囲気が漂っていた。

 この空気の中、牙城が声を上げて笑った。

 

「マジか。 凪沙がそこまで言うとはな。 いやー、参った参った」

 

 悠斗は、凪沙の頭を優しく撫でた。 悠斗の表情は、とても慈愛に満ちている。

 そんな悠斗と凪沙を見て、牙城は口笛を吹いていた。

 

「凪沙を置いて死んだりしないから心配すんな」

 

「ホントだよね? 約束だよ?」

 

「約束だ」

 

 悠斗は凪沙のことを優しく抱きしめたかったが、さすがに父親と兄、同級生の前では躊躇われたのであった。

 ともあれ、この一連が、死都帰り――暁牙城の絃神島への訪問だった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 翌日。

 早朝の絃神島中央空港で、私服姿の古城は欠伸を噛み締めていた。

 時刻は午前七時。 夜行性の吸血鬼にとっては、一日で尤も辛い時刻である。といっても、悠斗はこれを克服してるが。 全ては、凪沙のお陰である。

 空港まで着たのはもちろん、凪沙の出発への見送りだ。

 

「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。 紅蓮の小僧と姫柊ちゃんと仲良く留守番するんだぞ、古城」

 

「うるせェな。 いいからさっさと行け」

 

 色褪せたトレンチコートを着た牙城が、古城にそう声をかけ、古城は鬱陶しげに父親を睨みつける。

 飛行機の出発時刻まで後一時間足らず。 魔族特区の特有の検査の事を考えると、そろそろ手荷物検査のゲートを潜ら開ければならない頃合いだ。

 一方凪沙は、古城と一緒に見送りに来た悠斗と別れの挨拶を交わしていた。

 

「凪沙の身にあったら、宝玉のネックレスを通して俺に伝わるようになってるからな」

 

「大丈夫だって、悠君。 ただの帰省だから」

 

「……まあそうなんだが」

 

 もし凪沙の身に何かが起きようなら、悠斗は魔族特区の手続き等を無視して本土に急行するだろう。

 だが、絃神島を出ると悠斗を狙う敵が現れる可能性もある。 その時は容赦なく、悠斗はその敵を消すだろう。

 

「悠君は心配しすぎだよ」

 

 そう言って、凪沙は苦笑した。

 

「……そうだな。 過保護になりすぎるのもよくないしな」

 

「そうそう。 でも、凪沙は心配だなぁ。 悠君、ちゃんと自炊するんだよ。 コンビニのお弁当は栄養が偏っちゃうから、火の扱いには十分気をつけること。 ちゃんと歯を磨いてから寝るんだよ、虫歯になっちゃうから。 あとあと、戸締りもしっかりすること。 泥棒さんが入ったら大変だからね。 それとね――」

 

 凪沙の矢継ぎ早な言葉聞いて、悠斗は苦笑するのだった。

 

「大丈夫だ、心配するな」

 

「なんか釈然としないけど、よしとしよう」

 

 凪沙は、ん。と言って両手を広げた。 おそらく、当分会えないだから抱きしめて。と言っているのだが。 如何せん、この場には兄と父親が居るのだ。

 でもまあ、当分は会えないのだ。 牙城と古城も許してくれるだろう。

 悠斗は両手を広げた凪沙を優しく抱きしめる。 凪沙も、悠斗の背に手を回した。

 そんな時、乗客の手荷物検査を促すアナウンスが流れてくる。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「ああ、道中は気をつけるんだぞ」

 

 そう言ってから、抱擁を解く悠斗と凪沙。

 これを見ていた古城は呆れ顔で、雪菜は顔を真っ赤にし、牙城は、『孫の顔はすぐに見られるな、これは』と言って口笛を吹いたのだった。

 

「それじゃあ、古城君。 雪菜ちゃん。 行ってきます! 特に雪菜ちゃん、古城君のことあんまり甘やかしちゃダメだよ。 古城君も雪菜ちゃんに無理やり変なことをしないこと!」

 

「あ、甘やかしてないから!」

 

「するかっ!」

 

 思わず乱暴に言い返し、古城たちはゲートを潜る凪沙と牙城を見送った。

 凪沙と牙城を見送った古城は大きく伸びをし、周りを見渡してから口を開く。

 

「気のせいかもしれないけど、今日はやたらと皆ピリピリしてないか?」

 

 古城の言う通り、出発ゲートや出入り口を見張る空港警備員の数が、普段と比べると圧倒的に多い。 彼らの表情や仕草から、厳重に警戒してるという雰囲気が伝わってくる。

 

「たぶん、あれだろ」

 

 そう言って悠斗は、空港の待合所に置かれている大型テレビを指差した。

 テレビ画面に映し出されているのは、海外ニュースの映像だ。 見知らぬ外国の街を背景に、砲撃や爆弾によって傷ついた建物や負傷者の姿が見える。

 

「あれ……って。 戦争か?」

 

 悠斗は、そうだ。と頷いた。

 世界を回っていた悠斗にかかれば、各国の言葉を訳すのは容易いのだ。

 

混沌界域(こんとんかいいき)での内戦だな。アメリカ連合国との国境付近に配備されていた軍の部隊が武装蜂起して、自治独立を求めてるらしいな」

 

混沌界域(こんとんかいいき)って、ジャーダって女がいる夜の帝国(ドミニオン)だよな?」

 

 古城は、翠玉(エメラルド)色の髪と翡翠色の瞳を持つ美しい吸血鬼の姿を思い出した。

 古城たちは約一ヵ月前に、彼女と戦闘を繰り広げたばかりなのだ。 第三真祖――ジャーダ・クルルカン。 公式に認められた真祖の一人だ。

 

