この章は、長くなる予感がする。
それでは、本編をどうぞ。
夕陽に照らされた海沿いの歩道を、悠斗、古城、雪菜は歩いていた。
三人は少し寄り道して、自宅近くにあるスーパーマーケットへと向かう。
部活で遅くなる凪沙の代わりに、夕食の材料を買って帰るのだ。
「差し出し人は、アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー…………誰だ?」
古城は式神が残していった手紙を眺め、困惑したように呟いた。
絃神港の停泊中のクルーズ船で、大々的な催しが行われるらしい。
その招待状だったのだ。
「アルデアル公国は、戦王領域を構成する自治領の一つです」
雪菜が重々しい口調で説明し、
「ちなみに、ディミトリエ・ヴァトラーは、俺に喧嘩を吹っかけてきた野郎でもある。 その後えらく気に入られてね。 はあ……」
悠斗は深々と溜息を吐いた。
「「は?」」
古城と雪菜は同時に声を上げた。
「か、神代先輩は、戦王領域の貴族と何をやってるんですか!?」
「死闘だ」
悠斗は、平然とそう答えた。
「その後は色々あって荒れてな。 誰構わず、強い奴に喧嘩を売ってたんだよ。 でだ、古城は戦王領域を知ってるよな?」
「……ああ、東欧にある
「おう、コイツには喧嘩を売ったぞ。 まあ、買ってくれなかったけどな。 俺宛にも手紙が届いてんだろうな」
「……お、お前は、過去になにやってたんだ」
古城は悠斗の言葉を聞き呆れて、雪菜も隣でげんなりしていた。
真祖が操る眷獣といえば、都市や一つや二つを簡単に壊滅させる正真正銘の化け物だ。
悠斗は、そんな奴に喧嘩を売ったと言っているのだ。
「……まあ、お前の過去は置いといて。 で、このヴァトラーってのは、その第一真祖の臣下ってわけか」
「そのはずです。 自治領の君主というのは貴族、つまり第一真祖直系の血族から生まれた、純血の吸血鬼ということになりますから」
「なるほどな」
凪沙に渡されたメモを見ながら、古城は買い物カゴに野菜や果実を入れていく。
食材の量は四人前。 悠斗、古城、雪菜、凪沙だ。
これは、凪沙が『みんなで食べた方が美味しいし、うちで夕食を食べようよ』と強引に誘った結果だ。
雪菜は、古城と悠斗の監視が目的なわけで、悠斗は夕食を作らなくて済むという魅力的な誘いだったのだ。
そんなわけで、悠斗と雪菜が暁家で夕食を摂る事が当たり前になっていたのだ。
「そんな大物が、なんで絃神島なんかに来てるんだ?……ちょ、タマネギ多すぎるだろ、これ」
「野菜の好き嫌いはダメですよ」
「そうだぞ、古城。 ピーマンじゃないんだから安心しろ」
そんなことを言っていたら、雪菜は野菜コーナーからピーマンもカートの中へ入れた。
「ちょ、ピーマンも多すぎだ」
「神代先輩も好き嫌いはダメです。 凪沙ちゃんにいつも言われてるじゃないですか」
「うぐっ……」
悠斗は言葉に詰まってしまった。
悠斗は溜息一つ吐き、
「はあ、わかった。 ちゃんと食べるから」
「そうしてください。 好き嫌いはダメです」
古城はピーマンを売り場に戻しながら、
「で、なんでヨーロッパの吸血鬼がオレの名前知ってるんだ……?」
「先日のロタリンギア殲教師の一件で、暁先輩の存在に気付いたんだと思います。 神代先輩も例外ではありません。……先輩、こっそりピーマンを売り場に戻さないでください。 子供じゃないんですから、もう」
古城は溜息を吐きながら、ピーマンをカートに戻す。
傍から見ていると、雪菜は二人の弟の面倒を見る姉のようだった。
招待状を広げた古城は、一箇所の文面を見て、困惑の表情を浮かべた。
「先輩、どうしましたか?」
「あ、ああ……なんか、ここにパートナーを連れて来いって書いてあるんだが」
「パートナー?」
雪菜と悠斗は、ああ、納得した。
「欧米のパーティでは夫婦や恋人を同伴させるのが基本なんですよね」