「……なんか意外だな」

 

「意外……ですか?」

 

 そう聞いたのは雪菜だ。

 

「だって反乱が起きるっていうことは、国民に不満が溜まってるってことだろ? あいつって、いわゆる暴君だったのか?」

 

 そうは見えなかったけどな。と言って、古城は首を傾げた。

 第三真祖、ジャーダ・クルルカンは、真祖に相応しい威厳をと力を備えていたが、話の通じない奴とは見えなかった。 寧ろ、計算高さと茶目っ気を感じさせる人間臭い吸血鬼だという印象がある。

 そんな古城の感想を裏付けるように、雪菜が小さく首を振る。

 

「たしかに真祖は、それぞれの夜の帝国(ドミニオン)の名目上の統制者ですが、直接、国を治めてるわけではないんです。 議員選挙や官僚試験も行われているはずですし、そもそも第一、第二真祖は、何十年も国民の前に姿を現してませんから」

 

 確かに雪菜の言う通り、古城と悠斗は、第一、第二真祖の顔を知らない。 写真などでも目にした記憶はなかった。

 

「そんな中で混沌の皇女(ケイオスブライド)だけは、普段から帝国内をうろつき……いえ、視察して回ったり、平民にも気さくに声をかけてるするということで、国民から熱狂的な支持を受けてるはずです。 国内の治安や経済状況も決して悪いわけではありませんし」

 

 雪菜の懇切丁寧な解説を聞いて、古城は、成程な。と相槌を打つ。

 だが、古城には疑問が浮上してくる。 なぜ、国民から支持が高いのに、内戦が行われているのか?と言う事だ。

 

「だったら、どうして反乱なんか起きてるんだ?」

 

 悠斗は、古城を見て嘆息した。

 

「アホ古城。 第四真祖ならそれくらい分から――」

 

 言いかけた悠斗は、途中で言葉を止めた。

 空港の中央入口から、到着ロビーにと向かう通路に、左腕に登録魔族の腕輪を嵌めた銀髪の男性を見たからだ。

 古城はいつでも戦闘ができるように身構えたが、悠斗は平然と立っているだけだ。

 

「お前――」

 

「先輩、下がって!」

 

 銀髪の少年は、そんな古城と雪菜を見て蔑むように嘆息した。

 

「貴様か、暁古城。 相変わらず小娘に尻に敷かれてるようだな」

 

「敷かれてねェ!」

 

「敷いてません!」

 

 完全に同調した二人を見つめて、銀髪の少年が冷淡に笑った。

 そんな光景を見ていた悠斗が口を開く。

 

「んで、トビアス・ジャガン。今日はどうしたんだ?」

 

 トビアス・ジャガンは欧州、戦王領域(せんおうりょういき)出身の貴族。 第一真祖、忘却の戦王(ロストウォーロード)直系の古き世代の吸血鬼である。

 彼は、アルデアル公、ディミトリエ・ヴァトラーの側近として絃神島に滞在してるが、立場的に古城の敵に近いのだ。

 ジャガンは、恭しく頭を下げた。

 

「いえ、今日は野暮用がありまして。 中央空港に赴いた次第です、紅蓮の織天使様」

 

 抗議の声を上げたのは古城だ。

 

「おま! 何で悠斗には敬語なんだよ!」

 

 ジャガンは勢いよく頭を上げた。

 

「お前は、筋金入りのアホなのか! 紅蓮の織天使様は、閣下よりお強いんだ。 敬意を払うのは当然だ。 バカめ!」

 

「な! なんだと!?」

 

 悠斗は二人を見て溜息を吐く。

 

「……お前ら静かにしろ、客には見えないように物理を放つぞ」

 

 悠斗が僅かに殺気を込めそう言うと、先程の言い争いが嘘のように霧散した。

 悠斗は嘆息してから、

 

「ジャガン、野暮用を済ませてこい。 この手のことには絡まないように努力するから。 古城、帰るぞ」

 

 ジャガンは、ありがとうございます。と言ってから一礼して、通路を歩き出した。

 古城は、遠ざかるジャガンの背中を睨みつけた。 それから、なんだったんだ、あいつ。と言って肩を竦める。

 悠斗が空港内を歩き、展望スペースから外を眺めると、一際目立つメガヨット、オシアナス・グレイブⅡが見当たらなかった。 見逃すはずもない巨大な船の姿が、絃神島から消えている。

 

「……ヴァトラーの船がないだと?」

 

「……いつもなら嬉しい所だが。 嫌な予感しかしねぇぞ」

 

 混沌界域(こんとんかいいき)の内戦。 ジャガンの謎の行動。 この事柄がタイミング悪く重なった。

 おそらく、古城たちの知らない所で何かが動き出しているに違いない。 そして、ヴァトラーの真意を確かめる術は古城たちにはない。

 古城、悠斗、雪菜は顔を見合わせて、溜息を吐く。

 どうやら古城たちは、ヴァトラーが居なくても、彼に振り回される運命にあるらしかった――。




暁家一行から認められましたね、悠斗君と凪沙ちゃんの婚約(^O^)
これで堂々とイチャイチャできます(今更感)

ともあれ、これから物語が動き出しますね。
つか、次巻では悠斗君が暴走しそう……。いや、たぶんですが……。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

追記。
凪沙ちゃんは力を失っても、強力な巫女であることにも変わりはないですね。
まあ、強力(雪菜以上)な霊媒の持ち主と考えてください。
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