「いない場合は、代役を立てるしかないな。 俺はいないから、代役を立てるしかないけど」
「代役……と言われてもな」
古城は困ったように唇を歪める。
「吸血鬼がらみのパーティなんかに凪沙を連れて行くわけにはいかないし。 そんなことしたら悠斗に殺されるし。 浅葱は怒ってたみたいだし、あんまヤバいことに巻き込むわけにもいかないしな……」
雪菜が、コホン、と咳払いをして可愛らしく古城を見た。
「先輩の正体を知ってて、危険な状況にも対処できる人材というと、選択の余地はあまりないと思いますけど」
「そだな。 巻き込むのは気が引けるけど……頼んでみるか、那月ちゃんに」
「「は?」」
悠斗と雪菜は同時に声を上げた。
「いや、だってあの人ならオレの正体知ってるし、攻魔師の資格も持ってるし、危険な状況にも対応できる。 適任だろ」
「古城のアホ。 いるじゃんかよ、お前のすぐ傍に」
古城は雪菜を見た。
「姫柊に頼んでもいいのか?」
「はい、先輩の監視が私の任務ですから」
「ま、とりあえず、会計して帰ろうぜ」
「「おう(はい)」」
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それぞれの部屋へ戻ると、悠斗の部屋のドアに一通の手紙が挟んであった。
その手紙は、夕方に見た手紙と同じものだった。
「……案の定きてたな」
差し出し人はアルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー。
宛先は、神代悠斗様と書かれていた。
「やっぱりバレてたか。 まあ、朱雀を大っぴらに解放したからな。 はあ、行きたくねー。 行くとしても、女性同伴ってどうすんだよ……」
その時、一本の電話が鳴った。
「どうやって俺のスマホの番号まで調べたんだか……。 予備の奴だから別にいいけど」
悠斗は通話ボタンをタップし、通話口を耳に当てた。
『もしもし、アルデアル公の代理の者ですが。 本日のパーティの代理を務めさせて頂きますがよろしいでしょうか?』
「ああ、よろしく頼む」
『承りました。 それでは、お時間になりましたら迎えに参りますので、よろしくお願い致します』
悠斗は通話を切り、スマートフォンをテーブルの上に置いてから、クローゼットの引き出しからスーツを取り出し着替え始めた。
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指定された時間に外に出ると、そこには黒張りのベンツが止められていた。
その後部座席からは、チャイナ服を身に纏った女性が降りてきた。
「神代様、初めまして。 アルデアル公の監視役である、獅子王機関の舞威媛、煌坂紗矢華と申します」
「今日はよろしく頼む。 神代悠斗だ。 その喋り方はやめてくんないか、年齢が近い相手にそんな扱いされるのはムズかゆい」
「そ、そう。 じゃあ、いつも通りにさせてもらうわ」
「おう、その方が絡みやすくて助かる」
悠斗は紗矢華に促され後部座席に乗り込み、紗矢華も乗り込むと、ベンツは目的地へ向けて走り出した。
「ったく。 どうやって俺の家まで特定したんだか。 ヴァトラーの監視は疲れるだろ」
「ええ、本当に……。 わかってくれる人がいるなんてね。 そんなことより、アルデアル公を知ってるの?」
「知ってるも何も、殺し合いをした仲だ」
紗矢華は眼を見開き、
「あんたは何やってんの!? てか、何者よ」
「あー、それは内緒だ。 まあ、あの戦闘狂にバラさせると思うが」
そんな事を話しながら目的地へ到着した。
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アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーの船は、南湾地区の大桟橋に停泊していた。
遠目からでも異様に目立つ豪華客船だ。
「……
「いえ、
「ここじゃなかったらいいのかよ……」
こう言うということは、紗矢華も監視で相当まいっているのだろう。
「で、あの蛇遣いは何処にいるんだ」
「たぶん、アッパーデッキね。 案内するからついてきて」
この船に乗り込んでいく人々は、ニュースなどで見かける顔が多い。
大物政治家や経済界の重鎮、政府や絃神市の要人たちだ。
その時、ちょうど古城と雪菜の姿が映った。
二人は人混みの中、手を握ろうとしていた所だった。
殺気を伴った銀色の光が、古城に向かって振り下ろされたのは、その直後だった。
「――せいっ!」
「うおっ!?」
咄嗟に跳び退いた古城の眼前を、鋭く研ぎ澄まされたフォークの先端が掠めていく。
「失礼。つい、手が滑ってしまったわ」
「どう滑ったら、フォークを他人の腕に向かって振り下ろそうとするのか、ぜひ教えて欲しんだが……。てか、なんか今、掛け声っぽいものも叫んでたよな!?」
「あなたが、下劣な性欲を剥き出しにした手で、雪菜に触れようとするからよ、暁古城」
「さっきのはなかなか惜しかったぞ、煌坂」
古城は、悠斗を見て眼を見開いた。
「ゆ、悠斗。 お前も来てたのか!?」
「まあな。 夕飯の食材を買ってる時に言ったぞ」
「ああ。 そういえば、そうだったな」
雪菜が戻って来たのは、その直後だった。
「――紗矢華さん!?」
「雪菜! 久しぶりね、元気だった?」
紗矢華が雪菜に勢いよく抱き付いた。
まるで、――奇跡の再会を遂げた姉妹のように。
雪菜にむしゃぶりつく紗矢華の後頭部に、古城がチョップを叩き込む。
「はやく案内してくれ」
「わ、わかったわよ。 ついてきなさい。 てか、死になさい。 暁古城」
「死ぬかっ!」
古城は怒鳴り返しながら、紗矢華の後について階段を上る。
悠斗は溜息を吐いてから、古城の隣に並んだ。
四人は上甲板に出る。 漆黒の海と夜空を背景にして、広大なデッキに立っていたのは一人の青年。
純白のスーツを纏った青年だ。
刹那、彼の全身が純白の閃光に包まれた。
そう。 眷獣が放たれたのだ。
灼熱を纏った炎の蛇と、冷気を纏った氷の蛇だ。
「はあ。――
「ぐお……っ……!」
悠斗は右手を突き出し、掌から浄化の焔を放ち氷の蛇を浄化させ、古城は全身に雷光を纏い、放たれた稲妻で炎の蛇を迎え撃った。
「あ……ぶねぇ! なんだこれっ!?」
「まったく、戦闘狂はこれだから困る」
巨大な魔力同士の激突の余韻に、ようやく我に返った古城が呻き、悠斗は悪態をついた。
その時、純白のコートを身に纏った青年から拍手の音が鳴り響いた。
それを防がれたことを、喜んでいるようにも見える。
「いやいや、お見事。 やはりこの程度の眷獣では、傷付けることもできなかったねェ」
彼は古城の前で片膝を突き、恭しい貴族の礼をとった。
「御身の
あまりに見事な彼の口上に、古城がうろたえた。
「あんたが、ディミトリエ・ヴァトラー……? オレを呼び付けた張本人?」
「初めまして、と言っておこうか、暁古城。 いや、
そう言って、ヴァトラーは古城を愛しげに見つめた。
そして古城を迎え入れんとするかのように、大きく両腕を広げた。
「……はい?」
告げられた古城は言葉の意味が理解出来ずに、弱々しい呟きを洩らす。
「ヴァトラー、その辺にしとけ、古城が困ってるだろ」
「フフ、そうダネ」
ヴァトラーは悠斗の前で片膝を突き、
「先程の非礼をお詫び申し上げる。 再び御眼にかかれること光栄の極み――紅蓮の熾天使よ」
これを聞いた紗矢華は眼を見開き、面倒事に巻き込まれる予感がした悠斗は空を見上げた。
悠斗君は、力を封印する前は、激強だったんでしょうね。
真祖と獅子王機関の三聖に喧嘩を売ってますからな。
あと悠斗君は、朱雀を召喚しなくても、朱雀の技を使うことが出来ますな。
出力は弱いですが。
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